目次

遺伝性難聴のうち、難聴のほかに目・腎臓・甲状腺などの症状を伴わないものを「非症候群性難聴」といい、生まれつきの遺伝性難聴の約7割を占めます。「難聴は遺伝するの?」「両親とも聞こえるのに、なぜ子どもが?」という疑問の多くは、遺伝のしかたで説明がつきます。原因の遺伝子がわかると、聞こえの見通し、受けられる治療、ご家族やこれから生まれるお子さんへの確率が具体的になります。このページでは、感音難聴の遺伝のしくみと、非症候群性難聴の原因となる100遺伝子をまとめて調べる遺伝子パネル検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 難聴は遺伝しますか?両親が聞こえるのになぜ?
生まれつきの難聴の多くに遺伝が関わります。いちばん多いのは両親とも聞こえる「保因者」で、お子さんが4分の1の確率で難聴になる潜性(劣性)遺伝です。原因として最も多いGJB2遺伝子の保因者は、日本人の約27人に1人と報告されています。
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
難聴だけで他の症状がない遺伝性難聴の原因となる100遺伝子を一度に調べます。大人になってから進む「若年発症型両側性感音難聴」で国が挙げる11遺伝子も、すべて含まれています。
🧬 Q. 原因がわかると何ができますか?
聞こえの見通しや人工内耳の向き不向きを考える手がかりになります。OTOF遺伝子が原因の難聴では、米国で遺伝子治療が承認され(2026年4月)、国内でも治験が行われています。ご家族の検査や、次のお子さんへの確率もわかります。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は330,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の粘膜でも検査でき、オンライン診療で受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /
難聴だけの遺伝性難聴の原因100遺伝子を一度に。唾液検体ならオンライン診療で全国から受けられます。
1. 遺伝性難聴(非症候群性難聴)とは
遺伝性難聴とは、遺伝子の変化が原因で起こる難聴のことです。そのうち、難聴のほかに目・腎臓・甲状腺・心臓などの症状を伴わないものを非症候群性難聴といい、言葉を覚える前に始まる遺伝性難聴の約70%を占めます[1]。残りは、ほかの症状を伴う症候群性難聴などです。
遺伝性難聴のほとんどは、耳の奥の内耳や聴神経の働きが落ちる感音難聴です。「感音性難聴は遺伝するの?」「聴覚障害は遺伝するの?」と検索される方が多いのですが、感音難聴の原因は遺伝だけではありません。たとえば妊娠中の先天性サイトメガロウイルス感染症のように、遺伝ではない原因もあります。どちらなのかは、見た目や家族歴だけでは決められません。
生まれつきの難聴はどれくらい?遺伝の割合は?
信州大学の研究グループの発表(2024年4月)では、生まれつきの難聴は出生1,000人あたり1.62人(両耳0.84人、片耳0.77人)でした。両耳の難聴では遺伝が最も多い原因で、高度の難聴に限ると半数以上を占めるとされています。
米国の遺伝性疾患の解説書GeneReviewsでも、両耳の高度〜重度の生まれつきの感音難聴をもつお子さんでは、最大60%で遺伝的な原因が見つかるとされています[1]。そして、聞こえに問題がある方の最初の評価として、聴力検査や家族歴の確認とあわせて遺伝子検査を行うことが勧められています[1]。
遺伝性難聴という言葉の全体像や、症候群性難聴の種類は遺伝性難聴 総論で、病気としての非症候群性難聴は非症候群性感音難聴(DFN)総論で詳しく解説しています。このページでは、検査を受けるかどうかを決めるために必要なことを中心にお伝えします。
2. 両親が聞こえるのに、なぜ子どもが難聴に?(難聴は遺伝する?確率は)
難聴は遺伝することがあります。ただし「親が難聴なら子も難聴」という単純な形ばかりではありません。言葉を覚える前に始まる非症候群性難聴の約80%は常染色体潜性(劣性)遺伝で、この場合、ご両親はふつう聞こえています[1]。約19%が常染色体顕性(優性)遺伝、X連鎖遺伝とミトコンドリア遺伝(母系遺伝)は合わせて1%未満です[1]。
遺伝のしかたが違うと、ご家族のだれに、どれくらいの確率で伝わるかが変わります。遺伝のしかたの全体像は遺伝形式とはで解説しています。
潜性遺伝(DFNB)とGJB2:日本人の約27人に1人が保因者
