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COL2A1遺伝子とは?II型コラーゲンをつくる設計図と、関わる病気のすべて

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

COL2A1遺伝子は、軟骨・眼・関節などをかたちづくる「II型コラーゲン」というタンパク質の設計図です。この遺伝子に変化(変異)が起こると、低身長や骨格の変形、強度近視、関節の早期の傷みなどを特徴とする病気の一群が生じます。重症度は、生まれる前後に命に関わる重いものから、大人になって関節の痛みとして現れる軽いものまで、とても幅広いのが特徴です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 COL2A1遺伝子・II型コラーゲン・骨系統疾患
臨床遺伝専門医監修

Q. COL2A1遺伝子とはどんな遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 軟骨を中心に、眼や関節をつくる「II型コラーゲン」の設計図となる遺伝子です。第12番染色体にあり、ここに変異が起こると低身長・骨格の変形・強度近視・関節の障害などを特徴とする「II型コラーゲン異常症」と総称される一群の病気が生じます。同じ遺伝子の変異でも、変異のタイプによって重症度が大きく変わるのが最大の特徴です。

  • 遺伝子の基本 → 第12番染色体・54個のエクソンからなる、II型コラーゲンの設計図
  • つくられるタンパク質 → 軟骨・眼・関節を支える三重らせん構造のコラーゲン
  • 変異のしくみ → 「優性阻害効果」と「ハプロ不全」という2つの異なる経路
  • 関連する病気 → 致死的な骨系統疾患からスティックラー症候群まで幅広く
  • 検査と最新研究 → 遺伝子検査の選択肢と、遺伝子治療・ASOなど治療の最前線

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1. COL2A1遺伝子とは:体の「土台」をつくる設計図

COL2A1遺伝子(collagen type II alpha 1 chain)は、私たちの体の中で「II型コラーゲン」というタンパク質をつくるための設計図にあたる遺伝子です。II型コラーゲンは、軟骨・関節・眼の硝子体(しょうしたい)・内耳などの組織で主役となるタンパク質で、とくに骨が伸びて成長していくしくみに欠かせません[2]

この遺伝子は第12番染色体の長腕(12q13.11〜12q13.2)にあり、31.5キロ塩基対以上の広い範囲にわたって54個のエクソン(タンパク質の情報を担う部分)が並ぶ、たいへん複雑な構造をしています[1]。この複雑さは、強くて精密なコラーゲンをつくるために、進化の中で獲得されたものと考えられています。

💡 用語解説:細胞外マトリックスと内軟骨性骨化

細胞外マトリックス(さいぼうがいマトリックス)とは、細胞と細胞のあいだを埋めて組織を支える「足場」のことです。鉄筋コンクリートのコンクリート部分のようなもので、コラーゲンはその主成分です。

内軟骨性骨化(ないなんこつせいこっか)とは、まず軟骨で骨の「ひな型」がつくられ、それが本物の骨に置き換わりながら長く伸びていくしくみのこと。手足の長い骨は、このしくみで成長します。II型コラーゲンはこの軟骨のひな型の主役なので、COL2A1に問題が起こると骨の成長そのものに影響が出ます。

COL2A1遺伝子に病気の原因となる変異が起こると、生まれる前後に命に関わる重い骨系統疾患から、大人になってからの早期の変形性関節症まで、連続した幅をもつ病気の集まりが生じます。これらは現在、「II型コラーゲン異常症(Type II Collagenopathies)」という一つのスペクトラム(連続体)としてまとめて理解されています[1]

2. II型コラーゲンの構造と体内での役割

COL2A1遺伝子からつくられるのは、α1(II)鎖と呼ばれる長い1本の鎖です(アミノ酸約1,487個、分子量およそ134kDa)[2]。体の中のII型コラーゲンは、この同じα1(II)鎖が3本より集まって、縄のように1本にねじれた構造をとります。

💡 用語解説:三重らせん(トリプルヘリックス)

