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染色体不均衡型構造異常:理解と対応

染色体不均衡型構造異常とは、染色体の構造上の異常で、遺伝情報の欠損または余分なコピーが存在し、これが個体の発達に影響を及ぼす可能性がある状態です。ここでの「不均衡」とは、染色体の一部が過剰になったり、欠損したりして、遺伝情報のバランスが崩れている状況を指します。これにより、さまざまな遺伝病や発達障害の原因となる場合があります。

染色体不均衡型構造異常は、個体によってさまざまな表現型を示すため、個別のケーススタディや具体的な事例を通じて理解を深めることが重要です。また、不妊症や流産、発達障害などのリスクを高める要因としても知られています。

染色体異常の種類:構造異常と数的異常

染色体異常は、大きく構造異常と数的異常に分類されます。

構造異常: これは染色体の構造に変化が生じる異常です。主な構造異常には以下のものがあります。

欠失 (Deletion): 染色体の一部が欠損している状態です。
重複 (Duplication): 染色体の一部が2回以上現れている状態です。
転座 (Translocation): 染色体同士の一部が交換されている状態です。これは非常に重要であり、がんなどの疾患の原因となることがあります。
逆位 (Inversion): 染色体の一部が逆向きに挿入されている状態です。
数的異常: これは染色体の数が通常と異なる異常です。主な数的異常には以下のものがあります。

三体性 (Trisomy): 特定の染色体が3本存在する状態です。例えば、ダウン症候群は21番染色体の三体性を持つことが一般的です。
単体性 (Monosomy): 特定の染色体が1本しか存在しない状態です。例えば、ターナー症候群X染色体の単体性を持つことが特徴です。
四体性 (Tetrasomy): 特定の染色体が4本存在する状態です。
これらの異常は、遺伝子の機能や発現に影響を与え、さまざまな遺伝性および疾患の原因となる可能性があります。

関連記事:染色体再構成(染色体構造異常)

ロバートソン型転座とは

ロバートソン型転座(Robertsonian translocation)は、染色体異常の一種であり、特に染色体の構造異常に分類されます。この現象は、二つのアクロセントリック染色体(染色体の腕の長さが不均等で、セントロメアが端に位置する染色体)の長い腕が結合して一つの染色体を形成し、短い腕が失われる形で起こります。人間では、13、14、15、21、22番の染色体がアクロセントリックであるため、これらの染色体でロバートソン型転座が起こり得ます。

ロバートソン型転座は、遺伝的な疾患のリスクに関連していることがあります。例えば、ダウン症候群(トリソミー21)は、21番染色体のロバートソン型転座が原因である場合があります。転座キャリア自体は、通常、健康に影響を受けることはありませんが、子供に異常染色体を伝えるリスクが高まります。

不均衡型異常の例

不均衡型異常は、染色体の数や構造に起こる変化が原因で、遺伝物質の損失や追加が伴う遺伝子異常のことを指します。これは、遺伝情報のバランスが崩れ、個体の発達や健康に影響を及ぼす可能性があります。不均衡型異常の例には以下のようなものがあります。

トリソミー :染色体の一組が余分に存在する状態。最も知られている例は、21番染色体のトリソミーであるダウン症候群です。他にも、18番染色体のトリソミー(エドワーズ症候群)や13番染色体のトリソミー(パトー症候群)などがあります。

モノソミー :染色体の一組が欠損している状態。ターナー症候群(X染色体のモノソミー)が代表的な例で、女性がX染色体を一つしか持たず、第二の性徴の発達が遅れたり、不妊の原因となることがあります。

部分トリソミー : 染色体の一部が余分に存在する状態。特定の染色体領域の遺伝物質が三重になり、その領域の遺伝子発現が異常になります。

部分モノソミー : 染色体の一部が欠失している状態。特定の染色体領域の遺伝物質が欠け、その領域にある遺伝子の機能不全を引き起こします。

複雑な染色体再編成 : 二つ以上の異なる染色体が関与する転座や逆位、欠失、追加など複数の構造異常が組み合わさった状態。これらの再編成は通常、遺伝物質の不均衡を引き起こし、重篤な発達障害や疾患のリスクを高めます。

これらの不均衡型異常は、臨床的に重要であり、個人の発達、生殖能力、または健康状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。遺伝カウンセリングや詳細な染色体解析を通じて、これらの異常が特定され、適切な治療やサポートが提供されることが重要です。

不均衡型異常が引き起こす問題

不均衡型異常は染色体の構造や数における変異であり、遺伝物質の量に影響を与えます。これは、個体の発達、健康、生殖能力にさまざまな問題を引き起こすことがあります。以下に、具体的な影響とその関係性を説明します。

●流産との関係
不均衡型異常は流産の一般的な原因です。特に早期流産では、胎児が持つ染色体異常が主な原因の一つとされています。染色体異常が存在すると、胎児が正常に発達することが難しく、自然と流産に至ることがあります。トリソミーなどの数の異常や、重要な遺伝情報を欠損または過剰に含む構造異常がこれに該当します。
●不妊と染色体異常
染色体異常は不妊の原因となることがあります。例えば、ロバートソン型転座のキャリアは、一見健康であっても、その子孫に染色体異常を引き継ぐリスクが高まります。また、ターナー症候群のような染色体異常を持つ女性は、卵巣機能不全のために不妊になる可能性があります。染色体異常は精子卵子の形成に影響を与え、結果として生殖能力に問題を引き起こすことがあります。
●疾患との関連性
不均衡型異常は多くの遺伝性疾患や発達障害の原因となります。ダウン症候群(21番染色体のトリソミー)、エドワーズ症候群(18番染色体のトリソミー)、パトー症候群(13番染色体のトリソミー)などは、染色体の数の異常によって引き起こされます。これらの疾患は、知的障害、成長の遅れ、身体的特徴の異常、そして様々な健康問題を伴います。

