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「背が高くて手足が長い体型で、マルファン症候群が疑われたものの、それだけでは説明しにくい症状がある」——こうした場合には、マルファン症候群と表現型が重なる別の遺伝性結合組織疾患も鑑別する必要があります。ロイス・ディーツ症候群4型(LDS4)は、TGFB2遺伝子の変化によって起こる、全身の結合組織にかかわるまれな病気です。マルファン症候群と共通する身体的特徴がありますが、大動脈だけでなく全身のあちこちの血管に瘤(こぶ)ができやすく、比較的若いうちに大動脈解離を起こすリスクがあることが重要な特徴です。そのため、適切に診断し、生涯にわたって血管病変を評価・管理することが重要です。この記事では、原因のしくみ、症状、類似疾患との鑑別、生まれる前にNIPTで何がわかるのか、最新のガイドラインに基づく管理までを解説します。
🧬Q. ロイス・ディーツ症候群4型(LDS4)とは?
1番染色体にあるTGFB2遺伝子の変化で起こる、常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織の病気です。大動脈瘤・大動脈解離をはじめ、全身の血管に瘤や蛇行(くねくね曲がること)が生じやすく、高身長・クモ状指などマルファン症候群に似た体型を示します。
🩺Q. どんな特徴がありますか?
LDS1・LDS2型と比べて顔つきの特徴(眼と眼が離れる、口蓋裂など)は軽いことが多く、その分マルファン症候群と間違われやすいのが要注意点。一方で、大動脈以外の枝分かれ動脈にも瘤ができ、比較的若い年齢で解離が起こりうる点は他のLDSと共通します。
🌸Q. NIPTで調べられますか?
染色体の数を調べる従来のNIPTではわかりませんが、単一遺伝子を調べる当院のインペリアルプランにはTGFB2が含まれています。NIPTはスクリーニング検査のため、陽性の場合には羊水検査・絨毛検査などによる確認が必要です。
1. ロイス・ディーツ症候群4型(LDS4)とは:まず全体像をつかむ
ロイス・ディーツ症候群(Loeys-Dietz syndrome、以下LDS)は、心臓や血管、骨格、顔かたち、皮膚など、全身の「結合組織」に広く影響が及ぶ遺伝性疾患です[1]。TGFB2を含む主要6遺伝子によるLDSは常染色体顕性(優性)遺伝で、IPO8の両アレル性病的バリアントによるLDS7は常染色体潜性(劣性)遺伝です[8]。2005年に、臨床遺伝学者のバート・ロイス博士とハリー・ディーツ博士らが「新しい症候群」として初めて報告しました[1]。それまでは、マルファン症候群や血管型エーラス・ダンロス症候群の「少し変わった型」として診断されることが多かったのですが、独自の分子メカニズムと、より攻撃的な血管の病変をもつ、まったく別の病気として確立されたのです。
LDSは、原因となる遺伝子によって従来1型から6型までに分類されてきましたが、現在はIPO8の両アレル性病的バリアントによるLDS7も知られています。このうちロイス・ディーツ症候群4型(LDS4、OMIM 614816)は、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)というシグナルの「リガンド(合図となる物質)」そのものを作る、1番染色体(1q41)にあるTGFB2遺伝子の変化によって起こります[2][13]。原因遺伝子TGFB2そのものの詳しい分子生物学については、TGFB2遺伝子の解説ページでより深く扱っています。あわせてお読みいただくと理解が立体的になります。
LDS4がやっかいなのは、見た目がマルファン症候群にとてもよく似ていて、しかも顔つきの特徴が軽いために、長く「マルファン症候群」と考えられてしまうことがある点です[2]。高身長、クモ状指(細く長い指)、漏斗胸(ろうときょう)といった骨格の特徴が前面に出るため、血管の危険性が見過ごされやすいのです。ですが、LDS4はLDSの仲間である以上、大動脈以外の枝分かれ動脈にまで瘤や解離が広がる、というLDS特有の強い血管リスクを内側に抱えています。だからこそ、正確な遺伝学的診断と、病気の型に合わせた見守りが命を左右するのです[8]。診療の現場では、「マルファン症候群として何年も通っていた方が、遺伝子検査ではじめてLDS4とわかった」という経過を、私は何度も経験してきました。
💡 用語解説:結合組織とは
結合組織は、体のあちこちで「つなぎ」「支え」「クッション」の役割をはたす組織の総称です。血管の壁、骨や関節、皮膚、じん帯などがこれにあたります。ここに含まれるコラーゲンやエラスチン(弾力をもつ繊維)がうまく作られないと、血管の壁がもろくなったり、関節がゆるくなったりします。LDS4は、この結合組織の「土台」がうまく作られなくなる病気で、影響が全身に及ぶのが特徴です。
