この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

既知の変異検査(シングルサイト検査)は、ご家族の遺伝子検査で見つかった病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の変化)を、あなたや、お子さん・お腹の赤ちゃん(胎児)が持っているかどうか、その1か所だけを調べる遺伝子検査です。「家族が遺伝子検査で陽性だった。自分も持っているのだろうか」――そう思ったとき、ご家族の検査報告書は、あなたを知るためのいちばんの手がかりになります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の健康管理、結婚や妊娠の計画、ほかのご家族の検査まで、この先ずっと使える情報です。このページでは、必要な書類、費用(1か所242,000円・税込)、結果までの日数、発症前診断や胎児の検査、結婚の悩みまで、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
ご家族の遺伝子検査で見つかった遺伝子の変化(バリアント)を、あなたやお子さん・胎児が持っているかを、その1か所だけ調べてわかります。調べるのは、報告書で指定された変化だけです。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
親・きょうだい・いとこなど、血縁のご家族に病的バリアントが見つかった方です。発症前に知って人生の計画を立てたい方、結婚や妊娠を考えている方、お腹の赤ちゃんが受け継いでいるか知りたい方にも向いています。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
バリアント1か所につき242,000円(税込)、胎児の場合は132,000円(税込)が追加です。結果までは2〜3週間。検体は血液・口腔スワブ・唾液・抽出DNAです。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明してから、マイページにアップします。同じ変化を持っていた場合は、健康管理・パートナーの検査・出生前診断まで、次にできることを一緒に考えます。
1. 既知の変異検査(シングルサイト検査)とは
既知の変異検査は、ご家族ですでに見つかっている遺伝子の変化を、ほかのご家族が持っているかどうかを、その場所だけにしぼって調べる検査です。「シングルサイト検査」「部位特異的検査」「血縁者の検査」とも呼ばれます。最初に遺伝子検査を受けて変化が見つかったご家族を、発端者(プロバンド)といいます。
病気の原因を探す検査では、何十〜何千という遺伝子を広く読みます。一方、ご家族で原因がわかっていれば、探す場所はもう決まっています。既知の変異検査は、その「答えがわかっている1か所」に的をしぼって確かめる検査です。
「バリアント」の意味と「病的バリアント」
バリアント(variant)は、遺伝子の配列が多くの人と違っている部分のことで、「遺伝子の変化」「変異」とほぼ同じ意味で使われます。変化があってもほとんどは病気と関係しませんが、病気の原因になるものを病的バリアントといいます。くわしくは遺伝子のバリアントとはで解説しています。
米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)などの指針は、見つかった変化を「病的(pathogenic)」「病的の可能性が高い(likely pathogenic)」「意義不明(VUS)」「良性の可能性が高い」「良性」の5段階で分類することを勧めています[1]。ご家族の報告書に「病的」「病的の可能性が高い」と書かれた変化があれば、既知の変異検査の対象になります。
🔍 既知の変異検査と、ほかの遺伝子検査のちがい
※料金は当院の各検査ページの料金。どの検査を選ぶかは、ご家族の報告書の内容で変わります。詳しくは単一遺伝子検査・当院の遺伝子検査一覧をご覧ください。
一生変わらない情報を、一度の検査で
生まれ持った遺伝子(生殖細胞系列の遺伝子)は一生変わりません。ご家族と同じ変化を持っているかどうかは、一度調べれば、その後ずっと使える情報になります。ご自身の健康管理、結婚や妊娠の計画、お子さんやきょうだいの検査を考えるとき、何度でも立ち返ることができます。
2. どんな人が受けるとよいか:家族に遺伝子の変化が見つかったとき
血縁のご家族に病的バリアントが見つかった方が、この検査の対象です。ご家族の検査が、がん・心臓・神経・筋肉・目や耳など、どの分野のものでも受けられます。
親・きょうだい・いとこに病的バリアントが見つかった方
たとえば、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)のBRCA1・BRCA2、リンチ症候群、家族性高コレステロール血症など、ご家族の遺伝子検査で原因がわかった病気です。家族のつながりに沿って、血縁者の検査を順番に広げていく考え方をカスケード検査といいます。
遺伝のしかたによって、ご家族があなたに伝えている確率は違います。常染色体顕性(優性)遺伝では、親が変化を持っていれば、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。常染色体潜性(劣性)遺伝やX連鎖遺伝では、症状のない保因者かどうかを知ることが大切になります。
BRCA1・BRCA2の検査を受けた人を追った研究では、遺伝カウンセリングのあと「家族の役に立ちたい」という理由で検査を考える人が有意に増えたと報告されています[3]。あなたの1回の検査は、ご両親・きょうだい・お子さんが自分のことを考える手がかりにもなります。
「自分もなるかもしれない」という不安を抱えながら暮らしている方
親やきょうだいが発症したのを見てきた方のなかには、ちょっとした物忘れや手のふるえ、つまずきでも「始まったのでは」と心配しながら暮らしている方もいます。ご家族の原因がわかっていれば、その不安に、検査という形で向き合うことができます。
