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染色体再構成(染色体構造異常)

染色体再構成は、染色体の構造に起こる変化を指し、これには複数の形があります。これらの変化は自然発生的に起こることもあれば、放射線や化学物質の曝露、生物学的因子の影響によって誘発されることもあります。染色体再構成は、遺伝病、がん、その他の疾患の発生に関連していることが多く、遺伝学的診断と研究において重要な意味を持ちます。染色体再構成は、遺伝学的検査によって特定されます。カリオタイピング、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、CGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション)、または次世代シーケンシング(NGS)などの技術が、これらの構造的変異を検出するために用いられます。染色体再構成の検出と解析は、遺伝病の診断、がんの特徴づけ、および治療選択に重要な情報を提供します。以下に、染色体再構成の主なタイプを説明します。

染色体構造異常の種類

転座 (Translocation)

染色体転座は、染色体の一部が切断されて別の染色体に移動する遺伝学的現象です。このプロセスは、遺伝子の位置が変わり、遺伝子発現に影響を与えることがあります。転座は遺伝病、発達障害、がんなどの疾患と関連があることが知られています。転座には主に二つのタイプがあります:

相互転座 (Reciprocal Translocation)
相互転座は、二つの異なる染色体間で染色体の断片が交換されるものです。このタイプの転座は通常、遺伝子の損失を伴わず、個体が正常な生理機能を維持できる場合があります。しかし、相互転座が配偶子に影響を与える場合、後代に遺伝的障害を引き起こす可能性があります。

ロバートソン型転座 (Robertsonian Translocation)
ロバートソン型転座では、二つのアクロセントリック染色体(中央よりも末端に近い位置に遠心体を持つ染色体、第13、14、15、21、22染色体)の長い腕が結合し、一つの大きな染色体を形成します。この過程で短い腕が失われることがありますが、これらの短い腕は遺伝的情報が少ないため、しばしば大きな問題を引き起こしません。ロバートソン型転座は、ダウン症候群などの遺伝病と関連しています。

転座の影響
遺伝病: 特定の遺伝子が転座によって影響を受けると、遺伝病が発生することがあります。例えば、特定の転座は慢性骨髄性白血病(CML)と強く関連しています。
発達障害: 転座は発達遅延や知的障害の原因となることがあります。
がん: 転座によって、オンコジーンが活性化されたり、腫瘍抑制遺伝子が不活化されたりすることで、がんが発生することがあります。
転座の検出
染色体転座は、カリオタイピング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、または次世代シーケンシング(NGS)などの遺伝学的検査によって検出されます。これらの検査は、転座の存在、種類、および影響された遺伝子を特定するのに役立ちます。

転座の理解は、遺伝病の診断、がんの分子機序の解明、および遺伝子療法の開発において重要です。遺伝学的検査による転座の検出と分析は、これらの疾患の管理と治療において不可欠な情報を提供します。

欠失 (Deletion)

染色体欠失(Chromosome deletion)は、染色体の一部が失われる遺伝学的変異です。この変異により、通常存在すべき遺伝子のコピーが一つまたは複数欠けることになり、これが特定の遺伝的疾患や発達障害の原因となることがあります。染色体欠失は、遺伝物質の一部分が失われることで、その領域に含まれる遺伝子の機能不全を引き起こします。

形成メカニズム
染色体欠失は、細胞分裂の過程での染色体の不適切な分離や、DNAの損傷と修復の過程で発生することがあります。具体的には、以下のメカニズムによって発生することが知られています:

不均等組換え: 類似したDNA配列間での組換えが不均等に起こることで、一部の遺伝物質が欠失します。
染色体断片の損失: 細胞分裂中に染色体の一部が物理的に失われることがあります。
関連する疾患と症状
染色体欠失は、その大きさや位置によって、様々な遺伝的疾患や発達障害と関連しています。例えば:

クリ・デュ・チャット(ネコなき)症候群: 5番染色体の短腕の末端部分が欠失することによって引き起こされ、特徴的な「猫の鳴き声」のような泣き声、知的障害、発達遅延などの症状が現れます。
ウィリアムズ症候群: 7番染色体の一部が欠失することにより生じ、顔の特徴、心血管疾患、知的障害、親しみやすい性格などが特徴です。
プラダー・ウィリ症候群: 15番染色体の特定の領域が父親から得られない場合(欠失または機能不全)に起こり、食欲異常、肥満、知的障害、筋力低下などの症状が見られます。

