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遺伝性球状赤血球症の遺伝子検査|原因遺伝子・遺伝する確率・脾臓摘出前の見分け

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

遺伝性球状赤血球症の遺伝子検査

遺伝性球状赤血球症は、赤血球の膜を支えるたんぱく質の設計図(遺伝子)の変化によって、赤血球が小さな球の形になり、脾臓で壊されやすくなる病気です。多くは赤血球の検査で診断がつきますが、症状が典型的でないときや、似た溶血性貧血と見分けたいとき、とくに脾臓をとる手術(摘脾)を考えるときには、原因の遺伝子まで確かめることに意味があります。摘脾がかえって危険になる病気と見分けられるからです。このページでは、原因の5つの遺伝子と遺伝のしかた、次のお子さんに遺伝する確率、遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. この検査で何がわかりますか?

遺伝性球状赤血球症の原因として知られる5つの遺伝子(ANK1・SPTB・SLC4A1・SPTA1・EPB42)を一度に調べ、どの遺伝子に原因があるかを確かめます。遺伝子によって遺伝のしかた(顕性か潜性か)が違うため、ご家族への影響もわかります。

🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?

赤血球の検査だけでは診断が決めきれない方、ほかの溶血性貧血と見分けたい方、脾臓摘出を考えている方、ご両親に症状がないのにお子さんが診断された方、次のお子さんへの確率を知りたい方です。

🧬 Q. 費用・日数・検体は?

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、オンライン診療にも対応しています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。

🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?

結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因の遺伝子がわかれば、お子さんやきょうだいに遺伝する確率を遺伝子ごとにお伝えできます。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかった場合の扱いもご説明します。

\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。

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1. 遺伝性球状赤血球症とは:遺伝子検査を考える前に知っておきたいこと

遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis:HS)は、生まれつき赤血球の膜がもろく、赤血球が小さな球の形になって壊れやすくなる(溶血する)病気です。主な症状は貧血・黄疸・脾臓の腫れで、遺伝子の変化によって起こるため、親から子へ伝わることがあります。病気の重さは、ほとんど症状のない方から定期的な輸血が必要な方まで幅があります[1]。

赤血球の膜の「骨組み」と脾臓

健康な赤血球は、真ん中がへこんだ円盤の形をしています。この形とやわらかさのおかげで、赤血球は自分より細い血管の中も、形を変えながら通り抜けられます。赤血球の膜の内側には、スペクトリンというたんぱく質が網目のように張りめぐらされた「骨組み」(細胞骨格)があり、アンキリン・バンド3・プロテイン4.2といったたんぱく質が、この骨組みと膜をつなぎとめています。

遺伝性球状赤血球症では、これらのたんぱく質のどれかが足りなかったり、うまく働かなかったりするため、膜が少しずつはがれ落ちて表面積が減り、赤血球が小さな球の形になります。球の形の赤血球は形を変えにくいため、脾臓の細い通り道を抜けられずに捕まり、壊されてしまいます。これが貧血や黄疸の原因です。原因のたんぱく質を作る設計図が、このページで調べる5つの遺伝子です(第5章)。

何人に1人? 症状の重さの幅

欧米の白人を対象にした報告では、遺伝性球状赤血球症は2,000〜5,000人に1人とされ、免疫が関係しない溶血性貧血の中で最も多い病気です[1]。この数字は欧米の集団のもので、日本人での頻度がこれと同じとは限りません。

貧血の程度は、多くの方が軽症(ヘモグロビン11g/dL超)か中等症(8〜11g/dL)で、重症(6〜8g/dL)で定期的な輸血が必要になる方は一部とされています[1]。同じ病名でも、どの遺伝子のどんな変化かによって重さが違うことがわかってきており、オランダの95人の研究では、SPTB遺伝子やANK1遺伝子に原因がある方で、中等症・重症が多くみられました[3]。