コラーゲンの強さの秘密は、3本の鎖がきっちり寄り合った「三重らせん」という構造にあります。鎖の中では「グリシン(Gly)-X-Y」というアミノ酸の並びが規則正しく繰り返されています。

このうちグリシンはすべてのアミノ酸の中でいちばん小さいため、3本がぴったり寄り合う「らせんの中心」に収まれます。グリシンが規則正しく中心に並ぶことが、丈夫な三重らせんを保つための絶対条件です。後で述べるように、ここのグリシンが別のアミノ酸に置き換わると、構造が大きく乱れて重い病気の原因になります。

三重らせんの両端には、らせんになっていない短い部分「テロペプチド」(N末端側19個・C末端側27個のアミノ酸)があり、3本の鎖が正しく組み上がるときの「合図」の役割をします。また、細胞の外に出たあとで切り離されるC末端側の部分はコンドロカルシンと呼ばれ、軟骨の石灰化(カルシウムの沈着)を調整する働きをもちます[2]

完成したII型コラーゲンは、細胞の外で自然に集まって細い線維(フィブリル)をつくり、たがいに結びついて強い網目状のネットワークを形づくります。このネットワークは、大人の硝子軟骨に含まれるコラーゲンの約95%、乾燥重量のおよそ60%を占め、関節にかかる強い圧力やねじれの力に耐える土台になっています[2]

II型コラーゲンは単なる「支え」ではなく、軟骨の細胞に対して増えたり育ったりする合図を送るシグナル分子としても働きます。成長板(骨が伸びる部分)で軟骨細胞が秩序よく並んで成熟していく過程を守る、いわば現場監督のような役割も担っているのです。

3. COL2A1変異が病気を起こすしくみ

これまでの大規模な解析では、663人の患者さんから460種類を超える病的バリアント(病気の原因となる変異)が報告されています[4]。これらの変異が病気を起こすしくみは、大きく分けて2通りあり、この違いが重症度の幅を生み出しています。COL2A1は常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。

しくみ① 優性阻害効果 ―― 「壊れた部品」が全体を巻き込む

報告された変異のうち最も多く(70%以上)、かつ最も重い病気を起こすのが、ミスセンス変異による「優性阻害効果」です[3]。さらにその多く(およそ63%)は、三重らせんの中心に並ぶ大切なグリシンが、別の大きなアミノ酸に置き換わってしまう変異です。

💡 用語解説:ミスセンス変異

DNAの文字が1つ変わることで、設計図が指定するアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変異です。タンパク質の「かたち」が変わってしまうため、機能に影響します。COL2A1では、このミスセンス変異が最も重い病気の原因になります。

💡 用語解説:優性阻害(ドミナントネガティブ)効果

変異でつくられた異常な鎖が、正常な鎖の働きまで「邪魔してしまう」現象です。II型コラーゲンは3本の鎖が集まってできるため、正常な鎖と異常な鎖がランダムに混ざると、計算上およそ8本に7本(約87.5%)に少なくとも1本の異常な鎖が混じってしまいます。

その結果、できあがるコラーゲンの大部分が不安定になります。正常な鎖が半分あっても、異常な鎖が全体を巻き込んで台無しにしてしまうため、症状が重くなりやすいのです。

しくみ② ハプロ不全 ―― 「部品の数が足りない」

一方、ナンセンス変異や欠失・挿入のように、設計図の途中で文章が止まってしまう変異の場合は、できそこないのmRNAが細胞の品質管理システムによって素早く分解されます(NMDと呼ばれます)。

💡 用語解説:ハプロ不全とNMD

NMD(ナンセンス変異依存mRNA分解)とは、設計図の途中で止まってしまった不良品のmRNAを、細胞が見つけて壊してしまうしくみのことです。これにより、異常なタンパク質はそもそもつくられません。

