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CNV(コピー数多型)とは:基本概念、影響、および研究手法

この記事では、CNV(コピー数多型)の定義、それがヒトの遺伝的特性にどのように影響を与えるか、及び科学研究でのその解析方法について解説します。遺伝学におけるCNVの重要性と、病気形質に与える具体的な影響を詳しく調べます。

第1章: CNV(コピー数多型)の基本

CNVとは何か?その基本的な意味

CNV(Copy Number Variation)は、ゲノムDNAの特定の領域において、通常の2コピーとは異なるコピー数を持つ遺伝的変異を指します。これには、染色体の一部が欠失したり(1コピー以下)、増加したり(3コピー以上)する現象が含まれます[4]。このような変異は、遺伝子のコピー数が変化するため、個体の表現型疾患感受性に影響を与える可能性があります[2][3][5].

CNVは、ゲノムの1kb以上の領域にわたって発生し、ヒトゲノム中の12%にわたる領域に見いだされることがあります[4]. また、CNVは通常、稀なリピート配列に挟まれた領域で起こりやすいとされています[2][3].

この遺伝的変異は、疾患の原因となることもあり、特に複雑な遺伝性疾患や多因子疾患の研究において重要な役割を果たしています。例えば、特定のCNVが特定の疾患と関連している場合、その情報は疾患の診断や治療のカスタマイズに役立つ可能性があります[5].

遺伝子の多くが可変コピー数で存在している

遺伝子の多くは、異なるコピー数で存在していることが分かっています。これらの遺伝子の変異は病気に関連することもありますが、健康な人々にも存在します。コピー数変動(CNV)とは、1000塩基対から数百キロ塩基対までの範囲の大きなゲノム断片のコピー数が異なる状態を指します。

例えば、500kb(50万塩基)以上の大きな変異は、一般の人口の5%から10%に見られ、1Mb(100万塩基)以上の大きな領域を持つ変異は、1%から2%の人々に見られます。

最大のCNVは、特定の高い配列相同性を持つブロックが繰り返される「分節重複(segdup)」と呼ばれるゲノム領域によって特徴づけられます。これにより、ゲノム内で重複や欠失が生じることがあります。

また、有糸分裂や減数分裂時のエラーが原因で染色体レベルでの遺伝子の重複や欠失が生じ、これが障害を引き起こすこともあります。DNAシークエンシングが一般的になる前は、顕微鏡を用いて染色体上で稀な遺伝子数の変化を検出していましたが、大規模なコピー数の変化が染色体レベルで存在するとはあまり考えられていませんでした。特にそのような変動が病気に関連するとは考えられていなかったのです。

CNA(コピー・ナンバー・オルタレーション、copy number alteration)

コピー・ナンバー・オルタレーション(CNA)とは、主に体細胞性の変化として、特に腫瘍内で見られるDNAの部分的なコピー数の増減を指します。これに対して、コピー・ナンバー・バリエーション(CNV)は、生殖細胞系のイベントを指し、集団全体の遺伝的変異の一形態です。両者はしばしば同じ意味で使われることがあり、このために混同されることがあります。

CNAは、多くの種類のがんで観察される現象であり、異なる患者の腫瘍内で見られる欠失や増幅の程度は異なります。これらの変化の合計を「CNA負荷」と呼び、がんの診断や治療の指標として利用されることがあります。このCNA負荷は、腫瘍の進行や悪性度を示す重要な指標となるため、研究や臨床試験で重視されます。

コピー数の変異の発見

2002年、チャールズ・リー博士が患者の遺伝子型解析を行っている中で、健常な対照群の遺伝子配列にも大きな変異が存在することを発見しました。リー博士は特に、ある患者が他の患者よりも特定の遺伝子のコピー数が多いことを確認しました。この発見をきっかけに、彼はスティーブン・シェアラーと共同で研究を進め、アレイベースの比較ゲノムハイブリダイゼーションアレイCGH)アプローチを使用して、これらのコピー数バリアント(CNV)の全ゲノム的な発生を測定しました。

同時期に、マイケル・ウィグラーも表現型オリゴヌクレオチドプローブを用いたマイクロアレイ技術を開発し、健常者におけるゲノムの増幅や欠失を検出していました。このように異なるアプローチを用いた研究を通じて、2004年にはリーとシェアラーは、ヒトゲノムの数百箇所でコピー数の大規模な変異が共通して発生していることを発表しました。

