目次

結合組織疾患の遺伝子検査は、マルファン症候群・ロイス・ディーツ症候群・エーラス・ダンロス症候群や、遺伝する胸部大動脈瘤・大動脈解離など、体を支える組織(結合組織)の病気の原因を63の遺伝子でまとめて調べる検査です。関節がやわらかい、皮膚がよく伸びる、若くして大動脈解離を起こした家族がいる。こうした手がかりはあっても、病名を1つに絞れないことはよくあります。原因の遺伝子がわかると、大動脈を何センチで手術するかの目安や、使う薬、ご家族が受ける検査まで、遺伝子ごとに決められるようになります。このページでは、この検査でわかること・わからないこと、個別の検査との選び方を、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群、エーラス・ダンロス症候群(いちばん多い過可動型を除く12の病型)、遺伝性の胸部大動脈瘤・解離、皮膚弛緩症などの原因となる63遺伝子の小さな変化を、1回の検査で調べます。膠原病の「混合性結合組織病」を調べる検査ではありません。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
若くして大動脈瘤・大動脈解離を起こした方やそのご家族、関節のゆるさや皮膚の伸びやすさ・もろさがあり、大動脈・皮膚・関節・骨・目の症状が重なっていて病名を1つに絞れない方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は330,000円(税込)、結果までは3〜5週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜・抽出済みDNAのいずれかです。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、血管の定期検査・薬・手術の目安と、ご家族の検査を遺伝子に合わせて考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
\ 一生変わらない遺伝子を知って、血管とご家族の備えに /
検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。
1. 結合組織疾患の遺伝子検査とは:63遺伝子で何がわかるか
この検査は、皮膚・関節・骨・血管・目など、体を支える組織に症状が出る遺伝性の病気の原因を、63の遺伝子で一度に調べるパネル検査です。マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群、エーラス・ダンロス症候群、家族性の胸部大動脈瘤・解離、皮膚弛緩症、骨形成不全症などの原因遺伝子が含まれています。
遺伝子の配列を読む方法(次世代シーケンサー)で、遺伝子の文字(塩基)が1つ変わる変化や、小さな挿入・欠失を見つけます。どの病気も症状が重なり合うことが多く、見た目や症状だけでは病名を1つに絞りにくいのが、この病気のグループの特徴です。だからこそ、関係する遺伝子をまとめて調べる意味があります。
「結合組織疾患」と混合性結合組織病(膠原病)は別の病気
このページで扱う「遺伝性の結合組織疾患」は、生まれつきの遺伝子の変化が原因の病気です。名前の似ている混合性結合組織病とは、まったく別の病気です。
難病情報センターによると、混合性結合組織病(指定難病52)は膠原病の重なり合った病型のひとつで、全身性の自己免疫の病気です。血液中に抗U1-RNP抗体が高い値で見つかるのが特徴とされています(2026年10月時点で確認)。自己免疫の病気は、この遺伝子検査で調べる対象ではありません。「結合組織疾患」で検索してこのページに来られた方は、ご自身が知りたいのがどちらの病気かを、まず確かめてください。
結合組織とは:コラーゲン・弾性線維・TGF-βの働き
結合組織とは、細胞と細胞のすき間を埋めて、体の形と強さを支えている組織のことです。主な材料は、引っぱりに強いコラーゲンと、ゴムのように伸び縮みする弾性線維で、これらが細胞の外で網の目のような細胞外マトリックスをつくっています。
この検査の63遺伝子は、大きく分けて、コラーゲンをつくる遺伝子(COL1A1・COL3A1・COL5A1など)、弾性線維をつくる遺伝子(FBN1・ELN・FBLN5など)、コラーゲンを加工する酵素の遺伝子(PLOD1・ADAMTS2など)、組織の強さを調節するTGF-βシグナル伝達経路の遺伝子(TGFBR1・TGFBR2・SMAD3など)、血管の壁の平滑筋の遺伝子(ACTA2・MYH11・MYLKなど)です。どの部品が弱いかによって、症状の出る場所が大動脈なのか、皮膚なのか、骨なのかが変わります。
2. 大動脈解離・大動脈瘤は遺伝する?
