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スティックラー症候群6型(STL6)とは?COL9A3遺伝子による希少な結合組織疾患をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

スティックラー症候群6型(STL6)は、COL9A3という遺伝子の2つのコピー両方に変化が起こることで発症する、100万人に1人未満ともいわれる非常にまれな結合組織の病気です。生まれつき進行する難聴と強い近視を軸に骨や関節の症状が現れる一方で、スティックラー症候群の他の型でよくみられる口蓋裂(こうがいれつ)を伴わないという独特の特徴を持ち、これが正しい診断への大切な手がかりになります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 COL9A3遺伝子・結合組織・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. スティックラー症候群6型とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. COL9A3遺伝子の両方のコピーに「機能を失う変化」が起こって発症する、常染色体潜性(劣性)遺伝の超希少な結合組織疾患です。中等度から重度の感音難聴・強度近視・特有の硝子体(しょうしたい)の異常・骨端(こったん)の異形成を主な特徴とし、口蓋裂を伴わないことが他の型と区別する重要なポイントです。

  • 疾患の定義 → OMIM 620022、Orphanet ORPHA:250984、有病率は100万人に1人未満
  • 分子メカニズム → IX型コラーゲンの「橋渡し」機能の破綻。両方のコピーが失われても、残る2本の鎖が一部を補うため致死的にならない
  • 主な症状 → 感音難聴(ほぼ全例)・強度近視・低形成性硝子体・網膜剥離・骨端異形成(口蓋裂はなし)
  • 鑑別診断 → 他のスティックラー症候群・OSMED・多発性骨端異形成症との違いを解説
  • 診断・管理 → 次世代シーケンサーによる遺伝子検査と、失明を防ぐ予防的レーザー治療

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1. スティックラー症候群6型とは:疾患の全体像

スティックラー症候群は、体じゅうの組織を支える「コラーゲン」の設計図に生まれつきの変化があるために起こる、複数の臓器にまたがる病気のグループです。目(強い近視・特有の硝子体の変化・網膜剥離)、耳(難聴)、顔のつくり、骨や関節など、はば広い場所に症状が出ます。その中でスティックラー症候群6型(STL6)は、COL9A3という遺伝子の変化が原因で起こる、最もまれなタイプのひとつです[1]

国際的な遺伝病データベースOMIMでは「620022」、希少疾患データベースOrphanetでは「ORPHA:250984」として登録されています。推定される患者さんの数は100万人に1人未満とされ、これまで世界の医学文献で詳しく報告されたのはわずか数家系・十数名にとどまります[9]

💡 用語解説:結合組織(けつごうそしき)とコラーゲン

結合組織とは、骨・軟骨・皮膚・腱・目の中身など、体のさまざまな部分を「つなぎ・支える」土台となる組織のこと。その主役のタンパク質がコラーゲンです。コラーゲンには多くの種類があり、種類ごとに存在する場所や役割が違います。スティックラー症候群は、このコラーゲンの設計図(遺伝子)の変化によって、土台のしなやかさや強さが保てなくなる病気です。

スティックラー症候群の6つのタイプと、6型の位置づけ

スティックラー症候群は、原因となる遺伝子と遺伝のしかたによって大きく6つのタイプに分けられます。1〜3型は親から子へ受け継がれやすい常染色体顕性(優性)遺伝で、II型・XI型コラーゲンの遺伝子が関係します。一方、4〜6型はいずれも常染色体潜性(劣性)遺伝で、IX型コラーゲンを構成する3本の鎖の遺伝子(COL9A1・COL9A2・COL9A3)が関係します[3]

タイプ 原因遺伝子 遺伝のしかた コラーゲン 主な特徴
I型 COL2A1 顕性(優性) II型 膜状の硝子体・網膜剥離リスク最大・口蓋裂が多い
II型 COL11A1 顕性(優性) XI型 ビーズ状の硝子体・重い難聴・口蓋裂・骨格異常
III型 COL11A2 顕性(優性) XI型 非眼型(目の症状なし)・難聴・関節症(OSMEDとも整理)
IV型 COL9A1 潜性(劣性) IX型 低形成性硝子体・強度近視・重い感音難聴・口蓋裂なし
V型 COL9A2 潜性(劣性) IX型 低形成性硝子体・強度近視・重い感音難聴・口蓋裂なし
VI型(本記事) COL9A3 潜性(劣性) IX型 低形成性硝子体・強度近視・重い感音難聴・骨端異形成・口蓋裂なし

