目次
遺伝子検査の結果票に「VUS」と書かれていたら、それは病気の原因になる変化(病的バリアント)とも、害のない変化(良性バリアント)とも、現時点では判定できないバリアントが見つかったという意味です。VUSは「陽性」でも「陰性」でもない第3の結果であり、VUSそのものを根拠に治療や予防の方針を決めることはしません。この記事では、VUSの定義、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)と分子病理学会(AMP)の5段階分類での位置づけ、がんゲノム検査の「Tier III」との違い、見つかる頻度、再分類の実際までを、臨床遺伝専門医の立場から整理します。
Q. VUSとは何ですか?結論だけ知りたいです
A. VUS(variant of uncertain significance:臨床的意義不明のバリアント)とは、遺伝学的検査で見つかった遺伝子の変化のうち、病気の原因になるかどうかを判断する根拠が不足している、または根拠が食い違っているために、病的とも良性とも分類できないものです。結果の区分としては陽性・陰性と並ぶ独立した結果で、VUSだけで医療方針を変えることはしません。医療上の判断は、ご本人の既往歴や家族歴などにもとづいて行います。新しいデータが集まると再分類されることがあり、その多くは良性方向です。
- ➤正体 → 病的とも良性とも決められない、根拠が足りないバリアント
- ➤位置づけ → ACMG/AMPの5段階分類の真ん中。結果としては陽性・陰性と並ぶ第3の区分
- ➤頻度 → 調べる遺伝子が多い検査ほど見つかりやすく、多遺伝子パネルでは3〜4割程度に及ぶ
- ➤臨床での扱い → VUSそのものでは治療・予防の方針も血縁者の検査も決めない
- ➤再分類 → 再分類されたVUSの多くは良性方向。病的方向に変わるものも一部ある

🧬 VUSの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 臨床的意義不明のバリアント(病的意義不明のバリアント、意義不明変異とも表記) |
| 英語 | variant of uncertain significance(variant of unknown significance とも)。略称VUS |
| 定義 | 臨床的意義に関するエビデンスが十分でない、あるいは矛盾するために、陽性・陰性のどちらにも分類できないバリアント[1] |
| 分類上の位置 | ACMG/AMPガイドライン(2015年)の5段階分類の中間[2] |
| 臨床での扱い | 臨床判断には用いない。管理は既往歴・家族歴などにもとづく |
| がんゲノム検査との違い | 腫瘍の体細胞バリアントはAMP/ASCO/CAPの4段階(Tier I〜IV)で分類され、Tier IIIが「臨床的意義不明」にあたる |
※本記事は用語の解説であり、個別の検査結果の解釈に代わるものではありません。
1. VUS(臨床的意義不明のバリアント)とは
VUSとは、遺伝子の塩基配列に見つかった変化のうち、病気の原因になるのか、それとも害のない個人差なのかを、現時点の医学的根拠では決められないものです。「異常が見つかった」という結果でも、「何も見つからなかった」という結果でもありません。
遺伝学的検査の結果は、大きく3つに分かれます。①病的バリアントが見つかった「陽性」、②バリアントが見つからないか、発症リスクに関係しないバリアントが見つかった「陰性」、③発症リスクに関する意義がわからないバリアントが見つかった「VUS」です[1]。陽性であれば、診断された病気に推奨される検診(サーベイランス)や予防的な治療などの医学的管理が検討され、血縁者が同じバリアントを持つかを調べる検査にも使えます。一方、陰性とVUSは、それだけではこうした医学的対応に使えない結果とされています[1]。
VUSが生まれる理由は、「そのバリアントについて判断材料がまだ集まっていない」か「集まった材料どうしが矛盾している」かのどちらかです[1]。見つかったバリアントそのものが珍しく、世界中でその変化を持つ人の記録がほとんどない場合や、病気の人にも健康な人にも見つかっていて結論が出ない場合などが典型です。
そもそも「バリアント」とは
バリアント(variant)とは、DNAの塩基配列が、基準となる配列(参照配列)と異なっている部分を指します。検査機関は、読み取った塩基配列を参照配列と比べて違いを抜き出し、その一つひとつに意味づけをして報告書を作ります[1]。かつては「変異(mutation)」と呼ぶのが一般的でしたが、ヒトのゲノムには誰でも多数の個人差があり、その大半は健康に影響しません。そのため現在は、病気との関係を前提としない中立的な言葉として「バリアント」が使われています。
