この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

全ゲノム解析(全ゲノムシークエンス・WGS)は、ヒトのDNA約30億塩基対をまるごと読む遺伝子検査です。遺伝子の「たんぱく質を作る部分」だけを読む全エクソーム解析(WES)では見つけにくい、遺伝子のすき間の変化、染色体の一部が増えたり減ったりする変化、ミトコンドリアDNAの変化、一部の繰り返し配列の伸びまで、1回の検査で調べます。ただし、全ゲノム解析でも何でもわかるわけではなく、結果として報告される範囲も米国のガイドラインに沿って決まっています。このページでは、全ゲノム解析でわかること・わからないこと、全エクソーム解析との違い、費用(税込990,000円)、結果のあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 全ゲノム解析で何がわかりますか?
症状の原因になっている遺伝子の変化を、ゲノム全体から探します。遺伝子の小さな変化に加えて、染色体の一部の欠失・重複、遺伝子のすき間(イントロン)の変化、ミトコンドリアDNA、64遺伝子の繰り返し配列の伸びまで調べます。ただし、見つけにくい変化もあり、陰性でも病気は否定できません。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
症状があるのに何年も診断がつかない方、遺伝子パネル検査や全エクソーム解析で原因が見つからなかった方、いくつもの臓器に症状があって病気をしぼれない方です。健康な方の「体質チェック」や、保因者検査の代わりにはなりません。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込990,000円、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果までは5〜7週間です。検体は血液・抽出DNA・口の内側の粘膜・唾液で、オンライン診療でも受けられます。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、ご家族の検査や、次のお子さんの出生前診断(院内で絨毛検査・羊水検査)まで考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いや、二次的所見を受け取るかどうかもご説明します。
1. 全ゲノム解析(WGS)とは:約30億塩基対をまるごと読む遺伝子検査
全ゲノム解析(全ゲノムシークエンス、英語で whole genome sequencing=WGS)は、ヒトのゲノム(DNA全体、約30億塩基対)の配列を、遺伝子の部分もそのすき間も含めてまるごと読む遺伝子検査です。読み取った配列を基準の配列と比べ、症状の原因になっている変化を探します。「全ゲノムシーケンス」「全ゲノム検査」と呼ばれることもあります。
ヒトゲノムの中には約2万の遺伝子があり、それぞれの遺伝子は、たんぱく質を作る情報が書かれた「エクソン」と、そのあいだの「イントロン」が交互に並んでいます。全エクソーム解析(WES)がエクソンを中心に読むのに対し、全ゲノム解析はイントロンや遺伝子と遺伝子のあいだ、ミトコンドリアの中にある小さなDNAまで読みます。
🧬 読む範囲のちがい(イメージ)
※「全部読む」ことと「全部の変化を見つけて報告する」ことは別です(第3章・第4章)。
「ゲノム検査」「がんの全ゲノム解析」との違い
「ゲノム検査」という言葉は、がんの組織を調べて治療薬を選ぶ「がんゲノム検査」の意味で使われることも多くあります。このページの全ゲノム解析は、生まれつき持っている遺伝子(生殖細胞系列)を血液などで調べ、遺伝性の病気の原因を探す検査です。がんの組織の変化を調べる検査ではありません。また、研究用に塩基配列のデータだけを出す受託解析とも違い、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを受けたうえで行う医療の検査です。がんと遺伝の検査については、がんの検査・診療のページをご覧ください。
全ゲノムシーケンスの原理(どのように配列を読み、染色体の変化を見つけるか)を詳しく知りたい方は、全ゲノムシーケンス(WGS)とはで解説しています。このページでは、検査を受けるかどうかを決めるために必要なことを中心にお伝えします。
2. 全ゲノム解析でわかること:WESより見つけやすくなる変化
