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若年性ポリポーシス症候群(JPS)とは|SMAD4・BMPR1A遺伝子と消化管がんリスク、検査・サーベイランスを遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

若年性ポリポーシス症候群(JPS)は、胃から直腸までの消化管に「若年性ポリープ」という過誤腫(良性の腫れもの)が多発する、生まれつきの体質による病気です。10万人に1人前後のまれな病気ですが、その原因であるSMAD4・BMPR1A遺伝子は、大腸がんの発生や血管のつくられ方といった、もっと多くの人に共通するしくみにも関わっています。ですからJPSを理解することは、遺伝性のがんリスクをどう管理するかという、より大きなテーマの理解にもつながります。この記事では、症状・がんのリスク・原因遺伝子ごとの違い・検査と経過観察の進め方までを、遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約20分
🧬 消化管ポリポーシス・遺伝性腫瘍・HHT
臨床遺伝専門医監修

Q. 若年性ポリポーシス症候群とは、どんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 消化管に「若年性ポリープ」という過誤腫が多発し、放置すると一部ががん化しうる、常染色体顕性遺伝の病気です。原因の約半数はSMAD4またはBMPR1A遺伝子の生まれつきの変化で、残り約45%では原因遺伝子が特定できていません。良性のポリープを定期的な内視鏡で取り除いていくことで、がんや貧血・腸閉塞といった合併症を大きく減らせます。とくにSMAD4型では、血管の病気であるHHT(オスラー病)を合併するため、消化管だけでなく全身の血管の管理も欠かせません。

  • 「若年性」は発症年齢ではなくポリープの組織型を指す言葉であること
  • 消化管がんの生涯リスクと、SMAD4型・BMPR1A型で異なるその内訳
  • SMAD4型で必ず考えるHHT(遺伝性出血性毛細血管拡張症)との重複
  • 診断基準・遺伝子検査の進め方と、家族(血縁者)への影響

📋 基本情報BOX:若年性ポリポーシス症候群(JPS)

疾患名 若年性ポリポーシス症候群(英:Juvenile Polyposis Syndrome/略:JPS)
原因遺伝子(生殖細胞系列) SMAD4(約27%)・BMPR1A(約28%)。残り約45%は原因遺伝子が未同定
体細胞変異との違い 生後に一部の細胞だけで生じた体細胞のSMAD4変異は、散発性の大腸がん・膵臓がん等で見られますが、これはJPSとは別で遺伝しません
遺伝形式 常染色体顕性(優性)遺伝
OMIM表現型番号 174900(JPS)/175050(JPS/HHT重複症候群)
頻度 およそ1.6万〜10万人に1人
主な症状 消化管の多発性ポリープ、下血、鉄欠乏性貧血、腹痛、便通の異常。まれに腸重積・腸閉塞
診断の決め手 大腸に5個以上の若年性ポリープなどの臨床基準、またはSMAD4/BMPR1Aの病的バリアントの同定
鑑別すべき疾患 PTEN過誤腫症候群、ポイツ・ジェガース症候群、家族性大腸腺腫症(FAP)、リンチ症候群 など
再発率・保因者 お子さんに受け継がれる確率は50%/患者さんの約半数は明らかな家族歴がなく発症(de novoによる例が多い)
検査上の注意 点変異に加え、大きな欠失を見つける欠失/重複解析を併用します(乳児型など10q22-q23の大欠失を疑う場合は、必要に応じて染色体マイクロアレイも)

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. 若年性ポリポーシス症候群(JPS)とは ─ 消化管に過誤腫が多発する体質

JPSは、胃・小腸・大腸・直腸に若年性ポリープという過誤腫が多発する、常染色体顕性遺伝の病気です。ポリープの多くは良性ですが、放置すると一部ががん化するため、定期的に取り除きながら一生涯つき合っていくのが基本になります[1]

頻度はおよそ1.6万〜10万人に1人と推定される、まれな遺伝性腫瘍症候群です[1]。多くの方は20歳までに何らかのポリープを生じますが、その現れ方には大きな幅があります。生涯を通じて数個しかできない軽い方から、100個以上が消化管を埋め尽くす重い方まであり、しかも同じ家系で同じ遺伝子変化を持っていても、人によって症状の重さがまったく違うのが特徴です[1]。ある人は10代から重い症状を出す一方で、同じ変化を持つ家族が長年まったく無症状ということも起こります。

