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口唇口蓋裂は遺伝する?原因・確率と知的障害との関係、妊娠中のエコーでいつわかるかと治療の流れを臨床遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、生まれつき上くちびる(口唇)や口の中の天井(口蓋)に裂け目がある状態のことで、比較的よくみられる先天異常で、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)は世界の出生のおよそ1,000人に1人にみられます。「遺伝するのか」と心配される方は多いのですが、ほかの症状を伴わない口唇口蓋裂の多くは、ひとつの遺伝子だけで決まるのではなく、遺伝の要因と環境の要因が重なって起こる多因子遺伝と考えられています(症候群の一部として起こる場合は別に考えます)。家族に口唇口蓋裂の人がいると確率は上がりますが、大多数のご家族では次の世代やきょうだいに繰り返していません。この記事では、遺伝する確率、原因、ほかの症状を伴う「症候群性」との違い、知的障害との関係、妊娠中のエコーでわかる範囲、治療の流れを、臨床遺伝専門医の立場から解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 口唇口蓋裂は遺伝しますか?

遺伝の要因は関わります。ほかの症状を伴わない口唇口蓋裂の多くは、遺伝と環境が重なって起こる多因子遺伝と考えられていますが、単一遺伝子の病気や染色体の変化によるものもあります。デンマークの研究では、口唇裂のある人の親・子・きょうだいに同じ病気がみられた割合は3.5%で、大多数のご家族では繰り返していませんでした。

🧬 Q. 「みつくち」とは何ですか?

口唇裂の昔の呼び方です。現在は差別用語としてタブー視されており、医療では使いません。正式には口唇裂・口蓋裂・口唇口蓋裂と呼びます。

🧬 Q. 知的障害を伴いますか?

口唇口蓋裂だけの場合は、知的障害を伴うとは限りません。ノルウェーの大人を調べた研究では、口唇裂だけの人では知的障害の割合は増えていませんでしたが、口蓋裂だけの人では高く、背景に症候群がある場合を考える必要があります。

🧬 Q. 妊娠中にわかりますか?NIPTでわかりますか?

口唇裂は妊娠中の超音波検査(エコー)で見つかることがありますが、口蓋裂だけの場合は見つけにくいと報告されています。NIPTは口唇口蓋裂そのものを調べる検査ではなく、口唇口蓋裂を伴うことがある13トリソミーや22q11.2欠失症候群などを調べる検査です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 多因子遺伝・再発の確率・症候群・エコー
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤口唇口蓋裂とは → 上くちびる・歯ぐき・口の天井に生まれつき裂け目がある状態。約1,000人に1人の頻度
  • ➤遺伝 → 非症候群性の多くは多因子遺伝。親・子・きょうだいで繰り返す割合は3.5%(デンマークの研究)
  • ➤症候群性 → 約3割はほかの先天異常や染色体の変化を伴う。知的障害との関係はここで分かれる
  • ➤妊娠中 → 口唇裂はエコーで見つかることがあるが、口蓋裂だけは見つけにくい
  • ➤治療 → 口唇の手術は生後3〜6か月、口蓋の手術は1歳〜1歳半ごろ。成長に合わせたチーム医療

口唇口蓋裂の写真

1. 口唇口蓋裂とは?

口唇口蓋裂とは、おなかの中で顔ができる時期に、上くちびる・歯ぐき(顎)・口の中の天井(口蓋)となる組織がうまくくっつかず、裂け目が残ったまま生まれてくる状態です。日本口蓋裂学会の解説では、くちびるの裂を口唇裂、歯ぐきの裂を顎裂、上あごの奥の裂を口蓋裂と呼び、全体の総称を「口唇裂口蓋裂」としています[1]。顔の形がつくられる途中で発育が何らかの原因で止まることで起こり、ほかの病気の一つの症状として現れることもありますが、多くは口唇裂や口蓋裂だけです[1]。

裂がある場所や大きさは人によって大きく違います。左右の片側だけのこともあれば両側のこともあり、すじ状のわずかな裂から、口や鼻の中が見えるほどの大きな裂までさまざまです[1]。くちびるから歯ぐき、口蓋まで続いているものは「唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)」とも呼ばれます。

口唇裂・口蓋裂・口唇口蓋裂の違いは?

違いは裂がある場所で、くちびるだけなら口唇裂、口の天井だけなら口蓋裂、両方なら口唇口蓋裂です。この区別は見た目の違いだけでなく、遺伝の考え方や、ほかの症状を伴う割合にも関わります。あとで説明するように、口蓋裂だけの場合と、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)とでは、家族での繰り返し方が違うと報告されているためです[2]。

📘 裂がある場所による呼び分け

呼び方 裂がある場所 遺伝の考え方での扱い
口唇裂 上くちびる(歯ぐきまで及ぶと唇顎裂) 「口唇裂(口蓋裂の有無を問わない)」としてまとめて扱われることが多い
口唇口蓋裂 上くちびるから歯ぐき・口蓋まで 口唇裂と同じグループ
口蓋裂 口の中の天井だけ(くちびるには裂がない) 口唇裂とは別のグループとして扱われる