全ゲノム解析でわかるのは、遺伝子の小さな変化に加えて、染色体の一部の欠失・重複、イントロンの変化、ミトコンドリアDNAの変化、64遺伝子の繰り返し配列の伸び、片親性ダイソミーなどの手がかりになる領域です。この検査は、ゲノム全体を平均60倍の深さで読み、PCR(DNAを増やす操作)を使わない方法で準備するため、読みのむらが少なくなるように設計されています。
🔍 全ゲノム解析で調べる変化
※検査で調べる項目は、この検査を行う検査室の現在の検査内容(2026年10月21日確認)による。
全エクソーム解析より見つけやすくなるもの
全エクソーム解析は、エクソンとそのすぐ近くを中心に読むため、エクソンから離れたイントロンの変化や、ミトコンドリアDNAの変化、大きさや場所によっては欠失・重複を見落とすことがあります。全ゲノム解析はこれらを読み取る範囲に含むため、全エクソーム解析で原因が見つからなかった方の「次の一手」になります。
英国で、標準的な診療を受けても診断がつかなかった希少疾患の4,660人(2,183家系)に全ゲノム解析を行った「10万ゲノム計画」の先行研究では、研究レベルの解析を加えたことで得られた診断が全体の14%を占め、その多くは、遺伝子のすき間の変化、構造の変化、ミトコンドリアの変化、エクソーム解析では読み取りにくい部分の変化でした[3]。全ゲノム解析を行えば必ず見つかるわけではありませんが、読む範囲が広いことに意味があることを示した報告です。
片親性ダイソミーなどの手がかり(ホモ接合領域)
この検査では、片親性ダイソミーやインプリンティングの病気に関係する6q24、7番染色体、11p15.5、14q32、15q11q13、20q13の6つの領域で、両親から同じ配列を受け継いだ状態が長く続いていないか(ホモ接合領域)も調べます。片親性ダイソミーとは、1対の染色体の両方を片方の親から受け継いでいる状態で、ゲノムインプリンティングが関わる病気の原因になることがあります。ただし、配列を読むだけではわからない種類もあるため、疑わしいときは別の検査で確かめます。
繰り返し配列の伸び(64遺伝子)
この検査は、ハンチントン病の原因になるHTT、脆弱X症候群のFMR1、筋強直性ジストロフィーのDMPK、脊髄小脳失調症のATXN群、ALSや前頭側頭型認知症に関係するC9orf72など、64遺伝子の繰り返し配列の伸び(リピート伸長)を調べます。それ以外の遺伝子の繰り返し配列の伸びは対象外です。また、伸びの正確な長さを測る必要があるときは、単一遺伝子のリピート伸長遺伝子検査やFMR1遺伝子リピート伸長検査のような、専用の検査が向いています。
3. 全ゲノム解析でも、何でもわかるわけではない(検査の限界)
全ゲノム解析は、遺伝子検査のなかで読む範囲がいちばん広い検査ですが、見つけにくい変化や、調べない変化があります。全エクソーム解析・全ゲノム解析のどちらでも、陰性の結果は「病気がない」という意味ではありません。
⚠️ 「全部調べたから安心」という検査ではありません
全ゲノム解析は、症状にもとづいて原因を探す検査です。ゲノム全体を読んでも、技術的に見つけにくい変化、この検査では評価しない変化、今の医学では意味がわからない変化が残ります。原因が見つからなくても、遺伝性の病気が否定されたわけではありません。また、症状と関係のない病気のなりやすさや保因者であるかどうかを、すべて調べて知らせる検査でもありません(第4章)。
見つけにくい・調べない変化
- ●症状にもとづいて読む検査です:申し込みには、症状などの臨床の情報とご家族の病歴が必須です。症状に合う変化を重点的に探すため、症状と合わない変化は、通常は報告されません。
- ●よく似た配列がある場所:偽遺伝子など、ほかの場所とよく似た配列がある遺伝子では、解析の工夫で影響を小さくしていますが、まれに配列の読み取りや欠失・重複の判定がさまたげられることがあります。
- ●転座・逆位など:染色体の一部が入れ替わる均衡型の構造の変化(転座や逆位)は、見つけられないことがあります。
- ●64遺伝子以外の繰り返し配列の伸び:調べる対象に入っていません。
- ●モザイク・体細胞の変化:体の一部の細胞だけに変化があるモザイクや、がんなどで後から起きた体細胞の変化を見つけるための検査としては、設計・検証されていません。
- ●確かめの検査:読み取りの質が低い変化や、必要な読み取りの深さに届かない場所は、サンガー法という別の方法で確かめます。
遺伝子ごとの制限
一部の遺伝子には、場所の性質によって検査の制限があります。代表的なものを下にまとめました(クリックで開きます)。
📋 遺伝子ごとの制限の一覧を見る
※AFF2・DIP2B・RUNX2・SOX3・ZIC2・ZIC3は、現在は繰り返し配列の伸びを調べる64遺伝子に含まれています。
