この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

尿細管性アシドーシス(RTA)は、腎臓の尿細管が酸をうまく尿に捨てられないために、血液が酸性に傾く病気です。生まれつきの型は遺伝子の変化で起こり、このページの検査は、遠位型・近位型などの原因になる7つの遺伝子をまとめて調べます。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、治療の続け方や耳・目・骨の見張り、ご家族の検査、これからの妊娠の計画まで、この先ずっと使える情報になります。このページでは、病気の型と症状、腎石灰化や難聴との関係、遺伝する確率と、遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
尿細管性アシドーシスに関係する7遺伝子(ATP6V0A4・ATP6V1B1・CA2・HNF4A・SLC34A1・SLC4A1・SLC4A4)をまとめて調べ、生まれつきの原因があるか、どの型か(難聴を伴う型・目や骨の症状を伴う型など)を確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
尿細管性アシドーシスと診断された方・疑われている方、子どものころから腎石灰化や尿路結石・低カリウム・成長の遅れを指摘されている方、難聴がある方、ご家族にこの病気の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、型に合った見張り(耳・目・骨など)や、ご家族の検査、次のお子さんへの確率(潜性遺伝なら4分の1)を具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 尿細管性アシドーシス(RTA)とは:腎臓が酸を捨てられない病気
尿細管性アシドーシスは、腎臓の血液をこす働き(糸球体の働き)は保たれているのに、尿細管での酸の出し入れだけがうまくいかず、血液が酸性に傾く病気です。腎尿細管性アシドーシスとも呼ばれ、英語の renal tubular acidosis の頭文字をとってRTAと略されます。わかりやすく言うと、「体の中でできる酸を、尿にうまく捨てられない」状態です。
体は毎日の食事や代謝で酸を作っていて、ふだんは腎臓がその分を尿に捨て、血液の酸とアルカリのバランスを保っています。尿細管は、こした液から必要なものを取り戻したり、いらないものを足したりする細い管です。この尿細管で酸を捨てる働きや、アルカリ(重炭酸)を取り戻す働きが弱いと、酸が体にたまります。
1型(遠位型)・2型(近位型)・3型・4型の違い
尿細管性アシドーシスは、尿細管のどこで、どの働きが弱いかによって、主に1型・2型・3型・4型に分けられます。遺伝子が原因で起こる生まれつきの型は、主に1型と2型、そしてまれな3型です。カリウムが高くなる4型は、このパネルの主な対象ではありません。
主な症状:成長の遅れ・多尿・低カリウム・腎石灰化
生まれつきの遠位型では、子どものうちは成長の遅れ(体重や身長が伸びにくいこと)で見つかることがよくあります[1]。欧州腎臓病専門ネットワーク(ERKNet)と欧州小児腎臓学会(ESPN)の診療の手引き(2021年)は、主な合併症として、骨の病気、成長の遅れ、尿路結石、低カリウム血症を挙げています[1]。
29か国の340人の生まれつきの遠位型の方を調べた欧州の研究では、88%に腎石灰化(腎臓の中にカルシウムがたまること)があり、36%に難聴がありました。難聴はATP6V1B1遺伝子の変化をもつ方に多くみられました[2]。のどが渇いて尿が多い、カリウムが低いことによる筋力の低下、くる病・骨軟化症などの骨の症状も、尿細管性アシドーシスでみられる症状です。
低カリウム血症は、遠位型の主な合併症のひとつとされています[1]。アルカリ剤の治療によって尿へのカリウムの排泄が増えることもあるため[12]、治療ではアルカリ剤と一緒にカリウムを補うことがあります。カリウムが大きく下がると筋力の低下などにつながります。
生まれつき(遺伝性)と後天性の違い:シェーグレン症候群や薬が原因のことも
尿細管性アシドーシスには、生まれつき(遺伝性・先天性)のものと、ほかの病気や薬に伴って大人になってから起こる後天性のものがあります。後天性の原因として知られているのが、シェーグレン症候群などの自己免疫の病気や薬の影響です。小児慢性特定疾病情報センターの解説でも、1型とシェーグレン症候群との関連が示されています。
後天性の尿細管性アシドーシスは、この遺伝子検査の対象ではありません。シェーグレン症候群などがわかっている大人の方で、ほかに遺伝を疑う手がかり(子どものころからの症状・ご家族に同じ病気の方・難聴など)がない場合は、まず原因の病気を診ている主治医とご相談ください。