胸部大動脈瘤・大動脈解離の一部は、親から子へ伝わる遺伝性の病気です。とくに若くして発症した方や、血縁者にも同じ病気の方がいる場合は、遺伝の原因を調べることが勧められています[1]。一方で、大動脈解離のすべてが遺伝するわけではなく、高血圧などほかの要因で起こるものも多くあります。
胸部大動脈瘤の患者さん520人の家系を調べた研究では、マルファン症候群ではない方の21.5%に、家系内で遺伝するパターンがみられました。そのうち76.9%は、親から子へ2分の1の確率で伝わる常染色体顕性(優性)遺伝のパターンでした[5]。こうした遺伝性の胸部大動脈の病気は、まとめて遺伝性大動脈疾患と呼ばれます。
若くして大動脈解離を起こす人に多い遺伝性の病気
若い人の大動脈解離では、マルファン症候群などの遺伝性の病気や、大動脈二尖弁が背景にあることが多いと報告されています[6]。大動脈解離の国際的な登録研究(IRAD)では、951人のうち40歳未満は68人(7%)で、40歳未満の方は40歳以上の方に比べて、マルファン症候群、大動脈二尖弁、大動脈の手術歴がある方が多く、高血圧の方は少なかったとされています[6]。
2022年の米国心臓病学会・米国心臓協会(ACC/AHA)の大動脈疾患ガイドラインは、家族性の胸部大動脈の病気を疑う手がかりとして、次のものを挙げています[1]。
- ●60歳未満で胸部大動脈瘤・大動脈解離が見つかった
- ●マルファン症候群・ロイス・ディーツ症候群・血管型エーラス・ダンロス症候群を思わせる体の特徴がある
- ●親・きょうだい・子、または祖父母・おじおばなどに、胸部大動脈の病気や、ほかの部位・頭の中の動脈瘤がある
- ●血縁者に、比較的若くして原因のわからない突然死をした方がいる
同じガイドラインは、体の特徴がある方、家族歴がある方、若くして発症した方には遺伝学的検査を勧めるとしています[1]。
家族に遺伝する確率
マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤の多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、原因をもつ親から子へ、お子さん1人ごとに2分の1の確率で伝わります[2][3][4]。性別には関係しません。
ただし、同じ遺伝子の変化をもっていても、症状の重さや大動脈の病気が出る年齢は人によって大きく違います(表現型の多様性)。原因をもっていても症状が出ない方もいます(不完全浸透)。そのため、「親が軽いから子も軽い」とは言えません。
また、ご両親に変化がなくても、お子さんの代で新しく変化が起きることがあります。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、マルファン症候群と診断された方の約25%、ロイス・ディーツ症候群と診断された方の約75%は、新しく起きた変化によるものとされています[3][4]。家族歴がないことは、遺伝性の病気ではない理由にはなりません。
なお、この63遺伝子の中には、ご両親の両方から変化を受け継いだときに発症する常染色体潜性(劣性)遺伝の病気(弾性線維性仮性黄色腫・動脈蛇行症候群・皮膚弛緩症の一部など)や、X連鎖の病気(メンケス病など)も含まれます。確率は病気ごとに違うので、第5章の表でご確認ください。
原因遺伝子がわかると何が変わるか:血管の定期検査・薬・手術の目安
原因遺伝子がわかると、大動脈の検査の間隔、使う薬、予防の手術を考える大動脈の太さの目安を、その遺伝子に合わせて決められるようになります。ACC/AHAのガイドラインは、病気の原因となる変化が見つかったら、遺伝子にもとづいた管理と、リスクのある血縁者の遺伝学的検査につなげるべきだとしています[1]。
たとえば、手術を考える大動脈の太さの目安は、遺伝子によって違います。GeneReviewsでは、マルファン症候群は大動脈の根もとの最大径が5.0cmに近づいたとき、ロイス・ディーツ症候群はTGFBR1・TGFBR2なら約4.0cm、SMAD2・SMAD3・TGFB2なら約4.5cm、TGFB3なら約5cmに近づいたときに手術を考える、とされています[3][4]。ロイス・ディーツ症候群では、マルファン症候群よりも細い大動脈で、より若い年齢で解離が起こりうるためです[4]。
🫀 原因遺伝子で変わる大動脈の管理(例)
| わかった病気・遺伝子 | 管理の考え方(文献に書かれていること) |
|---|---|
| マルファン症候群(FBN1) | β遮断薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、どちらも大動脈の根もとが太くなる速さを抑えうる。根もとが5.0cmに近づいたら手術を考える[3] |
| ロイス・ディーツ症候群(TGFBR1・TGFBR2) | 思春期以降は、上行大動脈が約4.0cmに近づいたら手術を考える[4] |
| ロイス・ディーツ症候群(SMAD3・TGFB2) | 約4.5cmに近づいたら手術を考える[4] |
| ロイス・ディーツ症候群(TGFB3) | 約5cmに近づいたら手術を考える[4] |
| 血管型エーラス・ダンロス症候群(COL3A1) | 臨床的に診断された53人の比較試験で、セリプロロールを飲んだ群で主な評価項目に達した人は20%、飲まなかった群では50%だった[10] |
※目安は、遺伝子だけでなく、ご家族の解離の経過・大動脈が太くなる速さ・弁の状態などで変わります[4]。治療と手術の判断は、循環器内科・心臓血管外科の主治医が行います。
米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は、別の目的でエクソーム・ゲノム解析を受けた人でも、見つかれば結果を返すべき遺伝子の一覧(二次的所見の一覧)に、FBN1・TGFBR1・TGFBR2・SMAD3・ACTA2・MYH11・COL3A1を入れています[11]。わかれば早めに備えられる遺伝子として、専門家の間で位置づけられているということです。
反対に、原因が見つからない場合もあります。GeneReviewsは、体の特徴がなく家族歴だけがある方では、遺伝の原因が見つかるのは約20〜30%にとどまるとしています[2]。原因がわからない場合でも、ACC/AHAのガイドラインは、親・きょうだい・子に画像検査で大動脈を調べることを勧めています[1]。
