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自閉症(ASD)の遺伝子検査|自閉症は遺伝する?父親・母親・兄弟の確率と122遺伝子でわかること

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

自閉症の遺伝子検査|122遺伝子で本人の原因と家族の再発リスクを調べる

「上の子が自閉症。下の子も同じになるのだろうか」「自分の家系に自閉症の人がいるけれど、子どもに遺伝するのだろうか」。自閉症(自閉スペクトラム症、ASD)と遺伝について、こうした不安を抱えている方は少なくありません。自閉症には遺伝的な要因が大きく関わっていますが、親から子へそのまま受け継がれる単純な病気ではなく、家族のリスクは原因によって大きく変わります。ミネルバクリニックの自閉症遺伝子検査では、自閉症との関連が報告されている122の遺伝子をまとめて調べ、ご本人の原因と家族の再発リスクを考える手がかりを探します。ただし、遺伝子検査で原因が見つかるのは一部の方で、検査で自閉症そのものを診断することはできません。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 自閉症は遺伝しますか?

遺伝的な要因は大きく関わっていますが、親から子へそのまま受け継がれる単純な病気ではありません。大規模な家系研究の遺伝率83%は、集団のなりやすさの個人差を説明する割合で、「83%の確率で子どもに遺伝する」という意味ではありません。

🧬 Q. 上の子が自閉症だと、下の子も自閉症になりますか?

国際共同研究では、下の子が自閉症と診断された割合は約20%(男の子で約25%、女の子で約13%)でした。これは集団の平均で、上の子の自閉症の原因が特定できれば、ご家族のリスクはより具体的に考えられます。

🧬 Q. 自閉症の遺伝子検査で何がわかりますか?

自閉症かどうかを診断する検査ではなく、自閉症の背景にある遺伝的な原因があるかどうかを調べる検査です。原因が見つかるのは一部の方で、陰性でも遺伝との関係が否定されるわけではありません。

🧬 Q. 出生前に自閉症はわかりますか?

自閉症そのものは出生前にはわかりません。ただし、自閉症・発達障害・知的障害の原因の一部(微小欠失・一部の単一遺伝子疾患)は当院のNIPTで調べられます。ご家族の原因となる変化が特定されていれば、羊水検査などで狙って調べられる場合もあります。

🧬 Q. 当院の検査の費用と期間は?

自閉症遺伝子検査(122遺伝子)は330,000円(税込・自費診療)、結果まで3〜5週間です。血液・唾液・頬の粘膜のぬぐい液で検査でき、知的障害の遺伝子検査(689遺伝子)とのセットは363,000円(税込)です。

1. 自閉症は遺伝する?遺伝と環境の関係

自閉症(ASD)の発症には、遺伝的な要因が大きく関わっています。ただし、ひとつの遺伝子の変化で決まる病気ではありません。わずかな影響をもつ多数の遺伝子の組み合わせ、親から受け継いだのではなくご本人で新たに生じた遺伝子の変化(新生突然変異(de novo変異))、染色体のごく小さな欠失や重複、そして胎児期の環境などの要因が重なって起こると考えられています。自閉症との関連が報告されている遺伝子とその働きは、自閉症に関わる遺伝子で解説しています。

そのため、「親が自閉症でなければ子どもは自閉症にならない」とも、「家族に自閉症の人がいれば子どもも必ず自閉症になる」とも言えません。

「遺伝率80%」は「80%の確率で遺伝する」ではありません

スウェーデンで生まれた約200万人を追跡した家系研究では、自閉症の遺伝率は0.83(83%)と推定されました。同じ研究で、家族が共有する環境(同じ家庭で育つことなど)の影響はほとんどなく、残りは一人ひとりに固有の環境要因で説明されています[1]。

💡 用語解説:遺伝率

遺伝率とは、ある集団の中で見られる「なりやすさの個人差」のうち、どのくらいを遺伝要因の違いで説明できるかを示す統計上の数値です。遺伝率83%は「自閉症の人の子どもが83%の確率で自閉症になる」という意味ではありません。個人の確率ではなく、集団全体のばらつきを説明する割合です。