つまりVUSは、「バリアントがある」こと自体ではなく、そのバリアントが病気に関わるかどうかの評価が定まっていないことを表す言葉です。バリアントがあるから病気になる、という意味ではない点をまず押さえておくことが大切です。
VUSの英語表記と別名
VUSはvariant of uncertain significanceの略です。2015年のACMG/AMPガイドラインでは、5つの分類名の一つとして「uncertain significance」が用いられています[3]。一方、日本のガイドラインを含む多くの資料ではvariant of unknown significanceという表記も使われており[4]、両者は同じものを指しています。
日本語でも「臨床的意義不明のバリアント」「病的意義不明のバリアント」「意義不明変異」など複数の訳語が並存しています。いずれも同じ概念で、報告書や資料によって表記が違うだけです。
⚠️ 「中間だから少し危ない」ではない
VUSは5段階分類の真ん中に置かれるため、「病的と良性の中間くらいの危なさ」と受け取られがちです。しかし日本のHBOC診療ガイドラインは、VUSは病理診断で良性と悪性の間に置かれるような中間段階とは違うと明記しています[1]。VUSは「中程度のリスク」を意味するのではなく、「判断できる根拠がまだない」という状態を意味します。
2. ACMG/AMPの5段階分類とVUSの位置づけ
VUSは、ACMG/AMPが2015年に定めたバリアント分類の5段階のうち、真ん中に位置する区分です[2]。検査機関はこのガイドラインに沿って根拠を評価し、バリアントを5つのグループに振り分けます[1]。
5段階分類(病的・おそらく病的・VUS・おそらく良性・良性)
ACMG/AMPガイドラインは、遺伝性疾患の原因遺伝子に見つかったバリアントを次の5つに分類します[2]。診療のうえでは、病的とおそらく病的、良性とおそらく良性がそれぞれ同等に扱われ、実際には「陽性・陰性・VUS」の3つにまとめて運用されます[1]。
| 分類 | 英語(略号) | 臨床上の扱い |
|---|---|---|
| 病的 | pathogenic(P) | 陽性:医学的管理と血縁者の検査に使える |
| おそらく病的 | likely pathogenic(LP) | |
| 意義不明 | uncertain significance(VUS) | VUS:臨床判断には用いない |
| おそらく良性 | likely benign(LB) | 陰性:発症リスクに関係しない変化として扱う |
| 良性 | benign(B) |
「おそらく病的」は、ガイドラインで病的である確からしさが90%以上という意味で定義された区分です[3]。つまり「おそらく」とついていても、臨床的には病的と同じように扱えるだけの根拠がそろっています。VUSは、そのどちらの側にも届かない状態です。
なぜ「判断できない」のか
VUSになるのは、分類に必要な複数の種類の根拠が足りないか、互いに食い違っているためです。ACMG/AMPガイドラインは、集団データ・計算による予測・機能データ・家系内での分離データといった根拠を組み合わせて分類する仕組みを示しています[2]。

VUSは「病的と良性の中間の危険度」を意味するのではなく、現時点では病的か良性かを判断する根拠が十分でないバリアントです。集団頻度、機能データ、家系内での分離、計算予測などの情報が蓄積すると、病的・おそらく病的、または良性・おそらく良性へ再分類されることがあります。VUSそのものを根拠として治療や予防などの医学的方針を決定することはしません。
たとえば集団データとは、一般の人の中でそのバリアントがどのくらいの頻度で見つかるか(アレル頻度)という情報です。まれな病気の原因にしては頻度が高すぎれば良性の根拠になり、逆に一般集団にほとんど見られなければ病的の根拠の一つになります。家系内の分離データは、家族の中で病気の人にだけそのバリアントが見られるかという情報、機能データは、実験でタンパク質の働きが損なわれるかを調べた情報です。こうした情報は、ClinVarなどの公的データベースを通じて世界中の検査機関や研究者の間で共有され、判定の材料になります。
このうち計算による予測(in silico予測)は、ガイドライン上「補助的(supporting)」な根拠として扱われます[5]。コンピュータが「影響は小さそうだ」と予測しただけで良性に、「影響が大きそうだ」と予測しただけで病的に決まるわけではありません。