💡 用語解説:常染色体潜性(劣性)遺伝

遺伝子は父親由来・母親由来の2つのコピーがあります。「潜性(劣性)」とは、2つのコピーの両方に変化があってはじめて発症するタイプ。片方だけ変化を持つ人は症状が出ず、その変化を子に伝える「保因者(ほいんしゃ)」になります。スティックラー症候群6型では、両親がそれぞれ無症状の保因者で、お子さんが両方から変化を受け継いだときに発症します。さらに詳しくは「遺伝形式の解説ページ」をご覧ください。

2. 原因遺伝子COL9A3とそのしくみ

スティックラー症候群6型の原因であるCOL9A3遺伝子は、第20番染色体(20q13.33)にあり、IX型コラーゲンのα3鎖(アルファ3さ)という部品の設計図です[2]。IX型コラーゲンは、太い主役のコラーゲン線維(II型・XI型)の表面にくっつき、線維どうしや周囲の組織を「橋渡し」してつなぎとめる役割を持っています。この橋渡しのおかげで、軟骨・目の硝子体・内耳といった、たえず力がかかる組織のしなやかさと強さが保たれています。

💡 用語解説:IX型コラーゲンと「橋渡し」役

IX型コラーゲンは、α1・α2・α3という3本の異なる鎖が1つに組み合わさった「三量体(さんりょうたい)」です。太いコラーゲン線維の上に乗り、すき間を埋めるホチキスのように構造を安定させます。COL9A3はこのうちα3鎖をつくる遺伝子で、橋渡し役の一部が欠けると、力のかかる組織から少しずつ構造がほころびていきます。遺伝子そのものの役割はCOL9A3遺伝子ページでも解説しています。

「機能を失う変化」と、致死的にならない理由

スティックラー症候群6型は、COL9A3の2つのコピーの両方が機能を失う変化(機能喪失型変異)を持つことで起こります。報告されている変化は、タンパク質が途中で切れてしまうナンセンス変異や、設計図の読み枠がずれるフレームシフト変異など、いずれもα3鎖をほぼ完全につくれなくするタイプです[8]

💡 用語解説:ミスセンス変異・ナンセンス変異

ミスセンス変異は、設計図の1文字が変わってアミノ酸(タンパク質の材料)が別のものに置きかわる変化です。ナンセンス変異は、文章の途中に「終わり」の合図が入ってしまい、タンパク質が短く途切れてしまう変化です。スティックラー症候群6型では主に後者のような、はたらきを失わせるタイプの変化が報告されています。詳しくはミスセンス変異ナンセンス変異の各ページをご覧ください。

ここで興味深いのは、同じコラーゲンでもII型(COL2A1)やXI型(COL11A1)の両コピーが失われると生命を保てない重い骨格異常になるのに対し、IX型コラーゲンの遺伝子(COL9A3など)の両コピーが失われても致死的にならず、比較的限られた症状にとどまる点です。これは、α3鎖が完全に欠けても、残るα1鎖とα2鎖が代わりの三量体をつくって機能の一部を補えるためと考えられています。この「予備のしくみ(機能的冗長性)」のおかげで、命に関わる全身の土台は保たれつつ、長年にわたり力がかかる目・内耳・荷重関節だけが少しずつ傷んでいく——これがこの病気の独特な症状の出方を生み出しています[9]

IX型コラーゲンの3本鎖と「予備のしくみ」

正常な状態

α1・α2・α3の3本がそろい、コラーゲン線維をしっかり橋渡し。

α3鎖が失われると

残るα1・α2が代わりに組み合わさり、機能の一部を補う(致死的にならない)。

それでも弱い場所

力が長年かかる目・内耳・関節だけが、少しずつ構造のほころびを起こす。

同じCOL9A3が関わる別の病気(アレル疾患)

