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臨床遺伝専門医(りんしょういでんせんもんい、Clinical Geneticist)は、染色体や遺伝子に関わる幅広い問題に、診療科の枠を越えて対応する遺伝医療の専門医です。「遺伝専門医」と呼ばれることもあります。遺伝子検査やNIPT(新型出生前診断)の結果をどう受け止めればよいか、家族に遺伝性の病気があるとき次の世代とどう向き合うか——こうした相談に、医学的な立場から向き合う医師です。この記事では、臨床遺伝専門医とは何か、その役割、認定遺伝カウンセラーとの違い、どんなときに相談すればよいか、そして出生前医療での関わりまでを、臨床遺伝専門医の立場からわかりやすく解説します。
Q. 臨床遺伝専門医とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 臨床遺伝専門医とは、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定する、遺伝医療の専門医です[1]。特定の診療科に限らず、あらゆる診療科からの遺伝に関する相談に応じ、遺伝学的検査の適応や結果の解釈、遺伝カウンセリングを担います。「遺伝専門医」という通称で呼ばれることもあり、多くの場合は同じ資格を指します。
- ➤認定 → 日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会の共同認定(臨床遺伝専門医制度委員会)
- ➤役割 → 診療科を横断して、遺伝相談・検査の適応判断・結果の解釈・遺伝カウンセリングを担う
- ➤人数 → 全国で2,051名(2026年3月時点)
- ➤違い → 認定遺伝カウンセラーは医師ではない遺伝医療の専門職。情報提供、心理・社会面の支援、意思決定支援などを担い、医師と連携する
- ➤相談の入口 → 家族の遺伝性疾患・次の子のリスク・遺伝子検査やNIPTの結果 など
🧬 臨床遺伝専門医の基本情報
※本記事は一般の方と遺伝診療に関わる方の両方に向けた用語解説です。特定の検査を勧めるものではありません。

1. 臨床遺伝専門医とは ─ 「遺伝専門医」との関係
臨床遺伝専門医とは、遺伝医学の幅広い知識をもち、あらゆる診療科の遺伝に関する問題に対応する医師のことです[1]。日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で運営する臨床遺伝専門医制度委員会によって認定されます。英語では Clinical Geneticist といい、日本語では「遺伝専門医」という通称で呼ばれることもあります。検索の場面でも「遺伝専門医」と「臨床遺伝専門医」はほぼ同じ意味で使われており、この記事でも同じ資格を指すものとして扱います。
制度委員会は、臨床遺伝専門医に求められる能力として、遺伝医学についての広範な専門知識、単独またはそれぞれの診療科と連携しての専門的な検査・診断・治療、遺伝カウンセリングの実施、遺伝学的検査についての十分な知識と経験、そして遺伝医学研究の業績を挙げています[1]。つまり臨床遺伝専門医は、検査を出して終わりではなく、その結果が本人や家族にとってどういう意味を持つのかまでを、医学的に読み解いて説明する役割を担う医師です。
臨床遺伝専門医の制度には、30年以上の歴史があります。1991年に日本人類遺伝学会の「臨床遺伝学認定医制度」が、1996年には「遺伝相談認定医師カウンセラー制度」が始まり、この2つが2002年4月に統一されて「臨床遺伝専門医制度」が誕生しました[1]。さらに2019年には、養成の考え方が「何をどこまでできるようになるか」という到達点を重視するかたちへと見直されました[1]。遺伝の情報が一部の特殊な領域のものから、あらゆる診療科に関わる身近な医療情報へと広がってきたことが、その背景にあります。遺伝が関わる病気は単一の遺伝子で起こるものだけでも数千種類にのぼり、一つの診療科では対応しきれないため、横断的にまとめる専門医が必要とされてきました。
💡 用語解説:遺伝医療・遺伝学的検査とは
