ゲノムインプリンティング関連疾患

特発性染色体異常とは?

東京でNIPT他の遺伝子検査を提供しているミネルバクリニックです。NIPTなどの遺伝子検査や遺伝性疾患を理解するためには、基礎的なヒトゲノム染色体の構造についての理解が必要となってきます。このページでは、ゲノムインプリンティング関連疾患について、特にNIPTでも検査可能となっているAngelman症候群Prader-Willi症候群についてその病的メカニズムをお伝えしたいと思います。

ゲノムインプリンティングとは?

いくつかの疾患では変異アレルあるいは異常染色体が父母どちらから伝達したのかによって、疾患表現型が異なっていることがあります。
父母どちらに由来するかによって遺伝発現が異なるのは、ゲノムインプリンティング genomic imprinting の結果です。
インプリンティングについてはリンク先をクリックしてご覧ください。

インプリンティングと臨床細胞遺伝学

インプリンティングの影響の多くは染色体異常の存在によって明らかにされてきました。
インプリンティングの証拠は、まったく同じ細胞遺伝学的異常を持つにもかかわらず、異常染色体が父由来か母由来かによって表現型が異なる個人を比較することにより得られてきました。
ヒトゲノム中の数百の遺伝子がインプリンティングを有すると考えられています。
ある染色体領域は単ーのインプリンティング遺伝子を含み、別の領域は多数のインプリンティング遺伝子群(クラスター)を含み、なかには1Mbを超えるものもあると報告されています。
インプリンティング遺伝子が常染色体上の他の遺伝子と異なる点は、関連組織で母由来か父由来の一方のアレルのみが発現していることです。

ヒト疾患におけるインプリンティングの役割

最も研究されているのはPrader-Willi症候群(Prader-Willi syndrome PWS)とAngelman症候群(Angelman syndrome AS)で、次にこの2つの疾患のインプリンティング遺伝子やゲノムの特徴について述べる。
Beckwith-Wiedemann症候群(Beckwith-Wiedemann syndrome)もインプリンティングを有する疾患として挙げられます。

Prader-Willi症候群Angelman症候群

疾患の症状などの詳細についてはリンク先のページをご覧ください。

Prader-Willi症候群は父由来のインプリンティング遺伝子の欠如によりおこります。
約70%の症例は、15番染色体長腕近位部(15q11.2-q13)の欠失によりおこり、その欠失は5~6Mbの領域に隣接する配列の分節重複組換え時にゲノム病と同様の機構によって生じます。20~30%の症例では母方の片親性ダイソミーにより起こります。インプリンティングセンターに変異が起こってしまった症例が2.5%、snoRNA(small nucleolar RNA)遺伝子クラスターの中の小さな欠失でも稀ながら起こります、その他は不明となっています。

この領域内には片方のアレルからしか発現しない一連の遺伝子があり、これには通常父由来のコピーからしか発現しないものと、母由来のコピーからしか発現しないものがあるのです。

Prader-Willi症候群では欠失は父由来の15番染色体にしかみられないため、患者ゲノムの15q11.2-q13 には母由来のゲノム情報しかありません。この症候群は、当該領域の父由来のコピーのみから発現する遺伝子が失われた結果であることがわかります。

Prader-Willi症候群Angelman症候群の責任領域に隣接する低頻度反復配列はこの領域の重複や三重重複あるいは15番染色体の逆位重複がかかわる他の疾患にも関係しています。
Prader-Willi症候群Angelman症候群の遺伝継承と特徴的臨床所見の原因はインプリンティングにあっても、これらの疾患を引き起こす機序は当該領域の分節重複の不均等な組換えにあること、すなわち、これらの疾患がゲノム病であることを示しています。

Angelman症候群患者の約70%で母由来の15q11.2-q13という15番染色体の同じ領域の欠失が見られ、Angelman症候群患者ゲノムの15qll.2-q13には父由来のゲノム情報しかありません。ASでは片親性ダイソミー(父親)が7%、インプリンティングセンターの変異が3%、UBE3A遺伝子の変異が10%、不明が10%となっています。

Prader-Willi症候群Angelman症候群の少数の患者では、インプリンティングセンター(imprinting center)そのものに異常がある結果、精子形成における女性型から男性型へのインプリンティングの書き換えや、卵子形成における男性型から女性型へのインプリンティングの書き換えが起こらないという機序で疾患を発症しています。
女性型のインプリンティングを保持した精子による受精はPrader-Wilii症候群を引き起こし、男性型のインプ リンティングを保持した卵子の受精はAngelman症候群を引き起こします。

また、Prader-Wili症候群やAngelman症候群の表現型の主要な特徴はインプリンティング領域の特定の遺伝子の変異によっても生じます。
Angelman症候群は、母由来の1つの遺伝子ubiquitin protein ligase E3A (UBE3A)の変異によって引き起こされることが明らかになりました。このタイプはASの10%を占めています。UBE3Aはl5q11.2-q13インプリンティング領域内にあり、中枢神経系では母由来のアレルからしか発現しません。
母中枢神由来のUBE3Aにおける単一遺伝子変異Angelman症候群の約1O%にみられる。
Prader-Willi症候群では父由来の15番染色体上の小さな領域の欠失が数例報告されここにある116の非コード核小体低分子RNA(snoRNA)遺伝子クラスターの関与が示唆されています。

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この記事の筆者

1995年医師免許取得。血液・呼吸器・感染症内科を経て、臓器別・疾患別の縦割りの医療の在り方に疑問を感じ、人を人として”全人的”に診療したいという思いを強くし、臓器を網羅した横断的専門医となり、2010年にがん薬物療法専門医取得(2019年現在全国1200人程度)。臓器を網羅すると遺伝性がんへの対策が必要と気づき、2011年に臨床遺伝専門医取得(2019年現在全国1000人程度)。遺伝相談はセンシティブな分野にもかかわらず、昼間の短い時間しか対応できない大病院のありかたに疑問を感じて、もっと必要な人がハードルを感じずに診療を受けられるようにしたいと2014年12月に開業。以来、全国から大学病院でも難しい内容の対応を求める人々を受け入れ、よろづお悩み相談所として多くの人々の様々な”家族(計画)の問題”を改善に導く。

著書に”女性のがんの本当の話”(ワニブックス)、”遺伝するがん・しないがん”(法研)がある。
少ない専門家で、正直で嘘のない言葉選びから週刊誌等の取材も多く、医療系の特集に時折コメントが掲載。(週刊現代、週刊ポスト、週刊新潮など)。
テレビ出演も時々あり、小林真央さんの病状を市川海老蔵さんが初めて記者会見した日、フジテレビの午後4時台のニュース番組に生出演して解説。その他TBS, AbemaTVなど出演。

一人一人の事情に合わせた個別対応をするべく、しっかり時間を取って本当のニーズは何かを聞き取りすることを大切にしている。短い時間でもお互いが出会ったことが相手の人生に大きな意味があるような医師患者関係の構築を理想として日々精進。

患者さんが抱えている問題を解決するにはどうしたらよいのかを考えて医師歴8年目に法学部に学士入学した程度に”凝り性”。女医が少なかった時代に3人の母親として難関専門医を3つ取得して社会進出を続けた経験から、女性のライフスタイルを医学以外の部分でも支援したいと願っている。
いろんな人生経験から心に響く言葉を投げかけるため、”会うと元気になる”ということで有名。飼いネコ3匹。

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