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胎児ドックを受けるべきか、受けなくてもよいのか。妊婦健診でもエコーは見てもらっているけれど、受けずにいて後から何か見つかったらと思うと決めきれない。そう迷う方は多くいます。先にお伝えすると、胎児ドックは全員が受ける検査ではなく、受けるかどうかに決まった正解はありません。決め手になるのは、何を知りたいのかと、結果を聞いたあとにどうするかの2点です。この記事では、受ける人の割合、決めるときの考え方、所見を指摘されたときの流れ、受けた後悔と受けなかった後悔を、臨床遺伝専門医の立場から順に整理します。
- ➤胎児ドックを受けるかどうかを決めるための「3つの問い」
- ➤胎児超音波検査を受ける人の割合(2023年の全国調査では約半数)
- ➤受けない場合に、妊婦健診の超音波で見ていること
- ➤初期と中期のどちらを受けるかの考え方
- ➤所見を指摘されたときの選択肢と、検査の前に決めておきたいこと
- ➤染色体は「ダウン症候群だけ」で大丈夫か、調べる範囲の考え方
⏱️ 30秒でわかる要約
🩺 Q. 胎児ドックは受けるべきですか?
全員が受ける検査ではありません。赤ちゃんの体や臓器の形を詳しく確認したいか、そして所見が出たときに次の検査へ進むかを先に考えておくと、受けるかどうかを決めやすくなります。
🧬 Q. ダウン症候群だけ調べれば大丈夫ですか?
形とは別に染色体を調べるときも、ダウン症候群だけで大丈夫とまでは言えません。ご家族の子育ての負担を大きく左右するのは、知的障害の程度よりも、攻撃的な行動・自傷・睡眠の問題といった行動の問題です。それを伴いやすい微小欠失症候群や単一遺伝子疾患は、三大トリソミーだけの検査では調べられません。当院のNIPTはこれらの病気まで調べられます。
📊 Q. 胎児ドックを受ける人の割合は?
2023年に行われた妊産婦1,110人の調査では、胎児超音波検査を受けた・受ける予定の人は49%でした。妊婦向けアプリの利用者を対象にした調査で、かかりつけの産科で受ける検査も含んだ数字です。
🌸 Q. 後悔しないためにできることは?
検査の前に「どこまで知りたいか」「所見が出たら次に何をするか」を決めておくことです。胎児ドックは確定診断ではないため、結果の受け止め方を先に準備しておくことが役に立ちます。
\ ダウン症候群だけで大丈夫ですか? /
当院のNIPTは、子育ての負担につながりやすい微小欠失症候群や単一遺伝子疾患まで調べられます。どこまで調べるかは、90分の受診枠の中で臨床遺伝専門医と相談しながら決められます。
胎児ドックは受けるべきか|「何を知りたいか」と「わかったらどうするか」で決まる
胎児ドックは、受けるべき人と受けなくてよい人が、年齢や条件で決まる検査ではありません。赤ちゃんの体や臓器の形を、妊婦健診より時間をかけて確認したいかどうか、そして所見が出たときに次の検査へ進むつもりがあるかどうかで、受ける意味が変わります。この2点が定まらないまま受けると、結果に振り回されやすくなります。
知恵袋やSNSで意見が割れるのは、答える人ごとに「知りたいこと」が違うからです。心臓の形が気になる人と、ダウン症候群などの染色体の変化が気になる人とでは、向いている検査が異なります。ほかの人の結論をそのまま借りるのではなく、まず自分が何を確かめたいのかを言葉にしてみてください。
胎児ドックとは
胎児ドックは、超音波(エコー)で赤ちゃんの全身を時間をかけて観察し、体や臓器の形に変化がないかを調べる検査です。胎児超音波検査、胎児スクリーニングとも呼ばれます。厚生労働省の専門委員会の報告書では、出生前検査として行われる胎児超音波検査は、診断を確定する検査ではなく、胎児の形態や染色体疾患に関連する所見を評価する検査として扱われています[1]。所見があっても病気が確定するわけではなく、所見がなくてもすべての病気を否定できるわけではない、ということです。
検査で何を見るのか、時期ごとの内容、費用の目安は「胎児ドックとは」のページで解説しています。
💡 用語解説:非確定的検査と確定的検査
非確定的検査は、病気の「可能性」を調べる検査です。胎児ドック、NIPT、母体血清マーカー検査などがこれにあたり、結果は「可能性が高い・低い」という形で示されます。確定的検査は、羊水(ようすい)検査や絨毛(じゅうもう)検査のように赤ちゃん由来の細胞を調べる検査で、対象とする染色体・遺伝学的な変化について診断を確定するために用いられます。胎児の形の異常そのものは、精密超音波や胎児心エコーなどで評価します。
胎児ドックを受ける人の割合はどのくらい?
