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ミトコンドリア病は遺伝することがある病気ですが、遺伝のしかたは原因によって違います。原因が細胞の核にある遺伝子の変化なら、潜性(劣性)・顕性(優性)・X連鎖のいずれかで、父親からも母親からも伝わります。原因がミトコンドリアの中にある小さなDNA(ミトコンドリアDNA)の変化なら、母親からだけ伝わります。脳・筋肉・心臓・耳・目・糖尿病など、ばらばらに見えた症状が1つの原因でつながることがあり、原因がわかると、避けたい薬や見張るべき合併症、ご家族それぞれの確率が決まります。このページでは、ミトコンドリア病の遺伝のしくみと、核遺伝子(677遺伝子)・ミトコンドリアDNA(37遺伝子)・その両方を調べる3つの遺伝子検査の選び方を、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. ミトコンドリア病は遺伝しますか?この検査で何がわかりますか?
遺伝することがあります。核の遺伝子の変化は父母どちらからも、ミトコンドリアDNAの変化は母親からだけ伝わります。この検査では、ミトコンドリアの働きに関わる核の677遺伝子と、ミトコンドリアDNAの37遺伝子のどちらか、または両方を調べ、原因の遺伝子の変化を探します。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
筋力低下・けいれん・心筋症・目の症状・難聴などがあり、ミトコンドリア病が疑われる方や、大人になってから症状が重なって原因を探している方、ご家族にミトコンドリア病の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
核遺伝子パネル・ミトコンドリアDNAパネルはそれぞれ税込330,000円、両方を調べる包括検査は税込638,000円です。結果までは3〜5週間。検体は血液・頬の内側の粘膜・唾液などです。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?治りますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。病気の経過そのものを変える治療は多くありませんが、原因がわかると、避けたい薬や合併症への備え、ご家族の検査、次の妊娠の計画が具体的になります。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。
\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /
核の遺伝子とミトコンドリアDNAの両方を、1回の検体で調べられます。検査の前後は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。
1. ミトコンドリア病とは?遺伝子検査で原因を調べる理由
ミトコンドリア病は、細胞の中でエネルギーをつくるミトコンドリアがうまく働かないために起こる病気の総称です。エネルギーをたくさん使う脳・筋肉・心臓・目・耳などに症状が出やすく、子どもで始まる型も、大人になってから見つかる型もあります。
エネルギーをつくるミトコンドリアと、全身に出る症状
ミトコンドリアは、ほとんどの細胞の中にあり、食べ物からとった栄養を、体が使えるエネルギーに変える「発電所」の役をしています。発電所がうまく動かないと、エネルギーをたくさん使う臓器から順に困ってきます。そのため、ミトコンドリア病の症状は1つの臓器にとどまらず、難聴、まぶたが下がる・目が動きにくいなどの目の症状、筋肉の病気(ミオパチー)、心筋症、けいれん、脳卒中のような発作、ふらつき(運動失調)、糖尿病などが重なって現れます[1]。
🫀 ミトコンドリア病で出やすい症状(臓器別)
| 臓器 | 出やすい症状の例 |
|---|---|
| 脳・神経 | けいれん、脳卒中のような発作、ふらつき(運動失調) |
| 筋肉 | 筋力低下、疲れやすさ(ミオパチー) |
| 心臓 | 心筋症 |
| 目 | まぶたが下がる、目が動きにくい(眼筋麻痺)など |
| 耳 | 難聴 |
| 内分泌 | 糖尿病 |
※症状の組み合わせや重さは人によって大きく違います。文献[1]と当院の検査の説明による。
子どもで始まる型・大人になってから見つかる型
ミトコンドリア病は、どの年齢でも発症しうる病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsも、ミトコンドリア病はどの年齢でも発症しうるとしています[1]。発症した年齢だけで、原因が核の遺伝子かミトコンドリアDNAかを決めることはできません。代表的な型には、次のようなものがあります。
- ●リー脳症(リー症候群):脳の病気の型。核の遺伝子の変化でも、ミトコンドリアDNAの変化でも起こります[1]。
- ●MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群):脳卒中のような発作を繰り返す型。日本では、脳卒中様発作をおさえる薬が承認されています(第8章)。
- ●糖尿病・難聴母系遺伝(MIDD):母親から伝わる、糖尿病と難聴が重なる型です。
- ●慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO):まぶたが下がり、目が動きにくくなる型。ミトコンドリアDNAの大きな欠失で起こることがあります[1]。
- ●ピアソン症候群:ミトコンドリアDNAの欠失による型のひとつ。
- ●NARP:神経障害・運動失調・網膜色素変性の頭文字をとった型。ミトコンドリアDNAのMT-ATP6遺伝子の変化(m.8993T>G)で起こり、同じ変化の割合が高いとリー脳症になることがあります[1]。
どれくらいの人がなる病気か
英国北東部の大人を対象にした研究では、ミトコンドリアDNAの病的変異をもつ人(症状のない人も含む)は約5,000人に1人(10万人あたり20人)、核の遺伝子の変化で症状が出ている人は10万人あたり2.9人で、合わせると約4,300人に1人と推定されました[2]。英国の1つの地域で専門施設に紹介された大人をもとにした最小の推計で、日本の全年齢の頻度をそのまま示す数字ではありません。
症状だけでは決めきれない理由