2. 原因遺伝子TGFB2と「TGF-βパラドックス」のしくみ
TGFB2遺伝子は、TGF-β2という「合図の物質(リガンド)」の設計図です[2]。TGF-βシグナルは、細胞がふえる・分かれる・役割を決める・不要な細胞が消える、といった働きや、血管の壁や骨・顔かたちを作る過程で、中心的な役割をはたしています。合図の物質が細胞表面の受け手(受容体:TGFBR1・TGFBR2)にくっつくと、細胞の中のSMAD2/SMAD3というタンパク質が活性化し、核の中まで指令が伝わって、必要な遺伝子のスイッチが切り替わります。この一連の流れが、血管の壁を丈夫に保つのに欠かせません。

ここで、LDSの理解でいちばん不思議で、いちばん大切なのが「TGF-βパラドックス(逆説)」という考え方です[14]。TGFB2関連LDSでは、ハプロ不全などTGF-β2の機能低下につながる病的バリアントが多く報告されています。ふつうに考えれば「シグナルが減る病気」のように見えます。ところが、実際の患者大動脈組織やモデルでは、下流のSMAD2/3リン酸化やTGFB1/TGFB2発現の増加など、TGF-βシグナル活性の増強を示す所見が観察されています。なぜ機能低下型の変化から組織レベルでシグナル増強が生じるのかは完全には解明されておらず、代償性フィードバックや非標準経路など複数の機序が考えられています[14]。
💡 用語解説:機能喪失型(Loss-of-Function)変異
遺伝子の変化のうち、そのタンパク質の働きが弱くなったり、なくなったりするタイプを「機能喪失型」と呼びます。TGFB2関連LDSでは、TGF-β2の量や機能が低下するハプロ不全などが主要な病因機序です。ふしぎなことに、患者大動脈組織では下流のTGF-βシグナル活性が増強している所見がみられます。この逆説がどのように生じるかは完全には解明されておらず、単純に「不足を埋め合わせた結果」とだけ説明できるものではありません。
TGFB2関連LDSの大動脈では、弾性線維の断裂や細胞外マトリックスの異常とともに、TGF-βシグナル活性の増強を示す所見が報告されています[14]。こうした知見を背景に、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB/代表薬ロサルタンなど)やβ遮断薬が、大動脈壁への血行力学的負荷を減らす目的で用いられます。ARBにはTGF-β関連シグナルへ影響する可能性も示されていますが、LDS4における薬剤間の優劣を確立した比較試験は十分ではありません[15]。なお、カムラチ・エンゲルマン病はTGFB2ではなくTGFB1遺伝子の病的バリアントによる疾患で、TGFB2による別疾患ではありません。
遺伝子の「まるごとの欠け」で起こるタイプもある
LDS4は、TGFB2の1文字だけの変化(点変異)だけでなく、TGFB2を含む「1q41という領域の小さな欠け(微小欠失)」によっても起こることが分かっています[13]。とくに、この微小欠失をもつ患者さんの一部では、通常のLDSでは目立たない筋緊張の低下(体がやわらかい)や運動・ことばの発達のゆっくりさがみられることが報告されています[18]。ふつうのLDS4では知的発達は正常なことが一般的なので、この「微小欠失のタイプ」は、発達面の見守りが追加で必要になる特別なグループとして知っておく価値があります[8]。
3. 主な症状:全身の血管・骨格・皮膚に及ぶ
LDS4の症状は全身に及び、その重さや現れる時期は、同じ家族の中で、同じ遺伝子の変化を持っていても、人によって大きく異なることがあります[2]。ここでは、主な症状を器官ごとに整理します。下の一覧図で全体像をつかんでから、詳しい説明をお読みください。
🫀 心臓・血管(最重要)
- ➤大動脈基部の瘤・大動脈解離
- ➤枝分かれ動脈(頭・首・お腹など)の瘤
- ➤動脈の蛇行(くねくね曲がる)
- ➤僧帽弁の異常、先天性心疾患を伴うことも
🦴 骨格・体型
- ➤高身長・手足が長い(マルファン様)
- ➤クモ状指、漏斗胸・鳩胸
- ➤側弯症、関節のゆるさ、扁平足
- ➤頸椎(首の骨)の不安定性に注意
👤 顔かたち(軽いことが多い)
- ➤下顎後退、高口蓋
- ➤眼と眼が離れる(軽度・一部)
- ➤二分口蓋垂(一部)
- ➤頭蓋骨縫合早期癒合は原則みられない
🧴 皮膚・免疫・その他
- ➤薄く透けやすい皮膚、あざができやすい
- ➤アレルギー・喘息・消化管の炎症
- ➤ヘルニア(再発しやすい)
- ➤気胸(肺のブラ破裂)