以下に示す図は、ヒトの染色体におけるコピーバリアントを示しています。染色体のバンディングパターンを灰色の帯で表し、各イデオグラムはコピー数変異を持つ特定の遺伝子の染色体上の位置を示しています。コピー数のバリアントは、識別されたバンドの右側に青または赤の丸で示され、赤の丸はコピーの損失、青の丸はコピーの増加を示しています。いくつかの遺伝子は1つのサンプルでのみコピー数の変動を示し、他の遺伝子は39個のサンプル中20個で変動を示しました。染色体の一部のバンドの左側には、ゲノム配列のギャップを示す緑色の丸が表示されています。

これらの違いは、コピー数バリアントとして認識され、50万塩基以上に影響を及ぼすこともあります。これらは突然変異であり、欠失、挿入、重複を含むことがあります。
www.nature.com/articles/ng1416
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15273396/
CNV

コピー数多型の分類と基本的な特徴

コピー数多型(Copy Number Variation: CNV)は、ヒトゲノムにおける遺伝的変異の一種で、ゲノムDNAの特定の領域のコピー数が個人によって異なる現象を指します。これらの変異は、通常、1キロベース(kb)以上の長さを持ち、ゲノムの構造に影響を及ぼすことがあります。コピー数多型は、遺伝子の機能や発現に影響を与え、個人の形質や疾患の感受性に差を生じさせる可能性があります[5]。

● 分類

コピー数多型は、主に以下の2つのカテゴリに分類されます:

1. コピー数増加(重複):
– ゲノムの特定の領域が通常よりも多くのコピーを持つ状態です。これは、ゲノム上で遺伝子を含む配列が重複しているために発生し、数千塩基対から数百万塩基対に及ぶ大きな領域のコピー数が増加しています[4]。

2. コピー数減少(欠失):
– ゲノムの特定の領域が通常よりも少ないコピーを持つ状態です。これは、ゲノムの一部が欠けているために発生し、遺伝子の機能喪失や発現の減少を引き起こす可能性があります[5]。

● 基本的な特徴

– 個体差の源: コピー数多型は、個人間の遺伝的差異の重要な源であり、遺伝子のコピー数の違いは、個人の形質や疾患の感受性に影響を与える可能性があります[3]。
– 遺伝子の機能に影響: コピー数の増減は、遺伝子の発現量や機能に直接的な影響を及ぼし、それによって個人の体質や疾患のリスクに差が生じることがあります[4]。
– 疾患との関連性: コピー数多型は、がん、自己免疫疾患、神経発達障害など、多くの疾患と関連があるとされています。特に、遺伝子のコピー数が多い場合や少ない場合に、それぞれ疾患のリスクが変動することが知られています[3][5]。
– 検出技術の進歩: 近年、次世代シーケンシング技術やデジタルPCRなどの高感度な検出技術の進歩により、コピー数多型の研究が進展しています。これにより、より正確な遺伝子コピー数の測定が可能になり、疾患の原因解明やテーラーメイド医療への応用が期待されています[1][9]。

コピー数多型は、遺伝子の塩基配列の違い(一塩基多型など)とは異なる遺伝的変異であり、遺伝子の数の違いに着目した研究が進められています。これらの研究は、個人の遺伝的特性を理解し、疾患の予防や治療に役立てるための基盤を提供しています[3][5].

第2章: CNVの遺伝学的重要性

CNVが遺伝子発現に与える影響

コピーナンバーバリアント(CNV)は、ゲノム内の特定のDNAセグメントのコピー数が個体間で異なる現象です。これにより、遺伝子の発現量や生物学的機能に影響を及ぼすことがあります。CNVは、遺伝子の欠失、重複、挿入などによって生じ、遺伝子発現の変動、疾患の感受性、個体発達の差異などに関与しています。

● CNVの遺伝子発現への直接的影響

1. 遺伝子のコピー数の増減:
– 遺伝子のコピー数が増加すると、その遺伝子からのmRNAの量も増加し、結果としてタンパク質の発現量が増えることがあります。逆に、コピー数が減少すると、mRNAおよびタンパク質の発現量が減少する可能性があります[1][2][4][5].

2. 遺伝子の調節領域の変化:
– CNVが遺伝子のプロモーターエンハンサーなどの調節領域を含む場合、遺伝子の発現調節が変化することがあります。これにより、遺伝子の発現パターンやレベルが変わることが示されています[2][4].