ミトコンドリア病の症状は、ほかの病気の症状とよく重なります。たとえば糖尿病・難聴・心筋症は、それぞれ単独でもよくある病気です。そのため、別々の診療科で別々の病気として扱われ、原因がわかるまでに長い時間がかかることがあります。米国ミトコンドリア医学会の合意声明は、遺伝子の診断がつくことで、ご家族が長い「診断の旅」を終え、適切な遺伝カウンセリングを受けられるようになるとしています[3]。
2. ミトコンドリア病は遺伝する?2つの設計図と遺伝のしかた
ミトコンドリア病の遺伝のしかたは、原因が「核の遺伝子」にあるか「ミトコンドリアDNA」にあるかで、まったく違います。だからこそ、遺伝子検査でどちらに原因があるかを確かめることが、ご家族の確率を考える出発点になります。
核のDNAとミトコンドリアDNA:細胞の中の2つの設計図
私たちの細胞には、2種類の設計図(DNA)があります。1つは、細胞の中心の「核」にある大きな設計図で、父親と母親から半分ずつ受け継ぎます。もう1つは、ミトコンドリアの中にある小さな設計図で、これをミトコンドリアDNA(ミトコンドリアゲノム)といいます。ミトコンドリアDNAは16,569塩基の小さな設計図で、37の遺伝子があります。そのうち13はエネルギーをつくる部品(呼吸鎖のたんぱく質)の設計図で、ほかはたんぱく質を作るための道具(22のtRNAと2つのrRNA)の設計図です[1]。
ミトコンドリアが働くのに必要なたんぱく質の大部分は、核の遺伝子が作っています。そのため、ミトコンドリア病は、核の遺伝子の変化でも、ミトコンドリアDNAの変化でも起こります[3]。
🧬 2つの設計図のちがい
| 項目 | 核のDNA | ミトコンドリアDNA |
|---|---|---|
| ある場所 | 細胞の核 | ミトコンドリアの中(1つの細胞にたくさん) |
| 誰から受け継ぐか | 父親と母親から半分ずつ | 母親からだけ |
| 遺伝のしかた | 常染色体潜性・常染色体顕性・X連鎖 | 母系遺伝(割合が子によって違う) |
| 当院で調べる検査 | 核遺伝子パネル(677遺伝子) | ミトコンドリアDNAパネル(37遺伝子) |
ミトコンドリアDNAの変化は、なぜ母親からだけ伝わるのか
ミトコンドリアDNAの変化は、父親からは子に伝わりません。GeneReviewsは、ミトコンドリアDNAの病気の発端者の父親には変化を伝えるリスクがなく、変化をもつ男性の子どもも受け継がないとしています[1]。赤ちゃんのミトコンドリアは、もとをたどると卵子にあったものだからです。
一方、ミトコンドリアDNAの変化をもつ女性のお子さんは、全員が受け継ぐ可能性があります[1]。ただし「どれくらいの割合で受け継ぐか」が子によって違うため、同じ母親から生まれたきょうだいでも、症状の出方は大きく違うことがあります。
ヘテロプラスミーとボトルネック効果:同じ家族でも重さが違う理由
1つの細胞には、ミトコンドリアDNAがたくさんあります。変化のあるミトコンドリアDNAと、変化のないミトコンドリアDNAが混ざっている状態をヘテロプラスミーといいます。症状が出るかどうかや重さは、変化のある割合や、臓器ごとの割合の違いで変わります[1]。
母親から子へ伝わるとき、この割合は大きく変わることがあり、お子さんはそれぞれ違う割合で受け継ぎます[1]。卵子ができる途中でミトコンドリアDNAの数がいったん絞られる「ボトルネック効果」が、その理由の1つと考えられています。そのため、ミトコンドリアDNAの病気では、お子さん一人ひとりの症状の重さを前もって正確に予測することは難しいのが現状です。
核の遺伝子の変化:遺伝のしかたごとの確率
核の遺伝子の変化によるミトコンドリア病は、常染色体潜性(劣性)・常染色体顕性(優性)・X連鎖のいずれかで遺伝します[1]。どれに当たるかは原因の遺伝子で決まるので、遺伝子検査で原因がわかってはじめて、ご家族の確率を具体的にお伝えできます。
📊 ミトコンドリア病の遺伝のしかたと、ご家族の確率
| 原因と遺伝のしかた | ご家族の確率の考え方 |
|---|---|
| 核:常染色体潜性(劣性) | ご両親がともに保因者のとき、きょうだいは受精の時点で4分の1(25%)の確率で発症します |
| 核:常染色体顕性(優性) | 変化をもつ親のお子さんは、1人ごとに2分の1(50%)の確率で受け継ぎます |
| 核:X連鎖 | 変化をもつ男性の娘さんは全員が受け継ぎます。母親が保因者かどうかで、お子さんの確率が変わります |
| ミトコンドリアDNA:小さな変化(点変異) | 父親からは伝わりません。母親のお子さんは全員が受け継ぐ可能性があり、受け継ぐ割合は子によって違います |
| ミトコンドリアDNA:大きな欠失(単一欠失) | 多くはその人に新しく起きた変化で、家族の1人だけに起こります。単一欠失による病気をもつ女性のお子さんが発症する確率は、研究集団の平均で約24分の1と見積もられています |
※文献[1][4]による。欠失をもつ女性の家系を集めた研究では、お子さんでの再発は4.11%(95%信頼区間0.86〜11.54%)でした[4]。いずれも集団の数字で、個人の確率は遺伝カウンセリングでご家族の情報とあわせて考えます。新しく起きた変化については新生突然変異(de novo)で解説しています。
「母親のせい?」と自分を責めなくてよい理由
「ミトコンドリア病は母親のせいですか?」という質問は、よく検索されています。ミトコンドリアDNAの変化がどの割合で卵子に入り、お子さんに伝わるかは、お母さんが選んだり、生活で変えたりできることではありません。核の遺伝子の変化も、誰にでも起こりうるものです。遺伝子の変化は、誰のせいでもありません。原因を知ることは、誰かを責めるためではなく、これからの選択肢を増やすためにあると、当院では考えています。
3. 3つの遺伝子検査の違いと、どれを選ぶか
当院のミトコンドリア病の遺伝子検査には、核の遺伝子を調べる「核遺伝子パネル」、ミトコンドリアDNAを調べる「ミトコンドリアDNAパネル」、その両方を一度に調べる「包括検査」の3つがあります。米国ミトコンドリア医学会の合意声明は、ミトコンドリアDNAは全体を次世代シーケンサー(NGS)で読むこと、核の遺伝子は原因遺伝子を広くカバーするNGSパネルで調べることを勧め、1つずつ遺伝子を調べる方法は避けるべきとしています[3]。
核遺伝子パネル(677遺伝子)