同じ変化を受け継いでいないとわかれば、その病気について、ご家族と同じ確率を心配しながら過ごす必要はなくなります。受け継いでいるとわかった場合も、見張りの検査や生活の計画を前もって立てられます(第7章)。知らないでいることも、同じように選べる選択肢です。発症前の検査については、第5章でくわしくお伝えします。
結婚・妊娠を考えている方(遺伝の病気と結婚の悩み)
ご家族の病気を理由に、結婚に不安を感じたり、反対されたりして悩む方は少なくありません。お子さんに受け継がれる確率は、病気の遺伝のしかたとご家族ごとに違い、検査で確かめられることがあります。あなたが同じ変化を持っているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か(潜性遺伝の場合)、お子さんへの確率はどれくらいかを知ったうえで、出生前診断などの選択肢も含めて考えることができます。結婚前の遺伝の悩みは結婚前に考えたい遺伝性疾患のリスクでも解説しています。
妊娠中で、お腹の赤ちゃん(胎児)が受け継いでいるか知りたい方
ご家族で原因となる変化がわかっていれば、妊娠中に絨毛検査・羊水検査で採取した検体を使って、赤ちゃんが同じ変化を持っているかを調べられます。当院では絨毛検査・羊水検査を院内で行っています(第8章)。
この検査より別の検査が向いている場合
ご家族の報告書があり、病的バリアントがはっきりしているなら、まずこの検査です。一方、ご家族の原因がわかっていない場合は、症状のないあなたご自身を、別の検査で調べることになります。
🧭 どの検査を選ぶか
※ハンチントン病など、繰り返し配列が長くなる「リピート伸長」が原因の病気は、調べ方が違うことがあります(リピート伸長の遺伝子検査)。どの検査が合うかは、遺伝カウンセリングで一緒に決めます。
3. 検査を受ける前に用意するもの(チェックリスト)
どの遺伝子のどの変化を調べるかを正確に決めるため、ご家族の検査報告書が必要です。次のものを、可能な範囲でご用意ください。
- ☑ご家族の検査報告書のコピー(調べる遺伝子名と、変化(バリアント)の情報がわかるもの)
- ☑発端者(最初に検査を受けたご家族)の氏名
- ☑検査を受ける方との続柄(親子、兄弟姉妹など)
- ☑発端者の生年月日
- ☑ほかの医療機関・検査会社で検査を受けた場合:その検査機関の検査報告書のコピー(受けられるかの確認に使います)
報告書のどこを見ればよいか:遺伝子名・NM番号・変化の書き方
遺伝子の変化は、国際的な書き方(HGVS命名法)で書かれています[2]。報告書には、たとえば「BRCA2, NM_000059.4:c.〇〇〇〇del」のように、遺伝子名、基準になる配列の番号(NMで始まる番号)、変化の位置と内容が並んでいます。同じ遺伝子でも、作られるたんぱく質の型(アイソフォーム)によって番号の数え方が変わることがあるため、NM番号まで含めた情報があると、正確に調べられます。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。
💡 用語解説:発端者(プロバンド)
家族の中で最初に病気や遺伝子の変化が見つかり、検査のきっかけになった方のことです。既知の変異検査では、発端者の検査結果が「どこを調べるか」の手がかりになります。
ほかの医療機関・検査会社でご家族が検査を受けた場合
ご家族の検査が当院以外で行われた場合も、受けられることが多くあります。その場合は、受けられるかどうかの確認が必要なため、その検査機関の検査報告書のコピーをご提出ください。報告書の内容によっては、調べ方を検討したり、別の検査をおすすめしたりすることがあります。
ご家族の原因がわかっていないときは
ご家族がすでに遺伝子検査を受けていて原因がわかっていれば、その報告書がいちばんの手がかりで、既知の変異検査で同じ変化を持っているかを調べられます。わかっていなければ、症状のないあなたご自身を検査します。病名がわかっていれば病気ごとの遺伝子パネル検査や単一遺伝子検査、子どもを持つ前の準備なら保因者検査が選択肢になります。パネルに入っていない遺伝子は、カスタマイズ遺伝子パネル検査で追加して調べることもできます。
4. 検査でわかること・わからないこと(検査の限界)
この検査でわかるのは、指定した変化を持っているか、持っていないかだけです。ほかの遺伝子や、同じ遺伝子のほかの場所は調べません。
わかること
ご家族で見つかった変化を、あなた(またはお子さん・胎児)が持っているかどうかがわかります。変化の種類に合わせて、検査室が次世代シーケンス(NGS)、サンガー法、定量PCR(qPCR)、繰り返し配列の伸びを調べるリピートプライムPCR(rpPCR)、MLPA法のいずれかを選んで調べます。小さな文字の変化だけでなく、遺伝子の一部が欠けている(欠失)・増えている(重複)といった変化も、方法を選んで調べられます。
わからないこと
⚠️ この検査の限界
※まれに、化学的・計算上の問題や人為的なミスで変化が検出されないことがあります。陽性のご家族の検体(対照検体)がない場合も、まれに誤りが生じる可能性があります。
意義不明の変化(VUS)がご家族の報告書にある場合
ご家族の報告書に「意義不明(VUS)」と書かれた変化があることもあります。VUSは、病気の原因かどうかがまだわかっていない変化です。当院では、VUSだけを根拠に、病気の診断やご家族の発症前の判断をすることはしません。VUSが見つかったご家族の検査の意味は、一人ひとり違うため、遺伝カウンセリングでご説明します(VUSの臨床的な取り扱い)。検査を受ける方に症状があるか、ないかといった情報は、変化の分類を見直すときの手がかりにもなります。
5. 発症前診断として受ける方へ:知る・知らないを選ぶ
症状のない方が、将来発症する可能性を前もって調べることを、発症前診断(予測的検査)といいます。既知の変異検査は、ご家族の病気によっては、この発症前診断にあたります(予測的検査とは)。
当院の考え方:知りたいと願う方を拒まない