常染色体潜性(劣性)遺伝では、対になった遺伝子の両方に変化があると難聴になります。ご両親がそれぞれ1つずつ変化をもつ「保因者」の場合、お子さん1人ごとに、難聴になる確率は4分の1(25%)、保因者になる確率は2分の1、どちらも受け継がない確率は4分の1です[1]。保因者は聞こえに問題がないため、ご家族に難聴の方がいなくても、お子さんが難聴で生まれることがあります。しくみは潜性遺伝と保因者のしくみでも図で説明しています。
非症候群性難聴の原因として最も多いのがGJB2遺伝子です。GJB2は、内耳の細胞どうしをつなぐ通り道(ギャップ結合)をつくるコネキシン26というたんぱく質の設計図です。GeneReviewsでは、両方のGJB2に変化があることが、アジア人と白人で高度〜重度の潜性の非症候群性難聴の最も多い遺伝的原因とされています[1]。日本の約1万人の解析でも、最も多く見つかった遺伝子はGJB2でした[2]。
日本人の一般集団509人を調べた研究では、GJB2の難聴の原因となる変化をもつ保因者は19人(3.73%)でした。およそ27人に1人の割合です(3.73%を人数に換算)[3]。多かった変化は、p.Val37Ile(1.77%)とc.235delC(1.57%)でした[3]。特定の変化が一つの民族に多く受け継がれていることは、創始者効果で説明されます。両親から別々の変化を1つずつ受け継いだ状態(複合ヘテロ接合)でも難聴になります。
💡 用語解説:DFNB・DFNA・DFNX
非症候群性難聴の型は、遺伝のしかたで名前が付けられています。DFNBは常染色体潜性、DFNAは常染色体顕性、DFNXはX連鎖の型で、あとに続く数字は見つかった順番です。たとえばGJB2の潜性の型はDFNB1と呼ばれます。同じ遺伝子でも、変化の種類によってDFNBとDFNAの両方の型をとるものがあります。
顕性(DFNA)・X連鎖(DFNX)・母系遺伝(ミトコンドリア):遺伝のしかたと確率
遺伝のしかたごとに、お子さんへの伝わり方を表にまとめました。どの遺伝のしかたかは、原因の遺伝子がわかってはじめてはっきりすることが少なくありません。
🧬 非症候群性難聴の遺伝のしかたとお子さんへの確率
| 遺伝のしかた | 割合(言葉を覚える前の非症候群性難聴) | 親子・きょうだいへの伝わり方 | 主な遺伝子の例(このパネルの対象) |
|---|---|---|---|
| 常染色体潜性(DFNB) | 約80% | 両親とも保因者なら、お子さん1人ごとに4分の1が難聴。両親は聞こえていることが多い | GJB2、SLC26A4、CDH23、MYO15A、OTOF、STRC |
| 常染色体顕性(DFNA) | 約19% | 多くは親も難聴。大人になってから進む難聴が多い | KCNQ4、TECTA、ACTG1、COCH、WFS1 |
| X連鎖(DFNX) | 合わせて1%未満 | おもに男性が難聴になる。女性は保因者になることが多い | POU3F4、PRPS1、SMPX |
| ミトコンドリア(母系遺伝) | お母さんからすべてのお子さんへ伝わる | MT-RNR1など(このパネルの対象外) |
※割合はGeneReviews[1]による。顕性で「多くは親も難聴」の記述も同文献による。遺伝子の例は、このパネルの対象遺伝子のうち、GeneReviews[1]・日本の解析[2]・厚生労働省の指定難病の資料に挙がるもの。
顕性(優性)遺伝:常染色体顕性(優性)遺伝では、2本のうち1本に変化があれば難聴になりうるため、親から子へは、お子さん1人ごとに2分の1の確率で伝わります。ただし、変化をもっていても聞こえの程度や始まる年齢には幅があり(浸透率の考え方)、ご家族に難聴の方がいないのに、ご本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異)で難聴になることもあります。
X連鎖遺伝:X染色体にある遺伝子の変化では、X染色体を1本しかもたない男性が難聴になりやすく、お母さんが保因者であることがあります。くわしくはX連鎖遺伝とはをご覧ください。
母系遺伝(ミトコンドリア):細胞の中のミトコンドリアがもつミトコンドリアゲノムは、お母さんからだけ受け継がれます。代表的なのがMT-RNR1遺伝子の変化で、アミノグリコシド系抗菌薬で難聴が起こりやすくなります(第5章)。ミトコンドリアの遺伝子は、この非症候群性難聴パネルの100遺伝子には含まれていません。
祖父母・兄弟に難聴の人がいるとき