※呼び分けは日本口蓋裂学会の解説[1]、遺伝での扱いはノルウェーの研究[2]による。

「みつくち」とは?昔の呼び方と、使われなくなった理由

「みつくち(三つ口)」は、口唇裂の昔の呼び方です。百科事典には、上くちびるが裂けている状態から「兎唇(としん)」や「三つ口」と呼ばれてきたと記されています[3]。いまも年配の方などから聞くことがある言葉ですが、意味するものは口唇裂と同じです。

使われなくなった理由について、口唇口蓋裂の人とのコミュニケーションを論じた大阪大学の研究ノートは、「みつくち」「兎唇」という言葉は口唇口蓋裂を表現するのにふさわしくなく、現在では差別用語としてタブー視されていると述べています[4]。「みつくち」は今は医療では使わない言葉で、医療の場では、日本口蓋裂学会の解説のように「口唇裂」「口蓋裂」「口唇口蓋裂」という呼び方を使います[1]。

💡 用語解説:「みつくち」と「口唇裂」

「みつくち」と「口唇裂」は同じ状態を指します。言葉が変わっても病気の中身は同じなので、「みつくちは遺伝する?」という疑問への答えは、この記事の「口唇口蓋裂は遺伝する?」の章がそのまま当てはまります。人前やご家族との会話では、「口唇裂」「口唇口蓋裂」という言葉を使うのが一般的です。

口唇口蓋裂は何人に1人?

口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)は、世界の出生でおよそ1,000人に1人の頻度です。30か国・54の登録を集めた国際的な調査では、口唇裂(口蓋裂の有無を問わない)の頻度は出生1万人あたり9.92人で、その内訳は口唇裂だけが3.28人、口唇口蓋裂が6.64人でした[5]。米国疾病予防管理センター(CDC)は、米国で口唇裂(口蓋裂の有無を問わない)が約1,031人に1人、口蓋裂だけが約1,563人に1人と示しています[6]。

頻度は調べた国や集団、数え方によって少しずつ違います。ノルウェーの全国研究では、口唇裂・口蓋裂を合わせた頻度は出生1,000人あたり約2.1人と報告されています[7]。

妊娠何週ごろにできる?

上くちびるは妊娠4〜7週、口蓋は妊娠6〜9週の間に形づくられます。CDCがこの時期を示しており[6]、日本口蓋裂学会は、顔の形がつくられる途中で発育が何らかの原因で止まると裂が残ると説明しています[1]。

この時期は、まだ妊娠に気づいていない方も多い時期です。そのため、後から「あのとき薬を飲んだから」「あの時期に無理をしたから」とご自身を責める方がいますが、次の章以降で説明するとおり、口唇口蓋裂の多くは一つの出来事で説明できるものではありません。

2. 口唇口蓋裂は遺伝する?確率と多因子遺伝

口唇口蓋裂のうち、ほかの先天異常や症候群を伴わない非症候群性のものの多くは、複数の遺伝の要因と環境の要因が重なって起こる「多因子遺伝」と考えられています。一方、単一遺伝子の病気や染色体の変化が原因になっている場合もあり、その場合は遺伝形式も再発の確率も変わります(第3章・第4章で説明します)。多因子遺伝では、親が口唇口蓋裂でも子どもに必ず起こるわけではなく、反対に、家族に誰もいなくても生まれてくることがあります。

多因子遺伝とは?

多因子遺伝とは、ひとつひとつは小さな影響しか持たない多くの遺伝的な違いと、環境の影響が積み重なって、病気になるかどうかが決まるという考え方です。常染色体顕性(優性)遺伝のように「2人に1人」、常染色体潜性(劣性)遺伝のように「4人に1人」といった決まった確率にはなりません。代わりに、家族を実際に調べた研究から得られた数字(経験的な再発率)で確率を考えます。遺伝形式の全体像は遺伝形式とはで解説しています。

多因子遺伝の代表的な説明に「しきい値モデル」があります。遺伝と環境の要因が積み重なり、ある線(しきい値)を超えたときに病気として現れる、という考え方です。デンマークの研究は、近い親族ほど確率が高く、裂が重い(両側の)人のきょうだいほど確率が高いことから、このモデルを支持する結果だとしています[8]。一方、ノルウェーの研究では裂の重さによって再発の確率は変わらず、しきい値モデルに合わない結果でした[2]。どちらのモデルが正しいかはまだ決着していませんが、「遺伝の要因は関わるが、一つの遺伝子では決まらない」という点はどちらの研究にも共通しています。

家族に口唇口蓋裂の人がいるときの確率は?

口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)の人の親・子・きょうだい(第1度近親者)に同じ病気がみられた割合は、デンマークの研究で3.5%でした。5万4,000人を超える親族を追った研究で、おじ・おば・祖父母など第2度近親者では0.8%、いとこなど第3度近親者では0.6%と、血のつながりが遠くなるほど低くなっていました[8]。

👪 口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)の人の親族に同じ病気がみられた割合

親族の近さ 主な続柄 割合(95%信頼区間)
第1度近親者 親・子・きょうだい 3.5%(3.1〜4.0%)
第2度近親者 祖父母・おじ・おば・おい・めいなど 0.8%(0.6〜1.0%)
第3度近親者 いとこなど 0.6%(0.4〜0.8%)
きょうだい(裂の重さ別) 両側の口唇裂の人のきょうだい/片側の人のきょうだい 4.6%(3.2〜6.1%)/2.5%(1.8〜3.2%)

