この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

家族性滲出性硝子体網膜症(かぞくせいしんしゅつせいしょうしたいもうまくしょう、FEVR)やワーグナー症候群は、若い人の網膜剥離の原因になる遺伝性の目の病気です。このページでご案内する遺伝子検査は、硝子体と網膜の遺伝性の病気(硝子体網膜症)に関わる21の遺伝子を一度に調べ、どの遺伝子の変化が原因かを確かめます。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、網膜剥離に備える眼科の見張り、ご家族の眼底検査、これからの妊娠・出産の計画まで、この先ずっと使える情報になります。このページでは、症状・遺伝する確率・検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)、ワーグナー症候群、目の症状が中心のスティックラー症候群、ノリエ病、X連鎖若年網膜分離症など、硝子体と網膜の遺伝性の病気の原因を21遺伝子で一度に調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
若いのに網膜剥離を起こした方・くり返す方、満期で生まれたのに未熟児網膜症に似た眼底と言われた方、ご家族にFEVRやワーグナー症候群の方がいる方、妊娠を考えていて家族歴が気になる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜から選べます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。顕性(優性)遺伝の型なら、お子さんに受け継がれる確率は1人ごとに2分の1です。ご家族の眼底検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)・ワーグナー症候群とは:若い人の網膜剥離の原因になる遺伝性の硝子体網膜症
家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)は網膜の血管が端まで育たない病気、ワーグナー症候群は目の中を満たす硝子体が液状に変わっていく病気です。どちらも生まれつきの遺伝子の変化で起こり、網膜剥離を起こしやすいという共通点があります。原因の遺伝子は病気ごとに違うため、遺伝子検査でどの病気かを確かめることが、これからの見張りと家族の検査の出発点になります。
硝子体網膜症とは:硝子体と網膜の両方に起こる病気のまとまり
目の奥には、光を感じる薄い膜の網膜があり、その手前を透明なゼリー状の硝子体が満たしています。硝子体網膜症(vitreoretinopathy)は、この硝子体と網膜の両方に異常が起こる病気をまとめた呼び名です。網膜の血管の育ち方に原因があるもの(FEVR・ノリエ病など)と、硝子体や網膜を支えるコラーゲンなどの成分に原因があるもの(ワーグナー症候群・スティックラー症候群など)があります。
FEVRの症状:網膜の端まで血管が届かない
FEVRでは、網膜の周辺部まで血管が伸びず、血管のない部分(無血管領域)が残ります。日本眼科学会誌に掲載された「家族性滲出性硝子体網膜症の診療の手引き」(2017年)では、病像は未熟児網膜症に似ているものの、大部分は満期で生まれ、酸素投与などを受けたことのない子どもに起こるとされています(2026年10月時点で確認)。血管のない部分からは、異常な血管が生えたり、液体がしみ出したり(滲出)、網膜を引っぱる膜ができたりして、網膜剥離につながることがあります。
原因は、網膜の血管が育つためのWntシグナル(ノリン・βカテニンの経路)に関わる遺伝子の変化です。米国国立医学図書館の遺伝情報サイト(MedlinePlus Genetics)は、FZD4・LRP5・NDPの3つの遺伝子の変化が大部分の原因であるとし、同じ家族の中でも症状の出方が大きく違い、網膜の変化があっても一生視力に困らない人も多いと説明しています(2026年10月時点)。網膜の変化があるのに気づかれていないご家族がいるのは、このためです。
ワーグナー症候群の症状:硝子体が液状になる
