この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

症候群性難聴(症候性難聴)とは、難聴に、目・腎臓・甲状腺・心臓・髪や皮膚の色など、ほかの臓器の症状を伴う遺伝性の難聴のことです。この検査は、症候群性難聴の原因になりうる92の遺伝子を一度に調べる遺伝子パネル検査です。病気によっては、難聴が先に見つかり、目や腎臓の症状は何年もあとから出てきます。原因の遺伝子がわかれば、まだ出ていない症状の見張りを早く始められ、ご家族やこれから生まれるお子さんのことも具体的に考えられるようになります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、この先ずっと使える情報になります。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 症候群性難聴の遺伝子検査で何がわかりますか?
難聴にほかの症状を伴う遺伝の病気(アッシャー症候群・ペンドレッド症候群・アルポート症候群・ワーデンブルグ症候群・鰓耳腎症候群・ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群・CHARGE症候群など)の原因になりうる92遺伝子を、一度に調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
難聴に加えて、目(夜盲・視野の狭さ)・腎臓(血尿・腎臓の形の異常)・甲状腺・心電図・髪や目の色・耳の形などの気になる所見がある方、ご家族に症候群性難聴の方がいて、ご自身やお子さんへの遺伝が心配な方です。難聴だけでほかの症状がない場合は、別の難聴の検査が向くことがあります。
🧬 Q. 費用・結果までの日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、唾液・口の内側の粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、目・腎臓・心臓・甲状腺など、見張るべきことと時期が決まります。ご家族への影響や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 症候群性難聴(症候性難聴)とは:難聴に「ほかの症状」を伴う遺伝の病気
症候群性難聴とは、難聴に加えて、目・腎臓・甲状腺・心臓・骨・皮膚などの症状を伴う遺伝性の難聴のことです。「症候性難聴」と呼ばれることもあり、英語では syndromic hearing loss といいます。遺伝子の変化が内耳だけでなくほかの臓器の働きにも関わるため、聞こえの問題とあわせて、全身の見張りが必要になることがあります。
遺伝性難聴の解説書GeneReviewsによると、言葉を覚える前に始まる遺伝性難聴のうち、約70%はほかの症状を伴わない非症候群性難聴で、症候群性難聴は約20%です。また、遺伝の病気のデータベース(OMIM)には、感音難聴を伴う症候群が665項目登録されています[1]。一つひとつはまれでも、種類はとても多いのが症候群性難聴の特徴です。難聴の遺伝全体については、遺伝性難聴 総論と感音難聴のページで解説しています。
症候群性難聴と非症候群性難聴の違い
違いは「難聴のほかに症状があるかどうか」です。難聴だけが症状の場合を非症候群性難聴(非症候群性感音難聴 総論)といいます。ただし、同じ遺伝子の変化が、ある人では難聴だけ、別の人ではほかの症状を伴う形で現れることもあります。たとえばSLC26A4遺伝子の変化は、甲状腺の症状を伴うペンドレッド症候群にも、難聴だけの型(DFNB4)にもなります[3]。そのため、今ほかの症状がないことだけで、どちらかに決めることはできません。
難聴が先に見つかり、ほかの症状はあとから出てくることがある
症候群性難聴のなかには、難聴が最初に見つかり、ほかの症状が何年もあとから出てくる病気があります。いま耳以外に症状がなくても、遺伝子を調べる意味があるのはこのためです。
- ●アッシャー症候群1型:生まれつきの重い両側の難聴と平衡機能の障害があり、網膜色素変性(夜盲・視野が狭くなる)は思春期に出てきます[2]。
- ●アルポート症候群:難聴は多くが10歳を過ぎてから始まります[1]。X連鎖型の男性では、40歳までに90%に難聴が出ると報告されています[9]。
- ●Mohr-Tranebjaerg症候群:難聴がいつも最初の症状で、10代でジストニア(体が意図せずねじれる動き)や運動失調、20歳ごろに視神経萎縮による視力低下、40歳ごろに認知症が出てくるとされています[1]。
- ●ペンドレッド症候群:甲状腺腫は、ヨウ素を日常的にとっていない地域では、多くが10歳を過ぎてから目立ってきます[3]。
「難聴が先、ほかの症状はあと」という病気では、原因がわかれば、目の検査・尿検査・心電図などの見張りを症状が出る前から始められます。これが、症候群性難聴の遺伝子検査を受ける大きな理由のひとつです(第6章)。
2. 難聴といっしょに出る症状から見る、主な症候群性難聴