※デンマークの全国研究(5万4,000人を超える親族)[8]による。きょうだいの裂の重さ別の数字は、ほかの先天異常を伴わない口唇裂(両側/片側)の人のきょうだいについての値です。日本の家族に同じ数字がそのまま当てはまるとは限りません。

3.5%という数字は、一般の頻度(約1,000人に1人)と比べると高い値です。ノルウェーの約210万人の出生を調べた研究でも、親・子・きょうだいに口唇裂のある人では、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)になる相対リスクが一般の32倍でした[2]。その一方で、裏返すと、この研究の第1度近親者の96%以上では繰り返していなかったということでもあります。ただし、3.5%は研究の対象になった第1度近親者全体で観察された割合で、一人ひとりの妊娠での確率をそのまま示すものではありません。実際の確率は、家族の中で何人が該当するか、裂の型、症候群が背景にあるかどうかによって変わります[8][2]。

ノルウェーの研究では、母親が口唇口蓋裂の場合と父親が口唇口蓋裂の場合とで再発の確率は同じくらいで、親子の組み合わせでも、きょうだいの組み合わせでも同じくらいでした[2]。「母親側の遺伝だから」「父親側の遺伝だから」と、どちらか一方の家系のせいにする根拠はないということです。

口唇裂と口蓋裂だけとでは原因が違う?

口蓋裂だけのグループは、口唇裂のグループとは別の原因を持つ部分が大きいと考えられています。ノルウェーの研究では、親・子・きょうだいに口蓋裂だけの人がいる場合、口蓋裂だけになる相対リスクは56倍で、口唇裂の32倍より高い値でした。ところが、家族に口唇裂の人がいて本人は口蓋裂だけ、という「型をまたいだ」組み合わせでは、相対リスクは3.0倍にとどまりました[2]。

研究者たちは、口蓋裂だけの場合は家族内に集まりやすいので遺伝の要因がより大きく、型をまたいだ組み合わせのリスクが低いことから、二つの型は比較的別々の原因を持つと考えています[2]。次の子の確率を考えるときに「家族の誰が、どの型か」を確かめるのはこのためです。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「3.5%」をどう受け止めるか】

多因子遺伝の病気で示される数字は、「その家族に起こる確率」を個別に計算したものではなく、たくさんの家族を調べた平均です。3.5%は一般の頻度より高い一方で、100家族のうち96家族以上では繰り返していないという数字でもあります。どちらの面を見るかで印象は大きく変わります。

実際に考えるときには、平均の数字をそのまま当てはめる前に、「口唇裂か口蓋裂だけか」「ほかの症状や先天異常を伴っていないか」「家族に何人いるか」を確かめることが欠かせません。症候群が背景にある場合は確率の考え方そのものが変わるため、ここを最初に整理することが大切だと考えています。

3. 口唇口蓋裂の原因は?遺伝と環境の両方が関わる

口唇口蓋裂の原因は一つではなく、遺伝の要因と、妊娠初期の環境の要因の両方が関わります。CDCは、妊娠中の喫煙、妊娠前からの糖尿病(1型・2型)、妊娠中の一部の抗てんかん薬の使用を、口唇口蓋裂の可能性を高める要因として挙げています[6]。ただし、これらは確率を少し上げる要因で、それがあったから口唇口蓋裂になったと一人ひとりについて決められるものではありません。

遺伝の要因:単一遺伝子の病気から多因子まで

遺伝の要因には、ひとつの遺伝子の変化で起こるもの(単一遺伝子の病気)と、多くの遺伝的な違いが少しずつ影響するもの(多因子)があります。単一遺伝子の病気の代表がヴァン・デル・ヴード症候群です。米国国立医学図書館(MedlinePlus Genetics)は、この病気を「遺伝的な変化によって起こる口唇裂・口蓋裂の原因として最も多いもの」と説明しています[9]。

💡 用語解説:ヴァン・デル・ヴード症候群(Van der Woude syndrome)

口唇裂・口蓋裂またはその両方と、下くちびるの中央付近の小さなくぼみ(口唇小窩)を特徴とする病気です。歯が足りないこともあります。多くはIRF6(アイアールエフシックス)遺伝子の変化で起こり、約5%はGRHL3遺伝子の変化によります。常染色体顕性(優性)遺伝で、変化を持つ親から子に伝わる確率は妊娠ごとに2分の1です。頻度は3万5,000人〜10万人に1人と推定されています[9]。

このように、同じ口唇口蓋裂でも、背景に単一遺伝子の病気があれば確率は「2分の1」のような決まった値になり、多因子なら経験的な数字(3.5%など)で考えることになります。どちらに当たるかで、次の子への遺伝の説明がまったく変わります。

環境の要因:喫煙・糖尿病・一部の薬

環境の要因として報告されているのは、妊娠中の喫煙、妊娠前からの糖尿病、一部の抗てんかん薬などで、いずれも「確率を少し上げる」要因です。数字がわかっているものを表にまとめます。