国内の調査では、妊産婦の約半数が胎児超音波検査を受けています。2023年11月に、こども家庭庁の補助を受けた研究班が行った調査の結果です[2]。ただし、この数字には読み方の注意があります。
胎児超音波検査を受けた人は約半数(2023年の全国調査)
この調査は、妊婦向けアプリを利用している妊娠20週以降の妊婦さんと、産後3か月以内の方、あわせて1,110人の回答を解析したものです。妊娠中の超音波検査に「通常の超音波検査」と「胎児超音波検査」の2種類があることを知っていた人は66%、胎児超音波検査を受けた、または受ける予定と答えた人は544人(49%)でした[2]。同じ研究班が全国の分娩取扱施設を対象に行った調査では、約8割の施設が胎児超音波検査を行っていました[3]。
📊 胎児超音波検査を受けた時期(受けた・受ける予定の544人)
| 受けた時期 | 割合 |
|---|---|
| 妊娠11〜13週 | 13% |
| 妊娠18〜21週 | 37% |
| 妊娠22〜33週 | 40% |
出典:こども家庭科学研究の分担研究報告書[2]。
この49%を読むときの注意が2つあります。1つは、アプリ利用者の回答であり、回答者の年齢が一般の妊婦さんよりやや高めだったことです。全国の妊婦さん全体の割合をそのまま表す数字ではありません。もう1つは、ここでいう胎児超音波検査に、かかりつけの産科で受ける胎児スクリーニングも含まれることです。自費で専門外来を受診する、いわゆる「胎児ドック」だけを数えた全国統計は、現時点では見当たりません。
出生前遺伝学的検査全体では約11.5%
比較のために、染色体や遺伝子を調べる検査の数字も見ておきます。国立成育医療研究センターなどの研究グループが、2003年から2023年までの全国のデータを解析した報告があります。羊水検査、絨毛検査、母体血清マーカー検査、NIPTなどを合わせた出生前遺伝学的検査の実施率は、2011年頃の約3%から、2023年には約11.5%に増えていました[4]。
この集計に含まれる超音波検査は、首のむくみなどから染色体の変化の確率を計算する検査だけで、形を調べる胎児超音波検査は入っていません。年代別に出生前診断を受ける人の割合は、「20代・30代前半が出生前診断を受ける割合」のページで紹介しています。
「みんなが受けているか」で決めなくてよい理由
約半数という数字は、受ける人も受けない人も同じくらいいる、ということです。同じ調査では、胎児超音波検査を「そもそも受けたくない」と答えた人が3%、「赤ちゃんの病気についてはあまり調べてほしくない」と答えた人が7%いました[2]。研究班はこの結果から、受けたい人に正確な情報を届けることと同時に、知らないでいる権利を守る配慮が必要だと述べています[3]。
出生前検査は、受ける人が多いから受ける、少ないから受けない、という性質のものではありません。割合は、受けるかどうかの理由にはなりません。次の章で、判断の軸になる3つの問いを見ていきます。
胎児ドックを受けるか決めるための3つの問い
受けるかどうかを決めるときは、次の3つを順番に考えると整理しやすくなります。何を知りたいのか、わかったら何をしたいのか、所見が出たら次の検査へ進むかです。
何を知りたいのか(形か、染色体か)
赤ちゃんの生まれつきの変化には、大きく分けて、心臓や脳などの形の変化と、ダウン症候群(21トリソミー)のような染色体の数の変化があります。胎児ドックが得意なのは前者で、後者は血液で調べるNIPT(新型出生前診断)が得意です。国内の先天異常の調査では、先天異常のある赤ちゃんが生まれる頻度は2021年から2023年にかけて3.35〜3.44%で、最も多かったのは心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん:心臓の左右の部屋を隔てる壁に穴がある状態)でした[3]。
心室中隔欠損のような形の変化は、染色体が正常な赤ちゃんにも起こります。そのため、NIPTが陰性でも形の変化は否定できず、逆に胎児ドックで所見がなくても染色体の変化は否定できません。気になっているのが「臓器の形」なのか「染色体」なのかで、選ぶ検査が変わります。2つの検査の違いと受ける順番は「胎児ドックとNIPTの違い」のページで、染色体を調べる検査の内容はNIPTのページで解説しています。
わかったら何をしたいのか
次に、結果を知って何をしたいのかを考えます。生まれてすぐ治療が必要な病気がわかれば、小児の専門科がそろった施設で出産する準備ができます。生まれる前に病気について調べる時間を持ちたいという方も、妊娠を続けるかどうかを含めて考えたいという方もいます。
前述の調査で、胎児超音波検査で知りたい病気をたずねたところ、「胎児期に治療ができる病気」が69%、「出生後に治療ができる病気」が70%、「出生後に蘇生が必要になる病気」が63%でした。「分かることは全て」と答えた人は79%です[2]。知りたい範囲は人それぞれで、どれが正しいということはありません。検査の前に、自分たちがどの範囲を知りたいのかを言葉にしておいてください。
