InstagramInstagram

MASS症候群とは?症状・原因・マルファン症候群との違いをわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

MASS症候群は、FBN1遺伝子の変化によって起こる全身の結合組織の病気で、僧帽弁逸脱・軽度で進行しにくい大動脈拡張・marfan様の骨格的特徴・皮膚線条を主な特徴とします。マルファン症候群と非常によく似ていますが、命に関わる大動脈瘤や大動脈解離へ進みにくく、水晶体のずれ(水晶体亜脱臼)を伴わないという点が決定的に異なります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約14分
🧬 FBN1遺伝子・結合組織・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. MASS症候群とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FBN1遺伝子の変化によって、全身の結合組織がうまく働かなくなる病気です。僧帽弁逸脱・軽度で進行しにくい大動脈拡張・marfan様の骨格的特徴・皮膚線条を特徴とします。マルファン症候群とよく似ていますが、致死的な大動脈瘤・大動脈解離へ進みにくく、水晶体亜脱臼を伴わないことが両者を分ける最大のポイントです。

  • 疾患の定義 → OMIM 604308、Orphanet ORPHA:99715、別名「重複結合組織病(OCTD)」、常染色体優性(顕性)遺伝
  • 分子メカニズム → フィブリリン-1とTGF-βシグナルの乱れ、ハプロ不全と優性阻害という2つの仕組み
  • 主な症状 → 僧帽弁逸脱・軽度で非進行性の大動脈拡張・骨格的特徴・皮膚線条(水晶体亜脱臼はなし)
  • 鑑別診断 → マルファン症候群・ロイス・ディーツ症候群などとの違いを詳解
  • 診断・管理 → 改訂Ghent基準とFBN1遺伝子検査、生涯にわたる心血管モニタリング

\ 結合組織疾患・遺伝子検査について専門医に相談したい方へ /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

出生前診断・遺伝子検査に関するご相談:遺伝子検査について

1. MASS症候群とは:疾患の定義と歴史的背景

MASS症候群(OMIM 604308)は、その名前が4つの主要な体の特徴の頭文字からできています。Mitral valve prolapse(僧帽弁逸脱)、Aortic enlargement(大動脈基部の拡張)、Skeletal findings(骨格の特徴)、Skin findings(皮膚線条)——この組み合わせから「MASS」と名づけられました。なお、近視(Myopia)が高い頻度で見られることから、頭文字の「M」に近視を含めて整理する流儀も学術的には存在します。「MASS表現型(MASS phenotype)」や「重複結合組織病(OCTD:Overlap Connective Tissue Disease)」とも呼ばれます。

💡 用語解説:常染色体優性(顕性)遺伝

「常染色体」とは、性別を決める性染色体(X・Y)以外の染色体のこと。「優性(顕性)」とは、2本ある染色体のうちどちらか1本に変化があるだけで体質が現れることを意味します。MASS症候群では、変化したFBN1遺伝子を1つ持つだけで起こります。親から子へ受け継がれる確率は理論上50%です。遺伝の仕組みについては遺伝形式の解説ページで詳しく説明しています。

国際的な希少疾患データベースであるOrphanetには「ORPHA:99715」として登録されています。MASS症候群という考え方は、1989年にGlesbyとPyeritzによって初めて医学論文で提唱されました。当時、遺伝性の結合組織病を疑われて専門外来を受診する患者さんの半数以上が、既存のどの診断基準にもぴったり当てはまらないという大きな課題がありました。彼らは、こうした分類しにくい患者さんたちが、不釣り合いに長い手足・胸の変形・皮膚の線条・僧帽弁逸脱・軽い大動脈拡張といった、マルファン症候群によく似た特徴を多く共有していることに気づいたのです。

そこで彼らは、僧帽弁逸脱を持つ患者さんの体質が、一方の端に重いマルファン症候群を、もう一方の端に弁だけの軽い僧帽弁逸脱症を置いた「表現型の連続体(phenotypic continuum)」を形づくっていると考えました。MASS症候群はその連続体の中間に位置づけられる、比較的予後の良い一群として理解されています。

2. 原因遺伝子FBN1と分子病態メカニズム

MASS症候群の根本的な原因は、第15番染色体長腕(15q21.1)にあるFBN1遺伝子の変化です。同じFBN1の変化はマルファン症候群の原因でもあり、両者は「同じ遺伝子・同じ仕組み」を共有しています。だからこそ症状が似てくるのですが、後で述べるように臨床像には決定的な違いがあります。

