この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

鉄芽球性貧血は、体の中に鉄があるのに、その鉄を赤血球づくりに使えないために起こる貧血です。骨髄の赤血球のもとになる細胞の中で、鉄がミトコンドリアにたまってしまいます。生まれつきの遺伝子の変化で起こるものを「遺伝性(先天性)鉄芽球性貧血」といい、当院の遺伝子検査ではALAS2・SLC25A38など8つの原因遺伝子を一度に調べます。原因遺伝子がわかると、ビタミンB6やビタミンB1が効く型かどうか、鉄のたまりすぎにどう備えるか、ご家族にどう伝わるかが具体的になります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、これからの治療の選び方やご家族の計画に、ずっと使える情報になります。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
遺伝性鉄芽球性貧血の原因になる8つの遺伝子(ABCB7・ALAS2・GLRX5・PUS1・SLC19A2・SLC25A38・TRNT1・YARS2)に、病気の原因となる変化があるかを一度に調べます。どの遺伝子の型かがわかると、効く可能性のあるビタミンや、気をつけたい合併症が決まります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
骨髄検査で環状鉄芽球が見つかった方、若いうちから原因のわからない貧血と鉄のたまりすぎがある方、ご家族に鉄芽球性貧血の方がいる方です。骨髄異形成症候群などによる後天性のものと見分けたい方にも向いています。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、どの検体でもオンライン診療で受けられます(血液は全国の提携医療機関で採血)。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。X連鎖の型か常染色体潜性の型かで、ご家族への伝わり方が変わります。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったときの扱いもご説明します。
1. 遺伝性鉄芽球性貧血とは|体に鉄があるのに、赤血球に使えない貧血
鉄芽球性貧血は、赤血球のもとになる細胞(赤芽球)のミトコンドリアに鉄がたまり、その鉄をヘモグロビンづくりにうまく使えないことで起こる貧血です[1][2]。鉄が「足りない」ために起こる鉄欠乏性貧血とは、しくみが正反対です。
ヘモグロビンの材料になる「ヘム」は、赤芽球のミトコンドリアの中で鉄を組み込んで作られます。この工程や、ミトコンドリアの働きを支える遺伝子に変化があると、鉄は細胞の中に運び込まれるのに使われず、ミトコンドリアにたまっていきます[1]。こうして、鉄が十分にあるのに赤血球がうまく作れない状態になります。
環状鉄芽球とは
環状鉄芽球は、鉄を多く抱えたミトコンドリアが核のまわりを輪のように取り囲んで見える赤芽球のことで、鉄芽球性貧血の診断の決め手になる所見です[1][2]。骨髄の細胞を鉄に色がつく方法(鉄染色)で染めて、顕微鏡で調べます。
骨髄異形成症候群の国際作業部会は、環状鉄芽球を「鉄の粒が5つ以上あり、それが核の周りの3分の1以上を取り囲んでいる赤芽球」と定めています[3]。環状鉄芽球は「この細胞が見えたら鉄芽球性貧血」という目印ですが、それが遺伝性によるものか、後天性のものかまでは、顕微鏡だけでは決められません。
遺伝性と、骨髄異形成症候群などによる後天性の違い
鉄芽球性貧血の大部分は後天性で、遺伝性(先天性)のものよりはるかに多いとされています[1]。後天性の代表は、骨髄の血液をつくる細胞に年齢とともに変化が起こる骨髄異形成症候群(MDS)です。環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群では、70〜90%にSF3B1という遺伝子の後天的な変化(その方の骨髄の細胞だけに起きた変化)が見つかると報告されています[1]。そのほか、アルコールや一部の薬による鉄芽球性貧血もあります[2]。
一方、遺伝性鉄芽球性貧血は、生まれつき持っている遺伝子の変化が原因です。後天性と遺伝性では、治療の考え方も、ご家族に関係するかどうかも違います。このページの検査は、生まれつきの遺伝子(生殖細胞系列)の変化を調べる検査で、骨髄異形成症候群のような骨髄の細胞だけに起きた変化を調べる検査ではありません。若いうちから貧血がある、ご家族にも同じような貧血がある、といった場合は、遺伝性を考えて遺伝子検査を検討します。
鉄欠乏性貧血・サラセミアとの違い
赤血球が小さく色の薄い貧血(小球性低色素性貧血)は、鉄欠乏性貧血でも、遺伝性鉄芽球性貧血のいちばん多い型(ALAS2の型)でもみられます[1][2]。見た目の似た貧血でも、鉄欠乏性貧血は鉄が足りない状態、鉄芽球性貧血は鉄があるのに使えない状態なので、鉄剤を飲めば治るとは限りません。
