目次
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微小重複症候群(微細重複症候群)とは、染色体のごく一部が1本分多くなる(重複する)ことで起こる病気をまとめた呼び方です。同じ場所が欠けると微小欠失症候群になり、重複は欠失と「対」になります。重複は欠失に比べて症状が軽めで幅が広く、症状のない親から受け継いでいることも多いのが特徴です。妊娠中の血液検査で重複が疑われても、それだけでは診断になりません。この記事では、主な微小重複症候群の一覧、欠失との違い、見つけ方、東京のNIPT(新型出生前診断)でわかる範囲、出生前にわかったときの確定検査と両親の検査までを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 微小重複症候群とは何ですか?
染色体のごく一部が通常の2コピーから3コピーに増えることで起こる病気の総称です。通常の染色体検査(G分染法)では見えない小ささのため、主に染色体マイクロアレイ検査で見つかります。
🧬 Q. 微小欠失症候群とどう違いますか?
同じ場所の「欠け」と「増え」です。重複は対になる欠失より症状が軽いか、症状がないこともあると報告されており、症状の幅も大きいのが特徴です。
🧬 Q. 親から遺伝しますか?
種類によっては親から受け継いでいる場合のほうが多いものがあります(22q11.2重複や16p11.2重複では約70%)。親が持っている場合、子どもに伝わる確率は1回の妊娠ごとに50%です。
🧬 Q. NIPTでわかりますか?陽性なら確定ですか?
当院では、重複まで調べるのはインペリアルプランと双子マックスプラン(92種類の微小欠失・重複)です。NIPTはスクリーニング検査なので、陽性なら羊水検査などの確定検査(マイクロアレイ)で確かめます。
- ➤定義 → 染色体のごく一部が3コピーに増えて起こる病気の総称
- ➤種類一覧 → 当院で解説している約20の微小重複症候群へのリンク
- ➤欠失との対 → 同じ場所の欠失と重複で、正反対の特徴が出る例
- ➤見つけ方 → マイクロアレイが基本。G分染法・FISH・NIPTの限界
- ➤出生前にわかったとき → 確定検査・両親の検査・遺伝カウンセリング

🧬 微小重複症候群の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・英語 | びしょうちょうふくしょうこうぐん(微細重複症候群とも)/microduplication syndrome |
| ひとことで言うと | 染色体のごく一部が通常の2コピーから3コピーに増えて起こる病気の総称 |
| しくみ | 多くは、低コピーリピート(LCR)にはさまれた領域で起こる非対立遺伝子間相同組換え(NAHR)による |
| 欠失との違い | 対になる欠失より症状が軽いか、ないこともある。親から受け継いでいることが多い種類がある |
| 主な例 | ポトキ・ルプスキ症候群(17p11.2重複)、7q11.23重複症候群、22q11.2重複、16p11.2重複、15q11-q13重複(Dup15q) |
| 確定診断の方法 | 染色体マイクロアレイ検査(CMA)。妊娠中は絨毛検査・羊水検査の検体で行う |
| 当院のNIPTでの扱い | 重複まで調べるのはインペリアルプランと双子マックスプランのみ(92種類の微小欠失・重複) |
1. 微小重複症候群とは? ― 染色体のごく一部が「1本分多い」状態
微小重複症候群とは、染色体のごく一部の領域が重複し、その中にある複数の遺伝子が通常より多く働くことで起こる病気をまとめた呼び方です。ひとつの病名ではなく、「どの染色体のどの場所が重複しているか」で一つひとつ別の症候群に分かれます。たとえば17番染色体の短腕(p)の11.2という場所が重複するとポトキ・ルプスキ症候群、7番染色体の長腕(q)の11.23が重複すると7q11.23重複症候群、という具合です。
人の細胞には、同じ番号の染色体が父由来と母由来で1本ずつ、合わせて2本あります。そのため、ほとんどの遺伝子は2コピーずつ持っています。重複が起こると、その領域だけが3コピーになります。遺伝子の中には、量が1.5倍になるだけで体の発達のバランスが崩れるものがあり、これが症状につながります。量の変化に弱い遺伝子が領域内に含まれているかどうかで、症状が出るかどうか、どの程度になるかが変わります。