💡 用語解説:フィブリリン-1と細胞外マトリックス

FBN1遺伝子は「フィブリリン-1」というタンパク質の設計図です。フィブリリン-1は、細胞と細胞のすき間を埋める「細胞外マトリックス」と呼ばれる土台の中で、弾力としなやかさを支える「マイクロフィブリル(微細な線維)」の主な材料になります。建物でいえば鉄筋のような役割で、血管・心臓の弁・皮膚・骨格など全身の組織を物理的に支えています。なおFBN1からは、血糖を調節するホルモン「アスプロシン」も同時につくられます。

フィブリリン-1の役割は、単なる「土台」にとどまりません。組織の成長や修復を指示する成長因子TGF-βの量をちょうどよく閉じ込めて調整する「コントロール役」も担っています。FBN1に変化が起こると、土台がもろくなると同時に、閉じ込めておけなくなったTGF-βが過剰に放出されて暴走します。このTGF-βシグナルの乱れが、大動脈の拡張や骨格の変化など、全身の結合組織の異常を引き起こす直接の引き金になると考えられています。

💡 用語解説:TGF-βシグナルとは

TGF-β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)は、細胞に「増えなさい」「組織をつくりなさい」と指示を出す重要な伝令物質です。健康な組織では必要なときだけ働くよう厳しく管理されていますが、フィブリリン-1の異常でこの管理が外れると、過剰に働き続けて組織が無秩序に作り変えられてしまいます。マルファン関連疾患の薬物治療(後述のARBなど)は、この暴走したTGF-βを抑えることを狙っています。

同じFBN1なのに病気が違う理由:変化の「位置」と「性質」

FBN1の変化がどんな病気・どんな重さになるかは、変化の「位置(どのドメインか)」「性質(量が減るのか、質が悪くなるのか)」に大きく左右されます。これには大きく2つのタイプがあります。

💡 用語解説:ミスセンス変異とハプロ不全

ミスセンス変異とは、DNAの1文字が変わることで、タンパク質を構成するアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変化です。タンパク質の形が変わり、働きに影響します(詳しくはミスセンス変異の解説)。

ハプロ不全とは、正常なタンパク質の「量が足りなくなる」状態です。ナンセンス変異やスプライシング変異などで、正常なフィブリリン-1が十分につくられなくなります(機能喪失型変異の解説ナンセンス変異の解説)。

もう一つの仕組みが優性阻害(ドミナントネガティブ)効果です。これは主にミスセンス変異で起こり、変化したアレルから作られた異常なフィブリリン-1が細胞の外に分泌され、正常なアレル由来の正しいフィブリリン-1の働きまで邪魔してしまう現象です。量が足りないだけのハプロ不全と違い、こちらは「悪い材料が良い材料の足を引っ張る」イメージです。この性質の違いは、後述するように薬の効きやすさにも関わってくる、臨床的にとても大切なポイントです。

MASS症候群に特有の変化としては、エクソン41の4塩基欠失による発現低下や、ClinVarに登録されているc.3509G>A(p.Arg1170His)などのミスセンス変異が報告されています。近年は、DNAメチル化やヒストン修飾といったエピジェネティックな要因も、同じ変化を持つ人の間で症状に幅が出る一因として注目されています。

3. 主な症状と表現型スペクトラム

MASS症候群の症状は、全身の結合組織のはたらきが弱くなることを反映して、複数の臓器に現れます。マルファン症候群と重なる部分が多いものの、全体に程度が軽く、進行しにくいのが特徴です。

❤️ 心血管系

  • 僧帽弁逸脱(MVP):頭文字「M」
  • 大動脈基部の拡張:頭文字「A」
  • 拡張は軽度かつ非進行性が原則
  • 致死的な大動脈瘤・解離は通常きたさない

🦴 骨格系

  • 不釣り合いな高身長・長い四肢
  • クモ状指(長く細い指)
  • 側弯症・後弯症、漏斗胸・鳩胸
  • 関節の過可動性、偏平足、高口蓋

👁️ 皮膚・眼

  • 皮膚線条(萎縮性のストレッチマーク)
  • 近視がよく見られる
  • 水晶体亜脱臼は伴わない

💡 用語解説:僧帽弁逸脱と大動脈基部拡張

僧帽弁逸脱とは、心臓が収縮するときに僧帽弁の「弁」が左心房側へめくれ返る状態です。弁の組織がやわらかく緩む(粘液腫様変性)ことで起こり、進行すると弁から血液が逆流することがあります。