症状と、知っておくと備えられること

主な症状は、貧血(疲れやすさ・息切れ・動悸)、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、脾臓の腫れです。溶血が続くと、赤血球が壊れてできるビリルビンが胆汁にたまり、胆石(ビリルビン結石)ができやすくなります。胆石は、溶血が続く遺伝性球状赤血球症のよくある合併症とされています[5]。

新生児期には、強い黄疸のために光線療法や交換輸血が必要になることがよくあると報告されています[1]。生まれてすぐの黄疸がきっかけで病気がわかる方もいます。

⚠️ りんご病(伝染性紅斑)のウイルスで、急に貧血が進むことがあります

りんご病の原因であるヒトパルボウイルスB19は、赤血球のもとになる細胞に感染して、赤血球を作る働きを一時的に止めます。ふだんから溶血している遺伝性球状赤血球症の方では、作る働きが止まると急に強い貧血になることがあり、これを「無形成発作(aplastic crisis)」といいます[5]。輸血が必要になることもあります。発熱のあと、いつもより顔色が悪い・ぐったりしているときは、早めに主治医に相談してください。病名を知っておくことは、こうした場面に備える第一歩になります。

血液検査でわかる手がかり

遺伝性球状赤血球症の多くは、症状、ご家族の病歴、血液検査で診断がつきます[1]。血液の顕微鏡検査で球状赤血球がみられること、網赤血球(できたばかりの赤血球)が増えていること、ビリルビンが高いことなどが手がかりです。赤血球の膜の異常を調べる検査として、EMA結合能検査(赤血球の膜のバンド3に結合する色素の量を測る検査)は、感度92〜93%・特異度ほぼ99%と報告されています[1]。日本の研究では、赤血球の浸透圧抵抗をフローサイトメトリーで調べる検査は、原因の遺伝子の変化があった方ではすべて異常を示した一方、変化のなかった方の一部でも低い値が出ており、見落としは少ないものの、それだけで決めきれないことも示されています[4]。

つまり、典型的な方では遺伝子検査をしなくても診断はつきます。そのうえで遺伝子検査がどんな場面で役立つかを、第3章でご説明します。

2. 遺伝性球状赤血球症は遺伝する? 原因の5遺伝子と遺伝のしかた

遺伝性球状赤血球症のおよそ75%は常染色体顕性(優性)遺伝で、残りの約25%は常染色体潜性(劣性)遺伝か、新しく起きた変化によるものとされています[1]。どちらになるかは、原因の遺伝子と変化の種類で決まります。そのため、お子さんに遺伝する確率は、原因の遺伝子がわかってはじめて、はっきりお伝えできます。

顕性の型(ANK1・SPTB・SLC4A1)と潜性の型(SPTA1・EPB42、ANK1の一部)

遺伝子ごとの遺伝のしかたは、遺伝性疾患のデータベースOMIMで次のように登録されています。ANK1による1型は常染色体顕性遺伝と常染色体潜性遺伝の両方、SPTBによる2型とSLC4A1による4型は顕性遺伝、SPTA1による3型とEPB42による5型は潜性遺伝です。

αスペクトリンを作るSPTA1は、ふだんから必要な量より多く作られているため、片方の遺伝子の変化だけでは病気になりにくく、2本ともに変化があるとき(同じ変化が2つ、または別々の変化が1つずつの複合ヘテロ接合)に遺伝性球状赤血球症になるとされています[1]。ただし、オランダの研究ではSPTA1が原因の方のうち3人で顕性のように伝わっていたと報告されており[3]、例外があることも知っておく必要があります。

💡 どの遺伝子が多い? 国や集団で違います

オランダで遺伝子パネル検査を受けた95人では、原因の見つかった割合は89%(85人)で、SPTA1が36%、ANK1が27%、SPTBが20%でした[3]。日本で溶血性貧血などの51人を調べた研究では、5つの遺伝子に原因と考えられる変化が見つかった13人のうち、ANK1が6人、SPTBが4人、SPTA1・SLC4A1・EPB42が各1人でした[4]。この研究の著者は、以前の日本の、たんぱく質を調べた研究ではバンド3(SLC4A1)やプロテイン4.2(EPB42)の異常が多いと報告されていたことにも触れ、人数を増やして確かめる必要があるとしています[4]。

