InstagramInstagram

TGFBR1遺伝子とは? TGF-βシグナルの司令塔とロイス・ディーツ症候群・がんとの関わりを遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

TGFBR1遺伝子は、細胞どうしが情報をやりとりする「TGF-βシグナル」を細胞の外から中へ伝える受信アンテナ(受容体)の設計図です。この1つの遺伝子の変化が、大動脈がもろくなるロイス・ディーツ症候群から、自然に治る不思議な皮膚がん、さらには多くの人が持つ「がんになりやすさ」の体質まで、まったくスケールの違う現象につながっています。本記事では、TGFBR1の働きと関連する病気、遺伝のしくみ、検査までを、一般の方にもわかるように臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 TGF-βシグナル・結合組織・遺伝医療
臨床遺伝専門医監修

Q. TGFBR1遺伝子とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. TGFBR1は、細胞の増殖や組織づくりを調整する「TGF-βシグナル」を細胞の外から中へ伝える受容体(別名ALK5)の設計図です。この遺伝子に変化が起きると、アミノ酸が置き換わる変異では大動脈瘤を起こすロイス・ディーツ症候群、タンパク質を作れなくなる変異では自然に治る皮膚がん(MSSE)という、まったく異なる病気につながります。多くは常染色体顕性遺伝で、約25%は親になく子で初めて生じる新生変異(de novo変異)です。

  • 遺伝子の正体 → TGF-βシグナルを細胞内へ伝える1型受容体(ALK5)の設計図。9番染色体9q22.33にあり、503個のアミノ酸からなるタンパク質を作る
  • 主な関連疾患 → アミノ酸が変わるミスセンス変異でロイス・ディーツ症候群1型(大動脈瘤・全身の結合組織の弱さ)
  • もう一つの顔 → タンパク質を作れなくする変異で、多発性自然治癒性扁平上皮癌(MSSE)という「自然に治る皮膚がん」
  • ありふれた体質 → TGFBR1*6Aは約7人に1人が持つ一般的な多型。がんとの関連は研究で結論が一致していない
  • 遺伝と検査 → 常染色体顕性遺伝で、約25%は新生変異。出生前のNIPTや出生後の遺伝子パネル検査で調べられる

\ 結合組織疾患・遺伝子診断について専門医に相談したい方へ /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

出生前診断・遺伝子検査に関するご相談:遺伝子検査について

1. TGFBR1遺伝子とは:場所・構造・基本情報

TGFBR1(Transforming Growth Factor Beta Receptor 1)は、私たちのからだの中で「トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)」という重要な情報物質を受け取る受容体タンパク質の設計図となる遺伝子です。このタンパク質は別名ALK5(Activin receptor-like kinase 5)とも呼ばれ、TGF-βの「1型受容体」として働きます[1]

TGFBR1遺伝子は、9番染色体の長腕、9q22.33という場所に位置しています。遺伝子全体はおよそ4万9千塩基対にわたる広い領域を占め、9つのエクソン(タンパク質の情報が書かれた部分)から構成されています。そこから作られる受容体タンパク質は503個のアミノ酸からできており、細胞の外でTGF-βを受け取る部分(細胞外ドメイン)、細胞膜を1回貫く部分、そして細胞の中で情報を次に伝える「キナーゼ」と呼ばれる酵素部分(細胞内ドメイン)という、機能的に整理された3つの領域を持ちます[2]

💡 用語解説:受容体(じゅようたい)とキナーゼ

受容体とは、細胞の表面にある「受信アンテナ」のようなタンパク質で、外から来た特定の信号物質(ここではTGF-β)を受け取る役割を持ちます。キナーゼとは、相手のタンパク質に「リン酸」という小さな目印を付ける酵素で、この目印付け(リン酸化)がスイッチのオン・オフとして信号を次々に伝えていく仕組みです。TGFBR1は受容体でありながらキナーゼでもある、信号伝達の「スイッチ役」なのです。

TGFBR1の発現には強い臓器の偏りがなく、血管・腱・関節・心臓・脳・脂肪組織など全身の幅広い組織で働いています。これは、TGF-βシグナルがからだの発生・組織の修復・恒常性の維持といった基本的なプロセスのいたるところで必要とされていることを反映しています[1]。だからこそ、この遺伝子に変化が起きると、血管・骨格・皮膚といった複数の系統にまたがる影響が現れるのです。

