この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

妊娠前の遺伝子検査(保因者検査・キャリアスクリーニング)は、ご夫婦・カップルが、お子さんに伝わることのある潜性(劣性)遺伝やX連鎖遺伝の病気の「保因者」かどうかを、妊娠の前に調べる検査です。保因者の方はご自身は健康で、家族に病気の人がいなくても珍しくありません。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、これからの妊娠・出産の計画にずっと使える情報になります。おふたりが同じ病気の保因者とわかれば、妊娠の前から出生前診断まで計画できます。当院では絨毛検査・羊水検査も院内で受けられます。このページでは、保因者のしくみ、妊娠前に調べられる検査の全体と選び方、当院の検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 妊娠前の遺伝子検査で何がわかりますか?
ご夫婦・カップルそれぞれが、お子さんに伝わることのある潜性(劣性)遺伝・X連鎖遺伝の病気の保因者かどうかがわかります。当院の検査は女性版787遺伝子・1009遺伝子、男性版714遺伝子・911遺伝子の4種類で、女性版は米国の学会(ACMG)がすべての妊娠前・妊娠中の方にすすめる113遺伝子をすべて含みます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
これから妊娠を考えるご夫婦・カップル、次のお子さんを考えているご夫婦、ご家族に遺伝の病気の方がいる方、いとこ同士など血縁関係のあるカップルです。家族に病気の人がいなくても、保因者である可能性は低くなりません。男性も一緒に受けることで、カップルとしてのリスクがわかります。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査はお一人 税込253,000円(女性787・男性714遺伝子)または税込275,000円(女性1009・男性911遺伝子)です。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)で、基本はおひとりずつかかりますが、おふたりが同じ診療枠で、同時に検査を受ける場合はおふたりで22,000円です。検体は血液・唾液・頬の粘膜で、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療でも受けられます。検査会社での解析は2〜3週間です。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。おふたりが同じ病気の保因者だった場合は、妊娠したときの出生前診断(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。「異常なし」でもリスクはゼロにはならないこと(残りのリスク)も、あわせてご説明します。
1. 妊娠前の遺伝子検査(保因者検査)とは
妊娠前の遺伝子検査(保因者検査)は、ご自身は健康でも、お子さんに伝わると病気になることがある遺伝子の変化を持っていないかを、妊娠の前に調べる検査です。英語では carrier screening といい、日本ではキャリアスクリーニング、保因者スクリーニングとも呼ばれます。おふたりで受けることで、「カップルとして、お子さんがその病気になる可能性があるか」がわかります。
保因者(キャリア)とは:健康でも、だれもが持っている
人は、同じ遺伝子を2つずつ(父親由来と母親由来)持っています。保因者(キャリア)とは、そのうち1つに病気の原因となる変化を持っていても、もう1つが正常に働くために発症していない人のことです。保因者の方は健康で、見た目や一般的な血液検査ではわかりません。
保因者は、まれな存在ではありません。子どもの重い潜性(劣性)遺伝の病気448種類について104人を調べた研究では、1人あたり平均2.8個の重い病気の原因となる変化が見つかりました[3]。調べる病気の数や対象の集団によって数字は変わりますが、「保因者であること」はだれにでも起こりうる、ごくふつうのことです。
常染色体潜性(劣性)遺伝のしくみ:おふたりとも保因者のとき4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝の病気は、おふたりが同じ病気の保因者どうしのときに、お子さん1人あたり4分の1の確率で発症します。2分の1の確率でお子さんも保因者になり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。どちらか一方だけが保因者の場合、お子さんは保因者になることはあっても、原則として発症しません。