遺伝医療とは、遺伝子や染色体に関わる病気の診断・治療・予防や、そのための情報提供・相談を行う医療のことです。その中で、特定の遺伝子や染色体を調べる検査を「遺伝学的検査」といいます。遺伝学的検査の結果は、本人だけでなく血のつながった家族にも関わることがあるため、結果の意味を専門的に説明できる医師が必要になります。その役割を担うのが臨床遺伝専門医です。
臨床遺伝専門医についてよくある誤解
臨床遺伝専門医は、しばしば「特定の診療科の医師」だと誤解されます。しかし実際には特定の科に属する資格ではなく、あらゆる診療科を横断して遺伝の問題に対応するのが特徴です。産婦人科・小児科・内科・外科など、もともとの専門をもつ医師が、さらに研鑽を積んで取得します。もう一つよくある誤解は「遺伝子検査を受ければ何でも分かる」というものですが、これは正しくありません。検査で分かることには限界があり、何を調べれば何が分かるのか、そして分からないことは何かを整理することも、臨床遺伝専門医の大切な仕事です。遺伝性疾患そのものについては、遺伝性疾患とはもあわせてご覧ください。
2. 臨床遺伝専門医は何をする? 役割と「何科の医師か」
臨床遺伝専門医は、特定の科に属さず、全診療科からの遺伝に関する相談に応じる医師です[1]。単一の遺伝子で起こる病気だけでなく、染色体の変化による病気、成人になってから発症する病気、がんの遺伝的な背景まで、遺伝が関わる領域は非常に広く、一つの診療科だけでは対応しきれません。そこを横断的につなぐのが臨床遺伝専門医の立ち位置です。
臨床遺伝専門医の主な仕事は、次のように整理できます。
・遺伝相談への対応:家族歴や心配ごとを聞き取り、どのような遺伝的リスクが考えられるかを評価します。
・遺伝学的検査の適応判断:どの検査が本人・家族にとって意味があるのか、そもそも検査を受けるべきかどうかを一緒に考えます。
・検査結果の解釈:見つかった遺伝子の変化が病気につながるものなのか、そうでないのかを、医学的に判断して説明します。
・診断と遺伝カウンセリング:診断を行い、その意味や次の選択肢について、中立の立場で情報を整理します。
・家族歴・家系図の評価:血縁者の情報を整理し、家族全体でのリスクを見立てます。
「臨床遺伝専門医は何科ですか」という質問には、「特定の科ではなく、全診療科を横断する専門医です」というのが答えになります。資格を取得している医師には産婦人科や小児科を専門とする人が比較的多い傾向がありますが、これは遺伝が関わる相談がこれらの領域で多いためであって、資格そのものが科を限定しているわけではありません。近年は、がんの遺伝的背景を調べる検査が広がるなかで、内科・外科など成人領域の医師の関わりも増えています。
臨床遺伝専門医の仕事の中でも特に専門性が問われるのが、見つかった遺伝子の変化(バリアント)が病気につながるものかどうかを判断することです。遺伝子検査では、はっきり病気に関係する変化だけでなく、多くの人にも見られる個性の範囲の変化や、現時点では意味がはっきりしない変化(意義不明のバリアント)が見つかることがあります。こうした結果を、家族歴やほかの検査結果とあわせて医学的に読み解き、本人や家族にとってどういう意味を持つのかを整理して説明することが、臨床遺伝専門医に求められる中心的な役割です。検査を出すこと自体よりも、結果をどう解釈し、次にどうつなげるかにこそ、専門性が発揮されます。
遺伝のリスクを見立てるときに欠かせないのが、家系図(家族歴の図)です。血縁者にどのような病気があるか、誰と誰がつながっているかを図に整理すると、遺伝の仕方や再発の可能性が見えてきます。臨床遺伝専門医は、この家系図をもとに、どの検査が必要か、誰にとって意味があるのかを考えます。正確な家族歴は遺伝相談の出発点になりますので、来院の前に、分かる範囲で血縁者の病歴を整理しておくと、相談がより具体的になります。
🩺 院長コラム【遺伝子検査は「受けて終わり」ではありません】
遺伝子検査は、結果が出たあとにこそ専門的な判断が必要になります。同じ「遺伝子に変化が見つかった」という結果でも、それが病気につながる変化なのか、多くの人にも見られる個性の範囲なのかで、意味はまったく変わります。医学的には、この「変化の意味づけ」を誤ると、必要のない不安を抱えたり、逆に大切なサインを見逃したりすることにつながりかねません。