所見が出たら次の検査へ進むか
3つ目は、所見が出たときに次へ進むかどうかです。胎児ドックで所見が出ても、それだけで原因や診断が確定するとは限りません。形の異常は精密超音波や胎児心エコーなどで詳しく評価し、染色体・遺伝学的な原因を確かめる必要がある場合には、羊水検査や絨毛検査による診断検査を検討します。確定的検査には、少ないながら流産のリスクがあります。
「所見が出ても確定的検査は受けない」と決めている方は、所見だけを抱えて出産まで過ごす可能性があることを知っておいてください。「所見が出たら必要に応じて精密超音波や確定的検査まで受けて確かめたい」という方は、どこで、いつ受けられるのかを先に調べておいてください。この点は後の章で説明します。
胎児ドックが役立ちやすい場合・急がなくてよい場合
🧭 胎児ドックを受けるかどうかの目安
| 視点 | 役立ちやすい場合 | 急がなくてよい場合 |
|---|---|---|
| 知りたいこと | 心臓・脳・腎臓など、臓器の形を丁寧に確認したい | 主に気になるのは染色体の変化で、NIPTなど別の検査を考えている |
| 妊婦健診の状況 | 健診の超音波で「見えにくい」「もう一度詳しく」と言われた | 健診の中で、時間をかけた胎児超音波検査を受けられる |
| 結果の受け止め | 結果を聞いた後に説明を受けられる医療者が決まっている | 情報が増えるほど不安が強くなり、所見を確定と受け取りやすい |
| 次の検査 | 所見が出たら確定的検査まで進むかどうかを決めている | 所見が出たときの方針がまだ決まっていない |
この表は「受けるべき人」と「受けなくてよい人」を分けるものではありません。
胎児ドック以外の検査も含めて選びたい方は、出生前診断の種類の一覧をご覧ください。
🩺 院長コラム【「受けるかどうか」の前に決めておくこと】
胎児ドックを受けるかどうかで迷うとき、決まっていないのは「受けるかどうか」そのものではなく、結果が出たあとの方針であることが多いものです。所見が出たら確定的検査まで進むのか、進まずに経過を見るのか。ここが決まっていないと、受けても受けなくても迷いが残ります。
臨床遺伝専門医の立場から言えるのは、非確定的検査の結果は「次に何をするか」と組み合わせて初めて意味を持つ、ということです。胎児ドックに限らず、NIPTでも母体血清マーカー検査でも同じです。検査を受ける前に、ご夫婦で10分でも話し合ってみてください。答えが完全にそろわなくてもかまいません。意見が違うとわかるだけでも、準備になります。
胎児ドックを受けないとどうなる?「必要ない」と言われる理由
胎児ドックを受けなくても、妊婦健診の超音波検査は続きます。健診の超音波でも、赤ちゃんの形をある程度は見ています。受けない場合に変わるのは、形を見ることだけを目的に、時間をかけて全身を確認する機会を別に持たない、という点です。
妊婦健診の超音波で見ていること・見ていないこと
先ほどの調査で、通常の妊婦健診の超音波で何を検査したかをたずねたところ、赤ちゃんの大きさが98%、性別が89%、動きや成長の度合いが86%、形や臓器の形態的な変化が67%でした[2]。およそ3人に2人は、健診の中で形についても見てもらったと認識していることになります。
妊婦健診の超音波の主な目的は、赤ちゃんが育っているか、羊水の量や胎盤の位置に変わりがないかを確かめることです。限られた診察時間の中で行うため、心臓の細かい構造や手足の指まで順番に確認するとは限らず、どこまで見るかは施設によって差があります。健診の中でどこまで見ているのかは、担当医にたずねればわかります。
受けなかった場合に起こりうることも知っておいてください。出生前の説明に関わる小児科医を対象にした調査では、超音波で診断されないまま病気のある赤ちゃんを出産したことに不満を持つお母さんと接した経験のある医師が、半数にのぼりました[3]。受けていれば見つかったとは限りませんが、「調べる機会があることを知らなかった」という後悔は、情報があれば避けられます。
「必要ない」が当てはまる場合
「胎児ドックは必要ない」という意見は、検査に価値がないという意味で言われているわけではありません。多くは、その人の目的がほかの方法で満たせる、という文脈です。たとえば、通っている施設が中期に時間をかけた超音波検査を行っているなら、別の施設で胎児ドックを受ける意味は小さくなります。気になっているのが染色体の変化であれば、超音波よりもNIPTのほうが目的に合います。
もう1つは、結果の受け止め方に関わる場合です。所見が出ると、確定ではないとわかっていても不安が強くなり、眠れなくなる方がいます。情報が増えるほどつらくなる自覚がある方は、急いで受ける必要はありません。調べないという選択も、調べるという選択と同じように尊重されるものです。
初期と中期、胎児ドックはどちらを受けるべきか