父:保因者健康
+
母:保因者健康
▶
発症4分の1
保因者4分の2
受け継がない4分の1
この確率は、お子さん1人ごとに同じです。一人目のお子さんが健康でも、おふたりが同じ病気の保因者であれば、二人目以降のお子さんが発症することがあります。しくみをもっと詳しく知りたい方は、劣性遺伝(潜性遺伝)とは?保因者の仕組みと子どもへ遺伝する確率で解説しています。
X連鎖遺伝のしくみ:お母さんが保因者のとき、男の子の2分の1
X連鎖遺伝の病気は、お母さんが保因者のとき、男の子の2分の1が変化を受け継ぎ、受け継いだ男の子の多くが発症します。男性はX染色体を1本しか持たないため、もう1本で補うことができないからです。女の子は2分の1の確率で保因者になります。
X連鎖の病気は、パートナーの男性の遺伝子とは関係なく、お母さんが保因者かどうかでお子さんへのリスクが決まります。そのため女性版の検査ではX連鎖の病気の遺伝子まで調べ、男性版ではX連鎖の遺伝子を除いた常染色体潜性の病気を調べます。また米国医学遺伝学・ゲノム学会(ACMG)は、X連鎖の病気の保因者とわかった女性に、その病気の症状が出ることがあると指摘しています[1]。
家族に病気の人がいなくても保因者でありうる理由
ご家族に遺伝の病気の方がいなくても、保因者である可能性が低くなるわけではありません。潜性の病気は、保因者どうしが出会ってはじめてお子さんに現れるため、何世代も表に出ないまま受け継がれていることがふつうだからです。
たとえば、4万人に1人がかかる常染色体潜性の病気の場合、遺伝学の計算(ハーディ・ワインベルグの法則)では、保因者はおよそ100人に1人になります。かかる人は少なくても、保因者は思ったより多いのです。米国の学会が、家族歴や人種にかかわらず、すべての方に保因者検査を提供するようすすめているのは、このためです(次の章)。
2. 米国の学会は妊娠前の保因者検査をどうすすめているか
米国医学遺伝学・ゲノム学会(ACMG)は2021年の指針で、妊娠中の方と妊娠を考えているすべての方に、113遺伝子を対象とする保因者検査(Tier 3)を提供するようすすめています[1]。米国産科婦人科学会(ACOG)も、保因者検査の情報をすべての妊婦さんに、できれば妊娠の前に提供するよう求めています[2]。
ACMG(2021年):すべての方に113遺伝子(Tier 3)
ACMGは、保因者検査を4つの段階(Tier 1〜4)に分けて整理しました。そのうちTier 3は、保因者の頻度が200人に1人以上の常染色体潜性の病気(97遺伝子)と、有病率が4万人に1人以上のX連鎖の病気(16遺伝子)を合わせた113遺伝子の検査です[1]。
- ●対象:妊娠中の方と、妊娠を考えているすべての方にTier 3を提供する[1]
- ●人種・民族で分けない:保因者検査は人種や民族によらない方法で行うべきで、自己申告の祖先で検査を限ることは公平でなく、科学的にも誤りだとしている[1]
- ●血縁関係のあるカップル:はとこ(またいとこ)かそれより近い血縁関係がある場合は、より広い検査(Tier 4)を考える[1]
当院の女性版787遺伝子・1009遺伝子は、このTier 3の113遺伝子をすべて含んでいます。男性版714遺伝子・911遺伝子は、そのうち常染色体潜性の遺伝子をすべて含んでいます(男性版はX連鎖の遺伝子を調べません)。
ACOG(米国産科婦人科学会):できれば妊娠の前に
ACOGの委員会意見(2017年)は、保因者検査の情報をすべての妊婦さんに提供すること、検査と説明はできれば妊娠の前に行うことが望ましいこと、保因者とわかった場合はパートナーにも検査を提供し、おふたりとも保因者だった場合は遺伝カウンセリングを行うことを示しています[2]。
妊娠の前に知っておくと、妊娠がわかってから限られた週数の中で急いで決めるのではなく、出生前診断を受けるかどうかも含めて、落ち着いて考える時間をもてます。ACMGとACOGの推奨の詳しい内容は、キャリア(保因者)スクリーニング検査|米国の学会の推奨内容で解説しています。
3. 妊娠前に調べられる遺伝の検査と、どの検査を選べばよいか
妊娠前に受けられる遺伝の検査は、目的によって選ぶものが違います。家族歴がなく、カップルとして保因者かどうかを知りたいなら拡大版保因者スクリーニング、ご家族の原因がわかっているならその変化だけを調べる検査、不妊や流産をくり返すなら染色体の検査、というように選びます。比べる相手は検査の種類です。
🔍 妊娠前・妊娠中の遺伝の検査:どれを選べばよいか
※どの検査が合うかは、ご家族の情報や、これまでの妊娠の経過で変わります。迷ったら、遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
妊娠前の検査で、ダウン症候群はわかりますか?