陰性でも病気は否定できない・意義がまだわからない変化(VUS)
原因が見つからなかった理由には、見つけにくい変化だった、まだ病気との関係がわかっていない遺伝子だった、遺伝以外の原因だった、などが考えられます。また、病気の原因かどうかをまだ判断できない変化(VUS:意義がまだわからない変化)が見つかることもあります。VUSは、それだけで診断を確定したり、ご家族の発症リスクを判定したりするためには使いません。
4. 結果として報告される範囲は決まっている(米国のガイドラインにもとづく報告の制限)
全ゲノム解析の結果は、米国医学遺伝学・ゲノム学会(ACMG)の考え方など、米国のガイドラインに沿って、報告する範囲が決まっています。データの中にある変化でも、報告されないものがあります。
💡 報告の範囲:3つのポイント
①症状(検査の目的)と関係のない変化は、原則として報告されません。②そのため、症状と関係のない潜性(劣性)遺伝の病気の保因者であることは、データにあっても原則として報告されず、全ゲノム解析・全エクソーム解析は保因者検査の代わりになりません。③二次的所見(ACMG SF v3.3に載っている84遺伝子)は、受け取るかどうかを選べます。
症状と関係のない変化は、原則として報告されない
全ゲノム解析は、症状の原因を探すための検査です。症状と一致しない偶発的な所見は、通常は報告されません。これは、検査の目的から外れた所見の報告を制限する考え方にもとづくものです。
たとえば、ご本人の症状とは関係のない潜性(劣性)遺伝の病気について、遺伝子の変化を1つだけ持っている状態(保因者)は、データの中にあっても、原則として報告されません。二次的所見のリストでも、潜性遺伝の病気の遺伝子は、病気の原因となる変化が2つそろったときに報告の対象になるとされており[1]、変化を1つだけ持つ保因者の状態は対象になりません。
全ゲノム解析・全エクソーム解析は保因者検査の代わりにならない
子どもを持つ前に、ご自身やパートナーが保因者かどうかを知りたい方には、全ゲノム解析ではなく保因者検査が向いています。2つの検査は、目的と設計が違います。
💍 全ゲノム解析・全エクソーム解析と保因者検査の違い
「大は小を兼ねない」理由は、次のとおりです。
- ●解析の優先順位が違う:全ゲノム解析は、症状から関係のありそうな遺伝子を重点的に調べます。すべての遺伝子を同じ関心で調べるわけではありません。保因者検査は、対象のすべての遺伝子を同じように調べる設計です。
- ●報告の範囲が違う:全ゲノム解析では、症状と関係のない保因者の情報は原則として報告されません。
- ●設計が違う:保因者検査は、潜性(劣性)遺伝・X連鎖の病気について、それぞれの病気の原因になる変化を見つけるために設計されています。全ゲノム解析は、ゲノム全体を同じ深さ(平均60倍)で読む設計で、特定の病気の保因者を見つけるための設計ではありません。
当院の拡大版保因者スクリーニングは、女性版787遺伝子・男性版714遺伝子(さらに女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子)があります。結婚や妊娠の前に知りたい方は、遺伝子ブライダルチェックもご覧ください。
二次的所見(ACMG SF v3.3・84遺伝子)は、受け取るかどうかを選べる
二次的所見とは、症状の原因とは別に、治療や予防ができる病気の原因になる変化を、決まった遺伝子の中から探して知らせるものです。この検査では、二次的所見を受け取るかどうかを、申し込みのときに選べます。受け取ると決めた方だけ、事前の同意(オプトイン)のうえで報告されます。
対象は、ACMGが2025年に公表した最新のリスト「ACMG SF v3.3」の遺伝子で、2023年版(v3.2)にABCD1・CYP27A1・PLNの3遺伝子が加わり、84遺伝子になりました[1][2]。遺伝性のがん、遺伝性の心筋症・不整脈、代謝の病気など、医学的な対応(見張りの検査・治療・予防)で発症や重症化を防げる可能性のある病気の遺伝子です。報告するのは病気の原因になる変化(病的・おそらく病的)だけで、意義がまだわからない変化(VUS)は報告しません[1]。このリストは「最低限、報告をすすめる遺伝子」として毎年見直されています[1]。
二次的所見を知ることには、早めの見張りや予防につながる面と、症状のないうちに病気のなりやすさを知ることになる面があります。当院の考え方は二次的所見の開示方針に、リストの中身はACMG SF v3.3の解説にまとめています。84遺伝子だけを目的に調べたい方には、アクショナブル遺伝子パネル検査があります。