診断の手がかり:アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスと尿pH
尿細管性アシドーシスの診断は、血液と尿の検査で行います。遺伝子検査は、診断をつけるための検査というより、「生まれつきの原因があるか」「どの遺伝子の型か」を確かめる検査です。
血液検査では、アニオンギャップ(血液中の陽イオンと陰イオンの差から計算する値)が正常の代謝性アシドーシスで、血液のクロールが高いことが手がかりになります[12]。1型(遠位型)では、血液がどれだけ酸性に傾いても、尿のpHを十分に下げられません。一方、2型(近位型)では、血液の重炭酸が一定より下がると、尿のpHを5.5未満まで下げられます[12]。この違いが、型を見分ける手がかりになります。診断基準そのものや細かい検査の進め方は、腎臓内科・小児腎臓の専門医が判断します。
2. どんな人が尿細管性アシドーシスの遺伝子検査を受けるとよいか
尿細管性アシドーシスと診断された方・疑われている方、子どものころから腎石灰化や結石・低カリウム・成長の遅れを指摘されている方、難聴がある方、ご家族にこの病気の方がいる方に向く検査です。ERKNet/ESPNの手引きは、生まれつきの遠位型が疑われるすべての方に遺伝子検査を勧め、関係する遺伝子をまとめて調べるパネル検査を推奨しています[1]。
子どものころから成長が遅い・低カリウム・アシドーシスを指摘された
乳幼児期に体重が増えない、身長が伸びにくい、血液検査でカリウムや重炭酸が低い、アシドーシスと言われた、といったことがきっかけで、尿細管性アシドーシスがわかることがあります。原因の遺伝子がわかると、型が決まり、何に気をつけて見張ればよいか(耳・目・骨など)がはっきりします。原因がわからないまま検査を重ねる時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。ただし、全員に原因が見つかるわけではありません(第5章)。
腎石灰化・尿路結石をくり返す(とくに子どもや若い方)
腎石灰化や尿路結石にはさまざまな原因があり、尿細管性アシドーシスはそのひとつです。そのため、腎石灰化があるだけで遺伝子検査が必要になるわけではありません。一方で、子どものころから腎石灰化がある、結石をくり返す、低カリウムやアシドーシスも指摘されている、ご家族にも結石の多い方がいる、という場合は、生まれつきの尿細管性アシドーシスを考える手がかりになります。前に紹介した欧州の研究では、生まれつきの遠位型の88%に腎石灰化があり、結石はSLC4A1遺伝子の変化をもつ方でより多くみられました[2]。
結石の成分によって、向いている検査は変わります。シュウ酸カルシウムの結石をくり返す方は原発性高シュウ酸尿症の遺伝子検査、シスチン結石の方はシスチン尿症の遺伝子検査が向いています(下の表)。
難聴がある、または家族に尿細管性アシドーシスの人がいる
遠位型のうち、ATP6V1B1やATP6V0A4の変化による型では、感音難聴(内耳の働きによる難聴)を伴うことがあります[1][4][5]。難聴と腎臓の症状の両方がある方、ご家族に尿細管性アシドーシスや原因のわからない難聴の方がいる方は、この検査で原因を確かめる意味があります。ご家族に患者さんがいる場合、ご自身が同じ変化をもっているか、保因者かどうかを知る手がかりにもなります。
この検査より別の検査が向いている場合:血液・尿・画像の結果から選ぶ
血液が酸性に傾き、尿が酸性にならず、低カリウムや腎石灰化がある、という組み合わせなら、まずこの検査です。結果の組み合わせが違う場合は、次の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類で、どれが合うかは遺伝カウンセリングで一緒に決めます。
🔍 尿・血液の検査や画像の結果から選ぶ、腎臓の遺伝子検査
※どの検査が合うかは、検査の結果・症状・ご家族の情報で変わります。迷う場合は、遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
3. 調べる7遺伝子と、遺伝子ごとにわかる病気
この検査では、ATP6V0A4・ATP6V1B1・CA2・HNF4A・SLC34A1・SLC4A1・SLC4A4の7遺伝子を調べます。どの遺伝子に原因があるかで、遺伝のしかたも、腎臓以外に気をつけたいこと(耳・目・骨・血液・血糖)も変わります。病名と遺伝のしかたは、遺伝性疾患のデータベースOMIMの記載にもとづいています。