ワーグナー症候群は、VCAN遺伝子の変化で起こる目だけの病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviews(2026年5月改訂)によると、硝子体が液状に変わって「光学的に空っぽ」に見え、膜や索状物が残るのが特徴です。最初の目の変化はふつう思春期の初めに現れますが、2歳ごろから見られることもあります。年齢より早い白内障、網膜・脈絡膜の変性と萎縮、網膜剥離が続いて起こり、近視は多くは軽度で、夜盲(暗いところで見えにくい)が起こることもあります[1]。
網膜剥離については、ワーグナー症候群の最初の報告の家系で20歳までに4人に1人、その後の追跡では2人に1人を超え、のちの報告では網膜剥離を起こした平均の年齢は9.5歳でした[1]。全身の症状は報告されておらず、目だけに起こる病気と考えられています[1]。報告されているのは50家系(または家族歴のない方)未満の、とてもまれな病気です[1]。
スティックラー症候群・ノリエ病・X連鎖若年網膜分離症など、そのほかの病気
このパネルでは、FEVRとワーグナー症候群のほかに、網膜剥離や硝子体の異常を起こす病気の遺伝子もまとめて調べます。見た目の症状が似ていても、全身に症状が出るか、遺伝のしかたが何かは病気ごとに違います。
👁️ 硝子体網膜症の主な病気の違い
※FEVRの遺伝子と遺伝のしかたは日本眼科学会誌の診療の手引き(2017年)、ワーグナー症候群は文献[1]、スティックラー症候群は文献[3]、ノリエ病は文献[2]による。
スティックラー症候群で全身の症状がはっきりしている方は、スティックラー症候群の遺伝子検査も選択肢になります(選び分けは第3章)。FZD4の病気(滲出性硝子体網膜症1)、CTNNB1の病気(滲出性硝子体網膜症7型)については、病気の解説ページで詳しく説明しています。
若いのに網膜剥離・くり返す網膜剥離で遺伝を考える理由
網膜剥離は年齢を重ねてから起こることが多い病気ですが、子どもや若い人の網膜剥離、両目に起こる網膜剥離、ご家族にも網膜剥離の人がいる場合は、遺伝性の硝子体網膜症が隠れていることがあります。たとえばGeneReviewsによると、スティックラー症候群で網膜剥離が起こる割合は、COL2A1の型で40〜70%、COL11A1の型で40%未満、COL9遺伝子の型で13〜18%です[3]。ワーグナー症候群では、上で紹介したように10歳前後で網膜剥離を起こした報告があります[1]。
原因がわかると、もう片方の目やご家族の目を、網膜剥離が起きる前から見張れるようになります。スティックラー症候群のGeneReviewsは、網膜剥離の手術で治しきれないことが多いことから、予防のための処置(予防的な網膜の光凝固など)を挙げています[3]。「網膜剥離を治したら終わり」ではなく、「なぜ起きたか」を知ることが、次の網膜剥離への備えになります。
指定難病・小児慢性特定疾病・障害者手帳
家族性滲出性硝子体網膜症とノリエ病は、指定難病の一覧(難病情報センター)には載っていません(2026年10月21日確認)。小児慢性特定疾病には、目の病気を対象にした疾患群がありません(小児慢性特定疾病情報センター、2026年10月21日確認)。家族性滲出性硝子体網膜症は、2017年度に指定難病検討委員会で検討する疾病の一覧に載ったことがありますが、指定難病にはなっていません(2026年10月21日時点)。障害者手帳(視覚障害)の対象になるかは、視力・視野の検査をもとに、お住まいの自治体で判断されます。
2. 家族性滲出性硝子体網膜症は遺伝する?遺伝のしかたと、子どもに伝わる確率
遺伝します。ただし、子どもに伝わる確率は原因の遺伝子によって違い、顕性(優性)遺伝なら1人ごとに2分の1、潜性(劣性)遺伝なら両親とも保因者のとき4分の1、X連鎖ならお母さんが保因者のとき息子さんの2分の1です。どの遺伝形式かは、遺伝子検査で原因がわかってはじめて決まります。
顕性(優性)遺伝の型:お子さんへは1人ごとに2分の1
日本眼科学会誌の診療の手引き(2017年)では、FEVRの原因遺伝子のうちZNF408とKIF11は常染色体顕性遺伝、FZD4・LRP5・TSPAN12は顕性または潜性の遺伝をとるとされています。ワーグナー症候群(VCAN)も常染色体顕性遺伝で、親がこの病気なら、お子さん1人ごとに2分の1の確率で原因の変化を受け継ぎます[1]。スティックラー症候群のCOL2A1・COL11A1の型も顕性遺伝です[3]。顕性遺伝では、対になった2本の遺伝子のうち1本に変化があれば発症しうるため、性別には関係しません。
潜性(劣性)遺伝の型:両親とも保因者のとき4分の1