ご両親に症状がないのに発症する理由

ご両親に症状がなくても、お子さんが遺伝性球状赤血球症になることはあります。理由として考えられるのは、主に次の3つです。

  • ●新しく起きた変化:お子さんの代で初めて起きた変化(新生突然変異(de novo))による場合です[1]。日本の研究では、顕性の遺伝子に変化があった11人のうち5人にご家族の病歴がありませんでしたが、ご両親を調べていないため、新しく起きた変化かどうかは決められませんでした[4]。
  • ●潜性遺伝:ご両親がそれぞれ1つずつ変化をもつ保因者で、症状がない場合です。日本の研究でも、EPB42とSPTA1で2本とも同じ変化をもつ方が1人ずついました[4]。
  • ●症状がとても軽い親御さん:顕性の変化をもっていても貧血がほとんどなく、病気と気づかれていない場合です。軽症の方がいることは、前の章でご説明したとおりです[1]。

次のお子さんに遺伝する確率は、遺伝子で変わる

原因の遺伝子と遺伝のしかたがわかると、次のお子さんで同じ病気が起こる確率を具体的に考えられるようになります。

👪 遺伝のしかたと、お子さんの確率

わかったこと お子さん1人あたりの確率の考え方
親が顕性の変化をもつ お子さん1人ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎます。受け継いだ場合の症状の重さは、親と同じとは限りません。
ご両親がともに潜性の変化の保因者 お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で保因者になります。
お子さんで新しく起きた変化(ご両親の血液では見つからない) 低いとされますが、ゼロではありません。親御さんの卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある(性腺モザイク)可能性があるためです。

※遺伝のしかたはOMIMの登録による。実際の確率は、ご家族の検査結果をふまえて遺伝カウンセリングでお伝えします。

性腺モザイクの場合、変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。血液でご両親に変化が見つからないことは、この可能性を否定するものではありません。

また、お子さんで新しく起きた変化だとわかれば、ご両親のせいではないことがはっきりします。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。

3. 遺伝子検査が役立つのはどんなとき

遺伝子検査が特に役立つのは、赤血球の検査だけでは診断を決めきれないとき、似た溶血性貧血と見分けたいとき、そして脾臓摘出を考えるときです。遺伝性球状赤血球症の専門家による総説も、遺伝子の解析は、とくに症状や検査結果がはっきりしない場合に重要になるとしています[1]。

赤血球の検査で決めきれないとき

ご家族に同じ病気の方がいて、症状と血液検査が典型的であれば、診断に迷うことはあまりありません。一方で、ご家族の病歴がはっきりしない、検査の結果が典型的でない、生まれてすぐで判断が難しい、といった場合は、どの病気なのかを決めきれないことがあります。日本の研究の著者も、とくにご家族の詳しい病歴がわからない方では、遺伝子をまとめて調べる解析を勧めています[4]。原因がわからないまま検査をくり返すより、1回の検査で原因の遺伝子を確かめることで、診断までの回り道を短くできる可能性があります。

ほかの溶血性貧血と見分けたいとき

球状赤血球がみられたり、赤血球の膜の検査で異常が出たりする病気は、遺伝性球状赤血球症だけではありません。見分けを誤ると、その後の治療の選び方が変わってしまう病気があります。