形を確認することが目的なら、中心になるのは中期です。初期は、一部の重い形の変化と、染色体の変化の可能性を示す所見が見つかる時期で、中期とは役割が違います。
初期(妊娠11〜13週ごろ)を受けるか決めるときの視点
初期の検査は、妊娠11週から13週ごろに行われます[5]。赤ちゃんがまだ小さいため、見える範囲には限りがありますが、頭の骨ができていない、お腹の壁が閉じていないといった重い変化は、この時期に見つかることがあります。もう1つの特徴は、首のむくみ(NT)のように、染色体の変化や心臓の病気の可能性を示す所見が出ることです。NTと採血の結果を組み合わせて確率を計算する検査を、コンバインド検査といいます。
英国で約10万人の妊婦さんを対象に行われた研究では、染色体の変化以外の赤ちゃんの異常1,720例のうち、初期の検査で見つかったのは27.6%でした[6]。初期に受ければ早くわかる病気がある一方で、4分の3近くは初期には見つかっていません。また、初期の所見は「確率が上がった」という形で伝えられることが多く、確定までに時間がかかります。
💡 用語解説:NT(エヌティー:首のむくみ)
NTは、妊娠初期の赤ちゃんの首の後ろに見える、皮膚の下の液体のたまりです。どの赤ちゃんにも見られますが、厚みが大きいと、染色体の変化や心臓の病気の可能性が上がることがわかっています。NTが厚いことは、病気が確定したという意味ではありません。
中期(妊娠18〜20週ごろ)を受けるか決めるときの視点
中期の検査は、国際産科婦人科超音波学会(ISUOG)の指針では、妊娠18週から24週ごろに行うとされています[7]。この時期になると臓器が大きくなり、心臓の4つの部屋、脳、腎臓、背骨、手足などを順番に確認できます。先ほどの英国の研究でも、53.8%は中期の検査で見つかっています[6]。
ただし、中期まで受けても、すべてが見つかるわけではありません。同じ研究で、18.6%は妊娠後期か、生まれた後に初めて見つかりました[6]。妊娠が進んでから現れる変化や、超音波では見えにくい変化があるためです。研究の著者も、いつも見つかる異常と見つからない異常があるため、検査の成績を1つの数字にまとめることには意味がないと述べています[6]。
📊 異常が見つかった時期(染色体の変化以外の異常1,720例)
| 見つかった時期 | 割合 |
|---|---|
| 初期(妊娠11〜13週)の検査 | 27.6% |
| 中期の検査 | 53.8% |
| 妊娠後期または出生後 | 18.6% |
出典:Syngelakiら(2019年)[6]。決められた手順で検査を行う専門施設のデータで、どの施設でも同じ成績になるわけではありません。
国内の調査では、胎児超音波検査を受けた時期として22〜33週と答えた人が40%で、18〜21週の37%を上回っていました[2]。受ける時期が遅くなると、所見が出たときに、次の検査や出産の準備に使える時間が短くなります。
胎児ドックで所見を指摘されたら|検査の前に決めておくこと
所見を指摘されても、その時点で病気が確定したわけではありません。次に何をするかは、所見の種類によって変わります。
所見は手がかりで、確定診断ではない
胎児ドックはスクリーニング検査の1つです。スクリーニング検査は、多くの人の中から、詳しく調べたほうがよい人を見つけるための検査で、結果は「可能性」を示します。国内の調査では、胎児超音波検査を受けた478人のうち、何らかの異常を指摘されたのは33人(6.9%)でした。内訳は、心臓の病気が14人、腎臓や尿路の病気が8人、へその緒の異常が6人などです[2]。
指摘される所見には、心臓の形の変化のように治療に関わるものと、「ソフトマーカー」と呼ばれる、それ自体は病気ではない所見があります。同じ「所見あり」でも、意味は大きく違います。指摘されたら、所見の名前、どの程度の疑いなのか、もう一度見直す予定があるのかを、その場で確認してください。
💡 用語解説:ソフトマーカー
ソフトマーカーは、超音波で見える小さな特徴のうち、それ自体は病気ではないものの、染色体の変化の可能性をわずかに上げるとされる所見です。心臓の中に白い点が見える、腎臓の中に尿が少したまって見える、などがあります。多くの場合、詳しく調べても重い病気は見つかりません[8]。
次の選択肢は所見の種類で変わる
所見のあとに何を選ぶかについて、海外の学会は所見の種類ごとに考え方を示しています。まず、はっきりした形の異常や、著しいNTの肥厚が見つかった場合です。国際産科婦人科超音波学会は、この場合にNIPT(お母さんの血液中のDNAを調べる検査)を勧めるべきではないとしています[9]。米国母体胎児医学会も、形の異常が見つかった女性には、マイクロアレイ検査を含む確定的検査を提示するよう勧告しています[10]。形の異常がある赤ちゃんでは、NIPTでは調べきれない染色体の細かい変化が見つかることがあるためです。
