InstagramInstagram

片親性ダイソミー(UPD)とは?――染色体が片方の親からだけ伝わるしくみと関連する病気

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

私たちの染色体は、本来父から1本・母から1本ずつ受け継ぎます。ところが、まれに片方の親から2本とも受け継いでしまうことがあります。これが「片親性ダイソミー(Uniparental Disomy:UPD)」です。多くのUPDは何の症状も出さない健康な状態ですが、一部の染色体ではプラダー・ウィリー症候群などの先天性症候群を引き起こしたり、本来なら起こりにくいはずの潜性(劣性)疾患を表に出したりします。本記事では、UPDのしくみ・関連する病気・検査・遺伝カウンセリングまでを、一般の方にもわかりやすく、臨床遺伝専門医の視点で解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 片親性ダイソミー・ゲノムインプリンティング・出生前診断
臨床遺伝専門医監修

Q. 片親性ダイソミー(UPD)とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 片親性ダイソミー(UPD)とは、本来は父と母から1本ずつ受け継ぐはずの染色体(またはその一部)が、片方の親から2本とも伝わる現象です。遺伝子の総量(コピー数)には過不足がないため、多くの場合は無症状の「健康なキャリア」として一生を過ごします。ただし特定の染色体では、ゲノムインプリンティング異常による先天性症候群や、片方の親しか保因者でないはずの潜性(劣性)疾患の発症を引き起こすことがあります。出生およそ2,000〜3,500人に1人と、決してまれすぎる現象ではありません。

  • 2つのタイプ → 遺伝的に異なる2本(ヘテロダイソミー)と、まったく同一の2本(アイソダイソミー)に分かれる
  • なぜ起こる → 受精の前後で染色体の分配がうまくいかず、その「修復(レスキュー)」の結果として生じる
  • 病気になる3つの経路 → ①インプリンティング異常 ②潜性疾患の顕在化 ③隠れたモザイク
  • 関係する染色体 → 第6・7・11・14・15・20番の6つが臨床的に確立されている
  • 再発リスク → UPDが原因の場合、次のお子さんでの再発はごくわずかと考えられている

\ 染色体・遺伝の検査について専門医に相談したい方へ /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

出生前診断・遺伝子検査に関するご相談:遺伝子検査について

1. 片親性ダイソミー(UPD)とは:染色体が片方の親からだけ伝わる現象

人間は二倍体生物といって、ほとんどの染色体を2本1組(相同染色体)で持っています。通常はその1本を父から、もう1本を母から受け継ぎます。これはメンデル遺伝の基本ルールです。片親性ダイソミー(UPD)とは、この相同染色体の対(あるいは染色体の一部分)が、両親から1本ずつではなく、片方の親だけから2本とも伝わってしまう状態を指します。この概念は1980年にエリック・エンゲルによって理論的に提唱され、その後マイクロサテライトマーカーや制限酵素断片長多型(RFLP)解析などの分子遺伝学的手法によって、ヒトでも実在することが証明されました。世界で最初に報告されたヒトのUPD症例は、嚢胞性線維症と低身長を併発した患者における第7染色体の母系アイソダイソミーで、UPDがヒトの病気の原因になり得ることを示した記念碑的な発見でした。

かつては「顕微鏡では見えない、まれな現象」と考えられてきましたが、近年の単一塩基多型(SNP)アレイによる大規模なゲノムスクリーニングにより、UPDは出生およそ2,000〜3,500人に1人という、想像以上に高い頻度で生じていることが明らかになりました。さらに、2つの異なる染色体で同時にUPDが起こる「二重UPD」も約5万人に1人の確率で生じると推定されています。また、発生には親由来の偏りがあり、母系UPDは父系UPDのおよそ2〜3倍多いことが知られています。これは、女性の卵子形成における減数分裂のエラーが加齢とともに増えるという生物学的特性に強く関係しています。理論上ありうる全48パターンのうち、生物学的に存在しえないのは「Y染色体の母系UPD」のみで、頻度としては第16染色体と第15染色体のUPDが最も多く観察されます。

💡 用語解説:コピー数中立(コピーすうちゅうりつ)