妊娠前の保因者検査では、ダウン症候群(21トリソミー)のリスクはわかりません。保因者検査は遺伝子の小さな変化を調べる検査で、染色体の数の変化や、転座のような染色体の組み替わりは調べられないためです。
ダウン症候群の一部(転座型)では、親の染色体の転座が関わることがあり、その場合は親の染色体検査(Gバンド法)で調べます。妊娠中に赤ちゃんの染色体を調べたい方には、NIPTがあります。ダウン症候群の遺伝や再発については、ダウン症は遺伝する?2人目の再発率と転座型のリスクで解説しています。
風疹の抗体検査など、一般的な妊娠前検査との違い
「妊娠前検査」というと、風疹の抗体検査や性感染症の検査、子宮や卵巣の状態を調べる婦人科の検査を思い浮かべる方も多いと思います。このページでご案内しているのは、遺伝子の検査です。感染症の抗体や婦人科の検査は含みません。一般的なブライダルチェックとの違いは、ブライダルチェックは必要ない?婦人科検診と「遺伝子検査」の違いで解説しています。
4. どんな人が受けるとよいか
妊娠前の保因者検査は、これから妊娠を考えているすべてのご夫婦・カップルに向く検査です。ACMGが家族歴によらずすべての方への提供をすすめていることに加え[1]、次のような方では、とくに受ける意味があります。
これから妊娠を考えるカップル(家族歴がなくても)
妊娠の前に保因者かどうかを知っておけば、おふたりが同じ病気の保因者だった場合に、妊娠したときの出生前診断まで前もって計画できます。当院では絨毛検査・羊水検査も院内で受けられるため、検査から出生前診断まで、同じ臨床遺伝専門医のもとで続けて相談できます。家族歴がないことは、受けなくてよい理由にはなりません(第1章)。
次のお子さんを考えているご夫婦
一人目のお子さんが健康でも、おふたりが同じ病気の保因者であれば、次のお子さんが発症する確率は、そのたびに4分の1です。二人目、三人目を考えているご夫婦にも、受ける意味があります。上のお子さんに原因のわかった遺伝の病気がある場合は、その変化をピンポイントで調べる既知の変異検査が向くこともあります。
ご家族・ご親族に遺伝の病気の方がいる方
ご家族に潜性・X連鎖の病気の方がいる場合、ご自身が同じ変化の保因者である可能性があります。その方の原因の遺伝子の変化がわかっていて報告書があれば、それがいちばんの手がかりになります。わかっていない場合は、ご自身とパートナーが保因者検査を受けることで、カップルとしてのリスクを確かめられます。
なお、ご家族に知的障害のある方がいて、その方ご自身が検査に同意できない場合、きょうだいの将来のための検査として当院で検査できるのは、ご相談にいらしたご本人(症状のない方)だけです。代わりに同意するのは、検査を受けるご本人の利益のためであることが前提なので、同意できないご家族を、きょうだいの将来のために検査することはお受けできません。
いとこ同士など、血縁関係のあるカップル
血縁関係のあるカップルは、同じ祖先から同じ遺伝子の変化を受け継いでいる可能性があるため、同じ病気の保因者どうしになる確率が高くなります。ACMGは、はとこ(またいとこ)かそれより近い血縁関係のあるカップルには、Tier 3より広い検査を考えるとしています[1]。当院の1009遺伝子・911遺伝子の検査は、Tier 3の遺伝子に加えて、より多くの遺伝子を調べます。
男性も受ける意味(妊娠前検査・男性)
潜性の病気は、おふたりが「同じ遺伝子」の保因者のときにだけ、お子さんに出ます。女性だけが受けても、カップルとしてのリスクはわかりません。おふたり同時に受ければ一度でカップルとしてのリスクがわかります。遺伝カウンセリング料は基本はおひとりずつかかりますが、おふたりが同じ診療枠で、同時に検査を受ける場合は一人分をサービスし、おふたりで30分22,000円です。女性が先に受け、見つかった病気について男性が調べる順番もあります(第5章)。
見た目や家族歴だけでは、だれが保因者かは判断できません。院長は「遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない」と考えています。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
5. 当院の拡大版保因者スクリーニング:4つの検査
