InstagramInstagram

PADMAL(橋常染色体優性微小血管症・白質脳症)とは?COL4A1遺伝子の変異が脳幹(橋)に起こす遺伝性の脳小血管病

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

PADMAL(橋常染色体優性微小血管症・白質脳症)は、COL4A1遺伝子の3’非翻訳領域(3’UTR)の変異によってIV型コラーゲンが過剰に作られ、脳幹の中央にある「橋(きょう)」に小さな脳梗塞をくり返す、きわめて稀な遺伝性の脳小血管病です。多くは30〜50代に構音障害(ろれつが回りにくい)などで気づかれ、ゆっくりと運動・認知の障害が進みます。MRIで橋にみられる「レーズンパン・サイン」という特徴的な所見と、よく似たCADASILとの違いを知ることが、正しい診断への近道になります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 COL4A1遺伝子・脳小血管病・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. PADMALとはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. COL4A1遺伝子の3’UTRに生じた変異で、血管の土台「IV型コラーゲン」が過剰に作られ、脳幹(橋)を中心に小さな脳梗塞と微小出血をくり返す、成人発症の遺伝性脳小血管病です。常染色体顕性(優性)遺伝で、構音障害・ふらつき・歩行障害などで発症します。虚血(梗塞)と出血の両方が起こりうる点が、治療を難しくする最大の特徴です。

  • 疾患の定義 → OMIM 618564、Orphanet ORPHA:477749、報告は世界で数十家系のみの超希少疾患
  • 分子メカニズム → miR-29というブレーキが効かなくなり、IV型コラーゲンが過剰になる「量の異常」
  • 主な症状 → 橋の反復性ラクナ梗塞、構音障害、進行性の歩行障害・認知機能低下
  • MRI所見 → 橋に散在する「レーズンパン・サイン」が診断の強力な手がかり
  • 鑑別と管理 → CADASILとの違い、抗血栓薬・免疫抑制をめぐる注意点

\ 遺伝性脳小血管病・遺伝子検査について専門医に相談したい方へ /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

遺伝子検査に関するご相談:遺伝子検査について

1. PADMALとは:疾患の定義と歴史的背景

PADMAL(パドマル)は「Pontine Autosomal Dominant Microangiopathy and Leukoencephalopathy」の頭文字をとった名称で、日本語では橋常染色体優性微小血管症・白質脳症とよびます。「橋(Pontine)」は脳幹の中央部にある重要な構造、「微小血管症(Microangiopathy)」は脳の細い血管が傷む病気、「白質脳症(Leukoencephalopathy)」は脳の白質が広く障害される状態を指します。つまり病名そのものが、この病気の本質である「橋を中心とした脳の細い血管の病気」を表しています。国際的なデータベースでは、OMIMに「618564」[1]、希少疾患データベースOrphanetに「ORPHA:477749」[2]として登録されています。

💡 用語解説:脳小血管病(のうしょうけっかんびょう)

脳の中を走る、目に見えないほど細い血管(穿通動脈・細動脈・毛細血管など)が傷つくことで起こる病気の総称です。多くは加齢・高血圧・糖尿病・喫煙などが原因の「後天的」なものですが、PADMALのようにたった1つの遺伝子の変化(単一遺伝子)で起こるタイプもあります。単一遺伝子型は、細い血管が壊れていくしくみを純粋な形で教えてくれる「自然のお手本」として、医学研究でとても重視されています。

PADMALには複雑な歴史があります。もともとは別々の病気として報告されていた複数の家系が、近年の遺伝子解析によって「同じ病気」だと分かった、という経緯があるのです。最も古い報告のひとつは、1977年にSouranderらが記載したスウェーデンの家系で、長く「スウェーデン型の遺伝性多発梗塞性認知症(hereditary multi-infarct dementia)」とよばれてきました。2007年にLowらは、このスウェーデン型が、当時すでに原因遺伝子が分かっていたCADASIL(カダシル)とは遺伝的にも病理的にも別の病気であることを示しました。一方、ドイツの家系では橋への病変の集中が注目され、これが「PADMAL」と名づけられるきっかけになりました。現在では、これらは同じ原因遺伝子の変化による「ひとつの病気のグループ」として理解されています。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝

「常染色体」は性別を決めるX・Y以外の染色体のこと。「顕性(けんせい)」は以前「優性」とよばれていた言葉で、2本ある染色体のうち、片方の変化だけで症状が現れる遺伝の形を意味します。PADMALはこの形で遺伝するため、親が変化を持っていると、子どもに受け継がれる確率は理論上50%です。浸透率(変化を持つ人が実際に発症する割合)が高いため、世代をこえて発症することが多いと考えられています。

世界的にみても報告されている家系は数十例にとどまり、正確な患者数や発症率を計算することは現時点では困難です。それでもこれまでの家系研究の積み重ねによって、この病気がどのように進むのか(自然歴)が少しずつ明らかになってきました。

2. 原因遺伝子COL4A1と分子病態メカニズム

PADMALの直接の原因は、第13番染色体の長腕(13q34)にあるCOL4A1遺伝子の片方に生じる変化(ヘテロ接合性変異)です。COL4A1遺伝子は、血管や組織の「土台」である基底膜の主成分、IV型コラーゲンのα1鎖をつくる設計図です。脳の血管では、内側の細胞(内皮細胞)と血管の筋肉(平滑筋細胞)を支え、血管の強さと血液脳関門を保つために欠かせません。COL4A1遺伝子そのものの詳しい解説は、COL4A1遺伝子のページをご覧ください。

PADMALは「ブレーキの故障」で起こる

同じCOL4A1遺伝子が原因の病気でも、孔脳症(こうのうしょう)やHANAC症候群などの多くは、コラーゲンの形を直接こわす「ミスセンス変異」(グリシン置換など)が中心です。ところがPADMALの最大の特徴は、変異がタンパク質の設計図そのものではなく、mRNAの「3’非翻訳領域(3’UTR)」に集中している点にあります[3]

💡 用語解説:3’非翻訳領域(3’UTR)とマイクロRNA(miR-29)

3’UTRは、mRNA(設計図のコピー)の末尾にある「アミノ酸には翻訳されない調整エリア」です。ここはタンパク質を「どれだけ作るか」という量を調節する場所。マイクロRNA(miR-29)は、この3’UTRにくっついてコラーゲンの生産を抑える「ブレーキ役」です。PADMALの変異はちょうどこのmiR-29がくっつく場所を壊してしまうため、ブレーキが効かなくなります。

ブレーキが外れた結果として起こるのが、正常な形のままのIV型コラーゲンが「過剰に作られる(過剰発現)」という現象です。これがPADMALを理解するうえで非常に重要なポイントです。血管の土台は、形(質)が正しいだけでなく、量のバランスも厳密に保たれている必要があります。PADMALは、IV型コラーゲンが「多すぎる」ことが、足りない場合や形が異常な場合と同じか、それ以上に深刻な血管障害を起こしうることを示した、医学的にも画期的な例です。

これまでに報告されている主な変異は、いずれもmiR-29の結合部位を直撃する1文字の置き換えです。具体的には、最初に報告されたドイツ家系のc.*31G>T、スウェーデン型家系のc.*32G>A、フランス家系のc.*35C>A、ほかにc.*32G>T、中国家系のc.*34G>Tなどが知られています。さらに、AluYa5という反復配列の挿入でも同じしくみで発症することが報告されています。

COL4A1の3'UTR変異によりmiR-29が結合できず、IV型コラーゲンが過剰産生され、血管基底膜の肥厚と内腔狭窄・壁の脆弱化を同時に起こすしくみ

3’UTRの変異でmiR-29というブレーキが効かなくなり、IV型コラーゲンが過剰に作られます。その結果、血管の基底膜が肥厚して内腔が狭くなり(虚血の原因)、同時に血管壁がもろくなる(出血の原因)という、相反する二つの危険が同時に進みます。

血管がこわれていく3段階のカスケード

過剰なIV型コラーゲンは、亡くなった患者さんの剖検脳や、生前の皮膚生検の電子顕微鏡解析から、次の3段階で血管をこわしていくことが分かっています。第一に、内皮細胞と平滑筋細胞のすき間に余分なコラーゲンが無秩序にたまり、基底膜が異常に厚くなること。第二に、その影響で血管の筋肉(平滑筋細胞)が変性・脱落し、内側の膜が増殖して、血管の内腔が極端に狭くなること。第三に、狭くなった血管が慢性的な血流不足(虚血)と反復するラクナ梗塞を招く一方で、もろくなった血管壁はわずかな血圧の変動でも破れて微小出血や脳出血を起こすことです。なお、CADASILの診断で重要な「顆粒状オスミウム好性物質(GOM)」は、PADMALでは確認されません。これは両者を区別する決定的な手がかりになります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「足りない」だけでなく「多すぎる」も病気になる】