血液検査で体の鉄の量(フェリチンなど)を測ること、骨髄で環状鉄芽球を確かめることが、両者を見分ける手がかりになります。遺伝性の貧血には、サラセミアや先天性赤血球形成異常性貧血(CDA)などほかの病気もあり、遺伝子検査は、どの病気かをはっきりさせる手段のひとつです。
🩸 似ている貧血との違い(しくみの比較)
※しくみは文献[1][2]による。実際の見分けは、血液検査・骨髄検査・ご家族の情報をあわせて主治医が行います。
症状と、輸血をしていなくても起こる鉄のたまりすぎ
症状の中心は、疲れやすさ・息切れ・顔色の悪さなどの貧血の症状です。もうひとつ大事なのが、体に鉄がたまりすぎること(鉄過剰)です。ALAS2の型では、輸血をしていなくても鉄過剰が起こるとされています[1]。鉄をうまく使えないぶん、腸から鉄を取り込み続けてしまい、肝臓などの臓器に鉄がたまっていくためです[2]。
貧血が軽くても、鉄過剰が進んでいることがあります。重い型で輸血を続けている方では、輸血による鉄の負担も加わります[1][2]。病型によっては、貧血のほかに神経・筋肉・免疫などの症状を伴うこともあります(第2章)。
日本の制度:指定難病286
遺伝性鉄芽球性貧血は、指定難病286に指定されています(難病情報センターの情報、2026年10月17日に確認)。難病情報センターは、まれな病気のため正確な頻度はわかっていないとしたうえで、ALAS2遺伝子によるX連鎖性鉄芽球性貧血がいちばん多い型であると説明しています。医療費の助成を受けるには、診断基準と重症度の条件を満たし、申請する必要があります。認定の条件や申請の方法は、難病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
2. 原因遺伝子がわかると何が変わるか
遺伝性鉄芽球性貧血は、どの遺伝子の型かによって、効く可能性のあるビタミン、鉄過剰への備え方、注意したいほかの臓器が変わります。病名に「遺伝性」がつくだけでは、次の一手は決まりません。原因遺伝子までわかってはじめて、治療と経過観察の方針が具体的になります。なお、当院は遺伝子検査と遺伝カウンセリングを行う施設で、治療は血液内科などの主治医のもとで行われます。
ALAS2の型:ビタミンB6(ピリドキシン)が効くことがある
ALAS2の型(X連鎖性鉄芽球性貧血)は、遺伝性鉄芽球性貧血のなかでいちばん多い型で[1][4]、多くの方でビタミンB6(ピリドキシン)が、ある程度効くとされています[1][2]。
なぜビタミンB6なのかというと、ALAS2は、ヘムづくりの最初の工程を担う酵素で、ビタミンB6からできる「ピリドキサールリン酸」を補酵素(酵素が働くのを助ける物質)として使うからです[1]。最初に報告されたALAS2の変化も、ビタミンB6が効く家系で見つかり、その変化は酵素がピリドキサールリン酸と結びつく部分にありました[5]。ただし、効き方には個人差があり、全員に効くわけではありません。どのくらいの量をどれくらい続けるかは、主治医が経過を見ながら決めます。
ALAS2には、まったく別の病気もあります。ALAS2の働きが逆に強くなりすぎる特定の変化(遺伝子の終わりの部分の欠失)では、貧血ではなく、ポルフィリン症のひとつである「X連鎖性プロトポルフィリン症」が起こることが報告されています[6]。同じ遺伝子でも、変化の場所と種類で病気が変わる例です。ポルフィリン症については、ポルフィリン症のページで解説しています。
SLC19A2の型:ビタミンB1(チアミン)が効く
SLC19A2の型は「チアミン反応性巨赤芽球性貧血(TRMA)」と呼ばれ、巨赤芽球性貧血・糖尿病・感音難聴を特徴とします[12]。貧血は、ビタミンB1(チアミン)を薬として使う量で治療できるとされています[1]。
この型の貧血は、ほかの多くの型と違って赤血球が大きくなる(大球性)タイプです[1][2]。貧血・糖尿病・難聴が同じ方にそろっているときは、この型を考えるきっかけになります。原因が遺伝子でわかると、貧血だけでなく糖尿病や聴力の経過観察まで含めて、計画を立てやすくなります。
鉄のたまりすぎへの備え(除鉄)
ALAS2の型では、輸血をしていなくても鉄がたまるため、貧血の程度にかかわらず、体の鉄の量を見張ることが大切です[1]。ビタミンB6を続けながら少しずつ血を抜く方法(瀉血)が、安全に行えるとされています[2]。
輸血が欠かせない重い型(SLC25A38の型など)では、輸血と、薬で鉄を体の外に出す治療(鉄キレート療法)が行われます[2]。鉄がたまる遺伝性の病気には、ほかに遺伝性ヘモクロマトーシスもあります。鉄過剰の原因を見分けたい方は、ヘモクロマトーシスの遺伝子検査もあわせてご覧ください。
重い型での造血幹細胞移植:SLC25A38の型は、重い小球性貧血で、多くは輸血が欠かせなくなり、ビタミンB6は効かないとされています[1][2]。この型では、他人の造血幹細胞を移植する造血幹細胞移植が、根本的な治療になりうる唯一の方法とされています[2]。移植を考えるかどうかは、専門の医療機関で判断されます。原因が遺伝子でわかっていることは、その判断の出発点になります。