🧬 尿細管性アシドーシス遺伝子パネル検査で調べる7遺伝子
※病名・OMIM番号はOMIMの記載にもとづきます(2026年10月時点)。ATP6V0A4・SLC4A4・HNF4A・SLC34A1は、当院のサイトにまだ遺伝子の解説ページがありません。
遠位型の原因:ATP6V1B1・ATP6V0A4(潜性・難聴)とSLC4A1(顕性・潜性・赤血球)
生まれつきの遠位尿細管性アシドーシスの主な原因はSLC4A1・ATP6V1B1・ATP6V0A4の3つで、ERKNet/ESPNの手引きでは、この3つで生まれつきの遠位型のおよそ60〜80%を説明できるとされています[1]。
ATP6V1B1とATP6V0A4は、尿細管の細胞が酸(水素イオン)をくみ出すポンプ(液胞型プロトンATPアーゼ)の部品を作る遺伝子です。同じポンプは内耳でも働いていて、1999年の研究で、ATP6V1B1の変化が難聴を伴う遠位尿細管性アシドーシスの原因になることが示されました[4]。ATP6V0A4の型では、以前は難聴は遅れて出るか出ないとされていましたが、2006年のフランスの研究で、ATP6V0A4の変化をもつ7家系の発端者に、生後2か月から10歳までに重い感音難聴が見つかったことが報告されました[5]。同じ研究では、早い時期の難聴はATP6V0A4の型で約4割、ATP6V1B1の型で約7割にみられ、難聴の有無だけでどちらの遺伝子かを決めるのは難しいとされています[5]。
ATP6V1B1の型はふつう潜性(劣性)遺伝ですが、2025年の欧州の研究で、例外が報告されました。394番目のアルギニンが置き換わる特定の変化では、片方の遺伝子の変化だけで発症する顕性(優性)遺伝の形をとり、20人の発端者が見つかりました。難聴は、情報のあった22人中8人と、潜性遺伝の型より少なかったとされています。親から受け継いだのではなく新しく起きた変化(de novo)の例や、症状のない母親が体の一部の細胞だけに変化をもつ(モザイク)例も含まれていました[13]。ATP6V1B1に変化が見つかったときは、どの変化かによって遺伝のしかたが変わるため、結果の説明でくわしくお伝えします。
SLC4A1は、尿細管の細胞と赤血球の両方で働くタンパク質(陰イオン交換体、バンド3)を作る遺伝子です。顕性(優性)遺伝の遠位尿細管性アシドーシスの家系で、SLC4A1の変化が見つかっています[6]。SLC4A1は、遺伝性球状赤血球症など赤血球の形の病気の原因にもなります。くわしくは難聴を伴う遠位尿細管性アシドーシス2型のページでも解説しています。
近位型・混合型の原因:SLC4A4(目の症状)とCA2(大理石骨病)
SLC4A4は、近位尿細管でアルカリ(重炭酸)を取り戻す運び役(ナトリウム・重炭酸共輸送体NBC1)の遺伝子で、変化があると、目の症状を伴う近位尿細管性アシドーシスが起こります[7]。この病気は、帯状角膜症(角膜に帯のような濁りができる状態)・緑内障・白内障などの目の症状を伴うことが知られています[8]。SLC4A4の型とわかったら、眼科での定期的な検査が大切になります。
CA2は、炭酸脱水酵素IIという酵素の遺伝子です。この酵素がないと、大理石骨病(骨が硬く密になりすぎ、かえって折れやすくなる病気)・尿細管性アシドーシス・脳の石灰化がそろう病気になることが、1985年に11家系18人の研究で示されました[9]。炭酸脱水酵素IIが生まれつき欠けている方では、近位型と遠位型の両方の特徴がみられ、3型(混合型)と呼ばれます[12]。くわしくは常染色体劣性尿細管性アシドーシスを伴う大理石骨病3のページをご覧ください。
尿細管全体に関わる遺伝子:HNF4A(若年発症の糖尿病)とSLC34A1(リン・カルシウム)
HNF4AとSLC34A1は、典型的な尿細管性アシドーシスの原因遺伝子というより、近位尿細管全体の働きが落ちる病気(ファンコーニ型の尿細管障害)や、リン・カルシウムの病気の原因遺伝子として、このパネルに入っています。
HNF4Aは、若年発症成人型糖尿病(MODY1)の原因として知られる遺伝子です。英国の報告では、HNF4AのR76Wという特定の変化をもつ6人に、アミノ酸・ブドウ糖・リンなどが尿にもれるファンコーニ型の尿細管障害と、腎石灰化がみられました。この6人には、生まれたときの体重が大きいことや新生児期の低血糖もありました。同じ腎臓の症状は、HNF4Aのほかの変化をもつ方ではみられなかったとされています[10]。
SLC34A1は、腎臓でリンを取り戻す運び役の遺伝子です。対になった遺伝子の両方に変化があると、乳児期の高カルシウム血症や腎石灰化を起こすことが2016年に報告され、リンの補充で症状と検査値がすみやかに改善したとされています[11]。原因によって治療の方向が変わる病気なので、早く見分けることに意味があります。