2. TGF-βシグナルの働き:TGFBR1は情報の「中継ハブ」

TGFBR1の働きを理解する鍵は、TGF-βという信号が細胞の外から核の中まで伝わっていく一連の流れにあります。この流れは、いくつものスイッチが順番に入っていく「キナーゼのリレー」として進みます[3]

まずTGF-βが、細胞膜の上で待ち構えている2型受容体(TGFBR2)に結合します。するとそこへ1型受容体であるTGFBR1が呼び寄せられ、TGF-β・TGFBR2・TGFBR1が組み合わさった複合体(ヘテロ四量体)が作られます。次に、TGFBR2がTGFBR1の決まった場所(GSドメイン)にリン酸の目印を付けることで、TGFBR1のキナーゼ活性が完全にオンになります。目覚めたTGFBR1は、細胞内のメッセンジャーであるSMAD2/SMAD3にリン酸を付け、これがSMAD4と手を組んで核へ移動し、たくさんの遺伝子のはたらき方を直接コントロールします。これが「カノニカル(標準)経路」と呼ばれる王道のルートです[3]

TGF-βシグナルの流れとTGFBR1の位置

TGF-β(細胞の外の信号物質)
TGFBR2 + TGFBR1(細胞膜の受容体複合体)

カノニカル経路(王道)

SMAD2/SMAD3 → SMAD4 → 核へ移動
遺伝子のはたらき方を制御(増殖停止・分化など)

非カノニカル経路(迂回路)

MAPK・PI3K/AKT・Rho など
細胞の動き・骨格の作り替え・炎症の調整

TGFBR1は、TGF-βの信号を細胞内へ伝える「分岐点」。SMADを使う王道ルートと、SMADを使わない迂回ルートの両方を起動させる。

TGFBR1の伝える信号は、このSMADを使うルートだけではありません。SMADを介さずにMAPK(ERK・p38・JNK)やPI3K/AKT、Rhoファミリーといったほかのキナーゼのスイッチも入れる「非カノニカル経路」を同時に動かします。これらは細胞の形を変えたり、移動を促したり、炎症を調整したりする役割を担い、後で述べる「がん」や「線維化」の場面で大きな意味を持つようになります[10]

3. ロイス・ディーツ症候群(LDS1):TGFBR1の代表的な病気

TGFBR1のミスセンス変異が引き起こす最も重要な病気が、ロイス・ディーツ症候群(Loeys-Dietz syndrome:LDS)です。LDSは、TGF-β経路の部品を作る複数の遺伝子の変化で起こる結合組織の病気で、そのうちTGFBR1が原因のものは「1型(LDS1)」と分類されます[4][5]

💡 用語解説:ミスセンス変異とは

ミスセンス変異とは、DNAの1文字が変わることで、タンパク質を作る「アミノ酸」が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質は作られますが、形やはたらきが変わってしまうことがあります。LDS1の原因の多くは、TGFBR1のキナーゼ部分やその近くで起こるこのタイプの変異です。「設計図の文字が1つだけ書き換わり、できあがった部品の形が微妙に狂う」とイメージするとわかりやすいでしょう。

LDS1の症状は全身に及びます。なかでも生命に関わるのが血管の病変で、大動脈の根もとがふくらむ大動脈基部拡張や、若くして起こる進行性の大動脈解離・破裂、そして全身の動脈が蛇行(くねくね曲がる)する所見が特徴的です。骨格では側弯症・クモ状指・漏斗胸や鳩胸・関節のゆるみ、頭蓋顔面では眼が離れて見える眼間開離(がんかんかいり)や二分口蓋垂・口蓋裂、皮膚では薄く透けるような皮膚やあざのできやすさなどがみられます。さらに、アレルギーや喘息、好酸球性食道炎などの炎症性の素因が強いことも知られています[4]

なお、TGFBR1の変化は典型的なLDSの全身像をそろえず、大動脈瘤・大動脈解離だけが前面に出る「非症候性の家族性胸部大動脈瘤・解離」として現れることもあり、血管型エーラス・ダンロス症候群やマルファン症候群と症状が重なることもあります[5]。見た目の特徴が乏しくても、若くして大動脈に病変がある場合は遺伝子の関与を考えることが大切です。

「TGF-βパラドックス」という不思議な現象

LDSの病態には、専門家を長く悩ませてきた逆説(パラドックス)があります。試験管の中で調べると、LDSを起こすTGFBR1の変異は受容体のはたらきを「失わせる(機能喪失型)」ように見えます。ところが実際の患者さんの大動脈の壁や動物モデルでは、逆に下流のSMAD2/3が過剰に活性化(亢進)しているのです。これが「TGF-βパラドックス」と呼ばれる現象です[6]