不均衡型異常に関連する問題は、個人の遺伝的背景や異常の種類によって大きく異なります。そのため、染色体異常が疑われる場合や、不妊や流産の繰り返しに直面している場合は、遺伝カウンセリングや専門的な診断を受けることが重要です。これにより、リスクの評価、適切な治療の選択、また将来の妊娠計画におけるサポートが提供されます。

診断方法・染色体異常の判定方法

染色体異常を診断するためには、様々な生物学的および医学的手法が用いられます。これらの診断方法は、個体の染色体を詳細に調べることで、数や構造の異常を特定します。以下に、主な診断方法を紹介します。

1. カリオタイピング(染色体分析)
カリオタイピングは、細胞を培養して染色体を特定の段階で停止させ、顕微鏡下で染色体を染色して観察する古典的な方法です。染色体の数や形状の異常を視覚的に評価し、トリソミーやモノソミー、転座などの異常を特定します。
2. FISH(フルオレセンス・イン・シチュ・ハイブリダイゼーション
FISH技術は、特定のDNAシーケンスに対応するフルオレセントプローブを使用して、染色体上の特定の領域を可視化します。これにより、特定の遺伝子の欠失や複製、転座の存在を正確に特定できます。
3. 配列解析および次世代シーケンシング(NGS)
配列解析や次世代シーケンシングは、染色体上の遺伝情報を高解像度で解析し、微細な変異や変化を検出するために用いられます。これらの技術は、特に小規模な変異を検出する能力に優れており、不明瞭なケースの診断や、特定の遺伝子異常に関連する疾患の確定診断に有用です。
4. アレイCGH(アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション)
アレイCGHは、全ゲノムのコピー数変動(CNV)を検出するために使用されます。この技術は、サンプルDNAと正常な参照DNAとを比較し、ゲノム全体にわたる遺伝物質の増加や減少を検出します。部分的なトリソミーやモノソミー、未知の小規模な複製や欠失が原因の疾患を特定するのに特に有効です。
5. QF-PCR(定量的フルオレセントポリメラーゼ連鎖反応)
QF-PCRは、特定の染色体領域のコピー数を定量化するために用いられ、主にトリソミー症候群の迅速なスクリーニングに適用されます。この方法は、特に妊娠初期の胎児診断において有用です。
これらの方法は、それぞれ特定の種類の染色体異常を検出するために適しています。患者の症状家族歴に基づいて、最も適切な診断手法が選択されます。また、これらの技術は遺伝カウンセリングと組み合わされることが多く、異常の確定診断後には、患者や家族に対する遺伝的リスクの説明や今後の妊娠計画に関するアドバイスが提供されます。

染色体不均衡型転座の不妊治療:PGT(胚盤胞遺伝子診断)とSR(染色体異常のスクリーニング)

PGT(Preimplantation Genetic Testing)は、体外受精(IVF)において受精卵(胚)の遺伝的健康状態を調べる一連の手法を指します。このテストは、胚を子宮に戻す前に、遺伝性疾患や染色体異常があるかどうかを調べることで、健康な胚の選択を支援し、遺伝的リスクが高い家族が健康な子供を持つチャンスを高めます。PGTは主に以下の三つのカテゴリーに分けられます。

PGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidies):
以前はPGS(Preimplantation Genetic Screening)と呼ばれていました。
胚の染色体の数を評価し、アネプロイディ(染色体数の異常)の有無をスクリーニングします。これにより、最も健康的な胚を選択し、妊娠の成功率を高めることができます。PGT-Aは、特に年齢が高い女性、繰り返し流産の歴史があるカップル、体外受精での以前の失敗歴がある場合、またはアネプロイディで生まれた子供がいる親に推奨されます。このスクリーニングは、胚が正常な染色体数を持っているかどうかを確認することにより、妊娠の成功率を高め、流産のリスクを減少させることが目的です。

PGT-M(Preimplantation Genetic Testing for Monogenic/Single Gene Disorders):
特定の単一遺伝子疾患(例:嚢胞線維症やハンチントン病)を持つ胚を特定するために使用されます。これは、その疾患を持つリスクが高い夫婦にとって特に有用です。

PGT-SR(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements):
染色体の構造異常(例:転座や逆位)を持つ親から生まれる子供のリスクを評価するために使用されます。このテストは、構造的異常を持つ胚を特定し、健康な胚の選択を支援します。
PGT-SRのプロセス
体外受精(IVF): PGT-SRを行うためには、まずIVFにより受精卵(胚)を作成します。
胚の生検: 胚が一定の発達段階(通常は胚盤胞期)に達した時点で、数個の細胞を採取します。
DNA抽出: 採取した細胞からDNAを抽出し、分析のために準備します。
染色体分析: 特定の遺伝子検査技術(例:FISH、アレイCGH、次世代シーケンシング)を用いて、染色体の構造異常を評価します。
選択と移植: 染色体構造異常のない、またはリスクが最小限の胚を選択し、子宮に移植します。
利点と考慮事項
PGT-SRは、遺伝的リスクを持つカップルにとって、健康な子供を持つ可能性を高める重要な手段です。しかし、全ての胚が検査に合格するわけではなく、選択される胚の数が限られる場合があります。また、PGT-SRは遺伝的疾患のリスクを減少させますが、100%の成功を保証するものではありません。遺伝カウンセリングを通じて、検査の利点、制限、可能性のある結果について十分に理解することが重要です。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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