祖父母やきょうだいに難聴の方がいても、ご自身やお子さんへの確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたがわからないと計算できません。潜性遺伝なら、難聴のきょうだいがいる聞こえる方は、保因者である可能性があります。潜性遺伝の難聴の方の血縁者は、保因者である可能性があるとGeneReviewsでも説明されています[1]。顕性遺伝では、ご家族の原因となる病的バリアントをご自身が持っていなければ、そのバリアントがお子さんに伝わることはありません。ただし、ご自身に新しく生じた病的バリアントがある場合は、お子さんに伝わる可能性があります。
ご家族がすでに遺伝子検査を受けていて原因がわかっていれば、その結果がいちばんの手がかりになります(報告書をお持ちください)。わかっていなければ、症状のないあなたご自身を検査する方法があります。どちらがよいかは、遺伝カウンセリングで家系の情報をうかがって一緒に考えます。
3. 大人になってから進む難聴:若年発症型両側性感音難聴
若年発症型両側性感音難聴は、40歳未満で両耳に始まる感音難聴のうち、原因の遺伝子がわかっていて、騒音・外傷・薬・ウイルス感染などの外からの原因によらないものです。国の指定難病(告示番号304)になっています。研究班の資料では、原因遺伝子としてACTG1・CDH23・COCH・KCNQ4・TECTA・TMPRSS3・WFS1・EYA4・MYO6・MYO15A・POU4F3の11遺伝子が挙げられています(厚生労働省の資料、2026年10月時点で確認)。
この11遺伝子は、すべて当院の非症候群性難聴パネル(100遺伝子)に含まれています。若年発症型は、遺伝子の変化が確かめられてはじめてこの病名がつく病気です。聞こえの検査だけで「進む難聴」と言われていても、遺伝子がわからなければ、この病気かどうかは決まりません。
症状と進行速度
両耳の聞こえが少しずつ落ちていくのが特徴で、1回の聴力検査では判断できず、何度か検査をくり返して進んでいることを確かめます。進む速さは原因の遺伝子や人によって違います。日本の約1万人の解析では、6〜39歳で発症した方の33.5%、40歳以上で発症した方の18.0%で原因の遺伝子が見つかっています[2]。大人になってからの難聴でも、遺伝子が見つかる方は少なくありません。
指定難病としての扱い
指定難病の医療費助成の対象は、良いほうの耳の平均聴力レベル(500・1000・2000Hz)が70dBHL以上の高度難聴以上とされています(厚生労働省の資料)。対象になるかどうか、申請の方法は、難病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
4. 非症候群性難聴パネル(100遺伝子)でわかること
この検査は、非症候群性難聴の原因として報告されている100の遺伝子を、次世代シーケンサーで一度に調べる遺伝子パネル検査です。以前は、疑わしい遺伝子を1つずつ順番に調べる必要がありましたが、パネル検査なら1回の採取で、潜性・顕性・X連鎖の原因遺伝子をまとめて調べられます。GeneReviewsも、難聴の遺伝子検査では1つずつ調べるより、多くの遺伝子をまとめて調べるパネル検査などを勧めています[1]。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※2025年通期の売上高上位3社(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
日本で難聴の遺伝学的検査を受けた約1万人の解析では、全体の38.8%で原因の遺伝子が見つかりました。発症した年齢別では、5歳ごろまでに発症した方で48.6%と、早く始まった難聴ほど見つかりやすい結果でした[2]。見つかった遺伝子は、多い順にGJB2・CDH23・SLC26A4・STRC・KCNQ4でした[2]。この解析は、当院の検査とは調べた遺伝子の数も方法も違うため、当院の検査で原因が見つかる割合を示すものではありません。
どれを選ぶか:難聴の遺伝子検査の選び分け
難聴だけで、ほかの症状がなければこのパネル、ほかの症状があれば症候性難聴パネル、どちらか迷うときは範囲の広い難聴遺伝子パネル(181遺伝子)が目安です。
🔍 難聴の遺伝子検査の選び方
| こんなとき | 向いている検査 |
|---|---|
| 難聴だけで、目・腎臓・甲状腺・心臓などの症状がない | このページの非症候群性難聴パネル(100遺伝子) |
| 症候群かどうか分からない/広く調べたい | 難聴遺伝子パネル検査(181遺伝子) |