症候群性難聴は、難聴と一緒に出る症状から、ある程度病気をしぼりこめます。ここでは、このパネルの92遺伝子で調べられる代表的な病気を、症状ごとにまとめました。いちばん右の列は、主な遺伝のしかたです。
🧭 一緒に出る症状から見る主な症候群性難聴(このパネルで調べられるもの)
※遺伝子と遺伝のしかたは文献[1][2][3][4][5][6][7][8][9]と、米国国立医学図書館の遺伝の解説(MedlinePlus Genetics)、英国Genomics EnglandのPanelAppによる。
目の症状を伴う:アッシャー症候群・スティックラー症候群・ウォルフラム症候群など
難聴と目の症状を伴う症候群性難聴で代表的なのは、アッシャー症候群です。アッシャー症候群1型は、生まれつきの重い両側難聴・平衡機能の障害・思春期からの網膜色素変性を特徴とし、MYO7A・USH1C・CDH23・PCDH15・USH1Gのいずれかの遺伝子で起こる常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です[2]。目の症状と遺伝子の関係はアッシャー症候群と網膜色素変性症 総論で詳しく解説しています。目と耳の両方を詳しく調べたい方は、アッシャー症候群の遺伝子検査もあります。
スティックラー症候群では、約40%に感音難聴(多くは高い音が中心で、軽いことが多い)がみられます[1]。強い近視・網膜剥離・白内障などの目の症状が特徴で、原因の約80%はCOL2A1遺伝子です。COL2A1・COL11A1・COL11A2は常染色体顕性(優性)遺伝、COL9A1・COL9A2・COL9A3は常染色体潜性遺伝とされています(MedlinePlus Genetics)。ウォルフラム症候群は、糖尿病・視神経萎縮に、約65%で感音難聴を伴う潜性遺伝の病気で、1型の90%以上はWFS1遺伝子、2型はCISD2遺伝子で起こります(MedlinePlus Genetics)。ほかに、アルストレーム症候群(ALMS1)や、男の子に生まれつきの重い目の症状が出て約30%に進行する難聴を伴うノリエ病(NDP、X連鎖潜性)も対象です(MedlinePlus Genetics)。
腎臓の症状を伴う:アルポート症候群・鰓耳腎症候群など
血尿や腎臓の形の異常に難聴を伴う場合は、アルポート症候群と鰓耳腎症候群を考えます。アルポート症候群は、日本の小児腎臓病の専門家の総説では、X連鎖型が80%・常染色体潜性型が15%・常染色体顕性型が5%とされています。X連鎖型の男性では、末期腎不全になる年齢の中央値が25歳で、40歳までに90%に難聴が出ます。女性も40歳までに約12%が末期腎不全になると報告されています[9]。くわしくはアルポート症候群の遺伝子パネル検査をご覧ください。
鰓耳腎症候群(BOR症候群)では、90%を超える方に難聴があり(伝音難聴・感音難聴・両方が混ざった混合性難聴のいずれも)、67%に腎臓・尿路の形の異常(CAKUT)があります。耳の前の小さな穴(耳瘻孔)や首のくぼみもよくみられます。原因はEYA1が40〜52%、SIX1が4〜35%です。以前に原因とされたSIX5は、今は関連に異論があるとされ、原因遺伝子とはみなされていません[5]。専用の鰓耳腎症候群の遺伝子検査もあります。
このほか、副甲状腺の働きの低下・感音難聴・腎臓の形の異常を伴うHDR症候群(GATA3)[10]、典型的には乳幼児期から感音難聴を伴う進行性感音難聴を伴う遠位尿細管性アシドーシス(ATP6V1B1)、生まれる前から重い症状が出るバーター症候群4a型(BSND)も、このパネルで調べます(MedlinePlus Genetics)。
甲状腺の症状を伴う:ペンドレッド症候群
ペンドレッド症候群は、難聴と甲状腺の症状を伴う常染色体潜性遺伝の病気で、内耳の前庭水管という管が広がっている(前庭水管拡大)のが特徴です。GeneReviewsでは、前庭水管拡大は罹患した方の全員にあり、聞こえは生まれつきのことも、あとから始まることもあり、揺れ動いたり、急に進んだりすることがあるとされています。新生児聴覚スクリーニングで異常が出ないこともあります。甲状腺腫は、ヨウ素を日常的にとっていない地域では多くが10歳を過ぎてから目立ち、甲状腺の機能検査はふつう正常です[3]。
原因として確立している遺伝子はSLC26A4だけです。前庭水管拡大がある方でSLC26A4に2つの病的な変化が見つかる割合は、中国・韓国・日本の集団では67〜90%と、北欧の集団(約25%)より高いと報告されています。FOXI1とKCNJ10は、SLC26A4と組み合わさって起こる(二遺伝子遺伝)可能性が報告されましたが、その後の研究では支持されていないとされています[3]。詳しくはペンドレッド症候群と前庭水管拡大症(EVA)をご覧ください。
心臓の症状を伴う:ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群は、生まれつきの重い両側難聴と、心電図のQT延長(多くはQTcが500ミリ秒を超える)を特徴とする常染色体潜性遺伝の病気です。約90%がKCNQ1、10%未満がKCNE1遺伝子で起こります。GeneReviews(2017年の版)では、治療しないと半数以上が15歳までに亡くなるとされ、命にかかわる不整脈を防ぐことがいちばん大切な病気です[4]。