当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しています。知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まい・ご家族の介護の準備など、これからの人生を計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前検査を受けた人の理由として最も多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[4]。とくに「結婚するか」「子どもを持つか」は、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、同じ決断でも意味が違うと考えています。
日本医学会のガイドライン(2022年改定)も、発症前の検査では、検査の前に病気の予防法や発症後の治療法を十分に理解してから行うこと、治療法や予防法が確立していない病気では検査前後の心理的な支援が欠かせないことを示しています(2026年10月時点で確認)。
結果を知ったあとの気持ちの変化
アルツハイマー病のなりやすさに関わる遺伝子(APOE)の結果を知らせた人と知らせなかった人を比べた研究(REVEAL研究)では、その後の不安・うつ・検査に関する苦痛の程度に、両方の群で有意な差はありませんでした。一方で、検査の前から強い精神的な苦痛があった人は、知ったあともつらさを感じやすいことが示されています[5]。だからこそ、検査の前に時間をかけて考え、結果のあとも相談を続けられることが大切です。当院では、結果をお伝えしたあとも、陽性・陰性どちらの場合も、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
未成年のお子さんの検査
日本医学会のガイドライン(2022年改定)は、成年期以降に発症する病気の発症前の検査を未成年者に行うことについて、原則として本人が成人し自分で判断できるまで延期すべきで、両親などの代わりの同意で行うべきではない、としています(2026年10月時点で確認)。子どものうちに発症する病気や、早く知ることで健康管理が変わる病気では考え方が違うため、お子さんの検査は遺伝カウンセリングでご相談ください(未成年者の遺伝学的検査に関するガイドライン)。ハンチントン病の発症前診断については、ハンチントン病の発症前診断についての当院の立場もご覧ください。
6. 結果が出たあと:受け継いでいた・いなかった
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけを郵送やメールでお送りすることはありません。
同じ変化を受け継いでいなかったとき(陰性)
ご家族で見つかった変化を受け継いでいないとわかれば、その変化による病気について、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。お子さんにその変化を伝えることもありません。ただし、調べたのは指定した1か所だけです。ご家族の病気にほかの原因が関わっている可能性や、ご家族歴そのものから考えたほうがよい健康管理(がん検診など)は、遺伝カウンセリングで一緒に確かめます。
同じ変化を受け継いでいたとき(陽性)
同じ変化を持っていても、症状が出るか、どの程度になるかは、病気によっても人によっても違います。原因をもっていても発症しない人がいることを浸透率、同じ原因でも症状の重さが違うことを表現型の多様性といいます。病気によっては、世代を重ねるごとに発症が早く重くなる表現促進現象もあります。「親が軽いから自分も軽い」「自分が軽いから子どもも軽い」とは言えないことがあります。そのため、陽性のときは「何ができるか」を具体的に考えることが大切です(次の章)。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
わかるだけで終わりにしないことが、この検査のいちばんの目的です。ご家族と同じ病的バリアントを持っていたとき、立場ごとに次のことができます。
① ご自身の健康管理:見張る・早く見つける
病気によっては、定期的な検査で早く見つける、予防的な治療を考える、気をつけたい薬を知る、といった備えができます。たとえばHBOCやリンチ症候群のがんの見張り、家族性高コレステロール血症のコレステロールの管理などです。具体的な見張りや治療は、それぞれの病気の専門の医療機関で行います。当院では、結果の意味と、どの診療科で何を相談すればよいかを整理してお伝えします。
② パートナーの検査と、お子さんへの確率
常染色体顕性(優性)遺伝の病気なら、お子さん1人あたり2分の1の確率で変化が伝わります。常染色体潜性(劣性)遺伝の病気なら、パートナーも同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの影響が変わります。パートナーの方は保因者検査で調べられます。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラスもあります(単独では受けられません)。
③ 子どもを持つときの選択肢
知ったうえで、次のような選択肢から選ぶことができます。自然に妊娠して、出生前診断で赤ちゃんを調べる。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。受精卵の段階で調べるPGT-M(着床前遺伝学的検査)を、日本産科婦人科学会の審査を経て国内で、または海外で受ける(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。そして、何も調べずに出産することも、そのまま選べる選択肢です。どの選択も尊重します(PGT-Mだけが選択肢ではない理由)。
④ ほかのご家族へ:同じ変化をピンポイントで
あなたが同じ変化を持っていたとわかれば、今度はあなたのお子さんや、きょうだい・いとこなどが、この検査で同じ変化を持っているかを調べられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意で行います。ご家族にどう伝えるかも、遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。妊娠を考えるときは、出生前診断ができるかどうかも含めてご相談いただけます。遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングとはをご覧ください。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因となる遺伝子の変化の確認、英語の検査結果のご用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠後の絨毛検査・羊水検査(院内)です。
