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ペルテス病(レッグ・カルベ・ペルテス病・OMIM 150600)とは?原因・症状・進行・治療と遺伝(COL2A1)の関係

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

ペルテス病(レッグ・カルベ・ペルテス病)は、おもに3〜12歳の子どもの太もものつけ根の骨(大腿骨頭)への血流が一時的に途絶え、骨の一部が壊れてしまう病気です。原因の多くははっきりしない「特発性」ですが、一部にはCOL2A1という遺伝子が関わる家族性のタイプもあります。多くは数年かけて自然に治っていきますが、治る過程で骨の形をいかに守るかが、将来の股関節の健康を大きく左右します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🦴 小児股関節・COL2A1・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. ペルテス病とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 子どもの大腿骨頭(太もものつけ根の骨頭)への血流が一時的に途絶え、骨が壊死→修復していく病気です。男の子に多く、発症のピークは4〜8歳ごろ。多くは自然な経過のなかで治癒へ向かいますが、骨頭の変形を防ぐ「Containment(包み込み)」という考え方の治療が予後を左右します。原因の多くは特発性(多因子性)ですが、家族性・両側性のケースではCOL2A1遺伝子が関わることがあります。

  • 疾患の定義 → OMIM 150600、Orphanet ORPHA:2380、3〜12歳に発症、男児に約3〜5倍多い
  • 原因 → 大腿骨頭の血流障害による無血管性壊死。多因子性で、一部はCOL2A1遺伝子変異が関与
  • 主な症状 → 股関節〜鼠径部の痛み(膝に放散することも)、足を引きずる(跛行)、関節の動きの制限
  • 進行と予後 → Waldenström分類の4病期を数年かけて経過。発症年齢と壊死範囲が予後を決める
  • 診断・検査 → X線・MRI、Catterall/Herring/Stulberg分類。家族性ではCOL2A1を含む遺伝子検査

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1. ペルテス病とは:定義と疫学

ペルテス病(レッグ・カルベ・ペルテス病、LCPD)は、成長期の子どもの大腿骨頭——太もものつけ根にある、骨盤のソケットにはまり込む球状の骨——への血流が一時的、あるいは持続的に途絶えることで、骨が酸素や栄養を受け取れなくなって壊れてしまう(壊死する)病気です。国際的な遺伝病データベースOMIMではエントリ番号150600として登録されています。

💡 用語解説:無血管性壊死(むけっかんせいえし)

骨に酸素や栄養を運ぶ血液の流れが止まることで、骨の細胞が死んでしまう状態のことです。「壊死(えし)」とは組織が死ぬこと。骨も生きた組織なので、血が通わなくなると一部が壊れてしまいます。ペルテス病は、ばい菌の感染ではなく血流の問題で起こるため「無菌性」とも呼ばれます。

この病気は時代とともにさまざまな呼び名で呼ばれてきました。「ペルテス病」のほか、骨頭が平たくつぶれることから「扁平股(へんぺいこ/Coxa plana)」、若い時期の股関節の骨軟骨の病気という意味で「若年性股関節・骨盤骨軟骨症」などとも表現されます。発見の歴史をたどると、レントゲン(X線)が発見された1895年以降にようやく、当時よく見られた股関節結核などと区別できるようになった、比較的「新しく認識された」病気でもあります。

どんな子どもに、どのくらい起こるのか

ペルテス病は3歳から12歳の間に発症し、とりわけ骨の成長が活発な4歳から8歳に発症のピークがあります。最も特徴的なのは、はっきりとした男女差です。男の子は女の子に比べて約3〜5倍多く発症します。発生頻度は地域や人種によって幅がありますが、15歳未満の子ども10万人あたり最大29人ほどと推計され、白人(コーカソイド)の集団に多いと報告されています。

また、ペルテス病の子どもは、同年代のお子さんに比べて骨の成熟が遅れていたり、身長が低めだったりする傾向があることも知られています。

発症する股関節は、片側だけのことが大多数です。ただし、全体の10〜20%では両側に発症します。両側性のケースでは、その股関節だけの局所的な血流障害というより、お子さんの体質(遺伝子の変化や血液の固まりやすさなど)といった全身的な背景が関わっている可能性があり、後で述べる別の病気(多発性骨端異形成症など)との見分けも重要になります。