5. 全エクソーム解析・クリニカルエクソーム・パネル検査との違い:どの検査を選ぶか
全エクソーム解析と全ゲノム解析の違いは、読む範囲です。全エクソーム解析は遺伝子のたんぱく質を作る部分を中心に、全ゲノム解析はゲノム全体を読みます。どの検査が向いているかは、病名がどこまでしぼれているかで変わります。
🧭 どの検査を選べばよいか
※どの検査が合うかは、症状・これまでの検査・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めます。
全エクソーム解析と全ゲノム解析、どちらを選ぶか
米国医学遺伝学・ゲノム学会(ACMG)は2021年の診療ガイドラインで、先天異常・発達の遅れ・知的障害のあるお子さんに、全エクソーム解析・全ゲノム解析を最初、または2番目に行う検査として強くすすめています[5]。このガイドラインは、全エクソーム解析と全ゲノム解析をまとめて扱っています。
全ゲノム解析は読む範囲が広い一方、費用は全エクソーム解析(税込660,000円)より高くなります。最初から全ゲノム解析を選ぶか、全エクソーム解析で見つからなかったときに全ゲノム解析へ進むかは、症状や、これまでに受けた検査、急ぐ必要があるかによって変わります。2つの検査の違いをさらに詳しく知りたい方は、エクソーム解析(WES)と全ゲノム解析(WGS)の違いもご覧ください。
6. どんな人が全ゲノム解析を受けるとよいか
全ゲノム解析が向いているのは、症状があるのに診断がつかない方、ほかの遺伝子検査で原因が見つからなかった方、いくつもの臓器に症状があって病気をしぼれない方です。見た目や家族歴だけでは判断できないことが多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
症状があるのに、何年も診断がつかない方
希少疾患は、診断がつくまでに長い時間がかかることがよくあります。欧州41か国、1,675の希少疾患をもつ6,507人の調査では、診断までにかかった期間は平均4.7年でした[6]。原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。
ただし、全員に診断がつくわけではありません。日本の研究事業である未診断疾患イニシアチブ(IRUD)の6年間の報告では、全エクソーム解析を終えた5,136家系のうち、診断が確定したのは2,247家系(43.8%)でした[7]。見つからなかった場合も、時間をおいた再解析や別の検査など、次の選択肢があります(第7章)。
お子さんの発達の遅れ・知的障害・自閉スペクトラム症の原因を調べたい方は、発達障害の遺伝子検査や発達障害・知的障害遺伝子検査で、検査の選び方を解説しています。
遺伝子パネル検査や全エクソーム解析で原因が見つからなかった方
全エクソーム解析で見つからなかった原因が、イントロンの変化、構造の変化、ミトコンドリアDNA、繰り返し配列の伸びにあることがあります(第2章)。病名がわかると、受けるべき検査、気をつけたい薬、使える制度、ご家族の検査が決まります。ACMGの系統的レビューでは、エクソーム・ゲノム検査の研究167件のうち95%が、患者さんかご家族の診療方針に何らかの変化があったと報告していました[4](変化の中身や大きさは研究ごとに違います)。
いくつもの臓器に症状があって、病気をしぼれない方
神経・筋肉・代謝・心臓など、いくつもの臓器に症状があり、どの病気のパネル検査を選べばよいか決められないときも、全ゲノム解析が選択肢になります。ミトコンドリア病が疑われる場合は、ミトコンドリアDNAと核の遺伝子を両方調べられることが手がかりになります。ミトコンドリア病に的をしぼった検査はミトコンドリア病の遺伝子検査で解説しています。
「全ゲノム解析を個人で受けたい」方へ
健康のために自分のゲノムを知りたい、と全ゲノム解析を探している方もいると思います。当院の全ゲノム解析は医療の検査で、症状やご家族の病歴にもとづいて、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを受けたうえで行います。症状のない方の体質を幅広く調べて知らせる検査ではなく、症状と関係のない保因者の情報も原則として報告されません(第4章)。
ACMGは2019年の声明で、二次的所見の遺伝子リストは一般の人を対象にしたスクリーニングのために検証されたものではなく、そうした使い方は認めないとしています。症状のない人では、変化があっても実際に発症するかがはっきりしない遺伝子が多いことが理由に挙げられています[8]。症状のない方が将来に備えたい場合は、目的に合わせた検査を選ぶことが大切です。お子さんを持つ前の準備なら保因者検査、ご家族に遺伝性の病気の方がいるなら既知の変異検査、がんや心臓の病気のなりやすさならアクショナブル遺伝子パネル検査が、それぞれ向いています。