💡 用語解説:機能喪失型と「亢進」が同居する仕組み

変異した受容体は最初うまく働けず、血管の壁がもろくなります。からだはそれを補おうとTGF-βという信号物質をたくさん出すようになり、残っている正常な受容体を通してかえって信号が強まる——という「補償の悪循環」が起こると考えられています。さらに血圧を上げるアンジオテンシンII(AT1R)の信号も巻き込まれて悪循環を強めます。つまり「部品は弱いのに、全体としては信号が出すぎる」という一見矛盾した状態になるのです。

この仕組みの解明は、治療に大きな前進をもたらしました。失われた機能を補うのではなく、高まりすぎたアンジオテンシン受容体(AT1R)の信号を、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬、ロサルタンなど)でブロックすることで、大動脈病変の進行を抑える戦略が確立されつつあります[6]。原因の根っこを分子レベルで理解することが、新しい治療の扉を開いた好例です。

ロイス・ディーツ症候群は「複数の遺伝子」で起こる

LDSはTGFBR1だけでなく、TGF-βシグナルの仲間の遺伝子の変化でも起こります。原因遺伝子ごとに番号が割り当てられており(近年は番号分類を重視しない流れもあります)、TGFBR1は「1型」にあたります[7]。下の表は、LDSを起こす主な遺伝子と、TGFBR1とのつながりを整理したものです。

原因遺伝子 LDSの型 TGF-β経路での役割
TGFBR1(本記事) LDS1(1型) 信号を受け取る1型受容体(ALK5)
TGFBR2 LDS2(2型) TGFBR1を活性化する2型受容体(姉妹遺伝子)
SMAD3 LDS3(3型) TGFBR1の下流で核へ信号を運ぶ(変形性関節症の合併が特徴)
TGFB2 / TGFB3 LDS4 / LDS5 TGFBR1が受け取る信号物質(リガンド)そのもの
SMAD2 LDS6(6型) SMAD3とともに核へ信号を運ぶメッセンジャー
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「血管の脆さ」は遺伝で説明できることがあります】

大動脈瘤や大動脈解離は、生活習慣だけが原因と思われがちですが、TGFBR1のような遺伝子の変化が背景にあることがあります。臨床遺伝専門医として、また成人の内科を診る立場から、若くして大動脈に病変が見つかった方やそのご家族にお会いすると、その奥にある「結合組織の設計図」に目を向ける大切さを感じます。

ロイス・ディーツ症候群の難しさは、同じ遺伝子の変化を持つご家族でも、症状の重さが大きく違う点にあります。だからこそ「見つかった=必ずこうなる」と決めつけず、画像でのフォローや日常の注意点を、おひとりおひとりの状況に合わせて一緒に整理していくことが、遺伝カウンセリングの役割だと考えています。

4. 自然に治る皮膚がん(MSSE):TGFBR1のもう一つの顔

TGFBR1には、LDS1とはまったく別の顔があります。タンパク質そのものを作れなくする変異が起こると、多発性自然治癒性扁平上皮癌(MSSE)、別名ファーガソン・スミス病という、珍しい皮膚の病気の素因になります[5]。LDS1がミスセンス変異(形が狂う変異)で起こるのに対し、MSSEはタンパク質の産生を完全に止めてしまう「機能欠失」変異が原因という、対照的な関係にあります。

💡 用語解説:ナンセンス変異と「2つのヒット」

ナンセンス変異とは、タンパク質の合成を途中で止める「ストップ信号」が本来より早く現れてしまう変異で、その遺伝子は正常なタンパク質を作れなくなります。

私たちは遺伝子を父・母から1本ずつ、計2本持っています。MSSEの方は生まれつき片方のTGFBR1に変異を持っていますが(1つ目のヒット)、もう片方が正常なら問題は起きません。ところが特定の皮膚細胞で、後から残りの正常な方も壊れる体細胞変異(2つ目のヒット)が起こると、その細胞ではTGF-βの「ブレーキ」が完全に失われます。これが「2ヒット説(ツーヒット仮説)」です。

