InstagramInstagram

18トリソミー(エドワーズ症候群)の原因は母親?染色体不分離のメカニズムと検査方法を解説

この記事のポイント
  • 18トリソミー(エドワーズ症候群)の原因と母親の年齢との関連性について
  • 染色体不分離のメカニズムと母親由来の染色体異常について詳しく解説
  • 18トリソミーの3つのタイプと症状の違いについて
  • 出生前検査の種類と精度、NIPT検査の重要性
  • 18トリソミーと診断された場合の対応と家族のためのサポート情報

妊娠中に染色体異常について調べると、「18トリソミー(エドワーズ症候群)」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。特に、出生前診断を検討される方にとって気になる情報のひとつでしょう。この記事では、18トリソミーの原因は本当に母親にあるのか、そのメカニズムや検査方法について詳しく解説します。

出生前診断でポジティブな結果が出た場合や、すでに18トリソミーと診断された赤ちゃんを妊娠されている方に向けて、科学的かつ医学的な情報をお伝えし、心の準備や今後の選択に役立てていただければと思います。

18トリソミー(エドワーズ症候群)とは

18トリソミー(エドワーズ症候群)は、18番目の染色体が通常の2本ではなく3本存在することによって発症する先天的な染色体異常疾患です。1960年にイギリスの医師ジョン・H・エドワーズによって初めて報告されたことから「エドワーズ症候群」とも呼ばれています。

18トリソミーの基本データ

発症頻度

3,500~8,500人に1人

男女比

男:女 = 1:3(女児に多い)

リスク因子

母体の高齢(特に35歳以上で上昇)

予後

生後1週間以内に約50%が死亡、1歳まで生存する割合は5~13%

染色体異常と遺伝子

私たちの体の細胞には、通常23対(合計46本)の染色体があります。この染色体は父親から23本、母親から23本を受け継いでおり、それぞれがペアになっています。染色体には遺伝子(DNA)が含まれており、これが体の設計図として機能しています。

18トリソミーでは、18番目の染色体が2本ではなく3本になっています。この余分な染色体によって、体の発達に異常が生じ、多くの医学的問題を引き起こします。

染色体について理解を深める

正常な細胞(46本の染色体)

父親から23本 + 母親から23本 = 46本

父親から23本

母親から23本

染色体不分離が発生

卵子または精子の形成過程で18番染色体が正しく分離されない

2本のまま

本来は1本ずつに分かれるはず

18トリソミー(47本の染色体)

18番染色体が1本余分(2本ではなく3本)

18番染色体(父から)

18番染色体(母から)

余分な18番染色体

18トリソミーは、減数分裂時の染色体不分離により、18番染色体が3本になることで発症します

18トリソミーは、減数分裂時の染色体不分離により、18番染色体が3本になることで発症します。
この現象は偶発的に起こるもので、母親の年齢が上がるにつれてリスクが高くなりますが、
これは母親の「責任」ではなく、生物学的メカニズムによるものです。

母親の年齢と染色体異常発生率の関係

日本人妊婦を対象とした研究データによると、母親の年齢と染色体異常(21トリソミーおよび18トリソミー)の発生率には明確な関連があります。特に35歳以降から発生率が急激に上昇し、40歳を超えると顕著な増加が見られます。データによると、45歳では21トリソミーの発生率は約2.6%(1/38)、18トリソミーは約0.35%(1/289)に達します。

母体年齢とT18T21の発生確率

重要なメッセージ

18トリソミーと診断された場合、多くの母親は「自分の年齢」が原因ではないかと自分を責めてしまうことがあります。確かに統計的には母親の年齢とリスクの間には関連がありますが、これは母親に「責任」があるということではなく、生物学的なメカニズムによるものです。

また、年齢が若くても18トリソミーが発生することがあります。これは染色体不分離が偶発的に起こりうる現象であることを示しています。本人の努力や生活習慣で予防できるものではないため、自分を責める必要はまったくありません。

18トリソミーの原因は母親にあるのか?

