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ABCD1遺伝子は、X染色体上に存在する遺伝子で、副腎白質ジストロフィー(ALD)と深く関わっています。この疾患は、重篤な神経障害や副腎不全を引き起こすことがあり、早期発見と正確な診断が非常に重要です。本記事では、ABCD1遺伝子の働きやALDとの関係、検査の必要性、そして家族における遺伝のリスクについて、わかりやすくご説明します。
ABCD1遺伝子とは?
ABCD1遺伝子は、X染色体の長腕(q28領域)に存在する遺伝子で、「Adrenoleukodystrophy protein(ALDP)」と呼ばれる膜タンパク質をコードしています。ALDPは、細胞内の小器官であるペルオキシソームの膜に局在し、脂肪酸のうちでも特に非常に長い鎖の脂肪酸(Very Long Chain Fatty Acids:VLCFA)を分解する代謝プロセスに深く関わっています。
VLCFAは、炭素数が22個以上の脂肪酸で、過剰に蓄積されると中枢神経系や副腎に有害な影響を与えることが知られています。ABCD1遺伝子が正常に機能している場合、ALDPはこれらのVLCFAをペルオキシソーム内に取り込み、酵素によって効率的に分解させる働きを担います。
しかし、ABCD1遺伝子に変異があると、ALDPの構造や機能が損なわれ、VLCFAの分解がうまくいかなくなります。その結果、VLCFAが血液や組織に異常に蓄積し、神経細胞の機能低下や副腎皮質の障害を引き起こすことがあります。
このような代謝異常は、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)と呼ばれる進行性の神経変性疾患を発症する原因となります。したがって、ABCD1遺伝子の構造やその変異を調べることは、早期診断・家族内リスク評価において非常に重要です。
ABCD1遺伝子変異によって引き起こされる疾患:X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)
ABCD1遺伝子に変異があると、Adrenoleukodystrophy protein(ALDP)の機能が低下または消失し、非常に長鎖脂肪酸(VLCFA)が分解されずに体内に蓄積します。
このVLCFAの蓄積は、特に中枢神経系(脳や脊髄)や副腎皮質に強いダメージを与えることが知られており、以下のような複数の疾患を引き起こす原因となります。
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小児型脳ALD(Childhood cerebral ALD)
主に5~12歳の男児に発症しやすい型で、認知機能の低下、注意力障害、視力や聴力の低下、運動障害などが急速に進行します。
MRIでは白質の脱髄(神経の絶縁被膜の破壊)が確認されることが多く、早期の診断と対応が極めて重要です。 -
副腎脊髄神経障害(Adrenomyeloneuropathy / AMN)
思春期以降の男性や、一部の女性保因者に発症します。下肢の筋力低下、歩行困難、排尿障害など、徐々に進行する神経症状が特徴です。
多くの場合、成人後にゆっくりと症状が進行しますが、日常生活に支障をきたすこともあります。 -
アジソン病(副腎不全)
副腎皮質が破壊されることで、ホルモン(コルチゾールやアルドステロン)の分泌が低下します。
食欲不振、体重減少、色素沈着、低血糖、脱力感などが見られ、重症化すると命に関わることもあります。
これらの疾患はいずれもX連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)と総称され、同じ遺伝子変異によって生じるにも関わらず、発症年齢や症状の重さには大きな個人差があります。
さらに、同じ家系内でも、小児型脳ALDとして発症する場合と、AMNやアジソン病として発症する場合があり、遺伝カウンセリングなどを通じて個々のリスク評価を行うことが非常に重要です。
遺伝形式と家族への影響
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)は、その名の通りX染色体に存在するABCD1遺伝子の変異によって引き起こされるX連鎖劣性遺伝疾患です。
遺伝の仕組みとして、男性はX染色体を1本しか持たないため、変異を受け継ぐと高確率で発症します。一方、女性はX染色体を2本持っており、片方に変異があっても、もう一方が正常であれば多くの場合は症状が現れません。このような女性は保因者(キャリア)と呼ばれます。
しかし、保因者である女性も決して「無関係」ではありません。加齢とともに徐々に神経症状(歩行困難や下肢のしびれなど)を呈する場合があり、10~20%の保因者女性に臨床的な症状がみられるという報告もあります。
また、保因者女性が妊娠した場合、50%の確率で男児に変異が遺伝し、ALDを発症する可能性があります。女児の場合も50%の確率で保因者となるため、家族全体のリスク評価が非常に重要です。
保因者の判定には、血液中のVLCFA(非常に長鎖脂肪酸)検査が行われることがありますが、女性の場合は正常値を示すケースも多く、確定診断には遺伝子検査が不可欠です。
当院では、ABCD1遺伝子を含む広範な遺伝子を調べることができる拡張保因者検査を提供しています。
ご自身やお子さま、ご家族の健康を守るためにも、家族歴や症状に気づいた段階での早期の検査・相談が重要です。
ABCD1遺伝子の検査方法
血液や唾液からDNAを採取し、ABCD1遺伝子の変異を調べることができます。VLCFA検査も併用することが多いですが、女性保因者の場合は遺伝子検査がより確実な診断手段です。
当院では、拡張保因者検査にてABCD1遺伝子の変異を調べることが可能です。
遺伝カウンセリングの重要性
ABCD1遺伝子変異が見つかった場合、ご本人やご家族の今後について考える上で、専門的な助言が必要になります。
当院では、臨床遺伝専門医が常駐し、遺伝カウンセリングを提供しています。
当院での検査とサポート体制
ミネルバクリニックでは、ABCD1遺伝子を含む保因者検査に対応しており、検査前後には専門医による丁寧な説明を行っています。検査結果をもとに、妊娠や出産、家族計画に関するご相談も可能です。
さらに、NIPT(新型出生前検査)など、幅広い遺伝子検査に対応しており、ご希望に応じて最適なプランをご提案します。
まとめ:ABCD1遺伝子と向き合うために
ABCD1遺伝子の変異は、家族や将来の子どもにも影響を及ぼす可能性があるため、正しい知識と適切な対応が求められます。早期の検査と専門医による支援により、安心して未来を選択できる環境を整えることができます。
気になる方は、まずはお気軽に当院までご相談ください。

ミネルバクリニックでは、「未来のお子さまの健康を考えるすべての方へ」という想いのもと、東京都港区青山にて保因者検査を提供しています。遺伝性疾患のリスクを事前に把握し、より安心して妊娠・出産に臨めるよう、当院では世界最先端の特許技術を活用した高精度な検査を採用しています。これにより、幅広い遺伝性疾患のリスクを確認し、ご家族の将来に向けた適切な選択をサポートします。
保因者検査は唾液または口腔粘膜の採取で行えるため、採血は不要です。 検体の採取はご自宅で簡単に行え、検査の全過程がミネルバクリニックとのオンラインでのやり取りのみで完結します。全国どこからでもご利用いただけるため、遠方にお住まいの方でも安心して検査を受けられます。
まずは、保因者検査について詳しく知りたい方のために、遺伝専門医が分かりやすく説明いたします。ぜひ一度ご相談ください。カウンセリング料金は30分16500円です。
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