UPDでは、染色体は「父1本+母1本」が「母2本(または父2本)」に置き換わるだけで、本数も遺伝子の総量も2セットのまま変わりません。この「数のうえでは過不足がない」状態をコピー数中立(copy-neutral)と呼びます。だからこそ、従来の顕微鏡を使った染色体検査(Gバンド法)では「正常な核型(46,XXや46,XY)」と見えてしまい、見逃されやすいのが大きな特徴です。

2. ヘテロダイソミーとアイソダイソミー:2つのタイプの違い

UPDは、受け継いだ2本の染色体がどれくらい「同じ」かによって、大きく2つのタイプに分けられます。この違いは、後で述べる「どんな病気を引き起こすか」に直結する、とても重要なポイントです。

💡 用語解説:ヘテロダイソミーとアイソダイソミー

ヘテロダイソミー(uniparental heterodisomy)は、片方の親が持っていた「遺伝的に異なる2本」をそのまま受け継ぐ状態です。たとえば母方の祖父由来の染色体と祖母由来の染色体が、母を経由して両方とも子に伝わるイメージです。

アイソダイソミー(uniparental isodisomy)は、片方の親が持っていた「1本の染色体がコピーされ、まったく同一の2本」になった状態です。コピーであるため、その領域は完全に同じ配列となり、後述する潜性(劣性)疾患の発症と深く関わります。

これらは染色体全体に及ぶ「完全なUPD」のほかに、染色体の一部分だけが片親由来になる分節的UPD(segmental UPD)という形もとります。さらに実際の体内では、減数分裂のときに相同染色体どうしで「乗換え(組換え)」が起こるため、1本の染色体の中で、動原体付近はヘテロダイソミー・テロメア付近はアイソダイソミーといった「混合型」になることが非常に多いのが現実です。タイプの違いは、病気のなりやすさだけでなく、どの検査で見つかるか(後述)にも影響します。

3. UPDはなぜ起こるのか:5つの発生メカニズム

UPDは、親の遺伝子の欠陥がそのまま伝わるのではなく、主に配偶子(精子・卵子)を作るときの減数分裂、受精、その直後の細胞分裂で起こる「染色体分配のエラー」と、それを生き延びようとして細胞が行う「修復(レスキュー)」の組み合わせで生じます。代表的なしくみは次の5つです。図でイメージをつかんでみましょう。

片親性ダイソミーができる代表的な2つのしくみ ① トリソミーレスキュー(余分な1本が脱落) 卵子(2本) 接合子(トリソミー) レスキュー(1本脱落) 母性UPD(2本とも母由来) ② モノソミーレスキュー(1本が自己複製) 0 卵子(ヌリソミー) 接合子(モノソミー) 自己複製 アイソダイソミー 母由来 父由来

上段:余分な染色体を持つトリソミーから1本が脱落し、残った2本がたまたま同じ親由来だとUPDになります(トリソミーレスキュー)。下段:染色体を持たないモノソミーから、残った1本が自己複製して二倍体に戻ると、必ず同一の2本=アイソダイソミーになります(モノソミーレスキュー)。

最も多い「トリソミーレスキュー」

既知のUPDの少なくとも19%を占めるとされる最も一般的なしくみがトリソミーレスキューです。減数分裂のエラー(不分離)で特定の染色体を2本持つ卵子と、正常な精子が受精すると、その染色体が3本ある「トリソミー」の接合子になります。トリソミーの多くは発生に致命的なため、初期の細胞分裂で余分な1本が脱落し、二倍体に戻ろうとする修復が起こります。このとき脱落が無作為だと仮定すると、3分の1の確率で「同じ親由来の2本」が残り、UPDが成立します。減数第I分裂のエラーならヘテロダイソミー、第II分裂のエラーならアイソダイソミーが基本ですが、乗換えのため実際は混合型になることが多いです。