3. 関節がやわらかい・皮膚がよく伸びる:遺伝を考えるとき
関節がやわらかく脱臼しやすい、皮膚がよく伸びる・傷つきやすい、あざができやすいといった症状は、エーラス・ダンロス症候群や皮膚弛緩症などの遺伝性の病気の手がかりになることがあります。ただし、関節のやわらかさは健康な人にもみられるもので、それだけで病気とは言えません。大事なのは、ほかの症状や家族歴との組み合わせです。
エーラス・ダンロス症候群:この検査でわかる型・わからない型
エーラス・ダンロス症候群は2017年の国際分類で13の病型に分けられ、いちばん多い過可動型(hEDS)を除く12の病型は、遺伝子の検査で確定するとされています[7]。この検査の63遺伝子には、過可動型以外の12の病型の原因遺伝子がすべて含まれています。
⚠️ 過可動型(hEDS)は遺伝子検査では確定できません
過可動型エーラス・ダンロス症候群は、今のところ原因となる遺伝子が見つかっておらず、診断は症状と診察で行います[8][9]。この検査で原因が見つからなくても、過可動型ではないとは言えません。一方で、血管型など、ほかの型の原因が隠れていないかを確かめる目的では、遺伝子検査が役に立ちます。
🧬 エーラス・ダンロス症候群の病型と、この検査の遺伝子
| 病型 | 原因遺伝子 | 遺伝のしかた |
|---|---|---|
| 古典型 | COL5A1・COL5A2・COL1A1(まれ) | 顕性 |
| 血管型 | COL3A1 | 顕性 |
| 関節弛緩型 | COL1A1・COL1A2 | 顕性 |
| 皮膚脆弱型 | ADAMTS2 | 潜性 |
| 心臓弁型 | COL1A2 | 潜性 |
| 後側弯型 | PLOD1・FKBP14 | 潜性 |
| 古典型様 | TNXB(2型はAEBP1) | 潜性 |
| ミオパチー型 | COL12A1 | 顕性または潜性 |
| 筋拘縮型 | CHST14・DSE | 潜性 |
| 脊椎形成異常型 | B4GALT7・B3GALT6・SLC39A13 | 潜性 |
| 角膜脆弱症候群 | ZNF469・PRDM5 | 潜性 |
| 歯周型 | C1R・C1S | 顕性 |
| 過可動型 | わかっていない(この検査では確定できない) | 顕性とされる |
※2017年の国際分類[7]と2020年の総説[8]による。古典型様2型(AEBP1)は2020年の総説で追加された病型。くわしい病気の説明はエーラス・ダンロス症候群(EDS)総論をご覧ください。
中でも血管型は、動脈・腸・子宮が破れることがある型で、ほかの型と見分けることが大切です。エーラス・ダンロス症候群に絞って調べたい方は、エーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査(22遺伝子)もあります。
皮膚がたるむ・伸びる:皮膚弛緩症と弾性線維性仮性黄色腫
皮膚が伸びても元に戻らず、たるんでしわが目立つ場合は、弾性線維の病気である皮膚弛緩症を考えます。エーラス・ダンロス症候群の皮膚が「よく伸びて元に戻る」のに対し、皮膚弛緩症では「伸びたまま、たるむ」のが違いです。
皮膚弛緩症には、親から子へ2分の1で伝わる顕性遺伝の型(ELN・FBLN5・ALDH18A1)、ご両親とも保因者のときに起こる潜性遺伝の型(FBLN5・EFEMP2・LTBP4・ATP6V0A2・ATP6V1E1・PYCR1・ALDH18A1・RIN2など)、X連鎖の型(ATP7A、オクシピタル・ホーン症候群)があり、遺伝子によって遺伝のしかたが違います[13]。
首やわきの下などに黄色っぽい小さな盛り上がりが出る弾性線維性仮性黄色腫は、ABCC6遺伝子が原因の常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です[12]。皮膚のほか、目(網膜)や血管にも変化が出ることがあります。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
大動脈・皮膚・関節・骨・目の症状が重なっていて、病名を1つに絞れない方に向く検査です。病名がはっきりしている場合は、その病気に絞った検査のほうが向いていることがあります(下の表)。
- ●若くして胸部大動脈瘤・大動脈解離を起こした方と、そのご家族
- ●マルファン症候群・ロイス・ディーツ症候群・エーラス・ダンロス症候群のどれかを疑われているが、どれか決まらない方
- ●関節のゆるさ・脱臼、皮膚の伸びやすさ・もろさ・たるみに加えて、血管・骨・目にも症状がある方
- ●血縁者に若くして原因のわからない突然死をした方がいる方
- ●結婚・妊娠を考えていて、ご自身やご家族の病気が子どもに伝わるかを知りたい方
希少な病気では、診断がつくまでに長い時間がかかることがあります。欧州41か国の希少疾患の患者さん6,507人を調べた調査では、診断までにかかった期間の平均は4.7年でした[14]。症状が重なり合うこのグループの病気では、関係する遺伝子をまとめて調べることで、病院を回る時間を短くできる可能性があります。ただし、全員に原因が見つかるわけではありません。日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、全エクソーム解析を終えた5,136家系のうち、診断が確定したのは2,247家系(43.8%)でした[15]。
このパネルと個別の検査の選び方
病名がはっきりしているなら個別の検査、まだ絞れないならこのパネル、が基本の考え方です。とくに大動脈だけが問題の方は、このパネルではなく、大動脈の遺伝子を多く含む検査が向いています。当院のマルファン症候群・胸部大動脈瘤解離の検査(39遺伝子)には、このパネルに入っていない大動脈の遺伝子(SMAD2・SMAD6・LTBP3・IPO8など10遺伝子)が含まれているためです。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
| こんなとき | 向いている検査 |
|---|---|
| 大動脈に加えて、皮膚・関節・骨・目の症状があり、病名を絞れない | このページの検査(63遺伝子) |