遺伝子の病気というと「タンパク質が作れない」「形がこわれている」というイメージを持たれる方が多いと思います。けれどPADMALは、形は正常なのに「量が多すぎる」ことで血管がこわれていく、とても珍しいタイプの病気です。体の中では、ものを「ちょうどよい量」に保つことが、形を正しく作ることと同じくらい大切なのだと教えてくれます。

この「ブレーキの故障」という分子レベルの理解が進んだことで、将来はmiR-29を補う薬や、過剰な発現を抑える核酸医薬など、原因そのものをねらった治療の可能性が見えてきました。希少な病気の研究が、未来の治療への扉を開いていきます。

3. 主な症状と病気の進み方(自然歴)

PADMALは成人になってから発症する病気です。その自然歴で最も注目すべき特徴のひとつが、「画像で異常が見え始める時期」と「症状が出る時期」が10年以上ずれることです。遺伝子が確定した家系の研究では、MRIで無症状のラクナ梗塞や白質病変が見え始める平均年齢(放射線学的発症)は約36歳、一方で本人が症状を自覚して受診する平均年齢(臨床的発症)は約52歳(一般的には30〜50代)と報告されています[4]。つまり、症状が出るずっと前から、橋や深部白質では静かに病気が進行しているのです。

💡 用語解説:ラクナ梗塞と白質脳症

ラクナ梗塞は、脳の細い血管が詰まって起こる「小さな脳梗塞」です(ラクナ=小さなくぼみの意味)。無症状のこともあれば、まひやろれつ障害を起こすこともあります。白質脳症は、脳の神経の通り道である「白質」が広く傷んだ状態で、MRIで白く広がって見えます。PADMALでは、橋のラクナ梗塞に続いて、大脳の白質にもこの変化が広がっていきます。

初期症状から進行期へ

最初の症状は、病変が起こりやすい橋(脳幹)の場所を反映して、局所的な神経症状が大半を占めます。最も多い初発症状は構音障害(こうおんしょうがい:ろれつが回りにくい、発音が不明瞭になる)です。これに加えて、めまい、運動失調(ふらつき)、片まひ、転倒をくり返す進行性の歩行障害などが現れます。ごく軽い頭部の打撲が発症のきっかけになったという報告もあります。

病気が進むと、小さな梗塞が積み重なり白質脳症が広がることで、神経機能が段階的に失われていきます。認知の面では、段取りや計画を立てる力(遂行機能)の障害を中心とした進行性の認知症が現れます。運動の面では、脳卒中発作のくり返しによって最終的に重い四肢のまひや、飲み込みの障害(嚥下障害)が進み、ある家系研究では平均死亡年齢は約67歳と報告されています。なお、頸髄(首の脊髄)に虚血性の病変がみられた中国の家系も報告されており、運動症状が脳幹だけでなく脊髄の病変によっても修飾されている可能性が示されています[6]

磁化率強調画像(T2*・SWI)というMRIの撮り方では、皮質下の微小出血や脳表へのヘモジデリン(鉄)の沈着など、出血性の変化も高い頻度で見つかります。PADMALは「虚血(梗塞)」と「出血」が同時に起こりうる、両刃の剣のような病気だということを覚えておいてください。
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「画像が先、症状が後」という時間差】

PADMALでは、症状が出る10年以上も前から、MRI上では静かに病変が増えていきます。ご家族にこの病気の方がいて、別の理由でたまたま撮った頭部MRIに小さな梗塞が見つかった——そんなときこそ、慌てず、しかし軽視もせず、専門医とともに長い目で見守る姿勢が大切です。

早く知ることは「不安をあおる」ためではありません。血圧の管理など、できる対策を計画的に始めるための準備期間になります。知ることが、未来の自分や家族を守る選択肢を増やすのだと考えています。