貧血以外の見張り(症候性の型)
8つの遺伝子のうちいくつかは、貧血のほかに神経・筋肉・免疫などの症状を伴う「症候性」の型を起こします。原因遺伝子がわかると、貧血以外に何を見張ればよいかが決まります。
- ●ABCB7:小さいころから現れる、進まないタイプの小脳性運動失調(ふらつき・動きのぎこちなさ)を伴います[2][7]。貧血より運動失調のほうが目立つことが多いとされています[1]。
- ●PUS1・YARS2:ミオパチー(筋肉の病気)・乳酸アシドーシス・鉄芽球性貧血を合わせもつ「MLASA」を起こします[11][15]。PUS1によるものはMLASA1のページで解説しています。どちらもミトコンドリアのたんぱく質づくりにかかわる遺伝子で、ミトコンドリア病の一種と考えられます。
- ●TRNT1:鉄芽球性貧血・B細胞の免疫不全・くり返す発熱・発達の遅れを合わせもつ「SIFD」を起こします[13]。働きが少しだけ落ちる変化では、網膜色素変性症と赤血球が小さくなる所見だけが現れる型も報告されています[14]。
- ●GLRX5:鉄過剰を伴う小球性の鉄芽球性貧血として報告されたほか[9]、小児期に始まる痙性対麻痺(足のつっぱり)や視神経萎縮を特徴とする神経の病気の原因にもなります[10]。
- ●SLC19A2:糖尿病と感音難聴を伴います(上のTRMA)[12]。
3. 遺伝のしかた|X連鎖と常染色体潜性
8つの遺伝子のうち、ALAS2とABCB7はX連鎖、残りの6つ(GLRX5・PUS1・SLC19A2・SLC25A38・TRNT1・YARS2)は常染色体潜性(劣性)の遺伝のしかたをとります。どちらの型かで、ご家族に伝わる確率が大きく変わります。遺伝のしかたの基本は遺伝形式とはで解説しています。
X連鎖(ALAS2・ABCB7):女性の保因者にも症状が出ることがある
男性はX染色体を1本しか持たない(ヘミ接合)ため、そのX染色体に原因の変化があると発症します。女性はX染色体を2本持つため、1本に変化があっても、もう1本が働きを補うことが多く、症状が出ないか軽いことが多くなります。くわしくはX連鎖遺伝とはをご覧ください。
👪 X連鎖の場合、お子さんへの伝わり方
※X連鎖の遺伝の基本による。難病情報センターも、X連鎖性鉄芽球性貧血の保因者の女性の息子さんは2分の1で発症し、娘さんは2分の1で保因者になると説明しています(2026年10月17日に確認)。
ALAS2の型では、女性でも発症することがあります。総説によると、症状があってALAS2の型と診断された発端者のおよそ4分の1は女性で、女性は中年期以降に見つかることが多く、そのほとんどで白血球のX染色体の働き方の偏りがみられたとされています[1]。女性の細胞では2本のX染色体のどちらか一方が働かなくなる「X染色体不活化」が起こり、変化のない方のX染色体が多く眠ってしまうと、女性でも症状が出ます。また、女性では赤血球の大きさが正常か、大きめに出ることがあるとされ[1]、男性と同じ見た目の貧血にならないことがあります。
⚠️ 「女性だから関係ない」とは言えません
X連鎖の病気は「男性の病気」と思われがちですが、ALAS2の型では女性が発症することがあり、しかも大人になってから見つかることが多いとされています[1]。息子さんがこの病気と診断されたお母さんや、お父さんがこの病気の娘さんは、ご自身の健康管理(貧血と鉄の量の確認)のためにも、将来の妊娠の計画のためにも、ご自身が変化をもっているかを知っておくことに意味があります。
常染色体潜性(6遺伝子):きょうだいで4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝では、対になった2本の遺伝子の両方に変化があると発症します。ご両親はそれぞれ変化を1本ずつもつ「保因者」で、ふつう症状はありません。ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに、4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で保因者になり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。上のお子さんの結果で、下のお子さんの確率が変わることはありません。保因者のしくみは潜性遺伝と保因者で解説しています。
ミトコンドリアDNAの型(ピアソン症候群)はこの検査の対象外
鉄芽球性貧血を起こす病気のうち、ピアソン症候群は、細胞の核の遺伝子ではなく、ミトコンドリアが自分で持っているDNA(ミトコンドリアDNA)の一部が欠けることで起こります[1]。大きな赤血球の鉄芽球性貧血・乳酸アシドーシス・膵臓の外分泌の働きの低下を特徴とします[1]。