⚠️ 口唇口蓋裂の確率を上げると報告されている主な要因

要因 報告されている数字 出典・条件
妊娠中の喫煙 口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)で相対リスク1.34倍、口蓋裂で1.22倍 メタ解析[10]
妊娠前からの糖尿病 危険因子として挙げられている(数字の記載なし) CDC[6]
トピラマート(抗てんかん薬) 単剤で使った妊婦さんの赤ちゃんの口唇口蓋裂は1.4%(てんかんがなく抗てんかん薬を使っていない母親の赤ちゃんでは0.07%) 米国の妊娠登録・FDA(2011年)[11]
バルプロ酸(抗てんかん薬) 単剤の使用で、口蓋裂のオッズ比5.2(抗てんかん薬を使わない場合との比較) 欧州の先天異常登録の解析[12]

※相対リスク・オッズ比は「要因がない場合の何倍か」を表す数字です。抗てんかん薬は、自己判断でやめるとけいれん発作の危険があるため、妊娠を考えている方は処方している医師と相談してください。

たとえば喫煙の相対リスク1.34倍は、もともと約1,000人に1人の頻度が少し上がるという意味で、喫煙した人の赤ちゃんの大多数には口唇口蓋裂は起こりません。薬による影響は催奇形因子(テラトゲン)、バルプロ酸による症状のまとまりは胎児バルプロ酸症候群、喫煙の影響全体は妊娠中のタバコの影響で詳しく解説しています。

葉酸を飲めば防げる?

葉酸のサプリメントは口唇裂の確率を下げる可能性が報告されていますが、口蓋裂だけの場合には効果がみられず、確実に防げるものではありません。ノルウェーの全国の症例対照研究では、妊娠初期に1日400µg以上の葉酸サプリメントをとっていた場合、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)のオッズ比は0.61でした。一方、口蓋裂だけではオッズ比1.07で、差はみられませんでした[13]。

この研究では、葉酸の多い食事とマルチビタミンなどのサプリメントを組み合わせていた人で、最もリスクが低い(オッズ比0.36)という結果でした[13]。ただし症例対照研究は、とっていた人ととっていなかった人を後から比べる方法なので、葉酸そのものの効果だけを取り出したとは言い切れません。葉酸のとり方は葉酸サプリメントの効果で解説しています。

「原因は母親にある?」という疑問への答え

口唇口蓋裂の原因を母親一人に求める根拠はありません。前の節のとおり、再発の確率は母親が口唇口蓋裂の場合も父親の場合も同じくらいで[2]、遺伝の要因は両親のどちらからも伝わります。喫煙などの環境の要因も、確率をわずかに上げるだけで、それがあったから生まれたと決められるものではありません[10]。

口唇や口蓋ができるのは妊娠4〜9週で[6]、妊娠に気づく前後の時期と重なります。「あのとき気をつけていれば」と振り返る方は少なくありませんが、多くの場合、特定の行動が原因だったと言える根拠は見つかりません。

4. 症候群性と非症候群性の違い:知的障害との関係

口唇口蓋裂には、口唇口蓋裂だけが起こる「非症候群性」と、ほかの先天異常や症状を伴う「症候群性」があり、知的障害との関係はこの区別で大きく分かれます。同じ口唇口蓋裂でも、どちらに当たるかによって、確かめるべきこと、遺伝の確率、受ける検査が変わります。

約7割は口唇口蓋裂だけ(非症候群性)

口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)の約7割は、ほかの先天異常を伴わない非症候群性です。欧州23の先天異常登録で約600万人の出生を調べた研究では、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)5,449人のうち70.8%がほかの先天異常を伴わず、29.2%がほかの先天異常を伴っていました。伴っていた人の中には、染色体の変化(455人)や、診断のついた症候群(164人)が含まれていました[14]。ほかの先天異常を伴う割合は、口唇口蓋裂で34.0%、口唇裂だけで20.8%と、口蓋まで裂がある場合のほうが高くなっていました[14]。

口蓋裂だけの場合は、ほかの病気を伴う割合がさらに高くなります。欧州16か国の研究では、口蓋裂3,852人のうち、ほかの先天異常を伴わないのは54.8%で、18.0%がほかの先天異常を伴い、27.2%は診断のついた病気(症候群など)の一部でした[15]。

🔬 ほかの先天異常を伴わない割合(欧州の先天異常登録)

型 口唇口蓋裂だけ(非症候群性) ほかの先天異常・病気を伴う
口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む) 70.8% 29.2%(染色体の変化・症候群を含む)
口蓋裂だけ 54.8% 45.2%(ほかの先天異常18.0%+診断のついた病気27.2%)

※口唇裂はCalzolariら2007[14]、口蓋裂はCalzolariら2004[15]による。45.2%は二つの値を足したものです。生まれたときに診断されていない症候群は含まれていない可能性があります。

口唇口蓋裂を伴う主な症候群

口唇口蓋裂を伴うことがある病気には、染色体の数の変化、染色体の一部が欠ける微小欠失、単一遺伝子の病気があります。代表的なものを表にまとめます。どの病気でも、口唇口蓋裂は数ある症状の一つで、伴わない人もいます。