当院の拡大版保因者スクリーニングには、女性版(787遺伝子・1009遺伝子)と男性版(714遺伝子・911遺伝子)があり、カップルでは女性版と男性版を組み合わせて受けるのが基本です。787遺伝子の女性版には714遺伝子の男性版、1009遺伝子の女性版には911遺伝子の男性版を組み合わせます。
🧬 拡大版保因者スクリーニング 4つの検査
※料金はお一人あたり。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。料金の一覧は料金紹介をご覧ください。
787遺伝子と1009遺伝子、どちらを選べばよいか
どちらの女性版も、ACMGがすべての方にすすめるTier 3の113遺伝子をすべて含みます[1]。推奨される遺伝子を押さえつつ費用とのバランスを重視したい場合は787遺伝子、できるだけ多くの病気を調べておきたい場合や、いとこ同士など血縁関係のあるカップルの場合は1009遺伝子が向いています。787遺伝子と1009遺伝子の違いは、1009遺伝子 拡大版保因者スクリーニング女性版のページでくらべています。
ご家族の病気の原因遺伝子が、この検査に入っていないこともあります。その場合は、入っていない遺伝子を追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください(カスタマイズ遺伝子パネル検査)。
カップルの受け方:同時に受ける/順番に受ける
おふたり同時に受ける方法と、ひとりが先に受けて、見つかった病気についてもうひとりが調べる方法があり、どちらにも良い点があります。
- ●同時に受ける:一度でカップルとしてのリスクがわかり、時間をかけずに次の計画を立てられます。おふたりが同じ診療枠で、同時に検査を受ける場合は、遺伝カウンセリング料の一人分をサービスし、おふたりで30分22,000円です。
- ●順番に受ける:先に受けた方で何も見つからなければ、それで判断の材料がそろう場合もあります。ただし結果を待つ時間がかかるため、妊娠を急ぐ方には向きません。順番に受ける場合、遺伝カウンセリング料はおひとりずつかかります。
代表的な対象の病気
対象の病気は数百にのぼります。ここでは、ACMGのTier 3に含まれる病気のうち代表的なものを挙げます[1]。X連鎖の病気は女性版だけで調べます。
📋 代表的な対象の病気と遺伝子
※病気・遺伝子・遺伝のしかたはACMGの2021年の指針(Tier 3の表)[1]による。調べる範囲は当院の検査内容による。ACMGは、米国の多くの民族を合わせた集団でのSMAの保因者の頻度を60人に1人としています[1]。
6. この検査でわかること・わからないこと(検査の限界)
この検査でわかるのは、対象の遺伝子に、病気の原因となる変化(病的・おそらく病的と判断された変化)を持っているかどうかです。一方で、どの遺伝子検査にも限界があり、「異常なし」でもお子さんが遺伝の病気になる可能性はゼロにはなりません。
わかること
- ●遺伝子の小さな変化:遺伝子の文字(塩基)の置き換わりや、小さな挿入・欠失を、遺伝子全体の配列を読んで調べます。
- ●遺伝子の一部が欠けたり重なったりする変化(欠失・重複):見つかった場合は、別の原理の方法(MLPA法やqPCR法など)でもう一度確かめてから報告します。
- ●脆弱X症候群(女性版):FMR1遺伝子の繰り返し配列(CGGリピート)の長さを測ります。前変異(プレミューテーション)が見つかった方には、お子さんに伝わるときの伸びやすさに関わるAGGという配列もあわせて調べます。
- ●脊髄性筋萎縮症:SMN1遺伝子の数(コピー数)を調べ、MLPA法で確かめます。
- ●よく似た配列が別にある遺伝子:偽遺伝子(よく似た働かない遺伝子)がある遺伝子も、専用の解析で調べます。
わからないこと・注意すること
- ●調べていない遺伝子・病気:対象に入っていない遺伝子の病気はわかりません。
- ●染色体の病気:ダウン症候群のような染色体の数の変化や、転座・逆位のような染色体の組み替わりは調べられません。
- ●お子さんに新しく起きる変化:ご両親から受け継がず、お子さんで新しく起きる変化(新生突然変異〔de novo〕)による病気は、保因者検査では予測できません。
- ●見つけにくい種類の変化:遺伝子と遺伝子の間や、遺伝子の奥深い部分の変化、ごく一部の細胞だけにある変化(低い割合のモザイク)、指定された遺伝子以外の繰り返し配列の伸びは、検出できないことがあります。
