この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

スティックラー症候群は、目・耳・口(口蓋)・関節をつくるコラーゲンの遺伝子の変化で起こる、遺伝性の病気です。強い近視と網膜剥離、難聴、口蓋裂、若いうちからの関節の痛みなどが、人によってさまざまな組み合わせで現れます。原因の遺伝子がわかると、網膜剥離に備えた目の定期検査や、ご家族の検査など、次に打つ手が決まります。このページでは、症状・遺伝のしかた・予後と、原因の6遺伝子をまとめて調べる遺伝子パネル検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. スティックラー症候群とは?この検査で何がわかりますか?
コラーゲンの遺伝子の変化で、強い近視・網膜剥離・難聴・口蓋裂・関節の症状が出る遺伝性の病気です。この検査では、原因として知られる6つの遺伝子(COL2A1・COL11A1・COL11A2・COL9A1・COL9A2・COL9A3)をまとめて調べ、どの遺伝子が原因かを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
子どものころからの強い近視や網膜剥離、難聴、口蓋裂やピエール・ロバン・シーケンス、若いうちからの関節の痛みがある方、ご家族にスティックラー症候群の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。多い型(COL2A1・COL11A1)ならお子さんに受け継がれる確率は2分の1です。ご家族の検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. スティックラー症候群とは
スティックラー症候群(Stickler syndrome)は、目・耳・口蓋・関節の軟骨などをつくるコラーゲンの遺伝子の変化によって起こる、遺伝性の結合組織の病気です。主な症状は、強い近視と網膜剥離、難聴、口蓋裂、若いうちから始まる関節の病気で、これらが人によってさまざまな組み合わせ・重さで現れます[1]。
名前は、この病気を報告したスティックラー医師に由来します。目の奥を満たすゼリー状の硝子体(しょうしたい)、耳の奥の聞こえの仕組み、口蓋や関節の軟骨は、どれも同じ種類のコラーゲン(II型・IX型・XI型)でできています。そのため、ひとつの遺伝子の変化が、一見ばらばらに見える目・耳・口・関節の症状を同時に起こすのです。
どれくらいの人がなる病気か
遺伝性疾患の解説書GeneReviews(2023年改訂)では、スティックラー症候群の有病率は「わかっていない」とされています[1]。症状が軽い方では診断されないままのことも多く、正確な数を出すのが難しい病気です。古い資料には「1万人に1人」などの数字が載っていることがありますが、当院ではこれを裏づける一次情報を確かめられなかったため、ここでは使いません。
原因になる6つの遺伝子と、それぞれの割合
GeneReviewsに示された原因遺伝子別の推定割合では、スティックラー症候群の約80%はCOL2A1遺伝子、約20%はCOL11A1遺伝子の変化が原因です。COL11A2、COL9A1、COL9A2、COL9A3は、それぞれ1%未満とされています[1]。当院の検査は、この6つの遺伝子をまとめて調べます(第6章)。
ピエール・ロバン・シーケンスとの関係
生まれつき下あごが小さく、舌が奥に落ち込み、口蓋裂や呼吸・哺乳の難しさを伴う状態をピエール・ロバン・シーケンスといいます。GeneReviewsでは、ピエール・ロバン・シーケンスの赤ちゃんの約3分の1に背景となる症候群があり、その中で最も多いのがスティックラー症候群とされています[1]。生まれたときに口蓋裂やピエール・ロバン・シーケンスがわかったお子さんで、強い近視が早くから見つかったときは、この病気を考えるきっかけになります。
2. 症状:目・耳・顔・口・関節
スティックラー症候群のいちばん大切な症状は目で、強い近視と網膜剥離です。ほかに難聴、口蓋裂、関節の症状があり、どの症状がどれくらい出るかは原因の遺伝子によって違います[1]。同じ家族の中でも、症状の出方には大きな差があります。
🧬 原因遺伝子ごとの主な症状の頻度(GeneReviews)
※GeneReviews(2023年改訂)[1]の表による。COL11A2とCOL9A1・A2・A3は報告された方が少なく、数字の幅が大きいことに注意してください。
目:強い近視と網膜剥離
目の症状は、視力を守るうえでいちばん大切です。COL2A1が原因の方の80〜90%に近視がみられ、網膜剥離は40〜70%に起こるとされています[1]。近視は子どものころから強いことが多く、白内障が若いうちに出ることもあります。
