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家族性(遺伝性)大腿骨頭壊死症とは?原因遺伝子COL2A1・症状・遺伝のしくみをわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

家族性(遺伝性)大腿骨頭壊死症(ANFH1)は、COL2A1という遺伝子の変異が原因で、思春期から働き盛りの年代に股関節の骨(大腿骨頭)が血流不足で少しずつ壊れていく、まれな遺伝性の病気です。ステロイドやお酒など明らかなきっかけがないのに、家族の中で複数の人に同じ股関節の症状が起こることが、この病気を見つけるいちばんの手がかりになります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 COL2A1遺伝子・II型コラーゲン・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. 家族性大腿骨頭壊死症とは、どんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 関節の軟骨をつくる「COL2A1遺伝子」の変異により、若いうちから大腿骨頭(股関節の骨)が血流不足で壊れていく、常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。ステロイドやお酒が原因で起こる一般的な大腿骨頭壊死とは違い、はっきりした誘因がなく、家族内で受け継がれて発症することが特徴です。低身長や顔つきの違い、難聴などは通常伴いません。

  • 疾患の定義 → OMIM 608805(ANFH1)、Orphanet ORPHA:86820、常染色体顕性(優性)遺伝
  • 原因 → 12番染色体のCOL2A1遺伝子、軟骨をつくるグリシンが別のアミノ酸に置き換わる変異
  • 主な症状 → 10〜40代の鼠径部痛・足を引きずる歩き方・股関節の動かしにくさ
  • 鑑別診断 → ペルテス病、ステロイド・お酒による二次性の壊死との見分け方
  • 診断・治療 → MRIの「ダブルラインサイン」、遺伝子検査、関節温存手術から人工股関節まで

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1. 家族性大腿骨頭壊死症とは:病気の全体像

大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)は、太ももの骨の先端で、股関節のボールにあたる「大腿骨頭」への血の流れが悪くなったり途絶えたりして、骨の細胞が死んでしまう病気です。はじめのうちは症状がないことも多いのですが、進行すると足の付け根(鼠径部)の痛み・足を引きずる歩き方・左右の足の長さの違い・股関節の動かしにくさが現れ、最後には骨の表面が押しつぶされ(圧壊)、股関節全体が変形していきます。

💡 用語解説:無血管性壊死(むけっかんせいえし)とは

骨も生きた組織で、血液から酸素や栄養を受け取っています。その血の流れが断たれると、骨の細胞が酸欠で死んでしまいます。これが「無血管性壊死(AVN)」です。大腿骨頭は元々、細い血管が一方向から入ってくる「血流の弱点」を持つ場所なので、いったん血流が滞ると壊死が起こりやすいのです。壊死した骨は強度が落ち、体重を支えきれずに少しずつつぶれていきます。

大腿骨頭壊死の多くは、ステロイド薬の長期使用・多量の飲酒・股関節のケガ(脱臼や骨折)・血が固まりやすい体質・鎌状赤血球症やゴーシェ病などの病気に関連して起こる「二次性(後天的)」のものです。米国ではすべての原因を含めて年間およそ1万5千例が新たに発症すると推定されています[2]

ところが、このようなきっかけがまったくないのに、家族の中で複数の人に発症する、ごくまれなタイプがあります。これが「家族性大腿骨頭壊死症」で、遺伝病のデータベースOMIMでは「608805(ANFH1)」として登録されています。常染色体顕性(優性)遺伝の形をとり、12番染色体にあるII型コラーゲンの遺伝子(COL2A1)の変異が根本原因とされています。報告された当初は世界でわずか3家系でしたが[1]、全エクソーム解析などの技術が広まり、さまざまな民族で新しい家系が報告されるようになりました。

大腿骨無血管性壊死における骨組織の虚血と圧壊プロセス

正常な大腿骨頭(左)では豊かな血管網が骨を養っているが、血流が阻害された状態(右)では、軟骨下骨の虚血性壊死・嚢胞形成・関節面の圧壊が進行する。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝とは

「常染色体」は性別を決めるX・Y以外の染色体のこと。「顕性(けんせい・以前は優性と呼ばれました)」とは、ペアになっている2本の遺伝子のうち片方に変異があるだけで症状が出る遺伝の仕方です。この場合、親に変異があると、子どもに受け継がれる確率は理論上50%になります。遺伝の仕方についてくわしくは遺伝形式の解説ページをご覧ください。

