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PUS1遺伝子とは?RNAを修飾する酵素とMLASA1(ミオパチー・乳酸アシドーシス・鉄芽球性貧血)を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出。

遺伝子と聞くと、多くの人は「体の設計図であるDNA」を思い浮かべます。ですが、その設計図を実際に使う現場では、RNAという分子が大活躍しています。そしてRNAは、作られたあとに「微調整」を受けて、はじめて一人前に働けるようになります。この記事で解説するPUS1遺伝子は、その微調整のひとつ、RNAの部品「ウリジン」を「シュードウリジン」に組み替える酵素の設計図です。PUS1がうまく働かないと、両方の親から変化した遺伝子を受け継いだ場合に、MLASA1(エムラサ・ワン)という、筋肉・血液・代謝にまたがる希少な病気が起こることがわかっています。この記事では、PUS1という遺伝子が何をしているのか、なぜその不具合が体に影響するのかを、一般の方と遺伝診療に関わる方の双方を対象に、PUS1の分子機能と疾患との関係を解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 PUS1・RNA修飾・MLASA1
臨床遺伝専門医監修

Q. PUS1遺伝子とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. PUS1遺伝子は、RNAの中のウリジン(U)という部品を、シュードウリジン(Ψ/プサイ)という別のかたちに組み替える「シュードウリジン合成酵素」の設計図です。この組み替えは、tRNA(トランスファーRNA)を中心に、細胞質・核・ミトコンドリアなど複数の場所で行われ、RNAの構造を安定させて、タンパク質を作る作業をスムーズにします。両方の親から変化したPUS1遺伝子を受け継ぐと、MLASA1(ミオパチー・乳酸アシドーシス・鉄芽球性貧血1型)という希少な病気が起こることがあります。

  • 正体 → RNAのウリジンをシュードウリジン(Ψ)に変える酵素の設計図
  • おもな相手 → tRNAを中心に、mRNAやその他のRNAも修飾する「働き者」
  • 働く場所 → 細胞質・核・ミトコンドリアの3か所(アイソフォームで決まる)
  • 関連する病気 → 両アレル性の変異でMLASA1(筋肉・乳酸・貧血の三徴)が起こる
  • 遺伝のかたち → 常染色体潜性(劣性)遺伝。保因者どうしの子で1/4の確率

🧬 PUS1遺伝子の基本情報

項目 内容
遺伝子シンボル PUS1(正式名称:pseudouridine synthase 1/シュードウリジン合成酵素1)
別名 MLASA1(※病気の名前と同じ略号が使われることがあり、混同に注意)
染色体の位置 12番染色体長腕の末端付近(12q24.33
おもな登録番号 HGNC:15508/NCBI Gene:80324/Ensembl:ENSG00000177192/UniProt:Q9Y606
遺伝子タイプ タンパク質をつくる遺伝子(protein coding)。基準の転写産物はNM_025215.6で、427アミノ酸の酵素をつくります
関連する病気 MLASA1(OMIM #600462)。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)

※本記事は一般の方と遺伝診療に関わる方の両方に向けた解説です。特定の検査を勧めるものではありません。

1. PUS1遺伝子とは ─ RNAを「微調整」する酵素の設計図

わたしたちの遺伝情報は、DNAという長い鎖に書かれています。ですが、その情報を使ってタンパク質を作るときには、いったんDNAの内容がRNAという分子にコピーされます。このRNAは、そのままでは完成品ではありません。作られたあとに、さまざまな「化学的な飾りつけ」を受けて、はじめてきちんと働けるようになります。この飾りつけをRNA修飾と呼びます。PUS1が担うシュードウリジン化は、そのなかでも最もありふれた修飾のひとつです。

PUS1遺伝子がつくるのは、シュードウリジン合成酵素1という酵素です[6]。この酵素は、RNAの部品であるウリジン(U)を、そのよく似た仲間であるシュードウリジン(Ψ、ギリシャ文字で「プサイ」と読みます)に組み替えます。ウリジンをいったん切り離して別のものに付け替えるのではなく、RNAの鎖につないだまま、化学的なつながり方だけを変えるのが特徴です。