双子の研究からわかること

遺伝子がほぼ同じ一卵性双生児と、きょうだいと同じ程度に遺伝子を共有する二卵性双生児を比べる研究も行われてきました。米国カリフォルニア州の双生児研究では、ASDの一致率(双子の両方がASDである割合)は一卵性の男性で77%、女性で50%、二卵性の男性で31%、女性で36%でした[2]。一卵性でも100%にならないことは、遺伝子だけですべてが決まるわけではないことを示しています。

この研究では遺伝率が約38%と、先ほどの家系研究よりかなり低く見積もられました[2]。遺伝率は研究の方法や対象で大きく変わる数字です。

親の年齢との関係

5か国の出生コホートを統合した研究では、父親・母親ともに年齢が高いほど、子どもが自閉症と診断される割合がやや高くなる関連が認められ、親どうしの年齢差が大きいことも関連していました[3]。ただし、これは集団で見た「関連」であり、親の年齢が一人ひとりの自閉症の原因だという意味ではありません。父親の年齢とともに精子の新生突然変異が増えることが、理由のひとつとして考えられています。高齢出産と自閉症については高齢出産と障害|自閉症の子供が生まれてくる確率とリスクで、父親の年齢については父親の高齢と子どもの病気で解説しています。

ワクチンは自閉症の原因ではありません

「予防接種で自閉症になるのでは」という心配を耳にすることがあります。デンマークで生まれた子ども657,461人を追跡した研究では、麻しん・おたふくかぜ・風しん(MMR)ワクチンを接種した子どもで自閉症のリスクは上がっておらず、きょうだいに自閉症がいる子どもなどリスクの高いグループでも同様でした[4]。詳しくはワクチンと自閉症スペクトラム障害(ASD)をご覧ください。

2. 家族に自閉症の人がいるときの考え方

家族に自閉症の人がいると、一般の人より自閉症の子どもが生まれる割合は高くなります。ただし、その割合は家族の誰が自閉症なのか、そして自閉症の原因が何なのかによって大きく変わります。

きょうだいに自閉症がある場合

上の子が自閉症と診断された家庭の弟や妹を、乳児期から追跡した国際共同研究(18施設・1,605人)では、下の子が自閉症と診断された割合は約20%でした[5]。

👶 上の子が自閉症の場合、下の子に自閉症がみられた割合

条件 下の子が自閉症と診断された割合
全体 約20%
下の子が男の子 約25%
下の子が女の子 約13%
自閉症のきょうだいが2人以上いる 約37%(1人の場合は約21%)

出典:Baby Siblings Research Consortium(2024年)[5]。乳児期から追跡した研究集団の平均値で、個々のご家族の確率ではありません。

この数字は、原因のわからない自閉症を多く含む集団の平均です。ご家族によっては、これよりずっと低いこともあれば、高いこともあります。きょうだいと自閉症の関係は自閉症と遺伝 – 兄弟間の発達障害の確率を理解するで、いとこや甥・姪については自閉症と遺伝の関係:いとこ(甥、姪)のリスクで解説しています。

きょうだい児の方へ|結婚と遺伝の不安

障害のある兄弟姉妹と一緒に育った「きょうだい児」の方の中には、結婚や出産を考える時期になって、「自分の子どもにも同じことが起こるのか」「結婚相手やその家族にどう伝えればよいのか」と思いをめぐらせる方もいます。兄弟姉妹に自閉症があることは、あなたのせいでも、兄弟姉妹のせいでもありません。きょうだい児の結婚と遺伝について「結婚できないのでは」と不安になる声もありますが、子どもへの遺伝確率は兄弟姉妹の自閉症の原因によって変わり、一律の数字で決まるものではありません。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択で、きょうだい児の方にとっても大きな問題だと考えています。知ったうえで選べるよう、人生のそれぞれの段階で支えていきたいと考えており、当院では、症状のないご自身の遺伝子検査と、パートナーと一緒に受ける遺伝カウンセリングを行っています(詳しくは発達障害の検査のご案内(第5章))。