4. 鑑別診断:CADASILなど他の脳小血管病との違い

PADMALの診断で最も難しいのは、よく似た症状を示す他の遺伝性・後天性の脳小血管病と見分けることです。とくに、遺伝性脳小血管病の中で最も多く、症状が一部重なるCADASILとの区別は、予後の見通しや遺伝カウンセリングのうえできわめて重要です。

💡 用語解説:CADASIL(カダシル)とGOM

CADASILは「皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症」の略で、NOTCH3という別の遺伝子の変異で起こる、代表的な遺伝性脳小血管病です。前兆を伴う片頭痛が若い頃から多く、中年以降に脳梗塞・認知症が進みます。皮膚や血管にGOM(顆粒状オスミウム好性物質)という特有のかたまりがたまるのが最大の特徴で、PADMALにはこれが認められません。MRIでも、CADASILは側頭極(こめかみ側の先端)や外包に白質病変が出やすいのに対し、PADMALではこの部位はまれです。

下の表は、臨床で出会いうる主な遺伝性脳小血管病の鑑別ポイントをまとめたものです。横にスクロールしてご覧ください。なお「常染色体劣性(潜性)遺伝」とは、両親から受け継いだ2本ともに変化がそろって初めて発症する遺伝の形を指します。

疾患名 原因遺伝子 特徴的なMRI所見 脳以外の症状 病理の特徴
PADMAL COL4A1(3’UTR) 橋の多発梗塞(レーズンパン・サイン)、広範な白質脳症。側頭極はまれ。一部に頸髄病変。 原則として中枢神経系に限局 基底膜の著明な肥厚・線維硝子化。GOMは陰性。
CADASIL NOTCH3 側頭極・外包の高信号病変、広範な白質脳症。 前兆を伴う片頭痛を高頻度に合併。 GOMの特異的沈着。
CARASIL HTRA1(劣性/潜性) びまん性の白質脳症、基底核・視床のラクナ梗塞。 若年からの脱毛、反復する強い腰痛。 血管壁のヒアリン化、平滑筋の脱落。
HANAC症候群 COL4A1/COL4A2 散発的なラクナ梗塞。 網膜動脈の蛇行、筋けいれん(CK上昇)、多嚢胞腎、動脈瘤、血尿。 全身の基底膜の構造異常。
Fabry病 GLA 大脳白質病変、視床枕の高信号(pulvinar sign)。 被角血管腫、角膜混濁、疼痛、心肥大、腎不全。 糖脂質の蓄積、ゼブラ小体。

同じCOL4A1(やCOL4A2)の変異でも、コード領域のミスセンス変異が中心のHANAC症候群では、脳卒中だけでなく網膜動脈の著明な蛇行、CK上昇を伴う筋けいれん、多嚢胞腎、頭蓋内動脈瘤など全身の症状が前面に出ます。PADMALでは、こうした重い腎臓・筋肉の全身症状は通常みられず、病変の中心は一貫して中枢神経系(とくに橋と白質)に限られる傾向があります。眼の異常を伴うタイプのCOL4A1関連脳小血管病については、眼異常を伴う脳小血管病のページもあわせてご覧ください。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

PADMALの診断では、MRIが単なる補助検査ではなく、確定診断へ導く強力なツールになります。遺伝子検査の前に、脳のどこにどんな病変が分布しているか(空間的なパターン)を読み取ることが、多くの脳小血管病の中からPADMALを強く疑う決定的な手がかりになります。

MRIの決め手「レーズンパン・サイン」

PADMALを他の脳小血管病から際立たせる最大の特徴は、脳幹中央の「橋」への異常なほどの病変の集中です。2023年、Kikumoto(菊本)らは『Brain Communications』誌で、この橋の特徴的なMRI所見に「レーズンパン・サイン(Raisin bread sign)」という名前を提唱しました[5]。T2強調画像やFLAIR画像で、橋に散らばる複数の小さな楕円形の病変が、まるでパン生地に均等に散らばったレーズンのように見えることに由来します。その定義は「橋の辺縁部を避け、両側性に分布する2つ以上の小さな楕円形の虚血性病変があること」とされ、剖検による病理所見とも一致することが示されています。