いちばん命にかかわるのは「血管」
LDS全体を通じて、命にいちばんかかわるのは血管の病変です[8]。心臓から全身に血液を送り出す大動脈の付け根(バルサルバ洞)が拡がって瘤になりやすく、そこに解離(血管の壁が裂けること)が起こると命に直結します。マルファン症候群では、瘤がおもに大動脈の本幹にとどまりやすいのに対し、LDSでは、大動脈だけでなく、首・頭の中・お腹などの枝分かれした中くらいの動脈にまで瘤や解離が広がりうるのが大きな違いです[8]。実際、LDSの患者さんの約半数は、心臓のエコー(超音波)だけでは見つけられない、大動脈から離れた場所に瘤をもっているとの報告があります[8]。
また、首や頭の中の血管がくねくねと蛇行する所見(動脈蛇行)は、LDSを強く疑う手がかりになります[2]。ここで大切なのは、TGFB2変異によるLDS4は、TGFBR1/TGFBR2変異による古典的なLDS(1型・2型)と比べると、大動脈の病変の進み方がいくぶんゆるやか(less aggressive)で、瘤が見つかるのが30代後半〜40代と比較的遅い傾向がある、というデータがあることです[5]。ただし、「ゆるやか」は「安全」ではありません。小児期や若年での致死的な解離の報告もあり、油断せず生涯にわたって血管を見守ることが欠かせません[5]。
骨格・皮膚・アレルギー、そして注意すべき「首の骨」
骨格では、高身長・クモ状指・漏斗胸・側弯症など、マルファン症候群とよく似た特徴が現れます[2]。皮膚は薄く透けやすく、あざができやすい、傷あとが広がりやすいといった、結合組織のもろさを反映する所見がみられます。さらにTGF-βシグナルは免疫にも関わるため、食物・環境アレルギー、喘息、湿疹、好酸球性の消化管の炎症や炎症性腸疾患を起こしやすい体質を伴うことがあります[8]。
⚠️ とくに注意:首の骨(頸椎)の不安定性
LDSでは、首の骨(頸椎)の形の異常やぐらつき(不安定性)がみられることがあります。これは、全身麻酔で口から管を入れるとき(気管挿管)や、スポーツ外傷などの際に、脊髄を傷める危険につながり得ます。そのため、診断時の骨格評価では、首を前後に曲げた状態を含む頸椎レントゲンで不安定性を評価し、とくに気管挿管など首を動かす処置の前には頸椎不安定性の確認が重要です。手術を受けるとき、スポーツを始めるときは、必ず「LDSであること」を主治医・麻酔科医に伝えてください。
4. よく似た病気との違い:マルファン症候群との見分け方
LDS4の診断でいちばん難しいのが、よく似た病気との見分けです[1]。とくにマルファン症候群(FBN1遺伝子)とは体型がそっくりで、臨床の見た目だけで区別するのはほぼ不可能に近いといえます。ほかにも、血管型エーラス・ダンロス症候群(COL3A1)、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群(SKI)、動脈蛇行症候群、家族性胸部大動脈瘤・解離などが鑑別に挙がります[1]。下の表で主な特徴を比べてみましょう。
| 臨床的特徴 | LDS4 (TGFB2) |
LDS1/2 (TGFBR1/2) |
マルファン (FBN1) |
SGS (SKI) |
|---|---|---|---|---|
| 大動脈基部の瘤 | ++ | ++ | +++ | +++ |
| 広範な動脈瘤・蛇行 | ++ | +++ | − | + |
| 水晶体偏位(脱臼) | − | − | +++ | − |
| 頭蓋骨縫合早期癒合 | − | ++ | − | +++ |
| 眼と眼が離れる | + | ++ | − | ++ |
| 二分口蓋垂・口蓋裂 | + | ++ | − | + |
| 知的発達の遅れ | − (微小欠失型は例外) |
− | − | ++ |
(+++ 非常に高頻度/++ 高頻度/+ まれ・軽度/− 原則みられない)出典:[2]。表現度には個人差があります。
見分けのポイントは、「水晶体偏位(目のレンズがずれること)」の有無です[8]。これはマルファン症候群に特徴的で、LDSでは原則みられません。逆に、広い範囲の動脈蛇行や、大動脈以外の枝分かれ動脈の瘤があれば、LDSを強く疑う手がかりになります。ただし近年、LDS4でも水晶体偏位を伴った報告例がまれにあり、両者の重なりの深さが改めて示されています[19]。見た目の特徴だけで断定せず、最終的には遺伝子検査で確かめることが大切です。
5. 遺伝と再発リスク:どう受け継がれるのか
LDS4は常染色体顕性(優性)遺伝という形で受け継がれます[1]。人は遺伝子を父由来・母由来の2つずつ持っていますが、この病気では2つのうち片方に変化があるだけで発症します。そのため、親が病的な変化を持っている場合、子どもに受け継がれる確率は、性別に関係なく妊娠ごとに50%です[2]。