父親・母親に自閉症がある場合

親自身に自閉症や自閉症的な特性がある場合も、子どもに自閉症がみられる割合は一般より高いと考えられています。ただ、「父親が自閉症なら◯%、母親なら◯%」と一律に示せる信頼できる数値は、現時点では限られています。自閉症は男性に多く(CDCの2022年の調査では男児が女児の約3.4倍)、女性は診断されにくい可能性も指摘されているため、親の性別による違いを単純に比べるのが難しいのです[6][7]。父親・母親それぞれの考え方は父親から子へ:自閉症の遺伝的リスクと自閉症と遺伝の関係性:母親から子への影響にまとめています。

原因によって家族のリスクは大きく変わる

自閉症の原因となる遺伝子の変化が見つかった場合、家族のリスクは原因のタイプによって具体的に考えられるようになります。

🧬 自閉症の原因のタイプと、家族のリスクの考え方

原因のタイプ 家族のリスクの考え方
新生突然変異(ご本人で初めて生じた変化) 両親は変化を持たないことが多く、次の子の再発率は低め。ただし親の卵子や精子の一部だけに変化がある(性腺モザイク)ことがあるため、ゼロとは言えない[8]
親から受け継いだ変化 遺伝形式(顕性・潜性・X連鎖など)に沿って、次の子やきょうだいのリスクを評価できる
原因が特定できない 集団の平均値(きょうだいで約20%など)を参考にするしかなく、個別の評価には限界がある

同じ「上の子が自閉症」というご家庭でも、原因がわかっているかどうかで、お伝えできる内容はまったく違います。家系の中で最初に調べる対象となる人を発端者と呼びますが、自閉症のあるご本人(発端者)の原因を調べることが、家族のリスクを正確に考えるための出発点になります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「約20%」は、あなたのご家族の数字ではありません】

きょうだいの再発率が約20%と聞くと、「5人に1人なら、うちもそうなるかもしれない」と感じる方が多いと思います。けれども、この数字は原因のわからない自閉症をたくさん含んだ集団の平均です。原因が新生突然変異だとわかれば、ご家族のリスクはこれよりずっと低く見積もれることがありますし、親から受け継いだ変化であれば、遺伝形式に沿った具体的な数字で考えることができます。

平均値を自分に当てはめて不安を大きくするより、まずご本人の原因を探すこと。それが、ご家族の次の一歩を考えるうえで一番確かな方法だと、私は考えています。

3. 自閉症スペクトラム症(ASD)とは|特徴と頻度

自閉症スペクトラム症(ASD)は、①対人関係やコミュニケーションの難しさと、②限られた興味やこだわり、繰り返しの行動を中心とする、幼児期早期から見られる神経発達症です。以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障害」などと分けて呼ばれていましたが、米国精神医学会の診断基準DSM-5で「自閉スペクトラム症」というひとつの診断名にまとめられました。

ASDの主な特徴

🧩 ASDでみられやすい特徴

領域 具体的な例
対人関係・コミュニケーション 視線が合いにくい、表情や身振りの理解が難しい、会話が一方通行になりやすい、言葉の発達の遅れ
こだわり・繰り返しの行動 決まった手順や予定の変更を強く嫌う、体を揺らす・手をひらひらさせる、特定の物事への強い興味
感覚の特性 大きな音や光、特定の肌ざわりが苦手、または痛みなどに鈍感

現れ方や程度には大きな個人差があり、知的障害を伴う方も、平均以上の知能をもつ方もいます。

多くは2〜4歳ごろに診断されますが、特性が軽い場合は成人してから診断されることもあります。子どもの自閉症の全体像は子どもの自閉症とはで、子どもの特徴と接し方については自閉症スペクトラム(ASD)の特徴と原因・接し方で、大人の自閉症については大人の自閉症とは?で詳しく紹介しています。

どれくらいの人に見られるか

米国疾病予防管理センター(CDC)の2022年のデータでは、8歳児のおよそ31人に1人(1,000人あたり32.2人)がASDと判定されました。男児は女児の約3.4倍でした[6]。複数の研究をまとめた解析でも、男女比はおよそ3対1とされています[7]。

この割合は調査のたびに上がってきましたが、診断基準の広がりや受診する人の増加が大きく影響していると考えられています。なお、米国の調査結果で、日本の有病率をそのまま示すものではありません。