| 難聴に、目・腎臓・甲状腺・心臓・髪や皮膚の色などの症状を伴う | 症候性難聴NGS遺伝子検査(92遺伝子パネル) |
| 難聴に、夜盲や視野が狭くなる目の症状がある・心配 | アッシャー症候群 遺伝子検査(NGSパネル) |
| お母さん側に難聴が続く/アミノグリコシド系抗菌薬への体質を知りたい | ミトコンドリア病遺伝子検査パネル(ミトコンドリアゲノム遺伝子パネルにMT-RNR1を含む) |
※どの検査が合うかは、聞こえの検査の結果・ほかの症状・ご家族の情報で変わります。迷う場合は遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
対象遺伝子(100遺伝子)
この検査で調べる100遺伝子は次のとおりです。下線のある遺伝子は、当院のサイトに解説ページがあります。
ACTG1, ADCY1, BDP1, BSND, CABP2, CCDC50, CD164, CDC14A, CDH23, CEACAM16, CEP78, CIB2, CLDN14, CLIC5, COCH, COL11A2, COL4A6, CRYL1, CRYM, DCDC2, DIABLO, DIAPH1, DIAPH3, DSPP, ELMOD3, EPS8, ESPN, ESRRB, EYA4, GIPC3, GJB2, GJB3, GJB6, GPSM2, GRHL2, GRXCR1, GRXCR2, GSDME, HARS2, HGF, HOMER2, ILDR1, KARS, KCNQ4, KITLG, LHFPL5, LOXHD1, LRTOMT, MARVELD2, MET, MIR96, MSRB3, MYH14, MYH9, MYO15A, MYO3A, MYO6, MYO7A, NARS2, OSBPL2, OTOA, OTOF, OTOG, OTOGL, P2RX2, PCDH15, PJVK, PNPT1, POU3F4, POU4F3, PRPS1, PTPRQ, RDX, RIPOR2, ROR1, S1PR2, SERPINB6, SIX1, SLC17A8, SLC26A4, SLC26A5, SLITRK6, SMPX, STRC, SYNE4, TBC1D24, TECTA, TJP2, TMC1, TMC2, TMEM132E, TMIE, TMPRSS3, TNC, TPRN, TRIOBP, TSPEAR, USH1C, WFS1, WHRN(100遺伝子)
遺伝子ごとの難聴の型には、たとえば次のような解説ページがあります。常染色体劣性難聴12(CDH23)、常染色体劣性難聴2・常染色体優性難聴11(MYO7A)、DFNB22(OTOA)、常染色体優性非症候性難聴20/26(ACTG1)、常染色体優性難聴13・常染色体劣性難聴53(COL11A2)、バーター症候群4a型(BSND)。
5. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、「この先、聞こえはどうなるか」「どんな治療や補聴の方法が合いそうか」「ほかに気をつける症状はあるか」「家族やこれから生まれる子はどうか」を、遺伝子ごとの知見にもとづいて考えられるようになります。当院は治療を行っていないため、治療や補聴の方法は、耳鼻咽喉科など専門の医療機関で相談していただくことになります。そのときに、遺伝子の結果がそのまま判断の材料になります。
OTOF:遺伝子治療の対象になるかがわかる
米国食品医薬品局(FDA)は2026年4月23日、OTOF遺伝子が原因の難聴に対する遺伝子治療薬(一般名:lunsotogene parvec)を迅速承認しました。遺伝子が原因の難聴を直接の標的にした遺伝子治療の承認は、これが初めてです[4]。対象は、OTOFの両方の遺伝子に病的な変化が確かめられ、重度(90dBを超える)の感音難聴があり、外有毛細胞の働きが保たれていて、治療する耳に人工内耳を入れていない方とされています[4]。
承認のもとになった試験では、治療を受けた12人のお子さんのうち9人が、24週の時点で目標とした聞こえの改善に達しました[4][5]。日本でも、18歳未満のOTOFの両アレル変異による先天性難聴の方を対象にした第1/2相試験(jRCT2033250730)が、信州大学医学部附属病院で募集中と公開されています(2026年10月時点で確認)。