その代わり、正常な遺伝子1本ぶんしか働かないため、II型コラーゲンの量が健康な人の半分くらいに減ります。この「量が足りない」状態をハプロ不全といいます。異常な部品で全体を壊す優性阻害効果とは違い、細胞へのダメージが小さいため、比較的軽い病気(スティックラー症候群など)になりやすいのが特徴です。

優性阻害効果の場合、折りたためない異常なコラーゲンが細胞の中(小胞体)にたまり、「小胞体ストレス(ERストレス)」という強い負担を細胞にかけます。これが長く続くと、成長板の軟骨細胞が増えにくくなり、最終的には細胞が死んでしまいます。その結果、骨が長く伸びられず、重い低身長や骨格の変形につながるのです[3]

💡 用語解説:小胞体(しょうほうたい)と小胞体ストレス

小胞体(ER)とは、細胞の中にある「タンパク質をつくって正しい形に折りたたむ工場」のような場所です。つくられたコラーゲンは、ここでていねいに組み立てられてから細胞の外へ送り出されます。

ところが、うまく折りたためない異常なコラーゲンがこの工場の中にたまると、工場がパンクしたような状態になります。これが「小胞体ストレス(ERストレス)」です。細胞はこれを立て直そうとUPR(折りたたみ不全タンパク質応答)というしくみを働かせますが、負担が大きすぎると最終的に細胞が死んでしまい、骨の成長が妨げられます。

col2a1変異の分子病理学Ⅱ型コラーゲン異常症のメカニズム

正常な軟骨細胞(左)では、プロコラーゲンが正しく三重らせんを形成し、細胞外へ分泌されて丈夫な細線維ネットワークをつくります。一方、ミスセンス変異をもつ細胞(右)では、異常なα1(II)鎖が混ざって折りたたみ異常が起こり、小胞体内に蓄積します。これが強い小胞体ストレス(UPR)を引き起こし、細胞のアポトーシスやマトリックスの脆弱化をまねきます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「同じ遺伝子なのに、なぜ重さが違うの?」へのお答え】

遺伝カウンセリングで「COL2A1の変異」と聞くと、多くの方が「では、どのくらい重いのですか」と尋ねられます。実はその答えのカギは、変異の場所と種類にあります。三重らせんの中心にあるグリシンが置き換わる変異は、正常な鎖まで巻き込んで重症になりやすく、設計図が途中で止まる変異は量が減るだけで比較的軽くなりやすい、という大きな傾向があります。

もちろん例外もあり、同じ変異でもご家族の中で症状の出方が違うことも珍しくありません。だからこそ、検査結果の数字だけで将来を決めつけず、一人ひとりの状態をていねいに見ていくことが大切だと考えています。

4. COL2A1に関連する病気(II型コラーゲン異常症)

COL2A1の変異による病気は、国際的な骨系統疾患の分類に沿って、重症度と発症の時期によって整理されています。同じ遺伝子から生まれる、ひとつながりのスペクトラムです[1]

重症度 代表的な病気 主な特徴
致死的・最重症(周産期) II型軟骨無発生症/低軟骨発生症、扁平椎異形成症トーランス型 極端な四肢の短さ、極小の胸郭、骨化の遅れ。多くは出生前後に呼吸不全
重症〜中等症(新生児期) 先天性脊椎骨端異形成症(SEDC)、クニースト骨異形成症、SEMD 体幹が短い重い低身長、頸椎の不安定性、強度近視・網膜剝離
中間〜軽症(小児〜成人期) スティックラー症候群、チェコ異形成症、早期発症型の変形性関節症 身長は軽度低下〜正常。関節の痛みや眼の合併症が中心に

なお、中年期に股関節が壊れる特発性大腿骨頭壊死症や、小児期のペルテス病の一部にも、COL2A1の関与が報告されています。II型コラーゲンのわずかな弱さが、長年の機械的なストレスのもとで関節の傷みにつながると考えられています。

▼ COL2A1が関わる主な病気(くわしい解説ページ)