ここが、ご本人やご家族にとって大切なポイントです。「軽そうだから大丈夫」とも、「重い人がいるから自分も必ず重くなる」とも言い切れません。だからこそ、症状の重さを予想して身構えるより、決められた間隔で消化管を確認し、ポリープを早めに取り除くという守り方が、この病気ではいちばん確実な備えになります。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝

人は同じ遺伝子を父由来・母由来で2本ずつ持っています。常染色体顕性遺伝とは、2本のうち1本に病的な変化があるだけで発症しうるタイプの遺伝形式です。性別に関係なく起こり、患者さんのお子さんは男女を問わず50%の確率でその変化を受け継ぎます。「優性」は新しくは「顕性」と呼びますが、意味は同じです。

2. 「若年性」の本当の意味 ─ 過誤腫という良性の腫れもの

「若年性」は、発症年齢が若いという意味ではなく、ポリープの組織のタイプ(若年性ポリープ)を指す言葉です。がん(腺腫)とは別ものの、過誤腫という良性の腫れものだと理解すると、この病気の見え方が整理されます[1]

顕微鏡でみると、若年性ポリープは正常な表面の細胞に覆われ、その下の間質(土台となる組織)に炎症細胞が集まり、粘液のたまった袋状の腺が散らばっているのが特徴です。表面はなめらかで、家族性大腸腺腫症(FAP)でみられる腺腫のような強い異型(がんへ向かう細胞の乱れ)は、はじめのうちは通常ありません[1]

💡 用語解説:過誤腫(かごしゅ)

過誤腫とは、その場所に本来ある組織が、正しい配分を崩したまま塊になった良性の腫れものです。がんのように無限に増え続けるものではありませんが、大きくなると出血したり、時間の経過とともに一部ががん化したりすることがあります。若年性ポリープはこの過誤腫の一種です。

若年性ポリープの組織像の特徴(模式)

🟢
なめらかな表面
正常な表面の細胞に覆われる
🔴
豊富な間質と炎症
土台の組織に炎症細胞が集まる
🔵
袋状の腺
粘液がたまった嚢胞状の腺
🟣
腺腫とは別
FAPの腺腫のような強い異型はない

この「良性の過誤腫」という点は、ご家族にとって安心材料にも注意点にもなります。ひとつひとつのポリープはすぐに命に関わるものではありません。一方で、数が増え、年月が経つほどがん化のリスクは積み上がっていきます。だからこそ「良性だから放っておいてよい」ではなく、良性のうちに取り除くという考え方が大切になります。なお、健診で1〜2個の若年性ポリープが偶然みつかること自体は一般人口の1〜2%にあり、それだけではJPSではありません[1]

3. 症状と3つのサブタイプ ─ 下血・貧血からがん化リスクまで

もっとも多い初発症状は、ポリープからの出血による下血と鉄欠乏性貧血です。あわせて腹痛・便通の異常なども起こり、まれに腸重積・腸閉塞といった外科的な緊急事態を招くこともあります[1]。長い目でみて最も注意すべきは、良性のポリープが年月とともにがん化しうる点です。

消化管がんの生涯リスクは、コホートや時代・原因遺伝子によって大きく幅があり、報告では11%から86%とされています[1]。ただしこの幅は報告年代や対象集団による差が大きく、古い報告ほど高く見積もられる傾向があり、より新しい大規模な遺伝子確定コホートではがん発症は約15%と報告されています[1]。その大部分は大腸がんで、大腸がんの累積発症率は35歳までに17〜22%、60歳ごろには約68%に近づくと報告され、診断時の年齢の中央値は42歳前後です[1]。別のコホートでは、大腸がんの生涯累積リスクは38.7%、診断時の平均年齢は43.9歳と報告されています[2]。胃にポリープがある方では胃がんが21%にみられ、そのほか上部消化管がんや膵臓がんの報告もあります[1]

数字の幅の広さに戸惑われるかもしれません。大切なのは、こうした高い数字の多くが現在のような計画的なサーベイランスが普及する以前の症例を多く含む推定値だということです。若い時期からきちんと内視鏡を受けてポリープを取り除いていくことで、こうしたがんの多くは未然に防げると考えられており、実際にリスクは管理によって変わりうる、と報告されています[1]