4. 自閉症の遺伝子検査でわかること・わからないこと

自閉症の遺伝子検査は、自閉症の背景にある遺伝的な原因を探す検査です。原因が見つかれば、ご本人の健康管理や、きょうだい・次のお子さんのリスク評価に役立ちます。一方で、原因が見つかるのは一部の方で、「陰性=遺伝とは無関係」ではありません。

遺伝子検査は「自閉症かどうか」を診断する検査ではありません

自閉症の診断は、医師が発達の経過や行動の特徴を評価して行います。遺伝子検査の結果だけで「自閉症です」「自閉症ではありません」と判断することはできません。遺伝子検査が答えるのは、「すでにある自閉症や発達の特性の背景に、特定できる遺伝的な原因があるかどうか」という問いです。

原因が見つかる割合

ASDの子どもを対象にした研究では、染色体マイクロアレイ検査で原因が見つかった割合は9.3%、エクソーム解析(タンパク質をつくる遺伝子領域をまとめて読む検査)では8.4%、両方を合わせると15.8%でした[9]。同じ研究で、体の特徴や先天的な異常を伴う「複雑型」のASDでは37.5%、そうした特徴を伴わないASDでは6.3%と、大きな差がありました[9]。知的障害を含む神経発達症全体では、エクソーム解析で原因が見つかった割合は約36%と報告されています[10]。

米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は2021年のガイドラインで、発達遅滞や知的障害のある子どもにエクソーム解析・全ゲノム解析を第一段階または第二段階の検査として考慮するよう推奨し[11]、米国小児科学会(AAP)の2025年の臨床報告でも、エクソーム・ゲノム解析と染色体マイクロアレイが第一段階の検査とされています[12]。

当院の自閉症遺伝子検査は、自閉症との関連が報告されている122遺伝子に絞ったパネル検査です。エクソーム全体を読む検査より調べる範囲が狭いため、原因が見つかる割合は上記の数字より低くなると考えられます。知的障害や発達の遅れを伴う場合は、より広い範囲を調べる検査を組み合わせることもあります。

病的変異が見つかったら、何ができるのか

原因となる病的な変化(病的バリアント)が見つかると、ご本人の医療とご家族の将来の選択の両方で、できることが具体的になります。主な対処を次の表にまとめました。

🩺 病的変異が見つかったときにできること

できること 具体的な内容
合併症に備えた定期検査 遺伝子ごとに起こりやすい合併症がわかり、計画的に検査できます。たとえばPTEN遺伝子の病的な変化ではがんのリスクが高くなるため、定期的ながん検診の計画につながります。実際の例は腫瘍のリスクに関わる遺伝子が見つかった事例で紹介しています。TSC1・TSC2遺伝子(結節性硬化症)では、脳・腎臓・心臓・目・皮膚などを定期的に調べることが国際的な指針で勧められています[13]。
治療の選び方 てんかんを伴う一部の遺伝子では、変化のタイプによって効きやすい薬が違います。たとえばSCN2A遺伝子では、生後3か月未満に発作が始まった人ではナトリウムチャネル遮断薬が効きやすい一方、それ以降に始まった人では効きにくく、悪化することもあると報告されています[14]。
療育・支援の手がかり 原因がわからないまま検査を繰り返す状況に区切りがつきます。同じ遺伝子の変化をもつ人の経過や患者会の情報にたどり着けたり、研究や治験の情報が得られたりすることもあります。
ご両親の検査 見つかった変化をご両親が持っているかを調べ、新生突然変異か、親から受け継いだ変化かを確かめます。これで次のお子さんの再発リスクを具体的にお伝えできるようになります。
次の妊娠での検査 次の妊娠で同じ変化があるかどうかを、羊水検査などで狙って調べられます(第6章)。当院では確定検査まで院内で受けられます。
血縁者の検査 遺伝形式によっては、症状のないきょうだいや血縁者が同じ変化を持っているか(保因者かどうか)を調べられます。