- ●脊髄性筋萎縮症の「隠れ保因者」:保因者の中には、1本の染色体にSMN1が2つ並び、もう1本では欠けている「2+0型」の方がいて、この検査では直接見つけられません。そのため「保因者ではない」という結果でも、保因者である可能性は大きく下がりますが、ゼロにはなりません。
- ●唾液の検体:唾液の検体では、欠失・重複の検出のしやすさが血液よりやや下がり、解析がうまくいかないことがあります。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):この検査で報告するのは、病的・おそらく病的と判断された変化だけです。病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS)は報告の対象にしていません。
💡 用語解説:残りのリスク(残余リスク)
保因者検査で「保因者ではない」とわかっても、調べていない遺伝子の変化や、この検査では見つけにくい種類の変化がある可能性は残ります。これを「残りのリスク(残余リスク)」といいます。検査を受けると、カップルとしてのリスクは大きく下がりますが、ゼロにはなりません。
7. 保因者とわかったら、次にできること
保因者とわかることは、「病気がある」という意味ではありません。わかったことを、ご自身の健康、パートナーの検査、妊娠の計画、ご家族の検査に生かせます。読む方の立場ごとに、次にできることをまとめます。
① ご自身の健康で気をつけること
潜性の病気の保因者の方は、多くの場合、ご自身の健康に影響はありません。ただし例外があります。脆弱X症候群の原因遺伝子(FMR1)の前変異をもつ女性では、21%が脆弱X関連の原発性卵巣不全(FXPOI)になると推定されています[4]。早く閉経に近づく可能性があるため、妊娠の計画を前倒しで考える手がかりにもなります。またX連鎖の病気の保因者の女性では、その病気の症状が出ることがあります[1]。こうした場合は、遺伝カウンセリングで、気をつけることと受診先をご説明します。
② パートナーの検査
常染色体潜性の病気の保因者とわかった場合、お子さんに病気が出るのは、パートナーも同じ遺伝子の保因者のときだけです。パートナーがまだ検査を受けていなければ、同じ遺伝子を調べます。パートナーが同じ遺伝子の保因者でなければ、その病気がお子さんに出ることは原則としてありません。X連鎖の病気の場合は、パートナーの検査結果にかかわらず、お母さんが保因者であることでお子さんへのリスクが決まります。
③ おふたりが同じ病気の保因者だったとき:子どもを持つときの選択肢
おふたりが同じ病気の保因者だった場合、お子さん1人あたり4分の1の確率で発症します。知ったうえで、次のような道から、おふたりに合ったものを選べます。どれかをおすすめするものではなく、どの選択も尊重します。
- ●自然に妊娠して、出生前診断を受ける:おふたりの変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さなどを踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください(単一遺伝子疾患の出生前診断)。
- ●着床前遺伝学的検査(PGT-M):日本でも、日本産科婦人科学会の指針(2026年9月改定)にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。海外でPGT-Mを考えている方の準備に必要なことは、海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。英語の検査結果が必要な方は、検査の時にお申し出ください。
- ●生まれてすぐの診断・治療に備える:病気によっては、早く治療を始めるほど経過が変わることがあります。たとえば脊髄性筋萎縮症では、症状が出る前に遺伝子治療を受けた(SMN2が2コピーの)赤ちゃん14人全員が、生後18か月までに支えなしで座れるようになったという臨床試験の報告があります[5]。前もってリスクを知っていれば、生まれてすぐの検査と治療の準備ができます。
- ●何もしないで産む:出生前診断を受けずに妊娠・出産をすることも、そのまま選べる選択肢です。知っていることで、生まれたあとの準備がしやすくなります。
- ●そのほかの道:お子さんを持つかどうかも含めて、おふたりで時間をかけて考える方もいます。