OTOFの難聴は、内耳の有毛細胞から聴神経へ信号を渡す部分の病気で、耳音響放射(OAE)が正常なのに聴性脳幹反応(ABR)が異常になるのが特徴です[4]。GeneReviewsでは、補聴器では言葉の聞き取りが改善しにくく、人工内耳では多くの方で改善が報告されているとされています[4]。OTOFを標的とする遺伝子治療では、「OTOFが原因」と確かめられていることが前提になります。人工内耳は、原因遺伝子がわからなくても、聴力や補聴器の効果などから適応を判断できます。くわしくはOTOF遺伝子のページもご覧ください。
人工内耳・補聴器の見通し
GeneReviewsでは、GJB2が原因の難聴は、人工内耳の成績がとても良いことが知られているとされています[1]。遺伝子によって、聞こえが生まれつきのまま変わりにくいもの、ゆっくり進むもの、変動するものがあり、原因がわかると、補聴器を続けるか、人工内耳を考えるか、どれくらいの間隔で聴力を確かめるかを考えやすくなります。
SLC26A4:聞こえの変動と甲状腺の見張り
SLC26A4遺伝子が原因の難聴では、内耳の前庭水管拡大症を伴い、新生児聴覚スクリーニングに合格したあと、幼いうちに聞こえが変動したり進んだりすることがあります[6]。頭をぶつけたあとに聞こえが落ちることとの関係が指摘されてきましたが、GeneReviews(2025年改訂)は、頭部外傷を避けることで難聴の進行が減るという根拠は十分でないとし、接触の多いスポーツなどはご家族が情報を知ったうえで決めるものとしています[6]。
同じSLC26A4の変化で甲状腺が腫れる病気がペンドレッド症候群です。甲状腺の腫れはおもに10代にあらわれ、10歳ごろに甲状腺の超音波検査を行い、その後は5〜10年ごとに確かめることが示されています[6]。難聴だけだと思っていても、遺伝子がわかることで、あとから加わりうる症状の見張りを始められます。
MYO7A・CDH23など:目の症状が加わる病気への備え
MYO7A、CDH23、PCDH15、USH1C、WHRNは、難聴だけの型のほかに、難聴に網膜の病気(夜盲・視野が狭くなる)が加わるアッシャー症候群の原因にもなる遺伝子です。難聴が先に見つかり、目の症状はあとから出てくるため、これらの遺伝子に変化が見つかった場合は、眼科での確認をどうするかを遺伝カウンセリングでご説明します。目の症状を含めて調べたいときは、アッシャー症候群の遺伝子検査が向いています。
ご家族の検査
原因の変化がわかると、ご両親・きょうだい・お子さんは、その変化だけを確かめる検査で、保因者かどうか、受け継いでいるかどうかがわかります。顕性遺伝の若年発症型のように、いま聞こえていても将来難聴が進む可能性のある方にとっては、聴力検査を受ける間隔や、仕事・生活の計画を考える材料になります。症状のないご家族の検査は、知ることの意味をよく考えたうえで受けていただくため、事前に遺伝カウンセリングを行います。
⚠️ 薬で起こる難聴(MT-RNR1)は、このパネルでは調べられません
ミトコンドリアのMT-RNR1遺伝子にm.1555A>Gなどの変化があると、アミノグリコシド系抗菌薬を使ったときに、ほぼ全員で難聴が起こるとされています[1]。国際的な薬理遺伝学のガイドライン(CPIC)は、こうした変化をもつ方では、感染症が重く他に安全で有効な薬がない場合を除き、アミノグリコシド系抗菌薬を避けることを強く勧めています[7]。MT-RNR1はこの100遺伝子に含まれていません。この体質を調べたい方、お母さん側のご家族に難聴が続いている方は、MT-RNR1を含むミトコンドリア病遺伝子検査パネル(ミトコンドリアゲノム遺伝子パネル)をご検討ください。
6. 結婚・妊娠を考えるとき(難聴 遺伝 結婚)
ご本人やご家族の難聴が、結婚や「子どもに遺伝するか」の悩みにつながることは少なくありません。原因の遺伝子と、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかがわかれば、お子さんへの確率は「わからない」から具体的な数字になります。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ったうえで考えることと、知らないまま悩むことは違います。
ご夫婦・カップルの保因者検査
潜性遺伝の難聴では、ご夫婦が同じ原因遺伝子の保因者である場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で難聴になります。一方がその遺伝子による潜性遺伝の難聴で、もう一方が同じ遺伝子の保因者である場合は、2分の1です。GJB2の保因者は日本人の約27人に1人と多いため[3]、ご本人が潜性遺伝の難聴とわかっている場合、パートナーの方がGJB2の保因者かどうかは、お子さんへの確率を大きく左右します。