現れ方による3つのサブタイプ

JPSは、症状の出る時期とポリープの広がりによって、大きく3つに分けて理解されます。この分類は、どの時期からどの範囲を診ていくかを決めるうえで役立ちます。

乳児型(JPI) 最も重く、乳児期に発症。下痢・蛋白漏出性胃腸症・全身のむくみ・体重増加不良を伴います。10番染色体長腕(10q22-q23)の大きな欠失でBMPR1AとPTENの両方が失われて起こることが多いです[3]
汎発性(全消化管型) 胃・小腸・大腸の全体にポリープが多発。出血や腸重積のリスクを伴い、小児期から青年期に発症します
大腸限局型 ポリープが結腸・直腸に限られるタイプ。下血や便通異常が主な初発症状です

乳児型は数が少ないものの重症化しやすく、栄養状態の管理が生命予後を左右します。BMPR1AとPTENを同時に欠く例では、これらの経路をおさえるシロリムス(mTOR阻害薬)が症状や出血、大腸全摘の必要性を減らしたという少数例の報告があり、研究段階の治療として検討されています[4]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【数字は「運命」ではなく「備える理由」です】

「生涯でこれだけの確率」という数字を見ると、それだけで気持ちが沈んでしまうかもしれません。けれども私は、こうした数字は運命を告げるものではなく、なぜ検査を続ける価値があるのかを説明する数字だと考えています。高いリスクがあるからこそ、定期的に取り除く意味がはっきりする、という順序で受け止めていただきたいのです。

遺伝性のがん体質は、本人の努力不足でも家系の落ち度でもありません。分かっているからこそ先回りできる、というのがこの領域の本質だと考えています。数字に押しつぶされず、次の内視鏡をいつ受けるか、という具体的な一歩に落とし込んでいくことが大切だと思っています。

4. 原因遺伝子SMAD4とBMPR1A ─ TGF-β/BMPシグナルの担い手

JPSの確立した原因遺伝子はSMAD4BMPR1Aの2つで、いずれも細胞に「増えるのをやめなさい」という合図を伝えるTGF-β/BMPシグナルの担い手です[1]。ただし、この2つが見つかるのは患者さん全体の約半数にとどまります。

SMAD4がJPSの原因遺伝子だと最初に報告されたのは1998年のことでした[5]。現在の集計では、原因が特定できた患者さんのうちBMPR1Aが約28%、SMAD4が約27%を占め、残りの約45%はこの2つに変化がみつからないとされています[1]。原因遺伝子がわからないからJPSではない、ということにはなりません。臨床基準を満たせばJPSと診断されます。

💡 用語解説:TGF-β/BMPシグナルと2つの遺伝子の役割

BMPという合図の物質が細胞の表面にある受容体(その一つがBMPR1A)に結合すると、その情報が細胞の中を伝わり、最終的にSMAD4という「司令塔」が核の中へ運び、遺伝子のスイッチを調整します。この経路は腸の細胞に「増えすぎないように」と伝える役割を持つため、うまく働かないとポリープができやすくなると考えられています。

ただし、正直にお伝えすべき点があります。「なぜ若年性ポリープができるのか」という詳しいしくみは、実はまだ完全には解明されていません[1]。SMAD4は腫瘍抑制遺伝子ですが、ポリープの発生にがんで典型的にみられる仕組み(残った正常な1本も失われるヘテロ接合性の消失)が必ず関わっているとは証明されていません[1]。ポリープの周りの土台の細胞でBMPシグナルが弱まることが引き金になる、という「土台(微小環境)」を重視する研究仮説も提唱されていますが、確立した結論ではなく、活発に研究が続いている段階です。

💡 用語解説:変化のタイプ(ミスセンス・ナンセンス・欠失)

遺伝子の変化にはいくつかの型があります。設計図の1文字だけが別の文字に置き換わるミスセンス変異、途中で文章が止まってしまうナンセンス変異、そして遺伝子の広い範囲がまるごと抜け落ちる大きな欠失などです。JPSでは大きな欠失も少なくないため[6]、後述するように検査でも工夫が必要になります。

5. 遺伝子型で変わる ─ SMAD4型とBMPR1A型の違い

同じJPSでも、原因がSMAD4かBMPR1Aかで、ポリープの好発部位・がんの種類・消化管以外の合併症に医学的な違いがあります[7]。この違いを知っておくと、どこを重点的に診るべきかが見えてきます。