臨床遺伝専門医として文献を踏まえてお伝えしたいのは、検査は目的ではなく手段だということです。何を知りたいのか、その結果をどう使うのかを先に整理することが、遺伝医療ではとても大切になります。
3. 臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーの違い
遺伝の相談にかかわる専門職には、臨床遺伝専門医のほかに認定遺伝カウンセラーがいます。両者の最も大きな違いは、臨床遺伝専門医は医師で、医学的な判断(診断・検査の適応・結果の解釈)を担うのに対し、認定遺伝カウンセラーは医師ではなく、遺伝カウンセリングを専門とし、情報提供、心理的・社会的支援、意思決定支援などを担う点です。どちらも日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が認定する資格で[3]、実際の遺伝医療では、両者が役割を分担しながら連携します。
🔍 臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーの比較
| 項目 | 臨床遺伝専門医 | 認定遺伝カウンセラー |
|---|---|---|
| 資格の性質 | 医師 | 医師以外の専門職 |
| 主な役割 | 医学的な判断・診断・検査の適応と結果解釈 | 情報提供と、心理的・社会的な支援 |
| 診断・検査の指示 | 行う | 行わない |
| 主な資格取得ルート | 基本領域の専門医取得後に遺伝診療の研修 | 認定された大学院の養成課程(修士)を修了 |
| 更新 | 5年ごと[2] | 5年ごと(国家資格ではありません) |
※このほか、看護の立場から遺伝医療に関わる「遺伝看護専門看護師」もいます。医療機関によっては、これらの専門職がチームで対応します。
遺伝カウンセリングとは、国際的には「遺伝が病気に与える医学的・心理的・家族的な影響を、人々が理解し、適応していくのを助けるプロセス」と定義されています[4]。家族歴や病歴の解釈、遺伝や検査についての教育、そして本人が自分で納得して選べるように支える——この3つを統合したものが遺伝カウンセリングです。本人の自律的な意思決定を尊重し、特定の選択へ不当に誘導せず、判断材料を整理する姿勢が重要です。認定遺伝カウンセラーについては、用語解説遺伝カウンセラーもご覧ください。なお当院では、遺伝カウンセリングは臨床遺伝専門医が行っています。
遺伝カウンセリングは、大きく3つの要素から成り立っています。1つめは、家族歴や病歴を読み解いて病気の起こりやすさや再発の可能性を見立てること、2つめは、遺伝の仕組みや検査・予防・研究について分かりやすく伝える教育、そして3つめが、本人が納得して選べるように支えるカウンセリングです[4]。臨床遺伝専門医はこのうち医学的な判断を中心に担い、認定遺伝カウンセラーや遺伝看護専門看護師と役割を分け合いながら、一人ひとりの相談に対応します。医療機関によっては、これらの専門職がチームを組んで一つの相談にあたります。
💡 用語解説:非指示的(ひしじてき)とは
遺伝カウンセリングでは、専門職が「こうすべきだ」と結論を押し付けるのではなく、正確な情報を中立に整理し、本人が自分の価値観にもとづいて選べるように支えます。遺伝カウンセリングでは、本人の自律性を尊重し、特定の選択へ不当に誘導しないことが重要です。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかはご本人が意思決定し、専門職はそのための情報整理と支援を行います。
遺伝カウンセリングは、通常は予約制で、一定の時間をとって行われます。多くの場合、本人だけでなく家族が一緒に参加することもでき、家系図の作成や検査の説明、結果の解釈などを、その人の状況に合わせて進めます。一度で終わらず、検査の前と後で複数回に分けて行われることもあります。遺伝カウンセリングは、病気の診断や検査の一部として行われる場合と、相談として自費で行われる場合があり、費用や進め方は医療機関によって異なりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
4. 日本に臨床遺伝専門医は何人いる?