2. 原因遺伝子COL2A1と、骨が壊れるしくみ

この病気を理解する鍵は、COL2A1遺伝子がつくる「II型コラーゲン」というタンパク質にあります。COL2A1は12番染色体の長い腕(12q13.11)にあり、II型コラーゲンの設計図です。II型コラーゲンは、関節の軟骨・背骨の椎間板・眼の硝子体をかたちづくる、いわば体の「クッション材」の主成分です。歩くときに股関節へかかる大きな力に軟骨が耐え、なめらかに動けるのは、このコラーゲンのおかげです。

💡 用語解説:II型コラーゲンと「三重らせん」

II型コラーゲンは、3本のひも(α鎖)が縄のように固くより合わさった「三重らせん構造」をしています。この縄の芯(中心)には、すきまがほとんどありません。芯の部分には「グリシン」という、すべてのアミノ酸の中でいちばん小さなアミノ酸だけが規則正しく並んでいます。グリシンは小さいからこそ、狭い芯にぴったり収まることができるのです。

家族性大腿骨頭壊死症をひき起こす変異の多くは、この芯にあるべきグリシンが、もっと大きなアミノ酸(セリンやアラニン、システインなど)に置き換わってしまうミスセンス変異です。大きなアミノ酸が狭い芯に無理やり押し込まれることで縄がゆるみ、らせん構造が壊れてしまいます。

💡 用語解説:ミスセンス変異とは

DNAの文字が1つ変わることで、設計図が指定するアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形が変わり、はたらきに影響します。COL2A1では、たった1アミノ酸の置き換えが、コラーゲン全体の組み立てを狂わせてしまうのです。くわしくはミスセンス変異の解説ページをご覧ください。

こうしてできた異常なコラーゲンは、正常な軟骨をつくれず、軟骨の強さが落ちます。すると体重の負担が軟骨の下の骨(軟骨下骨)に異常に伝わり、小さな骨折の積み重ね → そこを通る細い血管の圧迫と断裂 → 血流の途絶(虚血) → 骨の壊死という流れが起こると考えられています。つまり、設計図のたった一文字の違いが、最終的に股関節の骨を壊してしまうのです。

3. 主な症状と特徴

家族性大腿骨頭壊死症の症状は、股関節に集中しているのが特徴です。骨端線(骨が伸びる成長線)が閉じる時期から、おもに10代後半〜40代に現れます。

🦵 はじめの症状

  • 無症状のことも多い
  • 足の付け根(鼠径部)の痛み
  • 運動後に悪化し、休むと軽くなる痛み

⚠️ 進行したとき

  • 足を引きずる歩き方(跛行)
  • 股関節の動かしにくさ
  • 骨頭の圧壊・股関節の変形

⏱️ 発症する年代

  • おもに15〜48歳
  • 骨端線が閉じる時期に集中
  • 両側の股関節に出ることが多い

✓ 通常は伴わない症状

  • 低身長・体幹や手足の短縮
  • 特徴的な顔つき・口蓋裂
  • 網膜剥離・強い近視・難聴

同じCOL2A1の変異でも、低身長や顔つきの違い、目や耳の異常を伴う重い病気(後で説明します)になる場合があります。家族性大腿骨頭壊死症は、そうしたCOL2A1関連の病気の中で最も症状が軽い部類で、症状が股関節にほぼ限られるのが大きな特徴です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「お酒もステロイドも関係ない」若い股関節痛を見たら】

大腿骨頭壊死というと「ステロイドや飲酒が原因」というイメージが強く、誘因のない若い方の股関節痛では見落とされたり、原因不明のまま様子を見られたりすることがあります。けれども、ご本人にきっかけがなく、ご家族にも股関節を悪くした人がいる——そんなときは、遺伝性のタイプを一度考えてみる価値があります。

「家族の誰々も若いころ股関節の手術をした」という何気ない一言が、診断の決め手になることは少なくありません。問診で家族歴をていねいにうかがうこと。それが、遺伝性の股関節疾患を見つける第一歩だと考えています。

4. 鑑別診断:ペルテス病や似た病気との違い

この病気の診断でいちばん難しいのが、同じCOL2A1変異が原因になりうるレッグ・カルベ・ペルテス病(LCPD)との見分けです。どちらも常染色体顕性(優性)遺伝で、鼠径部痛・股関節のずれ・大腿骨頭の壊死など、多くの特徴を共有します。それでも、進み方と年齢に明確な違いがあります。