LRP5・TSPAN12では、2本の遺伝子の両方に変化があって起こる型もあります。スティックラー症候群のCOL9A1・COL9A2の型は常染色体潜性遺伝です[3]。潜性遺伝では、変化を1本だけもつ親(保因者)にはふつう症状がなく、ご両親とも保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。
X連鎖の型(NDP・RS1):お母さんが保因者のとき
NDP遺伝子の病気(ノリエ病・X連鎖のFEVRなど)はX連鎖遺伝です。GeneReviewsによると、お母さんが保因者なら、妊娠ごとに2分の1の確率で変化が伝わり、受け継いだ息子さんは発症し、受け継いだ娘さんは保因者になります。病気のある男性からは、娘さん全員に変化が伝わり、息子さんには伝わりません[2]。保因者の女性に症状が出ることはまれですが、網膜剥離や網膜の周辺の血管のない部分が見つかった報告があります[2]。RS1遺伝子の病気(X連鎖若年網膜分離症)もX連鎖遺伝です。
🧬 お子さんに伝わる確率(遺伝のしかた別)
※受け継いだあとの症状の重さは、同じ家族でも大きく違います(次の項目)。X連鎖の確率は文献[2]による。
同じ家族でも症状の重さが違う理由
FEVRは、同じ原因の変化をもっていても、ほとんど症状のない人から失明に近い人まで、重さが大きく違う病気です。原因をもっていても発症しない人がいることを「浸透率が100%ではない」、同じ原因でも重さが違うことを「表現型の多様性」といいます。英国の10万ゲノム計画でFEVRの方を調べた研究は、FEVRの浸透率と症状の出方の幅がとても大きく、目の症状のない保因者の方が多くいることを指摘しています[4]。米国眼科学会の会員誌の解説でも、病気の出方と重さは同じ家族の中でも大きく違い、同じ人の左右の目で違うこともあるとされています。
⚠️ 「自分が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
親御さんが網膜の変化に気づかないほど軽くても、同じ変化を受け継いだお子さんが同じ程度とは限りません。重い網膜剥離で見つかったお子さんをきっかけに、ご両親の眼底にも変化が見つかることがあるのは、このためです。症状の有無だけで判断せず、知ったうえで見張りと計画を立てることに意味があります。
ご家族に同じ病気の人がいなくても起こる:新しく起きた変化とモザイク
ご家族に同じ病気の人がいないのに、お子さんで新しく起きた変化(de novo変異)によってFEVRが起こることもあります。英国の研究でも、CTNNB1・KIF11などで新しく起きた変化と考えられる例が報告されています[4]。ただし、親御さんの卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある「性腺モザイク」の場合、次のお子さんにも伝わることがあります。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
家族に同じ病気の人がいて「自分も・子どもも」と不安な方へ
ご家族がFEVRで網膜剥離を起こしたのを見てきて、「自分の目も、子どもの目も、いつか同じことになるのでは」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。結婚や妊娠を前に、そのことを気にされる方もいます。
ご家族の原因の変化がわかっていれば、ご自身がその変化を受け継いでいるかをピンポイントで調べられます。受け継いでいないとわかれば、その病気について、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。受け継いでいるとわかった場合も、網膜剥離が起きる前から眼科で見張り、必要なときに治療を受ける計画が立てられます(第7章)。知らないでいることも選べます。検査を受けるかどうかは、臨床遺伝専門医との遺伝カウンセリングで時間をかけて考えてから決めていただけます。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
若い年齢での網膜剥離や、未熟児網膜症に似た眼底の原因を確かめたい方、ご家族にFEVRやワーグナー症候群の方がいる方に向く検査です。病名がわかると、受けるべき目の検査の間隔、全身で気をつけること、ご家族の検査が決まります。
この検査を受けるとよい場面
- ●子どもや若い年齢で網膜剥離を起こした方、網膜剥離をくり返す方、両目に起こった方