COL9A3は、変化の種類や持ち方によって、スティックラー症候群6型とは別の病気の原因にもなります。片方のコピーだけの変化(顕性)では、多発性骨端異形成症3型(EDM3/MED3)という、低身長・関節痛・若いうちからの変形性関節症を特徴とする病気や、椎間板(ついかんばん)の早い傷み、成人での進行性の難聴などが知られています[2]。スティックラー症候群6型は、これらの中でも両方のコピーが失われた最も重いタイプと位置づけられます。多発性骨端異形成症3型については専用ページでくわしく解説しています。

💡 用語解説:ヘテロ接合・ホモ接合・保因者

2つの遺伝子コピーのうち片方だけ変化を持つ状態をヘテロ接合両方が同じ変化を持つ状態をホモ接合といいます。スティックラー症候群6型は両方に変化を持つ(ホモ接合、または2種類の異なる変化を1つずつ持つ複合ヘテロ接合)ことで発症します。片方だけの保因者は通常は無症状です。くわしくはヘテロ接合と対立遺伝子の解説をご覧ください。

3. 主な症状

スティックラー症候群6型の症状は、大きく「聴覚」「眼」「骨・関節」「顔のつくり」の4つの領域に分けられます。これまで報告された患者さんの平均年齢は約11歳と若く、数字は今後さらに変わる可能性がありますが、現時点で分かっている特徴を整理します[9]

🦻 聴覚

  • 感音難聴:報告例ではほぼ全例に出現
  • 生まれつき、または幼少期に発症し進行性・不可逆的
  • 高い音から聞こえにくくなる傾向

👁️ 眼

  • 強度近視(多くは-6D超):ほぼ全例
  • 低形成性硝子体(硝子体が未発達)
  • 裂孔原性網膜剥離の高いリスク

🦴 骨・関節

  • 多発性骨端異形成(大腿骨頭の扁平化など)
  • 側弯・四肢の弯曲・扁平椎
  • 若年からの関節痛・変形性関節症(報告で約22.7%に関節痛)

👶 顔のつくり

  • 中顔面低形成・平坦な顔貌・鼻根部の陥凹(約40.9%)
  • 小顎症など
  • 口蓋裂は報告なし(重要な鑑別点)

💡 用語解説:感音難聴・硝子体・網膜剥離

感音難聴は、音を電気信号に変える内耳や神経の側に原因がある難聴で、補聴器などの工夫が必要になります。硝子体(しょうしたい)は眼球の中を満たすゼリー状の組織。これが未発達(低形成性硝子体)だと網膜を引っぱりやすく、網膜が破れて剥がれる裂孔原性網膜剥離(れっこうげんせいもうまくはくり)を若い年齢で起こしやすくなります。網膜剥離は放置すると失明につながるため、早期の発見と対応がとても重要です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「難聴+強い近視+骨の異常」を一緒に見たら】

難聴も近視も、それぞれ単独ではとてもありふれた状態です。だからこそ、別々の科で別々に診られているうちに、背景に1つの遺伝性疾患が隠れていることに気づかれないことがあります。生まれつきの感音難聴と強い近視、そして骨端(こったん)の異形成がそろっているとき、私たちはスティックラー症候群6型のような潜性遺伝の病気を思い浮かべます。

古い診断基準では口蓋裂の有無が重視されますが、6型では口蓋裂が出ません。基準の点数が足りないからと検査を止めず、症状の組み合わせから一歩踏み込んで考えることが、正しい診断と適切な目の管理への近道になります。

4. 鑑別診断:よく似た病気との見分け方

スティックラー症候群6型は、症状が他のいくつかの病気と重なるため、見分けには注意が必要です。最終的には遺伝子検査が決め手になりますが、臨床の手がかりも整理しておきます[3]

他のスティックラー症候群(1〜5型)

見分け方:遺伝子パネル検査が必須です。まず家系図から、顕性か潜性かを見きわめます。1・2型は口蓋裂を伴いやすく、4〜6型はいずれも口蓋裂を伴いません。

6型は4・5型と非常によく似ますが、原因遺伝子(COL9A3)と骨端異形成の所見が手がかりになります。

OSMED(耳脊椎巨大骨端異形成症)