正常な皮膚では、TGF-βシグナルは細胞の増殖を強力に止めるがん抑制遺伝子のブレーキとして働いています。TGFBR1が完全に失われるとこのブレーキが効かなくなり、多数の皮膚がん(扁平上皮癌)ができてしまいます。ところがMSSEで最も不思議なのは、こうしてできた腫瘍が、最終的に治療なしで自然に消えていく(自然退縮する)という点です[5]。この自然治癒の正確な仕組みはまだ完全には解明されていませんが、腫瘍の周りで起こる免疫の働きや、別のブレーキ経路が代わりに働く可能性が考えられています。

5. TGFBR1*6A:多くの人が持つ「ありふれた体質」

ここまでは珍しい病気の話でしたが、TGFBR1には健康な人にもよく見られる、ありふれた変化(多型)があります。それが「TGFBR1*6A」です。これは遺伝子の一部にある「アラニン」というアミノ酸の繰り返し配列が9個から6個に短くなったもので、健康な人のおよそ7人に1人が持っていると報告されています[9]

💡 用語解説:多型(たけい)と「低浸透度」

多型とは、集団の中にふつうに見られる遺伝子の個人差のことで、それ自体は「病気」ではありません。TGFBR1*6Aのように「持っているとわずかにリスクが上がるかもしれないが、持っていても発症しない人がほとんど」というタイプを低浸透度(ていしんとうど)の体質因子と呼びます。BRCAのような「強い」がん遺伝子とは性質がまったく異なり、影響は弱くて確率的です。

TGFBR1*6Aは、TGF-βの「ブレーキ」の効きがやや弱まる変化で、乳がん・卵巣がん・大腸がんなどとの関連が研究されてきました。複数の研究をまとめた解析では、この多型を持つ人でがんのリスクがわずかに高い傾向が示された一方で[8]研究によって結果が一致せず、関連は明確でないとする報告も少なくありません[9]。つまり現時点では「持っているからといって過度に心配する必要はないが、研究上は注目されている体質」と理解するのが正確です。一般的な遺伝子検査でこの多型だけを調べて一喜一憂する段階にはなく、解釈には専門的な視点が必要です。

6. がんとの二面性:ブレーキにもアクセルにもなる

がんの世界では、TGFBR1が伝えるTGF-βシグナルは「諸刃の剣」として有名です。がんのごく初期には、TGF-βは細胞の増殖を止めてアポトーシス(計画的な細胞死)を促す強力ながん抑制因子(ブレーキ)として働きます[10]

ところが、がんが進行して他の異常を蓄積すると、同じシグナルが逆に腫瘍を後押しするアクセルへと役割を変えてしまいます。がん細胞が原発巣から離れて転移する準備をする「上皮間葉移行(EMT)」を促し、さらに免疫の攻撃から逃れる手助けまでするのです[10]

💡 用語解説:上皮間葉移行(EMT)

上皮間葉移行(EMT)とは、ふだんはおとなしく定位置にいる「上皮細胞」が、動き回って組織にしみ込んでいける「間葉系細胞」のような性質に変わる現象です。本来は胎児の発生や傷の修復に必要なプロセスですが、がんではこれが悪用され、がん細胞が原発巣を離れて転移する第一歩になってしまいます。TGFBR1はこのEMTを強力に引き起こすスイッチの一つです。

この二面性ゆえに、TGFBR1(ALK5)を狙った薬の開発も世界的に進められています。受容体のはたらきを止める低分子薬「ガルニセルチブ」などが研究され、骨髄異形成症候群(MDS)を対象とした臨床試験[11]や、免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)との併用試験[12]が行われてきました。ただしこれらは研究・開発段階であり、TGFBR1遺伝子の説明としては「がん治療の標的としても注目されている」という位置づけにとどめておくのが正確です。

7. 遺伝のしくみと検査:出生前・出生後で分けて理解する

TGFBR1に関連する病気の多くは常染色体顕性遺伝(旧称:優性遺伝)という形式をとります。さらにLDSでは、患者さんの約75%は親から受け継ぎ、約25%は親になく子で初めて生じる新生変異(de novo変異)で発症します[4]

💡 用語解説:常染色体顕性遺伝・浸透率・表現度

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)とは、2本ある遺伝子のうち片方に変化があるだけで体質や病気が現れるしくみで、子へ受け継がれる確率は理論上50%です。

ただしLDSでは、変異を持っていても症状が出にくいことがあり(不完全浸透)、出ても重さが家族の中で大きく違うことがあります(表現度の多様性)。「変異がある=同じように発症する」とは限らない点が、説明を難しくしている理由です。