● CNVによる間接的な影響

1. エピジェネティックな変化:
– CNVによって遺伝子の発現を調節するエピジェネティックな要素(メチル化ヒストン修飾など)が変化することがあります。これにより、遺伝子の発現が間接的に影響を受ける可能性があります[2][4].

2. 遺伝子間相互作用の変化:
– CNVによって新たな遺伝子間相互作用が生じることがあり、これが遺伝子発現に影響を与えることがあります。例えば、ある遺伝子のコピー数の変化が他の遺伝子の発現を誘導または抑制することがあります[2][4].

● 疾患との関連

CNVは多くの遺伝的疾患と関連があります。特に、神経発達障害、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、双極性障害などの精神神経疾患や、がんなどの複雑な疾患の発症において、CNVが重要な役割を果たしていることが示されています[1][2][6]. CNVによる遺伝子発現の変化がこれらの疾患の病態に直接的に寄与している可能性があります。

● 研究と臨床への応用

CNVの解析は、疾患の原因遺伝子の同定、診断マーカーの開発、新たな治療標的の発見に役立てられています。特に、がんや遺伝性疾患の分野での個別化医療や精密医療への応用が期待されています[1][2][4][5].

CNVの研究は、遺伝学、分子生物学、臨床医学の分野において重要な進展をもたらしており、今後もそのメカニズムの解明や臨床への応用が進むことが期待されます。

CNVと疾患発生の関連

コピーナンバーバリアント(CNV)は、ゲノムDNAの特定のセグメントのコピー数が個体間で異なる遺伝的変異です。これにより、通常2コピー存在するはずの遺伝子が1コピー以下(欠失)または3コピー以上(重複)となる場合があります。CNVは、多くの疾患の発生に関与していることが知られています。

● CNVと精神神経疾患

CNVは、特に精神神経疾患の発症に大きく関与しています。例えば、双極性障害、統合失調症、自閉スペクトラム症(ASD)などがCNVと関連しています。これらの疾患において、特定のCNVがリスク因子として機能することが示されています[2]。研究によると、これらの疾患の患者は、健常者と比較して特定のCNVを持つ確率が高いことが報告されています。また、これらのCNVは、神経発達に関与する遺伝子の機能喪失を引き起こし、疾患の発症に寄与すると考えられています[5]。

● CNVと免疫系疾患

CNVは免疫系にも影響を及ぼすことがあります。例えば、HIV感染症の抵抗力に関連するケモカインCCL3L1遺伝子のコピー数が、感染リスクや病気の進行に影響を与えることが知られています。CCL3L1のコピー数が平均より少ない個体はHIVに感染しやすく、逆にコピー数が多い個体は感染から保護される可能性が高いです。

● CNVの検出と研究

CNVの検出には、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、SNPアレイ、定量PCRMLPAなどの技術が用いられます[7]。これらの技術により、疾患関連のCNVを特定し、それがどのように疾患の発症に寄与するかを解明する研究が進められています。また、次世代シーケンシング(NGS)技術もCNVの研究に利用され、より詳細なゲノム解析が可能になっています[9]。

● 結論

CNVは、その影響の範囲と重要性により、多くの疾患の病態解明において重要な役割を果たしています。特に精神神経疾患や免疫系疾患との関連が指摘されており、これらの疾患の予防や治療に向けた新たなアプローチの開発に寄与する可能性があります。

第3章: CNVの検出と分析方法

現代の科学技術によるCNVの検出法

コピーナンバーバリアント(Copy Number Variants, CNV)は、ゲノム上の特定の領域のDNAコピー数が通常と異なる変異を指します。現代の科学技術により、CNVは以下のような方法で検出されます。

● アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(Array CGH)

Array CGHは、特定のDNA断片(プローブ)を固定化したマイクロアレイを使用して、テストサンプルと参照サンプルのDNAを比較する方法です。両サンプルは異なる蛍光色素でラベルされ、マイクロアレイ上でハイブリダイゼーション(DNAの結合)を行います。蛍光の強度の比較により、コピー数の増減を検出します[16]。

SNPアレイ

SNPアレイは、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms, SNP)を検出するためのマイクロアレイですが、コピー数の変化も検出できます。この技術は、特定のSNPのコピー数を測定し、リファレンスゲノムを必要とせずにCNVを検出することができます[16]。

