ダウン症の原因は減数分裂時の染色体のわけ間違い
染色体が余分にあったり少なかったりする異数体とは?
染色体異常には染色体の数の異常(異数性)と構造異常(部分的に欠けたり増えたりする)があります。染色体異常の異数性について、その起こるタイミング、母体の年齢とともにリスクが上がる原因について説明しています。
ヒトでは染色体数が46以外のどの数になる場合も異数体(heteroploid)と呼びます。
一倍体の染色体数(n)の整数倍は正倍数体(euploid)、他の染色体数は異数体(aneuploid)と呼びます。
つまり、ヒトのnは23なので、47,XY +21 は異数体、69,XXY は三倍体(triploid)です。
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三倍体と四倍体
臨床検体では正常な体細胞の特徴である二倍体(2n)に加えて、三倍体 (triploid:3n)と四倍体 (tetraploid:4n)の2種類の正倍数性の染色体数が観察されることがあります。
三倍体も四倍体も胎児期にのみ認められることがほとんどです。
三倍体
三倍体性は確認された胎児の1~3%に観察され、 長くは生きられないものの、生きて産まれることが稀にあります。
三倍体胎児のほとんどは 1つの卵子に2つの精子が入る二精子受精(dispermy)によって起こります。
残りの症例は、男性または女性における減数分裂時の異常によって二倍体の卵子や精子が形成されたことが原因となるようです。
三倍体核型の表現型の徴候は、余分な染色体セットが母親と父親のどちらに由来するかによって異なり、母親由来の染色体が余分にある三倍体の場合は通常、妊娠早期に自然流産します。父親由来の染色体が余分にある三倍体の場合は通常、胎児は非常に小さいです。
変性した異常な胎盤〔いわゆる部分胞状奇胎(partialhydatidiform mole)〕が生じます。
四倍体
四倍体は常に92,XXXXか92,XXYYであるというこれまでの報告から、受精卵の初期卵割の完了異常によって生じると考えられています。
染色体異常:異数性
染色体の異数性とは、常染色体なら本来2本のところが3本になっているとか、1本になっているとかという染色体の数の異常のことをさします。
染色体異数性は、ヒトの染色体異常症のなかで最も多く、臨床的にも重要な染色体異常です。
臨床上認識される全妊娠の少なくとも5%(20人に一人)にみられるという非常にポピュラーなものです。
異数性染色体異常の患者のほとんどは特定の染色体が正常の1対(2本)ではなく3本あるトリソミー(trisomy)か、特定の染色体が1本しかないモノソミー(monosomy)のいずれかであり、モノソミーの方が少なくなっています。
トリソミーもモノソミーも深刻な表現型(疾患、病気)を呈します。
トリソミー
トリソミーはゲノムのどの染色体にも起こりうるのですが、1本の完全な染色体のトリソミーがある場合に致死とならないことは非常に稀です。
生産児に最もよくみられるトリソミーの種類は21 トリソミー(trisomy21)であり、Down症候群(Down syndrome、47,XX,+21または47,XY,+21)の患者の95%にみられる染色体構成です。
生産児にみられる他のトリソミーとしては、18トリソミー(trisomy18)と13トリソミー(trisomy13)があります。
これらの常染色体(13. 18、 21番)が染色体中に存在する遺伝子数が最も少ない3つの常染色体です。トリソミーの臨床的重症度と一番相関しているのは当該染色体に含まれる遺伝子の数であることを示唆しています。
13/18/21番染色体よりも遺伝子数が多い常染色体のトリソミーはほとんどの場合致死であると推定されます。
モノソミー
モノソミーで生きて生まれることができるのは、X染色体のみ、つまり45,Xのみです。
これ以外のモノソミーは致死となります。
X染色体は女性ではもともと2本あるのですが、2本あっても2本ともが働いているわけではなく、X染色体不活化という機構により不活化されていてほぼ1本しか働いていないので産まれてこられるのだと考えられていますが、実際にはターナー症候群(モノソミーX)45,Xでは99%が流産してしまいますので、X染色体のなかで不活化されずに2コピーで働かねばならない遺伝子が少なくてもあるのだと推測されます。
異数性の生じる原因とは?
染色体異数性が生じる原因は完全に理解されているわけではありません。
最も一般的な染色体のメカニズムは、減数分裂時の不分離(meiotic nondisjunction)=分離不全、つまり分けるのに失敗する事だとされています。
たとえば2本を1本ずつにするときに2本とゼロに分けてしまうとかがそれにあたります。
これは、2段階の減数分裂のどちらか(通常は第一減数分裂)の時点で染色体対の正確な分離が起こらないことによるものです。
第一減数分裂時の不分離と第二減数分裂時の不分離では、生じるゲノムは異なることになります。
第一減数分裂時(中央)と第二減数分裂時(右)の21番染色体の不分離の結果を正常な分離(左)と比較した図ですが、第一減数分裂時に誤りが起きた場合には、配偶子は両親由来の21番染色体対を含んでいる、もしくは21番染色体を全く欠くのどちらかとなります。
第二減数分裂時に不分離が起きると、異常な配偶子は片親由来の21番染色体を2コピー含んでいる、もしくは21番染色体を完全に欠く、のどちらかとなります。
第一減数分裂時に不分離が起きた場合24本の染色体を有する配偶子は、染色体対に父由来と母由来の染色体の両方を含んでいる。第二減数分裂時に不分離が起きた場合は、過剰な染色体を有する配偶子は、父由来あるいは母由来のいずれかの染色体を2コピー含んでいます。とはいっても厳密にいえばこれらは父由来あるいは母由来のセントロメアについて述べているにすぎないのですが。なぜなら通常第一減数分裂前に相同染色体間で組換えが起こるため、染色分体間さらには対応する娘染色体間に組み替えられ方の違いにより遺伝的差異が生じることになるからです。
第一減数分裂時の相同染色体対の正確な分離は、比較的単純そうに見えるのですが、実際には、
2つの相同体が並び、
お互いに密接に結合し(対合)、
紡錘休と相互作用し、
最終的に切り離されて反対極に移動し、
別々の娘細胞に入る
という作業を時間的・空間的に厳密かつ正確に制御して行わねばならない複雑で巧妙なプロセスがそこにはあります。
ほんの少しのずれも許されません。
したがって、染色体対の不分離の起こりやすさは、正確な対合を維持するために不可欠な第一減数分裂時の組換えの頻度や組換えのおこる位置、もしくはその両者と強く関連すると考えられています。
組換えが非常に少ないまたはほとんどない染色体対において、もしくはセントロメアやテロメアに非常に近い位置での組換えがある染色体対においては、組換えの頻度や位置が通常な染色体対に比べて不分離を起こしやすくなっています。
いくつかの症例では第二減数分裂時ではなく第一減数分裂時の姉妹染色分体の早期分離によって異数性が生じることになります。
これが起きて分離した染色分体が偶然に卵母細胞あるいは極体へ分離すると、不均衡な配偶子となります。
染色体不分離が初期卵割時に起きた場合には、モザイク(mosaicism)となる可能性があります。
染色体不分離は、受精して接合子を形成した後の体細胞分裂時にも起こり得ます。
一部の悪性細胞株や培養細胞では、体細胞分裂時の染色体不分離により、高度に異常な核型が生じている場合もあり、これが癌化につながっていると考えられています。