橋の辺縁部を避けて両側性に散在する複数の小さな楕円形病変=レーズンパン・サインの模式図

橋の辺縁部は保たれ、中央寄りに小さな楕円形の病変が両側性に散在します。この「レーズンのような見え方」がPADMALを疑う強い手がかりになります(模式図)。

確定診断は遺伝子検査で

MRIで強く疑ったうえで、確定診断はCOL4A1遺伝子の検査で行います。ここで大切なのは、PADMALの変異がタンパク質を作る領域(エクソン)ではなく3’UTRにあるという点です。エクソン中心に調べる検査では見落とされる可能性があるため、3’UTRを含めて解析できる方法を選ぶことが重要になります。

▼ 出生前の検査(妊娠中)

ご家族にすでにPADMALの変異が分かっている場合、妊娠中の確定診断としては羊水検査・絨毛検査が選択肢になります。母体採血で行うNIPT(新型出生前診断)では、当院のインペリアルプランにCOL4A1が含まれています。

▼ 出生後の検査(採血で)

発症した方や血縁者では、採血による遺伝子解析を行います。PADMALは3’UTRが鍵になるため、全ゲノムシークエンス(WGS)のようにUTRまで読める検査が特に適しています。鑑別が必要な場合は、CADASIL(NOTCH3)など他の脳小血管病をまとめて調べるパネル検査や全エクソーム検査(WES)も選択肢です。

6. 治療と長期管理

現時点では、原因であるCOL4A1の過剰発現を根本から治す疾患修飾療法(病気の進行そのものを止める治療)は確立されていません。そのため現在の管理は、二次的な脳卒中(虚血と出血)の予防、進行を遅らせること、誤った治療を避けること、リハビリによる生活の質の維持を目的とした、多職種による対症療法が中心になります[7]

血管リスクの管理が土台

PADMALの細い血管は、自分で血流を調節する力を失い、極端にもろくなっています。そのため、わずかな血行動態のストレスでも病変の進行が加速しかねません。管理の基盤になるのは、きめ細かな血圧のモニタリングとコントロールです。急な血圧の上昇(血圧スパイク)は出血を直接引き起こすため、頻回の測定と慎重な降圧が勧められます。脂質管理も重要で、スタチンによりLDLコレステロールを低めに保つことが提唱されています。さらに、喫煙は血管内皮を著しく傷めるため、禁煙は欠かせません。糖尿病があれば、その厳格な管理も大切です。

💡 用語解説:抗血小板薬・抗凝固薬と「2剤併用(DAPT)」

抗血小板薬(アスピリンなど)や抗凝固薬は、いわゆる「血液をサラサラにする薬」で、脳梗塞の再発予防によく使われます。アスピリンと別の薬を組み合わせる2剤併用(DAPT)もありますが、これは出血のリスクを高めます。PADMALのように血管壁がもろい病気では、この出血リスクが特に問題になります。

ここに、PADMAL治療で最も悩ましいジレンマがあります。患者さんは梗塞をくり返すので、直感的には抗血小板薬を使いたくなります。ところが基底膜が劣化しているため、出血のリスクもきわめて高いのです。心筋梗塞後などで使われる2剤併用(DAPT)は大出血の頻度を高めることが知られており、もろい血管を持つPADMALでは深刻な結果を招きかねません。抗血栓療法を使う場合でも、虚血リスクと出血リスク(微小出血の数や過去の出血歴)を慎重に天秤にかけ、原則として低用量の単剤にとどめるなど、細心の注意が求められます。実際に、抗凝固療法や卵円孔開存(PFO)の閉鎖術を行っても進行を防げなかった報告もあり、安易な強力介入は戒められています。

避けるべき治療と、役立つリハビリ

PADMALはきわめて稀なため、中年で原因不明の多発性脳病変を前にすると、「原発性中枢神経系血管炎」と誤診されるリスクがあります。この誤診は、ステロイドや免疫抑制薬の長期使用につながりかねません。PADMALに免疫抑制療法は効果がないばかりか、感染症リスクの上昇や適切な血管管理の遅れを招くため、避けるべきとされています。一方で、急性期の悪化のあとには、神経保護薬とリハビリの併用が役立ちます。ある症例報告では、フリーラジカルを除去する薬(エダラボン)やシチコリンの投与に加え、集中的な理学療法・言語療法を行うことで、片まひと構音障害が改善したと報告されています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「血液サラサラ」が裏目に出ることがある】