大動脈基部拡張とは、心臓から出てすぐの太い血管(大動脈)の付け根が、年齢や体格の正常上限あたりまで広がった状態です。MASS症候群ではこの拡張が軽度で進行しにくいのが大きな特徴です。

💡 用語解説:水晶体亜脱臼(すいしょうたいあだっきゅう)

眼の中でレンズの役割をする「水晶体」が、本来の位置からずれてしまう状態です。水晶体を支える細い線維(チン小帯)がフィブリリンの異常で切れることで起こります。これはマルファン症候群の重要な所見ですが、MASS症候群では生じません。もし水晶体亜脱臼があれば、診断はマルファン症候群や孤立性水晶体偏位へと見直す必要があります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「軽症型マルファン」と言われても、油断は禁物です】

MASS症候群は「致死的な大動脈病変に進みにくい、予後の良い病気」です。これは患者さんとご家族にとって大きな安心材料であり、私もまず最初にお伝えしたい大切な事実です。ただ、その一方で「軽症型のマルファンだから心配いらない」と単純に受け止めてしまうのは、少し危ういと感じています。

同じFBN1の変化を持つご家族の中に、まれに重い血管病変の素因が隠れていることがあります。だからこそ、症候群の「名前」だけで安心するのではなく、定期的な心臓のチェックを生涯にわたって続けること、そしてご家族の病歴をていねいに聞き取ることが、本当の意味での安心につながります。

4. 鑑別診断:マルファン症候群などとの違い

MASS症候群は、フィブリリンやTGF-β経路を共有する多くの結合組織病と症状が重なるため、慎重な鑑別が欠かせません。特にマルファン症候群との区別が最重要です。決め手は、進行性の大動脈瘤・解離があるか、そして水晶体亜脱臼があるかの2点です。

疾患名 原因遺伝子 MASSとの主な違い
マルファン症候群 FBN1 進行性の大動脈瘤・解離、水晶体亜脱臼の存在が決定的に異なる
ロイス・ディーツ症候群 TGFBR1/2, SMAD3 など 全身の動脈に広がる動脈瘤・蛇行・解離、口蓋裂や眼間開離などの顔貌。MASSより重症
血管型エーラス・ダンロス症候群 COL3A1 薄く透ける皮膚、出血しやすさ、腸管・子宮破裂のリスク。marfan様の骨格は乏しい
先天性拘縮性クモ状指症 FBN2 生まれつきの関節拘縮、「折れ曲がった耳」が特徴。大動脈拡張はまれ
シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群 SKI 頭蓋骨縫合の早期癒合、知的障害を伴う。MASSにはこれらはない
先端骨異形成症 FBN1 著しい低身長・短い四肢・関節のこわばり。MASSの高身長とは逆の体型

ロイス・ディーツ症候群は大動脈以外の動脈にも病変が広がるため、当院ではロイス・ディーツ症候群NGSパネル検査などで関連遺伝子をまとめて調べることができます。最終的な鑑別は、遺伝子の結果だけでなく、時間の経過に伴う表現型の現れ方(大動脈径が進行するかどうかなど)を総合的に見て判断します。

5. 診断基準と遺伝子検査の進め方

MASS症候群の診断は、遺伝の専門家・循環器内科医・眼科医など複数の専門家チームによる総合的な評価で行われます。中心となるのが、大動脈の拡張を測る心エコー検査と、水晶体亜脱臼の有無を確認する細隙灯顕微鏡検査(眼の精密検査)です。

💡 用語解説:改訂Ghent基準とZスコア

マルファン症候群とその関連疾患を分けるための国際的な診断基準が改訂Ghent基準(2010年)です。Zスコアとは、年齢・体格で補正したときに大動脈基部がどれだけ太いかを示す数値で、「2以上」が拡張ありの目安です。改訂Ghent基準では「大動脈の拡張・解離」と「水晶体亜脱臼」の2つが最重要視され、過剰診断を防ぐ仕組みになっています。

家族歴のない方では、次のいずれかを満たすとマルファン症候群と確定します。①大動脈拡張(Zスコア2以上)+水晶体亜脱臼、②大動脈拡張+確定的なFBN1変異、③大動脈拡張+全身スコア7点以上、④水晶体亜脱臼+大動脈疾患に関連するFBN1変異。これらを満たさず、大動脈の拡張が境界域〜非進行性で、全身スコアが7点未満、かつ水晶体亜脱臼がない場合に「MASS表現型」が考えられます。