- ●満期で生まれ、酸素投与も受けていないのに、未熟児網膜症に似た眼底(網膜の周辺の血管のない部分・網膜ひだなど)と言われた方
- ●硝子体の液化や、年齢より早い白内障を指摘された方
- ●ご家族にFEVR・ワーグナー症候群・スティックラー症候群・ノリエ病の方、若くして網膜剥離を起こした方がいる方
- ●結婚や妊娠を考えていて、ご自身が原因の変化をもっているか知っておきたい方
日本眼科学会誌の診療の手引き(2017年)は、FEVRが疑われたら、きょうだいとご両親の眼底検査を行うべきとしています。ご本人の原因の遺伝子がわかると、ご家族は眼底検査とあわせて、同じ変化をもっているかを遺伝子で確かめられるようになります。
見た目や家族歴だけではわからない
FEVRは、網膜の変化があっても視力に困らない人が多い病気です。そのため、「家族に目の悪い人はいない」と思っていても、実はご家族の眼底に変化が隠れていることがあります。逆に、似た眼底でも原因の遺伝子は一人ひとり違います。見た目や家族歴の印象だけで遺伝のしかたを決めることはできず、遺伝子検査を受けてはじめて、次の計画が立てられます。
このパネルとほかの検査の選び分け
目の症状が硝子体と網膜に限られ、FEVR・ワーグナー症候群が疑われるなら、このパネルが向いています。症状の広がりによっては、別の検査が向くこともあります。
4. 調べる21遺伝子と、わかる病気
この検査では、硝子体網膜症に関わる21の遺伝子を一度に調べます。表の病名と遺伝のしかたは、主な報告にもとづく目安です。1つの遺伝子が複数の病気に関わることもあります。
このパネルに入っていない遺伝子
スティックラー症候群の原因のうち、COL9A3遺伝子(スティックラー症候群6型、常染色体潜性)は、このパネルに入っていません。GeneReviewsでは、COL9A3が原因のスティックラー症候群は全体の1%未満とされています[3]。また、英国の研究では、FEVRの新しい候補の遺伝子としてCTNND1が報告されていますが[4]、これもこのパネルには入っていません。
このパネルに入っていないCOL9A3遺伝子なども、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。詳しくはカスタマイズ遺伝子パネル検査のページをご覧ください。より広い範囲を一度に調べたい方には、包括的眼疾患遺伝子検査という選択肢もあります。
一部の遺伝子は当院のNIPTでも調べられます
この病気の原因遺伝子のうち、COL2A1とCOL11A1は当院のNIPT(ダイヤモンドプラン・インペリアルプラン)で、COL9A2とCTNNB1はインペリアルプランで調べられます。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。そのほかの17遺伝子は、当院のNIPTでは調べられません。
5. 検査でわかること・わからないこと(検査の限界)
この検査でわかるのは、21遺伝子の中の小さな変化と、遺伝子の一部が欠けたり増えたりする変化(欠失・重複)の一部です。調べていない遺伝子や、検査の方法で見つけにくい変化もあるため、「陰性=この病気ではない」とは言えません。
わかること
次世代シークエンサーで、21遺伝子のたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)と、そのつなぎ目(スプライス部位)を読み、文字(塩基)が1つ変わる変化や、小さな挿入・欠失を調べます。調べる範囲の99%以上を、20回以上くり返し読み取る精度で調べます。読み取りの質が低い変化は、別の方法(サンガー法)でも確かめます。
あわせて、遺伝子の一部が欠けたり増えたりする変化(CNV)も調べます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
💡 ワーグナー症候群が疑われる方は、血液の検体がおすすめです
ワーグナー症候群では、VCAN遺伝子のスプライシングに影響する病的バリアントが原因となります[1]。この検査では、エクソン2つ以上にわたる欠失・重複を調べられるのは血液の検体だけで、頬の粘膜の検体では遺伝子まるごとの欠失・重複に限られます。エクソン1つ分だけの欠失・重複は、どの検体でも通常は見つかりません。ワーグナー症候群が疑われる方は、血液での検査をおすすめします。
わからないこと
- ●このパネルに入っていない遺伝子の変化
- ●染色体の一部が入れかわる変化(転座・逆位)や、同じ配列のくり返しが長くなる変化