18トリソミー(エドワーズ症候群)の発症原因を理解するには、染色体がどのように次世代に受け継がれるかを知る必要があります。実際のところ、18トリソミーの余分な染色体は統計的にはほぼ全例で母親由来であることが研究で示されています。しかし、これは母親に「責任がある」ということではなく、生物学的なメカニズムによるものです。

染色体不分離のメカニズム

18トリソミーが発生する主な原因は「染色体不分離」と呼ばれる現象です。通常、卵子や精子が形成される際には、細胞内の染色体数が46本から23本に減少する「減数分裂」が行われます。しかし、この過程で染色体が正しく分離されないことがあります。

種類 発生頻度 メカニズム
標準型 約80% 減数分裂時に18番染色体が正しく分離せず、2本そろったまま卵子または精子に入る
転座型 約10% 18番染色体の一部が他の染色体に結合している場合(親からの遺伝の可能性あり)
モザイク型 約10% 受精後の細胞分裂過程で染色体不分離が起き、正常細胞と18トリソミー細胞が混在

染色体不分離が起こる確率は母親の年齢と強い相関関係があります。特に35歳以上の妊娠では、18トリソミーを含む染色体異常のリスクが上昇します。これは、長期間体内に存在する卵子の品質が年齢とともに低下することが関係していると考えられています。

重要ポイント

18トリソミーの原因となる染色体異常は、統計的には95%以上が母親由来と言われていますが、これは決して母親の「過失」や「責任」ではありません。染色体不分離は自然に発生する生物学的現象であり、以下の要因と関連しています:

  • 女性の年齢に伴う卵子の老化(特に35歳以上でリスク上昇)
  • 女性の卵子は胎児期に形成され、長期間体内で休止状態にあるため環境要因の影響を受けやすい
  • 減数分裂のエラーが起こる確率が年齢とともに上昇
  • 偶発的な確率論的事象であり、誰にでも起こりうる

18トリソミーの3つのタイプと特徴

18トリソミーには、症状の重症度や細胞内での染色体異常の広がり方によって3つのタイプがあります。それぞれのタイプによって症状の現れ方や予後に違いがあります。

標準型

全体の約80%

すべての細胞で18番染色体が3本ある状態です。最も一般的なタイプで、症状も最も重度になることが多いです。

全細胞に 染色体異常

モザイク型

全体の約10%

正常な細胞と18トリソミーの細胞が混在している状態です。症状は標準型よりも軽度になることが多く、生存率も高い傾向があります。

異常・正常 細胞が混在

部分型(転座型)

全体の約10%

18番染色体の一部のみが余分に存在する状態です。18番染色体の一部が他の染色体に転座している場合もあります。症状は影響を受ける遺伝子によって異なります。

部分的な異常

18トリソミーの特徴的な症状

18トリソミーの赤ちゃんは、さまざまな身体的特徴や健康上の問題を抱えることが多いです。主な特徴としては以下のようなものが挙げられます。

症状分類 特徴
出生前の特徴
  • 胎動が少ない
  • 羊水過多(胎児が羊水を十分に飲み込めないため)
  • 子宮内発育不全
身体的特徴
  • 低出生体重
  • 特徴的な顔(小さな顎、低位置にある耳)
  • 手の特徴(握った状態で人差し指が中指の上に重なる)
  • 足底の特徴(揺り椅子状足底)
  • 小頭症
内臓の合併症
  • 心臓奇形(約90%)
  • 消化器系の異常(食道閉鎖、腸閉鎖など)
  • 腎臓の異常
  • 横隔膜弛緩症
神経学的特徴
  • 筋緊張低下
  • 発達の遅れ
  • 弱々しい泣き声
  • 感覚障害

18トリソミーのお子さんの症状の重症度はタイプによって異なります。特にモザイク型の場合は、症状が軽度で長期生存が可能なケースもあります。医学の進歩により、合併症の治療や管理が改善され、生存期間が延びている傾向も見られます。

18トリソミーの検査方法

18トリソミーは出生前検査や出生後の検査によって診断されます。特に現在では、非侵襲的な出生前検査が広く利用されるようになっています。

出生前検査

検査名 時期 リスク 特徴
超音波検査 妊娠中期 なし 胎児の特徴的な形態(成長遅延、四肢の異常、心臓の奇形など)を検出。確定診断ではない。
NIPT
(新型出生前診断)
妊娠10週以降 なし 母体血液中の胎児DNA断片を分析。18トリソミーの検出感度は99.9%、特異度99.6%と高精度。スクリーニング検査であり確定診断ではない。
羊水検査 妊娠15~18週 流産リスク
(約0.3%)
羊水中の胎児細胞を培養して染色体分析。確定診断が可能。結果は通常2週間程度で判明。
絨毛検査 妊娠10~13週 流産リスク
(約0.5~1%)
胎盤の一部である絨毛を採取して染色体分析。羊水検査より早期に結果が得られる。
NIPT検査について

NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液から胎児の染色体異常を高精度で検出できる画期的な検査です。採血のみで行えるため、流産リスクがなく安全性が高いことが特徴です。