VUSとして報告されるバリアントの多くは、ミスセンス変異(アミノ酸が1つだけ別のものに置き換わる変化)です。約169万人を対象とした大規模研究では、VUSの86.6%がミスセンス変化でした[6]。タンパク質の機能を明らかに失わせる変化(たとえば途中で読み取りが止まる変化)と違い、アミノ酸1つの置き換えがどの程度働きに影響するかは、実験や臨床データがないと判断しにくいためです。
VUSをさらに細分する動き
同じVUSでも、病的寄りの根拠が多いものと良性寄りの根拠が多いものがあり、これを区別しようとする取り組みが進んでいます。ACMG/AMPの根拠の強さを点数に置き換える方式が提案されており[7]、ACMGは2026年にVUS報告に関するPoints to Considerを公表し、VUSのサブクラスを報告書に示すことを強く推奨しています[8]。
4つの臨床検査機関がVUSを独自に細分して運用したデータでは、最も低い区分のVUSは一度も病的・おそらく病的へ再分類されず、最も高い区分のVUSは病的方向へ再分類されやすかったと報告されています[9]。ただし、細分の方法はまだ検査機関ごとに異なり、正式な共通基準は準備段階です。報告書にVUSの細分が書かれている場合でも、それだけで医療方針を決めない点は変わりません。
3. がんゲノム検査の「Tier III」とは別の枠組み
がん組織を調べるがんゲノム検査で使われる「Tier III(臨床的意義不明)」は、生まれつきの遺伝子を調べる検査のVUSとは別の分類体系に属します。どちらも「意義がわからない」という点は似ていますが、何についての意義を問うているかが違います。
生まれつき全身の細胞が持っている変化を生殖細胞系列バリアント、がん細胞などに後から生じた変化を体細胞バリアントといいます。ACMG/AMPの5段階分類は、主に生殖細胞系列バリアントが「病気の原因になるか(病原性)」を判断するための枠組みです。
これに対して、腫瘍の体細胞バリアントには、分子病理学会(AMP)・米国臨床腫瘍学会(ASCO)・米国病理学会(CAP)が2017年に定めた4段階のTier分類が使われます[10]。Tier Iは臨床的意義が強いバリアント、Tier IIは臨床的意義の可能性があるバリアント、Tier IIIは臨床的意義不明のバリアント、Tier IVは良性またはおそらく良性のバリアントです[10]。ここでいう「臨床的意義」とは、治療薬の選択・診断・予後の予測に役立つかどうかを指します。
| 比較項目 | VUS(ACMG/AMP) | Tier III(AMP/ASCO/CAP) |
|---|---|---|
| 主な対象 | 生まれつきの生殖細胞系列バリアント | 腫瘍の体細胞バリアント |
| 分類の数 | 5段階 | 4段階(Tier I〜IV) |
| 問うている意義 | 病気の原因になるか(病原性) | 治療・診断・予後に役立つか |
| 代表的な検査 | 遺伝性腫瘍の遺伝学的検査、エクソーム解析など | がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査) |
この2つを混同すると、「がんゲノム検査でTier IIIが出た=遺伝するVUSがある」という誤解につながります。腫瘍の検査で見つかった変化が生まれつきのものかどうかは、腫瘍の結果だけでは判断できません。日本のHBOC診療ガイドラインも、腫瘍組織の検査では検出できない生殖細胞系列バリアントが存在しうることに注意を促しています[11]。遺伝するかどうかは、血液などを使う生殖細胞系列の遺伝学的検査で確かめる領域です。なお、がんゲノムの分野でも臨床的意義は継続的に見直すべきとされており[10]、Tier IIIも固定した評価ではありません。
4. VUSはどのくらい見つかるのか
VUSが見つかる割合は、調べる遺伝子の数と、受ける人の祖先集団によって大きく変わります。1〜2個の遺伝子だけを調べる検査では少なく、数十〜数百の遺伝子を一度に調べる多遺伝子パネル検査では3〜4割程度に及びます[1]。ACMGも、遺伝学的検査の報告書の30%以上にVUSが含まれていると述べています[8]。
調べる遺伝子が多いほど増える
遺伝子を多く調べれば、それだけ判定材料の乏しいまれなバリアントに出会う機会が増えます。日本人の遺伝性腫瘍の検査では、BRCA1/2の2遺伝子だけを調べる検査でのVUS保持率は6.5%と報告されている一方、多遺伝子パネル検査では、搭載される遺伝子数の増加に伴って30〜40%程度に上昇します[1]。