🔍 遺伝性球状赤血球症と見分けたい主な病気

病気 見分けが大事な理由
遺伝性有口赤血球症(脱水型。PIEZO1・KCNN4遺伝子など) 脾臓摘出のあとに血栓症が多く起こるため、脾臓摘出は避けるべきとされています[1][2]。
先天性赤血球形成異常性貧血(CDA)II型 遺伝性球状赤血球症と誤って診断されることが多いと報告されています。網赤血球が貧血の程度に見合って増えない点が手がかりです[1]。検査は先天性赤血球形成異常性貧血(CDA)の遺伝子検査で調べます。
自己免疫性溶血性貧血 球状赤血球がみられるため、遺伝性球状赤血球症と紛らわしいことがあります[1]。生まれつきの病気ではなく、治療の考え方がまったく違います。
非球状赤血球性溶血性貧血 赤血球の酵素の異常などで起こる、生まれつきの溶血性貧血です。原因も遺伝子も違います。
サラセミア ヘモグロビンの遺伝子の病気で、赤血球の膜の病気とは原因が違います。

※このページの検査で調べるのは、遺伝性球状赤血球症の5つの遺伝子です。上の病気の原因遺伝子(PIEZO1など)は含まれていません。

脾臓摘出(摘脾)を考えるとき:見分けが大事な理由

遺伝性球状赤血球症の方で脾臓摘出を考える前に、本当に遺伝性球状赤血球症なのかを確かめておくことには大きな意味があります。欧州の専門家グループの推奨(2017年)は、遺伝性有口赤血球症の方が遺伝性球状赤血球症と誤って診断されて脾臓摘出を受けた例があることに触れ、有口赤血球症では脾臓摘出のあとに血栓の合併症が起こりやすく、脾臓摘出は避けるべきだとしています。誤って摘出を受けた場合は、生涯にわたる抗凝固療法(血液を固まりにくくする治療)を考えるべきともされています[2]。

同じ推奨では、遺伝性球状赤血球症の脾臓摘出について、軽症の方には勧められず、重症の方では通常必要になり、その中間の方では判断が分かれるとしています。また、ふつうは5歳になる前には行わず、重症の場合もできれば6歳まで待つことが勧められています[2]。脾臓摘出のあとは重い感染症に注意が必要で、ワクチン接種などの予防が勧められています[2]。症状のある胆石がある場合は、脾臓摘出と同時に胆のうをとることも示されています[2]。

遺伝子検査は、脾臓摘出をするかどうかを決める検査ではありません。けれども、「摘脾をしてはいけない病気ではないか」を確かめる判断材料になります。手術の判断は、血液内科・小児科・外科など専門の医療機関で行われます(当院では脾臓摘出などの治療は行っていません)。

4. どんな人がこの検査を受けるとよいか

遺伝性球状赤血球症と診断された方・疑われている方で、診断をはっきりさせたい方、治療の判断材料がほしい方、ご家族への影響を知りたい方に向く検査です。

この検査を受けるとよい方

  • ●溶血性貧血・黄疸・脾臓の腫れがあり、赤血球の検査だけでは診断が決めきれない方
  • ●脾臓摘出を考えていて、ほかの溶血性貧血ではないことを確かめておきたい方
  • ●新生児期に強い黄疸があり、光線療法や交換輸血を受けたお子さん
  • ●ご両親に症状がないのに、お子さんが遺伝性球状赤血球症と診断された方
  • ●ご家族に遺伝性球状赤血球症の方がいて、ご自身やお子さんが受け継いでいるか知りたい方
  • ●次のお子さんを考えていて、遺伝する確率を知りたい方

見た目や症状の軽さ、ご家族の病歴だけでは、遺伝のしかたは判断できません。原因の遺伝子を確かめてはじめて、次の計画が立てられます。

この検査より別の検査が向いている場合

貧血の原因が赤血球の膜ではなさそうなときは、別の検査のほうが向いています。

🩸 症状に合わせた検査の選び方

こんなとき 向いている検査
球状赤血球・溶血があり、遺伝性球状赤血球症が疑われる このページの検査(5遺伝子)
貧血だが網赤血球が少なく、赤血球を作る力が落ちている 骨髄不全症候群パネル、ダイアモンド・ブラックファン貧血の遺伝子検査
網赤血球が貧血の程度に見合って増えない 先天性赤血球形成異常性貧血(CDA)の遺伝子検査
赤血球が小さい(小球性の)貧血で、サラセミアが疑われる αサラセミアの遺伝子検査
腎臓の酸の調節の異常(遠位尿細管性アシドーシス)がある 尿細管性アシドーシスの遺伝子検査(SLC4A1を含む)
貧血以外の症状も多く、病気をしぼれない 全エクソーム検査(WES)