そのほかの4つのしくみ

  • モノソミーレスキュー:染色体を1本も持たない配偶子と正常な配偶子が受精し、モノソミーになった後、残る1本が自己複製して二倍体に戻る。この性質上、必ずアイソダイソミーになる。
  • 配偶子補完:特定の染色体を2本持つ配偶子と、偶然その染色体を持たない配偶子が出会って受精する、きわめてまれな確率的な事象。
  • 受精後の体細胞分裂エラー:正常に受精した後、体細胞分裂の途中で不分離が起こり、UPDの細胞・正常な細胞・異数性の細胞が混在する「モザイクUPD」になる。
  • 構造異常に伴うもの:ロバートソン転座や過剰マーカー染色体(sSMC)の保因者では、減数分裂で分離異常が起きやすく、UPDのリスクが上がる。分節的UPDは受精後の体細胞組換えでも生じる。

4. UPDが病気を引き起こす3つの理由

繰り返しになりますが、UPDの多くは無症状です。実際、インプリンティングの制御を受けない染色体の全染色体UPDは、明らかな異常を示さない健康なキャリアとして多数報告されています。それでも、特定の条件下では重い症状が出ます。その理由は大きく3つに分けられます。

理由①:ゲノムインプリンティング(遺伝子の刷り込み)の破綻

💡 用語解説:ゲノムインプリンティング

ヒトの遺伝子のうちごく一部(約1〜2%)は、父由来か母由来かによってスイッチのオン・オフが決められています。DNAのメチル化などのエピジェネティックな目印によって、一方の親由来だけが働き、もう一方は眠る(サイレンシングされる)という仕組みで、これを「ゲノムインプリンティング(遺伝子の刷り込み)」と呼びます。これらの遺伝子は11p15や15q11-q13などの特定の領域に集まり、インプリンティング制御領域(ICR)によってまとめて管理されています。

もしインプリント遺伝子を含む染色体でUPDが起こると、本来働くべきアレルが完全に失われたり、逆に働くべきアレルが二重になって過剰に発現したりします。これにより、胎児発生や成長、脳神経の発達に欠かせない遺伝子量のバランスが崩れ、「インプリンティング疾患」と呼ばれる先天性症候群が起こります。臨床的に病気との関係が確立されているUPD関連のインプリント染色体は、第6・7・11・14・15・20番の6つに限られます。

理由②:潜性(劣性)疾患の「思いがけない顕在化」

💡 用語解説:ヘテロ接合性の消失(LOH)/ホモ接合領域(ROH)

アイソダイソミーでは、片親の1本の染色体がそっくりコピーされるため、その領域は2本ともまったく同じ配列になります。本来は父と母で少しずつ違う配列を持つはず(ヘテロ接合)が、同じ配列だけ(ホモ接合)になってしまう——これをヘテロ接合性の消失(Loss of Heterozygosity:LOH)、あるいは連続したホモ接合領域(Region of Homozygosity:ROH)と呼びます。この「同じ配列になる」性質が、潜性疾患の発症と直結します。

片方の親が、ある常染色体潜性(劣性)遺伝疾患の病的バリアントをヘテロ接合で持つ保因者(健康)だったとします。ふつうはもう一方の親から正常なアレルをもらうため、子どもが発症する確率は低いはずです。ところが、その病的バリアントを持つ染色体がアイソダイソミーとして子に伝わると、子どもは自動的にホモ接合(両方が変異型)となり、本来起こりにくいはずの潜性疾患が発症してしまいます。実際に、先天性副腎皮質過形成症(21-水酸化酵素欠損症など)や、第16染色体父系UPDによるファンコニ貧血(FANCA遺伝子)など、片親のみが保因者の家系で予期せず発症した例が蓄積しています。UPDは、家系図だけでは説明できない「見えない要因」として働くのです。

理由③:隠れた異数性モザイクの存在

トリソミーレスキューなどで生じたUPDでは、修復が不完全だったり、胎盤などの一部の組織にだけ最初のトリソミー細胞が残ったりすることがあります。これが胎盤限局性モザイク(CPM)です。たとえば第16染色体母系UPDで見られる重度の胎児発育不全は、第16染色体上のインプリント異常そのものよりも、胎盤などに残った「隠れた第16トリソミーモザイク」による胎盤機能不全が主因と近年は指摘されています。第21染色体UPDの例でも、胎盤側に26%の割合でトリソミー21モザイクが残っていた報告があります。UPDは、その背後に潜む細胞遺伝学的異常を知らせるサインにもなり得るのです。