💡 用語解説:シュードウリジン(Ψ)とは

シュードウリジンは、ウリジンの「異性体」です。異性体とは、含まれる原子は同じなのに、つながり方が違う分子のことです。ふつうのウリジンは、糖と塩基が「窒素(N)と炭素(C)」でつながっていますが、シュードウリジンでは「炭素(C)と炭素(C)」でつながっています。この小さな違いによって、RNAの局所的な形が安定し、塩基どうしの積み重なりや水素結合が変わって、RNAが働きやすくなります。「5番目のヌクレオチド」と呼ばれるほど、RNAの世界ではありふれた、大切な部品です。

ここで大切なのは、PUS1は「決まった1つのRNAだけを直す酵素」ではないという点です[4]。tRNA(トランスファーRNA)を中心に、細胞質のtRNA、ミトコンドリアのtRNA、さらに一部のmRNAやその他のRNAまで、幅広い相手を修飾できます。いわば、RNAの世界の「何でも屋の微調整職人」です。そのため「PUS1はミトコンドリアの酵素です」とだけ説明するのは、正確ではありません。実際には、細胞のいくつかの場所で、異なるRNAを相手に働いています。

2. 基本情報 ─ PUS1はどこにある、どんな遺伝子か

PUS1遺伝子は、12番染色体の長腕のいちばん端に近い場所(12q24.33)にあります[1]。ヒトの正式な遺伝子として登録されており、国際的な遺伝子名の管理機関HGNCでの番号はHGNC:15508です。基準となる転写産物(設計図の主要バージョン)はNM_025215.6で、これは427個のアミノ酸からなる酵素タンパク質をつくります。

💡 論文を読むときの注意:変異の番号は「バージョン」で変わる

PUS1に関する古い論文と新しい論文では、同じ変異でもアミノ酸の番号が違って書かれていることがあります。たとえば、最初にMLASA1の原因として報告された変異は、古い論文では「R116W」、現在の基準バージョン(NM_025215.6)では「R144W」と表記されます[1]。同じ変異を指しているのに、数字がずれて見えるのは、基準にする設計図のバージョンが異なるためです。混乱を避けるため、遺伝子検査の結果を読むときは「どの転写産物を基準にしているか」を必ず確認することが大切です。

PUS1という名前は、酵素の分類の「TruA/Pus1ファミリー」に属することに由来します。このファミリーは、ガイドとなる別のRNAを必要とせず、酵素が単独で標的を見つけて修飾する「スタンドアローン型」のシュードウリジン合成酵素です[6]。ヒトの体には十数種類のシュードウリジン合成酵素があり、それぞれ担当するRNAや位置が少しずつ違っています。PUS1はそのなかでも、担当範囲の広いメンバーのひとつです。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「地味な裏方」ほど、壊れると影響が大きい】

遺伝子の名前を聞くと、多くの方は「病気の遺伝子」というイメージを持たれます。ですが、PUS1のような遺伝子が本来担っているのは、RNAの微調整という、とても地味で目立たない裏方の仕事です。RNA修飾酵素のように基礎的な細胞機能を支える遺伝子では、機能が失われると複数の組織に影響が及ぶことがあります。

PUS1もその一例で、修飾対象となるtRNAはタンパク質合成に関わり、PUS1機能の低下はミトコンドリア機能や翻訳の異常を介して、筋肉や造血系に影響します。PUS1の分子機能を理解することは、遺伝子の変化とMLASA1の病態を結びつけて考えるうえで役立ちます。

3. 酵素の構造 ─ アイソフォームと働く場所

N末端の違いが「働く場所」を決める

PUS1で特に重要なのが、アイソフォームという考え方です。アイソフォームとは、同じ遺伝子から作られる、少しずつ形の違うタンパク質のことです。PUS1では、代表的なものとして427アミノ酸の長いタイプと、399アミノ酸の短いタイプが知られています[3]

この2つの違いは、タンパク質の先頭(N末端)にあります。長いタイプは、先頭にミトコンドリアへ運ばれるための「宛名ラベル」を持っています。そのためミトコンドリアの中へ送られます。一方、短いタイプはこのラベルを欠いているため、おもに核に集まります。2007年の研究では、蛍光タンパク質をつないで観察することで、この「宛名ラベルの有無」で酵素の行き先が変わることが実際に確かめられました[3]

長いN末端をもつPUS1宛名ラベルあり
ミトコンドリアへ
短いN末端から始まるPUS1宛名ラベルなし
おもに核へ

つまり、正確には「PUS1は核・細胞質・ミトコンドリアで働くRNA修飾酵素であり、アイソフォームとN末端の配列によって、どこで働くかが決まる」と理解するのが適切です。ひとつの遺伝子が、行き先の違ういくつかのタイプを作り分けることで、細胞のあちこちで同じ種類の仕事をこなしているのです。