同じ遺伝子の変化を1つだけもつご両親(保因者)も、QT延長症候群(ロマノ・ワード症候群)を示すことがあります[4]。難聴の原因がこの病気とわかることは、お子さんだけでなく、ご両親やきょうだいの心臓を守ることにもつながります。詳しくはジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群、QT延長症候群 総論、専用のジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群の遺伝子検査とQT延長症候群/ブルガダ症候群の遺伝子検査をご覧ください。
髪・皮膚・目の色に特徴がある:ワーデンブルグ症候群
ワーデンブルグ症候群は、難聴に、白い前髪・左右で色の違う目(虹彩異色)・皮膚の白い斑などの色素の変化を伴う病気です。1型では、感音難聴が47〜58%、白い前髪が43〜48%、虹彩異色が15〜31%にみられ、有病率は2万〜4万人に1人、生まれつき耳が聞こえない子どもの約3%にあたると推定されています。1型・3型はPAX3、2型はMITF・SOX10・SNAI2、ヒルシュスプルング病を伴う4型はEDNRB・EDN3・SOX10で起こります。1型は常染色体顕性遺伝です[6]。
詳しくはワーデンブルグ症候群と、専用のワーデンブルグ症候群の遺伝子パネル検査をご覧ください。4型で腸の症状がある方はヒルシュスプルング病の遺伝子検査、色素の病気としては眼皮膚白皮症の遺伝子パネル検査も関係します。
顔・耳の形に特徴がある:トリーチャー・コリンズ症候群・CHARGE症候群
トリーチャー・コリンズ症候群では、頬の骨や下あごが小さい・下まぶたの形の変化・耳の形の異常がみられ、約40〜50%に伝音難聴があります。中耳の小さな骨(耳小骨)の形の異常によることが多く、内耳はふつう正常です。顕性遺伝の多くはTCOF1、ほかにPOLR1D(顕性、まれに潜性)、POLR1C(潜性)で起こり、顕性の55〜61%は新しく起きた変化です[8]。原因のひとつPOLR1Bは、このパネルの92遺伝子に入っていません。顔の形の特徴が中心の方は、トリーチャー・コリンズ症候群関連遺伝子パネル検査が向いています。
CHARGE症候群(CHD7)では、95%を超える方に感音難聴または平衡機能の障害があり、約80%に目のコロボーマ(瞳や網膜の一部の欠け)がみられます。多くは新しく起きた変化による常染色体顕性遺伝です[7]。詳しくはCHARGE症候群とCHD7遺伝子をご覧ください。
神経・代謝・そのほかの症状を伴う病気
このパネルには、神経や代謝の病気で難聴を伴うものも含まれます。Mohr-Tranebjaerg症候群(TIMM8A、X連鎖)[1]、女性では卵巣の働きの異常を伴うペロー症候群(TWNK・CLPP・HARS2・LARS2・HSD17B4、潜性)、治療を続けることで合併症を防げるビオチニダーゼ欠損症(BTD、潜性)などです(MedlinePlus Genetics)。両側の聴神経の腫瘍で難聴になるNF2関連シュワノマトーシス(旧:神経線維腫症2型、NF2)も対象で、神経線維腫症の遺伝子パネル検査と関係します。92遺伝子すべての病名と遺伝のしかたは、第5章の表にまとめました。
3. どの難聴の遺伝子検査を選ぶか
難聴に目・腎臓・甲状腺・心臓などほかの症状があるなら、このページの症候群性難聴パネル(92遺伝子)が向いています。難聴だけでほかの症状がない、またはどちらか迷う場合は、難聴パネル181遺伝子をおすすめします。当院では、難聴の遺伝子検査を目的に合わせて選べるようにしています。
🔍 難聴の遺伝子検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
GeneReviewsは、ミトコンドリアDNAのm.1555A>Gなどの変化をもつ方は、アミノグリコシド系抗菌薬にたとえ一時的にでもさらされると、ほぼ全員が難聴になるとしています[1]。この症候群性難聴パネルの92遺伝子には、ミトコンドリアDNAの遺伝子は入っていません。お母さん側の家系に難聴の方が多いなど、ミトコンドリアの変化が気になる場合は、遺伝カウンセリングでお伝えください。
4. どんな人が症候群性難聴の遺伝子検査を受けるとよいか
難聴と一緒に、ほかの臓器の気になる所見がある方、ご家族に症候群性難聴の方がいる方に向く検査です。読む方の立場ごとにまとめました。
難聴と診断されたお子さんの親御さん
お子さんの難聴の原因がわかると、病名がはっきりし、何をいつ調べればよいかが決まります。たとえば、ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群は、難聴が重く、ほかの診察で異常がないお子さんで疑うとされています[4]。アッシャー症候群のように目の症状があとから出る病気では、原因がわかっていれば、眼科の見張りや、学校・進路の準備を早めに考えられます。