臨床遺伝専門医は、全国で2,051名(2026年3月時点)です[6]。全国の医師全体からみると、限られた人数の専門資格です。最新の登録数は年によって変動するため、正確な現在の人数は臨床遺伝専門医制度委員会の公式な一覧で確認できます[5]。
人数が限られているのは、資格取得までの道のりが長く、要件も厳しいためです。まず内科・小児科・産婦人科などの基本領域の専門医を取得したうえで、さらに一定期間、遺伝診療の研修を積み、筆記試験と遺伝カウンセリングの実技を含む認定試験に合格する必要があります。取得後も5年ごとの更新が求められます[2]。こうした難関資格であることが、専門医の少なさの背景にあります。
なお、医師ではない認定遺伝カウンセラーは、2026年3月時点で全国に461名です[6]。認定遺伝カウンセラーも大学院の養成課程を修了して認定試験に合格する必要があり、5年ごとの更新が求められる資格です(現時点では国家資格ではありません)[6]。臨床遺伝専門医も認定遺伝カウンセラーも、まだ人数が十分とはいえず、地域によっては専門職に相談できる機会が限られているのが現状です。
臨床遺伝専門医になるには、まず内科・小児科・産婦人科などの基本領域で専門医の資格を取り、そのうえで遺伝診療の研修を積む必要があります。研修では遺伝カウンセリングの実地経験や学術的な活動も求められ、最後に筆記試験と実技試験に合格してようやく認定されます。取得までに長い時間がかかることが、人数が増えにくい一因です。また、専門医は都市部の大学病院などに多く、地域によっては近くに専門医がいないこともあります。資格の取り方や試験の詳細は臨床遺伝専門医になるには?資格取得ガイドで解説しています。
5. どんなときに臨床遺伝専門医に相談する?
臨床遺伝専門医への相談は、遺伝に関する不安や疑問があるときが入口になります。具体的には、次のような場面が挙げられます。
・血縁者に遺伝性の病気がある:自分や子どもにも関係するのか知りたいとき。
・次の子どもの再発リスクが心配:すでに遺伝性の病気のあるお子さんがいて、次の妊娠を考えているとき。
・遺伝子検査を勧められた:受けるべきか、受けると何が分かるのかを整理したいとき。
・NIPTや出生前検査の結果の意味を知りたい:結果をどう受け止めればよいか相談したいとき。
・血縁に遺伝性腫瘍がある:がんの遺伝的な背景が気になるとき。
遺伝情報には、生涯を通じて変わらないこと、血縁者の間で一部が共有されていることという特徴があります[7]。そのため、一人の検査結果が家族全体に関わることがあります。遺伝医療では、こうした情報について「知る権利」と「知らないでいる権利」の両方を尊重することが大切にされています[7]。相談するかどうか、検査を受けるかどうかは、あくまで本人・家族が決めることであり、臨床遺伝専門医はその判断材料を整理する役割を担います。
遺伝学的検査には、目的によっていくつかの種類があります。まだ症状が出ていない段階で将来の発症の可能性を調べる発症前診断、自分は発症しないものの子に遺伝的な体質を伝える可能性があるかを調べる保因者診断、胎児が遺伝性・先天性の病気を持っているかを調べる出生前診断、受精卵の段階で調べる着床前診断などです[7]。どの検査も、受けることで分かる情報の性質や、それにともなう判断の重さが異なります。だからこそ、検査を受ける前に「何のために調べるのか」「どんな結果があり得るのか」を整理しておくことが大切で、その整理を一緒に行うのが臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングです。
⚠️ 個人のリスクは「一人ひとり違う」
「この病気は◯%の確率で遺伝する」といった数字を目にすることがありますが、集団全体の統計をそのまま特定の個人の確率として当てはめることはできません。実際のリスクは、家族歴や検査結果によって一人ひとり異なります。だからこそ、個別に評価する遺伝カウンセリングが重要になります。
たとえば「第1子が遺伝性の病気で、次の子は大丈夫だろうか」という相談は、遺伝診療でよく扱われるテーマです。具体的な例はヌーナン症候群と次の子の再発リスクでも解説しています。また、妊娠を考える段階で保因者かどうかを調べる保因者スクリーニングという選択肢もあります。