改訂Ghent基準による鑑別フロー(家族歴のない方)

家族歴のない方を評価
大動脈基部の拡張(Zスコア2以上)はある?
【あり】+ 水晶体亜脱臼/FBN1変異/全身スコア7点以上のいずれか → マルファン症候群
【軽度Z<2・非進行性】+ 水晶体亜脱臼なし + 全身スコア7点未満 → MASS表現型

大動脈基部の拡張を起点に、水晶体亜脱臼やFBN1変異の有無で確定診断へ進みます。基準を満たさず、非進行性の軽い大動脈拡張や骨格・皮膚症状のみの場合にMASS表現型が考慮されます。

出生後の診断:臨床評価とFBN1遺伝子検査

生まれた後の確定診断は、上記の臨床評価に加えて、血液を用いたFBN1遺伝子の塩基配列解析(シーケンス)で行います。FBN1は他の結合組織病の遺伝子とまとめて調べられるため、当院では結合組織疾患NGSパネル検査や、心血管病変を重視する場合は心臓血管系疾患遺伝子パネル検査でFBN1を含む複数遺伝子を一度に評価できます。見つかった変化を改訂Ghent基準や報告論文と照合し、臨床遺伝専門医が病的意義を慎重に解釈します。

出生前の診断:既知の変化がある場合の選択肢

出生前の診断は、ご家系の原因となるFBN1変異がすでに特定されている場合に、確実性が高くなります。妊娠初期の絨毛検査や羊水検査による出生前遺伝子診断、あるいは体外受精に伴う着床前診断(PGT-M)が技術的に可能です。スクリーニングとしては、FBN1を含む単一遺伝子を対象にしたNIPTインペリアルプランという選択肢もありますが、確定診断には絨毛検査・羊水検査が必要です。

通常の超音波検査だけで、胎児の段階で結合組織の軽い異常(四肢の長さや大動脈のわずかな拡張など)を正確にスクリーニングすることは、信頼性が低く現実的ではありません。出生前診断を行わない場合は、出産直後の新生児期に身体評価と心エコー検査で早期に確認することがすすめられます。

6. 治療と長期管理

MASS症候群は予後の良い病気ですが、治療と管理は病名に頼るのではなく、一人ひとりの症状の重さに合わせて柔軟に行います。不測の心血管イベントを防ぐため、生涯にわたる継続的なケア体制を整えることが大切です。

定期的な画像モニタリング

大動脈の拡張が本当に非進行性かを確認し、予期せぬ変化を早く捉えるため、定期的な心エコー検査を続けます。必要に応じてMRIやCTでの評価も行います。

薬物療法(β遮断薬・ARB)

大動脈壁の負担を減らすβ遮断薬が基本です。TGF-βを抑えるARB(ロサルタン)も研究されています。ただし効果は変化のタイプに左右されます(次の解説へ)。

生活・運動の調整

血圧が急に上がる高強度運動やコンタクトスポーツは、大動脈拡張がある場合は控えます。整形外科的なケアや、必要に応じた感染性心内膜炎の予防も検討します。

薬物療法で特に注目したいのが、ARB(ロサルタン)の効きやすさが、FBN1変異のタイプによって変わるという点です。研究では、ロサルタンの有益な効果は「量が足りない」ハプロ不全タイプの変異を持つ人に限られ、ミスセンス変異などの「質が悪い」優性阻害タイプには有意な効果が出にくいことが示されています。つまり、薬を最適化するには遺伝子検査で変化の性質を知ることが役立つのです。なお、感染性心内膜炎のリスクがある場合には、歯科処置などの前に予防的な抗菌薬が必要になることもあります。

⚠️ 注意:大動脈拡張がある方では、急に血圧を上げる激しい運動・コンタクトスポーツは原則控えます。運動の可否は必ず主治医とご相談ください。

7. 遺伝カウンセリング・妊娠と出産

MASS症候群は常染色体優性(顕性)遺伝のため、片方の親が変化を持つ場合、子に受け継がれる確率は性別にかかわらず理論上50%です。親に変化がなく子で初めて生じる新生突然変異(de novo)のケースもあります。診断後は、再発リスク・予後・出生前診断の選択肢などについて、ていねいな遺伝カウンセリングが役立ちます。