一方で、LDS全体では親から受け継いだのではなく、お子さん本人に初めて生じた「新生突然変異(de novo変異)」による孤発例も少なくありません[2]。これは、精子や卵子ができる過程で、たまたま生じた変化です。つまり、家族に誰も同じ病気の人がいなくても、LDS4である可能性は否定できないということです。ご両親に落ち度があるわけではまったくありません。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)
ご両親のどちらも持っていない遺伝子の変化が、お子さんに「初めて」生じることを指します。多くは精子や卵子ができるときの偶然によるもので、親の生活習慣や努力とは関係ありません。ただし、いったんお子さんが持つと、そのお子さんから次の世代へは50%の確率で受け継がれます。
なお、「LDS4の患者さんの何%が新生突然変異か」という正確な割合は、報告されている症例数がまだ少なく、はっきり確立されていません。LDS全体では新生突然変異の割合が高いとされますが、これは主にTGFBR1/2型のデータに基づく推計です。ご家族の状況によって受け継がれ方や次のお子さんへのリスクは変わってきますので、正確な見積もりは遺伝専門医による遺伝カウンセリングで、おひとりずつ丁寧にお話しします。
6. NIPT・検査・診断:生まれる前と後で何がわかるのか
症状の重なりが大きく、表れ方に個人差があるLDS4では、確定診断には遺伝学的検査が欠かせません[8]。次世代シーケンサー(NGS)という技術を使い、TGFB2をはじめ、TGFBR1・TGFBR2・SMAD2・SMAD3・TGFB3・FBN1・COL3A1など、関連する複数の遺伝子を一度にまとめて調べる多遺伝子パネル検査は、現在よく用いられる有力な方法です。原因の変化を正確に突きとめることは、単に病名を決めるだけでなく、この後の手術のタイミングを決めたり、ご家族の検査を考えたりするうえで、決定的な意味を持ちます[8]。
「ふつうのNIPT」ではLDS4はわからない
ここは多くの方が誤解される点です。一般的なNIPTは、ダウン症(21トリソミー)など主に染色体の数の変化を調べるスクリーニング検査です。LDS4はTGFB2という一つの遺伝子の病的バリアントで起こる「単一遺伝子疾患」なので、染色体数的異常を対象とする一般的なNIPTでは検出対象になりません。
🌸 当院のインペリアルプランはTGFB2を含みます
当院の単一遺伝子まで調べるインペリアルプランには、TGFB2遺伝子が対象として含まれています。同じ鑑別に挙がるマルファン症候群(FBN1)や、他のLDSの原因(TGFBR1・TGFBR2・SMAD3)も対象に含まれるため、体型が似た結合組織疾患のスクリーニングを、採血で一度に検討できます。
ただし、NIPTはあくまでスクリーニング(可能性を調べる)検査であり、確定診断ではありません。陽性の場合は、羊水検査・絨毛検査による確認が必要です。
当院は、検査のスピードよりも「生涯にかかわる検査だからこその正確性」を最優先にしています。必要な領域をターゲット法で精度よく調べる考え方を重視しています。NIPTでは、検査方式にかかわらず胎盤限局性モザイクなどの影響で偽陽性が生じうるため、陽性結果は確定検査で確認することが重要です。臨床遺伝専門医が運営し、カウンセリングから結果説明、陽性後のケア、確定検査まで一貫して行う——この体制は、限られた医療機関にしかない珍しいものです。検査を受けるかどうかも含めて、ご一緒に考えていきます。
日本では「指定難病167」として支援があります
日本では、マルファン症候群とロイス・ディーツ症候群は「指定難病167」として認定されており、診断基準や重症度に応じて医療費助成の対象となります[10]。大動脈基部の拡大(Zスコア≧2.0)や大動脈解離、大動脈以外の動脈病変、骨格・顔つき・皮膚の所見などを組み合わせて診断し、最終的にはTGF-βシグナル系の遺伝子の病的な変化を確認します[20]。経済的な支援を受けられる制度があることは、生涯にわたる見守りを続けるうえで、大きな安心につながります。詳しくは主治医や自治体の窓口にご相談ください。
7. 治療と生涯管理:命を守るためにできること
今のところ、変化した遺伝子そのものを直す根本的な治療法はありません。でも、血圧をていねいにコントロールし、こまめに画像で血管を見守ることで、血管への負担を減らし、適切な時期の予防手術につなげることが重要です[1]。ここが、LDS4という病気に対して私たちがいちばん力を注げるところです。
① 薬による治療