近年、相談が増えているのが、がんの遺伝的な背景についての相談です。乳がんや卵巣がん、大腸がんなどの一部には、生まれ持った遺伝子の変化が関わるもの(遺伝性腫瘍)があります。血縁者に若くしてがんになった人が複数いる場合などは、遺伝的な要因を考える手がかりになります。こうした相談も、臨床遺伝専門医が家族歴を評価し、検査が本人や家族にとって意味があるかを一緒に考える対象です。がんの遺伝的背景を扱う検査が広がるなかで、成人領域における臨床遺伝専門医の関わりは今後さらに重要になると考えられます。
6. 出生前医療(NIPTなど)における臨床遺伝専門医の役割
出生前医療の場面では、検査を検討する段階・結果を受け取ったあと・確定検査のあとという各段階で、臨床遺伝専門医が関わります。NIPT(新型出生前診断)をはじめとする出生前検査は、結果によって難しい判断を迫られることがあるため、検査の前後で十分な情報提供と相談ができることが重要とされています。
🧬 出生前検査の各段階と臨床遺伝専門医の関わり
| 段階 | 臨床遺伝専門医が担う主な役割 |
|---|---|
| 検査を検討する段階 | 検査で何が分かり何が分からないか、検査を受ける・受けないという選択肢を中立的に整理します |
| 結果を受け取った段階 | 結果の医学的な意味を説明し、次に確定検査が必要かどうかを一緒に考えます |
| 確定検査のあと | 羊水検査・絨毛検査などの結果をふまえ、その後の選択肢について情報を整理します |
※確定検査については羊水検査・絨毛検査もご覧ください。
日本では、NIPT等の出生前検査について出生前検査認証制度が運用されています[8]。この制度の指針では、認証を受けた施設は、出生前検査に十分な知識と経験をもつ産婦人科の専門医と小児科の専門医が在籍し、そのうち一方は臨床遺伝専門医であることが求められています[9]。また、出生前検査に関する遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医などが対応することが望ましいとされ、その姿勢は特定の結論へ誘導しない「非指示的」であることが重視されています[9]。認証施設で行われるNIPTは、原則として13トリソミー・18トリソミー・21トリソミー(ダウン症候群)の3つに限定されています[9]。
なお、この指針は認証を受けた施設に関するもので、認証を受けていない施設でのNIPTの実施が法律で禁じられているわけではありません。検査を受ける施設を選ぶときは、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが受けられるかどうかが、一つの目安になります。当院でも、臨床遺伝専門医が検査の前後の遺伝カウンセリングを行っています。
認証を受けた施設と、認証を受けていない施設(認可外施設)では、扱う検査の範囲や体制が異なります。認証施設ではNIPTの対象が3つの染色体の病気に限られる一方で、認可外施設ではより幅広い項目を扱うことがあります。どちらの施設で受ける場合でも共通して大切なのは、検査の前後に、臨床遺伝専門医による十分な遺伝カウンセリングを受けられるかどうかです。NIPTは確定診断ではなくスクリーニング検査であり、陽性であっても胎児の疾患が確定したことを意味しません。陽性の場合には羊水検査などの確定検査が必要になることもあり、検査の性能や限界を理解したうえで受けることが、後悔の少ない判断につながります。
出生前検査は、確定検査と非確定検査に分けられます。NIPTなどの非確定検査は、体への負担が小さい一方で、結果だけでは診断を確定できません。これに対して羊水検査・絨毛検査は、対象となる染色体疾患などを診断するための確定的検査として用いられますが、わずかながら流産などのリスクをともないます。非確定検査で陽性となっても、それだけで診断が確定するわけではありません。この違いを理解しておくことが、検査結果を正しく受け止め、次の一歩を落ち着いて考えるうえで重要になります。臨床遺伝専門医は、こうした検査の位置づけを整理して説明する役割を担います。
🩺 院長コラム【出生前検査は「結果」より「準備」が大切です】
出生前検査で最も大切なのは、結果が出てから慌てて考えるのではなく、検査を受ける前に「どんな結果があり得て、それぞれの場合に自分たちはどう考えるか」を整理しておくことです。医学的には、検査の性能や分かる範囲には限界があり、その前提を理解したうえで受けることが、後悔の少ない選択につながります。