5. 染色体別に見るインプリンティング疾患

同じ染色体のUPDでも、残った染色体が父由来か母由来かで、まったく異なる病気になります。これはエピジェネティック制御の複雑さを象徴する現象です。たとえば第15番では、母由来だけになるとプラダー・ウィリー症候群、父由来だけになるとアンジェルマン症候群と、正反対のような症状を示します。第11番では、父由来でベックウィズ・ヴィーデマン症候群(過成長)、母由来でシルバー・ラッセル症候群(成長不全)と、これも対照的です。主なものを表にまとめます。

染色体・親由来 疾患名・症候群名 主な臨床的特徴
第6番・父系 一過性新生児糖尿病(TNDM) 新生児期の重度高血糖、子宮内発育不全、巨舌。糖尿病は一旦寛解するが成人期に再発しやすい。
第7番・母系 シルバー・ラッセル症候群 重度の子宮内・出生後発育不全、相対的大頭、逆三角形の顔貌、身体の左右非対称。
第11番・父系 ベックウィズ・ヴィーデマン症候群 胎児期からの過成長(巨大児)、巨舌、臍帯ヘルニア、低血糖。ウィルムス腫瘍などの胎児性腫瘍リスクが上昇。
第14番・母系 テンプル症候群 著しい発育遅延、新生児期の筋緊張低下、小児期の早期思春期、軽度〜中等度の知的障害。
第14番・父系 カガミ・オガタ症候群 過成長、重度の羊水過多、釣鐘状の胸郭・コートハンガー様肋骨、重度の新生児呼吸不全。
第15番・母系 プラダー・ウィリー症候群 新生児期の強い筋緊張低下と哺乳不良、幼児期以降の過食と肥満、低身長、知的障害。
第15番・父系 アンジェルマン症候群 重度知的障害、無発語、運動失調、てんかん、特有の頻繁な笑い。
第16番・母系 母系UPD16/16トリソミーモザイク関連 重度の胎児発育不全。主に併発する第16トリソミーモザイク(胎盤機能不全)に起因すると考えられている。
第20番・母系 ムルチャンダニ・ボージ・コンリン症候群 著しい出生前後の発育不全、極低出生体重、小頭症、摂食障害。モザイクトリソミー20の既往で見つかることが多い。
第20番・父系 偽性副甲状腺機能低下症Ib型 ほか 出生時の過体重、早期発症の肥満、相対的大頭、高身長。発育不全ではなく過成長傾向を示す。

なお、第14番のテンプル症候群・カガミ・オガタ症候群、第20番の各症候群は、それぞれ第14染色体長腕(14q32)や第20染色体上のインプリント遺伝子群(DLK1、RTL1、MEG3、GNASなど)のバランスが崩れることで生じます。これらは小児期発症の希少疾患で、症状の現れ方も多彩です。気になる所見があるときは、自己判断せず専門医にご相談ください。

6. ロバートソン転座とUPDリスク:数字を正しく見る

生殖医療や出生前診断の現場でよく出会う染色体構造異常がロバートソン転座です。これは末端着糸型染色体(第13・14・15・21・22番)の長腕どうしが動原体付近で融合する再構成で、一般人口の約1,000人に1人が均衡型の保因者とされます。保因者自身はふつう無症状ですが、配偶子形成のときに三価染色体を作り、分離がうまくいかず、異数性の精子や卵子ができやすくなります。その異数性の配偶子が受精し、トリソミーレスキューやモノソミーレスキューが働くことで、第14番・第15番を含む転座ではインプリンティング疾患の原因となるUPD児が生まれるリスクを抱えることになります。