このページの検査は、核の中にある8つの遺伝子を調べる検査なので、ミトコンドリアDNAの変化は調べません。ピアソン症候群などミトコンドリアDNAの病気が疑われる場合は、ミトコンドリアDNAを調べる別の検査(ミトコンドリア病の遺伝子検査)を検討します。どの検査が合うかは、遺伝カウンセリングでご相談ください。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
鉄芽球性貧血とわかっていて、それが遺伝性かどうか、どの型かを知りたい方に向く検査です。後天性のものと思われていた貧血が遺伝性だったり、その逆だったりすると、治療や経過観察の方針が変わります。原因がはっきりしないまま検査をくり返す回り道を、1回の検査で短くできる可能性があります。
この検査が向いている方
- ●骨髄検査で環状鉄芽球が見つかり、遺伝性かどうかを確かめたい方
- ●子どものころや若いうちから、赤血球が小さく色の薄い貧血があり、鉄剤で良くならない方
- ●貧血があり、体に鉄がたまっている(フェリチンが高いなど)と言われた方
- ●ご家族(とくにお母さん方の男性の血縁者)に鉄芽球性貧血の方がいる方
- ●巨赤芽球性貧血に、糖尿病や難聴が重なっている方
- ●ビタミンB6で貧血が良くなったことがあり、原因をはっきりさせたい方
- ●息子さんや兄弟がALAS2の型と診断され、ご自身が変化をもっているか知りたい女性
造血幹細胞移植を受けたことがある方は、検体の選び方に注意が必要なことがあるため、ご予約の際にお知らせください。
ほかの検査が向いている場合
貧血だけでなく白血球や血小板も減っている場合や、筋肉・神経など全身の症状が強い場合は、別の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類です。症状に合わせて選びます。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※遺伝子の数と含まれる遺伝子は、それぞれの当院の検査ページの記載による(2026年10月17日に確認)。遺伝性の骨髄不全の全体像は遺伝性骨髄不全症候群で解説しています。
5. 調べる8遺伝子と、わかる病気
この検査では、遺伝性鉄芽球性貧血に関係する8つの遺伝子を、次世代シーケンサーでまとめて調べます。遺伝子ごとに、起こる病気と遺伝のしかたは次のとおりです。
🧬 対象の8遺伝子と関係する病気
※病気と遺伝のしかたはOMIMの番号で照合した(2026年10月17日)。各遺伝子と病気の関係は文献[5]〜[15]による。PUS1・TRNT1・YARS2は、たんぱく質づくりに使われるtRNAの働きにかかわる遺伝子です。
先天性鉄芽球性貧血の83人の発端者を調べた研究では、ALAS2の変化が37%、SLC25A38の変化が15%に見つかり、43%では原因がわかりませんでした[4]。2019年の総説でも、わかっている遺伝子で説明できるのは先天性鉄芽球性貧血の3分の2あまりとされています[1]。この検査で原因が見つからない方もいる、ということを前もって知っておいてください。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、8つの遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わり、小さな挿入・欠失)と、遺伝子の大きな欠失・重複の一部です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
- ●遺伝子の小さな変化:たんぱく質の設計図になる部分(エクソン)と、その境目(スプライス部位)を読みます。対象の領域の99%以上を、同じ場所を20回以上読む精度で調べます。
- ●欠失・重複:遺伝子まるごとの欠失・重複(口の粘膜・血液の検体)と、となり合う2つ以上のエクソンにまたがる欠失・重複(血液の検体のみ)を調べます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●読み取りの確認:読み取りの質が十分でない部分は、サンガー法という別の方法で確かめます。
わからないこと
- ●8つ以外の遺伝子:鉄芽球性貧血には、このほかの原因遺伝子や、まだわかっていない原因もあります(第5章)。
- ●ミトコンドリアDNA:ピアソン症候群などのミトコンドリアDNAの変化は調べません。
- ●骨髄の細胞だけに起きた変化:骨髄異形成症候群のような、後から骨髄の細胞に起きた変化(体細胞変異)や、体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)を見つけるための検査ではありません。がんなどの腫瘍の組織も検査の対象外です。
- ●一部の種類の変化:染色体の入れ替わり(転座・逆位)、繰り返し配列が長くなる変化、遺伝子の働きを調節する部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基より奥の部分の変化は検出できません。1つのエクソンだけの欠失・重複も、ふつうは検出されません。よく似た配列(偽遺伝子など)がある場所では、変化を見つけにくいことがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、遺伝性鉄芽球性貧血ではないとは言い切れません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知識ではまだ判断できない変化が見つかることがあります。