臨床遺伝専門医の役割は、答えを決めることではありません。何が分かり、何が分からず、どんな選択肢があるのかを中立に整理し、ご本人とご家族が自分たちで納得して選べるように支えることです。
7. 臨床遺伝専門医の探し方(一覧・名簿)
臨床遺伝専門医が在籍する医療機関は、公的な名簿や検索サービスで探すことができます。最も確実なのは、認定を行っている臨床遺伝専門医制度委員会の公式一覧です。全国の臨床遺伝専門医・指導医が掲載され、常に最新の情報に更新されています。生殖医療や遺伝性腫瘍の相談に対応できる専門医など、領域ごとの目印も確認できます。
受診先の医療機関から探したい場合は、専門医が在籍する病院・クリニックを検索できるサービスも役立ちます。目的に応じて使い分けるとよいでしょう。
・臨床遺伝専門医・指導医一覧(臨床遺伝専門医制度委員会):認定機関による公式名簿。
・臨床遺伝専門医が在籍する病院・クリニック検索(ドクターズ・ファイル):受診先を探すとき向け。
医療機関を選ぶときは、臨床遺伝専門医が在籍しているかどうかに加えて、検査の前後に十分な時間をとって相談できる体制があるかも確認するとよいでしょう。遺伝の相談は一度きりで終わるとは限らず、結果が出たあとに改めて話し合いが必要になることもあります。継続して相談できる関係を築けるかどうかも、施設を選ぶうえで大切な視点です。
なお、臨床遺伝専門医の資格の取り方・試験・研修・合格率など、専門医を目指す方向けの情報については、臨床遺伝専門医になるには?資格取得ガイドで詳しく解説しています。
8. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
遺伝の情報は、本人だけでなく血縁の家族にも関わるという、ほかの医療情報にはない特徴をもっています。だからこそ、臨床遺伝専門医の役割は、検査結果に「良い・悪い」の判定を下すことではありません。何が分かって何が分からないのか、その結果が本人と家族にとってどういう意味を持つのか、そしてどのような選択肢があるのかを、中立の立場で整理してお伝えすることにあります。
遺伝子を調べる技術が急速に進歩し、以前は分からなかったことが分かるようになりました。その一方で、分かった情報をどう受け止め、どう生かすかという「意味づけ」と「説明」の重要性は、むしろ増しています。遺伝医学では、技術の進歩がもたらす利益を最大にし、不利益を最小にすることが、専門医に求められる姿勢とされています。検査を受けるかどうかを含め、決めるのはご本人です。臨床遺伝専門医は、その判断を支える情報の整理役として関わります。
遺伝医療は、医学の知識だけで割り切れない問題を含みます。だからこそ臨床遺伝専門医は、倫理や法律、心理・社会的な配慮も含めて、幅広い視点から一人ひとりの状況に向き合います。遺伝情報は本人の人生設計や家族関係、就労や保険など生活の広い範囲に関わることがあり、その扱いには慎重さが求められます。分かることが増えた時代だからこそ、得られた情報をどう受け止め、どう生かすかを一緒に考える相手として、臨床遺伝専門医の役割はこれからも大きくなっていくと考えられます。
まとめ
臨床遺伝専門医(遺伝専門医)は、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定する、診療科を横断して遺伝の問題に対応する遺伝医療の専門医です[1]。遺伝相談・検査の適応判断・結果の解釈・遺伝カウンセリングを担い、認定遺伝カウンセラーなどの専門職と役割を分担しながら連携します。全国での人数はまだ限られており、専門職に相談できる機会は十分とはいえません。
家族に遺伝性の病気があるとき、次の子どものことを考えるとき、遺伝子検査やNIPTの結果に迷ったとき——こうした場面で、判断材料を中立に整理してくれるのが臨床遺伝専門医です。検査を受けるかどうかも含めて、納得のいく選択をするために、専門医による遺伝カウンセリングという選択肢があることを知っておいていただければと思います。分からないことや迷いがあるときこそ、専門医による遺伝カウンセリングが、判断の助けになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 臨床遺伝専門医とは何ですか?