このような「コピー数の違い」を、遺伝学ではCNV(コピー数バリアント)と呼びます。CNVには、病気と関係しないものもたくさんあります。微小重複症候群と呼ばれるのは、そのなかで、特定の症状との結びつきが報告されている重複です。
「微小」「微細」とは、何が小さいのか
「微小(微細)」とは、顕微鏡で染色体の縞模様を見る通常の染色体検査(G分染法)では見分けられないほど小さい、という意味です。「微小重複症候群」と「微細重複症候群」は同じものを指し、資料によって呼び方が違うだけです。英語ではmicroduplication syndromeと書きます。
たとえば7q11.23重複症候群の診断に使われる重複は1.5〜1.8 Mb(メガベース=100万塩基対)の大きさで、通常の染色体分染法では検出できないとされています[1]。そのため、見つけるにはこれから説明する染色体マイクロアレイ検査など、より細かく調べられる検査が必要になります。
💡 用語解説:隣接遺伝子症候群
となり合って並んでいる複数の遺伝子が、まとめて増えたり減ったりすることで起こる病気を「隣接遺伝子症候群」と呼びます。微小重複症候群と微小欠失症候群は、どちらもこの仲間です。1つの遺伝子だけの変化で起こる単一遺伝子疾患とは、原因の考え方が異なります。
なぜ重複が起こるのか ― LCRとNAHR
同じ大きさの重複が多くの人で繰り返し見つかる「反復性」の重複は、主に非対立遺伝子間相同組換え(NAHR)というしくみで起こります。ヒトのゲノムには、よく似た配列が少し離れた場所に繰り返し置かれている低コピーリピート(LCR)があります。LCRは10〜300 kb(キロベース)ほどの大きさで、互いに95%以上の配列が一致するものもあります[2]。
卵子や精子ができる減数分裂のとき、本来ずれずに並ぶはずの染色体が、よく似たLCRどうしで間違って並んでしまうことがあります。そこで組換えが起こると、同じ向きの2つのLCRにはさまれた領域について、片方の染色体には欠失が、もう片方には重複ができます[2]。これがNAHRです。NAHRによる再構成は、大きさが共通で、切れ目が同じあたりに集まり、多くの人で繰り返し起こるという特徴があります[2]。
つまり、多くの微小重複症候群には、同じ場所の微小欠失症候群という「相方」がいます。このしくみの詳しい説明は、欠失と重複をまとめて扱うゲノム病(微細欠失・重複症候群)の総論で解説しています。このページでは「重複」の側に絞って、種類・特徴・見つけ方・出生前にわかったときの対応を整理します。
2. 微小欠失症候群との違い ― 「軽め・幅が広い・親から受け継ぐことが多い」
微小重複症候群は、対になる微小欠失症候群と比べて、症状が軽いか症状がないこともあり、同じ重複でも人によって症状の幅が大きいのが特徴です。染色体の微小欠失・微小重複症候群をまとめた総説では、微小重複は対になる微小欠失に比べて、症状が軽いか、はっきりした症状が出ないことがあると述べられています[3]。
報告されている数は、欠失のほうがずっと多い
同じ総説では、報告されている症候群の数として、微小欠失症候群211に対し、微小重複症候群は79にとどまるとしています[3](2012年の時点)。NAHRのしくみからすると欠失と重複は対で生じるはずですが、精子を調べた研究では欠失のほうが約2倍多く生じていたことが紹介されています[2]。
加えて、症状が軽い重複は、病院で検査を受けるきっかけが少なく、見つからないまま過ごしている人も多いと考えられます。22q11.2重複については、症状がないために検出されない人が多いとされています[4]。「報告が少ない」ことと「実際に少ない」ことは、同じではありません。
同じ重複でも症状の幅が大きい
22q11.2重複では、発達の遅れ、知的障害、成長の遅れによる低身長、筋緊張の低下などがみられることがある一方で、明らかな身体的・知的障害のない人も多く、同じ家族の中でも症状が大きく異なるとされています[4]。16p11.2重複でも、浸透率(重複を持つ人のうち症状が出る人の割合)が低いことが指摘されています[5]。
💡 用語解説:浸透率と表現度