ペルテス病(LCPD)との違い

発症年齢:ペルテス病は骨端線が閉じる「前」の小児期(おもに4〜8歳)。家族性大腿骨頭壊死症は骨端線が閉じる時期から「以降」の青年期〜成人期です。

進み方:ペルテス病は壊れた後に自然に治っていく「自己修復性」。家族性大腿骨頭壊死症には自己修復のサイクルがなく、進行性に変性が進みます。

二次性(後天的)の壊死との違い

二次性:ステロイドの長期使用・多量飲酒・ケガなどの誘因があり、家族内の集積はありません。最も多いタイプです。

家族性:誘因がないのに家族内で複数発症。遺伝子検査でCOL2A1変異が確認されます。

その他の遺伝性の股関節疾患

多発性骨端異形成症(MED)はCOMPやCOL9などの遺伝子が原因で、軽い低身長と早発の関節症を伴います。

鑑別のポイント:X線でのていねいな評価に加え、遺伝子パネル検査や全エクソーム解析で原因遺伝子を突き止めることが有効です。

興味深いことに、中国のある大家族の研究では、まったく同じCOL2A1の変異(p.Gly630Ser)を持つのに、小児期に発症した人はペルテス病の像を示し、青年期以降に発症した人は大腿骨頭壊死症の像を示しました[3]。同じ遺伝子変異でも、成長期のどの時期に発症するか(骨端線が開いているか閉じているか)が、病気の見え方を決める大きな要因になると考えられています。

COL2A1関連疾患(II型コラーゲン異常症)の広がり

COL2A1の変異は、ひとつの病気ではなく、重さの異なる一連の病気(II型コラーゲン異常症)を起こします。変異の場所と種類によって、生まれる前に命に関わる重い骨の病気から、大人になって関節だけに症状が出る軽い病気まで、表れ方が大きく変わります。

疾患名 OMIM 主な特徴 発症時期 重さの目安
軟骨無発生症II型/軟骨低発生症 200610 極端な四肢・体幹の短縮、肺の低形成 胎生期・周産期 最重症(致死的)
先天性脊椎骨端異形成症(SEDC) 183900 体幹型低身長・扁平椎・口蓋裂・強い近視・難聴 出生時〜乳幼児期 中〜重
クニースト骨異形成症 156550 短い体幹・関節の腫大・強い近視・難聴 乳幼児期 中等
スティックラー症候群I型 108300 早発の変形性関節症・強い近視・網膜剥離・難聴 小児期〜 軽〜中
レッグ・カルベ・ペルテス病 150600 小児期に大腿骨頭が壊死し自己修復・扁平股 小児期(4〜8歳) 中等
家族性大腿骨頭壊死症1型(ANFH1) 608805 大腿骨頭の圧壊・進行性の鼠径部痛(低身長や顔つきの違いはなし) 青年期〜成人期 最も軽い部類

※ いずれも常染色体顕性(優性)遺伝です。表は横にスクロールできます。

遺伝子COL2A1遺伝子II型コラーゲンの設計図となる遺伝子を解説します。関連疾患レッグ・カルベ・ペルテス病小児期に大腿骨頭が壊死し自己修復する疾患です。関連疾患軟骨無発生症II型/軟骨低発生症COL2A1関連で最も重い骨系統疾患のひとつです。関連疾患先天性脊椎骨端異形成症(SEDC)低身長・扁平椎・近視などを伴う代表的な疾患です。関連疾患クニースト骨異形成症短い体幹と関節の腫大を特徴とする骨異形成症です。関連疾患スティックラー症候群I型近視・網膜剥離・難聴・関節症を伴う疾患です。関連疾患スティックラー症候群I型(非症候群性眼型)眼の症状が中心となるスティックラー症候群です。関連疾患軽度軟骨異形成を伴う変形性関節症若くして関節症を起こすCOL2A1関連の病態です。関連疾患チェコ異形成症早発の関節症と軽度の低身長を伴う異形成症です。関連疾患扁平椎骨異形成症 トーランス型C末端側の変異で起こる重い骨系統疾患です。関連疾患脊椎骨幹端異形成症 ストラドウィック型脊椎と四肢の骨に変化が及ぶ異形成症です。関連疾患脊椎骨端異形成症 スタネスク型関節症と骨の変化を特徴とするタイプです。関連疾患脊椎骨幹端異形成症 アルジェリア型脊椎と骨幹端に異常を示すまれな異形成症です。関連疾患脊椎末梢異形成症脊椎と手足の末梢骨に変化が及ぶ疾患です。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

