臨床遺伝専門医とは?

臨床遺伝専門医とは、遺伝診療(臨床遺伝、遺伝子診療などともよばれます。medikal genetics, clinical genetics)を専門的に行う能力があると第三者機関である臨床遺伝専門医制度委員会に認定された専門医のことをいいます。
このページでは遺伝診療とはなどといった皆さんにはなじみがすくないことをお伝えしたいと思います。

ミネルバクリニックは、遺伝診療として 地域で診療する 一時診療の全国に例を見ないクリニックです。
ですので、本当に重たい悩みを持った方々がご連絡をくださいます。
しかし、遺伝診療ってどんなことやってるのか、臨床遺伝専門医がどんな役割を果たしているのかがわからない人たちが殆どでしょう。

遺伝診療(臨床遺伝学)とは

文科省への働きかけにより、『臨床遺伝学』は、平成30年度からスタートする医学部の教育カリキュラムに日本の医学史上初めて取り入れられました。
www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/28/1325989_28.pdf

E 全身に及ぶ生理的変化、病態、診断、治療
E-1 遺伝医療・ゲノム医療
E-1-1) 遺伝医療・ゲノム医療と情報の特性
ねらい:
遺伝情報・ゲノム情報の特性を理解し、遺伝情報・ゲノム情報に基づいた診断と治療、未発症者を含む患者・家
族の支援を学ぶ。
学修目標:
①集団遺伝学の基礎として Hardy-Weinberg の法則を概説できる。
②家系図を作成、評価(Bayes の定理、リスク評価)できる。
生殖細胞系列変異と体細胞変異の違いを説明でき、遺伝学的検査の目的と意義を概説できる。
④遺伝情報の特性(不変性、予見性、共有性)を説明できる。
遺伝カウンセリングの意義と方法を説明できる。
⑥遺伝医療における倫理的・法的・社会的配慮を説明できる。
⑦遺伝医学関連情報にアクセスすることができる。
⑧遺伝情報に基づく治療や予防をはじめとする適切な対処法を概説できる。

平成28年のコア・カリキュラムという全国共通でこういう教育内容をやらないといけない、という骨子に入ったので、平成30年からはこのコアカリが運用されていて、6年後、令和4年に卒業を迎え、研修医たちが全員、遺伝医学の基礎知識を持っている、という状態にやっとなります。

昔は 問診・聴診・視診・触診・打診というのが診察の技法でした。
そこに顕微鏡の進歩で病理診断、放射線技術革新による画像診断の進歩などが加わってきました。

特に、病気の原因を「病理所見」といって組織の病理学的な組織の化学的変化に求めることが主流でした。
1990年代に幕明けたヒトのゲノムを全部決定するというピロジェクトが終わり、ヒトの遺伝子が28000個くらいあることや、どうやってそこからタンパクができるか、などといったことが分子生物学という学問で解き明かされるようになりました。

つまり、今までは「病理学」といって、病気の部分を組織切片にしてみて、正常と比べてどうなっているか、という学問に求められてきた「病因」つまり、病気の原因を、遺伝子が異常になってしまったことで、その最終産物であるタンパクにどういう影響がでて、病気の発症にどのような役割を果たしているのか、ということを解き明かして患者さんに説明することが臨床遺伝専門医に求められる最も重要な役割なのです。

遺伝診療の現場に大きな変革をもたらしたもの。それは2010年代に入り、次世代シークエンサーが開発され、進化したことにほかなりません。1990年代のヒトゲノムプロジェクト時代は一人のゲノムの塩基配列を決定するのに数十億の予算と10年の年月が必要だったものが、1週間程度と300万くらいになり、時間とコストはどんどん時間とともに減少しています。このような次世代シークエンサー時代に病気の原因は、「遺伝子」の病的変異に求められています。
歴史を振り返ると、大昔は目で見る、匂う、触れる、などして得られた異常に病因を求めてきました。
それが検査学の発達により、血液検査や病理組織所見に病因が求められてきたのがここ半世紀以上。
これからは、遺伝子変異とそれによるタンパクの異常に病因が求められていきます。