この検査より別の検査が向いている場合
病名がほぼ決まっていて、原因の遺伝子がわかっている病気なら、その病気の遺伝子パネル検査や単一遺伝子検査のほうが、費用をおさえて対象をしぼって調べられます。染色体の数の変化(ダウン症候群・ターナー症候群など)や均衡型の転座が疑われるときは、染色体検査(Gバンド法)が向いています。繰り返し配列の長さを正確に測る必要がある病気(ハンチントン病・脆弱X症候群など)は、専用の検査を選びます。
妊娠中で、エコーで赤ちゃんに異常が見つかった場合は、羊水や絨毛を使う出生前全ゲノム(WGS)検査があります。お子さんを突然亡くされ、原因と次のお子さんへの影響を知りたい方には、親子トリオ全ゲノム検査があります。
7. 結果が出たあと:陽性・陰性・VUSのそれぞれ
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
原因と考えられる変化が見つかったとき
症状を説明できる病気の原因になる変化(病的・おそらく病的)が見つかると、病名がはっきりし、この先に気をつけることが決まります。英国の10万ゲノム計画の先行研究では、得られた遺伝学的な診断の約24%が、患者さんやご家族の診療にすぐに影響するものでした[3]。くわしくは次の章でご説明します。
原因が見つからなかったとき
原因が見つからなくても、遺伝性の病気が否定されたわけではありません(第3章)。次の選択肢として、症状の変化やご家族の情報を加えてのデータの再解析、別の種類の検査(繰り返し配列の長さを測る検査、染色体検査など)、ほかの研究の道を考えます。日本では、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)という研究事業もあります[7]。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断を確定したり、ご家族の発症リスクを判定したりするためには使いません。ご両親が同じ変化を持っているかを調べることで、判断の手がかりが増えることがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。変化の分類のしかたはACMG/AMPの変異解釈ガイドラインで解説しています。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。全ゲノム解析で原因がわかると、その結果は、ご本人の健康管理だけでなく、ご家族の健康や、これからの妊娠・出産の計画にもずっと使える情報になります。読む方の立場ごとに、できることをまとめます。
① 結果の受け取り方
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで、見つかった変化の意味、病気の見通し、ご家族への影響をご説明してから、マイページにアップします。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
② ご本人:診断の確定、見張りと治療の選び方、二次的所見
病名が決まると、その病気で起こりやすい合併症と、いつ何を調べればよいかが決まります。治療や支援は、それぞれの病気の専門の医療機関で選びます(当院は遺伝子検査と遺伝カウンセリングを行うクリニックです)。病名によっては、指定難病や小児慢性特定疾病などの制度の対象になることがあります。二次的所見を受け取ると決めた方で変化が見つかった場合は、その病気に合わせた見張りの検査や予防を考えます。
③ ご家族:同じ変化を持っているかをピンポイントで調べられる
あなたの1回の検査の結果が、ご両親・きょうだい・お子さんがご自身の状態を知る手がかりになります。ご家族の原因の変化がわかっていれば、ほかのご家族は、その1か所だけを既知の変異検査で調べ、同じ変化を持っているかを確かめられます。そのときは、この検査の報告書(のコピー)がいちばんの手がかりになります。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行い、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。