主にCOL11A2の変化で起こり、関節症や難聴を伴います。

見分け方:XI型コラーゲンは硝子体に存在しないため、目の症状をまったく伴わない点で区別できます。

多発性骨端異形成症(MED)

COMP・MATN3・SLC26A2などの変化で起こり、関節と骨の症状が中心です。

見分け方:網膜剥離や重い感音難聴を伴う場合は、単なるMEDではなく6型との重なりを強く疑います。

このほか、COL11A1の特定の領域(エクソン9)に限った潜性変化でも6型とよく似た像になりますが、こちらは口蓋裂を伴う点で区別できます。また、LRP2・LOXL3など、コラーゲン以外の遺伝子の潜性変化でもスティックラー様の症状が出ることが知られています。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

スティックラー症候群には、口蓋裂・硝子体や網膜の変化・高音域の感音難聴などを点数化する古典的な診断基準(合計5点以上で診断)があります。しかしこの基準は6型では不利に働きます。口蓋裂(2点)が出ず、両親が無症状の保因者のため家族歴(1点)も付きにくく、重い難聴や近視があっても点数が足りずに見逃されやすいのです[3]。そのため、「早期の感音難聴+強度近視+骨端の異常」がそろったら、古い基準にこだわらず遺伝子検査に進むことがすすめられます。

💡 用語解説:次世代シーケンサーとトリオ全エクソーム解析

次世代シーケンサー(NGS)は、たくさんの遺伝子をいちどに読み取る装置です。全エクソーム解析は、遺伝子のうちタンパク質の設計図部分を網羅的に調べる方法。さらにお子さんと両親の3人を同時に調べるトリオ解析を行うと、どの変化を誰から受け継いだかが分かり、潜性遺伝の確定に役立ちます。1つの遺伝子だけを調べる検査では見逃すこともあるため、症状が多領域にわたる場合はパネル検査や全エクソーム解析が有用です。

出生後の診断(症状のあるお子さん・ご本人の確定)

すでに症状のあるお子さんやご本人の確定診断は、血液などを用いた遺伝子検査で行います。COL9A3を含む単一遺伝子検査や、関連遺伝子をまとめて調べるパネル検査、トリオ全エクソーム解析などが選択肢になります。当院で扱う遺伝子検査の全体像は遺伝子検査トップでご確認いただけます。

出生前の診断(家系内で原因の変化が分かっている場合)

ご家族の中ですでに原因となるCOL9A3の変化が分かっている場合は、次のお子さんについて羊水検査・絨毛検査による出生前の確定診断が選択肢になります。なお当院のNIPT「インペリアルプラン」では、COL9A3が対象遺伝子に含まれています。どの検査を受けるか・受けないかは、それぞれのご家族の価値観によって異なります。潜性遺伝で症状の幅も広いため、出生前に調べることが常に利益になるとは限りません。検査の意味や結果の受けとめ方を含めて、まず遺伝カウンセリングでご相談ください。

6. 治療と長期管理

現時点で、遺伝子そのものを治してこの病気を根治する方法は実用化されていません。そのため管理の中心は、網膜専門医・耳鼻咽喉科・整形外科・臨床遺伝専門医・小児科などが連携した、合併症の早期発見と先まわりの予防になります[3]

目:失明を防ぐ予防的レーザー治療

最大の脅威は網膜剥離です。スティックラー症候群の硝子体は子どものうちから液状化しやすく、網膜を引っぱって剥がれを起こします。これを防ぐため、網膜の周辺をぐるりとレーザーで固める予防的レーザー網膜光凝固(拡張硝子体基底部レーザー:EVBL)の有効性が報告されています。下のグラフは、スティックラー症候群の患者さんを対象とした研究(115名・230眼)で、治療の有無による網膜剥離の発生率を比べたものです[10]

予防的レーザー治療と網膜剥離の発生率

3%
70.6%
100%
EVBL(予防レーザー)
未治療
不十分なレーザー

Khannaら(115名・230眼、治療時年齢の中央値9.5歳)の後ろ向き研究にもとづく。予防レーザー群では網膜剥離が3%にとどまり、未治療群(70.6%)と大きな差がついた。