2. 原因とメカニズム:多因子性とCOL2A1遺伝子

大腿骨頭は、おもに「内側大腿回旋動脈」という血管の枝から血液を受け取っています。成長期にはこの血流ネットワークがまだ弱く、ここがふさがってしまうと骨頭が壊死を起こします。しかし、なぜ特定の子どもだけにこの血流障害が起こるのかは、ひとつの原因では説明しきれていません。現在の医学的なコンセンサスは、ペルテス病が「多因子性(いくつもの要因が重なって起こる)」の病気だという立場です。

重なり合うリスク要因

🏃 機械的ストレス

活発な時期の股関節への過度な負担や、運動による微小な外傷の積み重ねが、発達途上の細い血管を傷つける可能性があります。

🩸 血液の固まりやすさ

第V因子ライデン変異やプロテインC/S欠乏など、血栓ができやすい体質があると、骨頭への細い血管がふさがれやすくなります。

🍽️ 栄養・代謝

栄養不良や肥満は、軟骨や骨の正常な入れ替わりを妨げ、血流障害に対する組織の耐性を弱めると考えられています。

🚬 受動喫煙

タバコの煙に含まれるニコチンなどには強い血管収縮作用があり、末梢の細い血流を低下させ、ほかの要因と相乗的に働くと考えられています。

これらの要因が重なって限界を超えたとき、骨頭の細い血流が破綻し、壊死から再構築へという長いサイクルが始まると考えられています。

家族性のタイプとCOL2A1遺伝子

ペルテス病の多くは、家族歴のない孤発例(特発性)ですが、明らかに家族内で集まって発症するケースも数多く報告されています。こうした家族性のタイプは、多くが常染色体顕性(けんせい・優性)遺伝の形をとります。その解明の大きな突破口になったのが、II型コラーゲンをつくるCOL2A1遺伝子の変異の発見でした。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝

「常染色体」とは、性別を決めるX・Y以外の染色体のこと。「顕性(けんせい・以前は優性と呼ばれました)」とは、2本ある染色体のうちどちらか1本に変異があるだけで体質や症状として現れることをいいます。この場合、親から子へ受け継がれる確率は理論上50%です。遺伝形式について詳しくは遺伝形式の解説ページもご覧ください。

COL2A1遺伝子は、第12番染色体の長腕(12q13.11)にあり、54個のエクソン(タンパク質の設計図となる部分)からなる、約31.5kb(およそ31,500塩基対)にわたる大きな遺伝子です。この遺伝子がつくるII型コラーゲンは、関節の表面をおおう軟骨にもっとも多く含まれる構造タンパク質で、関節を滑らかに動かし、歩行や運動の衝撃を吸収する「クッション」の役割を担っています。

💡 用語解説:トリプルヘリックス(三重らせん)

コラーゲンは3本のひも(α鎖)がねじれ合った「三重らせん」という丈夫な構造をしています。この構造を保つには厳しいルールがあり、らせんの中心にくる3番目のアミノ酸は、いちばん小さくて邪魔にならないグリシンでなければなりません。これにより「グリシン−他−他」という規則的な繰り返しパターンができ、3本のひもがきっちり束ねられます。

もし遺伝子の変異によって、この大切なグリシンが体の大きな別のアミノ酸(セリンやアルギニンなど)に置き換わってしまうと、その出っ張り(バルジ)がじゃまをして、三重らせんがきれいに束ねられなくなります。その結果、できの悪いコラーゲンが軟骨に組み込まれ、関節が機械的なストレスに対してもろくなってしまうのです。

正常なII型コラーゲン

3本のひもが規則正しく束ねられ、丈夫な三重らせんに。軟骨はしっかり荷重を吸収できます。

変異したコラーゲン(グリシン置換)

グリシンが大きなアミノ酸に置き換わり、出っ張りが構造を乱す。軟骨がもろくなります。

COL2A1遺伝子のミスセンス変異でグリシンが別のアミノ酸に置き換わると、三重らせんにゆがみが生じ、関節軟骨がもろくなって、ペルテス病の素地となります。

💡 用語解説:ミスセンス変異・ナンセンス変異

ミスセンス変異とは、DNAの1文字が変わることで、設計図のアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形が変わり、機能に影響します(詳しくはミスセンス変異の解説)。