- ●遺伝子の働きを調節する部分の多く(プロモーター)や、エクソンから20塩基より離れたイントロンの奥の変化
- ●体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)の検出(この検査はモザイクを見つけるようには作られていません)
- ●よく似た配列(偽遺伝子など)があり、読み分けにくい部分の変化
「陰性=病気ではない」ではない/VUS
FEVRでは、遺伝子検査で原因が見つからない方が少なくありません。日本眼科学会誌の診療の手引き(2017年)は、海外では約50%で原因の遺伝子の変化が見つかるとされる一方、日本ではそこまで比率は高くないとしています。英国の10万ゲノム計画でFEVRの59人を調べた研究では、通常の解析で原因がわかったのは20.3%(12人)で、解析をやり直して37.3%(22人)まで上がりました[4]。原因が見つからなくても、FEVRなどの病気を否定することはできず、眼底の所見にもとづく見張りは続けます。
また、病気との関係がまだはっきりしない変化(VUS:臨床的意義不明のバリアント)が見つかることがあります。遺伝子検査そのものの考え方は、遺伝子検査(遺伝学的検査)とはで解説しています。
6. 結果が出たあと(陽性・陰性・VUS)
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけを郵送やメールでお送りすることはありません。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたをご覧ください。
病的な変化が見つかった(陽性)とき
どの遺伝子の、どんな変化が原因かがわかり、目の症状などと合わせて病名を判断する手がかりになります。遺伝のしかたがわかるので、ご家族それぞれの確率と、ご家族が検査を受けるときの流れをご説明します。調べた目的と別の病気の原因が見つかることがあり(二次的所見)、その扱いは二次的所見の開示方針のとおりです。
原因が見つからなかった(陰性)とき
このパネルの範囲に原因が見つからなかったことを意味します。次の選択肢として、包括的眼疾患遺伝子検査(510遺伝子)などで範囲を広げる方法や、追加の遺伝子を調べる方法があります。眼科での見張りは、結果にかかわらず続けてください。
VUSが見つかったとき
VUSは、それだけで診断を決めたり、ご家族の検査や出生前診断に使ったりはしません。今後の研究で評価が変わることがあります。扱い方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いで解説しています。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、網膜剥離に先回りする眼科の見張り、ご家族の眼底検査、これからの妊娠の計画を、具体的に立てられるようになります。立場ごとに、できることを整理します。治療は専門の医療機関(網膜・硝子体を専門とする眼科)で受けていただきます。
ご本人:網膜剥離に先回りする眼科の見張りと治療
日本眼科学会誌の診療の手引き(2017年)は、FEVRは再燃や遅れて起こる合併症がありうるため、治まった病気と考えず、生涯にわたる定期検査を勧めています。治療については、無血管領域に対する網膜光凝固(レーザー)などが挙げられています。米国眼科学会の会員誌の解説では、年2回の診察を生涯続け、危険のある目では広い範囲の蛍光眼底造影を行い、異常な血管が出てきたら無血管領域にレーザー治療を始めるとされています。
ワーグナー症候群とスティックラー症候群では、網膜・硝子体を専門とする眼科医による年1回の診察が勧められています[1][3]。ワーグナー症候群では、網膜剥離を起こしていない網膜の裂け目に対するレーザーや冷凍凝固、白内障手術、網膜剥離の手術などが、症状に合わせて行われます[1]。スティックラー症候群では、網膜剥離を起こしうる激しい接触のあるスポーツを避けることも勧められています[3]。
目以外で気をつけることも、遺伝子で変わります。
- ●COL2A1・COL11A1などスティックラー症候群の型:難聴(COL2A1の型で20〜50%、COL11A1の型で75〜80%)があり、年1回の聴力検査が勧められています[3]。難聴遺伝子パネル検査のページもご覧ください。