早く見つけて進行を食い止めることが、この病気ではとても大切です。発症の初期には、ふつうのレントゲンやCTでは骨の異常をとらえられないことが多いため、MRI(磁気共鳴画像)が診断のいちばんの決め手になります。MRIは血流が途絶えた骨髄のむくみや壊死の初期サインを、高い感度でとらえることができます。

MRIの特徴的な所見「ダブルラインサイン」

大腿骨頭壊死のMRIで最も特徴的なのが「ダブルラインサイン(二重線徴候)」です[7]。壊死した中央の領域と、生きている正常な骨髄との境目に、2本の平行な線が現れます。これは、体が壊死した部分を修復しようとしてできる境界線を映し出したものです。

① 正常な骨髄(生きている骨)
② 外側の低信号線(黒)= 硬化骨
③ 内側の高信号線(白)= 肉芽組織・むくみ
④ 中心:壊死した骨

②の黒い線(硬化骨で壁を作って壊死を食い止めようとする層)と、③の白い線(血管に富む修復組織とむくみ)が並んで見えるため「二重線」と呼ばれます。

出生後の診断:遺伝子検査

家族歴や画像から遺伝性が疑われる場合、原因となるCOL2A1の変異を確かめるために遺伝子検査を行います。COL2A1だけを調べる単一遺伝子検査のほか、骨や軟骨に関わる複数の遺伝子をまとめて調べる方法もあります。当院ではCOL2A1を含む低身長遺伝子パネル検査や、より幅広く調べるクリニカルエクソーム検査などをご用意しています。これらは出生後に受けられる検査です。

💡 用語解説:全エクソームシーケンス(WES)とは

遺伝子のうち、タンパク質の設計に使われる大事な部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。原因がはっきりしないときや、家族歴のない孤発例でも、思いがけない遺伝子の変異を見つけられることがあります。実際に、家族歴のない14歳の少年で、両親にはない新しい変異(後で説明する新生突然変異)がWESで見つかった報告もあります[6]

出生前の診断について

ご家族の中にすでに原因となる変異が分かっている場合、次のお子さんについて、妊娠中に絨毛検査・羊水検査で確定的に調べる選択肢があります。また、COL2A1は当院のNIPT(出生前のスクリーニング検査)の一部のプラン(ダイヤモンドプランインペリアルプラン)でも調べる対象に含まれています。

ただし、家族性大腿骨頭壊死症は大人になってから発症することが多く、関節を温存できる場合もある病気です。そのため、出生前に調べることが常にご家族にとっての利益になるとは限りません。検査を受けるかどうかは、メリットと限界をよく理解したうえで、ご家族が決めることです。当院は中立の立場で情報をお伝えします。

6. 治療と長期的な付き合い方

治療は、病気の進み具合(Ficat分類などの病期)に応じて選びます。骨頭がまだ大きく崩れていない早い段階で見つけられれば、自分の関節を残す手術(関節温存手術)の可能性が広がります。治療せずに放置すると、3〜4年で多くの方が骨頭の圧壊に進むとされており、早期の対応がとても重要です[10]

① 保存療法(早期)

痛みを抑える薬に加え、松葉杖などで関節への体重負担を減らす「免荷」を行います。骨を壊す細胞のはたらきを抑える骨吸収抑制薬(ビスホスホネート)が検討されることもありますが、進行を完全に止められるかは議論があります。

② 関節温存手術+再生医療

骨頭の形が保たれている早期には、骨に小さなトンネルを開けて内圧を下げる「中心性減圧術」が選ばれます。近年は、その空洞に患者さん自身の骨髄から採った幹細胞を移植し、骨の再生を促す試みが成果を上げています[9]

③ 人工股関節全置換術(THA)

骨頭が圧壊し関節全体が変性した末期には、人工関節に置き換える手術が有効な選択肢です。劇的に痛みが和らぎますが、患者さんが20〜40代と若いことが多く、将来的に入れ替え手術が必要になる可能性も考えて計画します。

💡 用語解説:中心性減圧術(ちゅうしんせいげんあつじゅつ)

