臨床遺伝専門医とは?

染色体遺伝子の異常による先天疾患や、生活習慣病など、遺伝に関する診療に関する専門知識を持っており、専門的検査や診断・治療・遺伝カウンセリングを行います。 このページでは臨床遺伝専門医の資格認定について、その役割、遺伝カウンセラーとの違いをご説明します。

遺伝専門医(臨床遺伝専門医)とは?

遺伝専門医とは、日本人類遺伝学会、日本遺伝カウンセリング学会による臨床遺伝専門医制度委員会で認定された医師のことをいいます。

染色体や遺伝子の異常による先天疾患や、生活習慣病など、遺伝に関する診療に関する専門知識を持っており、専門的検査や診断・治療・遺伝カウンセリングを行います。

臨床遺伝専門医を認定している臨床遺伝専門医制度委員会についてはこちらのリンクをご覧ください。

遺伝専門医(臨床遺伝専門医)の認定について

先述の通り、臨床遺伝専門医は遺伝に関する、日本人類遺伝学会、日本遺伝カウンセリング学会の2つの学会が共同で認定しています。

内科・外科・産婦人科・小児科などの専門分野の医資格を取得したのちに、3年以上遺伝診療を遺伝専門医制度委員会の修練コースにのっとって研鑽したり、臨床遺伝専門医研修を受けたりすることで、認定試験の受験資格を得ることができます。

資格試験には筆記試験はもとより、遺伝カウンセリングの実技試験もあります。

なかなかの難関資格なので医師33万以上いるのですが、臨床遺伝専門医の人数は1200名程度となっています。

認定を受けると、他の医師を指導する指導医としての資格も得ることができます。

遺伝専門医(臨床遺伝専門医)の役割

遺伝が関係する疾患は、単一遺伝子疾患だけで5000程度あります。さらに科学の進歩とともにさまざまな疾患の病因が解明されることで、遺伝性疾患の領域は複雑化しています。

そのため産婦人科や小児科など、単一の診療科ではカバーしきれない遺伝性疾患を、横断的に診察するのが臨床遺伝専門医の役割です。

このため、臨床遺伝専門医には、あらゆる診療科からの遺伝相談に応じ、予想される疾患とそれに関係する遺伝子を想定して検査し、さらには出てきた検査結果から遺伝子の変異が見つかった場合には、それが病的か病的でないか、その変異でどのような遺伝子の最終産物であるタンパクの変異が起こるのか起こらないのか、病的な場合は次の世代への影響がどのように及ぶのかなどの極めてセンシティブな内容を全部責任をもって患者に説明する技術を必要としています

例えば、知的障害、筋ジストロフィー、脊髄小脳失調症等の疾患が関係する領域です。

認定遺伝カウンセラーとの違い

認定遺伝カウンセラーもまた、日本人類遺伝学会、日本遺伝カウンセリングによって認定されている資格です。

2005年に認定制度が開始し、2021年4月時点で日本国内で289名が遺伝カウンセラーとして認定されています。

遺伝専門医(臨床遺伝専門医)との違いは医師ではないため、診療や研究は行いませんが、遺伝医療を必要としている患者や家族に、適切な遺伝情報や社会支援体制等の情報提供を行います。

最新の遺伝医学の知識とカウンセリング技術を持っており、主治医と協力して、患者に対して心理的・社会的なサポートを行います。

臨床遺伝学は今後、より重要で奥深い学問へ~遺伝専門医の思い

文科省への働きかけにより、『臨床遺伝学』は、平成30年度からスタートする医学部の教育カリキュラムに日本の医学史上初めて取り入れられました。
www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/28/1325989_28.pdf

    E 全身に及ぶ生理的変化、病態、診断、治療

    • E-1 遺伝医療・ゲノム医療
      • E-1-1) 遺伝医療・ゲノム医療と情報の特性
        • ねらい:

        • 遺伝情報・ゲノム情報の特性を理解し、遺伝情報・ゲノム情報に基づいた診断と治療、未発症者を含む患者・家族の支援を学ぶ。

        学修目標:

      • ①集団遺伝学の基礎として Hardy-Weinberg の法則を概説できる。
      • ②家系図を作成、評価(Bayes の定理、リスク評価)できる。
      • 生殖細胞系列変異と体細胞変異の違いを説明でき、遺伝学的検査の目的と意義を概説できる。
      • ④遺伝情報の特性(不変性、予見性、共有性)を説明できる。
      • ⑤遺伝カウンセリングの意義と方法を説明できる。
      • ⑥遺伝医療における倫理的・法的・社会的配慮を説明できる。
      • ⑦遺伝医学関連情報にアクセスすることができる。
      • ⑧遺伝情報に基づく治療や予防をはじめとする適切な対処法を概説できる。

平成28年のコア・カリキュラムという全国共通でこういう教育内容をやらないといけない、という骨子に入ったので、平成30年からはこのコアカリが運用されていて、6年後、令和4年に卒業を迎え、研修医たちが全員、遺伝医学の基礎知識を持っている、という状態にやっとなります。

昔は「問診・聴診・視診・触診・打診」というのが診察の技法でした。

そこに顕微鏡の進歩で病理診断、放射線技術革新による画像診断の進歩などが加わってきたことで、病気の原因を「病理所見」といって組織の病理学的な組織の化学的変化に求めることが主流でした。

1990年代になると、ヒトのゲノムを全て決定するプロジェクトが終わったことで、ヒトの遺伝子が28000個くらいあることや、どうやってそこからタンパクができるか、などといったことが分子生物学という学問で解き明かされるようになりました。