適切にEVBLを受けた群では網膜剥離がわずか3%にとどまった一方、未治療群では約70.6%、不十分なレーザーにとどまった群では全例が網膜剥離を起こしました。視力の予後も予防レーザー群で良好でした。症状の有無にかかわらず、超広角の眼底検査やOCT(光干渉断層計)による定期的な眼科チェックが欠かせません。

耳・骨・顔のつくりの管理

難聴はほぼ全例で進行するため、少なくとも年1回の聴力検査を行い、乳幼児期からの補聴器の早期装用、重い場合は人工内耳の検討が、ことばの発達を守るうえで重要です。骨・関節については、理学療法で関節の動きと周囲の筋力を保ちつつ、コンタクトスポーツや頭部への強い衝撃(外傷性の網膜剥離の引き金になります)は避けることがすすめられます。重い変形性関節症が進めば、若くても人工関節などの整形外科的治療が検討されます。口蓋裂は伴いませんが、中顔面低形成や小顎症による咬み合わせの問題や睡眠時無呼吸がある場合は、歯科・矯正歯科・口腔外科による対応が必要になることがあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【診断がついたら、まず目を守る計画を】

スティックラー症候群と分かったとき、私がまずお伝えしたいのは「目の管理を後まわしにしない」ということです。網膜剥離は、起きてからでは視力が戻りにくい一方、予防的なレーザーで起こりにくくできることが分かってきています。お子さんが小さいうちから網膜の専門医とつながっておくことが、一生の視力を守る大きな分かれ道になります。

同時に、難聴・骨や関節の症状はそれぞれの専門科が関わります。バラバラに通うのではなく、全体を見渡して優先順位を整理する役割を、私たち臨床遺伝専門医が担えればと考えています。

7. 遺伝カウンセリングの意義

スティックラー症候群6型は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、リスクの考え方が顕性遺伝の病気とは異なります。診断がついたあとの遺伝カウンセリングでは、主に次のような内容を扱います。

  • 遺伝形式と再発リスク:患者さんの両親は通常、それぞれ無症状の保因者です。この両親から次に生まれるお子さんが発症する確率は25%(4分の1)です。
  • ご本人が子をもつ場合:パートナーが偶然同じCOL9A3の変化の保因者でない限り、お子さんは保因者にはなっても発症はしません。
  • 出生前診断の選択肢:家系内で変化が分かっていれば、絨毛検査・羊水検査での確定が可能です。受ける・受けないはご家族で話し合ってお決めいただきます。
  • 家族全体のフォロー:保因者でも、加齢に伴い軽い難聴や関節症状を呈することがあるため、長期的な見守りが役立ちます。

8. よくある誤解

誤解①「遺伝病だから親も発症しているはず」

潜性遺伝のため、両親はほとんどの場合、無症状の保因者です。「両親が健康だから遺伝ではない」という思い込みが診断を遅らせることがあります。

誤解②「スティックラー症候群はみんな口蓋裂がある」

1・2型では口蓋裂が多い一方、6型では口蓋裂を伴いません。口蓋裂がないことは6型を否定する理由にはならず、むしろ手がかりになります。

誤解③「難聴と近視だけだから軽い」

難聴は進行性で不可逆的、近視の背景には失明につながる網膜剥離のリスクがあります。「軽い」と考えず、計画的な管理が必要です。

誤解④「子どものうちに関節痛がなければ安心」

報告例の平均年齢が若いため、現在のデータは氷山の一角の可能性があります。加齢とともに変形性関節症のリスクは上がると考えられ、長期の見守りが大切です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

スティックラー症候群6型のように世界で十数名しか報告のない病気では、ご家族が情報を得ること自体がとても難しいのが現実です。だからこそ、正確な診断名にたどり着くことが、適切な管理と心の準備の出発点になります。

私たちは、検査結果の数値そのものだけでなく、「その結果をどう受けとめ、これからどう過ごしていくか」までを医療の責任と考えています。気になる症状の組み合わせや、すでにお持ちの検査結果について、臨床遺伝専門医にいつでもご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. スティックラー症候群6型は遺伝しますか?