妊娠前のご夫婦には、GJB2・SLC26A4・CDH23・OTOF・MYO15Aなどを含む拡大版保因者スクリーニング(女性版1009遺伝子)と男性版911遺伝子があります。NIPTとあわせて受ける方には、ご夫婦の血液で保因者を調べるファミリーセーフティプラン(女性787遺伝子・男性714遺伝子、GJB2関連の先天性難聴を含む)があります。なぜ二人一緒に受けるのかは、結婚相手と受けたい保因者検査で解説しています。
妊娠中の選択肢
ご家族の難聴の原因の変化がわかっていれば、妊娠中に赤ちゃんの遺伝子を羊水や絨毛で直接確かめる出生前診断を考えることができます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。GJB2の出生前診断の考え方はGJB2遺伝子の出生前診断は可能?保因者と再発リスクで、実際の遺伝カウンセリングの流れは遺伝性難聴のお子さんがいるご夫婦のNIPT遺伝カウンセリングで紹介しています。なお、GJB2は当院のNIPTプランの標準の項目ではありません。ご家族の変化がわかっている場合に限り、個別にご相談しています。
着床前診断(PGT-M)について
日本では、受精卵の遺伝子を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)は、日本産科婦人科学会が1件ずつ審査して認めるかどうかを決めています。2026年9月の同学会の発表を伝えた報道では、2025年7月〜2026年6月に初めて申請された疾患の例に遺伝性難聴が挙げられていました。国内で難聴がどのように扱われるかは、まだ審査が始まった段階です。
海外でPGT-Mを考える方もいます。どの場合も、まず難聴の原因の変化が確かめられていることが出発点になり、海外の施設では英語の検査結果を求められます。当院は体外受精・PGT-Mは行っていませんが、海外でPGT-Mを受けるときに使える英語の報告書をお渡しできます(検査のときにお申し出ください)。準備の流れは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へにまとめています。
7. どんな人がこの検査を受けるとよいか
難聴だけで他の症状がなく、原因を知りたい方、ご家族に難聴の方がいて自分や子どものことを知りたい方、結婚・妊娠を考えている方に向く検査です。
- ●新生児聴覚スクリーニングで再検査になり、精密検査で難聴と診断されたお子さんと親御さん
- ●生まれつき、または子どものころから両耳の感音難聴があり、目・腎臓・甲状腺などの症状はない方
- ●40歳未満で両耳の聞こえが少しずつ落ちてきた方(若年発症型両側性感音難聴が心配な方)
- ●祖父母・親・きょうだいに難聴の方がいて、自分も難聴になるのか、子どもに遺伝するのかが心配な方
- ●お子さんが遺伝性難聴と言われ、次のお子さんへの確率を知りたいご夫婦
- ●OTOFの遺伝子治療や人工内耳を考えるうえで、原因をはっきりさせたい方
ご本人に症状がなくても、ご家族の難聴が気になる方は検査を受けられます。当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。理由は院長コラムに書いています。
\ 「親は聞こえるのに、なぜ?」に、遺伝子で答えを /
若年発症型両側性感音難聴で国が挙げる11遺伝子を、すべて含む100遺伝子パネルです。
8. 検査の流れ・検体・結果までの日数・費用
検査費用は330,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。血液のほか、唾液・頬の粘膜でも検査でき、オンライン診療で受けられます。
💴 費用・日数・検体
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査内容 | 非症候群性難聴の原因となる100遺伝子の塩基配列の解析と、欠失・重複の解析(どちらも料金に含まれる) |
| 検査費用 | 330,000円(税込) |
| 遺伝カウンセリング料 | 30分22,000円(税込)※検査費用とは別 |
| 結果までの期間 | 2〜3週間 |
| オプション | 至急(結果までが約7日短くなります)55,000円/VUS除外(無料) |
| 検体 | 唾液、頬の粘膜(口腔粘膜擦過)、血液(EDTA管4mL×2本)、抽出DNA |
| オンライン診療 | 可能。血液の場合は全国の提携医療機関で採血 |