調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿ってご説明します。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因が見つかったとき・見つからなかったとき・VUSのときで、次にできることが違います。
原因の変化が見つかったとき(ご家族の検査)
原因遺伝子がわかると、遺伝性鉄芽球性貧血の診断がはっきりし、ビタミンB6やB1を試す意味があるか、鉄の量をどう見張るか、貧血以外に何に気をつけるかが決まります(第2章)。指定難病の申請のときにも、原因が確定していることは手がかりになります。
ご家族の中で原因の変化がわかっていると、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、変化を受け継いでいるかどうかを確かめられます。X連鎖の型では、お母さんや姉妹、娘さんが保因者かどうかを知ることで、ご自身の健康管理と、将来の妊娠の計画を考えやすくなります。常染色体潜性の型では、きょうだいが発症していないか、保因者かを確かめられます。ご家族の検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
見つからなかったとき
原因が見つからなくても、遺伝性鉄芽球性貧血が否定されたわけではありません。症状に合わせて、8遺伝子を含むもっと広い核遺伝子ミトコンドリア病パネル、ミトコンドリアDNAの検査、全エクソーム検査などを考えます。後天性の鉄芽球性貧血の可能性について、主治医と相談することも大切です。
意義がわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断やご家族の発症予測には使いません。ただし、変化の意味を調べるために、ご家族で同じ変化があるかを確かめる検査を行うことがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
妊娠を考えている方へ:保因者検査と出生前診断
妊娠の前に、ご自身やパートナーが保因者かどうかを知っておけば、出生前診断まで計画できます。常染色体潜性の型では、ご夫婦の両方が保因者のときにお子さんが発症しうるため、パートナーの検査が大切です。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)の遺伝子一覧には、このページの8遺伝子のうちPUS1とSLC19A2が入っています。ほかの6遺伝子(ALAS2・ABCB7・GLRX5・SLC25A38・TRNT1・YARS2)は入っていないため、ご家族で原因がわかっている場合は、その遺伝子を調べる検査をご相談ください(2026年10月17日に遺伝子一覧で確認)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針(2026年9月改定)にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれの検体でもオンライン診療で受けられ、血液の検体の場合は全国の提携医療機関で採血していただけます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
お支払い・検体採取キットをお送りします
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。検体の取り違えを防ぎ、検査に必要な品質を保つためです。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【「鉄芽球性貧血」で止めず、原因遺伝子まで】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。遺伝性鉄芽球性貧血は、同じ「鉄芽球性貧血」という名前でも、ビタミンB6が効くことがある型、ビタミンB1が効く型、ビタミンB6が効かず輸血が欠かせない型、神経や筋肉の見張りが必要な型と、原因遺伝子によって次の一手がまったく違う病気です。だからこそ、病名で止めずに、原因遺伝子まで確かめることに意味があると考えています。X連鎖の型では、症状のない女性のご家族が、大人になってから発症することもあります。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、保因者検査から出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 鉄芽球性貧血の特徴は何ですか?