ご両親とお子さんの検体を一緒に調べる「トリオ解析」では、お子さんにだけ新しく起きた変化(新生突然変異・de novo)かどうかを見分けやすくなります。英国の研究でも、診断がつく割合は、ご両親を含めたトリオなどの家族単位で調べた場合に高くなっていました[3]。トリオで調べる場合の料金は、遺伝カウンセリングでご案内します。
④ 次のお子さん・結婚や妊娠を考えるとき
次のお子さんで同じ病気が起こる確率は、原因と遺伝のしかたで大きく変わります。お子さんに新しく起きた変化なら確率は低くなりますが、ゼロではありません。親の卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)にだけ変化がある性腺モザイクの可能性があるためです。常染色体潜性(劣性)遺伝なら、ご両親とも保因者で、次のお子さんで4分の1です。お子さんに新しく起きた変化だとわかれば、ご両親のせいではないことがはっきりします。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
原因がわかっていれば、次の妊娠で、赤ちゃんに同じ変化があるかを調べる出生前診断を計画できます。原因がわからないままでは、出生前に調べる的を決められません。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。出生前診断を受けない選択、何もしないで産む選択も、同じように尊重されるべき選択です。
ほかのお子さん(きょうだい)が将来、結婚や妊娠を考えるときにも、ご家族の原因がわかっていれば、ご自身が同じ変化を持っているか、保因者かどうかを確かめる手がかりになります。
9. 全ゲノム解析の費用・結果までの期間・検体と検査の流れ
全ゲノム解析の費用は税込990,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果までは5〜7週間です。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取血液・唾液など
▶
結果のご説明5〜7週間後・マイページへ
💴 全ゲノム解析の費用・日数・検体
※検査を行う検査室は、ご本人の検体として血液をすすめています(唾液・口の内側の粘膜・抽出DNAも受け付けています)。どの検体にするかは遺伝カウンセリングでご相談ください。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつか、二次的所見を受け取るかどうかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「全部調べたから安心」ではなく、「何がわかって、何がわからないか」】
全ゲノム解析は、ゲノムをまるごと読む検査です。それでも私は、この検査を「全部調べたから安心」という検査だとは考えていません。読んだデータの中に、今の医学では意味がわからない変化があり、技術的に見つけにくい変化があり、ガイドラインに沿って報告しない変化があります。何がわかって、何がわからないかを知ったうえで受けていただくことが、いちばん大切だと考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかれば、ご家族の検査、次のお子さんの出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 全ゲノム解析の費用はいくらですか?
当院の全ゲノム解析(全ゲノムシークエンス・WGS)の費用は税込990,000円です。検査費用とは別に、遺伝カウンセリング料(おひとり30分22,000円・税込)がかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q2. 全ゲノム解析で何がわかりますか?
症状の原因になっている遺伝子の変化を、ゲノム全体から探します。遺伝子の小さな変化に加えて、染色体の一部の欠失・重複、イントロンの変化、ミトコンドリアDNAの変化、64遺伝子の繰り返し配列の伸び、片親性ダイソミーなどの手がかりになる領域を調べます。ただし、転座・逆位や体の一部だけの変化(モザイク)など見つけにくい変化があり、陰性でも病気を否定することはできません。
Q3. 全エクソーム解析と全ゲノム解析の違いは何ですか?
全エクソーム解析(WES)は遺伝子のたんぱく質を作る部分(エクソン)を中心に読み、全ゲノム解析(WGS)はイントロンや遺伝子のあいだ、ミトコンドリアDNAを含むゲノム全体を読みます。全エクソーム解析で見つからなかった原因が、全ゲノム解析で見つかることがあります。費用は全エクソーム解析が税込660,000円、全ゲノム解析が税込990,000円です。
Q4. 結果が出るまでどのくらいかかりますか?