原因遺伝子で異なる「関連がんの内訳」[7]

🟥 SMAD4型 ─ 胃・上部消化管が「より進行しやすい」

胃がんの割合(関連がん中)
27%
大腸がんの割合(関連がん中)
58%

🟦 BMPR1A型 ─ 大腸が中心

胃がんの割合(関連がん中)
0%
大腸がんの割合(関連がん中)
88%

※ 各遺伝子に関連して発生したがんの「内訳」の割合です。生涯発症リスクそのものではありません。

SMAD4型は、胃・上部消化管にポリープが多発する傾向が強く、胃のポリポーシスやコントロールしづらい貧血を起こしやすいことが知られています。臨床上とくに重要なのは、JPSに伴う胃がんが、ほぼSMAD4型に限られるという点です(SMAD4に関連するがんの27%が胃がんであるのに対し、BMPR1A関連では0%と報告されています)[7]。さらに、後述する血管の病気HHTとの合併も、SMAD4型に特徴的に起こります。

BMPR1A型は、胃よりも大腸にポリープが多い傾向があり、がん化のリスクも大腸がんが中心です(BMPR1A関連がんの88%が大腸がんで、SMAD4関連では58%)[7]。一方で、SMAD4型でみられるHHTのような血管合併症は伴いません。

遺伝子検査でSMAD4またはBMPR1Aの変化がみつかった方は、みつからなかった方と比べて、下部消化管に10個以上のポリープを持つ確率が高く、消化器がんの家族歴を持ちやすく、大腸全摘に至るリスクも高い傾向が報告されています[8]。この事実は、ご本人にとって「原因遺伝子が判明していること」が、より丁寧に診ていく判断材料になる、という意味を持ちます。

6. SMAD4型で必ず考える ─ HHT(オスラー病)の重複

JPSの管理で見逃してはならない最重要事項が、これです。SMAD4に病的な変化を持つ方の多く(報告では約76%)は、JPSと同時にHHT(遺伝性出血性毛細血管拡張症、別名オスラー病)の特徴を併せ持ちます[1]。この重複症候群では、消化管のポリープ管理だけでは全く不十分で、全身の血管の評価が欠かせません。

💡 用語解説:HHTと動静脈奇形(AVM)

HHTは、動脈と静脈が毛細血管を介さず直接つながってしまう動静脈奇形(AVM)を、全身の臓器につくる病気です。ふつうHHTはENGやACVRL1という別の遺伝子で起こりますが、SMAD4もHHTを起こす遺伝子の一つで、この場合はJPSと重なります。

SMAD4型でみられるHHTの主な症状とその頻度は、次のように報告されています[9][1]

  • くり返す鼻出血(61〜71%)と、顔・口唇・手指などの毛細血管拡張。多くは小児〜青年期から始まります
  • 肺の動静脈奇形(肺AVM、53〜81%)。肺のフィルター機能が失われるため、静脈側の小さな血栓や細菌が脳へ流れ込み、若くして脳卒中や脳膿瘍を起こす原因になりえます
  • 脳の動静脈奇形(約4%)。突然の破裂により脳出血を起こす危険があります
  • 肝臓の動静脈奇形(約38%)

さらに一部の報告では、SMAD4型の方で胸部大動脈の拡大(大動脈症)が約38%にみられるとされ(小規模なコホートに基づく値で、心エコーで診る間隔などは未確立です)、心臓・血管の評価も重要とされています[10]。ご本人・ご家族にとって、この節が意味することはシンプルです。もしSMAD4型と分かったら、消化器内科だけでなく、循環器・呼吸器・脳神経・耳鼻科を含めたチームで全身を診てもらう——それが命に関わる血管合併症を防ぐ最短の道になります[1]

7. 診断の進め方 ─ 診断基準・PHTSの除外・遺伝子検査

JPSの診断は、次の臨床基準のいずれか一つを満たすことで確定します[1]。1〜2個の孤立したポリープと、真にハイリスクな方とを見分けるための基準です。

  • 大腸(結腸・直腸)に5個以上の若年性ポリープがある
  • 上部・下部を含む消化管全体に複数の若年性ポリープがある
  • 若年性ポリープが(数によらず)あり、かつJPSの家族歴がある
  • SMAD4またはBMPR1Aの病的/病的可能性が高い(pathogenic/likely pathogenic)バリアントが同定された(意義不明バリアント〔VUS〕は診断の根拠になりません)