治療の柱は、血圧と心拍を適切に管理し、血管の壁にかかる負担を減らすことです。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB/ロサルタンなど)やβ遮断薬が用いられ、両者を併用することもあります[8]。ARBにはTGF-β関連シグナルへの作用も示唆されていますが、LDSでどの薬剤が最も優れるかを示す比較試験は十分ではなく、血圧・心拍数・年齢・合併症などに応じて選択されます[8]。一方で、鼻づまりの市販薬(血管を収縮させる成分)や一部の片頭痛薬など、血管に負担をかける薬は避けるべきとされています[8]。市販薬を使う前に、必ず主治医に確認してください。
② 全身の血管を「くまなく」見守る画像検査
LDSでは瘤が全身のどこにできるかわからないため、心臓のエコーだけに頼るのは危険です[8]。診断がついたら、まず心エコーで大動脈の付け根を測り、さらに頭から骨盤までの全身の血管をMRA(磁気共鳴血管撮影)またはCTAで一度きちんと調べることが欠かせません[8]。その後も、心エコーは少なくとも年1回、全身のMRA/CTAは少なくとも2年ごとを目安に続け、遺伝子型・家族歴・血管径・拡大速度・既存病変に応じてより短い間隔で行います。とくに若い方やくり返し撮影が必要な方では、放射線を使わないMRAが勧められます。
③ 手術のタイミング:2022年ACC/AHAガイドライン
瘤が一定の大きさに達したら、破裂・解離を防ぐために予防的な手術(大動脈基部の人工血管置換など)を検討します。米国心臓病学会・米国心臓協会(ACC/AHA)の2022年ガイドラインでは、TGFB2変異(LDS4)では、大動脈基部または上行大動脈の最大径が概ね4.5cmに達した時点で手術を考えることが妥当とされています[22]。これは、より進行が速いTGFBR1/TGFBR2変異型で高リスク因子があるときの「4.0cm」という基準よりは、やや大きい径です[22]。
💡 大切な注意:数字はあくまで目安
ここに挙げた「4.5cm」などの数字は、あくまで一般的な目安です。実際には、体格(小柄な方は同じ径でもリスクが高い)、瘤の拡がる速さ、家族歴などを合わせて、経験ある外科医を含む「大動脈チーム」が、患者さんご本人と一緒に決めていくものです。ご自身の場合の判断は、必ず主治医とよく相談してください。弁そのものに大きな傷みがなければ、ご自身の弁を残す「自己弁温存」の手術が選ばれることが多くなっています[8]。
④ 妊娠・出産は「計画」がとても大切
妊娠中は血液の量が増え、ホルモンの影響で血管がやわらかくなるため、妊娠後期から産後にかけて、大動脈解離のリスクが高まります[8]。そのため、妊娠を希望される場合は、事前の血管評価と計画がとても大切です。ガイドラインでは、LDS4で大動脈径が4.5cm以上のときは、妊娠前の予防的手術を検討することが妥当とされています[22]。分娩方法も、血圧が急に上がるのを避けるため、状況に応じて帝王切開が勧められることがあります。妊娠前から、循環器・産科・遺伝の専門家が連携して見守る体制が理想です。
8. よくある誤解
誤解①「マルファン症候群と同じでしょう?」
体型は似ていますが、LDSは大動脈以外の枝分かれ動脈にも瘤ができ、より若く解離しうる点が異なります。マルファン症候群に特徴的な水晶体偏位はLDSでは原則みられません。見分けには遺伝子検査が確実です。
誤解②「LDS4は軽症だから安心」
進行はいくぶんゆるやかとされますが、「ゆるやか」は「安全」ではありません。若年での致死的な解離の報告もあり、生涯にわたる画像での見守りが欠かせません。
誤解③「家族に誰もいないから遺伝病ではない」
お子さん本人に初めて生じる新生突然変異もあります。家族歴がなくてもLDS4は否定できません。ご両親に落ち度があるわけではありません。
誤解④「生まれる前には何も調べられない」
従来のNIPTでは調べられませんが、当院のインペリアルプランにはTGFB2が含まれ、採血でスクリーニングが可能です。ただしNIPTは確定診断ではなく、陽性時は羊水・絨毛検査での確認が必要です。
9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
LDS4は、TGF-βという一つのシグナルの乱れが、血管・骨格・皮膚・免疫にまで広く影響することを示す、結合組織疾患のよいモデルです[2]。長くマルファン症候群と混同されてきましたが、分子診断の進歩により、独立した病気として確かな位置づけを得ました。そしてその理解は、より安全な手術のタイミングや、体質に合わせた見守りへと、着実に結びついています。