| 胸部大動脈瘤・解離が中心で、皮膚や関節の症状は目立たない | マルファン症候群・胸部大動脈瘤解離の遺伝子検査(39遺伝子) |
| ロイス・ディーツ症候群が強く疑われる | ロイス・ディーツ症候群の遺伝子検査(6遺伝子) |
| 関節・皮膚が中心で、エーラス・ダンロス症候群の型を見分けたい | エーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査(22遺伝子) |
| 心筋症・不整脈など、心臓の病気も気になる | 心血管疾患包括的遺伝子検査パネル(264遺伝子) |
| 水晶体のずれ(水晶体偏位)など、目の症状が中心 | 水晶体偏位の遺伝子検査 |
| 骨が折れやすいことが中心 | 骨形成不全症・骨密度異常の遺伝子検査 |
| 骨の形の異常・低身長が中心 | 骨系統疾患の遺伝子検査(521遺伝子) |
| 強い近視・網膜剥離・難聴・関節の症状が重なる | スティックラー症候群の遺伝子検査 |
| 鼻血・皮膚や粘膜の毛細血管の拡張が中心 | 遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の遺伝子検査 |
| 全身の症状が多く、結合組織の病気に限らない | 全エクソーム検査(WES) |
| 関節のやわらかさだけで、ほかの型を思わせる症状がない | 過可動型エーラス・ダンロス症候群は遺伝子検査で確定できないため、検査を受けるかは遺伝カウンセリングでご相談ください |
※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
\ 病名が絞れないなら、1回でまとめて調べる /
臨床遺伝専門医が常駐し、63遺伝子のパネルと個別の検査のどちらが合うかも、遺伝カウンセリングでご一緒に考えます。
海外でPGT-Mを考えている方には、英語の検査結果をお渡しできます(検査の時にお申し出ください)。
5. 調べる63遺伝子と、わかる病気
この検査では、次の63遺伝子を調べます。遺伝子ごとに関係する病気と遺伝のしかたを、主に症状が出る場所で5つに分けて示します。病名と遺伝のしかたは、遺伝性疾患のデータベースOMIMの登録にもとづいています。
🫀 ① 大動脈・血管の病気に関わる遺伝子(20)
| 遺伝子 | 関係する病気 | 遺伝のしかた |
|---|---|---|
| ACTA2 | 家族性胸部大動脈瘤6型、平滑筋機能不全症候群、もやもや病5型 | 顕性 |
| BGN | メスター・ロイス症候群、X連鎖性脊椎骨端骨幹端異形成症 | X連鎖 |
| COL4A1 | HANAC症候群、グールド症候群(脳小血管病)、PADMAL | 顕性 |
| ELN | 大動脈弁上狭窄症、常染色体顕性皮膚弛緩症 | 顕性 |
| FBN1 | マルファン症候群、家族性水晶体偏位、ワイル・マルケサーニ症候群2型、MASS症候群、スティッフスキン症候群、ゲレオフィジック骨異形成症2型、アクロミクリック異形成症、マルファン・リポジストロフィー症候群 | 顕性 |
| LOX | 家族性胸部大動脈瘤10型 | 顕性 |
| MAT2A | OMIMには病名の登録なし(胸部大動脈瘤との関係を研究中の遺伝子) | 未確定(研究中) |
| MFAP5 | 家族性胸部大動脈瘤9型 | 顕性 |
| MYH11 | 家族性胸部大動脈瘤4型、内臓ミオパチー2型/巨大膀胱・小結腸・腸管蠕動不全症候群2型 | 顕性/潜性 |
| MYLK | 家族性胸部大動脈瘤7型/巨大膀胱・小結腸・腸管蠕動不全症候群1型 | 顕性/潜性 |
| NOTCH1 | 大動脈弁疾患1型(大動脈二尖弁など)、アダムス・オリバー症候群5型 | 顕性 |
| PRKG1 | 家族性胸部大動脈瘤8型 | 顕性 |
| SKI | シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群 | 顕性 |
| SLC2A10 | 動脈蛇行症候群 | 潜性 |
| SMAD3 | ロイス・ディーツ症候群3型 | 顕性 |
| SMAD4 | 若年性ポリポーシス症候群、若年性ポリポーシス/遺伝性出血性毛細血管拡張症、マイヤー症候群 | 顕性 |
| TGFB2 | ロイス・ディーツ症候群4型、カムラティ・エンゲルマン病2型 | 顕性 |
| TGFB3 | ロイス・ディーツ症候群5型、不整脈原性右室異形成症1型 | 顕性 |
| TGFBR1 | ロイス・ディーツ症候群1型 | 顕性 |
| TGFBR2 | ロイス・ディーツ症候群2型、遺伝性非ポリポーシス大腸がん6型 | 顕性 |
※家族性胸部大動脈瘤の各型は遺伝性大動脈疾患 総論、ロイス・ディーツ症候群の全体像はロイス・ディーツ症候群 総論で解説しています。
🤸 ② エーラス・ダンロス症候群などに関わる遺伝子(20)
| 遺伝子 | 関係する病気 | 遺伝のしかた |
|---|---|---|
| ADAMTS2 | エーラス・ダンロス症候群 皮膚脆弱型 | 潜性 |
| AEBP1 | エーラス・ダンロス症候群 古典型様2型 | 潜性 |
| B3GALT6 | エーラス・ダンロス症候群 脊椎形成異常型2型、関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症1型、アル・ガザリ症候群 | 潜性 |
| B4GALT7 | エーラス・ダンロス症候群 脊椎形成異常型1型 | 潜性 |
| C1R | エーラス・ダンロス症候群 歯周型1型 | 顕性 |
| C1S | エーラス・ダンロス症候群 歯周型2型(顕性)、C1s欠損症 | 顕性ほか |
| CHST14 | エーラス・ダンロス症候群 筋拘縮型1型 | 潜性 |
| COL12A1 | ベスレムミオパチー2型、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー2型(エーラス・ダンロス症候群 ミオパチー型) | 顕性または潜性 |
| COL1A1 | 骨形成不全症1型・2型・3型・4型、エーラス・ダンロス症候群 関節弛緩型1型、骨形成不全症・エーラス・ダンロス症候群複合症1型、Caffey病 | 顕性 |