立体構造からわかった「触媒の中心」

2014年には、ヒトPUS1の触媒部分の立体構造が、X線結晶構造解析という手法で明らかになりました[6]。この研究では、酵素の中心にある「反応を起こす部屋(活性部位)」の形が詳しく解析されました。PUS1は2つのドメイン(機能のまとまり)からできていて、その間にRNAが入り込む空間が作られています。

構造解析からは、この酵素が細菌の似た酵素(TruA)とは違って、真核生物に特有の「余分な部品(C末端のらせん)」を持つことがわかりました[6]。この余分な部品は、細菌型の酵素が2つ組みになるのを立体的に邪魔していると考えられ、ヒトPUS1が細菌型とは違う相手を選ぶことと関係している可能性があります[5]。反応の中心となるアミノ酸としては、アスパラギン酸(Asp146、427アミノ酸バージョンでの番号)が特に重要で、シュードウリジン合成酵素の仲間に共通して保存された「触媒の要」の残基です[6]

4. 正常な働き ─ PUS1は何をしているのか

PUS1の基本の反応は、とてもシンプルです。RNAの中のウリジン(U)を、シュードウリジン(Ψ)に組み替える。ただそれだけです。しかし、この一見小さな変化が、RNAの働きに大きな意味を持ちます。シュードウリジンになることで、RNAの局所的な形が安定し、塩基の積み重なりや水素結合のネットワークが変わって、RNA全体の構造がしっかりします[6]

tRNAのあちこちを直す「複数箇所修飾」

PUS1は、tRNAという種類のRNAを主要な相手にしています。tRNAは、タンパク質を作るときにアミノ酸を運んでくる「配達役」のRNAです。PUS1は、1つのtRNAの複数の位置を修飾できます。古典的な研究では、tRNAのΨ27、Ψ28、Ψ34、Ψ36といった、いくつもの場所でシュードウリジンを作ることが示されています[4]。ここでも「PUS1は特定の1か所だけを直す酵素ではない」という点が繰り返し確認できます。

「配列」ではなく「かたち」で相手を見分ける

では、PUS1はどうやって直すべき場所を見つけるのでしょうか。2012年の研究では、ヒトPUS1がtRNAを修飾するときの条件が詳しく調べられました[4]。その結果、PUS1は決まった文字の並び(配列)を厳密には必要とせず、RNAの立体的な「かたち」(二次構造)を手がかりにしていることがわかりました。つまりPUS1は「配列認識型」というより「構造認識型」の性質が強い酵素だと言えます[4]。この柔軟さこそが、PUS1が幅広い相手を修飾できる理由のひとつです。

tRNAだけではない ─ mRNAも相手にする

近年の研究では、PUS1の仕事がtRNAにとどまらないことがわかってきました。2014年に、細胞の中のRNA全体を網羅的に調べた研究によって、PUS1を含むスタンドアローン型の酵素が、mRNA(メッセンジャーRNA)も修飾することが明らかになりました[7]。しかも、mRNAのシュードウリジン化の多くは、栄養不足などの環境の変化に応じて増えたり減ったりする、調節された現象であることも示されました[7]

2023年には、酵母のPUS1がmRNAの標的を認識するしくみが、立体構造のレベルで解析されました[8]。この研究では、PUS1が二本鎖になったRNAの両側をつかみ、直すべきウリジンを反応の中心へ導くようすが示されています[8]。ここでも「RNAのかたちが認識を決める」という、PUS1の一貫した性質が確認されました。「PUS1はtRNAの酵素」という古い理解は、こうして少しずつ広げられてきたのです。

6. 変異と病気 ─ MLASA1(ミオパチー・乳酸アシドーシス・鉄芽球性貧血)

PUS1遺伝子の両方のコピー(父由来・母由来の両方)に病気を起こす変化があると、MLASA1(ミオパチー・乳酸アシドーシス・鉄芽球性貧血1型)という希少な病気が起こります[1]。病名が長いので、頭文字をとって「MLASA(エムラサ)」と呼ばれます。この病気は、次の3つの特徴を柱とします。