④ ご家族(きょうだい・親)への影響
あなたが保因者とわかった変化は、多くの場合、ご両親のどちらかから受け継いだものですが、ご自身で新しく起きた変化の場合もあります。きょうだいも同じ変化を持っている可能性があります。あなたの1回の検査結果は、きょうだいが将来、結婚や妊娠を考えるときに、自分が保因者かどうかを知る手がかりになります。ご家族は、わかっている変化をピンポイントで調べる既知の変異検査で確かめられます。ご家族に伝えるかどうか、どう伝えるかも、遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
⑤ 当院でのその後
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
保因者ではなかったとき
調べた病気について、カップルとしてのリスクは大きく下がります。ただし、第6章のとおり残りのリスクはゼロにはなりません。妊娠中に赤ちゃんの染色体などを調べたい方には、NIPT(当院は妊娠9週から、6〜8週は臨床研究)があります。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検体は血液・唾液・頬の粘膜のいずれかで、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療で遺伝カウンセリングを受けて、ご来院なしで検査を受けられます。検査会社での解析には2〜3週間かかります。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
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結果のご説明解析2〜3週間・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。料金の一覧は料金紹介をご覧ください。
このページでご案内している遺伝子検査(拡大版保因者スクリーニングの4つの検査)は、すべて遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
ご来院の場合、院内は全室個室で、受診枠は90分です。ほかの患者さんと時間が重ならないように予約をお取りしているため、院内でほかの患者さんと顔を合わせることはありません。キッズスペースはありませんが、診察室は広さに余裕があるので、お子さま連れでお越しいただけます。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がおふたりとご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。受診の前に知っておいていただきたいことは、NIPT以外の遺伝子検査の診療方針にまとめています。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【知ってから選べるように、ライフステージごとに支えたい】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。保因者であることは、だれにでもある、ごくふつうのことです。それでも、保因者どうしが出会ったときにだけ、お子さんに病気が現れることがあります。妊娠の前に知っておくことは、自分を責めるためではなく、その後の選択肢を増やすためのものだと考えています。
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。遺伝の病気の当事者の方にとっても、きょうだいに病気のある方にとっても、結婚・出産は大きな問題になります。当院は、結婚前・妊娠前・妊娠中・子育て・ご自身の健康管理と、ライフステージごとの皆様を、遺伝の専門医として支えたいと考えて診療しています。保因者検査から、妊娠したときの出生前診断まで、院内で続けて支えられる体制を整えています。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知る・知らない、子どもを持つ・持たない、出生前診断を受ける・受けない。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 保因者である確率は、どれくらいですか?
