目次
- ➤ 胎児ドックとは出生前診断の非確定的検査で、超音波により胎児を総合的に診断する検査
- ➤ 検査は妊娠初期(10~13週)・中期(18~20週)・後期(28~31週)の3回受けることができる
- ➤ ダウン症候群や染色体異常、形態異常などの先天性疾患がわかる
- ➤ メリットは流産リスクがない、当日に結果が出るなど
- ➤ デメリットは精度がNIPTより低い、費用負担(約2~5万円)など
胎児ドックを受けるべきか悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか?赤ちゃんの状態を知るために受けてみたいけれど、検査結果が陽性だったらどうしようという不安もありますよね。胎児ドックを受けることでメリットもありますが、デメリットもあります。今回は胎児ドックとはどのような検査か、受けるべきか迷うときの判断要素、検査のメリット・デメリットなどを解説します。
胎児ドックとは
胎児ドックとは、出生前診断の非確定的検査のひとつです。胎児ドックは母体や胎児への影響がない安全な検査ですが、胎児に疾患があるかどうかの可能性を調べる検査になります。そのため結果が陽性だった場合、診断を確定させるには羊水検査や絨毛検査などの確定的検査が必要です。
胎児ドックは、「胎児スクリーニング検査」「胎児形態異常スクリーニング検査」「胎児初期精密検査」「ベビードッグ」などとも呼ばれます。
胎児ドックでは、超音波機器を用いてお腹の中の赤ちゃんを総合的に診断し、疾患の有無を検査します。胎児ドックで使われる超音波機器は、妊娠健診で使用される超音波機器と比較してより精密な機器です。そのため、受診できる医療機関が限られています。
胎児ドックの実施時期と回数は、日本産婦人科学会によって以下のように提言されています。
-
1
妊娠初期(10~13週) -
2
妊娠中期(18~20週) -
3
妊娠後期(28~31週)
それぞれの時期で赤ちゃんの発育状態も異なるため、検査で分かる内容も異なります。胎児ドックは妊婦さんやパートナーの希望により遺伝カウンセリングなどを受け、十分な納得と理解が得られてから実施される検査です。
胎児ドックでわかること
胎児ドックでわかる主な先天性疾患には、下記のものがあります。
また、胎児ドックで見つかるその他の先天性異常の例として、頭蓋骨内欠損(無脳症)や脊椎の変形(二分脊椎)などがあります。
その他にも、赤ちゃんの性別や推定体重、発育状態、羊水量、主な臓器や胎盤・臍帯などの異常の有無もわかります。
- ✓ 高齢出産のため、赤ちゃんの染色体異常などが心配な方
- ✓ 近親者に遺伝子疾患がある方
- ✓ 前回の妊娠で赤ちゃんに異常が見つかった方
- ✓ 上の子どもに病気や障害がある方
- ✓ 赤ちゃんに病気があれば早く見つけて対処してあげたいと考えている方
胎児ドックの受検時期と回数
前述のように、胎児ドックは妊娠初期、中期、後期の3回受けることができます。
胎児ドックでかかる費用
胎児ドックの費用相場は、約2~5万円です。保険適用外であるため、全額自己負担となります。非確定的検査のため、診断を確定させる確定的検査を受ける場合は追加で約10~20万円かかることにも注意が必要です。
同じ非確定的検査であるNIPT(新型出生前診断)の費用相場が約20万円であることから考えると、胎児ドックの費用負担は少ないといえるでしょう。
胎児ドックを受けるべきか
胎児ドックを受けるべきかは、妊婦さんの年齢など個々のケースで異なります。
胎児ドックを受けるか迷ったときは、下記の要素を参考に判断してください。
- ● 高齢出産である
- ● 夫婦のいずれかが染色体異常の保因者である
- ● 染色体異常児を妊娠、出産したことがある
- ● 胎児が重篤な疾患に罹患する可能性がある
出生前診断の受診は、胎児の疾患の有無がわかるだけではありません。生むか生まないかという倫理的問題も同時に発生するため、検査の目的などを十分に理解したうえで受診する必要があります。検査結果の受け止め方など、まずは妊婦さんとパートナーでしっかりと話し合いましょう。
NIPTと胎児ドックは検査目的と方法が異なるため、併用することでより包括的な胎児診断が可能になります。
NIPT(新型出生前診断)の特徴
- → DNAレベルでの検査:母体血から胎児のDNAを分析
- → 染色体異常の検出:トリソミーなどの数的異常を高い精度で検出(99%以上)
- → 限界:構造的な形態異常は検出できない
- → 時期:妊娠10週以降から実施可能
胎児ドックの特徴
- → 形態学的検査:超音波で胎児の形態を詳細に観察
- → 先天異常の検出:心臓や内臓、四肢などの形態異常を検出
- → 限界:染色体異常の検出精度はNIPTより低い(約70%)