※どの検査が合うかは、血液検査の結果・症状・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。

\ 病名を確かめて、次の一手を決める /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

5つの遺伝子を一度に調べ、結果まで2〜3週間。臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングを行います。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

5. 調べる5つの遺伝子と、わかる病気

この検査では、赤血球の膜のたんぱく質を作る5つの遺伝子(ANK1・EPB42・SLC4A1・SPTA1・SPTB)を一度に調べます。同じ遺伝子の変化でも、遺伝性球状赤血球症以外の病気の原因になることがあるため、関係する病気もあわせて示します。

🧬 対象の5遺伝子と、関係する病気・遺伝のしかた

遺伝子(作るたんぱく質) 関係する病気 遺伝のしかた
ANK1(アンキリン1) 遺伝性球状赤血球症1型 常染色体顕性・常染色体潜性
SPTB(βスペクトリン) 遺伝性球状赤血球症2型/遺伝性楕円赤血球症3型 常染色体顕性/常染色体顕性
SPTA1(αスペクトリン) 遺伝性球状赤血球症3型/遺伝性楕円赤血球症2型/遺伝性熱変形赤血球症 常染色体潜性/常染色体顕性/常染色体潜性
SLC4A1(バンド3) 遺伝性球状赤血球症4型/遠位尿細管性アシドーシス(顕性型)/溶血性貧血を伴う遠位尿細管性アシドーシス/遺伝性溶血性卵円赤血球症/クリオヒドロサイトーシス 常染色体顕性/常染色体顕性/常染色体潜性/常染色体顕性/常染色体顕性
EPB42(プロテイン4.2) 遺伝性球状赤血球症5型 常染色体潜性

※病名と遺伝のしかたはOMIMの登録による。SLC4A1は腎臓でも働くため、腎臓の病気(遠位尿細管性アシドーシス)の原因にもなります。腎臓の症状がある場合は尿細管性アシドーシスの遺伝子検査も選べます。

遺伝子を一つずつ順番に調べる方法では、1つ目で原因が見つからなければ2つ目、と検査を重ねることになります。この検査では5つの遺伝子を同時に調べるため、1回の検体で、どの遺伝子に原因があるかまで確かめられます。遺伝子の配列を読む方法は次世代シークエンサーによるもので、対象の遺伝子の99%以上の範囲を、同じ場所を20回以上読み取る精度で調べます。

6. この検査でわかること・わからないこと

この検査でわかるのは、5つの遺伝子の中にある小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな文字の抜け・入り込み)と、遺伝子のまとまった部分の欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。

  • ●調べる範囲:遺伝子のうち、たんぱく質を作る部分(エクソン)と、そのつなぎ目の近くを調べます。遺伝子の働きを調節する部分の多くや、つなぎ目から20塩基以上離れた部分の変化は、対象に入っていません。
  • ●欠失・重複:遺伝子まるごと1つの欠失・重複や、2つ以上続いたエクソンの欠失・重複を見つけられます(2つ以上のエクソンの変化は血液の検体の場合)。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出の対象外です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
  • ●見つけられない変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、同じ配列のくり返しが伸びる変化、体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)は、この検査では見つけられません。
  • ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知識ではまだ判断できない変化が見つかることがあります。
  • ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、遺伝性球状赤血球症ではないとは言い切れません。この検査で検出できない変化や、5つ以外の遺伝子が関わっている可能性があります。研究でも、遺伝子パネル検査で原因が見つからない方が一部にいることが報告されています[3]。