診断でまず大切なのは、よく似た過誤腫性ポリープを起こすPTEN過誤腫症候群(PHTS)を除外することです[1]。PHTSはPTEN遺伝子が原因で、大頭症や特徴的な皮膚病変、乳がん・甲状腺がんのリスクを伴うため、JPSとは分けて管理する必要があります。SMAD4・BMPR1Aに変化がみつからない場合は、PTENを含むポリポーシス関連の多遺伝子パネルで確認し、PHTSを除外するためにPTENを評価します。

JPSの遺伝子検査の進め方

STEP 1
SMAD4・BMPR1Aの配列解析+欠失/重複解析を行う(大きな欠失も拾うため)
STEP 2
みつからなければPTENを含む多遺伝子パネルで他の候補を確認
STEP 3
乳児型などでは染色体マイクロアレイで10q22-q23の大欠失を確認

遺伝子検査で大切なのは、1文字レベルの変化を読む配列解析だけでは足りないという点です。JPSでは遺伝子の広い範囲がまるごと抜け落ちる大きな欠失の割合が高いため、欠失/重複解析(MLPAなど)を併用しないと原因を見逃すことがあります[6]。とくに乳児型では、BMPR1AとPTENを含む10q22-q23の大欠失を、染色体マイクロアレイで確認します[1]。日本でも、小児・成人を対象とした診断・管理のガイドラインが整理されています[11]

8. 経過観察(サーベイランス) ─ いつ・何を・どの間隔で

JPSのがんリスクは高いものの、宿命ではありません。定期的な内視鏡でポリープを予防的に取り除いていくことで、がん化や貧血・腸閉塞といった合併症を効果的にコントロールできます[1]。これがご本人・ご家族にとって、いちばん現実的で確実な備えです。

検査 推奨(目安)
大腸内視鏡・上部消化管内視鏡 15歳ごろから3年ごと。症状(下血・貧血など)があれば年齢に関わらず直ちに開始[1]
ポリープがあった場合 切除後は、なくなるまで毎年→その後3年ごとに戻す[1]
血液・鉄の評価 症状に応じて全血球算定などを確認[1]
SMAD4型のHHT評価 HHTのスクリーニングに従い、心エコー(バブルエコー)や脳MRIなどを並行して実施[1]

なお、SMAD4・BMPR1Aに変化がなく、成人期にポリープがみられない方では、経過観察の間隔を5年ごとまで延ばせるとされています[1]。小児・青年期の管理については、専門の学会からも詳しい指針が示されています[12]。内視鏡での切除が第一選択ですが、ポリープが多すぎて内視鏡では取り切れない、切除したポリープに高度の異型やがんが見つかった、慢性的な出血や腸閉塞が抑えられない——こうした状況では、消化管の予防的な切除術(大腸切除や胃切除)が検討されます[1]

なお、薬でポリープを予防する化学予防について期待の声もありますが、現時点で若年性ポリープに有効と確立した予防薬はありません[1]。研究は進んでいますが、いまの中心はあくまで内視鏡による切除と経過観察です。

9. 遺伝形式と家族への影響 ─ 50%・de novo・血縁者の検査

JPSは常染色体顕性遺伝のため、患者さんの第一度近親者(親・きょうだい・子)は50%の確率で同じ変化を持つ可能性があります[1]。だからこそ、診断がついた時点で、家族全体を視野に入れた遺伝カウンセリングが診療の柱になります。

大切なのは、患者さんの約半数は、明らかな家族歴がないまま発症するという点です[1]。その多くはde novo(新生突然変異)によると考えられますが、家族歴がないこと自体は必ずしもde novoを意味しません。浸透率の低さや症状の軽さ、親が未診断であること、生殖細胞モザイクなどによって、家族歴が見かけ上ないこともあります。発端者の両親を検査し、両親ともに変化を持たないことが確認できれば、そのきょうだいの発症リスクは一般集団と同等近くまで下がります(ごくまれな生殖細胞モザイクの可能性は残ります)[1]

