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染色体不均衡型構造異常
染色体の不均衡型構造異常とは?
東京でNIPT他の遺伝子検査を提供しているミネルバクリニックです。NIPTなどの遺伝子検査や遺伝性疾患を理解するためには、基礎的なヒトゲノムや染色体の構造についての理解が必要となってきます。このページでは、染色体の不均衡異常について、その種類やできるメカニズム、配偶子を作るときの問題点などについて説明をしたいと思います。
染色体構造の再構成は、染色体の切断とか再結合交換により異常な組み合わせが生じたものです。
均衡型、不均衡型の説明は以下のリンクをご覧ください。
染色体異常【31】染色体の構造異常1.総論
不均衡型構造異常は、生産児約1600人あたりに1人の頻度で検出されます。ダウン症(21トリソミー)が1000人に一人なので、そう少なくはありませんね。
複数の遺伝子の欠失や重複、または欠失と重複の両方があり、表現型は異常となる可能性が非常に高くなります。
1本の染色体の一部の重複その断片に含まれる遺伝子の部分トリソミーとなり、一部の欠失は部分モノソミーとなります。
一般的には正常な遺伝子量の均衡を乱すあらゆる変化は異常な表現型を引き起こします。
しかし、どのような性質の遺伝子の量が異常となるかにより、表現型は全く異なります。
少なくとも数百万塩基対(数Mb)の不均衡を含む大きな構造異常は高精度核型分析も含めた通常の染色体分染法レベルで検出できます。
けれども一般的に小さな不均衡の検出にはより精度の高いFISH法やマイクロアレイ染色体検査などによる解析が必要となります。
☛ ミネルバクリニックに来る患者さんたちの中にも、以前に生まれたお子さんが生まれてこのかた意識がなくて人工呼吸器をつけて入院管理中で、染色体検査したけど異常がない、という話をする方々がいますが、一口に染色体検査といってもどういう検査をしたかが分からないと、本当に異常がなかったのかがわかりません。
おおざっぱなものしか検出できない方法(Gバンドなど)で検出しようとしても見えない異常がたくさんあるからです。
欠失
染色体の一部分がなくなっていることを欠失と言います。
欠失があると染色体の不均衡(もともとある遺伝情報と差異がある状態をすべて不均衡と言います)となります。
遺伝物質が1コピーになることにより正常なら2コピーの遺伝物質が担う機能が果たせなくなることをハプロ不全といい、臨床的な影響はハプロ不全により起こると考えられています。もともとアレル不均衡のある遺伝子も全体の20%未満あるのですが、大半の遺伝子では2つあるアレルの両方の対立遺伝子が均等に発現し、そのDNA産物であるタンパクやmRNAを両アレルで作っています。これが半分になると機能不全を起こすのです。
これによる臨床的にどういう症状をどれくらいの重さで発症するかは、欠失した断片の大きさと欠失した個々の遺伝子の数と機能によって決まることが明らかになっています。
細胞遺伝学的に検出可能な常染色体の欠失は、生産児約7000人あたり1人の頻度でみられますが、これはGバンドと顕微鏡で検出できるものなので数Mbという大きなものです。
顕微鏡では検出できない小さなサイズ欠失はマイクロアレイ染色体検査法などにより検出されるのですが、こちらはもっと頻度が高いものです。しかし、そうした多数のバリアントの臨床的重要性はまだ完全には解明されていません。
欠失は染色体の端部や染色体腕の中間部で起こることが多いです。
欠失は、単に染色体が切断され、そのセントロメアを有しない染色体断片が失われることで生じます。数々の欠失が形態異常を有する患者や知的障害を有する患者そして出生前診断の過程で同定されています。
重複
染色体の一部が余分にコピーされて存在することを重複と言います。
重複は欠失に比べて臨床的影響が少ないと考えられていますが、遺伝物質が過剰にあることになり、身体にとって過剰なタンパクがあることとなり、学習障害・発達障害などの問題を生じる可能性があります。
また、配偶子における重複は部分トリソミーなどの染色体不均衡となったり、重複の原因となった染色体の切断により遺伝子が損傷する場合もあり、重複も多くの場合何らかの表現型異常を引き起こします。
マーカー染色体
染色体標本中に、小さく同定困難な染色体が観察されることがあります。
由来がわからないものはマーカー染色体(markerchromosome)と呼ばれ、モザイク状態でときに観察されます。
マーカー染色体は通常では正常な染色体セットがあってその上さらにという形で存在していて、過剰染色体と呼ばれています。
出生前診断においてde novo (新生突然変異)で過剰なマーカー染色体が観察される頻度約2500人に一人と椎定されています。
普通のGバンドなどではバンドの形や数、間隔といった特徴から染色体番号を決定しているのですが、小さく特色のない断片であるため、一体どの染色体に由来するのかということを正確に同定するためには解像度の高いゲノム解析が必要となることがほとんどです。
マーカー染色体は、 一方あるいは両方の染色体腕の遺伝情報を多量に含んでいるため、そこに存在する遺伝子について不均衡を生じます。
胎児に異常が生じる確率はマーカー染色体の由来によって、ほとんどゼロから100%の場合までさまざまです。
15番染色体と性染色体に由来するマーカー染色体が比較的高頻度と報告されていますが、その機序は不明のままとなっています。
多くのマーカー染色体は、テロメアがない環状染色体として存在します。
環状染色体
環状染色体は1本の染色体の2カ所で切断され、切断端どうしが再結合してリング構造となるもので、2つの姉妹染色分体は分裂後期に分離する際にもつれてしまってできることがあり、こうした出来方の一部の環状染色体は体細胞分裂時に問題となります。
リングに切断が生じ、それから再結合することで、大きさがかわってしまうことがあるからです。
このような体細胞分裂時の不安定性により、環状染色体が細胞の一部にのみ観察される(モザイク)ことが多いのです。
同腕染色体
同腕染色体は、一方の腕が欠如して、他方の腕が重複した染色体です。
そのため、46本の染色体のなかに同腕染色体がある人は、該当する染色体について、欠如してしまった一方の腕の遺伝物質が1コピー(部分モノソミー)、他方の腕の遺伝物質が3コピー(部分トリソミー)となっていることになります。
いくつかの常染色体の同腕染色体が報告されています。
最も有名なのはX染色体長腕からなる同腕染色体で、Turner症候群の人の一部に認められ、i(X)(q1O)と表記されます。
同腕染色体はよく固形腫瘍や造血器悪性新生物の核型においても観察されます。
二動原体染色体
二動原体染色体は、それぞれセントロメアを有する2つの染色体断片の端と端が結合した、稀なタイプの異常染色体です。
二動原体染色体はセントロメアが2つあるにもかかわらず、一方のセントロメアがエピジェネティックに不活化された場合、または2つのセントロメアが常に協調して分裂後期の極へ移動する場合には体細胞分裂においても安定だと考えられます。こうした染色体は、正式には偽性二動原体と呼ばれています。
最も一般的な偽性二動原体染色体は、性染色体や端部着糸型(端部動原体型)染色体が関与するものです。