脳梗塞をくり返す方に「血液をサラサラにする薬」を出すのは、ふつうは正しい判断です。けれどPADMALでは、その薬が出血のリスクを高めてしまうことがあります。だからこそ、まず正確な診断にたどり着くことが大切なのです。病名が分かって初めて、「この方には強い抗血栓薬は慎重に」という判断ができます。

同じように、原因不明の脳病変を「血管炎」と決めつけて長期に免疫抑制薬を使うことも、PADMALでは避けたい対応です。診断の正確さが、そのまま「やってはいけない治療を避ける」ことにつながります。希少疾患ほど、最初の見立てが将来を大きく左右します。

7. 遺伝カウンセリングの意義

PADMALは浸透率の高い常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。そのため、発症の可能性がある血縁者への家族スクリーニングと、専門家による遺伝カウンセリングが、次の世代を考えるうえで重要になります。一方で、この病気は症状が出る時期や重さに個人差があり、画像での発症が症状に先立つため、「出生前に見つけることが、必ずしも本人や家族の利益になるとは限らない」という側面もあります。

  • 遺伝形式と再発リスク:親が変化を持つ場合、子へ受け継がれる確率は理論上50%です。両親に変化がないのに子で初めて起こる新生突然変異(de novo変異)の可能性もあります。
  • 中立・非指示的な情報提供:医師は情報を提供する立場であり、特定の検査を勧めたり、安心を保証したり、不安をあおったりはしません。最終的な決定はご家族に委ねられます。
  • 出生前診断の選択肢:既知の変異がある場合、絨毛検査・羊水検査による出生前診断が選択肢として存在します。
  • 長期の伴走:定期的な神経学的診察とMRIでの経過観察、血圧管理など、専門チームによる継続的なフォローが大切です。遺伝カウンセリングとはもあわせてご覧ください。

8. よくある誤解

誤解①「コラーゲンの病気だからサプリで治る」

口から摂ったコラーゲンはアミノ酸に分解されて吸収されるため、血管の基底膜に直接届くことはありません。PADMALは材料不足ではなく、量の調節という「しくみ」の異常であり、サプリで治すことはできません。

誤解②「高血圧のせいの普通の脳梗塞でしょう」

PADMALは遺伝性の病気で、高血圧などの危険因子がなくても若年・中年で発症します。橋への病変の集中や家族歴があるときは、後天的な脳小血管病と決めつけず、遺伝性も考える必要があります。

誤解③「CADASILと同じ病気では?」

別の病気です。CADASILはNOTCH3が原因でGOMがたまり、側頭極に病変が出やすいのに対し、PADMALはGOM陰性・橋への集中・レーズンパン・サインが特徴です。

誤解④「血液サラサラの薬を飲めば安心」

PADMALでは血管壁がもろいため、抗血栓薬がかえって出血のリスクを高めることがあります。使う・使わないは専門医が慎重に判断します。自己判断は禁物です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【正確な診断名が、正しい医療への入り口になる】

PADMALのように稀な病気は、ふつうの脳梗塞や別の脳小血管病として扱われ、長く正しい診断にたどり着けないことがあります。けれど、橋に集まる「レーズンパン・サイン」やGOMが出ないという所見、そしてCOL4A1の3’UTRという特定の場所を意識して調べれば、診断は決して不可能ではありません。

正しい診断は、強い抗血栓薬や免疫抑制薬といった「やってはいけない治療」を避け、血圧管理という「やるべきこと」に集中するための土台になります。私が遺伝性疾患の情報を発信し続けているのは、こうした知識が、お一人おひとりの大切な選択を支えると信じているからです。気になることがあれば、どうぞ臨床遺伝専門医にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. PADMALは遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の病気で、親が変化を持つ場合、子へ受け継がれる確率は理論上50%です。浸透率が高く、世代をこえて発症することが多いとされます。両親に変化がないのに子で初めて起こる新生突然変異(de novo変異)の可能性もあります。血縁者のスクリーニングや次世代のことについては、臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. どんな症状で気づかれますか?