● 定量PCR(Quantitative PCR, qPCR

qPCRは、特定のDNA領域のコピー数をリアルタイムで定量する方法です。特定のプライマーを使用してDNAを増幅し、蛍光色素の増加を測定することで、コピー数を推定します[16]。

● デジタルPCR(Digital PCR, dPCR)

dPCRは、サンプルを多数の小さな反応に分割し、各反応でDNAのコピー数を個別に定量する技術です。この方法は、非常に低濃度のCNVを高い精度で検出および定量することが可能です[18]。

● 次世代シーケンシング(Next-Generation Sequencing, NGS)

NGSは、ゲノム全体または特定の領域のシーケンスを大規模に迅速に決定する技術です。NGSデータから、シーケンスの深さ(カバレッジ)を分析することで、CNVを検出することができます。

これらの技術は、研究室や臨床現場でCNVを検出するために広く用いられています。特に、疾患の診断や遺伝的リスクの評価において重要な役割を果たしています。また、これらの技術は、ゲノム研究における遺伝的多様性の理解を深めるためにも利用されています[20]。

遺伝子解析におけるCNVの評価

コピー数バリアント(CNV)は、ゲノム内の特定のDNAセグメントのコピー数が個体間で異なる現象を指します。これには、DNAセグメントの重複や欠失が含まれ、遺伝子の数や構造に影響を与えることがあります。CNVは、多くの遺伝的疾患や個体差の原因となることが知られています。

● CNVの検出技術

1. 次世代シーケンシング(NGS): NGS技術は、高解像度でゲノム全体を解析することができ、小規模なCNVも検出可能です。NGSは、特に新規または小さなCNVの検出に有効であり、CNVの正確な位置をマッピングすることができます[9].

2. マイクロアレイ技術: ゲノムワイドなジェノタイピングアレイは、疾患や表現型に寄与するCNVなどの遺伝的バリアントの検出に一般的に使用されます。この技術は、大規模な解析に適しており、信頼性が高く効率的ですが、50キロベース未満のCNVの検出には感度が低い場合があります[9].

3. デジタルPCR: 高い精度と感度を持ち、絶対定量が可能なため、CNVの詳細な解析に適しています。特に、低頻度のCNVや微細なコピー数変化の検出に有効です[13].

● CNVの臨床的意義

CNVは、多くの疾患の発症に関与しています。例えば、自閉スペクトラム症や統合失調症などの神経発達障害、さまざまながん種における遺伝子の重複や欠失がCNVによって引き起こされることがあります[2][7]. また、CNVは薬剤反応性や疾患の感受性にも影響を与えることが示されています[13].

● CNVの研究と治療への応用

CNVの研究は、疾患の原因を理解し、新たな治療標的を同定するために重要です。例えば、特定のCNVが特定の疾患と強く関連している場合、そのCNVを標的とする治療法の開発が進められる可能性があります。また、個別化医療において、患者のCNVプロファイルに基づいて最適な治療法を選択することができます[1][3].

● まとめ

CNVは、そのサイズ、位置、関与する遺伝子によって、個体の表現型に大きな影響を与える可能性があります。遺伝子解析におけるCNVの評価は、遺伝的疾患の診断、理解、治療において不可欠な要素です。最新の技術を用いたCNVの詳細な解析が、これらの目的を達成するための鍵となります。

第4章: CNV研究の応用例

医学研究でのCNVの役割

コピー数多型(Copy Number Variations、CNV)は、ゲノム内の特定のDNA断片のコピー数が通常の2コピーと異なる変異を指します。これには、DNA断片の欠失(デリーション)や重複(デュプリケーション)、さらには転座や逆位などの構造的再編が含まれます。医学研究におけるCNVの役割は多岐にわたり、疾患の原因の解明、診断、治療法の開発などに貢献しています。

● 疾患の原因の解明

CNVは、特定の疾患の原因となる遺伝的要因を理解する上で重要な役割を果たしています。例えば、理化学研究所の研究では、ヒトゲノムに存在する数十万個とされるCNVを高感度に検出する手法を開発し、これにより遺伝子型決定が困難な遺伝子領域の遺伝的多型とそれに関連する形質への影響の解明が期待されています[1]。また、神経疾患における新規遺伝子変異の同定にもCNVが用いられており、原因不明の神経疾患を有する家族発症例に対して網羅的なCNVの検索が行われています[2]。