浸透率は「その変化を持つ人のうち、症状が出る人の割合」、表現度は「症状が出た人どうしで、どのくらい程度が違うか」です。微小重複症候群では、浸透率が100%に満たない(不完全浸透)ことや、表現度が人によって大きく違うことがよくあります。そのため、重複がわかっても、その子にどんな症状が出るかを1つに決めて伝えることはできません。
症状のない親から受け継いでいることが多い
微小重複症候群のなかには、親から受け継いでいる場合のほうが多い種類があります。22q11.2重複では約70%が親から受け継いだもので[4]、16p11.2重複では70%を超えるケースが受け継いだものと報告されています[5]。7q11.23重複症候群では、約73%が新たに生じた変化(新生突然変異)で、残りが親から受け継いだものです[1]。
親が重複を持っていても、親自身にははっきりした症状がないことがあります。これは前の項目で説明した浸透率・表現度の違いによるもので、「親は元気だから、子どもも同じように元気」とは言い切れません。逆に、親が重複を持っていると、きょうだいや次の妊娠にも関係してきます。ここが、多くが新たに生じる欠失症候群と比べたときの、重複症候群の大きな違いです。
🩺 院長コラム【「重複は軽いことが多い」をどう受け止めるか】
重複は欠失より軽いことが多い、という説明は医学的には正しいのですが、この言葉は使い方に気をつける必要があると考えています。「集団として軽い傾向がある」ことと「目の前のこの子が軽い」ことは、別の話だからです。同じ重複を持つ親子で、親にはほとんど症状がなく、子どもには発達の遅れが出ることもあります。
逆に、重複がわかったからといって、必ず重い症状が出ると決めつけるのも正確ではありません。臨床遺伝専門医としては、どの領域の重複か、どの遺伝子を含むか、親が同じ重複を持っているかを一つずつ確かめ、「わかっていること」と「まだ予測できないこと」を分けてお伝えすることが大切だと考えています。
3. 主な微小重複症候群の一覧
当院のサイトでは、次の微小重複症候群をそれぞれ個別のページで解説しています。症状や原因遺伝子の詳しい説明は、各ページをご覧ください。右の列は、当院のNIPTのインペリアルプラン・双子マックスプランで調べる「92種類」の一覧(プランのページに掲載)に、その名前があるかどうかです。
📋 微小重複症候群の一覧(染色体の番号順)
| 染色体の領域 | 症候群(詳しいページ) | 92種類の一覧 |
|---|---|---|
| 2q31 | 2q31微小重複症候群 | ○(2q31.1重複症候群) |
| 3q29 | 3q29重複症候群 | 一覧に名前なし |
| 5p13 | 5p13重複症候群 | ○ |
| 7q11.23 | 7q11.23重複症候群 | 一覧に名前なし |
| 8p23.1 | 8p23.1微細重複症候群 | ○ |
| 8q22.1 | 8q22.1重複症候群 | ○ |
| 9p | 9p重複症候群(トリソミー9p) | ○(9p重複) |
| 11p15 | 11p15微小重複症候群 | 一覧に名前なし |
| 15q11-q13 | 15q11-13微小重複症候群(Dup15q) | 一覧に名前なし |
| 16p11.2 | 16p11.2重複症候群 | ○※ |
| 16p11.2-p12.2 | 16p11.2-p12.2重複症候群 | ○(16p12.2-p11.2重複症候群) |
| 16p13.11 | 16p13.11重複症候群 | 一覧に名前なし |
| 16p13.3 | 16p13.3重複症候群 | ○ |
| 17p11.2 | ポトキ・ルプスキ症候群(17p11.2重複) | ○ |
| 17p13.3 | 17p13.3重複症候群 | ○ |
| 22q11.2 | 22q11.2微小重複症候群 | 一覧に名前なし |
| 22q13 | 22q13微小重複症候群 | 一覧に名前なし |
| Xp11.22-p11.23 | Xp11.22-p11.23重複症候群 | ○(Xp11.23-p11.22重複症候群) |
| Xq27.3-q28 | Xq27.3-q28重複症候群 | ○ |
| Xq28(MECP2) | MECP2重複症候群 | 一覧に名前なし |
○は、当院のインペリアルプラン(92種類)の一覧に名前があることを示します。一覧に名前がないものについて、当院のNIPTでどこまでわかるかは遺伝カウンセリングでお尋ねください。