ミトコンドリアのエネルギー代謝に関わる、核の677遺伝子を調べます。ミトコンドリアDNAは調べません。リー脳症や大人で見つかる型など、核の遺伝子の変化によるミトコンドリア病を探す検査です。くわしくは核遺伝子ミトコンドリア病パネルのページで解説しています。
ミトコンドリアDNAパネル(37遺伝子)
ミトコンドリアDNAの37遺伝子すべてを、16,569塩基すべてが読めるように調べます。変化のある割合(ヘテロプラスミー)が2〜5%程度でも見つけられるように確かめられた検査です。核の遺伝子は調べません。
両方を調べる包括検査
核遺伝子パネルとミトコンドリアDNAパネルの遺伝子を、一度に調べます。米国の1つの検査室で、ミトコンドリア病が疑われる1,509人に両方の検査を行った研究では、原因がわかった人は14.6%で、そのうち核の遺伝子によるものが7.7%、ミトコンドリアDNAによるものが6.9%と、ほぼ半分ずつでした。この研究は、片方だけを調べると、両方に原因がある例を見逃しうるとしています[5]。
どれを選ぶか:目安の表
🔍 3つの検査の選び方の目安
| こんなとき | 考えやすい検査 |
|---|---|
| 母方の家族に、糖尿病・難聴・似た症状の人が続いている | ミトコンドリアDNAパネル(または包括検査) |
| きょうだいが同じ病気、ご両親が血縁、父方にも同じ病気の人がいる | 核遺伝子パネル(または包括検査) |
| 家族歴がなく、どちらの原因か見当がつかない | 包括検査 |
| 片方の検査や全エクソーム検査で原因がわからなかった | まだ調べていないほうの検査 |
※あくまで目安です。発症の年齢、症状、ご家族の情報、これまでの検査結果で選び方は変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
病気をしぼった検査との選び分け
病名や症状がかなりしぼれている場合は、狭いパネルのほうが向くことがあります。病名がほぼ決まっていれば狭いパネル、決まっていなければ広いパネル、というのが基本の考え方です。
- ●ミトコンドリアDNAの量が減る病気が疑われる:ミトコンドリアDNA枯渇症候群パネル
- ●乳酸値が高いと言われた、乳酸とピルビン酸の比が気になる:乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症パネル
- ●エネルギーをつくる回路(TCA回路)の病気が疑われる:TCA回路異常症パネル
- ●ミトコンドリア病に限らず代謝の病気を広く調べたい:包括的代謝疾患パネル、低血糖が中心なら低血糖症パネル
- ●1つの症状が中心:てんかん包括的遺伝子検査、難聴遺伝子パネル、MODY・新生児糖尿病の遺伝子検査、肥大型心筋症パネル・拡張型心筋症パネル、網膜症・視神経萎縮パネル、遅発性運動失調症パネル
検体について:血液で見つからない変化があります
ミトコンドリアDNAの変化は、臓器によって割合が違うため、血液では見つからないことがあります。GeneReviewsは、血液中の変化の割合が検出できないほど低いことがあるため、骨格筋や尿の細胞を調べることがあるとしています[1]。米国ミトコンドリア医学会の合意声明も、血液で陰性なら別の組織で調べるべきこと、尿は血液より役立つことがあること、大きな欠失は筋肉や肝臓でしか見つからない人が多いことを示しています[3]。当院の検査の検体は、血液・抽出したDNA・頬の内側の粘膜・唾液です。血液などで陰性だった場合に、主治医のもとで筋肉など別の組織の検査が必要になることがあります。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
いくつもの臓器に症状が重なり、ミトコンドリア病が疑われる方、大人になってから原因を探している方、ご家族にミトコンドリア病の方がいる方に向く検査です。
- ●筋力低下・けいれん・心筋症・目の症状・難聴など、ミトコンドリア病の症状がある方(ご本人またはご家族)
- ●大人になってから、糖尿病・難聴・心筋症などが重なり、原因を知りたい方
- ●母方の家族に似た症状の人が続いている方
- ●ほかの遺伝子パネルや全エクソーム検査で原因がわからなかった方
- ●お子さんがミトコンドリア病と診断され、次の妊娠を考えているご両親
この検査より別の検査が向いている場合
症状がミトコンドリア病らしくなく、いくつもの病気が考えられる場合は、全エクソーム検査(WES)のほうが向くことがあります。合意声明も、NGSパネルで原因が見つからなければ全エクソーム検査を考えるとしています[3]。迷ったら、遺伝カウンセリングでご相談ください。
原因がわかると、次の一手が決まります。使える制度、避けたい薬、見張るべき合併症、ご家族の検査、次の妊娠の計画。わからないままでは決められなかったことが、具体的に考えられるようになります(第8章)。
\ 名前がつくと、次の一手が決まります /
どの検査を選ぶかは、臨床遺伝専門医が症状とご家族の情報を伺って一緒に決めます。
5. 調べる遺伝子と、わかる病気
ミトコンドリアDNAパネルでは37遺伝子、核遺伝子パネルでは677遺伝子を調べます。両方を合わせると714遺伝子です。
ミトコンドリアDNAの37遺伝子
ミトコンドリアDNAの37遺伝子は、働きで3つに分けられます。どの遺伝子の変化でも、遺伝のしかたは母系遺伝です。症状は、変化の種類と、臓器ごとの変化の割合によって変わります[1]。
🧬 ミトコンドリアDNAパネルの37遺伝子
| 働き | 遺伝子 | 関係する病気の例・遺伝のしかた |
|---|---|---|
| エネルギーをつくる部品(呼吸鎖のたんぱく質)13遺伝子 | MT-ND1, MT-ND2, MT-ND3, MT-ND4, MT-ND4L, MT-ND5, MT-ND6, MT-CYB, MT-CO1, MT-CO2, MT-CO3, MT-ATP6, MT-ATP8 | ミトコンドリア病(症状は変化と割合による)。MT-ATP6のm.8993T>GはNARP、割合が高いとリー脳症[1]/母系遺伝 |
| リボソームRNA(rRNA)2遺伝子 | MT-RNR1, MT-RNR2 | MT-RNR1の特定の変化は、アミノグリコシド系抗菌薬による難聴のおそれ[8]/母系遺伝 |
