NIPT(新型出生前診断)とは、妊娠9週(ミネルバクリニックでは妊娠6週から)以降の妊婦さんの血液を採取し、その中に含まれる赤ちゃんのDNAを調べる検査です。DNAは染色体に含まれ、お父さん・お母さんの両方から受け継がれます。この染色体に異常があると、おなかの赤ちゃんが先天異常を持って生まれる可能性があります。
今回は遺伝専門医が、NIPTの概要や受検の対象となる方、NIPTを受けるにあたり注意したいポイントを解説します。
目次
NIPTとは
NIPT(新型出生前診断)は、母体の採血のみで胎児の染色体異常を高い精度で見つけることができます。先天異常は高齢出産と関連する場合もあり、近年は受検する妊婦さんが増えてきている検査です。
日本でNIPTが導入されたのは2013年。日本医学会と日本産婦人科学会により3つの染色体異常を調べられるようになりました。しかし現状では非確定的検査としての位置付けであるため、診断のためには確定的検査を受ける必要があります。
NIPTの特徴
出生前診断にはさまざまな種類がありますが、その中でもNIPTにはどのような特徴があるのでしょうか。
検査対象が胎児ではなく母体
NIPTの特徴は、検査対象が胎児ではなく母体であるという点です。母体の血液を採取して胎児の異常を判定できれば、確定検査(羊毛検査や絨毛検査)のためにお腹に針を刺す必要がありません。検査を原因とした流産などのリスクを避けられるのがNIPTの良さです。
NIPTは「スクリーニング検査」に該当
出生前診断には形態異常を調べる検査と染色体異常を調べる検査があります。染色体異常を調べる出生前診断は、診断内容を確定できない非確定検査と、胎児の異常を確定できる確定検査の2種類です。NIPTは出生前診断のうち、非確定検査に該当します。
つまり、NIPTは医学的に「確定検査」ではなくあくまで「スクリーニング検査」と捉えられています。妊娠中に行える確定検査には羊水検査や絨毛検査がありますが、NIPTはこれらの確定検査に取って代わるものではありません。確定検査は母体のお腹に針を刺す必要があり、わずかですが流産のリスクがあります。
まずは妊娠9週の早い段階でリスクの少ないNIPTを受けて、陽性だったら確定検査を受けるという流れが一般的です。
精度が高い
非確定検査でありながら精度が高いのもNIPTの特徴でしょう。
これまでの非確定的検査では、コンバインド検査や母体血清マーカー検査が主流でした。
検査の種類 | NIPT | コンバインド検査 | 母体血清マーカー |
感度 | 99% | 83% | 80% |
たとえば40歳の妊婦でダウン症の検査を受けた場合、母体血清マーカー検査の感度が80%、コンバインド検査では83%の感度でした。対して、NIPTの感度は99%と、その精度の高さがうかがえます。
従来の検査と比べると、赤ちゃんの染色体異常をより正確に発見することができる点は大きな特徴でしょう。低リスクかつ精度の高い検査であれば、妊娠中にも安心して受けられます。
妊娠の早い段階で検査を受けることができる
母体血清マーカー検査やコンバインド検査は、妊娠11週以降でないと受けられません。
一方NIPTは、妊娠9週以降から検査可能です。早い妊娠週数で検査できるため、確定的検査までに気持ちの整理ができます。(ミネルバクリニックでは妊娠6週から検査可能です。)
NIPTのみで確定診断はできないものの、陽性判定が出た場合に落ち込んでしまう妊婦さんがほとんどです。しかし、この検査はあくまでも非確定的であることを忘れてはいけません。NIPTで結果が出たら、遺伝カウンセリングを受けながら気持ちの整理をする時間を取り、今後についてじっくりと考えることが大切です。
NIPTの検査では、21トリソミーや18トリソミー、13トリソミーといった染色体異常の有無を判断できます。検査は現状、希望する妊婦さんのうち条件に該当した方のみに行われています。
国が定めるNIPTの検査を受けられる妊婦さんの条件は以下の通りです。
NIPTの検査対象となる妊婦さんの条件
NIPTの検査対象は、認証施設か無認可施設かで異なります。
認証施設の場合
認証施設で検査を希望する場合、以下の条件に該当した方のみに行われています。
・妊婦さんが染色体数的異常のある胎児を妊娠したことがあるとき
・母体血清マーカー検査の結果、胎児の染色体数的異常の可能性が考えられるとき
・胎児超音波検査の結果、胎児の染色体数的異常の可能性が考えられるとき
・妊婦さんかパートナーのいずれかが均衡型ロバートソン転座を有していて、胎児に13トリソミーか21トリソミーの可能性が考えられるとき
・妊婦さんが胎児の染色体数的異常に対して強い不安を抱いており、カウンセリングなどでも解消されないとき
引用元:厚生労働省 | NIPT 等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針
状況によっては羊水穿刺などの検査が向いていることもあります。
NIPTを受けるべきか否か、あるいはほかの検査を選ぶべきかは、医師が診察した上でさまざまな観点から判断します。
無認可施設の場合
日本医学会と日本産婦人科学会から認定を受けていないクリニックを無認可施設と言います。
名前からネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、検査の質は国際認証で保障されています。
無認可施設は認可施設と違って、対象となる妊婦さんの条件や制限がありません。ほとんどのクリニックで20代の妊婦さんでも受検でき、医師の紹介状も不要です。
クリニックによって違いはありますが、無認可施設では基本検査(13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー)の3つ以外の染色体を検査することも可能です。費用や調べられる範囲については確認をした上で選ぶようにしましょう。
認可施設と無認可施設の違いは?