● 診断への応用

CNVは、特定の疾患の診断マーカーとしても利用されています。例えば、がん研究においては、ゲノムDNA断片のコピー数の不安定性ががん細胞の特徴として認識されており、これを検出することでがんの診断に役立てられています[3]。また、統合失調症や自閉スペクトラム症などの精神疾患においても、病的CNVとの関連が研究されており、診断の精度向上に寄与しています[5]。

● 治療法の開発

CNVの研究は、新たな治療法の開発にも繋がっています。特定のCNVが疾患の原因であることが明らかになれば、そのCNVを標的とした治療薬の開発が可能になります。例えば、特定のCNVを持つ患者からiPS細胞を樹立し、神経細胞分化誘導して疾患モデル細胞として解析することで、病態研究や創薬開発に活用されています[5]。

● テクノロジーの進展

CNVの研究には、マイクロアレイや次世代シーケンシング(NGS)などの先進的な技術が用いられています。イルミナ社は、高解像度なコピー数解析を実現するためのアレイおよびNGSソリューションを提供しており、これにより研究者はゲノム構造変化を正確にプロファイリングできます[6]。また、デジタルPCR技術もCNV解析において高い精度と感度を提供し、研究に貢献しています[9]。

● まとめ

CNVは、遺伝的多様性の一形態として、疾患の原因の解明、診断、治療法の開発において重要な役割を果たしています。先進的なゲノム解析技術の進展により、CNVの研究はさらに精度を増しており、医学研究における新たな可能性を開いています。

稀な疾患とCNVの関連研究事例

コピー数バリアント(CNV)は、ヒトゲノムにおいて1キロベース以上のDNA領域が通常の2コピーと異なり、増加(重複)または減少(欠失)している現象です。この遺伝的変異は、多くの稀な疾患の発症に関与しているとされ、近年の研究ではその関連性が詳細に調べられています。

1. 精神疾患とCNV

精神疾患の発症におけるCNVの影響は、特に統合失調症、双極性障害、自閉スペクトラム症において顕著です。名古屋大学と日本医療研究開発機構の研究では、これらの疾患においてCNVが発症リスクにどのように関与しているかを大規模なゲノム解析を通じて調査しました。研究では、特定の遺伝子領域のCNVがこれらの疾患の発症リスクに関わることを同定し、双極性障害、統合失調症、自閉スペクトラム症の各疾患で異なるリスクCNVが存在することが明らかになりました[1]。

2. 稀なCNVの検出技術の進展

理化学研究所の研究チームは、ヒトゲノムに存在する数十万個のCNVを従来の方法よりも高感度に検出する新技術を開発しました。この技術は、DNAマイクロアレイのデータを用いて、祖先から継承された染色体のセグメントによってCNVを検出する「HI-CNV」という手法です。この進展により、遺伝的多型とこれに関連する形質への影響の解明が期待されています[2]。

3. CNVと神経発達症

神経発達症と関連するゲノムコピー数バリアント(NDD-CNV)に関する研究も進んでいます。特定のCNVが神経発達症のリスクを高めることが示されており、これらのCNVは双極性障害、統合失調症、自閉スペクトラム症の発症にも関連しています。研究では、これらの疾患に関連する特定の遺伝子領域とCNVの関連性を統計学的に評価し、有意な関連を示すCNVを同定しています[4]。

4. CNVの臨床応用

CNVの研究は、疾患の診断や治療においても重要な応用が期待されています。特に、稀な遺伝子変異を持つ患者からのiPS細胞を用いた疾患モデルの構築や、これに基づく創薬研究が進められています。これにより、CNVに関連する疾患の病態解明や新規治療法の開発が進むことが期待されます[3]。

これらの研究事例から、CNVが稀な疾患の発症において重要な役割を果たしていることが明らかになり、今後の医学研究や臨床応用においてその重要性がさらに増すことが予想されます。

第5章: CNVと個体間の遺伝的多様性

CNVが示す遺伝的多様性

コピーナンバーバリアント(CNV)は、ヒトゲノムにおける遺伝的多様性の重要な源泉の一つです。CNVは、ゲノム上の特定のDNA断片が個体間で異なるコピー数を持つ現象を指し、これにより遺伝子のコピー数が増加したり減少したりします。この遺伝的変異は、多くの生物学的特性や疾患の感受性に影響を与えることが知られています。

● CNVの基本的な特徴とその影響

CNVは、1キロベースペア(kb)以上のDNA領域において、通常の2コピーとは異なるコピー数を示すことがあります。これにより、遺伝子の発現パターンや機能に直接的な影響を及ぼすことがあります。例えば、遺伝子のコピー数が増えると、その遺伝子からのタンパク質の生産量が増加する可能性があり、逆にコピー数が減少するとタンパク質の生産が減少する可能性があります[1][2][3][4][5].