🧩 口唇裂・口蓋裂を伴うことがある主な病気

病気 原因 口のまわりの特徴とほかの主な症状
22q11.2欠失症候群 22番染色体の一部の欠失(約1割は親から) 粘膜下口蓋裂、口蓋垂裂、鼻にかかった声。心臓の病気、感染しやすさ、低カルシウム血症、発達の遅れ[16]
13トリソミー 13番染色体が1本多い 口唇裂(口蓋裂を伴うことも)。重い知的障害、心臓・脳の異常、多指など。新生児1万6,000人に1人[17]
ヴァン・デル・ヴード症候群 IRF6遺伝子など(常染色体顕性) 口唇裂・口蓋裂と下くちびるのくぼみ、歯の欠損[9]
ピエール・ロバン シークエンス 単独で起こるものと症候群の一部のものがある 小さい下あご、舌が奥にある、気道がふさがりやすい。多くは口蓋裂を伴う[18]
スティックラー症候群 COL2A1遺伝子(約8割)などコラーゲンの遺伝子 ピエール・ロバン シークエンス(口蓋裂を含む)が多い。強い近視・網膜剥離、難聴、関節の症状[19]
トリーチャー・コリンズ症候群 TCOF1遺伝子(81〜93%)、POLR1D・POLR1C遺伝子 口蓋裂を伴う人がいる。ほお骨・下あごの低形成、耳の形の違い、難聴。知能は通常正常[20]

※各病気の説明はMedlinePlus Genetics[9][16][17][18][19][20]による。

22q11.2欠失症候群では、外から見える口蓋裂より、粘膜に覆われて見えにくい粘膜下口蓋裂や、鼻にかかった声として気づかれることが多い点に注意が必要です[16]。詳しくは22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)、13トリソミーは13トリソミー(パトウ症候群)とはで解説しています。どちらも、妊娠中に母体の血液で赤ちゃんの染色体の変化を調べるNIPT(新型出生前診断)の対象になっている病気です。そのほか、ピエール・ロバン シークエンス、スティックラー症候群1型、トリーチャー・コリンズ症候群にもそれぞれ解説ページがあります。

口唇口蓋裂と知的障害の関係は?

口唇裂だけの人では知的障害の割合は増えていませんでしたが、口唇口蓋裂、とくに口蓋裂だけの人では高いと報告されています。ノルウェーで1967〜1992年に生まれ、ほかの先天異常を伴わない口唇裂・口蓋裂の人2,337人を18〜43歳まで追った研究では、知的障害の相対リスクは、口唇裂だけの人で0.9倍(統計的な差なし)、口唇口蓋裂の人で2.2倍、口蓋裂だけの人で11.5倍でした[7]。

📊 ほかの先天異常を伴わない口唇裂・口蓋裂の大人の知的障害(ノルウェー)

型 知的障害の相対リスク(95%信頼区間) 自閉スペクトラム症の相対リスク
口唇裂だけ 0.9倍(0.3〜2.9) 該当者0人
口唇口蓋裂 2.2倍(1.2〜4.1) 1.7倍(0.4〜6.9)
口蓋裂だけ 11.5倍(8.5〜15.6) 6.6倍(2.8〜15.7)

※Bergら(JAMA Pediatrics 2016)[7]による。相対リスクは口唇裂・口蓋裂のない人と比べた値です。生まれたときに診断されない症候群が含まれている可能性があると、研究の中で述べられています。

この研究はほかの先天異常を伴う人を除いていますが、症候群の中には生まれたときには診断されないものがあり、そうした人が含まれている可能性があります[7]。口蓋裂だけのグループでは症候群を伴う割合が比較的高いことが報告されており[15]、診断されていない病気が結果に影響した可能性があります。ただし、この観察研究だけで、知的障害の割合が高い原因を特定することはできません。

つまり、「口唇口蓋裂だから知的障害がある」というわけではありません。口唇口蓋裂を一つの症状とする症候群や染色体の変化が背景にあるかどうかは、知的障害との関係を考えるうえで大切な情報ですが、それだけで知的な発達を判断することはできません。13トリソミーでは重い知的障害を伴い[17]、22q11.2欠失症候群では発達の遅れや、軽い知的障害・学習障害を伴う人がいます[16]。反対に、トリーチャー・コリンズ症候群のように、知能は通常正常な病気もあります[20]。

口唇口蓋裂とADHD・自閉スペクトラム症の関係は?

ADHD(注意欠如・多動症)は、どの型でも統計的にはっきりした増加はみられませんでしたが、自閉スペクトラム症は口蓋裂だけの人で高いと報告されています。知的障害と同じノルウェーの研究では、ADHDの相対リスクは口唇裂だけの人で0.4倍、口唇口蓋裂の人で1.8倍、口蓋裂だけの人で1.9倍で、いずれも統計的な差はありませんでした[7]。

自閉スペクトラム症は、口唇口蓋裂の人で1.7倍(統計的な差なし)、口蓋裂だけの人で6.6倍でした。後から知的障害と診断された人を除いて計算し直しても、口蓋裂だけの人では4.9倍と高いままでした[7]。ここでも、口蓋裂だけのグループに症候群が多いことが背景にあると考えられます。22q11.2欠失症候群では、ADHDや自閉スペクトラム症を伴う割合が一般より高いことが知られています[16]。