ただし、病的変異が見つかっても、自閉症そのものを治す治療があるわけではありません。発達の特性に合わせた療育や支援が引き続き中心になり、遺伝子の結果はその方針を考えるための情報のひとつです。遺伝子検査で原因がわかり、その後のケアが変わった例は遺伝子検査で原因がわかりケアが変わった事例で紹介しています。

この検査で見つけにくい変化

この検査は次世代シーケンサー(NGS)で遺伝子のタンパク質をつくる領域とその境界部分を読むもので、1塩基の置き換わりや小さな欠失・挿入に加え、2つ以上の連続したエクソンにまたがる欠失・重複などを調べます。一方で、染色体の転座や逆位、大きな染色体の欠失・重複、プロモーターなどの調節領域や深いイントロンの変化、繰り返し配列の伸長、体細胞モザイクは評価の対象外です。

とくに、脆弱X症候群の原因となるFMR1遺伝子のCGG繰り返し配列の伸長は、通常の配列解析では評価が難しく、専用の方法が用いられます[15]。FMR1は122遺伝子に含まれていますが、繰り返し配列の伸長はこの検査では評価していません。脆弱X症候群を調べたい場合は、FMR1遺伝子リピート伸長検査、またはFMR1リピートの伸長や染色体のコピー数の変化をまとめて調べる発達障害・自閉症・知的障害染色体シーケンス解析(CSA)をご検討ください。なお、染色体シーケンス解析は、検査会社が現在新規の受注を停止しており、以前から契約のある医療機関からのみ依頼できる検査です。

「陰性」の意味とVUS

検査で原因となる変化が見つからなかった(陰性だった)場合に言えるのは、「調べた122遺伝子と、この検査法で見つけられる種類の変化の範囲では、原因となる変化は見つからなかった」ということです。自閉症と遺伝の関係が否定されるわけではありません。まだ見つかっていない遺伝子や、多数の遺伝子の小さな影響の積み重ねが関わっている可能性があるためです。

また、病気との関係がまだはっきりしない変化(VUS:臨床的意義不明のバリアント)が見つかることもあります。VUSは、研究が進んで病的と判断されたり、問題のない変化と判断されたりすることがあるため、結果は遺伝カウンセリングで臨床遺伝専門医がご説明します。

5. 検査対象の122遺伝子と主な疾患

自閉症遺伝子パネルに含まれる遺伝子の多くは、神経細胞の生まれ方や移動、シナプス(神経細胞どうしのつなぎ目)の形成、ほかの遺伝子のはたらきの調節など、脳の発達に重要な役割をもっています。たとえばCHD8遺伝子は遺伝子のスイッチを調節するタンパク質を、SHANK3遺伝子はシナプスの足場となるタンパク質をつくります。ADNP遺伝子の変化によるADNP症候群のように、自閉症と知的障害に加えて体のさまざまな特徴を伴う疾患もあります。

122遺伝子の一覧

🧬 自閉症遺伝子検査の対象遺伝子(122遺伝子)

ADNP, ALDH5A1, ANK3, ANKRD11, AP1S2, ARHGEF6, ARX, ATP10A, ATRX, AUTS2, AVPR1A, BCL11A, BDNF, BRAF, BRSK2, CACNA1C, CASK, CDKL5, CHD7, CHD8, CIC, CNTNAP2, CNTNAP5, CREBBP, CSNK2A1, DHCR7, DLGAP2, DMD, DOCK4, DPP10, DPP6, DPYD, EHMT1, FAAH2, FGD1, FMR1, FOLR1, FOXG1, FOXP1, FOXP2, GABRB3, GRIN2B, GRPR, GSPT2, HOXA1, HPRT1, HUWE1, IL1RAPL1, IMMP2L, KATNAL2, KCTD13, KDM5C, KIRREL3, KMT5B, L1CAM, LAMC3, MBD5, MECP2, MED12, MEF2C, MET, MID1, MOCS1, NEGR1, NF1, NHS, NIPBL, NLGN3, NLGN4X, NRXN1, NSD1, NSDHL, NTNG1, OCRL, OPHN1, PAFAH1B1, PCDH19, PCDH9, PDE10A, PDE4D, PHF6, PIP5K1B, PNKP, PON3, PQBP1, PTCHD1, PTEN, PTPN11, RAB39B, RAI1, RBFOX1, RELN, RORA, RPL10, RPS6KA3, SATB2, SCN1A, SCN2A, SHANK2, SHANK3, SLC16A2, SLC6A4, SLC9A6, SLC9A9, SMC1A, SMG6, SNRPN, SOX5, SPAST, ST7, STK3, SYNGAP1, TBR1, TCF4, TSC1, TSC2, UBE3A, VPS13B, ZEB2, ZNF507, ZNF804A, ZNHIT6