● CNVの疾患との関連

CNVは、さまざまな遺伝性疾患や多因子疾患の発症に関与しています。例えば、特定のCNVは自閉スペクトラム症(ASD)や統合失調症などの神経発達障害と関連していることが示されています[8]. また、CNVは免疫系の疾患や感染症に対する感受性にも影響を及ぼすことがあります。例として、HIV感染の抵抗性に関連するCCL3L1遺伝子のコピー数の変動が挙げられます.

● CNVの研究と技術的進歩

CNVの研究は、高度なゲノム解析技術の進展により加速しています。DNAマイクロアレイや次世代シーケンシング(NGS)などの技術が、CNVのより正確な検出と解析を可能にしています[2][5]. これらの技術により、CNVの詳細なマッピングや、疾患との関連解析が行われています。

● まとめ

CNVは、遺伝的多様性を形成する重要な要素であり、多くの生物学的特性や疾患の発症に深く関与しています。研究の進展により、CNVが持つ潜在的な影響の理解が深まり、将来的には個別化医療や疾患予防に役立つ知見が得られることが期待されます。

CNVによる進化的適応の事例

コピーナンバーバリアント(CNV)は、遺伝子のコピー数が個体間で異なる現象であり、進化的適応の一形態として機能することがあります。CNVは、遺伝子の発現量や機能に影響を与え、個体がその環境に適応する能力を変化させることができます。以下に、CNVによる進化的適応の具体的な事例を紹介します。

● HIV感染抵抗性とCCL3L1遺伝子のコピー数

CCL3L1遺伝子のコピー数が多い個体は、HIVウイルスに対する抵抗性が高いことが知られています。この遺伝子はケモカインと呼ばれるタンパク質をコードしており、HIVの進行を抑制する役割を果たします。研究によると、CCL3L1のコピー数が平均よりも多い個体は、HIVに感染してもAIDSを発症するリスクが低いとされています。

● 暗い翅色の蝶と自然選択

ある研究では、暗い翅色の蝶が自然選択によってその頻度が増大し、これが適応となる例が示されています。暗い翅色は捕食者からの隠蔽という機能を持ち、適応度の差をもたらす性質として自然選択によって進化しています[2]。

● 遺伝的浮動と中立進化

遺伝的浮動による中立進化も、進化的適応の一形態として考えられます。このプロセスでは、有利でも不利でもない遺伝的形質がランダムに増減し、最終的には集団内で固定されることがあります。このような中立進化は、特定の環境条件下での適応進化とは異なり、偶然の結果として生じる[4]。

これらの事例は、CNVがどのようにして生物の進化的適応に寄与するかを示しています。CNVによる遺伝的多様性は、生物が変化する環境に対応するための重要なメカニズムの一つであり、進化の過程で重要な役割を果たしていることがわかります。

コピーナンバーバリアントと疾患

遺伝的リスクは、SNP対立遺伝子によって寄与するものと、コピー数の変動(CNV対立遺伝子またはコピー数の投与量)によって寄与するものに細分化されます。
コピーナンバーバリアントの存在が知られるようになると、科学者たちはすぐに、コピーナンバーバリアントが遺伝的多様性と神経疾患や白血病などの特定の病気への感受性の根底にあるのではないかと考え始めました。感受性が高いとはかかりやすい、易罹患性があることを示しています。 例えば、Redonらは、270人の個体を調査した結果、コピーナンバーバリアントがヒトゲノムの約12%をカバーしていることを2006年に発見しました。1人当たり平均12個のコピーナンバーバリアントが存在することも同年報告されました(Feukら、2006)。これらの値を考えると、私たちのゲノムに存在するコピーナンバー・バリアントの規模の大きさは、私たちの健康に大きな影響を与える可能性があるように思われます。実際、これまでに検出されたコピーナンバーバリアントの約半数がタンパク質をコードする領域と重複しているため、この変異が複雑な疾患表現型に及ぼす影響に関心が高まりました。

