均衡型染色体構造異常

均衡型構造異常とは?

東京でNIPT他の遺伝子検査を提供しているミネルバクリニックです。NIPTなどの遺伝子検査遺伝性疾患を理解するためには、基礎的なヒトゲノム染色体の構造についての理解が必要となってきます。このページでは、染色体の構造異常の中で、遺伝情報の総量が等しいと考えられている均衡型構造異常についてお伝えしたいと思います。

染色体の構造異常があっても、もともとの遺伝情報に過不足がまったくないものを均衡型構造異常と言います。

均衡型染色体異常は500人に1人という高い頻度で認められる結構一般的なものです。

ゲノム要素の配置は異なってもすべての遺伝情報がそろっているため、臨床的影響は伴わないことがほとんどです。

しかし、真の均衡型構造異常と、細胞遺伝学的には解像度が低いため一見均衡型にみえる症例でも、分子レベルでは不均衡であることがあり、これらを区別することが臨床情大変重要となります。

ゲノムには頻度の高いコピー数多型があり、血縁関係のない人のゲノム間には数百万塩基対にもおよぶ違いが存在するゆえに、『標準的配列』の決め方により均衡型、不均衡型の判定方法は異なってきます。
したがって、今は均衡型と考えられている構造異常が研究の進展と継続的な見直しにより不均衡型に変わる可能性はあります。

さらに、染色体の再構成が確かに均衡型であっても、次世代に影響を与える可能性もあります。
保因者は高い頻度で不均衡型の配偶子を形成する傾向があるため、不均衡型核型を伴う異常のあるお子さんが生まれるリスクが増加するからです。

再構成の種類によりお子さんが不均衡型となるリスクは1%から20%程度まで変動するとされています。
また、転座に伴いlつの染色体が切断されることによって遺伝子が損傷され、異常が生じる場合もあります。
明らかに症状があるのに見かけ上は均衡型構造異常、という患者さんを解析すると、特に全ゲノムシークエンスを用いることができるようになり、均衡型転座保因者の疾患の原因について多くのことが明らかになってきました。

転座

2つの染色体間の染色体断片の交換を転座といいます。
主に相互転座と非相互転座の2種類があります。

相互転座

reciprocal translocation
複数の非相同染色体が切り離されたり再構成した染色体断片を相互に交換、つまり切断や組換えが起きることで相互転座ができます。
通常は2つの染色体のみが関係していて相互に交換しているだけで総染色体数に変化はありません。
そのような転座は通常表現型に影響を及ぼしませんが、不均衡型配偶子の形成や子孫の異常のリスクが高くなります。
相互転座は出生前診断や不均衡型転座を伴う臨床的に異常な子どもの両親の核型解析により発見されることが多くなっています。
2回以上の自然流産を経験しているカップルや不妊男性では、一般集団に比べて高い頻度で均衡型転座が認められます。
転座があると、減数分裂時の染色体対合相同組換えの過程が困難になる為と考えられています。
均衡型相互転座保因者染色体対は減数分裂時に、相同配列を正確に対合させるために、通常みられる典型的な二価染色体ではなくて四価染色体(quadrivalent)を形成しなくてはならなくなります。

典型的な分離では、四価染色体を構成する4本の染色体のうち2本ずつが、分裂後期に両極へ移動すします。しかし、四価染色体のどの染色体とどの染色体がどちらの極に移動するかによって、いくつかの分離パターンが考えられます。
通常の減数分裂様式である交互分離では均衡型配偶子が生じ、正常な染色体構成を有する配偶子か、2つの相互転座染色体を有する配偶子が生じる。しかしながら、他の分離パターンからは不均衡型配偶子しか生じません。

Robertson(型)転座

Robertsonian translocation
Robertson型転座はヒトで最も多い染色体再構成です。
2本の端部着糸型染色体がセントロメア領域近傍で融合し、短腕を消失することによって生じます。
短腕が欠失しているので、厳密には転座ではありませんが、便宜的にずっと転座と呼ばれています。
この転座は相互転座ではなく、核型は45本の染色体からなり、 2本の端部着糸型染色体の長腕よりなる転座染色体が含まれます。
5対ある端部着糸型染色体は、いずれも短腕の大部分が各種のサテライトDNAと数百コピーのリボソームRNA遺伝子からなるので、ヒトとしての営みにどうしても必要な部分ではないため、2本の端部着糸型染色体の短腕が消失してもなんら影響はありません。そのため、染色体数は45しかなくても、この核型は均衡型として扱うのです。

端部着糸型染色体の切断点の位置を反映してRobertson(型)転座は、常にではないがほとんどが偽性二動原体となります。
端部着糸型染色体のすべての組み合わせについてRobertson(型)転座の報告があるのですが、比較的頻度が高いのは rob(l3;14)(q1O;q1O)とrob(l4;21)(q1O;q1O)と表記される2種類の転座です。

13qと14qの転座は1300人にl人にと案外多く、ヒトでみられる染色体再構成としては最も頻度が高いものとなっています。
Robertson(型)転座保囚者の表現型は正常ですが、不均衡型染色体構成の配偶子ができるため、不均衡型染色体構成を有する子孫が生まれるリスクがあります。
不均衡型染色体構成の子が生まれるリスクはRobertson(型)転座の種類と、保因者である親が男性か女性かによって異なります。
一般的には女性が保因者である場合の方が不均衡型染色体構成による異常を有する子が生まれるリスクが高くなります。