ナンセンス変異とは、途中に「終わりの合図(終止コドン)」ができてしまい、短く途切れたタンパク質しかつくれなくなる変異です(詳しくはナンセンス変異の解説)。

実際に報告された具体例として、中国の4世代にわたる家系研究があります。この家系ではペルテス病と特発性大腿骨頭壊死症(ANFH)の症状が混在しており、遺伝子解析の結果、エクソン29にある新しいミスセンス変異c.1888 G>A(p.Gly630Ser)が見つかりました。これはまさに三重らせんの中心でグリシンをセリンに置き換える変異で、骨頭が平たくなる「扁平股」などのペルテス病に特有のレントゲン所見を引き起こしたと結論づけられています。このほか、p.Val983Ile、p.Gly1014Arg、ナンセンス変異のp.Arg653Ter、別の家族性ペルテス病で見つかったp.Gly1170Serなど、さまざまなCOL2A1変異が報告されています。

これらのCOL2A1変異は、症状が連続的に変わる「II型コラーゲン異常症」という大きな疾患スペクトラムを形づくります。重い順に、生命にかかわる軟骨無発生症2型から、先天性脊椎骨端異形成症(SEDC)クニースト異形成症、難聴や網膜剥離を伴うスティックラー症候群1型、そして比較的局所にとどまるペルテス病や大腿骨頭壊死症(ANFH)まで、幅広く含まれます。

ただし、ここで強調しておきたい大切な点があります。すべてのペルテス病でCOL2A1変異が見つかるわけではありません。現在は、COL2A1変異を「唯一の原因」と考えるのではなく、たくさんあるペルテス病のなかで「特定の家族性・遺伝性のタイプ」を説明する要因のひとつ、と理解するのが一般的です。

3. 主な症状

ペルテス病は急に始まるのではなく、数週間から数か月かけてじわじわと進みます。発熱やケガの心当たりがないのに、なんとなく足を引きずる、といった形で気づかれることが多いのが特徴です。

💡 用語解説:放散痛(ほうさんつう)

痛みの原因がある場所とは別のところに痛みを感じる現象です。股関節と膝は同じ神経(閉鎖神経)の支配を共有しているため、股関節の病気なのに「膝が痛い」と感じることが頻繁にあります。これがペルテス病を見逃す大きな落とし穴になります。

  • 痛みと放散痛:主な痛みは股関節や足のつけ根ですが、しばしば太ももの前から膝にかけて放散します。「膝が痛い」とだけ訴える子の膝だけを診て、股関節の病気を見逃すことは避けたい点です。
  • 足を引きずる(跛行):痛みを避けようと患側に体重をのせる時間を短くする歩き方になります。進行すると、おしりの筋肉(中殿筋)の力が弱まり、骨盤が傾くトレンデレンブルグ歩行など、目立つ引きずり足になります。
  • 関節の動きの制限:とくに脚を外側に開く動き(外転)と内側にひねる動き(内旋)が、早い段階から強く制限されるのがペルテス病の特徴です。
  • 筋肉のやせ・脚の長さの違い:痛い足を無意識にかばうことで太ももの筋肉がやせ、骨頭がつぶれて高さが減ると、患側の脚が短くなることがあります。
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「膝が痛い」の裏に股関節が隠れている】

小さなお子さんが「膝が痛い」と言うとき、つい膝だけに目が向きがちです。けれども、股関節と膝は同じ神経でつながっているため、股関節の病気が膝の痛みとして出ることが本当によくあります。ペルテス病はその代表格です。

数週間以上つづく原因不明の膝の痛みや足を引きずる様子があれば、膝だけでなく股関節も診てもらうことを強くおすすめします。早く股関節に目が向くかどうかが、その後の経過を大きく変えることがあるからです。