| 転移RNA(tRNA)22遺伝子 | MT-TA, MT-TC, MT-TD, MT-TE, MT-TF, MT-TG, MT-TH, MT-TI, MT-TK, MT-TL1, MT-TL2, MT-TM, MT-TN, MT-TP, MT-TQ, MT-TR, MT-TS1, MT-TS2, MT-TT, MT-TV, MT-TW, MT-TY | ミトコンドリア病(症状は変化と割合による)/母系遺伝 |
※遺伝子は当院の検査の対象遺伝子一覧(37遺伝子)による。ミトコンドリアDNAの各遺伝子には、当サイトの個別の遺伝子ページはまだありません。
核遺伝子677の主なグループ
核遺伝子パネルには、ミトコンドリアの部品を作る遺伝子だけでなく、部品の組み立て、ミトコンドリアDNAの維持、たんぱく質の合成、補酵素(CoQ10など)の合成、ピルビン酸や脂肪酸の代謝に関わる遺伝子などが含まれます。
🧬 核遺伝子パネルに含まれる主な遺伝子のグループ
| グループ | 遺伝子の例 | 関係する病気の例 |
|---|---|---|
| 呼吸鎖の部品と組み立て | NDUFS1〜8、NDUFS6、NDUFAF5、ACAD9、SURF1、SCO2、BCS1Lなど | ミトコンドリア複合体I欠損症、ACAD9欠損症、ミトコンドリア複合体III欠損症、リー脳症など |
| ミトコンドリアDNAの維持 | POLG、POLG2、TWNK、TK2、DGUOK、RRM2B、MPV17、TYMPなど | ミトコンドリアDNA枯渇症候群、POLG関連のミトコンドリア病など |
| たんぱく質の合成(翻訳) | MRPL・MRPSの遺伝子群、DARS2・EARS2などのtRNA合成酵素、TRMU、GFM1など | 複合酸化的リン酸化欠損症、脳幹および脊髄障害と乳酸上昇を伴う白質脳症、MLASA1など |
| 補酵素(CoQ10)の合成 | COQ2、COQ4〜COQ9、PDSS1、PDSS2 | CoQ10欠乏症 |
| ピルビン酸・TCA回路の代謝 | PDHA1、PDHB、DLD、PC、FHなど | ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、フマル酸ヒドラターゼ欠損症など |
| そのほかの病気の遺伝子 | FXN、MECP2、CFTRなど | フリードライヒ運動失調症など、ミトコンドリア病と症状が重なる病気 |
※遺伝子は当院の検査の対象遺伝子一覧から抜き出したもの。FXNは、病気の原因として最も多い繰り返し配列の伸長はこの検査では調べません(第6章)。
💡 がんのなりやすさに関わる遺伝子も含まれます
核遺伝子パネルには、SDHA・SDHB・SDHC・SDHD、FH、TP53、MEN1、MUTYHなど、遺伝性の腫瘍に関わる遺伝子も含まれています。調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿って、検査の前にご説明します。遺伝性のがんについてはがん診療専門外来のページもご覧ください。
▼ 核遺伝子パネルの全677遺伝子を見る(遺伝子のページにリンクしています)
AAAS, AARS, AARS2, AASS, ABAT, ABCB11, ABCB4, ABCB6, ABCB7, ABCB8, ABCC8, ABCC9, ABCD1, ABCD3, ABCD4, ABHD5, ACACA, ACAD8, ACAD9, ACADL, ACADM, ACADS, ACADSB, ACADVL, ACAT1, ACAT2, ACHE, ACLY, ACO2, ACSF3, ACSL4, ACSL5, ACSM3, ADSL, AFG3L2, AGK, AGL, AGPS, AGXT, AGXT2, AIFM1, AK2, AK3, AKAP10, AKR7A2, AKT1, AKT2, ALAS2, ALDH18A1, ALDH2, ALDH3A2, ALDH4A1, ALDH5A1, ALDH6A1, ALDH7A1, ALDOA, ALDOB, ALG1, ALG11, ALG13, ALG2, ALG3, ALG6, ALG9, AMACR, AMT, ANK2, ANKRD26, APOPT1, APTX, ARG1, ARMS2, ARX, AS3MT, ASL, ASS1, ATAD3A, ATAD3B, ATIC, ATP10D, ATP5F1A, ATP5F1B, ATP5F1E, ATP7B, ATP8B1, ATPAF2, ATXN7, AUH, B4GALT1, BAX, BCAT1, BCAT2, BCKDHA, BCKDHB, BCL2, BCS1L, BOLA3, C12orf65, C19orf12, CA5A, CACNA1A, CACNA1S, CACNA2D1, CARS2, CASP8, CCT7, CDC42BPB, CDKL5, CFTR, CHAT, CHCHD10, CHDH, CHKB, CHRNA4, CHRNB2, CISD2, CKM, CKMT1B, CLCN1, CLCN2, CLCN5, CLCN7, CLCNKB, CLN3, CLN5, CLN6, CLN8, CLPB, CLPP, CLYBL, CNR1, COA5, COA6, COASY, COG4, COG5, COG6, COG7, COG8, COMT, COQ2, COQ4, COQ5, COQ6, COQ7, COQ8A, COQ8B, COQ9, COX10, COX14, COX15, COX20, COX4I1, COX4I2, COX6A1, COX6B1, COX7A1, COX7A2, COX7B, COX8A, CPOX, CPS1, CPT1A, CPT1B, CPT2, CTSD, CYB5A, CYB5R3, CYBA, CYBB, CYC1, CYCS, CYP11A1, CYP11B1, CYP11B2, CYP24A1, CYP27A1, CYP27B1, D2HGDH, DARS, DARS2, DBT, DDAH1, DDC, DDHD1, DDHD2, DDOST, DECR1, DGUOK, DHODH, DHTKD1, DIABLO, DISC1, DLAT, DLD, DMAC2, DMGDH, DNA2, DNAJC19, DNAJC5, DNM1L, DNM2, DOLK, DPAGT1, DPM1, DPM3, DTNBP1, EARS2, ECHS1, ECI1, ECSIT