InstagramInstagram

BTD遺伝子とビオチニダーゼ欠損症 – 保因者検査で分かることと遺伝性疾患予防

BTD遺伝子は3番染色体短腕(3p25.1)に位置し、ビオチニダーゼという酵素をコードしています。この酵素はビオチンの代謝に重要な役割を果たしており、遺伝子変異によってビオチニダーゼ欠損症という常染色体劣性(潜性)遺伝疾患を引き起こします。

本記事では、BTD遺伝子の機能、関連する疾患、症状、診断方法、そして保因者検査の重要性について詳しく解説します。将来のお子さまの健康を考える方、遺伝性疾患のリスクについて知りたい方に向けた情報をご提供します。

BTD遺伝子とは

BTD遺伝子は、ビオチニダーゼ(Biotinidase、EC 3.5.1.12)という酵素を生成するための設計図となる遺伝子です。この酵素は体内でビオチンの代謝に重要な役割を担っています。

ビオチニダーゼは、ビオチン依存性カルボキシラーゼの分解過程で生じるビオシチンを加水分解し、ビオチンとリジンに分解する働きがあります。この過程で、遊離ビオチンが再生されます。

ビオチンは水溶性ビタミンの一種で、人間の正常な代謝に必要な4つのカルボキシラーゼの補酵素として機能します:

  • ピルビン酸カルボキシラーゼ(PCC)
  • プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCCA)
  • メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(MCCC)
  • アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACACA)

BTD遺伝子は4つのエクソンを持ち、少なくとも23kb(キロベース)にわたっています。この遺伝子から作られるタンパク質は543個のアミノ酸から成り、分子量は約57kDです。

ビオチンの重要性
ビオチン(ビタミンB7またはビタミンH)はビタミンB群の一種で、ヒトの代謝において極めて重要な役割を担っています。ビオチンは主に4つのカルボキシラーゼ酵素の補酵素として機能し、これらの酵素は以下のような重要な代謝プロセスに関与しています:

  • 脂肪酸合成:アセチルCoAカルボキシラーゼはマロニルCoAの合成を触媒し、脂肪酸合成の最初のステップとなります。
  • グルコース産生:ピルビン酸カルボキシラーゼはピルビン酸からオキサロ酢酸への変換を担い、糖新生に不可欠です。
  • アミノ酸代謝:プロピオニルCoAカルボキシラーゼはバリン、イソロイシン、メチオニン、トレオニンなどの特定のアミノ酸の代謝に関与します。
  • ロイシン分解:メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼはロイシンの異化過程で重要な役割を果たします。

また、ビオチンは以下の生理機能にも関与しています:

  • 遺伝子発現の調節
  • 細胞増殖
  • 免疫系の正常な機能
  • 神経伝達物質の合成
  • 皮膚や毛髪の健康維持

BTD遺伝子の変異により体内でのビオチンの再利用効率が低下すると、これらすべての代謝経路や生理機能に障害が生じ、神経学的問題、皮膚炎、脱毛、免疫不全など、多岐にわたる健康問題につながる可能性があります。

ビオチニダーゼ欠損症について

ビオチニダーゼ欠損症は、BTD遺伝子の両アレルに変異が生じることで発症する常染色体劣性(潜性)遺伝疾患です。この疾患は、体内でビオチンを再利用する能力が低下または喪失することによって引き起こされます。

ビオチニダーゼ欠損症は、酵素活性の残存程度により、以下の2つのタイプに分類されます:

  • 重度欠損症:酵素活性が正常の10%未満
  • 部分欠損症:酵素活性が正常の10~30%

症状

ビオチニダーゼ欠損症の症状は多岐にわたり、乳幼児期から現れることがあります。主な症状には以下のようなものがあります:

  • てんかん発作
  • 筋緊張低下(筋肉の弱さ)
  • 運動失調(協調運動障害)
  • 発達の遅れ
  • 視覚・聴覚障害
  • 脱毛
  • 皮膚炎
  • 免疫機能の低下
  • 代謝性アシドーシス

無治療の場合、これらの症状は進行し、永続的な神経学的障害や感覚障害を引き起こす可能性があります。しかし、早期診断と適切な治療により、多くの症状は予防または改善することができます。

新生児スクリーニングの重要性
日本では一部の地域で、ビオチニダーゼ欠損症を含む拡大新生児スクリーニングが実施されています。早期診断により、症状が現れる前に治療を開始することができ、深刻な合併症を予防できる可能性が高まります。

BTD遺伝子の主要な変異

BTD遺伝子には数多くの変異が報告されていますが、特に重要なものとして以下が挙げられます:

  • 7塩基欠失/3塩基挿入変異(98-104del7ins3):フレームシフトを引き起こし、68番目のアミノ酸で終止コドンとなり、切断されたタンパク質を生じます。
  • R538C変異(1612C-T):CpGジヌクレオチドでの変異で、異常なジスルフィド結合形成、異常酵素の急速な分解、血中への変異酵素分泌の失敗を引き起こします。
  • D444H変異(1330G-C):アスパラギン酸からヒスチジンへの置換で、約48%の酵素活性を維持します。一般集団での推定頻度は0.039です。
  • A171T/D444H二重変異:新生児スクリーニングで同定される2番目に多いアレルで、アレルの17.3%を占めます。
  • F361V変異(1081T-G):部分的な酵素欠損を引き起こします。
  • A534V変異(1601C-T):重度の酵素欠損を引き起こします。