- → 時期:妊娠初期・中期・後期の各段階で実施可能
併用する科学的根拠と臨床的意義
1. 相互補完的な検査方法: 複数の研究で、NIPTだけでは検出できない形態異常が胎児ドックで発見されたケースが報告されています。2019年のシステマティックレビューでは、染色体異常のない胎児でも約3%に重要な構造異常が確認されました(Audibert et al., 2019)。
2. 検出率の向上: Syngelaki et al.(2021)の研究では、NIPTと詳細な超音波検査を併用することで、先天異常の総合的な検出率が95%以上に向上したことが示されています。
3. 早期介入の可能性: 日本産科婦人科学会(JSOG)のガイドラインでも、両検査の併用により、出生後の適切な治療計画を立てるための貴重な情報が得られることが強調されています。特に心臓疾患などでは、出生後すぐに適切な医療施設での治療が可能となります。
臨床専門家の見解: 「NIPTで染色体異常のリスクが低いと判定されても、胎児の形態異常を完全に除外できるわけではありません。逆に、胎児ドックで形態に異常がなくても、微細な染色体異常の可能性は残ります。両方の検査を適切に組み合わせることで、より包括的な出生前診断が可能になります。」—日本周産期・新生児医学会の提言より
重要: NIPTと胎児ドックはどちらも非確定的検査であり、陽性結果が出た場合は羊水検査などの確定的検査が必要です。また、どちらの検査を受けるかは個人の状況や価値観によって異なります。検査前には遺伝カウンセリングを受け、十分な情報を得た上で意思決定をすることが重要です。
胎児ドックを受ける人の割合
1998年から2016年までの日本における出生前遺伝学的検査の動向に関する佐々木らの報告によると、日本の出生前診断受診数(延べ人数)は、出生数97.7万件において7.2%、高齢妊婦数27.8万人において25.1%という結果でした。
確定的検査である羊水検査の件数は1998年の10,419件以降増加傾向を示していましたが、2014年の20,700件を境に減少傾向となり、2016年には18,600件となっています。これは、2013年に導入されたNIPTの影響と考えられています。
NIPTを導入した目的のひとつが流産などのリスクの低減であったように、より安全な非確定的検査の受診数は今後も増えていくことが予想されます。胎児ドックも母体、胎児に影響がない検査であるため、同じ傾向にあるといえるでしょう。
- → 高齢出産の方
- → 近親者に遺伝子疾患がある方
- → 夫婦のいずれかが染色体異常の保因者である方
- → 前回の妊娠・出産で赤ちゃんに異常が見つかった方
- → NIPTの受診前に胎児ドックを受けたい方
- → 羊水検査や絨毛検査を考えている方
- → 赤ちゃんに病気があるなら早く対処してあげたいと考えている方
胎児ドックのメリット
胎児ドックを受けるメリットは、下記の通りです。
流産のリスクがない
胎児ドックは超音波を用いて行う検査で、母体にも胎児にも影響がありません。羊水検査(流産リスク0.3%)や絨毛検査(流産リスク1%)と比べて、リスクのない安全な検査です。
胎児の異常が早期にわかる
赤ちゃんの形態異常や先天性心疾患などの内臓奇形も早期に把握できます。ダウン症候群の検出率も約70%と比較的高く、早期発見により適切な医療施設の情報収集が可能です。
当日に結果が出る
NIPTでは検査結果が出るまで約1~2週間かかりますが、胎児ドックでは当日に結果がわかります。疾患が見つかった場合でも、結果を受け止め対応を考える時間があります。
胎児ドックのデメリット
胎児ドックを受けるデメリットは、下記の通りです。
精度がNIPTよりも低い
NIPTの精度は99%ですが、胎児ドックでのダウン症候群の検出率は約70%と低くなります。非確定的検査であるため、陽性結果は「可能性が高い」ことを示すに過ぎません。
陽性診断時の心理的負担が大きい
検査結果が陽性であった場合、生むか生まないか、確定的検査を受けるかなど、妊婦さんやパートナーの心理的負担が大きくなる場合があります。
検査費用の負担が大きい
保険適用外で全額自己負担(約2~5万円)です。3回すべて受診すると経済的負担が大きく、陽性結果が出た場合の確定的検査(約10~20万円)も考慮する必要があります。
まとめ
超音波で胎児の状態を総合的に診断できる胎児ドック。リスクがない検査ですが、検査の結果次第では「命の選別」など倫理的問題も発生します。受診に迷う場合は、妊婦さんとパートナーでしっかりと話し合うことが大切です。加えて、遺伝カウンセリングで専門家の意見を聞くことも参考になります。そのうえで、生まれてくる赤ちゃんにとってベストな選択をすることが望まれるでしょう。