次に、ソフトマーカーが1つだけ見つかった場合です。米国母体胎児医学会は、NIPTが陰性でソフトマーカーが単独で見つかった場合、それだけを理由に確定的検査を勧めないとしています[10]。まだNIPTを受けていない場合は、NIPTで染色体の変化の可能性を調べることが選択肢になります。また、確定的検査を希望しない方が、代わりにNIPTを選ぶこともできるとされています[10]。
🔎 所見の種類と、次の検査の考え方
| 所見の種類 | 次の検査の考え方 |
|---|---|
| はっきりした形の異常・著しいNTの肥厚 | 専門的な超音波評価に加え、染色体・遺伝学的評価として羊水検査・絨毛検査などの診断検査を検討する。NIPTは診断検査の代わりにならない |
| ソフトマーカーが1つだけ | NIPTが選択肢になる。NIPTが陰性なら、それだけを理由に確定的検査は勧められていない |
| 確定的検査を希望しない場合 | 代わりにNIPTを選ぶことはできる。ただし調べられる範囲は限られる |
出典:国際産科婦人科超音波学会の声明[9]、米国母体胎児医学会の指針[10]。実際の方針は、所見の内容と妊娠週数をふまえて担当医と決めます。
確定的検査には流産のリスクがあります。2019年に発表された解析では、検査が原因と考えられる流産は羊水検査で0.30%、絨毛検査で0.20%と見積もられました。著者らは、これまで妊婦さんに伝えられてきた数字より低いと結論しています[11]。検査の内容は羊水検査・絨毛検査のページで説明しています。
💡 用語解説:マイクロアレイ検査
染色体の一部が欠けている、または重複している細かい変化を調べる検査です。顕微鏡で染色体を観察する従来の方法では見つからない、小さな変化まで調べられます。羊水や絨毛から採った、赤ちゃん由来の細胞を使います。
検査の前に夫婦で話しておきたいこと
検査の前にご夫婦で話しておきたいことを挙げます。答えを1つにそろえる必要はなく、お互いの考えを知っておくことが目的です。
| 話しておきたいこと | 考える材料 |
|---|---|
| どこまで知りたいか | 治療に関わる病気だけか、わかることはすべてか |
| 所見が出たら確定的検査を受けるか | 流産のリスクと、確かめたい気持ちのどちらを重く見るか |
| 結果を誰と聞くか | パートナーが同席できるか、あとで説明を聞ける医療者がいるか |
| 確定的検査をどこで受けられるか | 通っている施設でできるか、紹介になるか、結果が出るまでの日数 |
夫婦で意見が分かれることもあります。そのときの話し合いの進め方は、次のページにまとめています。
胎児ドックで後悔しないために|受けた後悔・受けなかった後悔
胎児ドックの後悔には、受けて後悔する場合と、受けなくて後悔する場合の両方があります。どちらを選んでも、後悔の可能性はゼロになりません。減らせるのは、準備がないまま結果に直面することによる後悔です。
受けて後悔しやすいのはどんなときか
国内の調査では、胎児超音波検査を受けた人のうち「受けなければよかった」と答えた人はおらず、95%以上が肯定的に評価していました[2]。ただし、説明を受けたかどうかと、異常を指摘されたかどうかが、検査への満足度に影響することも示されています[3]。
受けて後悔しやすいのは、所見を指摘され、確定ではないと頭ではわかっていても、気持ちが確定として受け取ってしまうときです。ソフトマーカーを指摘された女性14人と、指摘されなかった女性14人を追った英国の研究では、指摘された人は直後の1週間に強い不安を示し、妊娠30週と産後1か月には通常の範囲に戻っていました[12]。一方、フランスの研究では、結果的に病気がなかった19人でも、不安や落ち込みの得点が産後2か月まで高かったと報告されています[8]。どちらも小規模な研究で結論は一致していませんが、所見の指摘が、一時的にせよ強い不安をもたらす点は共通しています。
NIPTでの研究ですが、参考になるデータがあります。結果が陰性だった526人に1年後にたずねたところ、35人(6.7%)が検査を受けたことを後悔し、自分を責める気持ちを持っていました[13]。胎児ドックの数字ではありませんが、結果が陰性であっても、受けたこと自体に複雑な気持ちが残る人が一定数います。
受けなくて後悔しやすいのはどんなときか
受けなかった後悔は、妊娠後期や生まれた後に病気がわかり、「あのとき調べていれば準備ができたのに」と感じるときに起こります。超音波で診断されないまま病気のある赤ちゃんを出産し、不満を持つお母さんと接した小児科医は半数にのぼります[3]。
ただし、受けていれば見つかったとは限りません。中期まで検査を受けても、約2割は妊娠後期か出生後に初めて見つかっています[6]。「受けなかったから見つからなかった」のか「受けても見つからなかった」のかは、あとからは区別できないことがほとんどです。受けなかった後悔を減らすために今できるのは、検査があることと、その限界の両方を知ったうえで、受けないと決めることです。