原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。お子さんで新しく起きた変化だとわかれば、ご両親のせいではないことがはっきりします。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
難聴に加えて、ほかの症状もある大人の方
子どものころからの難聴に、大人になって視野の狭さ・血尿・甲状腺の腫れなどが加わった方では、それらが1つの病気でつながっていることがあります。原因がわかると、受けるべき検査・気をつけたい薬・使える制度(第8章)が決まります。原因がわからないまま、目・腎臓・耳と別々の病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。ただし、全員に原因が見つかるわけではありません(第5章)。
家族に症候群性難聴の人がいて、自分や子どもへの遺伝が心配な方
ご家族ですでに原因の遺伝子がわかっていれば、症状のないご自身が同じ変化をもっているかを、ピンポイントで調べられます。顕性遺伝の病気なら、ご自身に変化がなければ、その変化をお子さんに伝えることはありません。潜性遺伝の病気なら、ご自身が保因者かどうか、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの確率が決まります(第7章)。
ご家族の原因がまだわかっていないときは、症状のある方から先に調べるのが基本です。当院は、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。見た目や家族歴だけではわからないことがあり、検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
この検査より別の検査が向いている場合
難聴だけでほかの症状がない方は、非症候群性難聴の遺伝子パネル検査か難聴パネル181遺伝子が向いています。病気がはっきり1つにしぼれている場合(たとえば腎臓の症状が中心のアルポート症候群)は、その病気の専用の検査のほうが、調べる遺伝子が合っていることがあります(第3章の表)。
5. 症候群性難聴パネル(92遺伝子)の概要
この検査では、症候群性難聴の原因になりうる92の遺伝子を、次世代シーケンサーで一度に調べます。遺伝子の配列の小さな変化(1文字の置き換わり・小さな挿入や欠失)と、遺伝子のまとまった欠失・重複を調べます。1つずつ遺伝子を順番に調べる方法と違い、症状が複数の病気にまたがるときでも、まとめて調べられます。次世代シークエンサーのしくみは用語のページで解説しています。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
対象の92遺伝子と、それぞれでわかる病気
調べる92遺伝子と、関係する主な病気・遺伝のしかたです。下の「詳しくはこちら」を開くと一覧が表示されます。遺伝子名のリンク先では、それぞれの遺伝子の働きを解説しています。
🧬 詳しくはこちら:対象の92遺伝子と関係する病気(クリックで開く)
※病名と遺伝のしかたは、英国Genomics EnglandのPanelApp・GeneReviews・MedlinePlus Geneticsで確かめたもの(2026年10月時点)。1つの遺伝子に複数の病気がある場合は、難聴に関係する主なものを載せています。
この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、92遺伝子の配列の小さな変化と、遺伝子のまとまった欠失・重複です。どの遺伝子検査にも限界があります。陰性でも、症候群性難聴を否定することはできません。
- ●調べていない遺伝子:症候群性難聴の原因は、この92遺伝子だけではありません。たとえば、トリーチャー・コリンズ症候群のPOLR1B、難聴を伴う遠位尿細管性アシドーシスのATP6V0A4、バーター症候群4型のCLCNKA・CLCNKBは入っていません。
- ●ミトコンドリアDNA:アミノグリコシド系抗菌薬で難聴が起きやすくなるm.1555A>Gなど、ミトコンドリアDNAの変化は調べません。
- ●見つけにくい変化:調べるのは遺伝子のたんぱく質をつくる部分とその境目です。転座や逆位などの染色体の構造の変化、繰り返し配列の伸び(リピート伸長)、遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)や遺伝子の奥深く(エクソンから20塩基より離れた部分)の変化は調べられません。体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)や、がんの組織の検査も対象外です。
- ●欠失・重複の検出範囲:遺伝子まるごとの欠失・重複(口の内側の粘膜と血液)と、2つ以上続くエクソンの欠失・重複(血液のみ)を見つけます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふつうは検出しません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●似た配列:遺伝子とよく似た配列(偽遺伝子)があると、まれに変化を見つけにくいことがあります。読み取りの質が十分でない部分は、サンガー法という別の方法で確かめます。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