※16p11.2の重複は、当院のプランの説明ではインペリアル・双子マックスで調べる項目です。プランページの一覧では「16p12.2-p11.2重複症候群」として載っています。「一覧に名前なし」は、その重複がNIPTで絶対にわからないという意味ではありません。調べたい重複が決まっている場合は、受検前の遺伝カウンセリングで、どのプランで何がわかるかをご確認ください(2026年11月時点)。
一覧のうち、17p11.2・7q11.23・16p11.2・22q11.2・15q11-q13の重複は、同じ場所の欠失症候群がよく知られており、欠失と重複を比べることで特徴がつかみやすくなります。次の章で、この5つを「対」として並べます。17番染色体の重複症候群全体の位置づけは、第17番染色体異常の解説でも扱っています。
4. 欠失と重複の「対」 ― 同じ場所で正反対の特徴が出る例
同じ領域の欠失と重複は、ちょうど逆向きの特徴を示すことがあり、遺伝子の「量」が症状を決めていることがよくわかります。欠失(1コピー)と重複(3コピー)を並べると、どちらの側の病気かを取り違えにくくなります。
🔄 同じ場所の欠失症候群と重複症候群
| 領域 | 欠失(1コピー) | 重複(3コピー) | 比べたときのポイント |
|---|---|---|---|
| 17p11.2 | スミス・マギニス症候群 | ポトキ・ルプスキ症候群 | 重複は欠失の相方として生じる。症状の原因として関与が示されているのはRAI1[6] |
| 7q11.23 | ウィリアムズ症候群 | 7q11.23重複症候群 | 重複では発語失行(話すための口の動きの計画がうまくいかない)が多く、社会不安が目立つ[1] |
| 16p11.2 | 16p11.2欠失 | 16p11.2重複症候群 | 欠失は大頭・肥満、重複は小頭・低体重と、頭囲と体重が逆向き[5] |
| 22q11.2 | 22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群) | 22q11.2微小重複症候群 | 重複は症状の幅が大きく、明らかな障害のない人も多い[4] |
| 15q11-q13 | 父由来の欠失=プラダー・ウィリー症候群[7]/母由来の欠失=アンジェルマン症候群[8] | 15q11-13微小重複症候群(Dup15q) | 重複は母由来のときに症状が出る(ゲノムインプリンティング)[9] |
17p11.2:ポトキ・ルプスキ症候群
ポトキ・ルプスキ症候群は、スミス・マギニス症候群の欠失と対になる組換えで生じる17p11.2の重複です[6]。17p11.2の重複の約3分の2は3.7 Mbの反復性の重複で、残りは大きさがさまざまです。領域内には約70の遺伝子がありますが、症状の原因として関与が示されているのはRAI1だけとされています[6]。乳児期の筋緊張低下と飲み込みにくさがよくみられ、心血管の異常は約40%に報告されています[6]。多くは新たに生じた重複ですが、親から子への伝達も報告されています[6]。
7q11.23:7q11.23重複症候群
ウィリアムズ症候群の原因領域(1.5〜1.8 Mb)が重複して起こります[1]。小児では、ことばの音をつくる障害のなかで発語失行が最も多く、社会不安障害が約50%、選択性緘黙(場面によって話せなくなる)が約29%にみられると報告されています[1]。体の面では、上行大動脈の拡張が約46%に報告されており、心臓の超音波検査で経過をみることが大切になります[1]。
16p11.2:16p11.2重複症候群
16番染色体のBP4-BP5と呼ばれる約593 kbの領域の重複です[5]。欠失と重複は頭囲で「鏡に映したような」関係を示し、欠失は大頭症、重複は小頭症が観察されます。体重でも、欠失は肥満、重複は低体重と関連します[5]。重複と精神疾患、主に統合失調症との強い関連を示した研究もあります[5]。浸透率は低く、70%を超えるケースで親から受け継がれています[5]。
22q11.2:22q11.2重複
多くは約3 Mbの重複で、30〜40の遺伝子を含みます[4]。発達の遅れなどで検査を受けた人を対象にした研究では、約700人に1人が22q11.2重複を持っていました[4]。ただし、これは検査を受けた人の中での数字で、一般の人での頻度ははっきりしていません。遺伝形式は常染色体顕性(優性)と考えられ、約70%は親から受け継いだものです[4]。