4. 鑑別診断:見分けるべき似た病気

足を引きずる・股関節が痛い子どもの診察では、似た症状の重大な病気をひとつずつ除外していくことが欠かせません。代表的な3つを紹介します。

単純性股関節炎

子どもの急な股関節痛・跛行のもっとも多い原因。かぜなどのウイルス感染の数週間後に起こり、数日〜2週間以内に後遺症なく自然に治るのが特徴で、骨や軟骨は壊れません。

注意:初期はペルテス病と区別が難しく、安静で様子を見ても痛みや跛行が続く・悪化する場合はMRI検査へ進みます。

化膿性股関節炎

関節の中に細菌が感染して膿がたまる緊急の病気です。急な発熱、触れるだけで激しく痛がる、足をまったく動かさない、といった様子がみられます。

見分け方:ペルテス病では血液検査の炎症反応(CRPなど)が大きく上がらないのに対し、化膿性では強く上がります。放置すると数日で軟骨が壊れるため、迅速な対応が必要です。

多発性骨端異形成症(MED)

COMP・SLC26A2・COL2A1などの遺伝子による骨格の病気。レントゲンで「両側のペルテス病」によく似た所見を示すことがあります。

見分け方:MEDは大腿骨頭だけでなく、骨の幹の端(骨幹端)や頸部にも広く異常が出ます。両側性のペルテス病と言われたら、常にMEDの可能性も考えるべきです。全身の骨格X線や遺伝子パネル検査が役立ちます。

5. 診断・病期分類と遺伝子検査

ペルテス病は、ある瞬間に壊死して終わる病気ではありません。血流が途絶え、壊死した骨が吸収され、新しい血管と骨が再構築されるまで、数年かけて変化しつづけるダイナミックなプロセスです。この進行を、X線やMRIの所見からWaldenström(ワルデンシュトレーム)分類の4つの病期に分けて把握します。どの病期にいるかは、治療のタイミングを決める重要な指針になります。

① 初期(壊死期)

血流が途絶え、骨が壊死。X線では異常が出にくく、MRIで早期の血流低下や骨髄のむくみを捉えます。

② 断片化期

最も危険な時期。死んだ骨が吸収され、骨頭がスカスカに。体重がかかるとつぶれやすくなります。

③ 再骨化期

血流が再開し、新しい骨ができ始めます。骨頭が形を取り戻そうとする修復の時期です。

④ リモデリング期

骨が丈夫な構造へ置き換わり、最終的な形が決まります。この形が将来を左右します。

ペルテス病は数年をかけて4つの病期を経過します。とくに「断片化期」での力学的な負担のコントロールが、将来の関節の形を決定づけます。

重症度と予後を測る3つの分類

保存療法を続けるか、手術に踏み切るかという大きな判断のために、国際的に標準化された分類が使われます。よく使われるのが次の3つです。

① Catterall(キャテラル)分類は、骨頭の壊死がどのくらい広いかをタイプI〜IVの4段階で評価します。タイプIは壊死が25%以下で予後良好、タイプIVは骨頭全体に及び、もっとも予後不良の群です。壊死範囲が広いほど、骨がつぶれて変形するリスクが高まります。

② Herring(ヘリング)外側柱分類は、骨頭の外側1/4〜1/3の部分(外側柱)の高さに注目します。ここは体重を支えるいちばん大事な「柱」で、これが保たれているかどうかが、骨頭全体のつぶれを防げるかの決め手になります。

Herring分類 外側柱の高さ 予後の目安
A群 高さが保たれている(100%) 柱が頑丈で、つぶれるリスクは低く、良好な経過をたどることが多い。
B群 つぶれが50%未満 軽〜中等度のつぶれ。最終的な予後は発症時の年齢に大きく左右される境界群。
C群 つぶれが50%以上 外側柱が大きくつぶれ、骨頭が外へずれやすい予後不良群。

③ Stulberg(スタルバーグ)分類は、病気が落ち着いた後(成人期)の骨頭の最終的な形と、受け皿(寛骨臼)とのかみ合いを評価し、将来の変形性関節症(OA)のリスクを予測します。

Stulberg分類 骨頭の形・かみ合い 長期的な見通し
グループ I・II ほぼ正常で球状の骨頭 後遺症はほぼなく、関節機能は良好に保たれる。
グループ III 球形ではないが、受け皿も適応して「かみ合い」は保たれる 中年期以降に軽〜中等度のOAを発症するリスク。
グループ IV・V 骨頭が平たく変形し、かみ合いが失われる 若年〜中年期にOAが進行するリスクが高い。