💡 用語解説:MLASA1の「三つの柱」

ミオパチー=筋肉がうまく働かず、運動に耐えられない(運動不耐)や筋力低下が起こる状態。乳酸アシドーシス=エネルギーを作る反応がうまく回らず、血液に乳酸という酸性の物質がたまる状態。鉄芽球性貧血(てつがきゅうせいひんけつ)=赤血球のもとになる細胞に鉄がうまく使われず、リング状に鉄がたまる「鉄芽球」が骨髄に増えるタイプの貧血。これら3つが組み合わさって現れるのが、MLASA1の典型像です。

MLASA1はきわめてまれな病気で、世界的にも報告されている患者さんの数は限られています。ある総説では、2025年の文献レビューでは、これまでに報告されたMLASA1の患者は世界で18人とされており[11]、いわゆる超希少疾患にあたります。発症の時期や重症度には幅があり、同じ家系の中で同じ変異を持っていても、症状の出方が違うことが知られています[3]。多くは小児期から運動のしにくさや貧血で気づかれますが、成人になってから診断される長期生存例も報告されています。

💡 まぎらわしい別の病気:MLASA2との区別

MLASAという同じ名前でも、原因遺伝子が違うタイプがあります。PUS1が原因のものがMLASA1YARS2という別の遺伝子が原因のものがMLASA2(OMIM #613561)です[12]。症状が似ているため、遺伝子検査ではPUS1とYARS2の両方を調べることが、正確な診断のために大切だと考えられています。この2つを区別することは、その後の説明や家族への情報提供にも関わってくるため、遺伝子レベルでの確認が重要になります。

7. 発症のしくみ ─ なぜ筋肉と血液に症状が出るのか

では、RNAを直す酵素の不具合が、どうして筋肉や血液の症状につながるのでしょうか。ここには、患者さんの細胞やモデル動物を使った研究で、段階的に確かめられた道すじがあります。

PUS1の両アレル性の変異両方のコピーに病的な変化
PUS1の酵素活性が低下・消失ヒト遺伝学で確立
tRNAのシュードウリジン化が減る患者由来の細胞で直接確認
細胞質・ミトコンドリアtRNAのΨ欠損患者由来の細胞で直接確認
tRNAの量・翻訳のバランスが乱れる患者iPSC・モデルで支持
ミトコンドリアの働きが低下患者組織・細胞・モデルで確認
エネルギー消費の多い筋肉・血液系に負担 → 三徴が現れる

患者さんの細胞で証明された「Ψの欠損」

2005年の重要な研究では、MLASA患者さん由来の細胞を解析しました[2]。その結果、患者さんの細胞では、PUS1がふだん修飾するはずのミトコンドリアのtRNA細胞質のtRNAの両方で、シュードウリジンが失われていました。さらに、患者さんの細胞の抽出液ではPUS1の酵素活性が検出されませんでした[2]。これは「PUS1の変異 → RNA修飾の異常」を、患者さんの試料で直接つないだ基礎となる研究です。

ミトコンドリアの「タンパク質工場」への影響

別の患者さんの報告では、PUS1に変化がある場合、患者さんの細胞のミトコンドリアで、呼吸鎖(エネルギーを作る装置)の複数の異常や、ミトコンドリア独自のタンパク質合成の低下が確認されました[3]。tRNAはタンパク質を作る作業に欠かせない部品なので、その修飾が失われると、ミトコンドリアの中でタンパク質を作る作業がうまく進まなくなります。ミトコンドリアはエネルギーを作る中心なので、その不調は、エネルギーを大量に使う筋肉に強く現れます。

2024年に具体化した「貧血のしくみ」

貧血がなぜ起こるのかは、長らくはっきりしていませんでした。しかし2024年の研究で、大きく前進しました[9]。この研究では、MLASA患者さん由来のiPS細胞や、同じ変異を持つマウスを使って、貧血が起こる道すじを詳しく調べました。PUS1が働かないと、ミトコンドリアのtRNAのシュードウリジン化が失われ、そのtRNAの量が減り、ミトコンドリアでのタンパク質合成が乱れます[9]

その結果、ミトコンドリアの膜の電位や酸素の消費、エネルギー(ATP)の産生が低下し、赤血球のもとになる細胞がうまく育たなくなることが示されました[9]。この研究ではmTOR(エムトール)という細胞の成長を調節するしくみが過剰に働いていることもわかり、その抑制によって赤血球への分化が改善する可能性も報告されました[9]。さらに別の2024年の研究では、細胞質のtRNAの修飾異常や、タンパク質を作る効率の変化も示されており[10]、MLASAを「純粋なミトコンドリアだけの病気」と単純化しないほうがよいことが見えてきました。