15q11-q13:15q11-13微小重複症候群(Dup15q)
15q11-q13の重複は、母由来の染色体に重複があるときに症状が出ます[9]。この領域には、どちらの親から受け継いだかで働き方が変わる遺伝子があるためです(ゲノムインプリンティング)。同じ領域の欠失では、父由来の欠失でプラダー・ウィリー症候群[7]、母由来の欠失でアンジェルマン症候群[8]になります。Dup15qには、余分な小さい染色体(同腕二動原体15番染色体)として重複部分を4コピー持つ型が約80%、15番染色体の長腕の中に重複がある型(3コピー)が約20%あり、後者のほうが症状は軽い傾向があります[9]。多くの人に自閉スペクトラム症がみられ、半数以上にてんかんがあるとされています[9]。
5. 微小重複はどうやって見つける? ― マイクロアレイが基本
微小重複を見つける基本の検査は、染色体マイクロアレイ検査(CMA)です。どの検査にも得意・不得意があり、重複は欠失よりも見つけにくい場面があります。
染色体マイクロアレイ検査(CMA)
染色体マイクロアレイ検査は、ゲノム全体のコピー数を細かく調べ、どこが増えているか・減っているかを見つける検査です。発達の障害や先天異常のある人を対象にした国際的な合意声明では、CMAの診断率は15〜20%で、G分染法の約3%(ダウン症候群など見た目でわかる染色体の病気を除く)を大きく上回るとして、CMAを最初に行う検査とすることが推奨されています[10]。ポトキ・ルプスキ症候群でも、最も適した検査はCMAとされています[6]。生まれたあとの検査については当院のマイクロアレイ染色体検査のページで説明しています。
ただし、CMAでわかるのは「コピー数が増えている」ことまでです。増えた部分が同じ染色体のすぐ隣に並んでいるのか、別の染色体に入り込んでいるのかは、CMAだけでは区別できません。この違いは、両親の検査や次の妊娠の考え方に関わることがあります。
G分染法とFISHが重複を苦手とする理由
通常の染色体検査(G分染法)は、顕微鏡で縞模様を見る方法なので、微小重複の多くは見えません。7q11.23重複症候群の重複も、通常の分染法では検出できないとされています[1]。
特定の場所に光る目印をつけて調べるFISH法も、重複は欠失より確かめにくいとされています[3]。欠失なら「目印が1つしか光らない」とはっきりわかりますが、すぐ隣に並んだ重複は、2つの光が重なって1つに見えてしまうことがあるためです。ポトキ・ルプスキ症候群では、FISHや高精度の分染法でも重複を検出できることはあるものの、標本の作り方や技術に左右され、感度が低いとされています[6]。
NIPTの位置づけと限界
NIPT(新型出生前診断)は、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAを調べるスクリーニング検査です。全染色体を調べるNIPTで見つかる欠失・重複については全ゲノムNIPTでわかる微細な欠失・重複で解説しています。
NIPTで重複が疑われても、それだけでは診断になりません。微小欠失・微小重複は、ダウン症候群などの数の異常に比べて陽性的中率(陽性のうち本当にその変化がある割合)が低めです。また、NIPTでは、その重複が赤ちゃん自身のものか、お母さん自身が持っているものかを区別できないことがあります。陽性の場合は、羊水検査などの確定検査で赤ちゃんの染色体をマイクロアレイで確かめます。精度の考え方はNIPTの精度(陽性的中率)で詳しく説明しています。
6. 当院のNIPTでわかる範囲 ― 重複まで調べるのは2つのプラン
当院のNIPTで微小重複まで調べるのは、インペリアルプランと双子マックスプランの2つです。この2つは、全常染色体の数の異常に加えて、92種類の微小欠失・重複と、全染色体の5 Mbを超える構造異常を調べます。スタンダード・プレミアム・ダイヤモンドの3つのプランで調べるのは微小「欠失」だけで、重複は対象外です。
🩸 当院のNIPTプランと微小欠失・微小重複(2026年11月時点)
※微小欠失・重複は、数の異常より陽性的中率が低めです。陽性の場合は、確定検査で確かめる必要があります。