ここで重要なのが、近年の大規模データが示す「実際の数字」です。インプリント染色体(第14・15番)を含む非相同ロバートソン転座の保因者の妊娠で、胎児に実際にUPDが起こる経験的リスクは約0.06%〜0.8%(1%未満)と、きわめて低いことがわかっています。あるラボの過去7年のデータでも、第14・15番を含む転座と診断された胎児18例すべてでUPDは否定され、両親からの正常な遺伝が確認されました。一方、羊水検査や絨毛検査には手技に伴う流産のリスクがあります。つまり、超音波で胎児に明らかな異常がないのに「UPDを除外する目的だけ」でルーチンに侵襲的検査をすることは、必ずしも勧められない場合が増えています。ただし、転座が遺伝性ではなく新生突然変異(de novo)の場合や、超音波で羊水過多・発育遅延などの異常がある場合は、リスクの考え方がまったく異なるため、積極的に検討すべきです。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「転座保因者」と言われたご家族へ】

出生前診断と遺伝カウンセリングの現場では、ロバートソン転座の保因者とわかったご夫婦から「子どもがUPDになるのでは」と強い不安を打ち明けられることがよくあります。インターネットには古い情報も多く、必要以上に不安をあおられているケースが少なくありません。文献を踏まえると、第14番・第15番を含む非相同型でも、実際にUPDが起こる経験的リスクは1%未満と報告されています。

一方で、羊水検査・絨毛検査には手技に伴う流産のリスクもあります。だからこそ、確率という一つの数字だけで検査を決めるのではなく、超音波所見・転座が新生(de novo)か遺伝性か・ご家族の価値観を一緒に並べて整理し、最終的にどうするかをご家族自身が納得して選べるように支えることを、私は臨床遺伝専門医としての役割だと考えています。

7. UPDはどうやって調べる?検査と診断

前述のとおりUPDはコピー数中立のため、従来のGバンド法による核型分析やFISH法では直接検出できません。診断には、目的に応じた専用の手法が必要です。技術の進歩により、検査の選択肢は近年大きく広がりました。

①マイクロサテライト(STR)解析:長年のゴールドスタンダード

発端者(患者)と両親の3人(トリオ)のDNAを比べ、対象の染色体上の多数の目印(マイクロサテライト)を解析して、その染色体がどちらの親から来たかを直接たどる方法です。ヘテロダイソミーとアイソダイソミーを明確に区別でき、親の寄与を直接証明できる強みがあります。一方で、少なくとも片方(理想は両親)のDNAが必須で、サンプルが得られないと解析が難しくなります。

②メチル化解析(MS-MLPAなど):インプリンティング疾患の第一選択

💡 用語解説:メチル化解析(MS-MLPA)

DNAのコピー数の変化と、シトシン残基のメチル化(インプリンティングの目印)の両方を、1本の反応で同時に調べられる効率のよい手法です。プラダー・ウィリー症候群/アンジェルマン症候群やベックウィズ・ヴィーデマン症候群/シルバー・ラッセル症候群など、インプリンティング疾患が強く疑われるときは、このメチル化解析が第一選択になります。UPD・微小欠失・配列を伴わない純粋なエピ変異までまとめて検出できるのが利点です。

注意したいのは、インプリンティング疾患では、染色体マイクロアレイ(CMA)を第一選択にはしないという点です。まずメチル化解析で異常を確認し、それがUPDによるものかを確かめる「原因の精査」としてSTR解析やアレイ解析を組み合わせる、という順序が標準的です。

③SNPアレイ(CMA):ゲノム全体のROHを見える化

複数の先天奇形や神経発達の遅れがある患者では、SNPプローブを搭載した染色体マイクロアレイ(CMA)が第一選択の検査として推奨されています。SNPアレイは、コピー数変化(CNV)を高解像度で検出するだけでなく、ゲノム全体の遺伝子型からヘテロ接合性の消失(LOH)=連続したホモ接合領域(ROH)を見える化できます。これにより、両親のサンプルがなくても、発端者単独のデータからアイソダイソミーを強く推定できるようになりました。ただし、ヘテロダイソミーはLOHを伴わないため、親データを使った特殊な解析をしない限り、SNPアレイ単独では見逃すリスクが残ります。

④次世代シーケンシング(NGS)とバイオインフォマティクス

近年の最大の変化は、全エクソーム解析(WES)・全ゲノム解析(WGS)のデータから直接UPDを検出する手法の登場です。NGSデータの「Bアレル頻度(BAF)」と「Log R Ratio(LRR)」を統合解析することで、コピー数の変化を伴わないLOHを高解像度で同定できます。次の図は、その見え方の原理を示したものです。