妊娠・出産で気をつけたい心血管リスク

妊娠は循環する血液量を最大で約50%増やし、心臓と血管に大きな負担をかけます。妊娠を計画する段階で、遺伝カウンセラー・循環器内科医・ハイリスク妊娠を専門とする産科医による多角的な評価が重要です。大動脈解離のリスクは妊娠後期から分娩、特に産後(産褥期)に最も高まるため、出産後も厳密な血圧管理とモニタリングを続けます。妊娠前には心エコー検査で大動脈径が妊娠の負荷に耐えうるかを確認します。

💡 用語解説:妊娠中に注意が必要な薬と硬膜拡張

ACE阻害薬やARB(ロサルタンなど)は胎児に有害なため、妊娠前または妊娠が分かった時点で速やかに中止します。β遮断薬の中ではメトプロロールが比較的安全とされ、アテノロールは胎児発育遅延との関連から妊娠中は推奨されません。

硬膜拡張とは、背骨の下の方で脊髄を包む膜の袋が広がる状態で、結合組織病で合併しやすく、無痛分娩で使う硬膜外麻酔を難しくすることがあります。麻酔科医を含めた事前の分娩計画が大切です。

中立・非指示的な立場でご家族に寄り添います

MASS症候群のように症状の幅が広く、必ずしも「出生前に見つけることが利益になるとは限らない」疾患では、医師は中立的な情報提供者であることに徹します。特定の検査をすすめたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはありません。どの選択をするかは、十分な情報を得たうえでご家族が決めること——その決定を支えるのが遺伝カウンセリングの役割です。

8. よくある誤解

誤解①「MASS=軽いマルファン症候群」

確かに予後は良好ですが、別の臨床的な実体です。致死的な大動脈病変や水晶体亜脱臼を欠く点で区別され、診断は時間経過も含めて総合的に行います。

誤解②「予後が良いから検査は不要」

予後が良くても、大動脈が本当に進行しないかを確認するための定期的な心エコーは重要です。家系内に重い血管病変が隠れている可能性も考えます。

誤解③「子どもでもすぐ確定できる」

小児期は「発症途上のマルファン症候群」との区別が難しく、単独の孤発例では20歳代まで最終診断を保留することが推奨されます。

誤解④「薬はみんなに同じだけ効く」

ARB(ロサルタン)はハプロ不全タイプには有益でも、優性阻害タイプには効きにくいとされます。変化の性質を知ることが治療最適化に役立ちます。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「同じ遺伝子」だからこそ、変化の中身まで読み解く】

MASS症候群とマルファン症候群は、同じFBN1遺伝子の変化で起こります。それでも経過や治療への反応が違うのは、変化が「量を減らすタイプ」なのか「質を悪くするタイプ」なのか、という中身が異なるからです。ロサルタンの効きやすさが変異タイプで変わるという知見は、まさに「遺伝子検査の結果を治療に活かす」精密医療の入り口だと感じています。

そして、私が日々の診療で最も大切にしているのは、結果をどう受け止めるかをご家族とともに考える時間です。とりわけお子さんの場合、診断を急がず時間をかけて見守ることが必要なこともあります。検査をするかどうか、その結果をどう生かすか——答えはご家族の中にあります。私たちはその意思決定に、中立な立場で寄り添い続けます。

よくある質問(FAQ)

Q1. MASS症候群は遺伝しますか?

常染色体優性(顕性)遺伝の病気で、片方の親が変化を持つ場合、子に受け継がれる確率は性別にかかわらず理論上50%です。一方で、親に変化がなく子で初めて生じる新生突然変異(de novo)のケースもあります。再発リスクや出生前診断の選択肢については、臨床遺伝専門医への相談をおすすめします。

Q2. MASS症候群とマルファン症候群はどう違うのですか?

どちらもFBN1遺伝子の変化で起こり症状が似ていますが、MASS症候群では大動脈の拡張が軽度で進行しにくく、致死的な大動脈瘤・解離へ進みにくいこと、そして水晶体亜脱臼(眼のレンズのずれ)を伴わないことが決定的な違いです。これらの所見があればマルファン症候群への診断見直しが必要です。

Q3. どのように診断されますか?