💡 用語解説:新生突然変異(de novo)とカスケード検査

新生突然変異(de novo変異)は、親から受け継いだのではなく、その人で初めて生じた変化です。一方、発端者でみつかった変化をもとに血縁者を順に調べていくのがカスケード検査です。変化を持たないと確認できた血縁者は、つらい内視鏡やMRIを頻回に受けずに済み、身体的・心理的・経済的な負担が大きく減ります。

小児への発症前の遺伝子検査は、ふつう慎重に扱われますが、JPSのように小児期から検査を始めることで予後が大きく改善する病気では、例外として未成年でも検査が勧められます[1]。検査の時期は原因遺伝子で異なります。BMPR1A型では内視鏡を始める15歳ごろまでに、SMAD4型ではHHTのMRIスクリーニングが乳児期から必要になるため、より早い時期(生後早期)に検査することが妥当とされています[1]

なお、原因遺伝子がSMAD4でも、アミノ酸496・500番の特定の変化(機能獲得型)は、JPSではなくマイヤー症候群(Myhre症候群)という別の病気を起こします。マイヤー症候群では典型的なJPSのがんは報告されておらず、同じSMAD4でも変化の型によって現れる病気が違う、という点は理解しておくと混乱を防げます[13]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「陰性」という結果が、家族を守ることもあります】

遺伝子検査というと「陽性だったらどうしよう」という不安が先に立ちがちです。けれども家族の中に病的な変化がすでに分かっている場合、血縁者の検査で「その変化を持っていない」とはっきりすることには、大きな意味があると考えています。一生涯の頻回な検査から解放される、というのは、それ自体が医療の成果だからです。

遺伝は「調べたら不利になるもの」ではなく、家族の誰を重点的に守り、誰を安心させられるかを整理するための情報だと私は考えています。結果をどう受け止め、どう生かすかまで一緒に考えることが、遺伝カウンセリングの役割だと思っています。

10. よくある誤解

誤解①「若年性ポリポーシスは若いうちだけの病気」

「若年性」はポリープの組織のタイプを指す言葉で、発症年齢ではありません。ポリープは乳児期から成人期まで生じ、がんのリスクはむしろ年齢とともに高まります。若さゆえに安心、という意味ではありません。

誤解②「良性のポリープだから放置してよい」

若年性ポリープ自体は良性の過誤腫ですが、数が増え年月が経つと一部ががん化します。だからこそ良性のうちに取り除くことが大切で、「良性=放置してよい」ではありません。

誤解③「消化管だけ診ておけば安心」

SMAD4型ではHHT(血管の病気)の特徴を高頻度に合併します。肺や脳の動静脈奇形は命に関わるため、消化管だけでなく血管の評価も並行して行う必要があります。

誤解④「家族歴がなければJPSではない」

患者さんの約半数は明らかな家族歴なく発症し、de novo(新生突然変異)による例も多いとされます。家族歴がないことは、JPSを否定する理由にはなりません。

📎 このページを読んだあなたへ

検査でSMAD4やBMPR1Aの変化を指摘された方、これから遺伝子検査を考えている方、ご家族にJPSが見つかった方——立場によって、次に確認するとよいことは変わります。参考として、次の観点を整理しておくと相談がスムーズです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 若年性ポリポーシス症候群は、どのくらいまれな病気ですか?

およそ1.6万〜10万人に1人と推定される、まれな遺伝性腫瘍症候群です。男女差はなく、等しく起こります。「若年性」はポリープの組織のタイプを指す言葉で、発症が若い年齢に限られるという意味ではありません。多くの方は20歳までに何らかのポリープを生じますが、生涯で数個の軽い方から100個以上の重い方まで、現れ方には大きな幅があります。

Q2. 消化管がんになる確率はどのくらいですか?

報告によって幅が大きく、消化管がんの生涯リスクは11%から86%とされます。この幅は報告年代や対象集団による差が大きく、古い報告ほど高く見積もられる傾向があり、より新しい大規模な遺伝子確定コホートではがん発症は約15%という報告もあります。がんの大部分は大腸がんで、大腸がんの累積発症率は60歳ごろに約68%に近づくという報告や生涯累積38.7%という報告があり、胃にポリープがある方では胃がんが21%にみられます。ただしこうした高い数字の多くは、計画的なサーベイランスが普及する以前の症例を含む推定値であり、若い時期から定期的に内視鏡でポリープを取り除くことで、多くは未然に防げると考えられています。

Q3. SMAD4型とBMPR1A型では、何が違いますか?