NIPTのメリット

  • 非侵襲的(採血のみ)で流産リスクがない
  • 精度が非常に高い(検出率99.9%)
  • 妊娠10週から検査可能(早期に結果が分かる)
  • 複数の染色体異常(13、18、21トリソミー)を同時に検査

注意点

  • あくまでスクリーニング検査(確定診断ではない)
  • 陽性の場合は確定診断(羊水検査など)が必要
  • すべての染色体異常を検出できるわけではない
  • 検査前後の遺伝カウンセリングが重要

出生後の診断

出生後の診断は、以下のような方法で行われます。

  1. 身体的特徴の観察:特徴的な顔貌、手足の形態などから18トリソミーを疑います。
  2. 染色体検査(確定診断):血液検査によって染色体分析を行い、18番染色体が3本あることを確認します。
  3. 合併症の検査:心臓超音波検査、腹部・頭部超音波検査、X線検査などを行い、内臓奇形や合併症の有無を確認します。

18トリソミーと診断されたら

18トリソミーと診断された場合、多くの親御さんは衝撃を受け、どう対応すべきか悩まれることでしょう。ここでは、診断後の対応や利用できるサポートについて説明します。

医療的サポート

18トリソミーにはまだ根本的な治療法はありませんが、合併症に対する治療や症状管理を行うことで、お子さんの生活の質を向上させることができます。

心臓疾患の管理

約90%の患児に心臓奇形が見られます。症状に応じて、薬物療法や心臓手術が検討されることがあります。

呼吸管理

呼吸困難がある場合、酸素投与や人工呼吸器によるサポートが必要になることがあります。

消化器系の治療

食道閉鎖などの消化器系異常には、外科的処置が必要になることがあります。栄養摂取の問題には経管栄養が用いられることも。

発達サポート

理学療法や言語療法などのリハビリテーションにより、運動機能や認知機能の発達をサポートします。

医療的判断について

18トリソミーの予後は厳しいことが多いため、どこまでの医療介入を行うかは、医療チームと家族間で十分に話し合われることが重要です。お子さんの苦痛を最小限にし、生活の質を重視した判断が求められます。

注目すべき医療の進歩

近年の研究では、適切な医療ケアによって18トリソミーのお子さんの生存期間が延びつつあることが報告されています。NICUの技術向上や、心臓外科手術の進歩により、以前よりも長期生存する例が増えています。

精神的・社会的サポート

18トリソミーの診断を受け止めることは、ご家族にとって大きな精神的負担となります。医療的ケアに加えて、心理的・社会的サポートを受けることも重要です。

利用できるサポート

  • 遺伝カウンセリング:専門家による医学的な情報提供や心理的サポートを受けられます。
  • 当事者団体・家族会:同じ経験をした家族とつながり、情報共有や精神的サポートを得られます。
  • 心理カウンセリング:心理士による専門的なカウンセリングを受けることで、感情的なストレスに対処できます。
  • ソーシャルワーカー:医療的ケアのコーディネートや社会的サポート、福祉制度の活用などをサポートします。
  • ホスピスケア・緩和ケア:お子さんの苦痛緩和と家族のサポートを行います。
ご家族へのメッセージ

18トリソミーの診断を受けると、多くのご家族は悲しみや不安、時には罪悪感を感じることがあります。しかし、この状況は決してあなたのせいではありません。

北米で行われた18トリソミーのお子さんを持つ親を対象とした調査では、多くの親が「子どもを幸せな存在と考え(99%)、その子どもの存在により親自身の人生が豊かになり(98%)、家族関係にもよい影響を与えた」と回答しています。

どのような選択をするにしても、あなたはひとりではありません。医療専門家や同じ経験をした家族からのサポートを受けながら、あなたとあなたの家族にとって最善の決断をしていきましょう。

社会的・経済的支援

18トリソミーのお子さんを育てるには、医療的ケアや特別な支援が必要となり、経済的負担も大きくなります。日本では、以下のような支援制度を利用することができます。

支援制度 内容
小児慢性特定疾病医療費助成制度 18トリソミーは小児慢性特定疾病の対象疾患です。医療費の自己負担が軽減されます。
障害児福祉手当 重度の障害がある20歳未満の児童に支給される手当です。
特別児童扶養手当 障害のある児童を養育する親に支給される手当です。
自立支援医療(育成医療) 身体障害の軽減を目的とした医療費の助成制度です。
障害児通所支援 児童発達支援や放課後等デイサービスなどの障害児向けサービスを利用できます。
医療的ケア児支援 人工呼吸器などの医療的ケアが必要な児童のための支援制度です。

これらの制度の詳細や申請方法については、病院のソーシャルワーカーや自治体の福祉課、保健センターなどに相談することをお勧めします。サポート体制を整えることで、経済的・心理的負担を軽減することができます。

よくある質問(FAQ)

18トリソミーは遺伝しますか?次の妊娠でも再発する可能性はありますか?