後悔を減らす3つの準備
準備は3つあります。1つ目は知る範囲を決めることです。治療に関わる病気だけを知りたいのか、わかることはすべて知りたいのかを決めます。2つ目は次の順番を決めることです。所見が出たら再検査を待つのか、確定的検査へ進むのか、進むならどこで受けるのかを調べておきます。
3つ目は結果を受け止める準備です。誰と結果を聞くか、不安が強くなったときに誰に話すかを決めておきます。染色体や遺伝子の検査を受ける場合は、検査の前後に遺伝カウンセリングがあります。検査でわかること・わからないこと、結果が出たあとの選択肢を、専門の医師と確認するための面談です。出生前診断全体について、受けた後悔と受けなかった後悔をどう考えるかは、次のページで扱っています。
🩺 院長コラム【所見は「診断」ではなく、次の検査を考える材料】
胎児ドックで所見を指摘されると、その言葉だけが頭に残り、赤ちゃんに病気があると決まったように感じてしまうことがあります。けれども、超音波で見えた所見は、次にどの検査を考えるかを決めるための材料です。はっきりした形の異常なのか、ソフトマーカーなのかで、勧められる検査は変わります。
臨床遺伝専門医として強調したいのは、形の異常が見つかったときに、NIPTを確定的検査の代わりにしないという点です。NIPTは染色体の数の変化を調べるのに適した検査ですが、形の異常の背景にある細かい染色体の変化までは調べきれません。所見の種類に合った検査を選ぶことが、結果的に遠回りを減らします。
NIPTを考えている方へ|ミネルバクリニックでできること
ミネルバクリニックは、NIPTと確定的検査を行う遺伝診療のクリニックです。形の変化を調べる胎児ドックは行っていません。胎児ドックをご希望の方は、実施している産科施設で受けてください。ここでは、染色体の変化を調べたい方に向けて、当院でできることを整理します。
当院のNIPTは、妊娠4週からお申し込みいただけます。実際の採血時期は検査プランや妊娠週数に応じてご案内します。90分の受診枠の中で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、調べる範囲と結果の読み方を確認します。NIPTの料金には4Dエコーが含まれています。採血の前に、赤ちゃんが元気にしている様子をご夫婦で見ていただくためのもので、形の変化を調べる胎児ドックとは目的が異なります。
NIPTはスクリーニング検査なので、陽性になったときは、確定検査で本当にそうかを確かめてから考えることが大切です。当院では、その確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で行っており、主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。陽性後の遺伝カウンセリングは何度でも無料です。NIPTの精度の考え方は「NIPTの精度データ(スタンダードプラン)」のページで紹介しています。
当院でNIPTを受ける方は、全員が互助会(8,000円)に加入します。陽性となり、院長とのカウンセリングのあとに羊水検査または絨毛検査を受けた場合、検査費用は互助会で補助され、補助の上限はありません。入院費とマイクロアレイ検査、性染色体の数の変化による陽性など、対象外となる条件があります。詳細は互助会のページでご確認ください。
胎児ドックの「心臓の所見」と、染色体の細かい変化
胎児ドックが得意とする心臓の形の変化は、その背景に染色体の小さな欠失が隠れていることがあります。代表的なのが22q11.2欠失症候群で、妊娠中の赤ちゃんのおよそ1,000人に1人にみられ、微小欠失症候群の中で最も多い病気です。多くは親から受け継いだものではなく新しく起こる変化なので、お母さんの年齢とは関係がありません[17]。心臓の病気のほか、免疫の働きの低下、低カルシウム血症、口蓋裂、発達の遅れなどを伴うことがあり、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は、年齢にかかわらずすべての妊婦さんに22q11.2欠失症候群のNIPTを提供することを提案しています[16]。生まれる前にわかっていれば、出産する施設を選び、生まれてすぐに心臓・カルシウム・免疫の検査を受ける準備ができます。当院ではスタンダードプランから22q11.2欠失症候群を調べられます。ただし微小欠失は数の異常より陽性的中率が低めなので、陽性のときは確定検査で確かめます。また、子育ての負担につながる行動の問題を伴いやすいと報告されている病気のうち、スミス・マゲニス症候群・プラダー・ウィリー症候群・アンジェルマン症候群は全プランで、コルネリア・デ・ランゲ症候群はダイヤモンドプランとインペリアルプランで、ウィリアムズ症候群はインペリアルプランと双子マックスプランで調べられます[14][15]。