主な対象疾患:自閉症、結節性硬化症、ヌーナン症候群、レット症候群、コルネリア・デ・ランゲ症候群、CHARGE症候群、コーエン症候群、フェラン・マクダーミド症候群、スミス・レムリ・オピッツ症候群、ソトス症候群、PTEN過誤腫症候群など。MECP2遺伝子のエクソン1だけの欠失・重複は、現在の技術では検出に適していません。

知的障害の遺伝子検査(689遺伝子)との関係

122遺伝子のうち、GRPR・MET・PDE10Aの3遺伝子を除く119遺伝子は、発達障害・学習障害・知的障害遺伝子検査(689遺伝子)の対象にも含まれています。自閉症と知的障害の両方が気になる場合は、689遺伝子にこの3遺伝子を加えて一度に調べるセット(363,000円・税込)もご用意しています。どちらか一方の検査(330,000円)に33,000円を足すだけで、自閉症と知的障害の両方の遺伝子をまとめて調べられます。

6. 出生前に自閉症はわかる?

出生前診断で「自閉症そのもの」を診断することはできません。自閉症は行動の特徴にもとづいて診断されるもので、生まれる前に評価する方法はないからです。ただし、自閉症を伴うことがある一部の染色体異常や遺伝子の病気は、検査の種類によって出生前に調べられる範囲があります。

🤰 出生前の検査で調べられること・調べられないこと

状況・検査 わかること
原因のわからない自閉症 出生前に調べる方法はない
NIPT(母体血の検査) 自閉症そのものはわからない。ただし、自閉症・発達障害・知的障害の原因の一部(微小欠失・一部の単一遺伝子疾患)は、当院のNIPTで調べられる(東京のNIPT(新型出生前診断))
羊水検査・絨毛検査でのマイクロアレイ 22q11.2欠失症候群など、自閉症を伴うことがある染色体の微細な欠失・重複を調べられる場合がある
家族の原因となる変化が特定済み 同じ変化があるかどうかを、羊水検査などで狙って調べられる場合がある

上の子やご家族の自閉症の原因となる遺伝子の変化が特定されていれば、次の妊娠で同じ変化があるかどうかを狙って調べる道が開けます。逆に、原因がわかっていなければ、出生前に的を絞って調べることはできません。次の妊娠を考えているなら、妊娠する前に、自閉症のあるご本人の原因を調べておくことをお勧めするのはこのためです。

NIPTと自閉症の関係はNIPTで自閉症はわかる?検査の範囲と限界で、出生前診断全体については出生前診断でわかること・わからないことで解説しています。

7. 検査の対象・流れ・検体・費用

検査の対象となる方

自閉症と診断された方、自閉症や発達障害が疑われる方の原因を調べたい場合に加え、ご家族に自閉症の方がいて、ご自身やお子さんへの影響を知りたい方も対象になります。年齢の制限はなく、小さなお子さんでも頬の粘膜をこするだけで検体を採取できます。

ご家族の再発リスクをできるだけ正確に考えるには、まず自閉症のあるご本人(発端者)を調べ、原因となる変化が見つかった場合に、ご両親が同じ変化を持っているかを確認するのが基本の順番です。ご本人が検査を受けられない事情がある場合は、きょうだいやご両親が検査を受けて、関連する遺伝子に病的な変化がないかを調べる方法もありますが、その場合に言えることは限られます。

検査の流れ

ご予約来院またはオンライン
▶
遺伝カウンセリング検査の範囲と限界を説明
▶
検体の採取・解析結果まで3〜5週間
▶
結果のご説明臨床遺伝専門医が解説

唾液や頬の粘膜を使う場合は、遠方の方でもご来院いただかずに検査を受けられます。ビデオ通話によるオンライン診療で遺伝カウンセリングを行ったあと、当院からお送りする検査キットで検体を採取し、返送していただく流れです。