5. 遺伝・医療とのつながり:臨床遺伝専門医が見るポイント

口唇口蓋裂の遺伝を考えるときは、「症候群かどうか」「どの型か」「家族に何人いるか」の順に確かめ、それによって確率の出し方と受ける検査を決めます。同じ「口唇口蓋裂」という名前でも、背景にある原因によって、次の子に起こる確率は「約3%」から「2分の1」まで大きく変わるためです。

次の子の確率を考えるときの順番

最初に確かめるのは、口唇口蓋裂のほかに、心臓の病気、発達の遅れ、耳や目の症状、下くちびるのくぼみなどがないかです。こうした特徴があれば、表に挙げたような症候群を疑い、染色体を細かく調べる染色体マイクロアレイ検査や遺伝子の検査を検討します。原因が見つかれば、その病気の遺伝形式に沿って確率を考えます。たとえばヴァン・デル・ヴード症候群なら常染色体顕性遺伝で妊娠ごとに2分の1[9]、22q11.2欠失症候群の多くは親から受け継いだものではなく新しく起こった変化です[16]。

症候群が見つからない(非症候群性の)場合は、多因子遺伝として、家族を調べた研究の数字で確率を考えます。このとき、口唇裂か口蓋裂だけか、裂が片側か両側か、家族の中で誰が該当するかによって数字が変わります[8][2]。こうした整理を検査の前後に専門医と行う場が遺伝カウンセリングです。

NIPTで口唇口蓋裂はわかる?

NIPTは口唇口蓋裂そのものを調べる検査ではありません。NIPTが調べるのは赤ちゃんの染色体の数の変化や一部の微小欠失などで、口唇口蓋裂の多くを占める非症候群性のもの(多因子遺伝)は対象になりません。NIPTが陰性でも、口唇口蓋裂がないとは言えません。

一方で、口唇口蓋裂を伴うことがある病気のうち、13トリソミーと22q11.2欠失症候群は、当院のNIPTではスタンダード・プレミアム・ダイヤモンド・双子マックス・インペリアルの全5プランで調べられます。22q11.2欠失症候群のような微小欠失症候群は、陽性になっても本当にそうかを確かめる確定検査(羊水検査・絨毛検査)が必要です。NIPTでわかるのは「口唇口蓋裂を伴うことがある病気の一部」だという位置づけで受け止めてください。

生まれる前に分かる:両親の保因者検査

口蓋裂を伴うことがある病気の中には、常染色体潜性(劣性)遺伝のものもあります。トリーチャー・コリンズ症候群のうちPOLR1C遺伝子によるものがその例で、両親がともに保因者(病気の遺伝子の変化を片方だけ持ち、自分は発症しない人)のとき、子が発症する確率は妊娠ごとに4分の1です[20]。両親が保因者である組み合わせは家族に患者さんがいなくても起こるため、家族歴だけでは気づけません。

POLR1C遺伝子は、当院の拡大版保因者検査(女性787遺伝子・男性714遺伝子・女性1009遺伝子・男性911遺伝子)の4つすべてに含まれています。4つともオンライン診療で受けられ、唾液や頬の粘膜の検体でも検査できます。NIPTと同じ日に採血して受けたい方にはファミリーセーフティ プラスがあります(単独では受けられません)。保因者検査は口唇口蓋裂そのものを調べる検査ではなく、対象の遺伝子による潜性遺伝の病気を調べるものです。考え方は保因者スクリーニング検査とはをご覧ください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【検査でわかること・わからないことを分けて考える】

口唇口蓋裂のように、遺伝の要因はあっても一つの遺伝子では決まらない病気は、どの検査でも「生まれる前に確実に調べる」ことはできません。NIPTや保因者検査で調べられるのは、口唇口蓋裂を伴うことがある一部の病気です。ここを取り違えると、検査に過大な期待を持ったり、反対に検査の意味を見失ったりします。

検査を選ぶ前に「何がわかり、何がわからないか」を表にして並べてみることが大切だと考えています。口唇口蓋裂については、エコーでわかる部分、NIPTでわかる部分、家族の情報から確率で考える部分を分けると、それぞれの検査に何を期待すればよいかがはっきりします。

6. 妊娠中のエコーで口唇口蓋裂はいつわかる?

口唇裂は妊娠中の超音波検査(エコー)で見つかることがありますが、口蓋裂だけの場合は見つけにくく、生まれてから分かることも少なくありません。CDCも、口唇口蓋裂、とくに口唇裂は妊娠中の超音波検査で見つかることがあると説明しています[6]。

お母さんのおなかの上から当てる超音波検査(経腹超音波)の精度を調べた27研究のシステマティックレビューでは、通常の2次元の超音波での発見率は、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)で9〜100%、口蓋裂だけで0〜22%と大きな幅がありました。リスクの高い妊婦さんを3次元超音波で調べた研究では、口唇裂で100%、口蓋裂だけで89%という報告もあります[21]。一般の妊婦さんを対象とした2次元のスクリーニングでは、発見率は比較的低いとまとめられています[21]。

「4Dエコー(立体の動画で見る超音波)なら見つかる?」という疑問もよく聞かれます。上のレビューで高い発見率が出た3次元超音波の研究は、すでに口唇口蓋裂が疑われていたり家族歴があったりする、リスクの高い妊婦さんを対象にしたものでした[21]。立体的に見られることで顔の表面の様子はつかみやすくなりますが、すべての妊婦さんで同じ精度が出るとは言えず、見つからなかったことが口唇口蓋裂がないことの保証にはならない点は2次元の場合と同じです。