18トリソミーの最も一般的な形態(標準型)は、減数分裂時の染色体不分離という偶発的な事象によって起こるため、遺伝性はなく、次の妊娠で再発する確率は非常に低いです(約1%程度)。ただし、稀なケースとして「転座型」の場合は、親が均衡型転座の保因者である可能性があり、その場合は再発リスクが高くなることがあります。不安がある場合は、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

18トリソミーと診断された場合、妊娠を継続するか中断するかの判断はどうすればよいですか?

これは非常に個人的で難しい決断です。医学的な情報に加えて、ご自身の価値観、家族の状況、信条などが判断に影響します。遺伝カウンセリングを受け、医師から詳しい情報を得て、パートナーやご家族とよく話し合うことが大切です。18トリソミーの予後は厳しいことが多いですが、その中でも生存期間や症状の重さには個人差があります。どのような選択をするにしても、それはご家族にとっての最善の決断であり、誰かに評価されるべきものではありません。精神的なサポートも含め、判断のための包括的なサポートを医療チームに求めることが重要です。

NIPT検査の偽陽性・偽陰性の可能性はどのくらいありますか?

NIPT検査の18トリソミーに対する精度は非常に高く、感度は99.9%、特異度は99.6%と報告されています。しかし、完全に100%ではないため、偽陽性(実際には染色体異常がないのに検査で陽性と出る)や偽陰性(実際には染色体異常があるのに検査で陰性と出る)の可能性は存在します。35歳の妊婦さんがNIPTで18トリソミーの陽性結果を受けた場合、本当に陽性である確率(陽性的中率)は約40-80%とされています。そのため、NIPT検査で陽性結果が出た場合は、必ず羊水検査などの確定検査を受けることが推奨されています。

18トリソミーのお子さんが長く生きられる可能性はありますか?

18トリソミーは一般的に予後が厳しい疾患とされ、約50%の赤ちゃんが生後1週間以内に、80-90%が生後1年以内に亡くなるとされています。しかし、適切な医療ケアを受けた場合、1歳以上生存するケースも増えてきており、稀に10歳以上生きる例も報告されています。特にモザイク型の場合は、より長期の生存が可能なことがあります。アメリカではミーガン・ヘイズさんという18トリソミーの女性が40歳を超えて生きていることも報告されています。生存期間は心臓疾患などの合併症の有無や重症度、医療的ケアの程度によって大きく異なります。

まとめ

18トリソミー(エドワーズ症候群)は18番染色体が3本存在する先天的な染色体異常疾患です。その主な原因は、減数分裂時の染色体不分離という偶発的な現象であり、母親の年齢が上がるにつれてリスクが高まります。

統計的には余分な染色体はほぼ母親由来とされていますが、これは母親の「責任」ではなく、生物学的なメカニズムによるものです。染色体不分離は誰にでも起こりうる現象であり、生活習慣や行動によって予防できるものではありません。

18トリソミーの検査には、超音波検査、NIPT、羊水検査、絨毛検査などがあります。特にNIPTは非侵襲的で高精度な検査法として注目されていますが、あくまでスクリーニング検査であり、陽性の場合は羊水検査などの確定検査が必要です。

18トリソミーと診断された場合、医療、心理、社会的なサポートを受けることが重要です。予後は一般的に厳しいとされていますが、適切な医療ケアにより生活の質を向上させることができます。また、様々な社会的支援制度を活用することで、経済的・精神的負担を軽減することができます。

18トリソミーについての正確な知識を持つことは、出生前診断を検討している方や、すでに診断を受けた方にとって重要です。科学的な情報に基づいた理解は、不必要な自責の念を取り除き、適切な意思決定や心の準備を助けます。

ミネルバクリニックでは、NIPT検査と専門的な遺伝カウンセリングを提供しています。検査結果に関わらず、ご家族それぞれの状況や価値観を尊重し、最適なサポートを提供いたします。不安や疑問がある方は、ぜひ一度ご相談ください。

NIPTと遺伝カウンセリングのご相談はミネルバクリニックへ

ミネルバクリニックでは、経験豊富な臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングとNIPT検査を提供しています。18トリソミーを含む染色体異常について不安や疑問がある方は、まずはご相談ください。

参考文献・情報源

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

関連記事