体の中に鉄があるのに、赤血球のもとになる細胞のミトコンドリアに鉄がたまり、ヘモグロビンづくりにうまく使えないことで起こる貧血です。骨髄を鉄染色で調べると、鉄を抱えたミトコンドリアが核のまわりを輪のように囲む「環状鉄芽球」が見つかるのが特徴です。大部分は骨髄異形成症候群などによる後天性で、生まれつきの遺伝子の変化による遺伝性のものはまれです。
Q2. 鉄芽球性貧血は遺伝しますか?遺伝のしかたは?
遺伝性鉄芽球性貧血は遺伝します。いちばん多いALAS2の型と、ABCB7の型はX連鎖で、保因者のお母さんの息子さんは1人ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎます。GLRX5・PUS1・SLC19A2・SLC25A38・TRNT1・YARS2の型は常染色体潜性で、ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。骨髄異形成症候群などによる後天性の鉄芽球性貧血は、ふつう遺伝しません。
Q3. ビタミンB6で良くなりますか?
ALAS2の型では、多くの方でビタミンB6(ピリドキシン)がある程度効くとされています。ALAS2という酵素が、ビタミンB6からできる物質を補酵素として使うためです。ただし効き方には個人差があり、SLC25A38の型のようにビタミンB6が効かない型もあります。SLC19A2の型ではビタミンB1(チアミン)で治療できるとされています。どの型かは遺伝子検査でわかります。
Q4. 後天性(骨髄異形成症候群など)の鉄芽球性貧血とどう違いますか?
後天性は、骨髄の細胞に後から起きた変化(環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群ではSF3B1遺伝子の変化が多い)や、アルコール・一部の薬などによるもので、鉄芽球性貧血の大部分を占めます。遺伝性は生まれつきの遺伝子の変化によるもので、ご家族に関係します。このページの検査は生まれつきの遺伝子を調べる検査で、骨髄の細胞だけに起きた変化を調べるものではありません。
Q5. 女性でも発症しますか?
発症することがあります。ALAS2の型はX連鎖のため男性に多いものの、症状があって診断された発端者のおよそ4分の1は女性で、女性は中年期以降に見つかることが多いとされています。女性の細胞でX染色体の働き方が偏ることが関係していると考えられています。
Q6. 家族も検査を受けたほうがよいですか?
ご家族の中で原因の変化がわかると、ほかのご家族は同じ場所を調べて、変化を受け継いでいるかどうかを確かめられます。X連鎖の型では、お母さん・姉妹・娘さんがご自身の健康管理と妊娠の計画のために、常染色体潜性の型では、きょうだいが発症や保因者かどうかを確かめるために役立ちます。ご家族の検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
Q7. 検査で原因が見つからなかったらどうなりますか?
原因が見つからなくても、遺伝性鉄芽球性貧血が否定されたわけではありません。先天性鉄芽球性貧血の83人の発端者を調べた研究でも、43%では原因がわかりませんでした。また、この検査ではピアソン症候群などのミトコンドリアDNAの変化は調べません。症状に合わせて、核遺伝子ミトコンドリア病パネル、ミトコンドリアDNAの検査、全エクソーム検査などを考えます。
Q8. 子どもを持つとき、何ができますか?
妊娠の前に、ご自身やパートナーが保因者かどうかを知っておけば、出生前診断まで計画できます。ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられ、絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。行えるかは病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
🧬 人生に一度の遺伝子検査を、治療とご家族の計画に
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子がわかれば、ビタミンB6・B1を試す意味があるか、鉄のたまりすぎにどう備えるかが決まり、ご家族が自分の状態を知る手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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