コピーナンバーバリアントCNVが疾患の原因となる病原性のメカニズム

ほとんどのコピーナンバーバリアントは健康な人に存在しますが、これらのバリアントは、いくつかのメカニズムを介して病気を引き起こすという仮説が立てられています。

1.CNVコピーナンバーバリアントによる遺伝子量の変化

コピー数バリアントは、挿入や欠失によって遺伝子の量に直接影響を与え、遺伝子発現の変化をもたらすことで遺伝性疾患を引き起こす可能性があります。遺伝子量は、細胞内の遺伝子のコピー数でゲノム自体に記載されているのですが、遺伝子発現のしかたは、より高い遺伝子量およびより低い遺伝子量によって影響を受けることがわかってきています。例えば、欠失は、遺伝子を完全に除去することにより、通常発現されるものよりも低い遺伝子量またはコピー数をもたらす可能性があります。欠失はまた、通常は発現しない劣性対立遺伝子をアンマスクさせる、つまり発現させる可能性もあります。遺伝子の構造的変異は、反転、欠失、転座によって遺伝子の発現を低下させたり、妨げたりすることがあります。

2.CNVコピーナンバーバリアントが遺伝子の発現を調節する調節エレメントと相互作用する可能性

バリアントはまた、調節エレメントと相互作用することによって間接的に遺伝子の発現に影響を与えることができるようです。例えば、調節エレメントが欠失した場合、量感受性遺伝子の発現は通常よりも低い、または高くなる可能性があります。2つ以上のコピー数の変異体の組み合わせによって複雑な疾患が生じることもありますが、個々のバリアントだけでは何の影響もないこともあります。

3.CNVコピーナンバーバリアントが相同な繰り返し配列に挟まれる場合

いくつかのバリアントは相同な繰り返し配列に挟まれており、これはコピーナンバー変異体内の遺伝子を非対立遺伝子相同組換えNHARの影響を受けやすくし、個人やその子孫が病気になりやすい状態にすることがあります。さらに、コピーナンバーバリアントが他の遺伝的・環境的要因と組み合わされると、複雑な疾患が発生する可能性があります。

CNVコピーナンバーバリアントが疾患を発症する例

HER-2遺伝子

例えば、特定の乳は、HER-2遺伝子の過剰発現と関連しています。HER-2遺伝子の高コピーを測定することは、乳癌の積極的な形態と関連しており、治療の主要な標的となっています。したがって、HER-2遺伝子コピー数を測定することは、乳癌および他の癌の診断ツールを提供致します。

その他

同様に、脊髄筋萎縮症、DiGeorge症候群に関連する領域、ならびにPrader-Willi症候群およびAngelman症候群に関連するインプリンティングに関連する15番染色体領域においてコピー数の変異が見つかっています。これらの疾患は、重要な遺伝子の反転や欠失によるコピーナンバーバリアントによって引き起こされる可能性があります。
また、コピーナンバーバリアントは、アルツハイマー病や統合失調症などの複雑な神経疾患に関連する遺伝子領域でも検出されています。

CNVコピーナンバーバリアントのこれから

現在、DNAマイクロアレイを用いて、遺伝性疾患を持つ患者をスクリーニングし、影響を受けていない対照者と比較して、どのコピー数バリアントが本当に疾患状態と関連しているのか、またどのコピーナンバーバリアントが集団に共通しているのかを突き止める研究が進んでいます。これらのコピーナンバーバリアントに関する情報は、これまで知られていなかった特定の疾患関連遺伝子の同定を可能にする可能性があります。

健康な個体におけるコピーナンバーバリアント

コピーナンバーバリアントは必ずしも健康に悪影響を及ぼすわけではありません。
ヒトのコピーナンバーバリアントが持っている人に恩恵をもたらす例としては、後天性免疫不全症候群AIDSの原因ウイルスであるHIVを強力に抑制することができるケモカインCCL3L1をコードする遺伝子があります。CCL3L1をコードするコピー数が平均よりも少ない変異体を持っている人は、HIVや後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患しやすいことがわかっています。逆に、CCL3L1の余分なコピーを持つことが、HIVに感染してAIDSを発症することから個人を保護することができるのです。同様に、健康な個体が持っている他のコピー数の変異体は、一見機能していないように見えるが、実際には選択的に有利になる場合には、進化的に個体群に保持される可能性があります。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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