- ●LRP5の型:MedlinePlus Geneticsは、LRP5の変化によるFEVRの方では、視力の低下に加えて骨密度が低いことが多いとしています(2026年10月時点)。骨の状態を主治医と確かめる手がかりになります。
- ●NDPの型(ノリエ病):男性では、難聴が10代後半までに56人中42人で見られたという報告があり、言葉が出る前からの聴力の評価と、その後6か月ごとの評価が勧められています[2]。
症状のないご本人・ご家族:眼底の見張りと、ピンポイントの遺伝子検査
ご本人の原因の変化がわかれば、ご両親・きょうだい・お子さんが同じ変化をもっているかを、その1か所だけを調べる検査で確かめられます(症状のない方は、ご本人の同意のうえで)。GeneReviewsは、ワーグナー症候群の家族のうち危険のある方の遺伝子の状態を明らかにし、早く見つけて治療につなげることを勧めています[1]。米国眼科学会の会員誌の解説でも、症状のないご家族を広い範囲の蛍光眼底造影で調べることが、早く見つけて視力を守る助けになるとされています。
子どもを持つときの選択肢
原因の遺伝子の変化がわかっていれば、知ってから選べることが増えます。どの選択も尊重します。
- ●自然に妊娠して、出生前診断を受ける:ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください(羊水検査・絨毛検査)。
- ●NIPTで調べる:COL2A1・COL11A1はダイヤモンドプラン・インペリアルプランで、COL9A2・CTNNB1はインペリアルプランで調べられます。妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。
- ●PGT-M(着床前遺伝学的検査):日本産科婦人科学会の審査を経て国内で、または海外で受ける方法があります。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。
- ●何も調べずに産む:知ったうえで、そのまま妊娠・出産を迎えることも、同じように選べる選択肢です。生まれたあと早くから眼科で見張る準備ができます。
潜性・X連鎖の型:パートナーの検査と保因者検査
潜性遺伝の型では、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんの確率が変わります。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)には、このパネルの遺伝子のうちNDP・RS1・CTC1が含まれます。ほかの遺伝子が対象かは、遺伝子一覧でご確認ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。ご家族の遺伝子検査、妊娠を考えるときの出生前診断の計画、羊水検査・絨毛検査まで、当院で続けてご相談いただけます。遺伝カウンセリング料は、第8章のとおり30分ごとにかかります。
8. 検査の流れ・費用・日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検査の前に、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、受けるかどうかは説明を聞いて納得してから決めていただきます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
唾液・頬の粘膜・血液のいずれも、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けてから、検体を当院にお送りいただけます。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【網膜剥離が起きる前に、知っておくという選択】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
家族性滲出性硝子体網膜症は、網膜に変化があっても、ご本人が一生気づかないことのある病気です。だからこそ、お子さんの網膜剥離をきっかけに、ご家族の目の変化がはじめて見つかることがあります。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。前もって知っておけば、網膜剥離が起きる前から眼科で見張ることができます。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族性滲出性硝子体網膜症の症状は?