図:SNPアレイ・NGSで「アイソダイソミー(LOH)」が見えるしくみ

横軸は染色体上の位置。中央の青い帯がアイソダイソミー(片親由来の領域)です。

コピー数は2のまま

Log R Ratio(コピー数)

Bアレル頻度(BAF)1.00.50.00.5の帯が消える

正常領域では0.0・0.5・1.0の3本に分かれるBアレル頻度が、アイソダイソミー領域では0.5(ヘテロ接合)の帯だけ消えて0.0と1.0の2本になります。これが「コピー数は正常なのにヘテロ接合性が失われる(LOH)」というUPD特有のサインです。

さらに最新の手法では、トリオのシーケンスデータを入力に、隠れマルコフモデル(HMM)で正常遺伝とUPDを自動判別する「UPDhmm」のようなアルゴリズムも開発されています。約2,400の自閉スペクトラム症家系のコホート解析に適用され、これまで未報告だった第8染色体の父系アイソダイソミーと第22染色体の母系ヘテロダイソミーを病因として同定することに成功しました。産科領域でも、標的アンプリコンシーケンス(TA-seq)を用い、出生前段階で感度90.9%・特異度97.7%という性能でUPDやインプリンティング異常を検出する研究が進んでいます。

8. 遺伝カウンセリングと再発リスク:出生前と出生後を分けて考える

UPDが見つかったとき、遺伝カウンセリングで最も大切な情報のひとつが再発リスクです。一般的な常染色体潜性(劣性)疾患では、両親がともに保因者の場合、次のお子さんの発症リスクは妊娠ごとに25%(4分の1)と計算されます。ところが、お子さんの潜性疾患が「片方の親だけが保因者で、その親由来の染色体がアイソダイソミーで二重化したこと」が原因だった場合、状況はまったく異なります。減数分裂の不分離、特定の親の配偶子の関与、レスキューといった独立した偶然がもう一度同じように重なる確率は天文学的に低いため、この場合の再発リスクは事実上ゼロに近いとみなせます。前述のとおり、非相同ロバートソン転座の保因者からのUPD再発リスクも経験的に1%未満です。

出生前診断と出生後診断は別もの

診断は「出生前」と「出生後」で目的も手法も異なります。混同しないよう、分けて理解することが大切です。

🤰 出生前の検査

非侵襲的スクリーニング:NIPT(胎盤由来DNAを解析。CPMなどの影響に注意)

確定検査:絨毛検査・羊水検査+メチル化解析やマイクロアレイ。手技に伴う流産リスクを必ず考慮する。

👶 出生後の検査

第一選択(疾患疑い時):インプリンティング疾患はメチル化解析

網羅解析:血液による染色体マイクロアレイ(CMA)。Gバンド法では微小欠失・コピー数中立のUPDは検出困難。

米国臨床遺伝医学会(ACMG)は2020年にUPD検査の実践声明を更新しました。CMAで偶然見つかる広いROHの解釈について、単一染色体に限局した広いROHはアイソダイソミーを強く示唆する所見として報告すべきこと、複数の染色体にまたがるROHはむしろ両親の血縁関係(近親婚)を第一に考えること、そしてROH内にある潜性疾患の原因遺伝子についてホモ接合性変異のスクリーニング(リフレックステスティング)を行うことを推奨しています。一方で出生前検査については、過剰な侵襲的検査を避ける慎重な姿勢を一貫して示しています。検査を受けるかどうかは、超音波所見・保因者ステータス・手技のリスクを総合し、遺伝カウンセラーや専門医とともにご家族が納得して決める「共同意思決定」が基本です。なお、片方の親しか保因者でないはずの潜性疾患がUPDで見つかった経験は、ご家族が将来の妊娠を考えるうえで、保因者スクリーニングを検討する一つのきっかけにもなります。

9. よくある誤解

誤解①「UPDがあると必ず病気になる」

そうとは限りません。インプリンティングの制御を受けない染色体のUPDは、無症状の健康なキャリアとして報告されています。病気と確立しているのは第6・7・11・14・15・20番のUPDなど、限られたケースです。