心エコー検査で大動脈基部を測り、細隙灯顕微鏡検査で水晶体亜脱臼の有無を確認します。改訂Ghent基準に照らして、大動脈拡張が境界域〜非進行性で全身スコアが7点未満、かつ水晶体亜脱臼がない場合にMASS表現型が考えられます。確定にはFBN1遺伝子検査(結合組織疾患NGSパネルなど)が用いられます。

Q4. 大動脈は将来悪化しませんか?

MASS症候群の大動脈拡張は本質的に非進行性とされ、これが予後を良好にしています。ただし「絶対に進行しない」と断言できるものではなく、家系内に重い血管病変が隠れている可能性もあるため、定期的な心エコー検査による生涯のモニタリングが推奨されます。

Q5. 出生前に診断できますか?

ご家系の原因となるFBN1変異がすでに特定されている場合は、絨毛検査・羊水検査による出生前遺伝子診断や着床前診断(PGT-M)が可能です。通常の超音波検査だけで結合組織の軽い異常を正確に見つけることは難しく、出産後の新生児期の評価がすすめられます。検査の選択は臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q6. 運動やスポーツはしてもよいですか?

大動脈基部の拡張がなく、中等度以上の僧帽弁逆流や突然死の家族歴がないなど厳しい条件を満たす場合に限り、中等度の運動が許可されることがあります。少しでも大動脈拡張がある方では、血圧が急に上がる高強度運動やコンタクトスポーツは原則控えます。運動の可否は必ず主治医とご相談ください。

Q7. 妊娠で特に注意すべきことは何ですか?

大動脈解離のリスクが妊娠後期から分娩、特に産後に高まるため、妊娠前の心エコー評価と、出産後も含めた厳密な血圧管理が重要です。ACE阻害薬・ARB(ロサルタンなど)は胎児に有害なため妊娠前後に中止し、β遮断薬を用いる場合はメトプロロールが比較的安全とされます。麻酔も含め、循環器・産科・遺伝の多職種で事前に計画を立てます。

Q8. 子どもがMASS症候群と言われましたが、将来マルファン症候群になりますか?

小児期にはMASS表現型と「発症途上のマルファン症候群」を区別することが難しく、成長に伴って大動脈拡張が進んだり水晶体亜脱臼が現れて、最終的にマルファン症候群の基準を満たす可能性もあります。そのため単独の孤発例では20歳代まで最終診断を保留することが推奨され、定期的なフォローアップが大切です。複数世代で一致した軽い症状が確認できる家系ほど、MASS表現型と確信を持って診断できます。

🏥 結合組織疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

MASS症候群をはじめとする遺伝性結合組織疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

原因遺伝子FBN1遺伝子についてフィブリリン-1の働きと関連する病気を専門医が解説します。関連疾患マルファン症候群MASS症候群と最も鑑別が重要な疾患を詳しく解説します。関連疾患家族性水晶体偏位水晶体亜脱臼を主徴とするFBN1関連疾患について解説します。関連疾患ワイル・マルケサニ症候群2(優性型)同じFBN1から生じる、対照的な体型の疾患を解説します。関連疾患先端骨異形成症高身長とは逆に低身長を呈するFBN1関連疾患です。関連疾患ゲレオフィジック異形成症2FBN1のTGF-β結合領域の変化で起こる骨格疾患です。関連疾患スティッフスキン症候群皮膚の硬化を特徴とするFBN1関連疾患について解説します。関連疾患マルファン・リポジストロフィー症候群新生児期に現れるFBN1関連の重症型について解説します。

参考文献

  • [1] OMIM #604308. MASS Syndrome. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] Glesby MJ, Pyeritz RE. Association of mitral valve prolapse and systemic abnormalities of connective tissue: a phenotypic continuum. JAMA. 1989;262(4):523-528. [PubMed]
  • [3] Loeys BL, et al. The revised Ghent nosology for the Marfan syndrome. J Med Genet. 2010;47(7):476-485. [PubMed]
  • [4] Dietz HC. FBN1-Related Marfan Syndrome. GeneReviews®. University of Washington. [GeneReviews]
  • [5] MedlinePlus Genetics. FBN1 gene. U.S. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [6] The Marfan Foundation. What is MASS Phenotype? [Marfan Foundation]
  • [7] Zeigler SM, et al. FBN1: The Disease-Causing Gene for Marfan Syndrome and Other Genetic Disorders. Genes. 2021. [PMC6639799]
  • [8] Fusco C, et al. Characterization of Two Novel Intronic Variants Affecting Splicing in FBN1-Related Disorders. Genes. 2019;10(6):442. [PMC6627396]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移