診断と治療
染色体欠失の診断には、カリオタイピング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、または次世代シーケンシング(NGS)などの遺伝子検査が用いられます。これらの検査によって、染色体の欠失領域とその影響を受ける遺伝子を特定することができます。

染色体欠失による疾患の治療は、主に症状の管理に焦点を当てた対症療法が中心です。物理療法、言語療法、特別支援教育など、患者のニーズに応じた介入が提供されます。また、遺伝カウンセリングが、患者やその家族に対して疾患の性質、遺伝のリスク、家族計画に関する情報を提供するために重要な役割を果たします。

染色体欠失に関連する疾患は、その原因や影響が非常に多様であるため、個別の疾患に応じた綿密な診断と個別化された治療計画が必要です。遺伝学的研究と臨床医学の進歩により、これらの疾患に対する理解と管理方法が向上しています。

重複 (Duplication)

染色体重複(Chromosome duplication)は、染色体の一部または全体が複製される遺伝学的変異です。この変異は、染色体の特定の領域の遺伝物質が一つではなく二つ存在することを意味し、遺伝子のコピー数が通常よりも多い状態を生じさせます。染色体重複は、遺伝病、発達障害、または特定の形質の変化と関連があることがあります。

形成メカニズム
染色体重複は、細胞分裂の過程でDNAが複製される際に発生するエラーによって引き起こされることが多いです。これには、不適切な染色体の分離(非分離)、DNAの不正確な複製(複製エラー)、または遺伝子の不均等な交叉(不均等組換え)が含まれます。

関連する疾患と症状
染色体重複によって引き起こされる疾患や症状は、重複された遺伝物質の量やその遺伝物質がコードする遺伝子によって異なります。一部の場合では、重複による影響が非常に軽微で、顕著な症状が現れないこともあります。しかし、他の場合では、以下のような疾患や症状を引き起こすことがあります:

発達遅滞: 学習困難や言語発達の遅れなど、発達上の遅延。
身体的特徴の変化: 特定の身体的特徴や先天性異常
神経発達障害: 自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動性障害(ADHD)など。
遺伝性疾患: 重複された領域が特定の遺伝性疾患と関連している場合。
診断と治療
染色体重複の診断は、カリオタイピング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、または次世代シーケンシング(NGS)などの遺伝子検査を通じて行われます。これらの検査により、染色体の重複領域とその影響を受ける遺伝子を特定することができます。

重複によって引き起こされる疾患や症状の治療は、その症状に焦点を当てた対症療法が中心です。物理療法、言語療法、特別支援教育など、個々のニーズに応じた介入が提供されます。また、遺伝カウンセリングが患者やその家族に対して提供されることがあり、疾患の性質、遺伝のリスク、家族計画に関する情報が提供されます。

染色体重複は、遺伝的多様性と人間の疾患における複雑な役割を反映しており、遺伝学、分子生物学、臨床医学において重要な研究対象となっています。

インバージョン(逆位) (Inversion)

染色体逆位は、染色体上のDNA配列の一部が切断されて逆方向に再接続される染色体構造の変異です。この変異は一つの染色体内で起こり、倒置または逆位と呼ばれます。染色体逆位には、遺伝物質の損失や増加が伴わない平衡型と、遺伝物質の増加や欠損が伴う非平衡型があります。

平衡型逆位
平衡型染色体逆位では、遺伝情報の損失や増加は発生しないため、直接的には遺伝的異常を引き起こしません。しかし、逆位が遺伝子の重要な調節領域で起こる場合、遺伝子の正常な発現に影響を与える可能性があります。平衡型逆位のキャリアは通常、表現型が正常ですが、生殖細胞の形成過程で異常な配偶子が形成される可能性があり、不妊や流産のリスクが高まったり、子孫に遺伝的異常が現れるリスクが高まることがあります。

非平衡型逆位
非平衡型染色体逆位は、遺伝物質の損失や増加を伴い、発達障害や健康問題の範囲を引き起こす可能性があります。このタイプの逆位は、遺伝子の正常な構造や機能を破壊するため、複雑な遺伝病を引き起こす可能性があります。