4. 尿細管性アシドーシスは遺伝する?遺伝する確率と家族への影響
生まれつきの尿細管性アシドーシスは遺伝します。遺伝する確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたによって、次のお子さんで4分の1(潜性遺伝)か、2分の1(顕性遺伝)と大きく変わります。どちらに当たるかは、遺伝子検査で原因がわかってはじめて言えます。
潜性遺伝(劣性遺伝)の型:きょうだいで4分の1
ATP6V0A4・SLC4A4・CA2の型、ATP6V1B1の大部分の型、SLC4A1の一部の型は、潜性遺伝(劣性遺伝)です。対になった遺伝子の両方に変化があると発症し、片方だけに変化がある方は「保因者」で、ふつう症状はありません。お子さんが発症した場合、ご両親はふつうどちらも保因者で、次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1です。この確率は、お子さん1人ごとに同じです。
顕性遺伝(優性遺伝)の型:お子さんに2分の1
SLC4A1による遠位尿細管性アシドーシス1型や、HNF4Aの型は顕性(優性)遺伝です[6][10]。ATP6V1B1でも、特定の変化では顕性遺伝の形をとることが報告されています[13]。対になった遺伝子の片方の変化で発症しうるため、親から子へ伝わる確率はお子さん1人ごとに2分の1です。性別には関係せず、上のお子さんが受け継いだかどうかで下のお子さんの確率が変わることもありません。ご家族の誰に同じ変化があるかを知っておくことは、ご家族それぞれが見張りや妊娠の計画を考える手がかりになります。
結婚・妊娠を考えるとき:パートナーの保因者検査でわかること
潜性遺伝の型では、ご自身が保因者でも、パートナーが同じ遺伝子の保因者でなければ、お子さんが発症することはふつうありません。ご家族にこの病気の方がいて結婚や妊娠を考えるときは、ご自身の検査に加えて、パートナーが保因者かどうかを調べることで、お子さんへの確率を具体的に考えられるようになります。
当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)では、このパネルの遺伝子のうちATP6V0A4・ATP6V1B1・SLC4A1を調べられます。女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子では、これに加えてSLC4A4も調べられます。CA2とSLC34A1は、どの保因者検査の対象にも入っていません(2026年10月時点、各遺伝子一覧で確認)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子、単独では受けられません)もあります。
ご家族の病気を理由に、結婚について悩む方もいます。遺伝の確率は病気とご家族ごとに違い、検査でわかることがあります。知ったうえで、妊娠したときの出生前診断なども含めて選べることを、遺伝カウンセリングで一緒に考えます。
5. 検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、7つの遺伝子の小さな変化(塩基1つの置き換わり、小さな挿入・欠失)と、条件を満たす場合の大きな欠失・重複です。原因が見つからなくても、尿細管性アシドーシスではない、という意味にはなりません。遺伝子検査には必ず限界があります。
遺伝子で原因が見つかる割合は、研究によって違います。生まれつきの遠位型と診断された89人に3つの遺伝子(SLC4A1・ATP6V0A4・ATP6V1B1)の検査を行ったイタリアの研究では、71.9%で遺伝的な原因が見つかりました[3]。前に紹介した欧州の研究では、遺伝子検査を受けた206人のうち170人で原因の変化が見つかっています[2]。
- ●調べていない遺伝子:ERKNet/ESPNの手引きは、遠位型の原因としてFOXI1(難聴を伴う)やWDR72(歯のエナメル質の異常を伴う)も挙げていますが[1]、この2つはこのパネルに含まれていません。まだ見つかっていない原因遺伝子もあると考えられます。
- ●大きな欠失・重複の条件:遺伝子1つ分まるごとの欠失・重複(頬の粘膜と血液の検体)と、隣り合う2つ以上のエクソンにまたがる欠失・重複(血液の検体のみ)は見つけられます。エクソン1つだけの欠失・重複は、ふだんの検査では見つからないことがあります。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●見つけられない変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、繰り返し配列が伸びる変化、遺伝子の働きを調節する領域の多くや、エクソンから離れたイントロンの奥の変化は、この検査では見つけられません。