これらの変異は民族間で分布が異なり、特定の集団では特定の変異が高頻度で見られることがあります。

遺伝子検査の進歩
近年の遺伝子検査技術の進歩により、BTD遺伝子の変異を高精度で検出できるようになりました。保因者検査や出生前診断により、リスクの早期発見と適切な医療介入が可能になっています。

診断と治療

診断方法

ビオチニダーゼ欠損症の診断は主に以下の方法で行われます:

  • 酵素活性測定:血清中のビオチニダーゼ活性を測定します。
  • 遺伝子検査BTD遺伝子の変異を直接検出します。
  • 新生児スクリーニング:多くの国や地域で実施されており、早期発見につながります。

治療法

ビオチニダーゼ欠損症の主な治療法は、経口ビオチン補充療法です。通常、以下のような治療が行われます:

  • 重度欠損症:5-20 mg/日のビオチン経口投与(生涯にわたり継続)
  • 部分欠損症:1-5 mg/日のビオチン経口投与(症状や状態により調整)

早期治療により、多くの症状は予防または改善することができます。既に症状が現れている場合でも、治療により症状の改善が期待できます。

治療の重要性
ビオチニダーゼ欠損症は適切な治療により良好な予後が期待できます。ビオチン補充療法は比較的安全で効果的な治療法であり、早期に開始することで永続的な神経学的障害を予防できる可能性が高まります。

BTD遺伝子の保因者検査

保因者とは、疾患を発症していないものの、疾患の原因となる遺伝子変異を1つのアレルに持っている状態を指します。BTD遺伝子の保因者は、通常は症状を示しませんが、同じく保因者のパートナーとの間に子どもを持つ場合、その子どもがビオチニダーゼ欠損症を発症するリスクがあります。

保因者検査は、特に以下のような方に推奨されます:

  • 家族にビオチニダーゼ欠損症の患者がいる方
  • 妊娠を計画している方、特に配偶者が保因者である場合
  • 特定の民族集団(特にビオチニダーゼ欠損症の保因者頻度が高い集団)に属する方

以下は、BTD遺伝子変異の保因者頻度に関する人口統計データです:

対象人口 保因者頻度 検出率 検査後保因確率 残存リスク
一般集団 124人に1人 99% 12,301人に1人 6,101,296人に1人
白人/ヨーロッパ集団 71人に1人 99% 7,001人に1人 1,988,284人に1人
ラテン系集団 136人に1人 99% 13,501人に1人 7,344,544人に1人
中東系集団 55人に1人 99% 5,401人に1人 1,188,220人に1人

ミネルバクリニックでは、BTD遺伝子を含む多数の遺伝子を対象とした拡大版保因者検査を提供しています。この検査により、将来のお子さまの健康リスクを事前に知り、適切な医療計画を立てることが可能になります。

ビオチニダーゼ欠損症の遺伝形式

ビオチニダーゼ欠損症は、常染色体劣性(潜性)遺伝形式をとります。これは以下のことを意味します:

  • 両親がともに保因者である場合、子どもがビオチニダーゼ欠損症を発症する確率は25%(4分の1)です。
  • 子どもが保因者となる確率は50%(2分の1)です。
  • 子どもが変異を全く受け継がない確率は25%(4分の1)です。

常染色体劣性(潜性)遺伝疾患は、両方の遺伝子コピー(アレル)に変異がある場合にのみ発症します。1つのアレルのみに変異がある保因者は、通常症状を示しません。

遺伝カウンセリングの重要性
遺伝性疾患のリスクがある方は、専門家による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が遺伝的リスクの評価、検査オプションの説明、結果の解釈などをサポートしています。

まとめ

BTD遺伝子の変異によって引き起こされるビオチニダーゼ欠損症は、早期診断と適切な治療により良好な予後が期待できる遺伝性疾患です。

保因者検査により、自分が保因者であるかどうかを知ることができ、将来のお子さまの健康リスクに備えることができます。特に妊娠を計画している方にとって、この情報は重要な意味を持ちます。

ミネルバクリニックでは、最新の遺伝子検査技術を用いた保因者検査を提供しています。遺伝的リスクに関する不安や疑問がある方は、ぜひ当クリニックの臨床遺伝専門医にご相談ください。

参考文献

  1. Cole H, et al. Cloning and sequencing of a cDNA corresponding to the BTD gene from a human hepatic cDNA library. (1994)
  2. Knight HC, et al. Determination that the BTD gene contains 4 exons spanning at least 23 kb. (1998)
  3. Pomponio RJ, et al. Identification of an allele with a 7-bp deletion and a 3-bp insertion in the BTD gene. (1995)
  4. Wolf B, et al. Homozygous mutations in the BTD gene in asymptomatic adults. (1997)
  5. Carvalho MD, et al. Molecular and serum enzyme testing results in Brazilian children with biotinidase deficiency. (2019)
プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移