大腿骨の頸部から壊死した部分へ向けてドリルでトンネルを開け、骨の中の高くなった圧を物理的に下げる手術です。痛みを和らげると同時に、新しい血管が入ってくる道をつくる目的があります。早期の段階で行うほど、関節を残せる可能性が高まります。

7. 遺伝カウンセリングの意義

家族性の場合、ご家族の中で原因変異を持つ人を早めに把握しておくこと(発症前スクリーニング)が、関節を守るための強い味方になります。実際に、ある中国の家系では、COL2A1変異を持ちながらX線でも症状でもまったく異常のない7歳の女の子(発症前のキャリア)が確認されています[3]

家族性大腿骨頭壊死症の発症は、骨端線が閉じる時期(男性で17〜19歳、女性で15〜17歳ごろ)に集中する傾向があります。幼いうちに変異の有無が分かっていれば、最もリスクの高いこの時期に合わせて定期的にMRIで経過を見ることができます。関節面が崩れるはるか前の段階で見つけ、免荷などの早めの対応を始められるのです。

  • 再発リスクの説明:常染色体顕性(優性)遺伝のため、ご本人から子どもへ受け継がれる確率は理論上50%です。
  • 家族の検査と見守り:変異が分かれば、ご家族のリスク評価と、最適な時期でのMRIフォローの計画が立てられます。
  • 意思決定の支援:検査を受けるかどうかは、利益と限界を理解したうえでご家族が決めることです。遺伝カウンセリングで、臨床遺伝専門医が中立の立場でお手伝いします。

💡 用語解説:もうひとつの家族性タイプ「ANFH2」とTRPV4

家族性大腿骨頭壊死症のすべてがCOL2A1(II型コラーゲン)の異常で起こるわけではありません。「ANFH2(OMIM 617383)」という別タイプは、12番染色体にあるTRPV4という遺伝子の変異が原因です[4]。TRPV4は細胞が物理的な刺激を感じ取るセンサーの役割をする遺伝子で、その機能獲得型変異などが病気に関わると考えられています。

8. よくある誤解

誤解①「壊死=ステロイドやお酒のせい」

確かに多くは二次性ですが、誘因がなくても遺伝性のタイプ(家族性)があることを知っておくことが大切です。若い方の原因不明の股関節痛では、遺伝性も考えます。

誤解②「家族歴がないから遺伝じゃない」

両親にない変異が子どもで初めて生じる新生突然変異(de novo変異)もあります。家族歴がない孤発例でも、原因が遺伝子変異のことがあります。

誤解③「ペルテス病と同じ病気だ」

同じCOL2A1変異のことはありますが、発症時期や自己修復性が異なる別の病態です。小児期に発症すればペルテス病、青年期以降なら大腿骨頭壊死症の像を示します。

誤解④「COL2A1変異=必ず重い病気」

COL2A1関連の病気は幅広く、家族性大腿骨頭壊死症は最も軽い部類です。低身長や顔つきの違い、目や耳の異常を伴わないのが特徴です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【遺伝子を知ることは、未来の選択肢を増やすこと】

遺伝性の病気と聞くと、不安が先に立つかもしれません。けれども家族性大腿骨頭壊死症のように、早く変異を知ることが、いちばんリスクの高い時期に的を絞った見守りや、関節を残すための早めの手当てにつながる病気もあります。診断名がつくことは、決して「終わり」ではなく、選択肢を増やすための出発点なのです。

大切なのは、検査を受けるかどうか、いつ受けるかを、ご本人やご家族が納得して選べること。私たちはどちらの選択も尊重し、正確な情報と心理的な支えを両方そろえてお渡しすることを大切にしています。気になる家族歴がある方は、どうか一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 大腿骨頭壊死症は遺伝しますか?

大腿骨頭壊死症の多くは、ステロイドや飲酒などによる後天的なもので遺伝しません。一方で、COL2A1遺伝子の変異が原因の「家族性」のタイプ(ANFH1)は常染色体顕性(優性)遺伝で、ご本人から子どもへ受け継がれる確率は理論上50%です。誘因がないのに家族内で複数発症する場合は、遺伝性を考えて臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. ステロイドもお酒も使っていないのに発症するのはなぜですか?

家族性のタイプでは、COL2A1の変異により関節軟骨がもろくなり、その結果として軟骨下の骨に負担がかかって血流が途絶え、壊死に至ると考えられています。つまり、外からのきっかけがなくても、生まれ持った遺伝子の変異そのものが原因になるのです。家族歴がない孤発例でも、新生突然変異が見つかることがあります。

Q3. ペルテス病とはどう違うのですか?