また、粘膜下口蓋裂や口蓋垂裂のように、生まれたときにも診断されず、成長してから分かるものもあります[6]。妊娠週数ごとに何がわかるかや、エコーの限界は口蓋裂はいつわかる?妊娠週数別の診断時期とエコー検査の限界、胎児の超音波検査そのものは胎児超音波検査とはで詳しく解説しています。

エコーで口唇裂が見つかった場合は、ほかに心臓などの異常がないかを詳しく調べることが大切です。前の章で見たように、ほかの先天異常を伴う場合には症候群や染色体の変化が背景にあることがあり[14]、羊水検査などの確定的な検査を考えるかどうかにも関わるためです。

7. 口唇口蓋裂の治療の流れ

口唇口蓋裂の治療は、生後数か月の口唇の手術から始まり、成長に合わせて思春期ごろまで、手術・ことばの訓練・歯の矯正などを組み合わせて進めます。手術をしないままだと、ミルクの飲みにくさ、はっきり話すことの難しさ、中耳炎や聞こえの問題、歯の問題が起こることがあります[6]。

🏥 主な手術と時期の目安(日本口蓋裂学会)

治療 時期の目安 目的
口唇形成術 生後3〜6か月(体重5〜5.5kg以上が目安) くちびると鼻の形を整える
口蓋形成術 1歳〜1歳半ごろ(二回に分ける方法もある) 口と鼻の境をつくり、ことばを話しやすくする
口唇・鼻の修正手術 就学前(4〜6歳ごろ)か思春期 見た目の左右差などを整える
顎裂部骨移植術 5〜6歳から10歳ごろ 歯ぐきの骨の裂を埋め、歯が生える土台をつくる
咽頭弁形成術 6歳以降(必要な場合) 話すときに鼻から息が漏れるのを改善する
顎の骨の手術 18歳ごろ(必要な場合) 上下のあごのかみ合わせを整える

※時期は日本口蓋裂学会の資料[22]による目安で、施設や裂の状態によって異なります。米国のCDCは、口唇の手術を生後12か月以内、口蓋の手術を生後18か月以内に行うことを勧める考え方を紹介しています[6]。

治療は出生直後から社会人になるまで続き、成長とともに見た目、哺乳、ことば、歯並び、かみ合わせ、あごの発育と課題が変わっていきます。日本口蓋裂学会は、形成外科・口腔外科・小児科・小児歯科・矯正歯科・一般歯科・耳鼻科・看護師・言語聴覚士などが適切な時期に協力するチームアプローチを説明しています[23]。米国の口蓋裂・頭蓋顔面学会も、専門職のチームが家族と一緒に治療計画を立てることを勧めています[6]。症候群が背景にある場合は、心臓の病気など、ほかの症状の治療の時期とあわせて計画を立てます。

生まれてすぐに困ること:ミルク・耳・ことば

口唇口蓋裂の赤ちゃんでは、生まれてすぐのミルクの飲みにくさ、成長してからの中耳炎や聞こえ、ことばの問題に、それぞれの専門職が順番に関わります。CDCは、手術で治さないと、ミルクを飲むこと、はっきり話すこと、耳の感染や聞こえ、歯に問題が起こることがあると説明しています[6]。

日本口蓋裂学会のチームアプローチの説明では、看護師が哺乳の指導を、小児歯科や口腔外科が口蓋床(口の中に入れる装置)の作製を、耳鼻科が滲出性中耳炎に対する鼓膜チューブの手術を、言語聴覚士がことばの評価と訓練を担うとされています[23]。手術の前には、小児科が心臓・脳・手足などの全身の検査を行います[23]。口唇口蓋裂のほかに症候群が隠れていないかを確かめる意味もある検査です。

医療費の助成はある?

口唇口蓋裂の治療には健康保険が使え、18歳未満では、要件を満たせば自立支援医療(育成医療)を利用できます。育成医療は、機能障害を伴う対象の病気があり、指定自立支援医療機関で治療を受ける18歳未満の児童が対象で、自己負担は原則1割で、世帯の所得に応じて月の上限があります。申請は原則として治療を始める前に行います[24]。

18歳以上で身体障害者手帳の交付を受けている人は、口唇裂・口蓋裂による音声・言語やそしゃくの障害に対する矯正歯科治療や手術で、自立支援医療(更生医療)を使えることがあります。子ども医療費助成は自治体によって内容が異なります[24]。制度は改正されることがあるため、最新の内容は治療を受ける病院の医療ソーシャルワーカーや自治体の窓口で確かめてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. みつくちとは?

「みつくち(三つ口)」は口唇裂の昔の呼び方です。現在は差別用語としてタブー視されており、医療では「口唇裂」「口蓋裂」「口唇口蓋裂」と呼びます。指している状態は口唇裂と同じです。

Q2. みつくち(口唇口蓋裂)は遺伝しますか?