検体と結果が出るまでの期間

📋 自閉症遺伝子検査の概要

対象遺伝子 122遺伝子
解析内容 塩基配列の解析と、欠失・挿入の解析(いずれも料金に含まれます)
検体 血液、唾液、頬の粘膜のぬぐい液のいずれか
結果が出るまで 3〜5週間(至急オプションで3〜5営業日短縮)
カバレッジ 96%(20回以上読まれた領域の割合)

検査費用

💴 検査費用(すべて税込・自費診療)

項目 費用
自閉症遺伝子検査(122遺伝子) 330,000円
お二人同時に受ける場合の2人目 308,000円
知的障害の遺伝子検査(689遺伝子)とのセット 363,000円(単体の330,000円+33,000円)
至急オプション +55,000円
遺伝カウンセリング料(30分) 22,000円(お一人ごと)

遺伝カウンセリング料は診察料のため、検査を受けない場合もお支払いいただきます。カップルで同じ検査を一緒に受ける場合は、お一人分の遺伝カウンセリング料(22,000円)がかかりません。NIPTと同時に受ける場合は別途お値引きいたします。

保険は使えますか

自閉症遺伝子検査は保険適用外で、自費診療になります。なお、染色体マイクロアレイ検査は2021年に保険収載され、条件を満たす小児の発達遅滞や先天異常などでは保険で受けられる場合があります[16]。保険で受けられる遺伝子検査については保険診療の遺伝子検査を、マイクロアレイ検査についてはマイクロアレイ染色体検査(CMA)をご覧ください。

8. 検査を受ける前に知っておいていただきたいこと

ご本人の様子や家族構成から、遺伝の状態を推し量ることはできません。

⚠️ 見かけだけでは、遺伝の状態はわかりません

ご家族に発達障害のある方が何人かいる一方で、ご本人は大学を卒業して企業に就職し、日常生活にもまったく問題のない方がいました。念のため検査を受けたところ、染色体の一部にごく小さな欠失(微細欠失)が見つかりました。同じ遺伝子の変化でも、症状の出方には人によって大きな差があり、症状がない、あるいはごく軽いために気づかれないこともあります。「本人が元気だから大丈夫」「優秀だから関係ない」とは言えないのです。

このように、遺伝の状態は検査をしなければわかりません。第2章でご紹介した約20%のような数字も集団の平均で、家族歴を伺うだけでは、ご本人やお子さんのリスクを数字でお伝えすることはできません。そのため当院では、検査の結果に基づいてリスクをご説明しています。検査を受けずにリスクの説明だけをご希望の場合は、十分なお答えができないことをご理解いただいたうえで、遺伝子検査を検討されている方にご来院いただくようお願いしています。

当院が自閉症の遺伝子検査を扱う理由

ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医のいるクリニックとしてNIPTを提供してきました。その中で、「上の子が自閉症で、もし下の子も何らかの障害があると育てられない」「自閉症のリスクそのものを検査してほしい」という声を数多くいただきました。

遺伝の相談ができる窓口は大学病院に多く、気軽に相談しにくいのが現状です。そうしたご家族が、少しでも安心して妊娠・出産に向き合えるようにという思いから、自閉症の遺伝子パネル検査を取り扱っています。

当院で検査を受けた方の事例

実際に検査を受けた方の事例を紹介しています。高齢出産の不安から検査を受けた方は自閉症遺伝子検査事例|高齢出産で不安でたまらない、仕事がうまくいかず発達障害を疑われた方は大人になって仕事がうまくいかず遺伝子検査を受けた事例、検査で健康管理が必要な変化がわかった方はマネージメントが必要と判明、潜性(劣性)遺伝病の保因者とわかった方は常染色体劣性遺伝病のキャリアと判明をご覧ください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【わからないまま悩み続けないために】

自閉症と遺伝について調べると、たくさんの数字が出てきます。遺伝率83%、きょうだいで20%。どれも正しい研究の数字ですが、どれも「あなたのご家族の数字」ではありません。数字だけを見て不安をふくらませたり、逆に「うちは大丈夫」と思い込んだりすることのほうが、私は心配です。

遺伝子検査は万能ではなく、原因が見つからないこともあります。それでも、調べられることを調べたうえで考えるのと、わからないまま悩み続けるのとでは、その後の選び方がまったく違ってくると考えています。正確な情報にもとづいて、ご家族にとっての次の一歩を選んでいただきたいと思います。

よくある質問(FAQ)

Q1. 自閉症は遺伝しますか?