7. 結果が出たあと

結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。

陽性だったとき:診断の確定と、治療の判断材料

原因の遺伝子がわかると、診断がはっきりし、遺伝のしかたが決まります。脾臓摘出を考えている方にとっては、「摘脾を避けるべき病気ではない」ことを確かめる材料になります(第3章)。治療や手術の判断は、主治医や専門の医療機関で行われます。病名がはっきりしていることは、小児慢性特定疾病などの制度を使うときの手がかりにもなります(第8章)。

陰性・VUSだったとき

原因が見つからなかった場合は、赤血球の検査の結果とあわせて、ほかの溶血性貧血の可能性を考えます(第3章・第4章)。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針のとおりです。

ご家族の検査

あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。ご家族の中で原因の変化がわかっていると、ほかのご家族は同じ変化があるかどうかを確かめることができます。症状がとても軽く、病気に気づいていないご家族がいることもあります。潜性の型では、きょうだいが保因者かどうかを知ることは、そのきょうだいが将来、結婚や出産を考えるときの手がかりにもなります。

妊娠を考えている方へ:保因者検査と出生前診断

潜性の型では、ご夫婦がそれぞれ同じ遺伝子の変化の保因者かどうかが、お子さんの確率を決めます。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子、女性版1009遺伝子)には、この検査の5つの遺伝子のうちEPB42とSLC4A1が含まれています。SPTA1・ANK1・SPTBは含まれていません(2026年10月時点の遺伝子一覧で確認)。潜性の型の原因として多いSPTA1は、保因者スクリーニングでは調べられないため、ご家族で原因がわかっている場合は、その遺伝子を個別に調べることを考えます。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラスもあります(単独では受けられません)。

ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ただし、出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えます。妊娠を考えている段階からご相談ください。

8. 日本の制度(2026年10月時点)

遺伝性球状赤血球症は、小児慢性特定疾病の対象疾病(血液疾患)に含まれています。一方、指定難病の一覧には、遺伝性球状赤血球症という病名は見当たりません(2026年10月時点、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターの情報で確認)。

小児慢性特定疾病の医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。

9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液のほか、唾液・口の内側の粘膜でも検査でき、オンライン診療にも対応しています。

ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取血液・唾液・口の粘膜
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ

この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※

※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。

💴 費用・日数・検体

項目 内容
対象遺伝子 ANK1、EPB42、SLC4A1、SPTA1、SPTB(5遺伝子)
検査費用 税込330,000円(遺伝子の配列と、欠失・挿入の解析を含む)
結果までの期間 2〜3週間
オプション 至急(結果までの期間が約7日短くなります):55,000円
VUS除外(VUS=病的な意味がまだよくわかっていない変化):無料
検体 血液(EDTA採血管4mL×2本)、抽出DNA、口の内側の粘膜(頬粘膜スワブ)、唾液
遺伝カウンセリング料 30分22,000円(税込)※検査費用とは別
オンライン診療 対応しています。血液の検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします

※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。

オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。

結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。

遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。

\ あなたの結果が、ご家族を守る手がかりに /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

結果は臨床遺伝専門医が直接ご説明してからマイページにアップします。羊水検査・絨毛検査も院内で受けられます。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

10. 院長コラム

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「同じ病名」でも、遺伝子が違えば次の一手が違う】

私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。

遺伝性球状赤血球症は、赤血球の検査で診断がつくことの多い病気です。それでも私は、「病名がついたから、遺伝子は調べなくてよい」とは考えていません。同じ遺伝性球状赤血球症でも、原因の遺伝子が顕性の型か潜性の型かで、次のお子さんの確率はまったく違います。そして、脾臓をとる手術を考える段階では、摘脾がかえって危険になる別の病気ではないことを確かめておく意味があります。

遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。

わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺伝性球状赤血球症は何人に1人ですか?