II型軟骨無発生症/低軟骨発生症最も重い周産期発症型扁平椎異形成症 トーランス型重い扁平椎を特徴とする型先天性脊椎骨端異形成症(SEDC)体幹の短い低身長と頸椎不安定性クニースト骨異形成症ダンベル状の長管骨と眼の合併症SEMD ストルドウィック型骨幹端の広がりが目印脊椎骨端異形成症 スタネスク型COL2A1関連の脊椎骨端異形成脊椎骨幹端異形成症 アルジェリア型脊椎と骨幹端の異形成末梢性脊椎異形成症短指症など四肢末梢の異常を伴うチェコ異形成症正常身長で関節痛が中心の型軽度軟骨異形成を伴う変形性関節症早期発症型の関節症ペルテス病小児期の大腿骨頭の壊死特発性大腿骨頭壊死症中年期に発症する股関節の壊死スティックラー症候群 I型最も頻度の高いCOL2A1関連疾患スティックラー症候群 I型(非症候性眼型)眼の症状が主体となる型

5. スティックラー症候群と眼の合併症 ―― 失明を防ぐために

スティックラー症候群は、II型コラーゲン異常症の中で最も頻度が高い病気で、推定で1万人に1人程度とされています。全身の結合組織に影響し、症状の出方がとても幅広いのが特徴です[7]。全体の約80%はCOL2A1の変異による「I型」で、その多くは前に述べたハプロ不全によって起こります。

主な症状は、強度近視・特徴的な硝子体の異常・若年での白内障や緑内障・網膜剝離などの眼の問題、平坦な顔つき・小さなあご・口蓋裂(ピエール・ロバン連鎖)、難聴、関節のやわらかさや若いうちからの関節症など、複数の臓器にわたります。

予防的レーザー治療が「失明の連鎖」を断ち切る

スティックラー症候群は、子どもの網膜剝離(もうまくはくり)の最も多い原因の一つです。無治療では最大で約50%の患者さんが網膜剝離を起こし、その70〜80%は両眼に進むとされ、若い世代の失明の大きなリスクになっています[7]

そこで近年、網膜の周辺部を360度ぐるりと囲むようにレーザーをあてる予防的レーザー治療(セルクラージュ予防)の効果が、強いエビデンスで示されました。2025年に発表されたメタ解析(225名・合計400眼を対象)では、その効果が次のように裏づけられています[6]

予防的レーザー治療による網膜剝離の抑制効果

2025年メタ解析(225名・400眼)における網膜剝離の発生率

予防的レーザー 未施行

36.0%

予防的レーザー 施行

6.6%

※ 網膜の周辺部を360度囲む予防的レーザーを行った眼では、行わなかった眼に比べて網膜剝離のリスクが大幅に低下しました(リスク比0.23、p<0.00001)。

このように、予防的レーザーを行わなかった眼の網膜剝離は36.0%に達したのに対し、行った眼ではわずか6.6%に抑えられました。米国眼科学会(AAO)も、スティックラー症候群の患者さんへの360度予防的レーザー治療を推奨しています。なお、2025年後半にはさらに大規模な解析も報告されており、予防の有効性は一貫して支持されています。早期の正確な診断が、視力を守る第一歩になるのです。

6. COL2A1を調べる遺伝子検査

COL2A1に関わる検査は、「生まれる前(妊娠中)」と「生まれた後」で大きく分かれます。診断は出生前だけのものではありません。それぞれの目的をきちんと分けて理解することが大切です。

出生前(妊娠中)の検査

当院のNIPT(新型出生前診断)のうち、より広い範囲を調べるプランでは、単一遺伝子の対象にCOL2A1が含まれています。ただしNIPTはあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、確定診断ではありません。陽性が疑われる場合の確定診断は、羊水検査・絨毛検査によって行われます。

出生後の検査

生まれた後に低身長や骨格・関節の症状などがみられる場合は、関連する遺伝子をまとめて調べるパネル検査や、より網羅的な全エクソーム検査が用いられます。COL2A1は、これらの検査の対象に含まれています。