欧州ヒト生殖学会(ESHRE)の指針は、PGT-Mの準備として、病気の原因と確かめられた変化があること、変化の内容が書かれた元の報告書があること、そしてご家族の検体を挙げています[6]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、2本ある遺伝子の片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあるため、変化のある場所の両側の目印(多型マーカー)で「変化をもつ染色体」を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせるためです。指針の目安では、顕性遺伝なら患者さん少なくとも1人(できれば2人)および/または発症していない方1人、潜性遺伝なら患者さん・保因者・保因者でない方、X連鎖なら患者さん、および/または発症していない方(保因者と確かめられた方が望ましい)のDNAが求められます[6]。
ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。血縁者がいない場合、指針はご夫婦の目印を調べたうえで受精卵や1個の精子を調べる方法も挙げていますが、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります。また、新しく起きた変化(de novo)で、妊娠歴のないご夫婦では、一般的なハプロタイプ解析の方法は使えないとされています[6]。海外でPGT-Mを考えている方は、検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
臨床遺伝専門医としての判断では、意義不明の変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。潜性遺伝の病気では、ご夫婦それぞれがどの変化を持っているかを確かめておく必要があります。海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
受精卵のごく一部の細胞を調べる検査で、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[7]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えています。当院では絨毛検査・羊水検査を院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。
日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、症例ごとに学会の審査を受け、実施施設の倫理委員会の承認を経て行われます。この指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる疾患で、有効な治療法がないか、あっても高度かつ侵襲度の高いもの、とされています(2026年10月時点で確認)。学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち、37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。
英国では公的機関(HFEA)がPGT-Mを使える病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。米国には、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[8]。米国生殖医学会(ASRM)の倫理委員会は2024年、大人になってから発症する病気に対するPGT-Mも倫理的に正当化されるとする意見を出しています[9]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。くわしくは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
8. 胎児(お腹の赤ちゃん)の検査:出生前診断の流れ
ご家族で原因となる変化がわかっていれば、妊娠中に、赤ちゃんが同じ変化を持っているかを既知の変異検査で調べられます。調べる場所が決まっているので、出生前診断として受けやすい遺伝子検査のひとつです。
赤ちゃんの検体は、絨毛検査・羊水検査で採取します。当院では2025年6月から産婦人科を併設し、絨毛検査・羊水検査を院内で行っています。胎児の検査では、検査料に132,000円(税込)が追加になり、出生前診断の遺伝カウンセリング料は30分33,000円(税込)です。
出生前診断を行えるかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断します。とくに大人になってから発症する病気では、考え方がほかの病気と違うことがあります。「どの病気でも必ずできる」わけではないため、妊娠を考えている段階からご相談ください。妊娠してから準備を始めると、検査の時期に間に合わないこともあります。
妊娠前〜妊娠初期ご家族の報告書をそろえて遺伝カウンセリング
→
絨毛検査・羊水検査院内で検体を採取
→
既知の変異検査ご家族と同じ変化か調べる
→
結果の説明臨床遺伝専門医が直接
9. 検査の流れ・費用・日数・検体
既知の変異検査の費用は、バリアント1か所につき242,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料は検査料とは別にかかります。
ご予約報告書のコピーを用意
→
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
→
検体の採取血液・口腔スワブ・唾液
→
結果の説明約2〜3週間後
💴 既知の変異検査の概要