検査の精度の目安として、調べる部分の99%以上を、20回以上重ねて読み取ります(読み取る回数が多いほど、変化を見落としにくくなります)。
至急オプションとVUSの扱い
至急オプション(55,000円)を選ぶと、結果までの期間が約7日短くなります。また、意義がまだわからない変化(VUS)を報告に含めない「VUS除外」も選べます(無料)。どちらがよいかは、遺伝カウンセリングでご相談ください。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、ご本人の見張りと治療の選び方、ご家族の検査、これからのお子さんのことまで、具体的に考えられるようになります。わかるだけで終わらせないために、立場ごとに次にできることをまとめました。治療そのものは、それぞれの病気の専門の医療機関で受けていただきます。
ご本人:病名が決まり、見張りを始められる
病気ごとに、見張る臓器と時期が決まります。GeneReviewsなどに書かれている主なものです。
- ●ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群:心臓の専門医のもとで、β遮断薬(なかでもナドロールが勧められている)を中心に治療し、危険が高い方には植込み型除細動器(ICD)を考えます。QTをさらに延ばす薬は避けるとされています[4]。
- ●アルポート症候群:専門家の推奨では、男性は診断した時点でACE阻害薬を始め、女性は蛋白尿か潜血が出た時点で始めるとされています。早く始めると、末期腎不全になる時期を遅らせられると報告されています[9]。
- ●ペンドレッド症候群:聴力検査は3歳までは3〜6か月ごと、その後は年1回。甲状腺は10歳ごろに超音波検査を1回、その後は触診などに応じて5〜10年ごとに調べます[3]。
- ●鰓耳腎症候群:聴力は受診のたびに確かめ、腎臓・尿路の異常がある方は腎臓の働きを少なくとも年1回調べます[5]。
- ●アッシャー症候群1型:人工内耳を、医学的にできる限り早い時期に考えるとされています。平衡機能が残っている子どもには、その働きを補う訓練が勧められています[2]。
💡 前庭水管拡大と頭部への衝撃について
前庭水管拡大がある方で、頭への衝撃のあとに聞こえが悪くなったという報告があります。ただしGeneReviewsは、ぶつかり合うスポーツなどを避けることで難聴の進行を防げるという十分な根拠はないとしています。そのうえで、こうした関係が報告されていることをご家族に伝え、スポーツをどうするかはご家族で決めるよう勧めています[3]。
症状のないご本人・保因者とわかった方
顕性遺伝の病気の変化をもっているとわかった方は、症状がなくても、その病気で見張るべきこと(たとえばワーデンブルグ症候群なら聞こえ、鰓耳腎症候群なら腎臓)を主治医と相談できます。潜性遺伝の病気の保因者とわかった方は、ご自身の健康にはふつう影響しませんが、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの確率が変わります(第7章)。ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群の保因者は、QT延長症候群を示すことがあるため、GeneReviewsは、聞こえが正常なきょうだいやご両親にも心電図を勧めています[4]。
子どもを持つときの選択肢
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんに同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。羊水検査・絨毛検査は院内で受けられます(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。赤ちゃんの遺伝子を広く調べる出生前全エクソーム検査と出生前全ゲノム検査にも対応しています。
このパネルの遺伝子のうち、CHD7・COL11A1・COL2A1・FGFR1・FGFR2は、当院のNIPTのダイヤモンドプランとインペリアルプランで、ACTB・ACTG1・COL9A2・COL9A3・NF2・SMAD4はインペリアルプランで調べられます(主に、妊娠中の赤ちゃんで新しく起きた変化を見つける目的です)。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。詳しくはダイヤモンドプラン・インペリアルプランのページをご覧ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、着床前遺伝学的検査(PGT-M)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