7. 最新の治療研究の最前線

これまでII型コラーゲン異常症の治療は、手術(脊椎の固定や関節の置換、レーザー治療など)による対症療法が中心でした。しかし近年、病気の根本原因に直接はたらきかける「疾患修飾療法」の研究が、力強く進んでいます。

  • 化学シャペロン:細胞の中にたまる「折りたためないコラーゲン」を手助けする低分子の薬。FDA承認薬でもある4-フェニル酪酸(4-PBA)などが、小胞体ストレスをやわらげ細胞死を抑えることが、患者さん由来の細胞やマウスで示されています[5]
  • 軟骨をねらった遺伝子治療の運び屋:血管がなく硬い軟骨の奥まで薬を届けるのは難題でしたが、II型コラーゲンに結びつく「WYRGRL」というペプチドを使って、骨や軟骨に選択的に届ける技術が開発されています。
  • アンチセンス核酸(ASO):正常な遺伝子は残したまま、異常なほうだけを選んで黙らせる治療。重い「優性阻害効果」を、比較的軽い「ハプロ不全」の状態にやわらげられる可能性があります。
  • 遺伝子治療「INS-101」:フランスのInnoSkel社が、II型コラーゲン異常症を対象とした全身投与型の遺伝子治療を開発中です。マウスで成長板の機能回復が示され、現在は将来の臨床試験に向けた自然歴観察研究「ROCKET試験」(0か月〜12歳の小児が対象)が進行しています。

8. 遺伝カウンセリングとよくある誤解

COL2A1関連の病気が見つかったとき、あるいは家族歴が気になるとき、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが力になります。COL2A1は常染色体顕性(優性)遺伝のため、患者さんご本人が子どもをもつ場合、理論上は50%の確率で受け継がれます。一方で、ご両親に変異がなく、お子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)のケースも多くみられます。

誤解①「COL2A1の変異=必ず重症」

重症度は変異のタイプと場所で大きく変わります。同じ遺伝子でも、致死的な型から成人期の軽い関節症まで連続しており、一律ではありません。

誤解②「骨の病気だから眼は関係ない」

II型コラーゲンは眼の硝子体にも多く存在します。とくにスティックラー症候群では網膜剝離による失明リスクがあり、眼科の定期チェックが重要です。

誤解③「両親が健康だから遺伝ではない」

多くは新生突然変異(de novo変異)で、ご両親に同じ変異がないことも珍しくありません。「親が健康だから遺伝子の病気ではない」とは限らないのです。

誤解④「検査で見つけるほど安心」

表現型の幅が広い病気では、出生前に見つけることが常に利益になるとは限りません。検査を受けるかどうかは、十分な情報のもとでご家族が決めることです。

医師の役割は、特定の検査や選択を勧めることではなく、正確でかたよりのない情報をお伝えし、最終的な決定はご家族に委ねることです。これは私たちが大切にしている、中立的・非指示的な姿勢です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「正しく知ること」が、いちばんの備えになる】

COL2A1という一つの遺伝子が、命に関わる重い病気から大人の関節の傷みまで、これほど幅広い病気に関わっていることに驚かれるかもしれません。けれども、しくみを正しく知ることは、決して不安をあおるためではありません。たとえばスティックラー症候群では、早く診断して予防的なレーザー治療を受けることで、失明という最悪の結果を大きく減らせることが分かっています。

遺伝子の情報は、こわいものではなく、お子さんやご家族の未来を準備するための道しるべです。私が遺伝子の情報発信を続けているのは、「正しく知る」ことが、そのまま「正しく備える」ことにつながると信じているからです。気になることがあれば、どうぞ専門医にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. COL2A1遺伝子はどんな働きをしていますか?