日本の医療機関からの報告では、「骨の修復力が高く予後良好」とされる3歳以下の発症でも、無治療で放置したCatterall IV型・Herring C群の重症例では、最終的に成績不良(Stulberg III型)に終わった例が示されています。年齢が若いからと油断せず、壊死範囲が広いと判断されたら、年齢を問わず早めに「包み込み」を目的とした治療を始めるべきという大切な教訓です。

遺伝子検査をどう位置づけるか

ペルテス病の診断そのものは、X線とMRIによる画像が中心です。遺伝子検査はすべての患者さんに必要なわけではありません。一方で、次のような場合にはCOL2A1などを含む遺伝子検査が原因の精査に役立ちます。

  • 家族のなかに同じような股関節の病気や早発性の変形性関節症の人がいる(家族性が疑われる)
  • 両側性で発症している、または背の低さ・他の骨格の異常を伴う(II型コラーゲン異常症やMEDとの見分けが必要)
  • 難聴・近視・網膜剥離など、ほかのII型コラーゲン異常症を思わせる所見がある

当院では、こうした原因精査として、出生後の血液または口腔粘膜(頬の内側をこする)検体を用いた遺伝子検査をご提供しています。骨・結合組織に関わる遺伝子を幅広く調べる結合組織疾患NGSパネル、低身長に関わる遺伝子を調べる低身長遺伝子パネル、タンパク質をコードする領域を網羅的に解析するクリニカルエクソーム検査のいずれにもCOL2A1が含まれています。どの検査が適しているかは、症状やご家族の状況によって異なりますので、まず遺伝カウンセリングでご相談ください。

6. 治療と長期管理:Containment(包み込み)

現代のペルテス病の治療は、病気を「すぐ治す」ことよりも、自然に治っていく過程で骨の形をいかに守るかに主眼が置かれます。最終的なゴールは、断片化期に骨頭がつぶれるのを防ぎ、できるだけ丸い形を保ったままリモデリングを終え、数十年後の変形性関節症を遅らせる・防ぐことです。

💡 用語解説:Containment(コンテインメント/包み込み)

やわらかくなった大腿骨頭を、骨盤側の深い受け皿(寛骨臼)の中にしっかり収めつづける考え方です。受け皿を「丸い型」として使い、その形に合わせて骨頭が丸く再構築されるよう誘導します。脚を外側に開いた姿勢(外転位)を保つことが、その基本になります。

保存療法(手術をしない治療)

発症年齢が若く(おおむね6歳未満)、自己修復の力が十分にある場合や、程度が軽〜中等度(Herring A群や一部のB群)の場合には、手術をしない保存療法が第一選択になります。ただし、治癒のサイクルが終わるまで数年単位の根気が必要で、お子さんの生活に制約がかかるという課題もあります。

  • 活動制限と痛みのコントロール:炎症や痛みに対してイブプロフェンなどの消炎鎮痛薬を使い、走る・跳ぶ・激しいスポーツを控えます。痛みが強い時期は松葉杖などで体重をかけないようにします。
  • 理学療法:包み込みを保つには股関節が十分に外側へ開くことが条件です。可動域(とくに外転・内旋)を保つストレッチや運動を続けます。
  • 装具療法:脚を開いた状態に保ち、骨頭を受け皿の奥に押し込みつづけるために、さまざまな機能的な装具が使われます。日本整形外科学会の資料でも整理されています。

外科的治療(手術)

発症年齢が高め(とくに8歳以上)、壊死が広い重症例(Herring C群)、骨頭が外側へずれてしまう傾向が強い場合、あるいは長期の装具着用が難しい場合には、確実な力学的環境をつくるために手術が選ばれます。

大腿骨内反骨切り術

大腿骨の上の方を切って角度を変え、金属プレートで固定します。骨頭が自然と受け皿の深い位置に収まるようにする手術です。

骨盤骨切り術(Salter法など)

受け皿である骨盤側を切って角度を回し、骨頭をおおう「屋根」を増やします。骨頭が外へずれるのを構造的に防ぎます。

関節鏡視下手術・骨形成術

治った後に残った変形に対し、内視鏡で関節唇を縫合修復し、出っ張った骨頭を削ってなめらかにして、引っかかり(インピンジメント)を解消します。

長期予後と気をつけたい合併症

予後は発症時の年齢と初診時の進行度に大きく左右されます。6歳未満の若い発症は、骨の成長・修復の力が高いため、丸い骨頭を取り戻しやすく予後が良い傾向があります。一方、次のような因子があると注意が必要です。