具体的な研究の数字を見ると、がんの種類を問わない患者2,984人に83遺伝子を調べたパネル検査では、病的バリアントが13.3%、VUSが47.4%に見つかりました[4]。乳がん患者1,781人に25遺伝子を調べた検査でも、病的バリアント13.5%に対してVUSは41.7%でした[4]。多遺伝子パネルでは、VUSが見つかる人のほうが病的バリアントが見つかる人より多いということです。
遺伝性疾患全般を対象にした約169万人のデータでも、41.0%が1つ以上のVUSを持ち、31.7%はVUSだけが見つかったと報告されています。1人あたりのVUSの数は、調べる遺伝子が増えるほど増加しました[6]。さらに約2万の遺伝子を対象とするエクソーム解析では、見つかるバリアントの総数が桁違いに多くなるため、どこまでを報告するかという方針が重要になります。
日本人のデータと、祖先集団による差
VUSの頻度には祖先集団による差があります。乳がん患者5,026人を対象とした多遺伝子パネル検査の大規模な解析では、VUSの検出率は白人23.7%、黒人44.5%、アジア人50.2%でした[4]。判定の根拠となるデータベースに、欧州系の人々のデータが多く蓄積されてきたことが背景にあり、非欧州系の集団ではまれなバリアントを良性と判断するための材料が不足しやすいのです[1]。大規模データの解析でも、ゲノムデータベースの多様性を高めることがVUSを減らす方策の一つに挙げられています[6]。
ただし、状況は変わりつつあります。日本人のBRCA1/2単独の検査については、検査数の増加に伴ってVUSの検出頻度が欧州系集団と同程度まで下がってきたとされています[1]。日本人のデータが蓄積されるほど、日本人に見られるバリアントの判定は進みます。一方、多遺伝子パネルでは依然として集団間の差が残っています[1]。
💡 数字の読み方の注意
上の数値は、検査の対象疾患、調べた遺伝子の数、受けた人の背景(がんの既往の有無や祖先集団)が研究ごとに異なります。「VUSは○%」という1つの数字にまとめることはできません。受ける検査でどのくらいVUSが出やすいかは、検査前に確認しておくべき情報の一つです[1]。
5. VUSと言われたら:心配すべきか、医療は変わるか
VUSが見つかっても、それだけを理由に治療・検診・予防の方針を変えることはしません。医療上の判断は、VUSではなく、ご本人の既往歴や家族歴などにもとづいて行います[1]。VUSは「リスクが高い」ことも「リスクがない」ことも示さない結果です。
VUSだけで医療方針は変えない
ACMG/AMPガイドラインは、「VUSを臨床的な意思決定に用いるべきではない」と定めたうえで、そのバリアントを病的か良性かに分類するための努力を続けるべきだとしています[2]。米国のNCCN(全米総合がん情報ネットワーク)のガイドラインも、VUSのみで医学的管理を変えるべきではないという立場をとっています[12]。
この原則が重視されるのは、VUSを病的と同じように扱ってしまうと、取り返しのつかない介入につながりうるからです。たとえば遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の関連遺伝子にVUSが見つかった人が予防的な乳房切除や卵巣・卵管の切除を受けたあとで、そのVUSが良性に再分類されれば、その手術は不要だったことになります。実際に、遺伝子のVUSが医療者と患者の双方に正しく理解されず、不要な手術が行われた症例も報告されています[12]。
既往歴・家族歴にもとづいて判断する
VUSが見つかった人の医学的管理は、遺伝学的検査を受ける前と同じ考え方で決めます。日本のHBOC診療ガイドラインは、VUS保持者本人の既往歴・家族歴・その他のリスク因子をできる限り集め、それらを統合したリスク評価にもとづいて検診の計画を提案するとしています[1]。
ここで注意したいのは、「VUSなので何もしなくてよい」という意味ではないことです。たとえば家族歴から遺伝性腫瘍が強く疑われる人であれば、VUSの有無にかかわらず、その家族歴にもとづいた検診が勧められることがあります。医療を決めているのはVUSではなく、ご本人とご家族の臨床情報です。また、同じバリアントでも検査機関によって解釈が異なることがあるため、既往歴や家族歴からVUSという判定に疑問がある場合には、検査機関に判断の根拠を問い合わせることも推奨されています[1]。
VUSの結果を受けた人の心理面については、がんへの不安や医学的な意思決定への影響が、陰性の結果を受けた人と大きく変わらないという報告があります[1]。同ガイドラインは、結果を伝える際にVUSを「残念な結果」のように表現したり、色にたとえたりすることは、受け取る人を混乱させるため避けるべきだとしています[1]。