目の中の硝子体の見え方には、原因遺伝子による違いがあります。眼科の細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で見ると、COL2A1では膜のような形(1型)、COL11A1ではビーズ状の形(2型)が多いとされ、眼科医が原因遺伝子を推し量る手がかりになります[1]。COL2A1の変化の中には、全身の症状がほとんどなく、目の症状だけが目立つ眼球限局型スティックラー症候群1型もあります。
一方、COL11A2が原因のタイプには、目の症状がありません。COL11A2は硝子体ではつくられないためと説明されています[1]。「目は何ともないのに、難聴や口蓋裂、関節の症状がある」という場合も、この病気の可能性は残ります。
耳:難聴
難聴は、原因遺伝子による差がとくに大きい症状です。GeneReviewsでは、COL2A1で20〜50%、COL11A1で75〜80%、COL11A2で60%、COL9A1・A2・A3で90〜95%とされています[1]。
46本の報告・313人をまとめた系統的レビューでは、約63%に難聴があり、多くは軽度から中等度でした。いちばん多いのは内耳の感音難聴で、音が伝わる経路の難聴(伝音難聴・混合性難聴)は、主に小さいお子さんや口蓋裂のある方にみられました。難聴はCOL11A2・COL11A1が原因の方で多く、COL2A1では少なめでした[2]。目にも症状がある方が多いので、聞こえの定期的な確認が勧められています[1][2]。
顔の特徴
スティックラー症候群では、顔の真ん中(ほお骨や鼻の付け根)が平ためで、鼻が小さく、下あごが小さめといった特徴がみられることがあります。これはコラーゲンの変化による骨の育ち方の違いで、成長とともに目立たなくなることもあります。顔立ちだけで診断することはできません。気になる場合は、目・耳・口蓋の所見とあわせて、遺伝子検査で確かめます。
口:口蓋裂とピエール・ロバン・シーケンス
口蓋裂は、COL2A1で30〜60%、COL11A1で60%、COL11A2で35%にみられます。口蓋裂は、下あごが小さくなくても起こることがあります[1]。口蓋裂やピエール・ロバン・シーケンスは、哺乳・呼吸・ことばの発達、中耳炎による聞こえにもかかわるため、形成外科・耳鼻咽喉科・言語聴覚士などが連携して見ていきます。
関節・背骨
若いうちから始まる変形性関節症はよくみられ、重くなることもあります。背骨の側弯や後弯も報告されています[1]。子どものころは関節がやわらかいこともあり、「体がやわらかい子」と思われていた方が、大人になって関節の痛みに悩むこともあります。
3. 遺伝のしかた:顕性(優性)と潜性(劣性)
スティックラー症候群の大部分(COL2A1・COL11A1・COL11A2)は常染色体顕性(優性)遺伝で、親から子へ2分の1の確率で伝わります。COL9A1・COL9A2・COL9A3が原因のまれなタイプは、常染色体潜性(劣性)遺伝です[1]。どちらなのかで、ご家族への影響がまったく違うため、原因の遺伝子を確かめる意味があります。
常染色体顕性(優性)遺伝:お子さんへは2分の1
常染色体顕性(優性)遺伝では、対になった2本の遺伝子のうち1本に変化があれば発症しうるため、スティックラー症候群の方のお子さんは、1人ごとに2分の1の確率でその変化を受け継ぎます[1]。性別には関係ありません。
⚠️ 「親が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
スティックラー症候群は、同じ家族の中でも症状の重さに大きな幅があります[1]。親御さんは軽い近視だけで気づいていなくても、同じ変化を受け継いだお子さんに口蓋裂や網膜剥離が起こることがあります(これを表現型の多様性といいます)。ご家族の誰かがスティックラー症候群とわかったときは、症状の有無だけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
常染色体潜性(劣性)遺伝:きょうだいへは4分の1
COL9A1・COL9A2・COL9A3が原因のタイプは、常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親はふつう症状のない保因者で、お子さんのきょうだいは、それぞれ4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で保因者になり、4分の1の確率でどちらでもありません[1]。このタイプは難聴が90〜95%と多く、網膜剥離は13〜18%とされています[1]。
家族に同じ病気の人がいなくても起こる
ご家族にスティックラー症候群の方がいなくても、ご本人の代で新しく起きた遺伝子の変化(新生突然変異)で発症することがあります。ただし、GeneReviewsでは、新しく起きた変化による方の割合は「わかっていない」とされています[1]。また、軽い症状で気づかれていない親御さんが同じ変化をもっていることもあるため、「家族にいないから新しく起きた変化だろう」と決めつけることはできません。