出生前の検査と出生後の検査

遺伝子検査は「出生前」と「出生後」で目的も方法も異なります。混同しないよう、分けて理解しておきましょう。

🤰 出生前の検査

非侵襲的スクリーニング:NIPT。とくにインペリアルプランは154遺伝子218疾患を対象とし、その中にTGFBR1も含まれます。LDSは新生変異で起こることがあるためスクリーニングの対象になり得ます。

確定検査:絨毛検査・羊水検査+ターゲット遺伝子解析

🧑‍⚕️ 出生後の検査

遺伝子パネル検査:血液を用いたロイス・ディーツ症候群NGSパネル

幅広い結合組織疾患を含めて調べる:結合組織疾患NGSパネル(マルファン・EDSなども対象)

出生前にNIPTを受けて陽性となった場合は、確定検査(羊水検査・絨毛検査)が次の選択肢になります。当院では互助会(8,000円)により、陽性となって確定検査に進む際の費用が補助されますので、結果を受けて必要な検査に経済的な心配なく進むことができます。互助会(カトレア会)の詳細はこちらをご覧ください。

⚠️ LDSは症状の重さが人によって大きく異なり、出生前に見つけることが常にご家族の利益になるとは限りません。検査を受けるかどうかは、十分な遺伝カウンセリングのもとで、ご家族が主体的に決めることが何より大切です。私たちは情報をお伝えする立場であり、特定の選択を勧めることはありません。

遺伝カウンセリングが果たす役割

TGFBR1の変化が見つかった場合、遺伝カウンセリングが欠かせません。臨床遺伝専門医とともに、次のような点を整理していきます。

  • 遺伝形式と再発リスク:常染色体顕性遺伝のため子へ受け継がれる確率は理論上50%。ただし約25%は新生変異で、家族歴がないことも多い
  • 浸透率・表現度の多様性:同じ変異でも症状が出ない人や軽い人がいること
  • 定期的なフォローの重要性:とくに大動脈の画像検査による経過観察
  • ご家族・次のお子さんへの対応:出生前診断の選択肢や心理社会的サポート

8. よくある誤解

誤解①「TGFBR1の変異=必ず重い病気」

TGFBR1の変化には幅があります。ミスセンス変異はLDS1、機能欠失変異はMSSEと病気が異なり、さらにTGFBR1*6Aのように多くの人が持つありふれた多型もあります。変異の種類によって意味はまったく違います。

誤解②「親に病気がなければ子も安心」

LDSの約25%は新生変異(de novo変異)で起こります。両親に同じ変異がなくても、子で初めて生じることがあり、家族歴がないからといって否定はできません。

誤解③「TGFBR1*6Aがあるとがんになる」

TGFBR1*6Aは約7人に1人が持つありふれた体質で、がんとの関連は研究によって結果が一致していません。持っているからといって発症が決まるわけではなく、過度な心配は不要です。

誤解④「TGF-βシグナルはいつも悪者」

TGF-βシグナルはがんの初期にはブレーキとして働く大切な仕組みです。状況によってブレーキにもアクセルにもなる「二面性」が特徴で、一方的に悪者とは言えません。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「ありふれた体質」と「まれな病気」、両方を見つめて】

TGFBR1という1つの遺伝子が、ロイス・ディーツ症候群という生命に関わるまれな病気から、多くの人が持つTGFBR1*6Aという「ありふれた体質」まで、まったくスケールの違う話につながっているのは、遺伝医学の奥深さそのものだと感じます。同じ遺伝子でも、変異の種類が変わるだけで意味がこれほど変わるのです。

臨床遺伝専門医として大切にしているのは、検査結果という「情報」を、その方の人生にとって意味のある「判断」に翻訳するお手伝いをすることです。TGFBR1のように解釈が一筋縄でいかない遺伝子こそ、数字の裏にある意味を、ご本人やご家族と一緒にていねいに考える時間が必要だと思っています。この記事が、TGFBR1という遺伝子を理解する一助になれば幸いです。

よくある質問(FAQ)

Q1. TGFBR1遺伝子は何をする遺伝子ですか?

TGFBR1は、細胞の増殖や組織づくりを調整する「TGF-β」という信号物質を受け取る受容体(別名ALK5)の設計図です。受け取った信号を細胞の中へ伝える「中継ハブ」として働き、からだの発生・組織の修復・恒常性の維持など、生命の基本的なプロセスに広く関わっています。

Q2. TGFBR1に変異があると必ずロイス・ディーツ症候群になりますか?