- ●モザイク:体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)を見つけることは目的にしていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●後天性の尿細管性アシドーシス:シェーグレン症候群や薬などによるものは、この検査の対象ではありません。
検査の技術的なくわしい情報(読み取りの精度など)
この検査は、次世代シーケンサー(NGS)で、遺伝子のタンパク質を作る部分(エクソン)と、その境目(スプライス部位)を読みます。対象の領域の99%以上を、同じ場所を20回以上読み取る深さで調べます(≥99% at 20x)。これは読み取りの深さと対象領域をどれだけ読めたかを示す数字で、病気の原因が99%以上見つかるという意味ではありません。読み取りの質が低かった変化や、基準に届かなかった部分は、サンガー法で確かめます。よく似た配列(偽遺伝子など)が近くにある場所では、まれに判定が難しくなることがあります。
6. 結果が出たあと:陽性・陰性・VUS
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の見かたは遺伝子検査結果の見かたで、調べた目的と別の病気の原因が見つかったときの扱いは二次的所見の開示方針で解説しています。
病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、型が決まり、治療の続け方と、腎臓以外で何をいつ見張ればよいかが具体的になります。わかるだけで終わらせず、立場ごとにできることを整理します。
① 症状のあるご本人:治療の中心は、アルカリ剤(重曹やクエン酸の製剤)で血液の酸性を正すことです。ERKNet/ESPNの手引きは、アルカリ剤の補充でほとんどすべての合併症を止めたり、もとに戻したりできるとしています[1]。小児慢性特定疾病情報センターの解説では、アルカリ剤の量の目安を、1型(遠位型)で重炭酸として1日に体重1kgあたり1〜3mEq、2型(近位型)で5〜20mEqとしており、近位型ではより多くの量が必要です。一方、欧州の研究では、酸とアルカリのバランスが十分に整えられていた方は約半数(51%)で、整えられている方ほど身長や腎臓の働きがよい傾向がありました[2]。型がわかり、治療を続ける理由がはっきりすることは、毎日の服薬を続ける支えにもなります。
見張りについて、ERKNet/ESPNの手引きは、診察や血液・尿の検査による定期的な評価を勧めています。診断したばかりのとき、成長の早い時期の子ども、検査値が安定しないときは1〜3か月ごと、薬の量が変わらず結石もなく落ち着いていれば、子どもで6か月ごと、大人で1年ごとが目安とされています。腎石灰化・結石を確かめる腎臓の超音波検査も、診断時と、その後の定期的な評価の項目に含まれています[1]。生まれつきの遠位型では、腎臓の働きが少し落ちた状態(慢性腎臓病のステージ2以上)が子どもの35%、大人の82%にみられた一方、透析が必要な段階(ステージ5)の方はいなかったと報告されています[2]。腎臓の働きも、長く見ていく必要があります。
遺伝子ごとの見張りどころは、ATP6V1B1・ATP6V0A4の型なら耳、SLC4A4の型なら目、CA2の型なら骨、SLC4A1の型なら血液(貧血)、HNF4Aの型なら血糖です(第3章の表)。臨床遺伝専門医としての判断として、ATP6V1B1・ATP6V0A4の型とわかったら、今聞こえに困っていなくても聴力検査を受けておくことをお勧めしています。難聴が見つかれば、耳鼻科で補聴器などの支援を相談できます。治療と見張りは、腎臓内科・小児腎臓・耳鼻科・眼科など専門の医療機関で受けていただきます。
② 症状のないご本人(家族歴で受けた方・保因者だった方):潜性遺伝の型で保因者とわかった方は、ふつうご自身に症状はありません。お子さんへの影響は、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで決まるため、パートナーの検査を考えます(第4章)。顕性遺伝の型で変化が見つかった方は、症状がなくても、血液・尿の検査や超音波検査で早めに確かめておくことができます。