遺伝的な要因は大きく関わっています。大規模な家系研究では、自閉症のなりやすさの個人差の約8割が遺伝要因で説明されると推定されました。ただし親から子へそのまま受け継がれる単純な病気ではなく、多数の遺伝子の小さな影響や新生突然変異、環境要因が重なって起こると考えられています。

Q2. 上の子が自閉症です。下の子も自閉症になる確率は?

国際共同研究では、下の子が自閉症と診断された割合は約20%で、男の子で約25%、女の子で約13%でした。ただしこれは集団の平均で、上の子の自閉症の原因が特定できれば、個別のリスクはより具体的に考えられます。

Q3. 遺伝子検査で自閉症は診断できますか?

いいえ。自閉症の診断は、発達の経過や行動の特徴にもとづいて医師が行います。遺伝子検査は、自閉症の背景にある遺伝的な原因があるかどうかを調べる検査です。

Q4. 出生前診断で自閉症はわかりますか?

出生前診断で自閉症そのものを診断することはできません。ただし、自閉症を伴うことがある一部の染色体異常や遺伝子の病気は、検査の種類によって出生前に調べられる範囲があります。ご家族の原因となる変化が特定されていれば、次の妊娠で同じ変化があるかを調べられる場合があります。

Q5. 検査で異常が見つからなければ、遺伝の心配はありませんか?

陰性の結果で言えるのは、調べた122遺伝子とこの検査法で見つけられる変化の範囲では、原因となる変化が見つからなかったということです。まだ見つかっていない遺伝子や、多数の遺伝子の小さな影響が関わっている可能性は残るため、遺伝との関係が否定されるわけではありません。

Q6. 家族歴を話すだけでリスクを教えてもらえますか?

家族歴を伺うだけでは、ご本人やお子さんのリスクを数字でお伝えすることはできません。当院では検査の結果に基づいてリスクをご説明しています。検査を受けずにリスクの説明だけをご希望の場合は、十分なお答えができないことをご理解ください。

Q7. 発達障害の遺伝子検査は保険適用ですか?

自閉症遺伝子検査は保険適用外で、自費診療(330,000円・税込)です。染色体マイクロアレイ検査は、条件を満たす小児の発達遅滞や先天異常などで保険で受けられる場合があります。

Q8. 検査費用と結果が出るまでの期間を教えてください。

自閉症遺伝子検査は330,000円(税込)で、結果が出るまで3〜5週間です(至急オプション+55,000円)。知的障害の遺伝子検査(689遺伝子)とのセットは363,000円(税込)で、単体の330,000円に33,000円を足すだけで両方の遺伝子をまとめて調べられます。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)が別途かかりますが、カップルで同じ検査を一緒に受ける場合は、お一人分の遺伝カウンセリング料(22,000円)がかかりません。

Q9. 遠方ですが検査を受けられますか?

はい。唾液や頬の粘膜のぬぐい液で検査できるため、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けたあと、当院からお送りする検査キットで検体を採取して返送していただければ、ご来院いただかずに検査を受けられます。

🏥 自閉症の遺伝子検査をご検討の方へ

自閉症と遺伝、ご家族の再発リスク、出生前に調べられる範囲については、臨床遺伝専門医が常駐するミネルバクリニックへご相談ください。検査でわかること・わからないことを事前にご説明し、結果に基づいて次の一歩を一緒に考えます。オンライン診療にも対応しています。

参考文献

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  • [16] 日本小児遺伝学会. マイクロアレイ染色体検査について. [日本小児遺伝学会]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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