16p11.2の欠失・重複は、自閉スペクトラム症や発達の遅れと関係する変化の1つとして知られており、当院ではインペリアル・双子マックスで調べています。ただし、NIPTでわかるのは自閉症・発達障害の原因の一部だけで、陰性だからといって発達の心配がなくなるわけではありません。詳しくは一部の自閉症・発達障害の原因はNIPTでわかるをご覧ください。
当院のNIPTは通常妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。臨床遺伝専門医が常駐し、90分の受診枠の中で遺伝カウンセリングを行います。プランの違いと料金はNIPT(新型出生前診断)のページにまとめています。
7. 出生前に重複がわかったとき ― 確定検査・両親の検査・遺伝カウンセリング
妊娠中に重複がわかったときは、①確定検査で本当にあるかを確かめ、②両親が同じ重複を持っているかを調べ、③遺伝カウンセリングで「わかること・わからないこと」を整理する、という順番で進めます。重複症候群は親から受け継いでいることが多いため、欠失症候群以上に②が大切になります。
① 確定検査(絨毛検査・羊水検査)
NIPTで陽性になったら、まずNIPTで陽性だったらどうするかを確認し、確定検査を受けます。当院では、NIPTで陽性になったときの確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。当院の絨毛検査は妊娠11〜13週、羊水検査は妊娠15週以降です。主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。2つの検査の違いは絨毛検査と羊水検査の違いで説明しています。
羊水検査は妊娠15週以降に受けられますが、15週では羊水が少なく、羊水の中の細胞も少なめです。羊水でマイクロアレイ検査まで行うには、18週くらいが適していると考えています。陽性がわかった時期と、結果を受け取って考える時間の両方をふまえて、検査の時期を一緒に決めることが大切です。
② 両親の検査が大切な理由
赤ちゃんに重複が確かめられたら、両親のどちらかが同じ重複を持っていないかを調べることがあります。前に説明したように、22q11.2重複では約70%[4]、16p11.2重複では70%を超えるケース[5]が親から受け継いだものです。
親が同じ重複を持っているとわかった場合、その親から子どもに重複が伝わる確率は、1回の妊娠ごとに50%です(7q11.23重複症候群の例[1])。一方で、同じ重複でも家族の中で症状の幅が大きいことが知られており[4]、親に症状がないことは、赤ちゃんにも症状が出ないことの保証にはなりません。両親の検査の結果は、今回の妊娠の考え方だけでなく、きょうだいや次の妊娠を考えるときの材料にもなります。
③ 遺伝カウンセリングで整理すること
遺伝カウンセリングでは、重複している領域と含まれる遺伝子、報告されている症状の幅、両親の検査の意味、生まれたあとに必要になりうる検査(たとえば7q11.23重複なら心臓の超音波検査)などを整理します。重複症候群では、同じ重複を持つ人の中でも症状の出方が大きく違うため、「起こりうること」と「予測できないこと」を分けて考えることが欠かせません。
NIPTの陽性から確定検査、両親の検査までの流れについては、9p重複の例をNIPT陽性で9p重複と診断された方へで解説しています。NIPTの遺伝カウンセリングを担う専門医の役割はNIPTの遺伝カウンセリング(臨床遺伝専門医)をご覧ください。
🩺 院長コラム【重複がわかったら、両親の検査まで進めたい理由】
欠失症候群の多くは新たに生じた変化ですが、重複症候群では親から受け継いでいることが少なくありません。親が同じ重複を持っているかどうかで、今回の結果の受け止め方も、次の妊娠についての考え方も変わります。そのため、赤ちゃんの確定検査で終わらせず、両親の検査まで考えることが大切だと考えています。
一方で、親から受け継いだとわかると、ご自身を責めてしまう方もいます。重複はLCRという配列のしくみの上で起こるもので、親の生活や行動で生じるものではありません。結果を「誰のせいか」ではなく、「家族として何を知っておくとよいか」という情報として使っていただくのが、遺伝カウンセリングの役割だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 微小重複症候群とは何ですか?