常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。患者さんの両親はそれぞれ無症状の保因者であることが多く、この両親から次に生まれるお子さんが発症する確率は25%(4分の1)です。家系内で原因の変化が分かっている場合は、出生前診断(絨毛検査・羊水検査など)の選択肢もあります。詳しくは臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. 口蓋裂はありますか?

スティックラー症候群6型では、これまで口蓋裂は報告されていません。1型・2型では口蓋裂が多くみられるため、「口蓋裂がない重い難聴と近視」はむしろ6型を含むIX型コラーゲン関連タイプを疑う手がかりになります。

Q3. どのように診断しますか?

早期の感音難聴・強度近視・骨端の異常などの組み合わせから疑い、次世代シーケンサーによる遺伝子検査(パネル検査やトリオ全エクソーム解析)でCOL9A3の両アレル性の変化が確認されることで確定します。古典的な点数式の診断基準だけに頼ると見逃しやすい点に注意が必要です。

Q4. 他のスティックラー症候群と何が違いますか?

6型の原因はCOL9A3で、常染色体潜性遺伝です。4型(COL9A1)・5型(COL9A2)と非常によく似ますが、骨端異形成が目立つことが報告されています。1〜3型(顕性遺伝)とは、遺伝のしかたや口蓋裂の有無で区別されます。最終的な型の特定は遺伝子検査で行います。

Q5. 網膜剥離は防げますか?

完全に防げるわけではありませんが、予防的レーザー網膜光凝固(EVBL)によって発生率を大きく下げられることが報告されています。あわせて、症状がなくても定期的に眼科で網膜の状態を確認することが重要です。頭部に強い衝撃が加わるスポーツは避けることがすすめられます。

Q6. 出生前に分かりますか?

家系内で原因となるCOL9A3の変化が分かっている場合は、絨毛検査・羊水検査による出生前の確定診断が可能です。当院のNIPTインペリアルプランではCOL9A3が対象遺伝子に含まれます。ただし潜性遺伝で症状の幅も広いため、検査の意味や受けとめ方を含めて、まず遺伝カウンセリングでご相談いただくことをおすすめします。

Q7. 知的障害は伴いますか?

初期に報告された一部の症例では知的障害がみられましたが、その後の複数の報告では知的障害は確認されておらず、COL9A3の機能喪失そのものが脳の発達に直接影響する可能性は低いと考えられています。ご心配な点は遺伝カウンセリングでご相談ください。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

スティックラー症候群をはじめとする希少な遺伝性疾患に関するご相談は、臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にお寄せください。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM. Stickler Syndrome, Type VI; STL6 (#620022). Johns Hopkins University. [OMIM 620022]
  • [2] OMIM. Collagen, Type IX, Alpha-3; COL9A3 (*120270). Johns Hopkins University. [OMIM 120270]
  • [3] Robin NH, et al. Stickler Syndrome. GeneReviews®. University of Washington. [GeneReviews]
  • [4] Orphanet. Autosomal recessive Stickler syndrome. ORPHA:250984. [Orphanet]
  • [5] Faletra F, et al. Autosomal recessive Stickler syndrome due to a loss of function mutation in the COL9A3 gene. Am J Med Genet A. 2014. [PubMed]
  • [6] Hanson-Kahn A, et al. / Nixon T, et al. Autosomal recessive Stickler syndrome resulting from a COL9A3 mutation. Am J Med Genet A. [PMC7608529]
  • [7] Markova T, et al. Clinical and genetic characterization of autosomal recessive Stickler syndrome caused by novel compound heterozygous mutations in the COL9A3 gene. Mol Genet Genomic Med. 2021. [PMC8104176]
  • [8] Rad A, et al. Identification of three novel homozygous variants in COL9A3 causing autosomal-recessive Stickler syndrome. Orphanet J Rare Dis. 2022. [PMC8892745]
  • [9] Nixon TRW, et al. Autosomal Recessive Stickler Syndrome (review). Genes (Basel). 2022;13(7):1135. [MDPI Genes]
  • [10] Khanna S, et al. Laser Prophylaxis in Patients with Stickler Syndrome. Ophthalmol Retina. 2022. [PubMed] / [AAO]
  • [11] American Academy of Ophthalmology. Diagnosis and Management of Stickler Syndrome. [AAO EyeNet]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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