新しく起きた変化に見えても、親御さんの卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)にだけ変化がある「性腺モザイク」のことがあります。その場合、変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化をもちますが、生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは人によって違い、実際の診療ではわかりません。そのため、次のお子さんへの確率は「最大で2分の1」と考えます。「新しく起きた変化だから次は大丈夫」と小さく見積もらないことが大切です。
4. スティックラー症候群は治る?予後と今できる備え
今のところ、スティックラー症候群の原因そのものを治す治療はありません。けれども、網膜剥離を防ぐ予防の処置や、目と耳の定期的な検査など、症状を早く見つけて悪くさせないための備えははっきりしています[1]。「治らないから知っても仕方がない」病気ではありません。
網膜剥離を防ぐ:予防の処置と年1回の眼科検査
GeneReviewsは、網膜・硝子体を専門にする眼科医による年1回の診察、網膜剥離の予防的処置の検討、網膜剥離の症状(光が走って見える・黒い点が急に増える・視野の一部が欠ける)についての説明を勧めています[1]。
英国ケンブリッジの施設が、COL2A1が原因の1型の方487人を調べた研究(過去の記録をさかのぼって比べた研究)では、両目に網膜剥離を防ぐ処置(冷凍凝固)を受けた人に比べ、受けなかった人の網膜剥離のリスクは約7.4倍でした。条件をそろえて比べた解析でも約5倍で、長い期間で大きな副作用はみられなかったと報告されています[3]。予防の処置を受けるかどうか、どの方法を選ぶかは、網膜を専門にする眼科医とご相談ください。
聞こえ・口蓋・関節の備え
聞こえは年1回の検査が勧められています[1]。難聴が早く見つかれば、補聴器などで聞こえとことばの発達を支えられます。網膜剥離のきっかけになりうるため、体がぶつかり合うスポーツ(コンタクトスポーツ)など、目に強い衝撃が加わる活動は避けるよう勧められています[1]。関節の痛みには、体重の管理や関節に負担の少ない運動、必要に応じて整形外科での治療を組み合わせます。
予後・寿命について
GeneReviewsには、スティックラー症候群で寿命が短くなるかどうかについての記載はありません[1]。生活のうえで最も大きな問題になるのは網膜剥離による視力の低下で、予防と早期発見ができるかどうかが、目の見通しを大きく左右します[1][3]。だからこそ、原因が遺伝子で確かめられていることが、定期検査と予防の処置を続ける根拠になります。
5. どんな人がこの検査を受けるとよいか
目・耳・口蓋・関節の症状からスティックラー症候群が疑われる方、ご家族にスティックラー症候群の方がいる方、結婚や妊娠を考えている方に向く検査です。GeneReviewsでは、スティックラー症候群には広く合意された臨床診断基準がまだないとされており[1]、症状だけでは診断がつきにくいことがあります。
症状があり、原因を確かめたい方
- ●子どものころからの強い近視、若いうちの網膜剥離・白内障、硝子体の異常を眼科で指摘された方
- ●感音難聴があり、目・口蓋・関節にも症状がある方
- ●口蓋裂やピエール・ロバン・シーケンスのあるお子さん
- ●若いうちから関節の痛みや変形性関節症がある方
病名がわかると、受けるべき検査と、気をつけて過ごすことが決まります。エクソーム・ゲノム検査の研究をまとめた米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の系統的レビューでは、167件の研究のうち95%で、患者さんやご家族の診療方針に何らかの変化があったと報告されています[4](変化の中身や大きさは研究ごとに違います)。スティックラー症候群では、その「次の一手」が、網膜剥離に備えた眼科の定期検査や予防の処置、聞こえの定期検査です。
ご家族にスティックラー症候群の方がいる方
ご家族の原因の遺伝子がわかっていれば、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の目と耳を守る手がかりになります。受け継いでいるとわかれば、症状がまだなくても眼科・耳鼻科の定期検査を始められます。
結婚・妊娠を考えている方
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。ご自身が原因をもっているか、それがどの遺伝子かを妊娠の前に知っておくと、お子さんに受け継がれる確率や、生まれたあとすぐに必要な備え(口蓋裂・目・耳)を前もって考えられます。先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まいの準備など、これからの人生を計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前検査を受けた人の理由として最も多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[5]。病気は違いますが、「知って計画を立てたい」という思いは共通するものだと考えています。