, ELAC2, ELN, ENO1, ENO3, ETFA, ETFB, ETFDH, ETHE1, FAAH, FAH, FARS2, FASN, FASTKD2, FBP1, FBXL4, FDPS, FDX2, FECH, FH, FLAD1, FOLR1, FOXC1, FOXG1, FOXRED1, FTH1, FXN, G6PC, G6PD, GAA, GAD1, GAD2, GALC, GAMT, GARS, GATD3A, GATM, GBE1, GCDH, GCK, GCSH, GDAP1, GFER, GFM1, GFM2, GK, GLDC, GLO1, GLRA1, GLRX5, GLS, GLUD1, GLYCTK, GMPPA, GNAS, GNPAT, GPAM, GPD1, GPD2, GPI, GPX1, GPX4, GSS, GTPBP3, GYG1, GYG2, GYS1, GYS2, H6PD, HADH, HADHA, HADHB, HARS, HARS2, HCCS, HCFC1, HIBCH, HIGD2A, HK1, HK2, HLCS, HMGCL, HMGCS2, HOGA1, HSD17B10, HSD17B4, HSD3B1, HSD3B2, HSPA9, HSPB7, HSPD1, HSPE1, HTRA2, IARS2, IBA57, IDE, IDH1, IDH2, IDH3B, IMMP2L, IMMT, INPP5E, INSR, ISCA2, ISCU, IVD, KARS, KCNA1, KCNE1, KCNE2, KCNH2, KCNJ11, KCNJ2, KCNQ1, KCNQ2, KCNQ3, KIF1B, KRT5, KYNU, L2HGDH, LAMP2, LARS, LARS2, LDHA, LDHB, LETM1, LIAS, LIPT1, LMBRD1, LRPPRC, LRRK2, LYRM4, LYRM7, MAOA, MAOB, MARS, MARS2, MAVS, MCCC1, MCCC2, MCEE, MDH1, MECP2, MECR, MED23, MEN1, MFF, MFN2, MFSD8, MGAT2, MGLL, MGME1, MGST3, MICU1, MLYCD, MMAA, MMAB, MMACHC, MMADHC, MOCOS, MOCS1, MOCS2, MOGS, MPC1, MPDU1, MPI, MPV17, MRPL12, MRPL15, MRPL19, MRPL3, MRPL43, MRPL44, MRPL48, MRPL57, MRPS12, MRPS16, MRPS17, MRPS18A, MRPS22, MRPS7, MRRF, MTCH2, MTFMT, MTHFD1, MTHFD1L, MTO1, MTPAP, MTR, MTRR, MUT, MUTYH, NADK2, NAGS, NARS2, NDUFA1, NDUFA10, NDUFA11, NDUFA12, NDUFA13, NDUFA2, NDUFA4, NDUFA6, NDUFA7, NDUFA8, NDUFA9, NDUFAF1, NDUFAF2, NDUFAF3, NDUFAF4, NDUFAF5, NDUFAF6, NDUFAF7, NDUFB1, NDUFB11, NDUFB3, NDUFB6, NDUFB8, NDUFB9, NDUFC2, NDUFS1, NDUFS2, NDUFS3, NDUFS4, NDUFS5, NDUFS6, NDUFS7, NDUFS8, NDUFV1, NDUFV2, NDUFV3, NFS1, NFU1, NGLY1, NIPSNAP1, NIPSNAP3A, NLRX1, NME1, NNT, NOS3, NPL, NR2F1, NRXN1, NUBPL, OAT, OGG1, OPA1, OPA3, OTC, OXCT1, PACRG, PAH, PAK5, PANK2, PARL, PARP1, PARS2, PC, PCCA, PCCB, PCK1, PCK2, PDHA1, PDHB, PDHX, PDP1, PDSS1, PDSS2, PDX1, PET100, PEX1, PEX10, PEX11B, PEX12, PEX13, PEX14, PEX16, PEX19, PEX2, PEX26, PEX3, PEX5, PEX6, PEX7, PFKM, PGAM2, PGK1, PGM1, PHB, PHKA1, PHKA2, PHKB, PHKG2, PHYH, PKLR, PMM2, PNKD, PNMT, PNPT1, POLG, POLG2, POLRMT, PPARGC1A, PPOX, PPT1, PREPL, PRKAG2, PRKN, PRODH, PRPS1, PTGES2, PTRH2, PTS, PUS1, PYCR1, PYGM, QARS, QDPR, RAB11FIP5, RANBP2, RARS, RARS2, REEP1, RFT1, RMND1, RMRP, RNASEL, RPL35A, RPS14, RRM2B, RSPH9, RYR1, RYR2, SACS, SARDH, SARS2, SCN1A, SCN1B, SCN2A, SCN4A, SCN5A, SCO1, SCO2, SCP2, SDHA, SDHAF1, SDHAF2, SDHB, SDHC, SDHD, SECISBP2, SERAC1, SFXN4, SHMT1, SHMT2, SIRT1, SIRT3, SIRT5, SLC16A1, SLC19A2, SLC19A3, SLC22A4, SLC22A5, SLC25A1, SLC25A12, SLC25A13, SLC25A15, SLC25A16, SLC25A19, SLC25A20, SLC25A21, SLC25A22, SLC25A3, SLC25A32, SLC25A35, SLC25A38, SLC25A39, SLC25A4, SLC25A42, SLC25A5, SLC25A6, SLC27A4, SLC2A1, SLC2A2, SLC35A1, SLC35A2, SLC35C1, SLC37A4, SLC3A1, SLC5A8, SLC6A8, SLC7A7, SOD2, SPART, SPAST, SPG7, SPR, SPTLC1, SPTLC2, SRD5A3, SSR4, STAR, STT3A, STT3B, STXBP1, SUCLA2, SUCLG1, SUGCT, SUOX, SURF1, TACO1, TAP1, TARS2, TAT, TAZ, TCIRG1, TDP1, TFAM, TFB1M, TIMM13, TIMM44, TIMM50, TIMM8A, TIMM9, TK2, TKT, TMEM126A, TMEM165, TMEM70, TOMM40, TOP1MT, TP53, TPH2, TPI1, TPK1, TPP1, TRIT1, TRMU, TRNT1, TSFM, TSPO, TST, TTC19, TUFM, TWNK, TXN2, TXNRD2, TYMP, UBE3A, UCP1, UCP2, UCP3, UNG, UQCC2, UQCC3, UQCRB, UQCRC2, UQCRQ, UROS, USP24, VARS2, WARS2, WDR4, WFS1, WWOX, XPNPEP3, YARS2(677遺伝子)
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、調べた遺伝子の中の、病気の原因になる変化です。一方で、どの遺伝子検査にも限界があり、「陰性=ミトコンドリア病ではない」とは言えません。
わかること
- ●核遺伝子パネル:遺伝子のたんぱく質を作る部分と、その境目にある、1文字の変化や小さな挿入・欠失。ご希望により、遺伝子全体や2つ以上の続いたエクソン(遺伝子の区切り)の欠失・重複も調べられます(2エクソン以上は血液の検体のとき)。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●ミトコンドリアDNAパネル:ミトコンドリアDNA全体(16,569塩基)の変化と、変化のある割合(ヘテロプラスミー)。2〜5%程度の割合から見つけられるよう確かめられています。
わからないこと
- ●ほかの臓器にだけある変化:ミトコンドリアDNAの変化が血液などで少なすぎると、見つからないことがあります(第3章)。
- ●繰り返し配列の伸長:FXN遺伝子の病気で最も多い原因である繰り返し配列(GAAリピート)の伸長は、この検査では調べません。症状からフリードライヒ運動失調症が疑われる場合は、別の検査が必要です。
- ●調べにくい場所:遺伝子の働きを調節する場所や、遺伝子の区切りから離れた奥の部分(イントロンの深い部分)、染色体の入れ替わり(転座・逆位)は調べられません。MECP2遺伝子の最初のエクソンだけの欠失・重複も、今の方法では見つけにくいとされています。よく似た配列が別の場所にある遺伝子では、判定が難しいことがあります。
- ●体の一部の細胞にだけある変化(モザイク):核遺伝子パネルは、核の遺伝子のモザイクを見つけるようには作られていません。
- ●調べていない遺伝子:核遺伝子パネルはミトコンドリアDNAを、ミトコンドリアDNAパネルは核の遺伝子を調べません。
陰性でも否定はできない・意義がまだわからない変化(VUS)
両方の検査を行っても、原因がわかる人は一部です。前に紹介した米国の研究では、ミトコンドリア病が疑われた人のうち原因がわかったのは14.6%でした[5]。陰性でも、ミトコンドリア病が否定されるわけではありません。また、病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS)が見つかることもあります。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
陽性だったとき
原因の遺伝子と遺伝のしかたがわかり、診断がはっきりします。ご本人の健康管理で気をつけること、ご家族の確率、次の妊娠でできることを、第8章のとおり具体的に考えられるようになります。
陰性だったとき
調べていないほうの検査(核遺伝子・ミトコンドリアDNA)、主治医のもとでの筋肉など別の組織の検査、全エクソーム検査などを考えます。
VUSが見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、二次的所見の開示方針のとおりです。
結果の報告書について
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の変化がわかったら、ご本人・ご家族・次のお子さんのそれぞれで、できることがはっきりします。GeneReviewsは、今のところ病気の経過そのものを変える治療は知られていないとしていますが[1]、避けたい薬や合併症への備えなど、わかってはじめて取れる行動は少なくありません。
ご本人:避けたい薬・使える治療・合併症への備え
- ●避けたい薬:てんかんの薬のバルプロ酸は、POLG遺伝子の変化によるミトコンドリア病の方では、重い肝不全のおそれがあるため使ってはいけないとされています(米国の添付文書の警告枠、2026年10月時点で確認)。米国ミトコンドリア医学会の合意声明は、ミトコンドリア病の方では、できればバルプロ酸・スタチン・メトホルミン・高用量のアセトアミノフェンを避けるとしています[3]。
- ●難聴を防ぐための薬の注意:ミトコンドリアDNAのMT-RNR1遺伝子に特定の変化(m.1555A>G・m.1494C>T・m.1095T>C)がある方は、アミノグリコシド系の抗菌薬で聞こえなくなるおそれが高く、重い感染症で代わりの薬がない場合を除いて、使うのを避けるよう勧められています[8]。
- ●手術・麻酔のとき:ミトコンドリア病の方は麻酔の合併症が起こりやすいとされ、手術前の絶食を短くする、点滴にブドウ糖を加える、一部の麻酔薬に注意するなどが勧められています[3]。手術の前には、診断名を麻酔科の医師に伝えてください。
- ●MELASの脳卒中様発作:日本では、タウリン(タウリン散98%「大正」)が「MELASにおける脳卒中様発作の抑制」の効能で2019年に承認されています(2026年10月時点の添付文書で確認)。承認のもとになった日本の臨床試験では、10人を52週間追跡し、脳卒中様発作が完全に止まった人は60%でした[7]。小さな試験の結果で、全員に効くわけではありません。
- ●補酵素など:合意声明は、CoQ10を多くの患者さんに勧める一方で、CoQ10欠乏症以外では効果の根拠は乏しいとしています[3]。どれを使うかは主治医とご相談ください。