診断と管理
染色体逆位の診断は、通常、染色体分析(核型分析)やより高解像度分子遺伝学技術(例えば、ゲノムワイドアレイ解析や次世代シーケンシング)を通じて行われます。家族内に遺伝病の歴史がある、または生殖に関する問題がある個人、特に平衡型逆位のキャリアにとって、遺伝カウンセリングは重要な情報とサポートを提供します。

特定の遺伝子や遺伝子調節領域に影響を与える染色体逆位がある場合、関連する健康問題を軽減するための特定の臨床管理と介入が必要になることがあります。平衡型逆位のキャリアが妊娠を計画している場合、子孫への異常遺伝リスクを減らすために、補助生殖技術や胚胎の遺伝学的スクリーニングを検討することができます。

挿入 (Insertion)

染色体挿入は、染色体の一部が切断されて同じ染色体の別の位置に挿入される、または異なる染色体に挿入される染色体の構造異常です。この遺伝的変化は、遺伝子の配置を変えることで、遺伝子の発現パターンに影響を及ぼすことがあります。挿入によって、遺伝子の機能が変化したり、新たな遺伝子融合が生じたりすることで、遺伝病やがんなどの疾患の原因となることがあります。

染色体挿入のタイプ
染色体挿入には大きく二つのタイプがあります:

同一染色体内挿入: 染色体の一部が同じ染色体内の異なる位置に挿入されます。このプロセスは、遺伝子の順序を変更することができ、その結果、遺伝子発現に影響を及ぼす可能性があります。

異染色体挿入: 染色体の一部が異なる染色体に挿入されます。これは、遺伝子の新たな環境への配置変更を意味し、遺伝子の調節や発現に大きな影響を与える可能性があります。

染色体挿入が引き起こす影響
遺伝子の不活化: 挿入が遺伝子内またはその近くに発生すると、その遺伝子の機能が抑制される可能性があります。
遺伝子の過剰発現: 挿入された遺伝子がプロモーター領域の近くに配置されると、その遺伝子の発現が異常に増加することがあります。
遺伝子融合: 異なる遺伝子の断片が結合して新たな融合遺伝子が形成されることがあり、これが特定のがんの形成に関与することがあります。
染色体挿入の検出
染色体挿入は、カリオタイピング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、および次世代シーケンシング(NGS)などの遺伝学的検査によって検出されます。これらの検査は、挿入の位置、影響を受ける遺伝子、および可能な機能的影響を明らかにするのに役立ちます。

染色体挿入の理解は、遺伝病の診断、がんの原因の特定、および治療戦略の開発において重要です。特定の挿入イベントが疾患の原因である場合、その遺伝子または遺伝子融合を標的とする治療法の開発が可能になります。

リング染色体 (Ring Chromosome)

リング染色体は、染色体の両端が融合してリング状の構造を形成する遺伝子異常です。この現象は、染色体の末端部分が損失し、残った部分が端同士で結合することにより起こります。リング染色体は、正常な線形染色体の代わりに存在するか、追加の染色体として細胞内に存在することがあります。この染色体の異常は、遺伝的疾患や発達障害を引き起こす可能性があり、個人によって影響の程度は大きく異なります。

リング染色体の形成メカニズム
リング染色体の形成は主に次の二つのメカニズムによります:

末端欠失: 染色体の両端が何らかの原因(例えば、放射線や化学物質の曝露)で損傷を受け、欠失した後に残った染色体の端が結合してリングを形成します。
テロメアの融合: 染色体の保護キャップであるテロメアの機能不全により、染色体の端が不安定になり、終末が融合してリングを形成します。

リング染色体の影響
リング染色体の影響は、リングが形成された染色体の種類、リングのサイズ、および失われた遺伝子の重要性によって異なります。一般的な影響には以下のようなものがあります。

発達遅延: 身体的、精神的発達の遅れが見られることがあります。
成長障害: 身長の低さやその他の成長に関連する問題が生じることがあります。
先天性異常: 心臓疾患、骨格の異常、皮膚の問題など、様々な身体的特徴や健康問題が引き起こされることがあります。
学習障害: 学習に困難を伴うことがあります。