臨床遺伝専門医とは、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定する、遺伝医療の専門医です。特定の診療科に限らず、あらゆる診療科からの遺伝に関する相談に応じ、遺伝学的検査の適応や結果の解釈、遺伝カウンセリングを担います。「遺伝専門医」という通称で呼ばれることもあり、多くの場合は同じ資格を指します。
Q2. 臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーの違いは?
臨床遺伝専門医は医師で、医学的な判断(診断・検査の適応・結果の解釈)を担います。一方、認定遺伝カウンセラーは医師ではなく、遺伝カウンセリングを専門とし、情報提供、心理的・社会的支援、意思決定支援などを担う専門職です。どちらも同じ2つの学会が認定する資格で、実際の遺伝医療では役割を分担しながら連携します。
Q3. 臨床遺伝専門医は何人いますか?
全国で2,051名(2026年3月時点)です。人数は年によって変動するため、最新の登録状況は臨床遺伝専門医制度委員会の公式一覧などで確認できます。なお、認定遺伝カウンセラーは2026年3月時点で461名です。
Q4. 臨床遺伝専門医は何科の医師ですか?
特定の科に属する資格ではなく、全診療科を横断して遺伝の問題に対応する専門医です。産婦人科や小児科を専門とする医師が比較的多い傾向はありますが、これは遺伝の相談がこれらの領域で多いためで、資格が科を限定しているわけではありません。近年はがんの遺伝的背景を扱う内科・外科などの関わりも増えています。
Q5. 臨床遺伝専門医はいつから始まった資格ですか?
1991年に始まった日本人類遺伝学会の臨床遺伝学認定医制度と、1996年に始まった遺伝相談認定医師カウンセラー制度の2つが、2002年4月1日に統一され、「臨床遺伝専門医制度」として誕生しました。2019年には、養成の目標が行動目標として再設定されるなど、時代に合わせて見直されています。
Q6. 臨床遺伝専門医になるにはどうすればよいですか?
内科・小児科・産婦人科などの基本領域の専門医を取得したうえで、一定期間の遺伝診療の研修を積み、筆記試験と実技を含む認定試験に合格する必要があります。取得後も5年ごとの更新が必要です。資格の取り方・試験・研修の詳細は「臨床遺伝専門医になるには?資格取得ガイド」で解説しています。
🏥 遺伝子検査・NIPT・遺伝カウンセリングのご相談
遺伝子や染色体に関わる検査、NIPT(新型出生前診断)、
検査結果の意味について迷ったときは、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
参考文献
- [1] 臨床遺伝専門医制度について(臨床遺伝専門医制度委員会). https://www.jbmg.jp/about/
- [2] 臨床遺伝専門医資格更新(臨床遺伝専門医制度委員会). https://www.jbmg.jp/renew-qualifications/clinical-geneticist/
- [3] 認定制度とは(日本遺伝カウンセリング学会). https://www.jsgc.jp/authorize.html
- [4] A new definition of Genetic Counseling: National Society of Genetic Counselors’ Task Force report. J Genet Couns. 2006;15(2):77-83. [PubMed 16761103]
- [5] 臨床遺伝専門医・指導医一覧(臨床遺伝専門医制度委員会). https://www.jbmg.jp/senmon/
- [6] 日本遺伝カウンセリング学会について(日本遺伝カウンセリング学会). 2026年3月現在、臨床遺伝専門医2,051名、認定遺伝カウンセラー461名. https://www.jsgc.jp/about.html
- [7] 日本遺伝カウンセリング学会について(日本遺伝カウンセリング学会). https://www.jsgc.jp/about.html
- [8] 出生前検査認証制度等運営委員会(日本医学会). https://jams-prenatal.jp/
- [9] NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針 関連資料(厚生労働省 NIPT等の出生前検査に関する専門委員会). https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000901425.pdf