この検査より別の検査が向いている場合
目・耳・口蓋・関節の症状がそろっていてスティックラー症候群を疑うなら、まずこの検査です。症状が一部に限られる場合や、ほかの病気も考えたい場合は、次の検査のほうが向いていることがあります。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・眼科や耳鼻科の所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
6. この検査で調べる6遺伝子と、関係する病気
この検査では、スティックラー症候群の原因として知られる6つの遺伝子(COL2A1・COL11A1・COL11A2・COL9A1・COL9A2・COL9A3)を、次世代シーケンサー(NGS)でまとめて調べます。1つずつ順番に調べる場合と違い、1回の検査で6つすべての結果がそろいます。
🧪 調べる遺伝子と関係する病気
※割合と遺伝のしかたはGeneReviews[1]による。「同じ遺伝子で起こるほかの病気」の遺伝のしかたは、病気ごとに違います。この検査はスティックラー症候群を調べる目的の検査で、右の列の病気の診断を目的に設計されたものではありません。
COL2A1・COL11A1・COL11A2はII型・XI型コラーゲン、COL9A1・COL9A2・COL9A3はIX型コラーゲンをつくる遺伝子です。これらのコラーゲンは、硝子体・内耳・軟骨・椎間板の骨組みをつくっています。遺伝子の変化でコラーゲンの量が減ったり形が変わったりすると、これらの組織が弱くなり、スティックラー症候群の症状につながります[1]。同じ遺伝子でも、変化の種類や場所によって、スティックラー症候群になるか、骨の病気が前に出る別の病気になるかが変わります。
調べ方の細かい点
遺伝子のうち、たんぱく質をつくる部分(コード領域)と、その境目(スプライス部位)の配列を読みます。遺伝子1つ分がまるごと欠けている・重なっているといった大きめの変化(欠失・重複)も、料金の中で調べます。検査対象の遺伝子の99%以上の領域を、20回以上読み取る精度(カバレッジ)で調べます。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いを減らせます。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、6つの遺伝子の配列の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな欠け・入り込み)と、遺伝子単位の大きな欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●小さな欠失・重複:エクソン(遺伝子の中のたんぱく質をつくる区切り)2つ以上にまたがる欠失・重複は血液の検体で見つけられますが、エクソン1つ分だけの欠失・重複は、見つかることもあるものの、ふだんは検出の対象外です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●見つけられない変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、同じ配列の繰り返しが長くなる変化、遺伝子の働きを調節する領域や、エクソンから20塩基より奥の変化は調べられません。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることは目的にしていません。
- ●よく似た配列:遺伝子とよく似た配列がほかの場所にあると、まれに正しく読み分けにくいことがあります。読み取りの質が低い部分は、別の方法(サンガー法)で確かめます。
- ●調べていない遺伝子:GeneReviewsでは、原因がわからないスティックラー症候群が約1%あるとされ、BMP4・GZF1・LOXL3・LRP2など、似た症状の方で報告されている遺伝子もあります[1]。これらはこの検査の対象ではありません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない変化や、調べていない遺伝子が原因の可能性が残ります。
8. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。
陽性だったとき:診断の確定と、目と耳の計画
原因の遺伝子がわかると、スティックラー症候群の診断がはっきりし、どの型かがわかります。型によって、網膜剥離・難聴・口蓋裂の起こりやすさが違うため(第2章の表)、何に重点を置いて検査を続けるかが決まります。COL2A1やCOL11A1が原因なら、網膜を専門にする眼科医の年1回の診察と予防の処置の相談、COL9A1・A2・A3やCOL11A1・COL11A2なら聞こえの定期検査を、とくに大切にします[1][3]。
ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき
顕性遺伝の型と確定した場合、ご両親・きょうだい・お子さんも同じ変化をもっている可能性があります。ご家族の中で原因の変化がわかっていると、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかを確かめられます。症状が軽く、まだ眼科を受診していないご家族にとっても、網膜剥離に備えるきっかけになります。
潜性遺伝の型(COL9A1・A2・A3)と確定した場合は、ご両親が保因者で、きょうだいに4分の1の確率で同じ病気が起こりうることがわかります[1]。きょうだいが将来、結婚・出産を考えるときに、保因者かどうかを知る手がかりにもなります。なお、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の遺伝子一覧には、COL11A2は含まれていますが、COL9A1・COL9A2・COL9A3は含まれていません(2026年10月時点)。より広い女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子に含まれるかは、遺伝子一覧でご確認ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子)もあります。ご家族の原因の変化がわかっている場合は、その変化を直接調べることもできます。
陰性だったとき
6つの遺伝子に原因が見つからなかった場合も、スティックラー症候群を完全に否定することはできません(第7章)。症状に合わせて、硝子体網膜症や難聴のパネル検査、全エクソーム検査など、次の検査を考えます。症状がスティックラー症候群に合う場合は、遺伝子の結果にかかわらず、目と耳の定期検査を続けることが大切です。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
妊娠を考えている方:出生前診断の相談
GeneReviewsでは、ご家族の原因の変化がわかっていれば、出生前の遺伝学的検査は可能とされています。また、妊娠19〜20週ごろの超音波検査で口蓋裂が見つかることがありますが、超音波で異常がなくてもこの病気を否定することはできません[1]。口蓋裂がいつわかるかは、別のページで詳しく解説しています。
当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。原因の遺伝子と変化があらかじめわかっていることが、出生前診断を計画するための出発点です。生まれてすぐに口蓋裂や呼吸・哺乳への備えが必要かどうかを、妊娠中から考えておくこともできます。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。
| ご予約 |
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医 |
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検体の採取キットは支払い後に送付 |
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ |
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金のお支払いのあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「目が悪いだけ」で終わらせないために】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
スティックラー症候群は、ご家族の中で「近視が強い家系」「関節が弱い家系」として受け止められ、病気として気づかれていないことがある病気だと考えています。けれども、同じ変化をもつご家族の中には、網膜剥離が起こりやすい方もいます。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因がわかれば、網膜剥離に備えた眼科の定期検査や予防の処置、聞こえの検査と、次に打つ手がはっきりします。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. スティックラー症候群は治りますか?
今のところ、原因そのものを治す治療はありません。けれども、網膜・硝子体を専門にする眼科医による年1回の診察や網膜剥離を防ぐ処置、年1回の聞こえの検査など、症状を早く見つけて悪くさせないための備えがあります。COL2A1が原因の1型の方を調べた英国の研究では、予防の処置を受けなかった人の網膜剥離のリスクは、両目に処置を受けた人の約7.4倍でした。
Q2. 顔つきに特徴はありますか?