- ●合併症の見張り:原因がわかると、心臓・耳・目・糖尿病など、どの合併症に気をつけて定期的に調べればよいかを主治医と決めやすくなります。
当院は治療を行っていません。治療や合併症の管理は、主治医・専門の医療機関で受けていただきます。当院では、結果の意味と、主治医に伝えるべきことをご説明します。
症状のないご家族:母方の家族の検査と「自分もなるかも」という不安
原因がわかれば、ご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。ミトコンドリアDNAの変化なら、お母さん・お母さんのきょうだい・母方のいとこなど、母方の家族が対象になります。核の遺伝子の変化なら、遺伝のしかたに合わせて、ご両親やきょうだいが対象になります。
ご家族がミトコンドリア病と診断されると、ちょっとした疲れや聞こえにくさのたびに「自分も始まったのでは」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。ご家族の原因の変化を受け継いでいないとわかれば、その変化については、ご家族と同じ心配をしなくてよくなります。受け継いでいるとわかった場合も、避けたい薬を知る、合併症を早めに見つける、生活や仕事の計画を立てる、といった準備ができます。一方で、知らないでいることも、同じように大切な選択です。当院は知りたいと願う方を拒むことはしませんが、症状のない方の検査は、遺伝カウンセリングで、知ることの意味を時間をかけて考えてから行います。
次のお子さん:核の病気とミトコンドリアDNAの病気で違うこと
核の遺伝子の変化が原因なら、ご家族の変化がわかっていれば、出生前診断や着床前検査が可能とされています[1]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
常染色体潜性の病気では、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを確かめることが大切です。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)には、POLG・SURF1・TK2・DGUOK・MPV17・SUCLA2・NDUFS4・SCO2・ETHE1・LRPPRC・FBXL4・TYMP・ACAD9・PDHA1などが含まれています(TWNK・SUCLG1・RRM2B・COQ8Aは含まれていません)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
ミトコンドリアDNAの病気では、事情がもっと複雑です。GeneReviewsは、ヘテロプラスミーのため出生前診断の結果の解釈が難しく、絨毛の結果が赤ちゃんのほかの組織の割合を表さないことがあるとしています[1]。着床前検査(PGT)について、ミトコンドリアDNAの点変異を調べた系統的レビューは、主に筋肉で測った変化の割合と発症の関係から、割合が18%以下なら発症していない確率が95%以上と推定しました。ただし、これは受精卵を直接追跡して確かめた数字ではなく、変化の種類によっても関係が異なるため(m.3243A>Gでは発症しない見込みが低い)、すべての受精卵に共通する判定基準としては使えません[6]。核の遺伝子の病気のように、「変化を受け継いでいない受精卵を選べば防げる」とは言い切れません。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
なお、核遺伝子パネルの対象のうち、ミトコンドリア病以外の神経の病気の遺伝子であるCDKL5・MECP2は、当院のNIPT(ダイヤモンドプラン・インペリアルプラン)でも、CACNA1A・FOXG1・KCNJ2・KCNQ2・NR2F1・SCN1A・SCN2A・STXBP1はインペリアルプランでも調べられます。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。ミトコンドリア病そのものの遺伝子は、NIPTの対象には入っていません。
当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、ご本人とご家族が次に何をするかを一緒に考えます。ご家族の検査、パートナーの保因者検査、妊娠したときの絨毛検査・羊水検査まで、院内で続けてご相談いただけます。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
ミトコンドリア病は、指定難病(告示番号21)です(厚生労働省、令和8年4月時点の一覧で確認)。また、小児慢性特定疾病の先天性代謝異常の疾患群には、「ミトコンドリアDNA突然変異(リー症候群、MELAS及びMERRFを含む。)」があります(小児慢性特定疾病情報センターの医療意見書で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
核遺伝子パネル・ミトコンドリアDNAパネルはそれぞれ税込330,000円、包括検査は税込638,000円で、結果までは3〜5週間です。
💴 費用・日数・検体
| 項目 | 核遺伝子パネル | ミトコンドリアDNAパネル | 包括検査 |
|---|---|---|---|
| 調べる遺伝子 | 核の677遺伝子 | ミトコンドリアDNAの37遺伝子 | 両方(714遺伝子) |
| 検査費用(税込) | 330,000円 | 330,000円 | 638,000円 |
| 結果までの期間 | 3〜5週間 | 3〜5週間 | それぞれ3〜5週間 |
| 検体 | 血液(4mLのEDTA採血管2本)、抽出したDNA、頬の内側の粘膜、唾液のいずれか | ||
| 遺伝カウンセリング料 | 30分22,000円(税込)※検査費用とは別 | ||
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
遺伝カウンセリングでは、3つの検査のどれが合うか、何がわかり何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
あなたの1回の検査が、ご家族を守る手がかりになります。とくにミトコンドリアDNAの変化なら、お母さんや母方のきょうだい・いとこが、自分の状態を知るきっかけになります。