⚠️ 予後に注意が必要な因子

  • 高齢発症(8歳以上、とくに思春期):骨の成熟が進み、再構築のための時間と力が不足しがち。
  • 両側性発症:全身的な背景が関わる可能性が高く、両脚に障害が及ぶ。
  • Herring C群/Catterall IV型:体重を支える外側柱を含む広範な壊死で、つぶれが避けにくい。

適切な時期に包み込み治療が行われないと、骨頭は平たく(Coxa plana)、あるいはキノコ状に大きく(Coxa magna)変形したまま固まります。すると受け皿とのかみ合いが悪くなり、歩くたびに変形した骨頭が関節のフチの軟骨(関節唇)に衝突し、軟骨をけずっていきます。こうした関節唇損傷・軟骨損傷はペルテス病の長期後遺症としてよく知られており、若年〜中年期の変形性関節症(OA)へとつながります。重度に進行すると、最終手段として人工股関節全置換術(THA)が必要になることもあります。この将来のTHAを防ぐことこそ、子ども時代のペルテス病治療がめざす最大の目標なのです。

7. 遺伝カウンセリングの意義

ペルテス病の多くは家族歴のない孤発例ですが、家族性・両側性・骨格異形成を伴うケースでは、COL2A1関連の背景を考慮します。こうした場合、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングが役立ちます。

  • 遺伝形式と再発リスクの説明:COL2A1関連の家族性タイプは常染色体顕性(優性)遺伝で、変異を持つ方のお子さんへ受け継がれる確率は理論上50%です。一方、多くの孤発例では、こうした明確な再発リスクは当てはまりません。ご家族の状況に応じた説明が必要です。
  • 見通しの情報提供:ペルテス病は多くが自然経過のなかで治癒へ向かう病気であり、過度に不安をあおる必要はありません。年齢・病期・分類に基づいた現実的な見通しをお伝えします。
  • 出生前診断について:家族内で既知のCOL2A1変異が同定されている場合に限り、絨毛検査・羊水検査による出生前の確定診断が選択肢になりえます。ただし、ペルテス病は出生前に見つけることが常に利益になるとは限らず、検査を受けるかどうかはご家族が決めることです。私たちは中立な立場で情報をお伝えします。
  • 出生前と出生後の検査の整理:出生後の確定診断は、お子さん本人の血液や口腔粘膜を用いた遺伝子検査で行います。出生前の検査はあくまで、すでに家族内の変異が分かっている特別な場合の選択肢です。

なお、COL2A1を含むNIPT(出生前の血液検査)として、当院にはダイヤモンドプランインペリアルプランがありますが、どの検査が適切か、そもそも検査が必要かは、ご家族ごとに異なります。まずは遺伝カウンセリングでご状況を伺うところから始めるのが安心です。

8. よくある誤解

誤解①「膝の痛みだから股関節は関係ない」

股関節と膝は同じ神経を共有するため、股関節の病気が膝の痛みとして出ることがよくあります。原因不明の膝痛では股関節も必ず確認します。

誤解②「若いから放っておいても治る」

若い発症は予後が良い傾向ですが、壊死範囲が広い重症例では、3歳以下でも成績不良に終わった報告があります。年齢だけで油断は禁物です。

誤解③「ペルテス病はすべて遺伝病」

多くは家族歴のない孤発例で、すべてにCOL2A1変異が見つかるわけではありません。遺伝が関わるのは家族性・両側性などの一部です。

誤解④「両側だから単に重症なだけ」

両側性のときは、多発性骨端異形成症(MED)など別の骨格疾患がペルテス病に似て見えている可能性も。鑑別が重要です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「いつ治るか」より「どう治すか」】

ペルテス病とわかったご家族から、まず聞かれるのは「いつ治りますか」という質問です。けれど、この病気で本当に大切なのは「治るまでの時間」ではなく、「どんな形で治すか」です。数年という長い経過のなかで、骨頭の丸い形をいかに守るかが、お子さんが大人になってからの股関節の健康を決めます。

そして、ごく一部にはCOL2A1という遺伝子が関わる家族性のタイプがあります。両側性であったり、背の低さや他の骨格の特徴を伴うとき、私たち臨床遺伝の専門家の出番です。整形外科の先生方による画像評価と治療に、遺伝学的な視点を重ねることで、お子さんとご家族にとっていちばん納得のいく道を一緒に探していきたいと思っています。

よくある質問(FAQ)

Q1. ペルテス病は遺伝しますか?