| COL1A2 | 骨形成不全症2〜4型、エーラス・ダンロス症候群 関節弛緩型2型、骨形成不全症・エーラス・ダンロス症候群合併2型(以上 顕性)、エーラス・ダンロス症候群 心臓弁型(潜性) | 顕性/潜性 |
| COL3A1 | 血管型エーラス・ダンロス症候群(顕性)、多小脳回(血管型を伴うことがある、潜性) | 顕性/潜性 |
| COL5A1 | エーラス・ダンロス症候群 古典型1型、多巣性線維筋性異形成 | 顕性 |
| COL5A2 | エーラス・ダンロス症候群 古典型2型 | 顕性 |
| DSE | エーラス・ダンロス症候群 筋拘縮型2型 | 潜性 |
| FKBP14 | エーラス・ダンロス症候群 後側弯型2型 | 潜性 |
| PLOD1 | エーラス・ダンロス症候群 後側弯型1型 | 潜性 |
| PRDM5 | 角膜脆弱症候群2型 | 潜性 |
| SLC39A13 | エーラス・ダンロス症候群 脊椎形成異常型3型 | 潜性 |
| TNXB | エーラス・ダンロス症候群 古典型様1型(潜性)、膀胱尿管逆流8型(顕性) | 潜性/顕性 |
| ZNF469 | 角膜脆弱症候群1型 | 潜性 |
※骨形成不全症の全体像は骨形成不全症(OI)総論で解説しています。
🧴 ③ 皮膚弛緩症などに関わる遺伝子(9)
| 遺伝子 | 関係する病気 | 遺伝のしかた |
|---|---|---|
| ALDH18A1 | 常染色体顕性皮膚弛緩症3型・痙性対麻痺9A(顕性)、常染色体潜性皮膚弛緩症3A型・痙性対麻痺9B(潜性) | 顕性/潜性 |
| ATP6V0A2 | 常染色体潜性皮膚弛緩症2A型、しわ皮膚症候群 | 潜性 |
| ATP6V1E1 | 常染色体潜性皮膚弛緩症2C型 | 潜性 |
| ATP7A | メンケス病、オクシピタル・ホーン症候群、X連鎖遠位型遺伝性運動ニューロパチー | X連鎖潜性 |
| EFEMP2 | 常染色体潜性皮膚弛緩症1B型 | 潜性 |
| FBLN5 | 常染色体潜性皮膚弛緩症1A型(潜性)、常染色体顕性皮膚弛緩症2型・加齢黄斑変性3型・シャルコー・マリー・トゥース病1H型(顕性) | 潜性/顕性 |
| LTBP4 | 常染色体潜性皮膚弛緩症1C型 | 潜性 |
| PYCR1 | 常染色体潜性皮膚弛緩症2B型・3B型 | 潜性 |
| RIN2 | 大頭症・脱毛・皮膚弛緩・側弯を伴う症候群(MACS症候群) | 潜性 |
🦴 ④ 骨・軟骨・目・耳に関わる遺伝子(10)
| 遺伝子 | 関係する病気 | 遺伝のしかた |
|---|---|---|
| B3GAT3 | 多発関節脱臼・低身長・頭蓋顔面の特徴を伴う症候群(先天性心疾患を伴うことがある) | 潜性 |
| COL11A1 | スティックラー症候群2型、マーシャル症候群、常染色体顕性難聴37型(以上 顕性)、線維軟骨発生症1型(潜性) | 顕性/潜性 |
| COL11A2 | 耳・脊椎・巨大骨端異形成症(顕性・潜性)、常染色体顕性難聴13型、常染色体潜性難聴53型、線維軟骨発生症2型 | 顕性/潜性 |
| COL2A1 | スティックラー症候群1型、眼球限局型スティックラー症候群1型、先天性脊椎骨端異形成症、クニースト異形成症、軟骨無発生症II型・低軟骨形成症、脊椎骨端骨幹端異形成症ストラドウィック型、脊椎骨端異形成症スタネスク型、チェコ異形成症、軽度軟骨異形成を伴う変形性関節症ほか(OMIMに16の病型が登録) | 顕性 |
| COL9A1 | スティックラー症候群4型(潜性)、多発性骨端異形成症6型(顕性) | 潜性/顕性 |
| COL9A2 | 多発性骨端異形成症2型(顕性)、スティックラー症候群5型(潜性) | 顕性/潜性 |
| CRTAP | 骨形成不全症7型 | 潜性 |
| FBN2 | 先天性拘縮性くも状指症(ビールス症候群)、早発型黄斑変性 | 顕性 |
| P3H1 | 骨形成不全症8型 | 潜性 |
| SGMS2 | 骨のもろさを伴う頭蓋冠ドーナツ状病変 | 顕性 |
🧪 ⑤ そのほかの遺伝子(4)
| 遺伝子 | 関係する病気 | 遺伝のしかた |
|---|---|---|
| ABCC6 | 弾性線維性仮性黄色腫、乳児全身性動脈石灰化症2型(以上 潜性) | 潜性 |
| CBS | ホモシスチン尿症(ビタミンB6が効く型・効かない型) | 潜性 |
| FLNA | 脳室周囲結節状異所性灰白質、X連鎖性心臓弁異形成症、耳口蓋指症候群1型・2型、X連鎖性慢性特発性偽性腸閉塞症、メルニック・ニードルズ症候群、前頭骨幹端異形成症、FG症候群2型、末端骨異形成症 | X連鎖 |
| MED12 | FG症候群1型(オピッツ・カベッジア症候群)、ルジャン・フリンズ症候群、X連鎖性大戸症候群、ハーディカー症候群 | X連鎖 |
※病名と遺伝のしかたはOMIMの登録による(NCBIのOMIM収載情報とHPOのOMIM由来データで照合、2026年10月)。「顕性」は常染色体顕性(優性)遺伝、「潜性」は常染色体潜性(劣性)遺伝。感受性の登録や、がん組織だけで起こる変化(体細胞変異)の登録は表から除いています。
当院のNIPTでも調べられる遺伝子
この63遺伝子のうち14遺伝子は、妊娠中に赤ちゃんの遺伝子の変化を調べる当院のNIPTでも調べられます。
- ●ダイヤモンドプランとインペリアルプランの両方:COL1A1・COL1A2・COL2A1・COL11A1・SKI(骨形成不全症、スティックラー症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群など)
- ●インペリアルプランだけ:FBN1・TGFBR1・TGFBR2・SMAD3・SMAD4・TGFB2・FLNA・COL4A1・COL9A2(マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群など)