血縁者の検査は一般には行わない
VUSを理由に、親・きょうだい・子どもなどの血縁者が同じバリアントを持っているかを調べる検査は、原則として行いません[1]。VUSは医学的管理の判断に使わない結果なので、血縁者がそれを持っているかどうかがわかっても、その方の対応は決まらないからです。
これは、病的バリアントが見つかった場合とは対照的です。陽性であれば、血縁者が同じバリアントを持つかを調べるカスケード検査によって、血縁者の検診や予防の方針を決められます。VUSではこの流れが成り立ちません。ただし例外として、そのバリアントの意義を明らかにするための研究として、家族の解析が行われることはあります[13]。家族の中で病気の人だけがそのバリアントを持っているかを調べる情報は、再分類の根拠の一つになるためです。
🩺 院長コラム【VUSは「検査の失敗」ではない】
VUSは、検査がうまくいかなかったという意味ではありません。塩基配列は正確に読めていて、そのうえで「この変化の意味を判定できるだけの医学的データが、世界にまだない」という、現在の遺伝医学の限界をそのまま示した結果です。調べる遺伝子が増えるほどVUSが増えるのは、この限界に触れる機会が増えるからだと考えています。
だからこそ、VUSを受け取ったときに大切なのは、結果そのものに意味を読み込みすぎないことと、判断の軸を既往歴や家族歴という確かな情報に置き直すことだと考えています。VUSを含めて結果を理解することは、何がわかっていて何がまだわかっていないのかを区別することでもあります。
6. VUSは再分類されるのか
VUSは、新しいデータが蓄積されると病的または良性に再分類されることがあり、再分類されたVUSの多くは良性方向です。ただし、すべてのVUSが短期間で決着するわけではなく、長く分類が変わらないものも多くあります。
再分類の多くは良性方向
1つの検査機関で遺伝性腫瘍の検査を受けた約145万人のデータでは、重複を除いたVUS 26,670種類のうち7.7%が再分類され、そのうち91.2%が良性・おそらく良性へ、8.7%が病的・おそらく病的へ変更されました[14]。同じVUSを複数の人が持っていたため、報告されたVUSの件数で数えると24.9%が再分類されています[14]。
遺伝性疾患全般を対象にした約169万人のデータでも、重複を除いたVUSのうち再分類されたのは7.3%で、再分類されたもののうち80.2%が良性・おそらく良性とされました[6]。日本のHBOC診療ガイドラインが紹介する単一医療機関の24年間のデータでは、VUSの14.4%が再分類され、その内訳は92.3%が良性・おそらく良性、7.7%が病的・おそらく病的でした[1]。一方、ClinVarに登録された検査機関の再分類を追跡した研究では、VUSから良性方向への変更が74.6%、病的方向への変更が25.4%でした[3]。
📊 再分類されたVUSの行き先(研究別)
| 研究・データ | 良性方向 | 病的方向 |
|---|---|---|
| 遺伝性腫瘍・約145万人 | 91.2% | 8.7% |
| 遺伝性疾患全般・約169万人 | 80.2% | 要旨に記載なし |
| 単一医療機関・24年間 | 92.3% | 7.7% |
| ClinVar登録データ | 74.6% | 25.4% |
※いずれも「再分類されたVUS」の中での割合です。VUS全体のうち病的方向へ変わるものは、さらに少なくなります。
この数字の読み方には注意が必要です。まず、これらは再分類されたVUSの中での割合であり、VUS全体の中で病的方向に変わるものはさらに少なくなります。たとえば上記の約145万人の研究では、重複を除いたVUS全体のうち病的方向へ再分類されたのは1%未満です。次に、病的方向の割合は研究によって1割未満から2割強まで幅があり、1つの数字を個人の確率として当てはめることはできません。それでも、日本のガイドラインが「VUSから陽性に再分類される例は少なくない」と注意を促しているように[1]、病的方向への再分類が一定数あることは事実です。
再分類にかかる時間と、結果の更新を知る方法
再分類にかかる時間はさまざまです。約145万人の研究では、修正報告が出るまでの期間の中央値は、良性方向で1.17年、病的方向で1.86年でした[14]。単一医療機関のデータでは、再分類までの期間の中央値は1.7年でしたが年々短くなり、2020年には0.3年になっていました[1]。一方で、先に見たように再分類されるのはVUSの一部であり、何年たっても分類が変わらないVUSも多く残ります。