💡 用語解説:iPS細胞とモデルマウス

iPS細胞は、患者さんの細胞から作る、さまざまな細胞に変化できる特別な細胞です。これを使うと、患者さんの体を傷つけずに、病気の細胞のふるまいを実験室で再現できます。モデルマウスは、同じ遺伝子変化を持たせたマウスで、体全体でのしくみを調べるのに役立ちます。これらを組み合わせることで、「遺伝子の変化」から「実際の症状」までのつながりを、段階を追って確かめられるようになりました。

8. 診断と検査 ─ どうやって調べるのか

MLASA1は症状が多岐にわたり、筋肉・血液・代謝のそれぞれの専門で別々に検査が進むことも少なくありません。原因がなかなかわからないまま検査を重ねる状況は、多くの希少・遺伝性疾患に共通する経過です。このように複数の臓器・診療領域にまたがる症状を示す希少疾患では、診断までに時間を要することがあります。

遺伝学的な確定には、PUS1遺伝子の変化を直接調べる遺伝子検査が用いられます。症状の似たMLASA2(YARS2遺伝子)との区別も必要になるため、複数の遺伝子をまとめて調べる核遺伝子ミトコンドリア病のNGS遺伝子検査や、全エクソーム検査(WES)といった、幅広く調べる手法が診断に到達する手段になります。鉄芽球性貧血の側面からは遺伝性鉄芽球性貧血の遺伝子検査、乳酸アシドーシスの側面からは乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の遺伝子パネル検査など、それぞれの症状に対応した検査メニューが関わってきます。

💡 用語解説:PUS1でみられる変異のタイプ

PUS1では、アミノ酸が1つ別のものに置き換わるミスセンス変異(最初の報告例R144Wなど)や、タンパク質づくりが途中で止まってしまうナンセンス変異など、いくつかのタイプが報告されています[1][3]。どのタイプでも、共通して酵素の働きが損なわれることが、病気につながると考えられています。

なお、PUS1と常染色体潜性のミトコンドリア病との関係については、遺伝子と病気の結びつきの強さを専門家が評価する国際的な枠組み(ClinGen)において、最も高い「Definitive(確実)」という評価がなされています[13]。これは、研究と臨床の両方で繰り返し確認され、時間を経ても覆されていない、確立した関係であることを意味します。

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9. 遺伝のかたち ─ 常染色体潜性(劣性)遺伝とは

MLASA1は、常染色体潜性(劣性)遺伝というかたちで受け継がれます[1]。これは、PUS1遺伝子の2つのコピー(父由来と母由来)の両方に変化があってはじめて発症する、という意味です。片方だけに変化がある人は保因者(キャリア)と呼ばれ、通常は症状が出ません。

💡 用語解説:潜性(劣性)と保因者

「劣性」という言葉は「劣っている」という意味ではなく、「2つそろわないと表に出ない」という遺伝のしかたを指します。近年は誤解を避けるため「潜性(せんせい)」という言い方も使われます。両親がともにPUS1の保因者だった場合、子どもがMLASA1を発症する確率は4分の1(25%)、保因者になる確率は2分の1、変化を受け継がない確率は4分の1です。血縁の近いご夫婦(血族婚)では、同じ変化を共有している可能性が高まるため、潜性遺伝の病気の頻度がやや上がることが知られています。

当院では、遺伝子や染色体に関わる検査の前後で、臨床遺伝専門医遺伝カウンセリングを行っています。話し合う内容は、検査で何が分かり何が分からないのか、見つかった変化がご本人やご家族にとってどういう意味を持つのか、家系の中での再発の可能性はどうか、といった点です。遺伝カウンセリングでは、遺伝形式や検査結果の意味づけについて、臨床遺伝学の観点から中立的に情報を整理します。

10. よくある誤解

誤解①「PUS1はミトコンドリアだけの酵素」

PUS1は核・細胞質・ミトコンドリアの3か所で働きます。どこで働くかは、N末端の宛名ラベルの有無で決まるアイソフォームによって変わります。ミトコンドリア専用の酵素ではありません。