保因者であることは、まれではありません。子どもの重い潜性(劣性)遺伝の病気448種類を104人で調べた研究では、1人あたり平均2.8個の病気の原因となる変化が見つかりました。調べる病気の数や集団によって数字は変わりますが、家族に病気の人がいなくても、保因者である可能性は低くなりません。
Q2. 夫婦(カップル)で受ける遺伝子検査とは、どんな検査ですか?
おふたりがそれぞれ、お子さんに伝わることのある潜性(劣性)遺伝・X連鎖遺伝の病気の保因者かどうかを調べる検査です。潜性の病気は、おふたりが同じ遺伝子の保因者のときにだけ、お子さん1人あたり4分の1の確率で発症するため、おふたりの結果を合わせてカップルとしてのリスクを考えます。当院では女性版と男性版を組み合わせて受けていただきます。
Q3. 男性も検査を受ける必要がありますか?
常染色体潜性の病気は、おふたりが同じ遺伝子の保因者のときにお子さんに出るため、カップルとしてのリスクを知るには男性の検査も必要です。女性が先に受け、見つかった病気について男性が調べる順番もありますが、おふたり同時に受ければ一度で評価できます。遺伝カウンセリング料は基本はおひとりずつかかりますが、おふたりが同じ診療枠で、同時に検査を受ける場合は、おふたりで30分22,000円です。
Q4. いとこ同士の結婚で、子どもへの遺伝が心配です。どうすればよいですか?
血縁関係のあるカップルは、同じ祖先から同じ遺伝子の変化を受け継いでいる可能性があるため、同じ病気の保因者どうしになる確率が高くなります。米国医学遺伝学・ゲノム学会(ACMG)は、はとこかそれより近い血縁関係のあるカップルには、より広い保因者検査を考えるとしています。おふたりで保因者検査を受けることで、わかることがあります。
Q5. 家族に遺伝の病気の人がいて、結婚に反対されています。検査で何がわかりますか?
お子さんへの確率は、病気の遺伝のしかたと、ご家族ごとの状況で大きく違います。検査で、ご自身が同じ変化を持っているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か、お子さんへの確率はどれくらいかがわかります。リスクがあるとわかっても、出生前診断などの選択肢があります。まずは遺伝カウンセリングで、おふたりの状況をお聞かせください。
Q6. 妊娠前の遺伝子検査で、ダウン症候群はわかりますか?
わかりません。保因者検査は遺伝子の小さな変化を調べる検査で、ダウン症候群のような染色体の数の変化や、転座などの染色体の組み替わりは調べられません。親の染色体の転座を調べたい場合は染色体検査(Gバンド法)、妊娠中に赤ちゃんの染色体を調べたい場合はNIPTがあります。
Q7. 検査で「異常なし」なら、子どもが遺伝の病気になることはありませんか?
調べた病気について、カップルとしてのリスクは大きく下がりますが、ゼロにはなりません。調べていない遺伝子があることや、この検査では見つけにくい種類の変化があるためです(残りのリスク)。また、お子さんに新しく起きる変化による病気は、保因者検査では予測できません。結果の意味は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明します。
Q8. 妊娠前の遺伝子検査の費用はいくらですか?保険は使えますか?
検査料はお一人 税込253,000円(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)または税込275,000円(女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子)で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q9. 来院しなくても受けられますか?
唾液・頬の粘膜の検体であれば、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けて、ご来院なしで検査を受けられます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。結果も、遺伝カウンセリングでご説明してからマイページにアップします。
🧬 一度の検査で、おふたりとこれから生まれるお子さんの計画を
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。妊娠の前に保因者かどうかを知っておけば、パートナーの検査、出生前診断、生まれてすぐの治療の準備まで、おふたりで前もって考えられます。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Gregg AR, Aarabi M, Klugman S, et al. Screening for autosomal recessive and X-linked conditions during pregnancy and preconception: a practice resource of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2021;23(10):1793-1806. [DOI: 10.1038/s41436-021-01203-z](PMID: 34285390)
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