③ 子どもを持つときの選択肢:ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんに同じ変化があるかを調べる出生前診断を考えられます。日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、着床前遺伝学的検査(PGT-M)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。どの検査も受けずに出産することも、そのまま選べる選択肢です。
④ ご家族:ご家族の中で原因がわかっていると、きょうだい・ご両親・お子さんは、その変化だけをピンポイントで調べて、同じ変化をもっているかを確かめられます。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
⑤ 当院でのその後:結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。ご家族の検査や保因者検査、妊娠したときの出生前診断まで、当院で続けて受けていただけます。
陰性・VUSだったとき
7つの遺伝子に原因が見つからなかった場合も、生まれつきの尿細管性アシドーシスが否定されるわけではありません。調べていない遺伝子(FOXI1・WDR72など)に原因がある可能性や、この検査で見つけられない種類の変化の可能性があります。症状や検査の結果に合わせて、ほかのパネル検査や全エクソーム検査(WES)を考えます。治療は、血液・尿の検査にもとづいて続けます。
VUSは、それだけで診断や、ご家族が発症するかどうかの判断には使いません。ただし、その変化が病気の原因かどうかを調べるために、ご本人の同意のうえで、ご家族の検査を検討することがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
次のお子さんを考えるとき
お子さんの原因がわかっていれば、次のお子さんで同じことが起こる確率と、次の妊娠でどう備えられるかを具体的に考えられます。潜性遺伝の型なら、次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1です。原因がわからないままでは、出生前に何を調べるかの的を決められません。
絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを、羊水検査・絨毛検査で調べられます(2025年6月から産婦人科を併設)。出生前診断を行えるかは病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
7. 日本の制度:小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
尿細管性アシドーシスは、小児慢性特定疾病の対象疾病として、小児慢性特定疾病情報センターに掲載されています(2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。病名が遺伝子検査で確かめられていることは、診断の根拠をはっきりさせる手がかりになります。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けていただけます。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取唾液・粘膜・血液
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。来院される方は、診療時間・アクセスをご覧ください。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【検査値の異常の向こうにある「原因」を知る意味】
尿細管性アシドーシスは、血液と尿の検査で診断がつき、アルカリ剤で治療ができる病気です。だからこそ、「診断も治療も決まっているのに、なぜ遺伝子まで調べるのか」と思われるかもしれません。私は、原因の遺伝子を知ることには、治療の先にある大きな意味があると考えています。同じ尿細管性アシドーシスでも、耳を見張るべき型、目を見張るべき型、骨や血糖を見張るべき型があり、次のお子さんへの確率も4分の1と2分の1で大きく違います。それは、検査値だけでは見えてきません。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 尿細管性アシドーシスとは、わかりやすく言うとどんな病気ですか?
腎臓の尿細管という細い管で、酸を尿に捨てる働きや、アルカリ(重炭酸)を取り戻す働きが弱いために、体の中に酸がたまって血液が酸性に傾く病気です。腎臓の血液をこす働きは保たれているのが特徴です。生まれつき遺伝子の変化で起こる型と、ほかの病気や薬に伴って起こる型があります。
Q2. 尿細管性アシドーシスは遺伝しますか?遺伝する確率は?