誤解②「決まった1か所だけを直す」

PUS1は複数箇所を修飾する酵素です。1つのtRNAの複数の位置を直し、しかもtRNA以外のmRNAなども相手にします。「何でも屋」的な幅広さが特徴です。

誤解③「配列だけで相手を見分ける」

PUS1は決まった文字の並びを厳密には必要とせず、RNAの立体的なかたち(構造)を手がかりに相手を見分けます。この柔軟さが、幅広い相手を直せる理由です。

誤解④「RNAの修飾だから体には影響しない」

PUS1が直すtRNAは、タンパク質を作る現場で使われる大切な部品です。その修飾が失われると、筋肉・血液・代謝という広い範囲に症状(MLASA1)が及びます。

まとめ ─ 「RNAの微調整」が持つ大きな意味

PUS1遺伝子は、RNAのウリジンをシュードウリジンに組み替える、地味だけれど欠かせない酵素の設計図です。tRNAを中心に、mRNAやその他のRNAまで幅広く修飾し、しかも核・細胞質・ミトコンドリアという複数の場所で働きます[4][6]。この微調整は、RNAの構造を安定させ、タンパク質を作る作業をスムーズにするうえで、大切な役割を果たしています。

両方のPUS1遺伝子に変化があると、MLASA1という希少な病気が起こり、筋肉・乳酸・貧血の三徴が現れます[1]。近年の患者由来iPS細胞やモデルマウスの研究によって、tRNA修飾の欠損からミトコンドリアの機能低下、そして貧血へとつながる道すじが具体的に描けるようになってきました[9][10]。「RNAの小さな組み替え」を担う遺伝子が、体の広い範囲を支えている——PUS1は、遺伝子の働きを触媒活性の有無だけでなく、その分子が担う役割の全体から読み解くことの大切さを、あらためて教えてくれます。正確な診断や遺伝学的評価を考える際の基礎知識として、この内容を役立てることができます。

よくある質問(FAQ)

Q1. PUS1遺伝子とは何ですか?

PUS1遺伝子は、RNAの部品であるウリジン(U)を、シュードウリジン(Ψ)という別のかたちに組み替える「シュードウリジン合成酵素1」の設計図です。この組み替えはRNA修飾と呼ばれ、tRNAを中心に、mRNAやその他のRNAでも行われます。修飾によってRNAの構造が安定し、タンパク質を作る作業がスムーズになります。PUS1は核・細胞質・ミトコンドリアの複数の場所で働きます。

Q2. PUS1の変異はどんな病気を起こしますか?

PUS1遺伝子の両方のコピーに病気を起こす変化があると、MLASA1(ミオパチー・乳酸アシドーシス・鉄芽球性貧血1型)という希少な病気が起こります。運動のしにくさや筋力低下(ミオパチー)、血液に乳酸がたまる乳酸アシドーシス、鉄芽球性貧血の3つが柱です。世界的にも報告例の限られた超希少疾患で、発症時期や重症度には幅があります。

Q3. MLASA1はどのように遺伝しますか?

常染色体潜性(劣性)遺伝というかたちで受け継がれます。PUS1遺伝子の2つのコピーの両方に変化があってはじめて発症します。片方だけに変化がある人は保因者と呼ばれ、通常は症状が出ません。両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率は4分の1です。血縁の近いご夫婦では頻度がやや上がることが知られています。

Q4. MLASA1とMLASA2は何が違うのですか?

症状は似ていますが、原因となる遺伝子が違います。PUS1が原因のものがMLASA1、YARS2という別の遺伝子が原因のものがMLASA2です。見た目の症状だけでは区別が難しいため、遺伝子検査では両方の遺伝子を調べることが、正確な診断のために大切だと考えられています。この区別は、その後の家族への説明にも関わってきます。

Q5. PUS1に関する検査はどこで受けられますか?

MLASA1の確定には、PUS1遺伝子の変化を調べる遺伝子検査が用いられます。似た症状のMLASA2との区別のため、複数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査や全エクソーム検査などが診断に用いられます。検査を検討される場合は、結果の意味を臨床遺伝専門医とともに整理することをおすすめします。当院では検査の前後で遺伝カウンセリングを行っています。

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参考文献

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  • [13] ClinGen Mitochondrial Diseases Gene Curation Expert Panel. PUS1–mitochondrial disease gene-disease validity: Definitive; autosomal recessive inheritance. Classification date: 2022-08-01. [ClinGen HGNC:15508]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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