再分類のほとんどは、検査機関がデータベースや文献を見直して修正報告を出すことで行われます[1]。そのため日本のHBOC診療ガイドラインは、VUSが将来再分類された場合に備え、医療機関がリコンタクト(再接触)の方針と方法を定めておくことを推奨しています[1]。検査の前からVUSが出る可能性を説明し、VUSが出た場合には、結果の解釈、再分類の可能性、医療機関と本人の双方から連絡を取る方法を確認しておくことが求められています[1]。受ける側としては、判断が変更されたかどうかを知りたいときに、検査を受けた医療機関に問い合わせることができます[13]。
7. ミネルバクリニックのVUS報告方針
ミネルバクリニックでは、検査を受ける方が希望されない場合を除き、VUSも含めて結果を報告しています。VUSをどこまで報告するかは検査の目的や状況によって異なります。ACMGは2026年にVUS報告に関するPoints to Considerを公表し、症候性の生殖細胞系列検査では、検査適応となった表現型に関連するVUSを返却することを推奨する一方、無症候者の検査などでは検査状況に応じた報告方針を示しています[8]。
VUSも報告する理由は2つあります。1つは、遺伝子検査を受ける方には、見つかったことを知っておきたいという希望をお持ちの方が多いことです。もう1つは、VUSの一部は将来、病的へ再分類されることがあり、その場合にはご本人の医学的管理だけでなく、血縁者への対応も変わりうるからです[1]。報告書にVUSとして記載されていれば、将来の再分類の情報と照らし合わせることができます。
一方で、VUSを報告することは、VUSを根拠に医療方針を決めることとは違います。報告したVUSについても、ここまで述べたとおり、それ自体では治療・検診・血縁者の検査の判断には用いません。結果の説明では、VUSが何を意味し何を意味しないのか、既往歴や家族歴から見て必要な対応は何かを、遺伝カウンセリングの中で整理します。
全エクソーム解析や全ゲノム解析のように調べる範囲が広い検査では、見つかるバリアントの数も多くなるため、どの範囲の結果をどう返すかをあらかじめ決めておく必要があります。検査の種類ごとの結果返却の考え方については、WES/WGS結果返却の範囲と層別化で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. VUSは陽性ですか、陰性ですか?
どちらでもありません。遺伝学的検査の結果は、病的バリアントが見つかった「陽性」、病的なバリアントが見つからなかった「陰性」、そして意義が判断できないバリアントが見つかった「VUS」の3つに分かれます。VUSは陰性と同じ意味ではなく、現時点の根拠では病的とも良性とも決められない、独立した結果です。
Q2. VUSがあると、がんや病気になりやすいのですか?
VUSがあるという事実だけでは、病気になりやすいとも、なりにくいとも言えません。VUSは病的かどうかを判断する根拠が不足しているか矛盾している状態だからです。病気のリスクは、VUSではなく、ご本人の既往歴や家族歴などをもとに評価します。
Q3. VUSが病的に変わる確率はどのくらいですか?
個人ごとの確率としては示せません。集団のデータでは、再分類されたVUSの多くは良性方向で、病的方向は研究により1割未満から2割強と幅があります。遺伝性腫瘍の大規模研究では、再分類されたVUSのうち病的方向は8.7%で、報告されたVUS全体のうちでは一部にとどまりました。
Q4. VUSが見つかったら、家族も検査を受けるべきですか?
原則として、VUSを理由に血縁者の検査は行いません。VUSは医学的管理の判断に使わない結果なので、血縁者が同じバリアントを持っているかを調べても、その方の対応は決まらないからです。例外として、再分類のための研究として家族の解析が行われることはあります。
Q5. がんゲノム検査で見つかったVUSは遺伝しますか?
腫瘍の検査結果だけでは判断できません。がん組織の遺伝子パネル検査では、がん細胞に後から生じた体細胞バリアントと生まれつきの生殖細胞系列バリアントを、その結果だけでは区別できないことがあります。遺伝するかどうかは、生殖細胞系列を調べる遺伝学的検査で確かめる領域です。がんゲノム検査でいうTier IIIと、生まれつきの遺伝子検査でいうVUSは、分類の枠組みも異なります。
🏥 遺伝子検査と遺伝カウンセリングについて
遺伝子検査の種類や、検査で何がわかり何がわからないのかについては、
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参考文献
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