前の章のとおり、マルファン症候群の約25%、ロイス・ディーツ症候群の約75%は、ご両親に変化がなく、お子さんの代で新しく起きた変化(新生突然変異)によるものとされています[3][4]。家族歴がなくても起こりうるからこそ、妊娠中に調べる意味があります。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。陽性の場合は、確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で受けられます。新しく起きる変化とNIPTの関係は56遺伝子de novo変異NIPT、プランの違いはインペリアルプランとダイヤモンドプランの違いで解説しています。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、63遺伝子の中の小さな変化(文字が1つ変わる変化や、小さな挿入・欠失)です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●大きな欠失・重複:遺伝子の一部がまとまって抜けたり重なったりする変化を調べる解析は、この検査ではオプションです。オプションでも、エクソン(遺伝子の読み取られる部分)1つだけの欠失・重複は見つからないことがあります。
- ●調べていない種類の変化:染色体の一部の入れかわり(転座・逆位)、同じ配列の繰り返しが長くなる変化、遺伝子のスイッチ部分(プロモーター)や、遺伝子内のイントロンの深い部分(エクソンから20塩基より離れた場所)の変化は検出できません。
- ●よく似た配列:遺伝子によく似た配列(偽遺伝子)が体のほかの場所にあると、変化を正しく読み取りにくいことがあります。読み取りが不十分だった部分は、別の方法(サンガー法)で読み直して確かめます。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけるようには作られていません。
- ●63遺伝子以外の原因:過可動型エーラス・ダンロス症候群のように原因遺伝子がわかっていない病気や、この検査に入っていない遺伝子(大動脈の病気のSMAD2・SMAD6など)の変化はわかりません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知見では判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない原因が残る可能性があります。
専門的な情報:検査の精度
対象の領域の96%を、20回以上の読み取りで調べます(カバレッジ:20倍以上の深度で96%)。同じ場所を何度も読むことで、読み間違いによる見落としや誤判定を減らします。読み取りが基準に届かなかった部分は、サンガー法で補います。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたもご覧ください。
病気の原因となる変化が見つかったとき
病名がはっきりすると、受けるべき検査(大動脈・心臓・目・骨など)、気をつけたい薬や運動、手術を考える目安が決まります。先天異常や知的障害のある子どもにエクソーム・ゲノム解析を行った研究を集めた系統的レビューでは、対象の167研究のうち95%で、患者さんかご家族の診療方針に何らかの変化があったと報告されています[16]。指定難病などの制度を使うときにも、原因が確定していることが手がかりになります(第8章)。
あなたの1回の検査結果は、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。ご家族の中で原因の変化がわかると、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。ACC/AHAのガイドラインも、病気の原因となる変化が見つかったら、リスクのある血縁者の検査につなげるべきとしています[1]。乳がんの遺伝子検査を受けた人を追った研究では、遺伝カウンセリングのあと、家族のために検査を受けたいという動機が有意に増えていました[17]。
症状のないご家族が受ける検査は、将来の発症の可能性を調べる「発症前の検査」になります。当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。結果を知ったあとの気持ちの変化は、陽性でも陰性でも起こりえます。当院では、結果をお伝えしたあとも遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。お子さんの検査は、その病気が子どものうちから大動脈の検査などの管理を必要とするかどうかで考え方が変わるため、遺伝カウンセリングでご相談ください。
原因が見つからなかったとき・VUSだったとき
原因が見つからなくても、病気の可能性がなくなるわけではありません(第6章)。症状に合わせて、全エクソーム検査など範囲の広い検査を考えます。大動脈の病気のご家族では、原因がわからなくても、親・きょうだい・子が画像検査で大動脈を調べることが勧められています[1]。
意義がまだわからない変化(VUS)は、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。ACC/AHAのガイドラインも、VUSは家族の誰がリスクをもつかの判断や、診療方針の判断に使うべきではないとしています[1]。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。VUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いと、当院の二次的所見の開示方針もあわせてご覧ください。
妊娠を考えている方へ
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。
弾性線維性仮性黄色腫や皮膚弛緩症の一部、ホモシスチン尿症など潜性遺伝の病気は、ご夫婦がともに保因者のときに、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。妊娠の前にパートナーが保因者かどうかを知っておくと、出生前診断まで計画できます。拡大版の保因者検査は妊娠前ブライダルチェック(拡大版保因者スクリーニング)で、妊娠中の方はNIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラス(単独では受けられません)があります。病気の原因遺伝子が対象に入っているかは、それぞれの遺伝子一覧でご確認ください。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