軟骨を中心に、眼の硝子体・関節・内耳などをつくる「II型コラーゲン」というタンパク質の設計図です。とくに、軟骨のひな型から骨が伸びていくしくみ(内軟骨性骨化)に欠かせない遺伝子で、第12番染色体にあります。

Q2. COL2A1の変異で起こる病気は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝のため、患者さんご本人が子どもをもつ場合、理論上は50%の確率で受け継がれます。一方で、ご両親に変異がなくお子さんで初めて生じる新生突然変異(de novo変異)も多くみられます。詳しくは臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q3. 同じ遺伝子なのに、なぜ病気の重さがこんなに違うのですか?

変異のタイプが大きく関係します。三重らせんの中心にあるグリシンが置き換わるミスセンス変異は、正常な鎖まで巻き込む「優性阻害効果」で重くなりやすく、設計図が途中で止まる変異はコラーゲンの量が減るだけの「ハプロ不全」で比較的軽くなりやすい傾向があります。

Q4. スティックラー症候群では、なぜ眼の検査が大切なのですか?

スティックラー症候群は子どもの網膜剝離の最も多い原因の一つで、無治療では最大で約50%に網膜剝離が起こるとされます。予防的なレーザー治療によってそのリスクを大きく下げられることが報告されているため、早期診断と眼科での定期的なチェックがとても重要です。

Q5. COL2A1は出生前に調べられますか?

当院のNIPTのうち、より広い範囲を調べるダイヤモンドプラン・インペリアルプランでは、単一遺伝子の対象にCOL2A1が含まれます。ただしNIPTはスクリーニング(ふるい分け)であり、確定診断は羊水検査・絨毛検査で行われます。受けるかどうかはご家族で十分に話し合ってお決めください。

Q6. 生まれた後にCOL2A1を調べるには、どんな検査がありますか?

低身長や骨格・関節の症状などがある場合は、低身長遺伝子パネル検査全エクソーム検査(WES)が用いられます。いずれもCOL2A1を含んでおり、症状や家族歴に応じて適切な検査を選びます。

Q7. COL2A1関連の病気に、根本的な治療はありますか?

現在の治療は手術などの対症療法が中心ですが、化学シャペロン(4-PBAなど)、軟骨をねらった遺伝子治療、異常な遺伝子だけを黙らせるアンチセンス核酸(ASO)、InnoSkel社の遺伝子治療「INS-101」など、根本にはたらきかける研究が進んでいます。将来の治療につながると期待されています。

Q8. 大人になってからの関節の痛みも、COL2A1と関係しますか?

はい、COL2A1の軽い変異は、若いうちから始まる変形性関節症や、特発性大腿骨頭壊死症などの一部にも関わると報告されています。関節の早期の傷みが家族内で続く場合などは、遺伝的な背景の評価が役立つことがあります。

🏥 遺伝子・骨系統疾患の検査・遺伝カウンセリングについて

COL2A1をはじめとする遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • [1] Nishimura G, et al. Type II Collagen Disorders Overview. GeneReviews®, University of Washington. [GeneReviews / NCBI]
  • [2] MedlinePlus Genetics. COL2A1 gene. U.S. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [3] COL2A1 Gene Mutations: Mechanisms of Spondyloepiphyseal Dysplasia Congenita. PMC. [PMC6900288]
  • [4] Integrated analysis of COL2A1 variant data and classification of type II collagenopathies. Clin Genet. 2019. [PubMed 31758797]
  • [5] COL2A1 mutations and type II collagenopathies: molecular mechanisms and iPSC-based modeling of cartilage disorders. ProBiologists. [ProBiologists]
  • [6] Camp DA, et al. Laser prophylaxis for retinal detachment in Stickler syndrome: A systematic review and meta-analysis. Acta Ophthalmol. 2025. [PubMed 40370211]
  • [7] Robin NH, et al. Stickler Syndrome. GeneReviews®, University of Washington. [GeneReviews / NCBI]
  • [8] OMIM. COL2A1; Collagen, Type II, Alpha-1. *120140. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [9] A Natural History Study in Children With a Type II Collagen Disorder (ROCKET / INS-101), Innoskel. ClinicalTrials.gov NCT05408715. [ClinicalTrials.gov]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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