ダウン症候群だけで大丈夫? ― 「値段」ではなく「調べられる範囲」で選ぶ
胎児ドックで形をどこまで確かめるかを考えるのと同じように、NIPTにも「どこまで調べるか」を決める場面があります。「染色体はダウン症候群だけが心配」という方は少なくありませんが、出生前検査で調べる病気は、どれも赤ちゃんとご家族のこれからの暮らしに深くかかわるものです。知的障害を伴う病気のお子さんのご家族を調べた研究を集めると、子育ての負担を大きく左右していたのは、知的障害の程度そのものよりも、攻撃的な行動や自傷、睡眠の問題といった「行動の問題」でした[14]。こうした行動の問題を伴いやすい病気には、微小欠失症候群や単一遺伝子疾患が多く含まれます[14][15]。13・18・21番の三大トリソミーだけを調べる検査では、これらの病気は対象になりません。
出生前検査は、ご家族のその後の人生にかかわるかもしれない検査です。値段の安さだけで選んでよいのか、一度立ち止まって考えてみてください。
たとえば、三大トリソミーだけを調べる検査を仮に10万円とすると、調べる病気は3つなので、1つの病気あたりは約3万3千円になります。当院のインペリアルプランは、全常染色体と性染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、202の単一遺伝子疾患を調べます。性染色体の数の異常も含めて数えられる病気だけで320になり、1つの病気あたりに直すと約1,700円です。さらに、5Mbを超える欠失・重複はすべての染色体が対象なので、実際には数えきれないほどの変化を調べていることになります。
| プラン | 主に調べる範囲 | 数えた病気の数 | 1つの病気あたり |
|---|---|---|---|
| 三大トリソミーだけを調べる検査 (仮に10万円とした場合) |
13・18・21トリソミー | 3 | 約33,333円 |
| スタンダード (220,000円) |
13・18・21トリソミー、性染色体の数の異常、微小欠失6種類7疾患 | 14 | 約15,714円 |
| プレミアム (264,000円) |
13・18・21・15・16・22トリソミー、性染色体の数の異常、微小欠失12種類13疾患 | 23 | 約11,478円 |
| ダイヤモンド (407,000円) |
プレミアムの範囲+単一遺伝子56 | 79 | 約5,152円 |
| 双子マックス (440,000円) |
全常染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、5Mbを超える構造異常 | 114+α | 約3,860円 |
| インペリアル (550,000円) |
全常染色体の数の異常、性染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、5Mbを超える構造異常、単一遺伝子202疾患 | 320+α | 約1,719円 |
※価格は事前学習動画を見て来院した場合の当日割引後の税込価格です。最新の料金は料金ページをご確認ください。※病気の数は、数の異常・微小欠失・重複・単一遺伝子疾患を1つずつ数えたものです。性染色体の数の異常は4種類(ターナー症候群・クラインフェルター症候群・トリプルX症候群・XYY症候群)として数えています(性染色体を調べるのはスタンダード・プレミアム・ダイヤモンド・インペリアル。双子マックスは調べません)。5Mbを超える構造異常は数に入れていないため、双子マックスとインペリアルは実際にはさらに多くの変化を調べています。※『三大トリソミーだけを調べる検査』は計算のための仮の例で、特定の施設の価格ではありません。
各プランの調べる範囲と内容は、それぞれのページで詳しく紹介しています。
もっとも、調べる病気の数が多いほどよい検査、というわけではありません。範囲が広がれば、陽性になる可能性も、確定検査が必要になる場面も増えます。胎児ドックで「所見が出たらどうするか」を先に考えておくのと同じで、NIPTでも、検査前の遺伝カウンセリングで、結果が出たあとのことまで見通してプランを選ぶことが大切です。どこまで調べたいかはご家族ごとに違います。90分の受診枠の中で、常駐する臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、どのプランが合うかを一緒に考えます。
🏥 染色体の変化を調べる検査を、内容を理解したうえで選ぶために
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がNIPTの検査前の説明から結果の説明までを担当し、陽性だった場合の確定的検査も院内で行います。調べる範囲と、結果が出たあとの選択肢を確認したうえで、検査を受けていただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 胎児ドックを受けるべき人はどんな人ですか?