当院は、海外でPGT-Mを受けるときに使える英語の検査結果をお渡しできます。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因遺伝子の確定、英語の検査結果の用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠後の絨毛検査・羊水検査(院内)です。
PGT-Mとは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)の指針は、準備に必要なこととして、①病気の原因と確かめられた遺伝子の変化があること、②どの遺伝子のどの変化かが書かれた元の報告書、③ご家族の検体、を挙げています[18]。
ご家族の検体が必要なのは、受精卵から取れるDNAがごくわずかで、変化を直接読むだけでは、2本ある染色体の片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあるためです。そこで、変化のある場所の両側にある目印(多型マーカー)を使って、「変化をもつ染色体」を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます。マルファン症候群やロイス・ディーツ症候群のような顕性遺伝の病気では、ご夫婦に加えて、患者さん少なくとも1人(できれば2人)、および/または発症していない血縁者1人のDNAが目安とされています[18]。ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。
血縁者の協力が得られない場合、指針は、ご夫婦で目印を調べたうえで、治療周期の受精卵や1個の精子を調べて変化の乗った染色体を決める方法を挙げています。ただし、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります。また、ロイス・ディーツ症候群のように新しく起きた変化(de novo)が多い病気で、変化がご本人の代で新しく起きていて、これまでに妊娠歴のないご夫婦では、一般的なハプロタイプ解析の方法は使えないとされています[18]。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
臨床遺伝専門医としての判断も添えます。意義がまだわからない変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えています。潜性遺伝の病気では、ご夫婦それぞれがどの変化をもっているかを確かめておく必要があります。海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
PGT-Mは受精卵のごく一部の細胞を調べる検査で、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[19]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に確定検査(絨毛検査・羊水検査)で、対象の遺伝子の変化を確かめることが望ましいと考えています。絨毛検査・羊水検査は院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。
どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国によって違います。日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、症例ごとに学会の審査を受け、そのうえで実施施設の倫理委員会が承認して行われます。指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる疾患で、申請の時点で有効な治療法がないか、治療法があっても高度かつ侵襲度の高いもの、とされています。成人に達する前に生存が危ぶまれるわけではないが日常生活が著しく損なわれる状態が現れる疾患は、その病気の専門医の意見書などを追加で出す仕組みです。学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち、37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。
英国では、公的機関(HFEA)がPGT-Mを使える病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。マルファン症候群と、ロイス・ディーツ症候群1〜4型は、この一覧に載っています(2026年9月時点)。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[20]。米国生殖医学会(ASRM)の倫理委員会は2024年、大人になってから発症する病気に対するPGT-Mも倫理的に許容されうるとする意見を出しています[21]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。くわしくは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
マルファン症候群とロイス・ディーツ症候群は指定難病167「マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群」に、エーラス・ダンロス症候群は指定難病168に含まれています。難病情報センターの解説では、マルファン症候群の原因遺伝子はFBN1、ロイス・ディーツ症候群はTGFBR1・TGFBR2・SMAD3・TGFB2・TGFB3・SMAD2が原因遺伝子として判明しているとされ、エーラス・ダンロス症候群は13の病型に分類され、関節型の原因遺伝子は見つかっていないとされています(2026年10月時点で確認)。
小児慢性特定疾病では、マルファン症候群とロイス・ディーツ症候群が「染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群」、エーラス・ダンロス症候群が「先天性代謝異常」の中の「結合組織異常症」の対象疾病に掲載されています(対象疾病リスト令和7年4月1日版、2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は330,000円(税込)、結果までは3〜5週間です。検体は、血液・抽出済みDNA・頬の内側の粘膜・唾液のいずれかで調べられます。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