いいえ、必ずしもそうではありません。まず変異の種類が重要で、アミノ酸が変わるミスセンス変異はLDS1と関連しますが、タンパク質を作れなくする変異はMSSE(自然に治る皮膚がん)と関連します。さらにLDSは不完全浸透・表現度の多様性があり、同じ変異でも症状が出ない人や軽い人がいます。実際にどうなるかは個別性が大きいため、遺伝カウンセリングでの確認が大切です。

Q3. 親に病気がないのに子どもがロイス・ディーツ症候群になることはありますか?

あります。LDSの約25%は、両親にはない変異が子で初めて生じる「新生変異(de novo変異)」によって発症します。そのため家族歴がまったくない場合でも起こり得ます。残りの約75%は親から受け継ぐ形で発症します。

Q4. TGFBR1*6Aを持っているとがんになりますか?

TGFBR1*6Aは約7人に1人が持つありふれた多型で、それ自体は病気ではありません。乳がん・卵巣がん・大腸がんとの関連が研究されてきましたが、研究によって結果が一致しておらず、関連は明確ではありません。持っているからといって発症が決まるわけではなく、過度に心配する必要はありませんが、解釈には専門的な視点が必要です。

Q5. TGFBR1の検査はどのように受けられますか?

出生前と出生後で方法が異なります。出生前はNIPT(インペリアルプランは154遺伝子218疾患をカバーし、TGFBR1も含みます)でスクリーニングし、陽性なら羊水検査・絨毛検査で確定します。出生後は血液を用いたロイス・ディーツ症候群NGSパネルなどで調べます。いずれも遺伝カウンセリングとセットで受けることをおすすめします。

Q6. TGFBR1とTGFBR2・SMAD3はどう違うのですか?

いずれもTGF-βシグナルの仲間の遺伝子で、ロイス・ディーツ症候群の原因になります。TGFBR1は信号を受け取る1型受容体(LDS1)、TGFBR2はTGFBR1を活性化する2型受容体(LDS2)、SMAD3はその下流で核へ信号を運ぶメッセンジャー(LDS3)です。経路の「どの部品か」が違うだけで、最終的に似た病気を起こします。

Q7. ミネルバクリニックではTGFBR1に関連する病気の治療もできますか?

当院は臨床遺伝専門医が、原因遺伝子の同定(遺伝子検査)と遺伝カウンセリングを担当する役割を担っています。ロイス・ディーツ症候群の大動脈病変の手術やお子さんの管理など専門的な治療は、循環器・心臓血管外科・小児の専門施設と連携して進めます。診断と、その後の選択肢を整理するご相談からお手伝いします。

🏥 結合組織疾患・遺伝子診断のご相談

ロイス・ディーツ症候群をはじめ
TGFBR1に関連する遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] TGFBR1 transforming growth factor beta receptor 1 [Homo sapiens]. NCBI Gene (Gene ID: 7046). [NCBI Gene]
  • [2] TGFBR1 – TGF-beta receptor type-1 (Homo sapiens). UniProt (P36897). [UniProt P36897]
  • [3] TGFBR1 gene. MedlinePlus Genetics, NLM. [MedlinePlus]
  • [4] Loeys-Dietz Syndrome. GeneReviews®, NCBI Bookshelf. [GeneReviews NBK1133]
  • [5] Loeys-Dietz Syndrome 1; LDS1. OMIM #609192. [OMIM 609192]
  • [6] Unique Mechanism by Which TGFBR1 Variants Cause 2 Distinct Disorders. PMC. [PMC7897567]
  • [7] A mutation update on the LDS-associated genes TGFB2/3 and SMAD2/3. PMC. [PMC5947146]
  • [8] TGFBR1*6A and cancer risk: a meta-analysis of seven case-control studies. PubMed. [PubMed 12947057]
  • [9] TGFBR1*6A as a modifier of breast cancer risk and progression. PMC. [PMC9296458]
  • [10] TGF-β Signaling in Cancer: Mechanisms of Progression and Therapeutic Targets. Int. J. Mol. Sci. (MDPI). [MDPI IJMS]
  • [11] Phase II Study of the ALK5 Inhibitor Galunisertib in Very Low-, Low-, and Intermediate-Risk Myelodysplastic Syndromes. PubMed. [PubMed 31481511]
  • [12] A Study of Galunisertib (LY2157299) in Combination With Nivolumab. ClinicalTrials.gov (NCT02423343). [ClinicalTrials.gov]

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移