知ったうえで、出生前診断を受けずにそのまま妊娠・出産を迎えることも、もちろん選べる選択肢です。当院は、どの選択も尊重します。
ご家族:同じ変化をもっているかをピンポイントで調べられる
ご本人の原因の変化がわかれば、ご両親・きょうだい・いとこなどの血縁の方は、その1か所を調べることで、同じ変化をもっているかを確かめられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のもとで、遺伝カウンセリングを受けてから行います。
当院でのその後と、陰性・VUSだったとき
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因が見つからなかった場合は、症候群性難聴の可能性が低くなったとは言えても、否定はできません(第5章)。症状に合わせて、難聴パネル181遺伝子や全エクソーム検査などの次の検査を考えます。VUSは、それだけで診断を確定したり、ご家族が発症するかどうかを予測する検査に使ったりはしません。調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
7. 症候群性難聴の遺伝のしかたと、お子さんに伝わる確率
症候群性難聴の遺伝のしかたは、病気(遺伝子)によって、常染色体顕性(優性)遺伝・常染色体潜性(劣性)遺伝・X連鎖遺伝の3つに分かれ、お子さんへの確率もそれぞれ違います。遺伝のしかたの基本は遺伝形式とはで解説しています。
🧬 遺伝のしかたと、お子さんに伝わる確率
※確率は文献[2][3][5][6]などによる。同じ変化でも、症状の重さや出る時期は人によって違います。
顕性遺伝の病気では、同じ遺伝子の変化をもっていても、症状の重さが人によって大きく違うことがあります。鰓耳腎症候群は、大きな家系では変化をもつ方のほぼ全員に何らかの症状が出る一方、同じ家族の中でも症状の差が大きいとされています。また、10〜20%は新しく起きた変化です[5]。「親が軽いから、子どもも軽い」とは言えません。保因者のしくみは劣性遺伝(潜性遺伝)とはで、症状が出るかどうかの考え方は浸透率で解説しています。
結婚・妊娠を考えているとき:パートナーの保因者検査
家族に難聴の方がいても、それだけで結婚や出産をあきらめる必要はありません。遺伝の確率は、病気とご家族ごとに違い、検査でわかることがあります。病気やご家族の病気を理由に、結婚に悩む方もいます。ご自身が変化をもっているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か、お子さんへの確率はどれくらいかを知ったうえで、出生前診断などの選択肢も含めて考えることができます。
このパネルの潜性遺伝・X連鎖の遺伝子のうち、MYO7A・USH1C・CDH23・PCDH15・USH1G・USH2A・ADGRV1・WHRN・CLRN1(アッシャー症候群)、CIB2(非症候群性難聴DFNB48)、SLC26A4(ペンドレッド症候群)、COL4A3・COL4A4・COL4A5(アルポート症候群)、ALMS1・BTD・NDP・PEX1・PEX6・ATP6V1B1・BSND・BCS1L・HSD17B4・LHX3・LRP2・MANBA・SLC19A2・SLC4A11・TYR・COL11A2は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)に含まれています。一方、KCNQ1・KCNE1(ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群)、WFS1、COL9A1〜COL9A3、TIMM8Aなどは含まれていません。ご家族で原因がわかっている場合は、パートナーの方も同じ遺伝子を調べる方法を、遺伝カウンセリングでご相談ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラスもあります(単独では受けられません)。
8. 日本の制度(2026年10月時点):指定難病になっている症候群性難聴
症候群性難聴のうち、アッシャー症候群(303)・鰓耳腎症候群(190)・アルポート症候群(218)・ウォルフラム症候群(233)・チャージ症候群(105)は、国の指定難病です(括弧内は告示番号)。神経線維腫症(34)・ペルオキシソーム病(234)・ミトコンドリア病(21)・若年発症型両側性感音難聴(304)も指定難病です。一方、ワーデンブルグ症候群・ペンドレッド症候群・スティックラー症候群・トリーチャー・コリンズ症候群は、指定難病の一覧には見当たりません(令和7年4月1日現在の一覧で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの病気の診断の基準と重症度の基準を満たし、申請する必要があります。遺伝子検査で原因が確定していることが、診断の手がかりになる病気もあります。認定の条件や申請の方法は、難病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれでもオンライン診療で受けられます(血液は全国の提携医療機関で採血します)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