\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /
ご夫婦とも保因者だった場合、妊娠したときの出生前診断(羊水検査・絨毛検査)まで院内で受けられます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【ばらばらの症状が、1つにつながるとき】
ミトコンドリア病は、症状が全身に散らばる病気です。糖尿病で内科に、難聴で耳鼻科に、心筋症で循環器科に、とそれぞれ別の病気として診てもらっているうちは、1つの原因でつながっていることに気づきにくいものです。私は内科やがんの診療にも携わってきたので、臓器ごとに分かれた診療の中で、全体を1本の線でつなぐ視点がどれほど大切かを考えてきました。遺伝子検査は、その線を引くための手段の1つだと考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。ミトコンドリアDNAの病気は母親から伝わるため、お母さんがとくに自分を責めやすい病気です。けれども、遺伝子の変化は誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ミトコンドリア病は遺伝しますか?
遺伝することがあります。原因が細胞の核にある遺伝子の変化なら、常染色体潜性(劣性)・常染色体顕性(優性)・X連鎖のいずれかで、父親からも母親からも伝わります。原因がミトコンドリアDNAの変化なら、母親からだけ伝わります。どちらに原因があるかは、遺伝子検査で確かめます。
Q2. 母親から子どもに遺伝する確率はどれくらいですか?
ミトコンドリアDNAの変化をもつ女性のお子さんは、全員が受け継ぐ可能性があります。ただし、受け継ぐ変化の割合はお子さんによって違い、症状の重さを前もって正確に予測することは難しいとされています。ミトコンドリアDNAの大きな欠失は多くがその人に新しく起きた変化です。単一欠失による病気をもつ女性のお子さんが発症する確率は、研究集団の平均で約24分の1と見積もられています。これは、患者さんのきょうだいの再発率を示す数字ではありません。核の遺伝子の変化なら、遺伝のしかたに合わせて25%や50%などの確率になります。
Q3. 父親からミトコンドリア病は遺伝しますか?
ミトコンドリアDNAの変化は、父親からは子に伝わりません。一方、核の遺伝子の変化によるミトコンドリア病は、父親からも伝わることがあります。原因がどちらかによって答えが変わるため、遺伝子検査で原因を確かめることが大切です。
Q4. 大人になってから発症することはありますか?
あります。ミトコンドリア病はどの年齢でも発症しうる病気とされています。糖尿病・難聴・心筋症などが大人になってから重なり、原因を探して遺伝子検査を受ける方もいます。
Q5. ミトコンドリア病は治りますか?寿命はどうですか?
今のところ、病気の経過そのものを変える治療は多くありません。ただし、日本ではMELASの脳卒中様発作をおさえる薬(タウリン)が承認されているなど、型によって使える治療があります。経過や寿命は、型や人によって大きく違い、一概には言えません。原因がわかると、避けたい薬や合併症への備えを主治医と具体的に決められます。
Q6. 家族にミトコンドリア病の人がいると、結婚に差し支えますか?
ミトコンドリア病の原因と遺伝のしかたは、ご家族ごとに違います。ご家族の原因がわかれば、ご自身が同じ変化を受け継いでいるか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か、お子さんにどれくらいの確率で伝わるかを、検査で確かめられます。知ったうえで、出生前診断などの選択肢を考えることもできます。
Q7. 検査は血液だけでできますか?
当院の検査の検体は、血液・抽出したDNA・頬の内側の粘膜・唾液です。ただし、ミトコンドリアDNAの変化は臓器によって割合が違い、血液では見つからないことがあります。血液などで陰性だった場合に、主治医のもとで筋肉など別の組織の検査が必要になることがあります。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ミトコンドリア病の原因がわかれば、避けたい薬や合併症への備えだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、核の遺伝子とミトコンドリアDNAの両方の検査から、パートナーの保因者検査、妊娠したときの羊水検査・絨毛検査まで、院内で続けてご相談いただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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- [2] Gorman GS, Schaefer AM, Ng Y, et al. Prevalence of nuclear and mitochondrial DNA mutations related to adult mitochondrial disease. Ann Neurol. 2015;77(5):753-759. [DOI: 10.1002/ana.24362]
- [3] Parikh S, Goldstein A, Koenig MK, et al. Diagnosis and management of mitochondrial disease: a consensus statement from the Mitochondrial Medicine Society. Genet Med. 2015;17(9):689-701. [DOI: 10.1038/gim.2014.177](PMID: 25503498)
- [4] Chinnery PF, DiMauro S, Shanske S, et al. Risk of developing a mitochondrial DNA deletion disorder. Lancet. 2004;364(9434):592-596. [DOI: 10.1016/S0140-6736(04)16851-7](PMID: 15313359)
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