誤解②「普通の染色体検査でわかる」

わかりません。UPDはコピー数中立のため、Gバンド法やFISH法では正常と見えてしまいます。メチル化解析・STR解析・SNPアレイ・NGSなど、目的に合った検査が必要です。

誤解③「親の遺伝なので次も必ず再発する」

多くのUPDは偶発的に生じるため、次のお子さんでの再発リスクはごくわずかと考えられています。「自分たちが高リスク家系だ」と過度に思い込む必要はありません。正確な評価のために遺伝カウンセリングが役立ちます。

誤解④「片親しか保因者でないなら潜性疾患は出ない」

アイソダイソミーがあると話は別です。片親の変異が二重化(ホモ接合化)して、本来起こりにくい潜性疾患が顕在化することがあります。家系図だけでは説明できない「見えない要因」です。

10. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「見えない染色体異常」を見えるようにする時代に】

片親性ダイソミーは、長いあいだ「普通の染色体検査では見えない」存在でした。臨床遺伝専門医として文献を追っていると、原因不明とされてきた発育不全や、片親しか保因者でないはずの潜性疾患の背景に、UPDが静かに隠れていた——そんな報告に出会うたびに、分子の言葉を読み解くことの力を実感します。SNPアレイやNGSの普及によって、かつては見えなかったゲノムの動きが、いまは高解像度で「見える」ものへと変わってきました。

大切にお伝えしたいのは、UPDが見つかっても、多くは健康なキャリアであること、そして多くの場合、次のお子さんでの再発はごくわずかだということです。不確かなネット情報に振り回されず、正確な数字と一緒に、ご家族が落ち着いて道を選べるように——出生前診断と遺伝カウンセリングの現場から、その伴走ができればと願っています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 片親性ダイソミー(UPD)があると、必ず病気になりますか?

いいえ。多くのUPDは無症状で、健康なキャリアとして報告されています。病気と関係するのは、ゲノムインプリンティングの制御を受ける第6・7・11・14・15・20番のUPDや、アイソダイソミーによって潜性(劣性)疾患が顕在化する場合などに限られます。所見が見つかった場合は、どの染色体の・どのタイプのUPDかによって意味が大きく異なるため、専門医による評価が大切です。

Q2. 普通の染色体検査(Gバンド法)でUPDはわかりますか?

わかりません。UPDは染色体の本数も遺伝子の総量も変わらない「コピー数中立」の変化のため、Gバンド法やFISH法では正常な核型に見えてしまいます。検出には、メチル化解析(MS-MLPA)、トリオのマイクロサテライト(STR)解析、SNPアレイ(CMA)、次世代シーケンシング(NGS)など、目的に応じた専用の手法が必要です。

Q3. プラダー・ウィリー症候群やアンジェルマン症候群はUPDで起こるのですか?

これらの症候群の原因の一部はUPDです。第15番の母系UPDでプラダー・ウィリー症候群、父系UPDでアンジェルマン症候群が起こり得ます。ただし、いずれも微小欠失やインプリンティング異常など複数の原因があります。検査の第一選択は染色体マイクロアレイ(CMA)ではなくメチル化解析で、メチル化異常を確認したうえでUPDかどうかを精査します。

Q4. ロバートソン転座の保因者です。胎児のUPD検査は必ず受けるべきですか?

一律に「受けるべき」とは言えません。第14・15番を含む非相同ロバートソン転座でも、胎児に実際にUPDが起こる経験的リスクは約0.06〜0.8%(1%未満)と低いことが報告されています。一方で羊水検査・絨毛検査には手技に伴う流産のリスクがあります。超音波で異常がない場合と、転座が新生突然変異(de novo)である場合や超音波異常がある場合では考え方が大きく異なるため、遺伝カウンセリングで一緒に整理して決めることをおすすめします。

Q5. 子どもが潜性(劣性)疾患と言われましたが、保因者は片方の親だけです。なぜ発症したのですか?