同じCOL2A1変異が原因になりうる近い関係ですが、見分けのポイントは年齢と進み方です。ペルテス病は骨端線が閉じる前の小児期(おもに4〜8歳)に発症し、自然に治っていく自己修復性があります。家族性大腿骨頭壊死症は骨端線が閉じる時期から大人にかけて発症し、自己修復はなく進行性に変性が進みます。

Q4. どのように診断しますか?

初期はレントゲンで分かりにくいため、MRIが診断の決め手になります。壊死領域と正常な骨髄の境目に2本の線が見える「ダブルラインサイン」が特徴的です。家族性が疑われる場合は、COL2A1を含む遺伝子検査(単一遺伝子検査・遺伝子パネル検査・全エクソーム解析など)で原因変異を確かめます。

Q5. 人工股関節は必ず必要になりますか?

必ずしもそうではありません。骨頭の形が保たれている早い段階で見つかれば、免荷や中心性減圧術(必要に応じて幹細胞移植を併用)などの関節温存治療が選べます。一方、骨頭が大きく圧壊し関節全体が変性した末期では、人工股関節全置換術が有効な選択肢になります。だからこそ、早く見つけることが大切です。

Q6. 家族に同じ病気の人がいます。検査した方がよいですか?

原因変異がすでに分かっているご家族では、発症前に変異の有無を調べておくことで、リスクの高い時期に合わせたMRIフォローや早めの対応が可能になります。ただし、検査を受けるかどうかはご本人・ご家族の意思が最優先です。利益と限界を一緒に整理する遺伝カウンセリングをおすすめします。

Q7. 子どもに遺伝する確率はどのくらいですか?

常染色体顕性(優性)遺伝のため、変異を持つ方から子どもへ受け継がれる確率は理論上50%です。ただし、変異を受け継いでも症状の出方には個人差があり、どの時期にどの程度発症するかは一人ひとり異なります。具体的な見通しは、遺伝カウンセリングで個別にお話しします。

Q8. 出生前に分かりますか?

ご家族の中で原因変異が分かっている場合は、絨毛検査・羊水検査で確定的に調べる選択肢があります。COL2A1はNIPTの一部のプランの対象にも含まれます。ただし本疾患は大人になってから発症することが多く、出生前に調べることが常に利益になるとは限りません。検査を受けるかどうかはご家族が決めることであり、当院は中立の立場で情報をお伝えします。

🏥 遺伝性の関節・骨の病気のご相談

家族性大腿骨頭壊死症をはじめとする遺伝性疾患のご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にどうぞ。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM #608805. Avascular Necrosis of Femoral Head, Primary, 1; ANFH1. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] Orphanet. Familial avascular necrosis of femoral head. ORPHA:86820. [Orphanet]
  • [3] Su P, et al. A Novel p.Gly630Ser Mutation of COL2A1 in a Chinese Family with Presentations of Legg–Calvé–Perthes Disease or Avascular Necrosis of the Femoral Head. PLoS One. 2014;9(6):e100505. [PLoS One]
  • [4] OMIM #617383. Avascular Necrosis of Femoral Head, Primary, 2; ANFH2 (TRPV4). [OMIM]
  • [5] COL2A1 Mutation (c.611G>C) Leads to Early-Onset Osteoarthritis in a Chinese Family. Int J Gen Med. 2021. [PMC8217077]
  • [6] COL2A1 mutation (c.3508) leads to avascular necrosis of the femoral head: a case report. Mol Genet Genomic Med. 2018. [PMC6059677]
  • [7] Sugimoto H, et al. Chemical shift and the double-line sign in MRI of early femoral avascular necrosis. J Comput Assist Tomogr. 1992. [PubMed]
  • [8] Avascular Necrosis of the Femoral Head: Are Any Genes Involved? (Thrombophilia / eNOS review). [PMC4507066]
  • [9] Stem cell treatment for avascular necrosis of the femoral head: current perspectives. Stem Cells Cloning. 2014. [PMC3986287]
  • [10] Avascular Necrosis. StatPearls. NCBI Bookshelf. [StatPearls]
  • [11] Kishiya M, et al. Identification of a novel COL2A1 mutation (c.1744G>A) in a Japanese family: a case report. J Med Case Rep. 2014;8:276. [PMC4150419]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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