つまり、今までは「病理学」といって、病気の部分を組織切片にしてみて「正常と比べてどうなっているか」という学問に求められてきた「病因」、つまり病気の原因を、遺伝子が異常になってしまったことで、その最終産物であるタンパクにどういう影響がでて、病気の発症にどのような役割を果たしているのか、ということを解き明かせるようになりました。そしてそれを患者さんに説明することが、臨床遺伝専門医に求められる最も重要な役割なのです。

遺伝診療の現場に大きな変革をもたらしたもの。それは2010年代に入り、次世代シークエンサーが開発され、進化したことにほかなりません。1990年代のヒトゲノムプロジェクト時代には、一人のゲノムの塩基配列を決定するのに数十億の予算と10年の年月が必要だったところ、1週間程度と300万くらいになり、時間とコストはどんどん時間とともに減少しています。このような次世代シークエンサー時代には、病気の原因を遺伝子レベルで突き止めることが求められています。

歴史を振り返ると、大昔は目で見る、匂う、触れる、などして得られた異常に病因を求めてきました。

それが検査学の発達により、血液検査や病理組織所見に病因が求められてきたのがここ半世紀以上。

これからは、遺伝子変異とそれによるタンパクの異常に病因が求められていきます。

マクロ(目で見る)からミクロ(顕微鏡で見る)へ、ミクロから分子へ、分子からゲノムへ。

わたしたち医師は、遺伝子の変異がその産物であるタンパクの機能にどのような影響を及ぼすのか、それがどのように病気の発症につながるのか、を読み解く能力を求められる時代になったということです。そしてそれを駆使して患者さんにどういうことがおこりそうでそのため何をしないといけないのか、してはいけないのか、などといったことを説明しなければなりません。

昔、光学顕微鏡しかなかった時代から、電子顕微鏡ができてどんどんもっと細かいことがわかるようになり、考えなければならないこと、覚えなければならないことが格段に増えたように。

今、医学の世界に次世代シークエンサーがもたらした変革は、電子顕微鏡の登場以上のものでしょう。

そしてそれはもともとの遺伝性疾患がなくても、たとえばがんは遺伝子の異常が複数加わって発症するのですが、その異常の種類により治療方法が異なる、つまり使用する薬剤が異なる、などの治療戦略の決定のためにも遺伝子の情報が大きな意味を持ってきています。

また、抗腫瘍薬自体も、遺伝子の情報から作られるようになってきていて、ますます遺伝子は医学の大事な分野になろうとしています。

昔は、病理組織学的に分けられていたものが、どんどん遺伝子が病的かどうかやどういう病的変異があるかで分類されていくようになる。

近未来は臨床遺伝学はもっとずっと重要で幅広く奥深い学問となるでしょう。

私たち遺伝専門医は、そのフロントラインで急速な技術革新によりもたらされる利益を患者さんに還元し「害」を軽減する必要があります。

昔は、科学技術の進歩は『善』ととらえられていたのですが。悪もあることを原爆は教えてくれました。

シークエンシング技術の進歩で一番の問題は、受精胚がゲノム編集されてしまうことや、異常があると判ったら何でも中絶するという風潮を助長してしまうことでしょう。

もちろん、出生前診断の対象となっている疾患たちもあります。

しかし。我々はもっと慎重に考える必要があるのです。

どういう疾患を出生前診断の対象にしていくのか、を。

チェルノブイリの原発事故は実に200万の人工妊娠中絶を誘発しました。

福島の原発事故でも中絶が増えました。

完璧な遺伝子の子供が欲しいので今回は産まない、という理由が述べられていました。

しかし完璧な遺伝子などないのです。

これが今、現場で第一線にたっている医師たちにも理解できません。

医師たちに理解できないものは国民はもっと理解できません。

遺伝医学は次世代シークエンサーの進歩に翻弄されて、臨床現場が混乱しています。

そんな混乱した現場で、われわれ遺伝専門医は患者さんとご家族の利益の最大化と不利益の最小化を図るべくもがいています。

今までなかったものができ

判らなかったことがわかるようになったばかりということは

答えがない世界だからです。

技術革新の最先端を歩むことを運命づけられている臨床遺伝専門医たち。

われわれは、医療倫理学や医学の判例、医療にまつわる法律学など幅広く医療の周辺の学問も学びます。

医学だけでは解決できない問題に立ち向かうためです。

平成30年度の医学部医学科のコアカリキュラムに採用されたばかりのこの新しくて、しかし染色体の時代からすると古くて、非常に重要な医学の分野を専門的におさめた臨床遺伝専門医たちを、皆さまに少しでも知っていただければ幸いです。

具体的な仕事内容などは以下の関連記事でご確認ください。

臨床遺伝専門医による新型出生前診断(NIPT)の遺伝カウンセリングはミネルバクリニックへ

新型出生前診断NIPT)の認可施設では遺伝専門医や遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングが義務付けられています。

新型出生前診断は家族の将来に関わる検査であるため、遺伝カウンセリングを受けたうえで検査を受けることはとても大切なことです。

しかし、現在、遺伝カウンセリングセンターを有する新型出生前診断の認可施設のほとんどは予約の取りずらい大きな病院や医療機関で、カウンセリングの日時が限られていることで、検査を希望する人が遺伝カウンセリングを受けづらい状況にあるともいえます。

ミネルバクリニックでは、遺伝専門医が常駐しており、いつでも遺伝カウンセリングを受けていただくことができます。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号