染色体のごく一部が通常の2コピーから3コピーに増え、その中の遺伝子が多く働くことで起こる病気の総称です。通常の染色体検査(G分染法)では見えない小ささのため、主に染色体マイクロアレイ検査で見つかります。「微細重複症候群」も同じものを指します。
Q2. 微小欠失症候群とどう違いますか?
同じ場所の「欠け」と「増え」です。重複は対になる欠失に比べて症状が軽いか、症状がないこともあると報告されています。同じ重複でも人によって症状の幅が大きく、親から受け継いでいることが多い種類もあります。
Q3. 微小重複症候群は親から遺伝しますか?
種類によっては親から受け継いでいる場合が多く、22q11.2重複では約70%、16p11.2重複では70%を超えるケースが親から受け継いだものと報告されています。親が同じ重複を持っている場合、子どもに伝わる確率は1回の妊娠ごとに50%です。親に症状がなくても、子どもにも症状が出ないとは限りません。
Q4. NIPTで微小重複症候群はわかりますか?
当院のNIPTで微小重複まで調べるのは、インペリアルプランと双子マックスプランの2つです(92種類の微小欠失・重複と、全染色体の5 Mbを超える構造異常)。スタンダード・プレミアム・ダイヤモンドは微小欠失だけを調べ、重複は対象外です。
Q5. NIPTで重複が陽性だったらどうすればよいですか?
NIPTはスクリーニング検査なので、陽性だけでは診断になりません。絨毛検査や羊水検査で赤ちゃんの染色体をマイクロアレイ検査で確かめます。重複が確かめられたら、両親が同じ重複を持っていないかを調べることも検討し、遺伝カウンセリングでわかること・わからないことを整理します。
Q6. ミネルバクリニックで検査や治療はできますか?
当院で受けられるのは、遺伝カウンセリング、NIPT(重複まで調べるのはインペリアル・双子マックス)、確定検査(絨毛検査・羊水検査)、染色体マイクロアレイ検査です。それぞれの症状の治療や経過のフォローは、小児科などの専門の診療科で行います。
まとめ
微小重複症候群は、染色体のごく一部が3コピーに増えて起こる病気の総称で、多くはLCRにはさまれた領域のNAHRで生じ、同じ場所の微小欠失症候群と対になっています[2]。重複は欠失に比べて症状が軽いか、ないこともあり[3]、症状の幅が大きく、親から受け継いでいることが多い種類もあります[5][4]。
見つける基本の検査はマイクロアレイで[10]、G分染法やFISHは重複を苦手とします。NIPTで重複が疑われたら確定検査で確かめ、両親の検査と遺伝カウンセリングまで進めることが大切です。
🏥 微小重複症候群が気になる方へ
ミネルバクリニック(東京・北青山)では、臨床遺伝専門医が常駐し、NIPTの遺伝カウンセリングを行っています。微小重複まで調べるのは、92種類の微小欠失・重複を対象にしたインペリアルプランと双子マックスプランです。陽性の場合は、確定検査(絨毛検査・羊水検査)とマイクロアレイ検査まで院内で受けられます。NIPTは通常妊娠9週から、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。
検査を受けるかどうかまだ決めていない方は、検査で何がわかり、結果をどう受け止めればよいかを遺伝カウンセリングとはで先にご覧ください。
参考文献
- [1] Mervis CB, Morris CA, Klein-Tasman BP, et al. 7q11.23 Duplication Syndrome. GeneReviews. 2015 (updated 2021). [NBK327268]
- [2] Gu W, Zhang F, Lupski JR. Mechanisms for human genomic rearrangements. PathoGenetics. 2008;1:4. [PMC2583991]
- [3] Weise A, Mrasek K, Klein E, et al. Microdeletion and Microduplication Syndromes. J Histochem Cytochem. 2012;60(5):346-358. [PMC3351230]
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