SMAD4型は胃・上部消化管にポリープが多く、JPSに伴う胃がんはほぼSMAD4型に限られます。さらにSMAD4型では、血管の病気であるHHT(オスラー病)の特徴を高頻度に合併するため、HHTとしての評価(肺や脳の動静脈奇形、大動脈など)が必要になります。一方BMPR1A型は大腸が中心で、HHTのような血管合併症は伴いません。同じJPSでも原因遺伝子によって重点的に診る臓器が変わります。

Q4. 内視鏡はいつから、どのくらいの間隔で受ければよいですか?

大腸内視鏡と上部消化管内視鏡を、15歳ごろから3年ごとに受けるのが目安です。下血や原因不明の貧血などの症状がある場合は、年齢に関わらず直ちに開始します。ポリープが見つかった場合は、なくなるまで毎年、その後は3年ごとに戻します。SMAD4型では、これに加えてHHTのスクリーニング(心エコーや脳MRIなど)を並行して行います。具体的な間隔は状態によって変わるため、担当医とご相談ください。

Q5. 子どもに遺伝しますか?何%の確率ですか?

JPSは常染色体顕性遺伝で、患者さんのお子さんは男女に関わらず50%の確率で原因の変化を受け継ぎます。ただし患者さんの約半数は明らかな家族歴なく発症し、de novo(新生突然変異)による例も多いとされます。ただし家族歴がないこと自体はde novoの確定を意味せず、浸透率や親の未診断などの可能性もあります。両親を検査して変化がないと確認できれば、きょうだいのリスクは一般集団に近づきます。家族計画については遺伝カウンセリングで整理することをおすすめします。

Q6. 遺伝子検査で原因が見つからないこともありますか?

あります。原因が特定できるのは患者さん全体の約半数で、BMPR1Aが約28%、SMAD4が約27%、残り約45%はこの2つに変化が見つかりません。また、JPSでは遺伝子の広い範囲が抜け落ちる大きな欠失も少なくないため、1文字レベルを読む配列解析だけでなく、欠失/重複解析や染色体マイクロアレイを併用することが大切です。原因遺伝子が分からなくても、臨床基準を満たせばJPSと診断され、経過観察の対象になります。

Q7. ポリープを予防する薬はありますか?

現時点で、若年性ポリープに有効と確立した予防薬はありません。分子メカニズムの研究から新しい予防の方向性が探られてはいますが、いまの管理の中心はあくまで内視鏡による切除と経過観察です。なお、BMPR1AとPTENの両方を欠く乳児型では、mTOR阻害薬(シロリムス)が症状を減らしたという少数例の報告があり、研究段階の治療として検討されています。

Q8. 単発のポリープが1つ見つかっただけでも、この病気ですか?

いいえ。健診などで単発(1〜2個)の若年性ポリープが偶然見つかること自体は一般の方の1〜2%にあり、それだけではJPSではありません。多くは切除で治り、将来のがんリスクも上がりません。JPSの診断には、大腸に5個以上の若年性ポリープがあるなどの臨床基準、または原因遺伝子の病的バリアントの同定が必要です。判断に迷う場合は、消化管ポリポーシスに詳しい専門家にご相談ください。

🏥 消化管ポリポーシス・遺伝性腫瘍の遺伝子検査のご相談

若年性ポリポーシス症候群やSMAD4・BMPR1Aに関する
遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。

参考文献

  • [1] Larsen Haidle J, MacFarland SP, Howe JR. Juvenile Polyposis Syndrome. GeneReviews® [Internet]. 2022. [NCBI Bookshelf NBK1469]
  • [2] Risk of colorectal cancer in juvenile polyposis. Gut. 2007. [PMC1994351]
  • [3] Contiguous gene deletion within chromosome arm 10q is associated with juvenile polyposis of infancy, reflecting cooperation between the BMPR1A and PTEN tumor-suppressor genes. Am J Hum Genet. 2006. [PMC1474102]
  • [4] mTOR inhibitors reduce enteropathy, intestinal bleeding and colectomy rate in patients with juvenile polyposis of infancy with PTEN-BMPR1A deletion. Hum Mol Genet. 2021. [PMC8804886]
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  • [11] Clinical Guidelines for Diagnosis and Management of Juvenile Polyposis Syndrome in Children and Adults―Secondary Publication. [PMC10129355]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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