| 結果の報告書 | 日本語版。海外でPGT-Mを受ける場合などは英語版をお渡しできます(日本語版と英語版の両方は追加料金5,500円) |
※当院の検査はすべて自費診療です。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは検査料金のお支払い後にお送りします。ご自身で先に検体を採取しないでください。
検査の前の遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果の読み方は遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。遺伝カウンセリングそのものについては遺伝カウンセリングとはをご覧ください。
\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /
臨床遺伝専門医が常駐し、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明してからマイページにアップします。
9. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、100遺伝子の塩基配列の変化と、欠失・重複(1つの遺伝子全体、または2つ以上続いたエキソンの欠失・重複。エキソン単位は血液検体のみ)です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●陰性でも否定はできません:非症候群性難聴の原因の遺伝子はとても多く、この100遺伝子以外の原因や、まだ見つかっていない原因が残ります。遺伝ではない原因の難聴もあります。
- ●ミトコンドリアの遺伝子は対象外:MT-RNR1など母系遺伝の原因は、この検査では調べません。
- ●読み取りにくい場所:OTOA遺伝子のエキソン20〜28は、よく似た配列(偽遺伝子)の影響で信頼できる検出ができません。STRC遺伝子は、よくあるSTRC/CATSPER2の連続した欠失は検出できますが、それ以外の変化は通常は評価しません。TPRN遺伝子のエキソン1は調べられません。
- ●検出できない種類の変化:転座・逆位、繰り返し配列の伸長、遺伝子を調節する領域やエキソンから離れたイントロンの変化、体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)は、この検査の対象ではありません。1つのエキソンだけの欠失・重複は、日常的には検出されません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか判断できない変化が見つかることがあります。GeneReviewsでも、VUSでは診断を確定することも否定することもできないとされています[1]。VUSは、それだけで診断やご家族の検査には使いません。
検査の対象範囲は、読み取りの深さ20回以上で99%以上の領域をカバーする設計です。陰性だった場合や、聞こえ以外の症状があとから出てきた場合は、難聴遺伝子パネル(181遺伝子)や症候性難聴パネルなど、範囲の違う検査を考えます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「親は聞こえるのに」を、誰のせいにもしないために】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
潜性遺伝の難聴は、まさにこの「自分のせい」が起こりやすい病気だと考えています。日本人の約27人に1人がGJB2の保因者というデータがあるように、保因者であることは珍しいことではなく、誰のせいでもありません。聞こえるご両親から難聴のお子さんが生まれるのは、遺伝のしくみとしてごく自然に起こりうることです。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。家族歴だけで「たぶん大丈夫」「たぶん遺伝」と言うことはできません。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
そして今は、原因の遺伝子がわかることで、選べる治療が出てきた時代です。OTOFの遺伝子治療のように、「原因がわかっていること」が治療を受ける条件になる例も出てきました。知ったうえで、聞こえの備えも、結婚や妊娠の計画も考えていただきたいと思います。知ったうえで妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 難聴は遺伝しますか?