認可施設では、検査を行う前に必ず「遺伝カウンセリング」を実施していますが、無認可施設では行っていないことが大きな違いです。
遺伝カウンセリングとは、専門家から遺伝子疾患などについて科学的根拠に基づいた医学的情報を提供してもらうことです。カウンセリングでは遺伝子疾患の悩みや疑問を相談し、自らで問題を解決できるように社会的・心理的サポートをしてもらいます。
NIPTの受検によってわかること
日本医学会と日本産婦人科学会では、NIPTで分かる先天異常として以下の3つの疾患を検査できると定めています。
● ダウン症候群(21トリソミー)
● エドワーズ症候群(18トリソミー)
● パトウ症候群(13トリソミー)
これらはいずれも染色体異常で、通常2本ある染色体が何らかの理由で3本になる疾患です。
ダウン症候群(21トリソミー)
ダウン症候群は、21番目の染色体が3本になることで引き起こされる染色体異常で、1,000人に1人の割合で発生します。
ダウン症候群の子どもの特徴は、発育や精神発達の遅れ、つりあがった目や低い鼻、しばしばみられる低身長などです。
また、ダウン症候群の子どもは病気にかかりやすい傾向にあります。心臓や内臓の疾患を合併する可能性も高く、ダウン症候群の子どもの約半数に、出生時から心臓の異常がみられます。
しかし、予後はエドワーズ症候群やパトウ症候群に比べ良好で、平均寿命は55歳です。
ダウン症候群には根本的な治療法はありませんが、合併症として起こる心臓病などは手術などで治療できます。甲状腺機能低下症がみられる場合は、甲状腺ホルモン補充療法を行います。
エドワーズ症候群(18トリソミー)
エドワーズ症候群は、18番目の染色体が3本になることで引き起こされる染色体異常です。
6,000人に1人の割合で発症し、そのほとんどが自然流産になります。男女比は1:3で、割合としては女児に起こりやすいといえます。
エドワーズ症候群の傾向として、以下が挙げられます。
・羊水が多くなる
・胎盤の矮小
・単一臍動脈
また、出生後の特徴として、やつれたような顔つき、小頭症、後頭部突出、出生時の低身長、知的障害などがあります。
エドワーズ症候群も、ダウン症候群と同様に根本的な治療法はありません。
患児の半数以上は生後1週間以内に亡くなることが多く、1年後まで生存する割合は10%未満です。
パトウ症候群(13トリソミー)
パトウ症候群は、13番目の染色体が3本になることで引き起こされる染色体異常です。米国では10,000人に1人の割合で発症しています。
パトウ症候群の胎児は、羊水の量が多すぎたり少なすぎたりすることが原因で子宮内での動きが活発ではないのが特徴です。
また、出生時の体格が小さい傾向にあり、脳の発育が悪いという特徴があります。
口唇裂・口蓋裂、目の発育不良など、顔に多くの異常がみられるのもパトウ症候群の特徴です。
パトウ症候群にも根本的な治療はありません。小児の80%は生後1ヶ月を迎える前に亡くなることが多く、1年後まで生存する割合は10%未満です。
NIPTを受検する際の注意点
NIPTで陽性が出た場合でも、偽陽性の疑いがあるため必ずその後確定検査を受けなければなりません。まずは、胎児ドックを受け、そののち確定検査である絨毛検査を行うとよいでしょう。
NIPTで陽性、胎児ドックで陰性が出たときには、16週を待って羊水検査を受けるという方法もあります。
いずれの場合でも、検査の方法や内容は医師と細かく話し合った上で決めていくことが大切です。ここではNIPTを受検するうえでの注意点を解説します。
検査内容が確定的ではない
上述したように、NIPTはあくまでスクリーニング検査で、疾患の診断には追加の確定検査が必要です。NIPTの感度は99%と非常に高いですが、この数値は標準値を基準にした確率に過ぎません。
より正確な診断のためには、絨毛検査や羊水検査のように、胎児に近い部位から検体を取る必要があります。感度が高いからといって、染色体異常を決定的なものにする検査ではない点は理解しておきましょう。
また、非常にわずかではありますが検査結果が出ないケースもあります。
不安が解決しないこともある