欧米の白人を対象にした報告では、2,000〜5,000人に1人とされ、免疫が関係しない溶血性貧血の中で最も多い病気です。この数字は欧米の集団のもので、日本人での頻度がこれと同じとは限りません。

Q2. 子どもに遺伝する確率は?

原因の遺伝子と遺伝のしかたで変わります。全体のおよそ75%は常染色体顕性遺伝で、親が変化をもつ場合、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます。潜性の型でご両親がともに保因者の場合は、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。どちらに当たるかは、遺伝子検査で原因の遺伝子を確かめるとはっきりします。

Q3. 指定難病や小児慢性特定疾病に当たりますか?

小児慢性特定疾病の対象疾病(血液疾患)に含まれています。一方、指定難病の一覧には、遺伝性球状赤血球症という病名は見当たりません(2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。

Q4. 赤血球の検査で診断がついていても、遺伝子検査は必要ですか?

症状と血液検査が典型的であれば、遺伝子検査をしなくても診断はつきます。それでも遺伝子検査が役立つのは、検査の結果が典型的でないとき、ほかの溶血性貧血と見分けたいとき、脾臓摘出を考えるとき、ご家族への遺伝の確率を知りたいときです。原因の遺伝子によって、遺伝のしかたが違うためです。

Q5. 脾臓をとる前に遺伝子検査を受けたほうがよいですか?

遺伝子検査は脾臓摘出をするかどうかを決める検査ではありませんが、判断材料になります。遺伝性有口赤血球症という似た病気では、脾臓摘出のあとに血栓症が起こりやすく、摘出は避けるべきとされています。この病気と誤って診断されて摘出を受けた例も報告されているため、手術の前に診断を確かめておくことに意味があります。

Q6. 遺伝子検査が陰性なら、遺伝性球状赤血球症ではないのですか?

言い切れません。この検査で検出できない種類の変化や、5つ以外の遺伝子が関わっている可能性があります。陰性の場合は、赤血球の検査の結果とあわせて、ほかの溶血性貧血の可能性も考えます。

Q7. 遺伝性球状赤血球症は治りますか?

遺伝子の変化そのものを治す治療はありません。重症の方では脾臓摘出によって溶血を減らすことが検討され、症状のある胆石があれば胆のうをとることもあります。治療の判断は、血液内科・小児科など専門の医療機関で行われます。当院では検査と遺伝カウンセリングを行い、脾臓摘出などの治療は行っていません。

Q8. 検査の費用はいくらですか?

検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。

🧬 人生に一度の遺伝子検査を、ご自身とご家族の計画に

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。遺伝性球状赤血球症の原因の遺伝子がわかれば、治療の判断材料になるだけでなく、ご家族の検査や、次のお子さんの計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。

お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768

参考文献

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  • [2] Iolascon A, Andolfo I, Barcellini W, et al. Recommendations regarding splenectomy in hereditary hemolytic anemias. Haematologica. 2017;102(8):1304-1313. [DOI: 10.3324/haematol.2016.161166]
  • [3] van Vuren A, van der Zwaag B, Huisjes R, et al. The complexity of genotype-phenotype correlations in hereditary spherocytosis: a cohort of 95 patients. HemaSphere. 2019;3(4):e276. [DOI: 10.1097/HS9.0000000000000276](PMID: 31723846)
  • [4] Yamamoto KS, et al. Clinical and genetic diagnosis of thirteen Japanese patients with hereditary spherocytosis. Hum Genome Var. 2022;9:1. [DOI: 10.1038/s41439-021-00179-1]
  • [5] Kobayashi Y, Hatta Y, Ishiwatari Y, et al. Human parvovirus B19-induced aplastic crisis in an adult patient with hereditary spherocytosis: a case report and review of the literature. BMC Res Notes. 2014;7:137. [DOI: 10.1186/1756-0500-7-137]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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