網膜の周辺部まで血管が伸びず、血管のない部分が残るのが特徴です。そこから異常な血管が生えたり、液体がしみ出したり、網膜を引っぱる膜ができたりして、網膜剥離につながることがあります。一方で、網膜に変化があっても一生視力に困らない方も多く、症状の重さは同じ家族の中でも大きく違います。
Q2. 家族性滲出性硝子体網膜症は治りますか?治療法は?
遺伝子の変化そのものを治す治療はありませんが、網膜剥離を防いだり進行を抑えたりする治療があります。無血管領域に対する網膜光凝固(レーザー)などが行われ、網膜剥離を起こした場合は手術が検討されます。再燃や遅れて起こる合併症がありうるため、生涯にわたる定期検査が勧められています。
Q3. 家族性滲出性硝子体網膜症が子どもに遺伝する確率は?
原因の遺伝子によって違います。顕性(優性)遺伝の型ならお子さん1人ごとに2分の1、潜性(劣性)遺伝の型ならご両親とも保因者のとき4分の1、NDP遺伝子などのX連鎖の型ならお母さんが保因者のとき息子さんの2分の1です。どの型かは、遺伝子検査で原因がわかってはじめて決まります。
Q4. 家族性滲出性硝子体網膜症は難病指定(指定難病)ですか?
家族性滲出性硝子体網膜症は、指定難病の一覧(難病情報センター)には載っていません(2026年10月21日確認)。小児慢性特定疾病にも、目の病気を対象にした疾患群はありません。障害者手帳(視覚障害)の対象になるかは、視力・視野の検査をもとに、お住まいの自治体で判断されます。
Q5. FEVRとワーグナー症候群・スティックラー症候群の違いは?
FEVRは網膜の血管が端まで育たない病気で、FZD4・LRP5・TSPAN12・NDPなどが原因です。ワーグナー症候群はVCAN遺伝子の変化で硝子体が液状になる、目だけの病気です。スティックラー症候群は、目の症状に加えて難聴・口蓋裂・関節の症状を伴うことがあります。このパネルでは、これらの原因遺伝子をまとめて調べます。
Q6. 家族性滲出性硝子体網膜症の患者さんは何人くらいいますか?
米国国立医学図書館の遺伝情報サイト(MedlinePlus Genetics)では、有病率はわかっていないとされています。視力に困らない方は診断されないままのこともあるため、実際の人数を数えるのが難しい病気です。ワーグナー症候群は、報告が50家系未満のとてもまれな病気です。
Q7. 検査で原因が見つからなかったら、どうなりますか?
FEVRでは、遺伝子検査で原因が見つからない方が少なくありません。英国の研究では、解析をやり直しても原因がわかったのは37.3%でした。原因が見つからなくても病気を否定することはできず、眼底の所見にもとづく見張りを続けます。次の選択肢として、より広い範囲を調べる検査や、遺伝子の追加をご相談いただけます。
Q8. このパネルに入っていない遺伝子も調べられますか?
はい。このパネルに入っていないCOL9A3遺伝子なども、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。より広い範囲を一度に調べる包括的眼疾患遺伝子検査(510遺伝子)という選択肢もあります。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族の目のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。硝子体網膜症の原因がわかれば、網膜剥離に先回りする眼科の見張り、ご家族の検査、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
- [1] Rothschild PR. VCAN-Related Vitreoretinopathy. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2009 (Updated 2026 May 19). [NCBI Bookshelf NBK3821]
- [2] Scruggs BA, Reding MQ, Schimmenti LA. NDP-Related Retinopathies. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle (Updated 2023 Mar 23). [NCBI Bookshelf NBK1331]
- [3] Mortier G. Stickler Syndrome. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle (Updated 2023 Sep 7). [NCBI Bookshelf NBK1302]
- [4] Sun D, Henderson RH, Clement E, et al. Analysis of familial exudative vitreoretinopathy (FEVR) cases in the UK 100 000 genomes project increases diagnostic rate and implicates heterozygous CTNND1 mutations in FEVR. J Med Genet. 2026;63(3):187-196. [DOI: 10.1136/jmg-2025-111083]
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