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💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【難聴の「その先」を、症状が出る前から考える】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
症候群性難聴の多くは、難聴だけを見ていては、その先に何が起こるかがわかりません。目の症状が何年もあとから出る病気、心臓の不整脈が命にかかわる病気、腎臓の働きが少しずつ落ちていく病気が、同じ「難聴」の中に混ざっています。原因の遺伝子がわかれば、何をいつ見張ればよいかが決まり、症状が出る前から準備を始められます。わかるだけで終わらず、次の一手が決まることに、この検査の意味があると考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。当院では、検査と遺伝カウンセリングから、妊娠したときの出生前診断まで、続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 症候群性難聴と症候性難聴は同じですか?
同じ意味で使われています。どちらも、難聴に目・腎臓・甲状腺・心臓など、ほかの臓器の症状を伴う遺伝性の難聴を指します。英語では syndromic hearing loss といいます。
Q2. 非症候群性難聴との違いは何ですか?
難聴のほかに症状があるかどうかの違いです。言葉を覚える前に始まる遺伝性難聴のうち、約70%が非症候群性、約20%が症候群性とされています。ただし、アッシャー症候群の目の症状のように、ほかの症状があとから出てくる病気もあるため、今ほかの症状がないことだけでは区別できません。
Q3. どんな症状があれば、この検査を受けるとよいですか?
難聴に加えて、夜盲や視野の狭さなどの目の症状、血尿や腎臓の形の異常、甲状腺の腫れ、心電図のQT延長、白い前髪や虹彩異色などの色素の変化、耳や顔の形の特徴などがある場合です。ご家族に症候群性難聴の方がいる場合も対象になります。難聴だけの場合は、非症候群性難聴パネルや難聴パネル181遺伝子が向いています。
Q4. 症候群性難聴は遺伝しますか?子どもに伝わる確率は?
遺伝のしかたは病気によって違います。常染色体顕性遺伝の病気では、親が変化をもつとお子さん1人ごとに2分の1、常染色体潜性遺伝の病気では、ご両親とも保因者のときにお子さん1人ごとに4分の1です。X連鎖遺伝の病気では、お母さんが保因者かどうかとお子さんの性別で変わります。
Q5. 家族に難聴の人がいると、結婚に差し支えますか?
家族に難聴の方がいることだけで、結婚や出産をあきらめる必要はありません。遺伝の確率は病気とご家族ごとに違い、ご自身が原因の変化をもっているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者かは、検査で調べられます。知ったうえで、出生前診断なども含めて選ぶことができます。
Q6. 検査で原因が見つからなかったら、症候群性難聴ではないのですか?
否定はできません。症候群性難聴の原因は92遺伝子だけではなく、ミトコンドリアDNAの変化や、この検査で見つけにくい種類の変化もあります。症状に合わせて、難聴パネル181遺伝子や全エクソーム検査などの次の検査を考えます。
Q7. 費用と結果までの日数はどれくらいですか?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。至急オプション(55,000円)で約7日短くなります。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q8. 妊娠中に赤ちゃんを調べることはできますか?
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんに同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
Q9. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。結果は基本的に日本語版でお渡ししていますが、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。
🧬 一度の検査で、難聴の「その先」とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。症候群性難聴の原因がわかれば、目・腎臓・心臓・甲状腺の見張りを症状が出る前から始められ、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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