顔の真ん中が平ためで、鼻が小さく、下あごが小さめといった特徴がみられることがあります。ただし、特徴の出方には個人差が大きく、成長とともに目立たなくなることもあります。顔立ちだけで診断することはできないので、目・耳・口蓋の所見とあわせて遺伝子検査で確かめます。
Q3. ピエール・ロバン・シーケンスとスティックラー症候群は関係がありますか?
あります。GeneReviewsでは、ピエール・ロバン・シーケンスの赤ちゃんの約3分の1に背景となる症候群があり、その中で最も多いのがスティックラー症候群とされています。口蓋裂やピエール・ロバン・シーケンスのあるお子さんでは、目の検査とあわせて、この病気がないかを確かめることに意味があります。
Q4. 子どもに遺伝する確率は?
多い型(COL2A1・COL11A1)と、COL11A2が原因の型は常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。COL9A1・COL9A2・COL9A3が原因のまれな型は常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親が保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。同じ家族の中でも症状の重さには大きな幅があります。
Q5. 予後や寿命はどうですか?
GeneReviewsには、スティックラー症候群で寿命が短くなるかどうかについての記載はありません。生活のうえで最も大きな問題になるのは網膜剥離による視力の低下で、年1回の眼科の診察や予防の処置で、早く見つけて防ぐことが大切です。難聴は年1回の検査で確認し、関節の症状には整形外科などで対応します。
Q6. 目の症状がないスティックラー症候群はありますか?
あります。COL11A2が原因の型は、COL11A2が硝子体ではつくられないため、目の症状がありません。難聴・口蓋裂・関節の症状が中心になります。反対に、COL2A1の変化の中には、目の症状だけが目立つ型もあります。
Q7. 出生前診断はできますか?
ご家族の原因の変化がわかっていれば、出生前の遺伝学的検査は可能とされています。妊娠19〜20週ごろの超音波検査で口蓋裂が見つかることもありますが、超音波で異常がなくても否定はできません。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っていますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
Q8. 検査で原因が見つからなかったら、スティックラー症候群ではないのですか?
そうとは言い切れません。この検査で見つけられない種類の変化や、調べていない遺伝子が原因の可能性が残ります。症状がスティックラー症候群に合う場合は、遺伝子の結果にかかわらず目と耳の定期検査を続け、必要に応じて全エクソーム検査など次の検査を考えます。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族の目と耳のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。スティックラー症候群の原因がわかれば、網膜剥離に備えた眼科の定期検査や聞こえの検査だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Mortier G. Stickler Syndrome. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2000 (Updated 2023 Sep 7). [NCBI Bookshelf NBK1302]
- [2] Acke FR, Dhooge IJ, Malfait F, De Leenheer EM. Hearing impairment in Stickler syndrome: a systematic review. Orphanet J Rare Dis. 2012;7:84. [DOI: 10.1186/1750-1172-7-84]
- [3] Fincham GS, Pasea L, Carroll C, et al. Prevention of retinal detachment in Stickler syndrome: the Cambridge prophylactic cryotherapy protocol. Ophthalmology. 2014;121(8):1588-1597. [DOI: 10.1016/j.ophtha.2014.02.022]
- [4] Malinowski J, Miller DT, Demmer L, et al. Systematic evidence-based review: outcomes from exome and genome sequencing for pediatric patients with congenital anomalies or intellectual disability. Genet Med. 2020;22(6):986-1004. [DOI: 10.1038/s41436-020-0771-z]
- [5] Baig SS, et al. 22 Years of predictive testing for Huntington’s disease: the experience of the UK Huntington’s Prediction Consortium. Eur J Hum Genet. 2016;24(10):1396-1402. [DOI: 10.1038/ejhg.2016.36]
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