Robertson(型)転座の主な臨床的重要性は、主に21番染色体が関係するRobertson(型) 転座保因者カップルから転座型Down症候群の子が生まれるリスクが高くなることです。

Robertson(型)転座であるrob(14;21)保因者から理論上作り出されうる配偶子染色体を示した図です。
理論上では6種類の配偶子が形成される可能性がありますが、そのうち3つは生存可能な子には至りません。
左端から3つの配偶子だけが生存可能な子に至れるものです。
理論上ではこの3種類の配偶子は同じ数だけ形成されるのでDown症候群の子が生まれる理論的可能性は3分の1なのですが、大規模研究からは21番染色体がかかわる均衡型相互転座保因者母親から不均衡型転座の子が生まれる確率は約10~15%で、父親からは数パーセントと低くなることがわかっています。

挿入

insertion
ある染色体から除去された染色体断片が、 別の染色体挿入されることで挿入が生じます。挿入の向きはセントロメアに対して同じ向きの場合も、逆向きの場合もどちらもあります。
挿入が起こるためには染色体が3カ所で切断される必要があり、染色体異常としては複雑なので比較的稀ではあります。

均衡型の挿入を有している保因者は、配偶子形成時の分離のパターンにより、挿入断片の重複や欠失を伴う染色体異常を有する子が生まれる可能性があるのですが、正常染色体構成や均衡型染色体構成を有する子が生まれる可能性もあります。染色体異常のある子が生まれるリスクの平均は最大50%と高く、出生前診断の適応となる。

逆位

inversion
1本の染色体の2カ所で切断が起こり、その切断点間の断片が反対向きに再構成されることで逆位が生じます。
逆位には2つの種類があるります。

1つは、 2つの切断点が1本の腕内にある腕内(paracentric)逆位、他方は切断点が両腕に1つずつ存在する腕間(pericentric)逆位です。

腕内逆位

分染法でのパターンに加えて、染色体の腕比も変化させる可能性があるため、細胞遺伝学的検査により比較的容易に同定できます。
逆位自体は均衡型の再構成であり、通常その保因者に異常な表現型はありません。

逆位の医学的重要性は子孫に対してあり、どちらの逆位の保因者も異常な配偶子を形成する可能性があり、その場合は不均衡型の染色体異常を有する子が生まれことになります。
なぜなら、逆位が存在する場合、第一減数分裂時に正常な染色体と逆位の染色体の相同断片が対合するために、ループが形成される必要があるからです。

ループ内で組換えが起こってしまった場合は不均衡型配偶子が形成される可能性があります。
組換えが起こる位置によって、均衡型染色体セットをもつ配偶子も、正常でも逆位を有するものも、不均衡型染色体セットをもつ配偶子も形成されることになります。
逆位が腕内にある場合、不均衡型組換え染色体は無動原体か二動原体になるため、典型的には出生に至りません
そのため、腕内逆位を有する保因者が異常核型を有する生産児をもつリスクは、実際には非常に低い。

腕間逆位

腕間逆位の場合染色体断片の重複や欠失の両方を有する不均衡型配偶子が形成される可能性があります。重複および欠失となる断片は、逆位切断点の遠位部の断片です。
総合的には、腕間逆位を有する保因者に不均衡型核型の子が生まれるリスクは5~10%と推定されていますが、実際にはそれぞれの腕間逆位ごとに重複および欠失となる断片の大きさと要素が絡んで特有のリスクがあるのです。

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この記事の筆者

1995年医師免許取得。血液・呼吸器・感染症内科を経て、臓器別・疾患別の縦割りの医療の在り方に疑問を感じ、人を人として”全人的”に診療したいという思いを強くし、臓器を網羅した横断的専門医となり、2010年にがん薬物療法専門医取得(2019年現在全国1200人程度)。臓器を網羅すると遺伝性がんへの対策が必要と気づき、2011年に臨床遺伝専門医取得(2019年現在全国1000人程度)。遺伝相談はセンシティブな分野にもかかわらず、昼間の短い時間しか対応できない大病院のありかたに疑問を感じて、もっと必要な人がハードルを感じずに診療を受けられるようにしたいと2014年12月に開業。以来、全国から大学病院でも難しい内容の対応を求める人々を受け入れ、よろづお悩み相談所として多くの人々の様々な”家族(計画)の問題”を改善に導く。

著書に”女性のがんの本当の話”(ワニブックス)、”遺伝するがん・しないがん”(法研)がある。
少ない専門家で、正直で嘘のない言葉選びから週刊誌等の取材も多く、医療系の特集に時折コメントが掲載。(週刊現代、週刊ポスト、週刊新潮など)。
テレビ出演も時々あり、小林真央さんの病状を市川海老蔵さんが初めて記者会見した日、フジテレビの午後4時台のニュース番組に生出演して解説。その他TBS, AbemaTVなど出演。

一人一人の事情に合わせた個別対応をするべく、しっかり時間を取って本当のニーズは何かを聞き取りすることを大切にしている。短い時間でもお互いが出会ったことが相手の人生に大きな意味があるような医師患者関係の構築を理想として日々精進。

患者さんが抱えている問題を解決するにはどうしたらよいのかを考えて医師歴8年目に法学部に学士入学した程度に”凝り性”。女医が少なかった時代に3人の母親として難関専門医を3つ取得して社会進出を続けた経験から、女性のライフスタイルを医学以外の部分でも支援したいと願っている。
いろんな人生経験から心に響く言葉を投げかけるため、”会うと元気になる”ということで有名。飼いネコ3匹。

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