最も多い初発症状はろれつが回りにくくなる構音障害です。ほかに、めまい、ふらつき(運動失調)、片まひ、転倒をくり返す歩行障害などが現れます。多くは30〜50代に発症し、進行すると認知機能の低下や飲み込みの障害が加わります。MRIでは橋の小さな梗塞が早い段階から見つかることがあります。

Q3. CADASILとどう違いますか?

どちらも遺伝性の脳小血管病ですが、原因遺伝子が異なります(PADMALはCOL4A1、CADASILはNOTCH3)。CADASILは皮膚や血管にGOMがたまり、側頭極に白質病変が出やすく、前兆を伴う片頭痛を多く合併します。PADMALはGOMが認められず、橋への病変の集中(レーズンパン・サイン)が特徴で、側頭極の病変はまれです。最終的には遺伝子検査で区別します。

Q4. どうやって診断しますか?

MRIで橋の「レーズンパン・サイン」など特徴的な所見を確認し、COL4A1遺伝子の検査で確定します。PADMALの変異は3’UTRにあるため、エクソン中心の検査では見落とされることがあり、3’UTRを含めて読める方法(全ゲノムシークエンスなど)が適しています。皮膚生検で基底膜の肥厚やGOM陰性を確認することも、CADASILとの鑑別に役立ちます。

Q5. 治療法はありますか?

現時点で根本的な治療法は確立されていません。きめ細かな血圧管理、脂質管理、禁煙などの血管リスク管理と、リハビリを中心とした対症療法が基本になります。抗血栓薬は出血のリスクを高めうるため慎重な判断が必要で、原因不明と決めつけた免疫抑制療法は避けるべきとされています。将来の治療として、miR-29を補う方法や過剰発現を抑える核酸医薬の研究が進められています。

Q6. 高血圧がなくても発症しますか?

はい。PADMALは遺伝子の変化が原因の病気なので、高血圧・糖尿病・喫煙などの一般的な危険因子がなくても発症します。ただし、血圧の上昇はもろくなった血管に大きな負担をかけるため、発症後の血圧管理はとても重要です。

Q7. 出生前に調べることはできますか?

ご家族にすでにPADMALの変異が分かっている場合は、絨毛検査や羊水検査による出生前の確定診断が選択肢になります。母体採血で行うNIPTでは、当院のインペリアルプランにCOL4A1が含まれています。ただしこの病気は症状の出方に幅があり、出生前に調べることが常に利益になるとは限らないため、検査を受けるかどうかは中立的な遺伝カウンセリングのもとでご家族が決めることが大切です。

🏥 遺伝性脳小血管病の診断・遺伝カウンセリングについて

PADMALをはじめとする遺伝性脳小血管病に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] OMIM #618564. Microangiopathy and Leukoencephalopathy, Pontine, Autosomal Dominant; PADMAL. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] Orphanet. Pontine autosomal dominant microangiopathy with leukoencephalopathy. ORPHA:477749. [Orphanet]
  • [3] Verdura E, et al. Disruption of a miR-29 binding site leading to COL4A1 upregulation causes pontine autosomal dominant microangiopathy with leukoencephalopathy. Ann Neurol. 2016;80(5):741-753. [PubMed]
  • [4] Roos J, et al. Pontine autosomal dominant microangiopathy with leukoencephalopathy: Col4A1 gene variants in the original family and sporadic stroke. J Neurol. 2023;270(5):2631-2639. [PMC10130117]
  • [5] Kikumoto M, et al. ‘Raisin bread sign’ feature of pontine autosomal dominant microangiopathy and leukoencephalopathy. Brain Commun. 2023;5(6):fcad281. [Brain Communications]
  • [6] Zhao YY, et al. Cervical Spinal Involvement in a Chinese Pedigree With Pontine Autosomal Dominant Microangiopathy and Leukoencephalopathy Caused by a 3′ Untranslated Region Mutation of COL4A1 Gene. Stroke. 2019;50(9):2307-2313. [Stroke]
  • [7] Mancuso M, et al. Management of Inherited CNS Small Vessel Diseases: The CADASIL Example. AHA Scientific Statement. Stroke. [Stroke / AHA]
  • [8] Multi-infarct dementia of Swedish type is caused by a 3’UTR mutation of COL4A1. Brain. 2017. [PubMed]
  • [9] OMIM #120130. Collagen, Type IV, Alpha-1; COL4A1. Johns Hopkins University. [OMIM]

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移