遺伝することがあります。両耳の高度〜重度の生まれつきの感音難聴のお子さんでは、最大60%で遺伝的な原因が見つかるとされています。ただし遺伝ではない原因の難聴もあり、どちらかは見た目や家族歴だけでは決められません。原因の遺伝子がわかると、遺伝のしかたと確率がはっきりします。
Q2. 両親とも聞こえるのに、なぜ子どもが難聴になるのですか?
言葉を覚える前に始まる非症候群性難聴の約80%は常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親はそれぞれ1つずつ変化をもつ「保因者」として聞こえていることが多いためです。ご両親とも保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で難聴になります。
Q3. 結婚相手に遺伝性難聴の家族がいます。子どもに遺伝する確率は?
原因の遺伝子と遺伝のしかたがわからないと計算できません。潜性遺伝では、お二人が同じ原因遺伝子の保因者である場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で難聴になります。一方がその遺伝子による難聴である場合などは、確率が異なります。ご家族の原因がわかっていればその結果を、わかっていなければご本人の検査とパートナーの保因者検査を手がかりにします。
Q4. GJB2の保因者はどれくらいいますか?
日本人の一般集団509人を調べた研究では、GJB2の難聴の原因となる変化をもつ保因者は3.73%(およそ27人に1人)でした。保因者は聞こえに問題がないため、検査をしないと気づきません。
Q5. 若年発症型両側性感音難聴も調べられますか?
はい。若年発症型両側性感音難聴(指定難病)は、40歳未満で両耳に始まる遺伝性の感音難聴で、厚生労働省の資料では11の原因遺伝子が挙げられています。この11遺伝子は、すべてこの検査の100遺伝子に含まれています。
Q6. アミノグリコシド系抗菌薬で難聴になりやすい体質はわかりますか?
この検査ではわかりません。原因となるミトコンドリアのMT-RNR1遺伝子は、この100遺伝子に含まれていないためです。調べたい方は、MT-RNR1を含むミトコンドリア病遺伝子検査パネル(ミトコンドリアゲノム遺伝子パネル)をご検討ください。
Q7. 遺伝性難聴に治療法はありますか?
補聴器や人工内耳が中心ですが、OTOF遺伝子が原因の難聴では、2026年4月に米国で遺伝子治療薬が迅速承認されました。日本では、18歳未満を対象にした治験が行われています(2026年10月時点)。遺伝子治療は、OTOFが原因と確かめられていることが前提です。人工内耳は、原因遺伝子がわからなくても、聴力や補聴器の効果などから適応を判断できます。
Q8. 症候群性難聴との違いは何ですか?どの検査を選べばよいですか?
症候群性難聴は、難聴に目・腎臓・甲状腺・心臓などの症状を伴うもので、非症候群性難聴は難聴だけのものです。難聴だけならこの非症候群性難聴パネル、ほかの症状があれば症候性難聴パネル、迷う場合は範囲の広い難聴遺伝子パネル(181遺伝子)が目安です。
Q9. 難聴の遺伝子検査の費用は?
この検査の費用は330,000円(税込)で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査はすべて自費診療です。結果までは2〜3週間で、唾液・頬の粘膜でも検査でき、オンライン診療で受けられます。
🧬 一度の検査で、聞こえとご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。非症候群性難聴の原因となる100遺伝子(若年発症型両側性感音難聴で国が挙げる11遺伝子をすべて含む)がわかれば、聞こえの見通しや治療の選択だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、ご夫婦の保因者検査、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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