結果が出るまでの期間は5〜7週間です。結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。
Q5. 全ゲノム解析を個人で受けられますか?
当院の全ゲノム解析は医療の検査で、症状やご家族の病歴にもとづいて、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを受けたうえで行います。症状のない方の体質を幅広く調べて知らせる検査ではありません。症状のない方が将来に備えたい場合は、保因者検査やアクショナブル遺伝子パネル検査など、目的に合わせた検査をご案内します。
Q6. 全ゲノム解析を受ければ、結婚や妊娠の前に保因者かどうかもわかりますか?
わかりません。全ゲノム解析は症状の原因を探す検査で、症状と関係のない潜性(劣性)遺伝の病気の保因者であることは、データの中にあっても原則として報告されません。全ゲノム解析・全エクソーム解析は保因者検査の代わりにならないので、結婚や妊娠の前に知りたい方は保因者検査をお選びください。
Q7. 二次的所見は必ず知らされるのですか?
いいえ。二次的所見(ACMG SF v3.3の84遺伝子で見つかる、治療や予防ができる病気の原因になる変化)は、受け取るかどうかを申し込みのときに選べます。受け取ると決めた方だけ、事前の同意のうえで報告されます。意義がまだわからない変化(VUS)は報告されません。
Q8. 家族も一緒に検査を受けたほうがよいですか?
ご両親とお子さんの検体を一緒に調べるトリオ解析では、お子さんにだけ新しく起きた変化かどうかを見分けやすくなります。英国の研究でも、トリオなど家族単位で調べた場合に診断がつく割合が高くなっていました。トリオで調べる場合の料金は、遺伝カウンセリングでご案内します。
🧬 一度の全ゲノム解析で、診断とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。全ゲノム解析で症状の原因がわかれば、ご本人の見張りや治療の選び方だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Lee K, Abul-Husn NS, Amendola LM, et al. ACMG SF v3.3 list for reporting of secondary findings in clinical exome and genome sequencing: a policy statement of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2025;27(8):101454. [DOI: 10.1016/j.gim.2025.101454]
- [2] Miller DT, Lee K, Abul-Husn NS, et al. ACMG SF v3.2 list for reporting of secondary findings in clinical exome and genome sequencing: a policy statement of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2023;25(8):100866. [DOI: 10.1016/j.gim.2023.100866]
- [3] 100,000 Genomes Project Pilot Investigators. 100,000 Genomes Pilot on Rare-Disease Diagnosis in Health Care — Preliminary Report. N Engl J Med. 2021;385(20):1868-1880. [DOI: 10.1056/NEJMoa2035790](PMID: 34758253)
- [4] Malinowski J, Miller DT, Demmer L, et al. Systematic evidence-based review: outcomes from exome and genome sequencing for pediatric patients with congenital anomalies or intellectual disability. Genet Med. 2020;22(6):986-1004. [DOI: 10.1038/s41436-020-0771-z]
- [5] Manickam K, McClain MR, Demmer LA, et al. Exome and genome sequencing for pediatric patients with congenital anomalies or intellectual disability: an evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2021;23(11):2029-2037. [DOI: 10.1038/s41436-021-01242-6](PMID: 34211152)
- [6] Faye F, Crocione C, Anido de Peña R, et al. Time to diagnosis and determinants of diagnostic delays of people living with a rare disease: results of a Rare Barometer retrospective patient survey. Eur J Hum Genet. 2024;32(9):1116-1126. [DOI: 10.1038/s41431-024-01604-z]
- [7] Takahashi Y, Date H, Oi H, et al. Six years’ accomplishment of the Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases: nationwide project in Japan to discover causes, mechanisms, and cures. J Hum Genet. 2022;67(9):505-513. [DOI: 10.1038/s10038-022-01025-0]
- [8] ACMG Board of Directors. The use of ACMG secondary findings recommendations for general population screening: a policy statement of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2019;21(7):1467-1468. [DOI: 10.1038/s41436-019-0502-5]
関連記事