この記事が、ご本人やご家族にとって「いま何に気をつければいいのか」を知る一助になればと願っています。同時にお伝えしたいのは、正しく診断し、正しく見守れば、健やかな毎日を長く送れる病気だということです。遺伝的な診断は、あなたを構成する一つの要素であって、あなたのすべてを決めるものではありません。ネットの情報に疲れてしまったら、どうか一人で抱え込まず、一度専門医の話を聞きに来てください。
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よくある質問(FAQ)
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参考文献
- [1] Loeys-Dietz Syndrome – Symptoms, Causes, Treatment. National Organization for Rare Disorders (NORD). [NORD]
- [2] Schepers D, et al. A mutation update on the LDS-associated genes TGFB2/3 and SMAD2/3. Hum Mutat. 2018;39(5):621-634. [PMC5947146]
- [5] Ritelli M, et al. Further delineation of Loeys-Dietz syndrome type 4 in a family with mild vascular involvement and a TGFB2 splicing mutation. BMC Med Genet. 2014;15:91. [PMC4236574]
- [8] Loeys-Dietz Syndrome. GeneReviews® [Internet]. NCBI Bookshelf. [NCBI NBK1133]
- [10] マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群(指定難病167). 難病情報センター. [難病情報センター]
- [13] Loss-of-function mutations in TGFB2 cause a syndromic presentation of thoracic aortic aneurysm. Nature Genetics. 2012. [PubMed 22772368]
- [14] Al Maskari R, et al. A missense TGFB2 variant p.(Arg320Cys) causes a paradoxical and striking increase in aortic TGFB1/2 expression. Eur J Hum Genet. 2017;25(1):157-160. [PMC5149071]
- [15] TGF-β Signaling-Related Genes and Thoracic Aortic Aneurysms and Dissections. International Journal of Molecular Sciences. [Int J Mol Sci]
- [18] Loeys-Dietz syndrome caused by 1q41 deletion including TGFB2 is associated with a neurodevelopmental phenotype. PubMed. 2022. [PubMed 35426477]
- [19] Braverman AC, Blinder KJ, Willing M. Ectopia lentis in Loeys-Dietz syndrome type 4. Am J Med Genet A. 2020;182(10):2443-2445. [PubMed 32462795]
- [20] 167 マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群 診断基準. 難病情報センター. [難病情報センター PDF]
- [22] 2022 ACC/AHA Guideline for the Diagnosis and Management of Aortic Disease. Circulation. 2022. [AHA Journals]
※本記事は一般の方および遺伝診療に関わる方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や検査・治療については、必ず主治医・専門医にご相談ください。