多くは家族歴のない孤発例(特発性・多因子性)で、必ずしも遺伝するわけではありません。ただし、家族内で集まって発症する家族性のタイプもあり、その多くはCOL2A1遺伝子による常染色体顕性(優性)遺伝です。この場合、変異を持つ方のお子さんへ受け継がれる確率は理論上50%です。家族歴や両側性がある場合は、遺伝カウンセリングと遺伝子検査が役立ちます。

Q2. 何歳ごろに発症しますか?男の子に多いのは本当ですか?

3〜12歳に発症し、ピークは4〜8歳です。男の子は女の子の約3〜5倍多く発症します。発症した子どもは、同年代に比べて骨の成熟が遅れ、背が低めのことも多いと知られています。

Q3. 子どもが「膝が痛い」と言うのに、股関節の病気なのですか?

はい、その可能性があります。股関節と膝は同じ神経(閉鎖神経)を共有しているため、股関節の病気であるペルテス病が「膝の痛み」として現れることが頻繁にあります。原因のはっきりしない膝の痛みや跛行が数週間続く場合は、膝だけでなく股関節も診てもらってください。

Q4. ペルテス病は治りますか?将来どうなりますか?

多くは数年かけて自然な経過のなかで治癒に向かいます。とくに6歳未満の発症は予後が良い傾向です。大切なのは、治る過程で骨頭の丸い形を守る「Containment(包み込み)」です。形がうまく保たれないと、将来、変形性関節症(OA)に進み、まれに人工股関節が必要になることもあります。だからこそ早期の診断と適切な管理が重要です。

Q5. 単純性股関節炎とはどう違うのですか?

単純性股関節炎は、かぜなどの後に一過性に起こり、数日〜2週間以内に後遺症なく自然に治る、骨や軟骨を壊さない病気です。一方ペルテス病は骨頭が壊死する病気で、長い経過をたどります。初期は区別が難しいため、安静にしても痛みや跛行が続く・悪化する場合はMRI検査でしっかり確認します。

Q6. COL2A1遺伝子の検査は受けたほうがよいですか?

すべての患者さんに必要なわけではありません。診断の中心はX線とMRIです。ただし、家族歴がある・両側性である・背が低い・他の骨格の異常を伴うといった場合には、原因の精査としてCOL2A1を含む遺伝子検査が役立つことがあります。当院では結合組織疾患NGSパネル、低身長遺伝子パネル、クリニカルエクソーム検査などにCOL2A1が含まれています。まず遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q7. 両側のペルテス病と言われました。気をつけることはありますか?

両側性のときは、全身的な背景(遺伝子の変化や血液の固まりやすさなど)が関わっている可能性があり、また「両側のペルテス病」によく似て見える別の骨格疾患——多発性骨端異形成症(MED)など——との見分けも重要です。全身の骨格X線や、COL2A1を含む遺伝子パネル検査での慎重な評価をおすすめします。

Q8. 出生前にわかりますか?

ペルテス病は子どもの成長期に発症する病気で、通常は出生前にわかるものではありません。例外的に、家族内ですでにCOL2A1の変異が同定されている場合に限り、絨毛検査・羊水検査による出生前の遺伝子診断が選択肢になりえます。ただし、出生前に見つけることが常に利益になるとは限らないため、受けるかどうかはご家族が中立な情報のもとで決めることが大切です。

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ペルテス病をはじめ、COL2A1関連の骨系統疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

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参考文献

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  • [7] Barat-Houari M, et al. Molecular genetics of the COL2A1-related disorders. Mutat Res Rev Mutat Res. 2016. [ScienceDirect]
  • [8] GeneReviews. Multiple Epiphyseal Dysplasia, Autosomal Dominant. NCBI Bookshelf. [GeneReviews]
  • [9] 日本整形外科学会. ペルテス病. [日本整形外科学会]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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