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください(英語版と日本語版の双方は追加料金5,500円)。検査で調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、二次的所見の開示方針をご覧ください。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【ご家族の報告書は、あなたへの「手紙」です】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。ご家族が勇気を出して受けた遺伝子検査の報告書は、ほかのご家族が自分のことを知るための、かけがえのない手がかりです。その報告書があれば、探す場所はもう決まっています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる選択です。知ったうえで考えたい方には、遺伝カウンセリングから出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族が遺伝子検査で陽性でした。私も検査を受けられますか?
はい。ご家族の検査で見つかった病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の変化)がわかっていれば、既知の変異検査(シングルサイト検査)で、あなたが同じ変化を持っているかを、その1か所だけ調べられます。ご家族の検査報告書のコピーをご用意ください。検査の前に、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。
Q2. 既知の変異検査の費用はいくらですか?
調べるバリアント1か所につき242,000円(税込)です。胎児(出生前診断)の場合は132,000円(税込)が追加になります。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込、出生前診断は30分33,000円・税込)が検査料とは別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q3. 結果が出るまでどれくらいかかりますか?唾液でも受けられますか?
結果までの目安は2〜3週間です。検体は、血液のほか、口腔スワブ(口の内側の粘膜)や唾液でも受けられます。結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明してから、マイページにアップします。
Q4. 家族の報告書がないと検査はできませんか?
どの遺伝子のどの変化を調べるかを正確に決めるため、ご家族の検査報告書(遺伝子名と変化の情報が書かれたもの)が必要です。ほかの医療機関や検査会社で検査を受けたご家族の場合は、受けられるかの確認のために、その検査報告書のコピーをご提出ください。ご家族で原因がわかっていない場合は、症状のないあなたご自身を、単一遺伝子検査や病気ごとの遺伝子パネル検査、保因者検査などで調べる方法があります。
Q5. お腹の赤ちゃん(胎児)が同じ変化を持っているか調べられますか?
ご家族で原因となる遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠中に絨毛検査や羊水検査で採取した検体で、赤ちゃんが同じ変化を持っているかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
Q6. 家族に遺伝性の病気の人がいると、結婚を反対されることはありますか?
ご家族の病気を理由に、結婚に不安を持たれたり反対されたりして悩む方はいます。ただ、お子さんに受け継がれる確率は、病気の遺伝のしかたとご家族ごとに違い、検査で確かめられることがあります。あなたが同じ変化を持っているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か(潜性遺伝の場合)、お子さんへの確率はどれくらいかを知ったうえで、出生前診断などの選択肢も含めて考えることができます。
Q7. 症状がない子ども(未成年)も検査を受けられますか?
日本医学会のガイドライン(2022年改定)は、成年期以降に発症する病気の発症前の検査を未成年者に行うことは、原則として本人が成人して自分で判断できるまで延期すべきとしています。子どものうちに発症する病気や、早く知ることで健康管理が変わる病気かどうかで考え方が変わるため、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q8. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。なお、当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。PGT-Mの準備には、ご本人の結果に加えてご家族の検体が必要になることが多いため、検査の段階からご相談ください。
🧬 ご家族の結果を、あなたとご家族のこれからに
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ご家族と同じ変化を持っているかを一度知れば、ご自身の健康管理、結婚や妊娠の計画、お子さんやきょうだいの検査を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が検査の前後の遺伝カウンセリングを行い、羊水検査・絨毛検査による胎児の検査まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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- [2] den Dunnen JT, Dalgleish R, Maglott DR, et al. HGVS recommendations for the description of sequence variants: 2016 update. Hum Mutat. 2016;37(6):564-569. [DOI: 10.1002/humu.22981]
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