リング染色体の検出
リング染色体は、カリオタイピング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、および次世代シーケンシング(NGS)を含む遺伝学的検査によって検出できます。これらの技術は、リング染色体の存在、サイズ、および影響を受けた遺伝子を特定するのに役立ちます。

管理とサポート
リング染色体を持つ個人は、症状に応じて様々な医療専門家からサポートを受ける必要があります。これには、遺伝カウンセラー、小児科医、発達専門家などが含まれます。治療と管理の方法は、影響を受ける個人の具体的なニーズに応じてカスタマイズされます。リング染色体に関連する疾患の理解と対処は、遺伝学的カウンセリングとサポートを通じて、患者とその家族に有益な情報を提供することができます。

同腕染色体(アイソクロモソームisochromosome)

同腕染色体(Isochromosome)は、染色体の構造異常の一種で、染色体の一方の腕が欠失し、もう一方の腕が複製された状態を指します。これにより、染色体の一方の腕が二重になり、もう一方が存在しない状態が生じます。この異常は、染色体分裂時の誤りによって生じると考えられています。同腕染色体は、特定の遺伝的疾患やがんの発生に関連していることがあります。

形成メカニズム
同腕染色体は、主にセントロメア(染色体の中心部分)近くでの異常な染色体分裂によって形成されます。通常の染色体分裂では、染色体は縦に分割され、各新生染色体にはオリジナルの染色体の長腕と短腕の両方が含まれます。しかし、同腕染色体の形成では、染色体が横に分割されるため、長腕のみまたは短腕のみを持つ染色体が生じます。

関連する疾患
同腕染色体の形成は、特定の遺伝的条件やがんの発生に関連しています。例えば、以下が挙げられます。

ターナー症候群: 女性がX染色体を一つしか持たないか、またはX染色体に異常がある場合に発症します。X染色体の同腕染色体が関与しているケースがあります。
がん: がん細胞では、同腕染色体を含む染色体の数や構造の異常が頻繁に観察されます。これは、特定の遺伝子のコピー数が異常に増加することにより、がん細胞の成長や分裂が促進される原因となります。
診断
同腕染色体は、カリオタイピング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)テスト、または比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)などの遺伝学的検査によって特定されます。これらの検査は、染色体の数や構造の異常を検出し、特定の遺伝子疾患の診断やがんの特徴づけに利用されます。

治療と管理
同腕染色体によって引き起こされる疾患の治療と管理は、その疾患の性質と重症度に依存します。遺伝性疾患の場合、遺伝カウンセリングや支援サービスが患者や家族に提供されることがあります。がんの場合、同腕染色体が関与する可能性のある遺伝子や経路を標的とした治療が選択されることがあります。

同腕染色体は、遺伝学的疾患やがんの研究において重要な役割を果たし、これらの状態の理解と治療の改善に貢献しています。

先天性染色体構造異常の頻度

一般人口における染色体異常の発生率は約1.5%であると推定されていますが、いろんな構造異常を全部合わせても異数性異常よりも頻度は少なく、頻度は3:2となっています。つまり、異数性が0.9%、構造異常は0.6%ということになります。数的異常と同じく、構造異常も個人の全細胞に存在している場合とモザイクとして存在している場合があります。

ヒト染色体で観察される比較的頻度の高い構造異常のできるメカニズムと種類

A:端部欠失と中間部欠失。どちらも無動原体断片を生じるが通常失われます。
B:染色体断片の重複。重複部位は部分トリソミーとなります。
C:環状染色体と2つの無動原体染色体。染色体の長腕・短腕の両方の端が切れてしまい、セントロメアをはさんで環状染色体になり、切れ端は動原体(セントロメア)のない2つの染色体となります。
D:ある染色体の長腕のみから構成される同腕染色体ができてしまいます。
E:2つの端部着糸型染色体間のRobertson(型)転座。しばしば偽二動原体染色体となります。Robertson(型)転座は2つの端部着糸型染色体の短腕を失うので厳密には相互転座ではありません。Robertson(型)転座では、単に有しているだけでは通常症状はありません。欠けているのが本当に小さな短腕のみだからです。生殖の際に問題となります。
F:2種類の染色体間の相互転座。切断点から端部までの断片どうしを相互交換してできます。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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