マクロ(目で見る)からミクロ(顕微鏡で見る)へ、ミクロから分子へ、分子からゲノムへ。

わたしたち医師は、遺伝子の変異がその産物であるタンパクの機能にどのような影響を及ぼすのか、それがどのように病気の発症につながるのか、を読み解く能力を求められる時代になったということです。そしてそれを駆使して患者さんにどういうことがおこりそうでそのため何をしないといけないのか、してはいけないのか、などといったことを説明しなければなりません。

昔、光学顕微鏡しかなかった時代から、電子顕微鏡ができてどんどんもっと細かいことがわかるようになり、考えなければならないこと、覚えなければならないことが格段に増えたように。

今、医学の世界に次世代シークエンサーがもたらした変革は、電子顕微鏡の登場以上のものでしょう

そしてそれはもともとの遺伝性疾患がなくても、たとえばがんは遺伝子の異常が複数加わって発症するのですが、その異常の種類により治療方法が異なる、つまり使用する薬剤が異なる、などの治療戦略の決定のためにも遺伝子の情報が大きな意味を持ってきています。
また、抗腫瘍薬自体も、遺伝子の情報から作られるようになってきていて、ますます遺伝子は医学の大事な分野になろうとしています。

昔は、病理組織学的に分けられていたものが、どんどん遺伝子が病的かどうかやどういう病的変異があるかで分類されていくようになる。

近未来は臨床遺伝学はもっとずっと重要で幅が広く奥が深い学問となるでしょう。
私たち遺伝専門医は、そのフロントラインで急速な技術革新によりもたらされる利益を患者さんに還元し、「害」を軽減する必要があります。

昔は、科学技術の進歩は『善』ととらえられていたのですが。悪もあることを原爆は教えてくれました。
シークエンシング技術の進歩で一番の問題は、受精胚がゲノム編集されてしまうことや、異常があると判ったら何でも中絶するという風潮を助長してしまうことでしょう。

もちろん、出生前診断の対象となっている疾患たちもあります。
しかし。我々はもっと慎重に考える必要があるのです。

どういう疾患を出生前診断の対象にしていくのか、を。

チェルノブイリの原発事故は実に200万の人工妊娠中絶を誘発しました。
福島の原発事故でも中絶が増えました。

完璧な遺伝子の子供が欲しいので今回は産まない、という理由が述べられていました。

しかし。完璧な遺伝子などないのです。

これが今、現場で第一線にたっている医師たちにも理解できません。
医師たちに理解できないものは国民はもっと理解できません。

遺伝医学は次世代シークエンサーの進歩に翻弄されて、臨床現場が混乱しています。
そんな混乱した現場で、われわれ遺伝専門医は患者さんとご家族の利益の最大化と不利益の最小化を図るべくもがいています。

今までなかったものができ
判らなかったことがわかるようになったばかりということは
答えがない世界だからです。

技術革新の最先端を歩むことを運命づけられている臨床遺伝専門医たち。

われわれは、医療倫理学や医学の判例、医療にまつわる法律学など幅広く医療の周辺の学問も学びます。
医学だけでは解決できない問題に立ち向かうためです。

平成30年度の医学部医学科のコアカリキュラムに採用されたばかりのこの新しくて、しかし染色体の時代からすると古くて、非常に重要な医学の分野を専門的におさめた臨床遺伝専門医たちを、国民の皆さまはどうか何をしているのか少し知ってください。
よろしくお願いいたします。

遺伝専門医(臨床遺伝専門医)とは?

臨床遺伝専門医の役割とは、可能であれば病因を明らかにし、ケアと管理を改善し、家族に遺伝カウンセリングを提供することです。基本的な領域の診療科の専門医を取得したのちに、さらに3年以の修練を経て認定試験の受験資格を得ることができます。

専門医とは?