年齢や条件で一律に決まるものではありません。赤ちゃんの臓器の形を時間をかけて確認したい方、妊婦健診で詳しい検査を勧められた方、所見が出たときの方針を決めている方には、受ける意味があります。主に気になるのが染色体の変化であれば、NIPTなど別の検査のほうが目的に合います。
Q2. ダウン症候群だけ調べれば大丈夫ですか?
染色体を調べるときに、ダウン症候群だけで大丈夫とは言い切れません。知的障害を伴う病気のお子さんのご家族を比べた研究では、スミス・マゲニス症候群、ウィリアムズ症候群、プラダー・ウィリー症候群のご家族のほうが、ダウン症候群のご家族より子育てのストレスが高いと報告されています。ストレスをいちばん左右していたのは、知的障害の程度ではなく行動の問題でした。こうした病気は、三大トリソミーだけを調べる検査ではわかりません。当院では、スタンダードプランから22q11.2欠失症候群・プラダー・ウィリー症候群・アンジェルマン症候群などの微小欠失を、ダイヤモンドプランとインペリアルプランでは単一遺伝子疾患まで調べられます(ウィリアムズ症候群はインペリアルプランと双子マックスプラン)。どこまで調べるかは、検査前の遺伝カウンセリングで一緒に考えます。
Q3. 胎児ドックを受ける人の割合はどのくらいですか?
2023年に行われた妊産婦1,110人の調査では、胎児超音波検査を受けた・受ける予定の人は49%でした。妊婦向けアプリの利用者を対象にした調査で、かかりつけの産科で受ける検査も含みます。
Q4. 胎児ドックでダウン症はわかりますか?
胎児ドックでダウン症候群(21トリソミー)を確定することはできません。首のむくみ(NT)などの所見から可能性が示されることはありますが、所見がなくても否定はできません。染色体の変化の可能性を調べるにはNIPT、確定するには羊水検査や絨毛検査が必要です。
Q5. 胎児ドックとNIPTは両方受けたほうがいいですか?
2つは調べる対象が違います。胎児ドックは体や臓器の形を、NIPTは染色体の変化を調べます。形と染色体の両方を確認したい方には両方を受ける意味がありますが、どちらか一方で目的が足りる方もいます。違いと受ける順番は「胎児ドックとNIPTの違い」のページで解説しています。
Q6. 胎児ドックで「異常なし」なら安心してよいですか?
「異常なし」は、検査をした時点で、見える範囲に所見がなかったという意味です。約10万人を対象にした研究では、染色体の変化以外の異常の約2割が、妊娠後期か出生後に初めて見つかっています。染色体の変化も、超音波だけでは否定できません。詳しくは「エコーで異常なしでもダウン症?」のページをご覧ください。
Q7. 結果を聞くのが怖く、不安が増えそうです。受けないほうがいいですか?
受けないという選択も尊重されるものです。国内の調査でも、赤ちゃんの病気についてあまり調べてほしくないと答えた人が7%いました。不安が強くなりやすい方は、どこまで知りたいか、所見が出たら次に何をするかを先に決めてから、受けるかどうかを考えてください。
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※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。妊娠中の検査については、かかりつけの産科医にご確認ください。