生まれつきの尿細管性アシドーシスは遺伝します。潜性(劣性)遺伝の型(ATP6V1B1・ATP6V0A4・SLC4A4・CA2など)では、ご両親がともに保因者の場合、次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1です。顕性(優性)遺伝の型(SLC4A1による1型・HNF4Aなど)では、お子さんに伝わる確率は2分の1です。ATP6V1B1はふつう潜性遺伝ですが、特定の変化では顕性遺伝の形をとることが報告されています。どちらに当たるかは、遺伝子検査で原因がわかってはじめて言えます。シェーグレン症候群などによる後天性のものは遺伝しません。
Q3. 尿細管性アシドーシスでは、なぜ低カリウムになるのですか?
低カリウム血症は、遠位型(1型)の主な合併症のひとつとされています。くわしいしくみは型によって違いますが、腎臓でのカリウムの扱いが変わることが関わっています。アルカリ剤の治療で尿へのカリウムの排泄が増えることもあるため、治療ではアルカリ剤と一緒にカリウムを補うことがあります。一方、4型ではカリウムが高くなります。
Q4. 1型と4型の違いは?4型もこの検査でわかりますか?
1型(遠位型)は尿細管の奥で酸を出す働きが弱い型で、低カリウムや腎石灰化・結石を伴いやすく、生まれつきの型は主にこの検査の7遺伝子のうちATP6V1B1・ATP6V0A4・SLC4A1で起こります。4型はカリウムが高くなる型で、この検査の主な対象ではありません。若い方で高カリウムと高血圧がある場合は、偽性低アルドステロン症2型の遺伝子検査が向いています。
Q5. シェーグレン症候群による尿細管性アシドーシスも、この遺伝子検査でわかりますか?
わかりません。シェーグレン症候群などの自己免疫の病気や薬による尿細管性アシドーシスは後天性で、遺伝子の変化が原因ではないため、この検査の対象ではありません。子どものころからの症状やご家族に同じ病気の方がいるなど、遺伝を疑う手がかりがある場合は、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q6. 腎石灰化と言われました。遺伝子検査を受けたほうがよいですか?
腎石灰化にはさまざまな原因があり、尿細管性アシドーシスはそのひとつです。腎石灰化があるだけで遺伝子検査が必要になるわけではありません。子どものころから腎石灰化がある、結石をくり返す、低カリウムやアシドーシスも指摘されている、ご家族にも同じような方がいる、という場合は、生まれつきの尿細管性アシドーシスを考える手がかりになります。生まれつきの遠位型の方を調べた欧州の研究では、88%に腎石灰化がありました。まずは主治医と血液・尿の検査を確かめ、遺伝を疑う手がかりがあれば遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q7. 尿細管性アシドーシスは治りますか?どんな治療をしますか?
生まれつきの尿細管性アシドーシスは、原因の遺伝子の変化そのものがなくなるわけではありませんが、アルカリ剤(重曹やクエン酸の製剤)で血液の酸性を正す治療を続けることで、ほとんどすべての合併症を止めたり、もとに戻したりできるとされています。必要に応じてカリウムも補います。治療は腎臓内科・小児腎臓の専門の医療機関で受けていただき、腎臓の超音波検査などで腎石灰化や腎臓の働きを長く見ていきます。難聴などは腎臓の治療とは別に見張ります。
Q8. 結婚や妊娠に影響しますか?
遺伝の確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたによって違います。潜性遺伝の型では、パートナーが同じ遺伝子の保因者でなければ、お子さんが発症することはふつうありません。ご自身の遺伝子検査とパートナーの保因者検査で、お子さんへの確率を具体的に考えられます。ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに絨毛検査・羊水検査で赤ちゃんを調べることも当院でご相談いただけます。知ったうえで選べることを、遺伝カウンセリングで一緒に考えます。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。尿細管性アシドーシスの原因の遺伝子がわかれば、治療の続け方や耳・目・骨の見張りだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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