アイソダイソミーが関係している可能性があります。片方の親が持っていた病的バリアントの染色体がコピーされて2本とも同じになると、お子さんはホモ接合となり、本来は起こりにくいはずの常染色体潜性(劣性)疾患が発症することがあります。これはUPDによる「思いがけない顕在化」と呼ばれます。正確な原因の特定と再発リスクの評価のため、専門医にご相談ください。

Q6. UPDが原因の場合、次の子どもにも再発しますか?

多くの場合、再発リスクはごくわずかと考えられています。UPDは減数分裂の不分離やレスキューといった偶発的な出来事が重なって生じるため、同じことがもう一度起こる確率は非常に低いからです。通常の常染色体潜性疾患の再発リスク(25%)とは異なる評価になるため、ご両親の不安を正しく整理するためにも遺伝カウンセリングが役立ちます。

Q7. ヘテロダイソミーとアイソダイソミーでは、何が違うのですか?

受け継いだ2本の染色体が「遺伝的に異なる2本」ならヘテロダイソミー、「まったく同一の2本」ならアイソダイソミーです。インプリンティング疾患はどちらでも起こり得ますが、潜性疾患の顕在化(ホモ接合化)はアイソダイソミーで起こります。また検査面でも、SNPアレイ(CMA)はアイソダイソミー(ROH)を推定しやすい一方、ヘテロダイソミーはLOHを伴わないため見逃しやすい、という違いがあります。

Q8. 出生前にUPDを知ることはできますか?

条件次第で可能です。絨毛検査・羊水検査で採取した胎児由来の細胞を用い、メチル化解析やマイクロアレイ、ターゲット解析などでUPDやインプリンティング異常を調べられます。ただし侵襲的検査には流産のリスクがあり、UPDの発生リスクとのバランスが重要です。検査を受けるかどうかは、超音波所見やご家族の状況を踏まえ、中立的な遺伝カウンセリングのもとでご家族が決める事柄です。

🏥 染色体・遺伝のご相談

片親性ダイソミー・インプリンティング疾患・ロバートソン転座など
染色体と遺伝に関する検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。

参考文献

  • [1] Genomic imprinting and uniparental disomy. MedlinePlus Genetics (NIH). [MedlinePlus]
  • [2] Uniparental disomy as a cause of pediatric endocrine disorders. PMC. [PMC6073059]
  • [3] Uniparental disomy: expanding the clinical and molecular phenotypes of whole chromosomes. Frontiers in Genetics. 2023. [Frontiers]
  • [4] Uniparental disomy is a chromosomic disorder in the first place. PMC. [PMC8851757]
  • [5] Uniparental Disomy and Imprinting Disorders. OBM Genetics. [LIDSEN]
  • [6] Uniparental disomy in Robertsonian translocations. PMC. [PMC4729106]
  • [7] Diagnostic testing for uniparental disomy: a points to consider statement from the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). 2020. [Semantic Scholar]
  • [8] Clinical features associated with maternal uniparental disomy for chromosome 6. PMC. [PMC11287833]
  • [9] Lessons from a phenotypically normal infant with uniparental isodisomy of chromosome 21: a Case Report and review. Frontiers in Genetics. 2025. [Frontiers]
  • [10] UPDhmm: detecting uniparental disomy from NGS trio data. Bioinformatics (Oxford). 2026. [Oxford Academic]
  • [11] Uniparental Disomy 14 (UPD14). rarechromo.org. [Rarechromo PDF]
  • [12] UNIPD: Uniparental Disomy. Mayo Clinic Laboratories. [Mayo Clinic Labs]

関連記事

用語解説ゲノムインプリンティングとは親由来で遺伝子の働きが変わるしくみと、関連疾患をやさしく解説します。用語解説ロバートソン転座とは不妊・不育症との関係からUPDリスクまで、構造異常を詳しく解説します。疾患プラダー・ウィリー症候群第15番の母系UPDでも起こる代表的インプリンティング疾患を解説します。疾患アンジェルマン症候群第15番の父系UPDでも起こる、PWSの姉妹疾患について解説します。コラム限局性胎盤モザイク(CPM)と胎児発育不良UPDの背後に隠れることがあるCPMとFGRの関係を解説します。検査プラダー・ウィリ/アンジェルマン メチル化解析NGSインプリンティング疾患の第一選択となるメチル化解析検査を案内します。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移