それぞれの診療領域における適切な教育を受けて、十分な経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに先端的な医療を理解し情報を提供できる医師と定義されます。

臨床遺伝学専門医の役割

臨床遺伝専門医の役割とは、可能であれば病因を明らかにし、ケアと管理を改善し、家族に遺伝カウンセリングを提供することです。
近年、臨床医が利用できる新たな診断の選択肢が増加しています。
評価計画を決定するにあたり、臨床遺伝学者は、利用可能な検査および可能な診断のリストを、コスト、実用性、および期待される収率の問題と、絶えず拡大しているものとのバランスをとる作業を担っています。これらの考慮事項は、治療の機会、転帰の改善、および家族に対する特異的な再発リスク情報などの診断の潜在的な利益とさらに均衡をとる必要があります。ここに示したガイドラインは、最新のエビデンスに基づいた病因の段階的評価を概説するものである。引用される証拠のほとんどは中規模から大規模のケースシリーズによるものですが、一部はより大規模な集団ベースの研究によるものです。

臨床遺伝専門医制度について

臨床遺伝専門医制度委員会www.jbmg.jp/jbmg/index.html

臨床遺伝専門医は遺伝に関する2つの学会が共同で認定しています。
以下、引用します。

遺伝医学研究の進展に伴い、遺伝子情報の医療への導入は不可避な時代となってまいりました。
臨床遺伝専門医はすべての診療科からのコンサルテーションに応じ、適切な遺伝医療を実行するとともに、各医療機関において発生することが予想される遺伝子に関係した問題の解決を担う医師であり、次項の能力を有することが期待されています。

1)遺伝医学についての広範な専門知識を持っている。
2)遺伝医療関連分野のある特定領域について、専門的検査・診断・治療を行うことができる。
3)遺伝カウンセリングを行うことができる。
4)遺伝学的検査について十分な知識と経験を有している。
5)遺伝医学研究の十分な業績を有しており、遺伝医学教育を行うことができる。

遺伝専門医制度委員会より引用いたしました.

以下、わかりやすく説明しましょう!

臨床遺伝専門医は遺伝診療に従事する医師がもつ専門医資格です。

基本的な領域の診療科(内科、外科、産婦人科、小児科など)の専門医を取得したのちに、さらに3年以上遺伝診療を遺伝専門医制度委員会の修練コースにのっとって研鑽することで認定試験の受験資格を得ることができます。
資格試験には筆記試験はもとより、遺伝カウンセリングの実技試験もあります。
なかなかの難関資格なので医師33万以上いるのですが、臨床遺伝専門医は1200人程度となっています。

遺伝が関係する疾患は、単一遺伝子疾患だけで5000程度あります。
それ以外にも、ミトコンドリア遺伝、多因子遺伝といった複雑な遺伝形式、さらには遺伝子ではなく遺伝子の修飾のされ方が遺伝するというエピジェネティクスなどどんどん科学の進歩とともに遺伝性疾患は複雑化しており、もはや産婦人科や小児科だけで扱えるものではありません。
つまり診療科横断的に、すべての診療科に関係するのが遺伝性疾患なのです。
このため、臨床遺伝専門医には、あらゆる診療科からの遺伝相談に応じる適切な技量が必要で、そして予想される疾患とそれに関係する遺伝子を想定して検査し、さらには出てきた検査結果から遺伝子の変異が見つかった場合には、それが病的か病的でないか、その変異でどのような遺伝子の最終産物であるタンパクの変異が起こるのか起こらないのか、病的な場合は次の世代への影響がどのように及ぶのかなどの極めてセンシティブな内容を全部責任をもって患者に説明する技術を必要としています。

例えば知的障害。
例えば筋ジストロフィー。
たとえば脊髄小脳失調症。

いろんな疾患たちを診療し、患者さんだけではなく家族の問題を共に真摯に考えるのが臨床遺伝専門医です。
具体的な仕事内容などは以下の関連記事でご確認ください。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号