💴 費用・日数・検体
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査内容 | 結合組織疾患NGSパネル検査(63遺伝子) |
| 検査費用 | 330,000円(税込) |
| 遺伝カウンセリング料 | 30分22,000円(税込)※検査費用とは別 |
| 結果までの期間 | 3〜5週間 |
| 検体 | 血液(4mLのEDTA採血管2本)、抽出済みDNA(3μg)、頬の内側の粘膜、唾液のいずれか |
| 結果の報告書 | 結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。 |
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、検体の採り方は遺伝カウンセリングでご案内します。
\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご自身とご家族のこれからの計画に /
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。結果は臨床遺伝専門医が直接ご説明してから、マイページにアップします。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【病名が決まれば、次の一手が決まる】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
結合組織の病気は、関節がやわらかい、背が高い、皮膚が伸びるといった「体質」に見える特徴の中に隠れていることがあります。そして大動脈の病気は、多くの場合、何の前ぶれもなく進みます。同じ「大動脈瘤」でも、原因の遺伝子によって手術を考える太さの目安が違う。これは、遺伝子を調べてはじめて言えることです。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。ご両親に変化がなく、お子さんの代で新しく起きることも珍しくない病気です。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 結合組織疾患とは何ですか?混合性結合組織病とは違いますか?
このページの「遺伝性の結合組織疾患」は、コラーゲンや弾性線維など体を支える組織をつくる遺伝子の変化で起こる病気で、マルファン症候群・ロイス・ディーツ症候群・エーラス・ダンロス症候群などが含まれます。混合性結合組織病は膠原病(自己免疫の病気)のひとつで、別の病気です。この遺伝子検査では混合性結合組織病は調べません。
Q2. 大動脈解離は遺伝しますか?遺伝する確率は?
一部は遺伝します。マルファン症候群ではない胸部大動脈瘤の患者さんの21.5%に家系内で遺伝するパターンがみられたという研究があります。マルファン症候群・ロイス・ディーツ症候群・家族性胸部大動脈瘤の多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、原因をもつ親からお子さんへ、1人ごとに2分の1の確率で伝わります。ただし症状の重さは人によって違います。
Q3. 若い人が大動脈解離を起こす原因は何ですか?
大動脈解離の国際的な登録研究では、40歳未満の方は40歳以上の方に比べて、マルファン症候群、大動脈二尖弁、大動脈の手術歴がある方が多く、高血圧の方は少なかったと報告されています。60歳未満での発症や血縁者の大動脈の病気は、遺伝性を疑う手がかりとして米国のガイドラインに挙げられています。
Q4. 過可動型エーラス・ダンロス症候群はこの検査でわかりますか?
わかりません。過可動型は今のところ原因遺伝子が見つかっておらず、診断は症状と診察で行います。この検査では、過可動型以外の12の病型の原因遺伝子をすべて調べられるため、血管型などほかの型が隠れていないかを確かめる目的で役立ちます。
Q5. マルファン症候群の検査と、このパネルのどちらを受ければよいですか?
胸部大動脈瘤・解離が中心で、皮膚や関節の症状が目立たない場合は、大動脈の遺伝子を多く含むマルファン症候群・胸部大動脈瘤解離の遺伝子検査(39遺伝子)が向いています。大動脈に加えて皮膚・関節・骨・目の症状があり、病名を絞れない場合は、このパネル(63遺伝子)が向いています。
Q6. 費用と、結果までの日数を教えてください。
検査費用は330,000円(税込)、結果までは3〜5週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q7. 症状のない家族も検査を受けられますか?
受けられます。ご家族の中で原因の変化がわかっていれば、同じ場所を調べて受け継いでいるかを確かめられます。症状のない方の検査は発症前の検査になるため、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味を十分に考えていただきます。知らないでいる選択も尊重します。
Q8. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。PGT-Mの準備には、ふつうご本人の結果だけでなくご家族の検体も必要になるため、ご家族の遺伝子検査も含めて遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
🧬 一度の検査で、血管とご家族のこれからに備える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。結合組織の病気の原因がわかれば、大動脈の定期検査や手術の目安、使う薬を遺伝子に合わせて考えられ、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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