NIPTは採血のみで検査できるというメリットがある一方、NIPTでは赤ちゃんの姿を見ることなく行われることから、妊婦さんや家族の不安や混乱を煽ってしまうというリスクも考えられます。
また、検査結果で陽性が出た場合、現実を受け止めきれずに非常に大きな精神的なダメージを受けてしまう妊婦さんもいます。
NIPTの費用は保険適応外
NIPTの検査費用は医療機関によって異なります。
認可施設だと約20万円から25万円、無認可施設の場合、安いところでは5万円から20万円ほどで検査をしています。検査項目が多い場合、費用は20万円ほどになることもあります。
欧米の一部の国ではNIPTが保険でカバーされるため多くの妊婦さんが検査を受けているのが現状です。しかし日本国内では現在のところ、NIPTは保険適用外となっています。
検査の流れ
検査では、母体の腕や手などから血液を採取し、採取した検体一つひとつのDNA断片の情報を読み取り、それらの断片が何番目の染色体に由来するかを分類します。
分類後、それぞれのDNA断片の量的な割合を確認していきます。特定の染色体の変化を検出し、標準値と比較して陰性・陽性を判別します。
ただし、NIPTでは陽性・陰性の可能性を検出しているに過ぎず、本来は陰性なのに陽性判定が出てしまう偽陽性の可能性もあります。陽性と診断されて不安なときは、「遺伝カウンセリング」を受けて専門知識を有したカウンセラーや臨床遺伝専門医に相談することも検討しましょう。
NIPTと遺伝カウンセリングの関係について
新しい技術であるNIPTの導入により、胎児の遺伝的異常に対する出生前スクリーニングおよび検査は劇的に変化しました。
これまでに異数性異常や単一遺伝子異常、最近では、染色体異常のための拡大したキャリアスクリーニングパネルやNIPTといったスクリーニング検査が出生前医療に導入されてきています。
これらの検査にはいずれも利点と限界があり、患者の意思決定を導く責任を負う医療提供者にとって、遺伝カウンセリングはますます複雑になってきています。
なぜ遺伝カウンセリングが重要なのか
NIPT(新型出生前診断)では、なぜ遺伝カウンセリングが必要なのでしょうか。
正しく検査の意味を理解して受けないと、妊婦さんが陽性になったときに混乱してしまい、実は正常のお子さんを確認もせずに中絶してしまう可能性も考えられます。
また、「どうせ陰性だから」と軽い気持ちで受けて陽性となり、確定検査の結果中絶となった場合、順番に考えて選択していくことができないため、心的外傷後ストレス障害に陥る患者さんたちもいます。
そうしたことを防ぐために遺伝カウンセリングがNIPTの前に必要とされるのです。
NIPT(新型出生前検査)は、妊娠10週以上で、第1期と第2期のスクリーニングと診断検査の選択肢、利点、限界について十分なカウンセリングを受けている女性に推奨されます。主治医または遺伝専門医とNIPTがあなたに有益であるかどうか、またその結果をどのように解釈するかについてしっかり説明を受けましょう。
ミネルバクリニックのNIPTの考え方
臨床遺伝専門医は、決して簡単ではない遺伝子検査のトレーニングを積んだエキスパートです。
しかし遺伝子を理解して遺伝専門医をとなっている人はわずか約1500人で、そのほとんどが大病院にいます。過去、別の医療機関で受けた陽性の結果に対し「説明に応じません」と記載があったためお困りになられた方がご相談にこられたこともありました。
ミネルバでは、臨床遺伝専門医が判定不能などが起こる原因を遺伝子専門医が一例一例説明しております。臨床研究としてデーターを解析し、積み重ねた研修を皆様の診療に反映しています。日本で一番多い症例をこなしてきた専門医だからこその知見で、みなさまをサポートいたします。
まとめ
NIPTは従来のスクリーニング検査に比べて感度が高く、早い妊娠週数で検査を受けられるといったメリットの多い検査です。
しかし、自費診療で医療費控除の対象外であることや、染色体異常の診断に用いることはできない点、正しい結果が得られない可能性もあることなど、注意すべき点もあります。
NIPTの受診を検討中の方は、特徴をしっかりと理解したうえで受検しましょう。