遺伝の要因は関わります。ほかの症状を伴わない口唇口蓋裂の多くは、遺伝と環境が重なって起こる多因子遺伝と考えられています。デンマークの研究では、口唇裂の人の親・子・きょうだいに同じ病気がみられた割合は3.5%でした。ただし、ヴァン・デル・ヴード症候群のように単一遺伝子の病気が背景にある場合は、確率の考え方が変わります。

Q3. 親が口唇口蓋裂だと、子どもに起こる確率はどのくらいですか?

症候群が背景にない場合、デンマークの研究では親・子・きょうだい(第1度近親者)に同じ病気がみられた割合は3.5%で、ノルウェーの研究では母親が口唇口蓋裂の場合も父親の場合も再発の確率は同じくらいでした。口蓋裂だけの場合や、背景に単一遺伝子の病気がある場合は数字が変わるため、型や家族の状況を確かめて考えます。

Q4. 口唇口蓋裂は何人に1人ですか?

国際的な調査では、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)は出生1万人あたり9.92人で、およそ1,000人に1人です。米国では、口唇裂(口蓋裂の有無を問わない)が約1,031人に1人、口蓋裂だけが約1,563人に1人と示されています。

Q5. 口唇口蓋裂の原因は母親にあるのですか?

母親一人に原因を求める根拠はありません。再発の確率は母親が口唇口蓋裂の場合と父親の場合で同じくらいで、遺伝の要因は両親のどちらからも伝わります。喫煙などの環境の要因も確率をわずかに上げるだけで、それがあったから生まれたと決められるものではありません。

Q6. NIPTで口唇口蓋裂はわかりますか?

NIPTは口唇口蓋裂そのものを調べる検査ではなく、陰性でも口唇口蓋裂がないとは言えません。口唇口蓋裂を伴うことがある13トリソミーや22q11.2欠失症候群は、当院のNIPTでは全5プランで調べられます。陽性の場合は、確定検査(羊水検査・絨毛検査)で確かめる必要があります。

Q7. 口唇口蓋裂の検査や治療はできますか?

当院では、口唇口蓋裂の手術や治療は行っていません。治療は形成外科・口腔外科などのチームで行われます。当院でできるのは、口唇口蓋裂を伴うことがある病気の一部を調べるNIPT、一部の潜性遺伝の病気を調べる保因者検査、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングです。

まとめ

口唇口蓋裂は、上くちびる・歯ぐき・口蓋に生まれつき裂がある状態で、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)は世界の出生のおよそ1,000人に1人にみられます[5]。昔は「みつくち」と呼ばれましたが、現在は差別用語としてタブー視され、医療では使いません[4]。遺伝の要因は関わるものの、多くは遺伝と環境が重なって起こる多因子遺伝で、親・子・きょうだいで繰り返す割合は3.5%と報告されています[8]。

約3割はほかの先天異常を伴い[14]、知的障害との関係や次の子への遺伝の確率は、背景に症候群があるかどうかで大きく変わります。エコーでは口唇裂は見つかることがある一方、口蓋裂だけは見つけにくく[21]、NIPTでわかるのは口唇口蓋裂を伴うことがある13トリソミーや22q11.2欠失症候群などの一部です。治療は生後数か月から始まり、チーム医療で成長に合わせて進められます[22]。

🤰 妊娠中の検査を考えている方へ

当院では、口唇口蓋裂の手術や治療は行っていません。当院でできるのは、口唇口蓋裂を伴うことがある13トリソミーや22q11.2欠失症候群などを妊娠中に調べるNIPTと、検査の前後に臨床遺伝専門医が行う遺伝カウンセリングです。陽性の場合も、当院でNIPTを受けた方は確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。検査を受けるかどうかまだ決めていない方は、遺伝カウンセリングとはで、検査で何がわかり、結果をどう受け止めればよいかを先にご覧ください。

参考文献

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  • [2] Sivertsen A, Wilcox AJ, Skjaerven R, Vindenes HA, Abyholm F, Harville E, Lie RT. Familial risk of oral clefts by morphological type and severity: population based cohort study of first degree relatives. BMJ. 2008;336(7641):432-434. [PubMed 18250102]
  • [3] 「唇裂」. 改訂新版 世界大百科事典. 平凡社(コトバンク収載). [コトバンク]
  • [4] 津澤雅子. 可視的変形(Visible Difference)における理解 口唇口蓋裂患者とのコミュニケーション技法に対する一考察. 臨床哲学. 2010;11:105-118. [大阪大学リポジトリ]
  • [5] IPDTOC Working Group. Prevalence at birth of cleft lip with or without cleft palate: data from the International Perinatal Database of Typical Oral Clefts (IPDTOC). Cleft Palate Craniofac J. 2011;48(1):66-81. [PubMed 20507242]
  • [6] Cleft Lip/Cleft Palate. Birth Defects. Centers for Disease Control and Prevention(2026年1月8日更新). [CDC]
  • [7] Berg E, Haaland ØA, Feragen KB, et al. Health status among adults born with an oral cleft in Norway. JAMA Pediatr. 2016;170(11):1063-1070. [doi:10.1001/jamapediatrics.2016.1925]
  • [8] Grosen D, Chevrier C, Skytthe A, Bille C, Mølsted K, Sivertsen A, Murray JC, Christensen K. A cohort study of recurrence patterns among more than 54,000 relatives of oral cleft cases in Denmark: support for the multifactorial threshold model of inheritance. J Med Genet. 2010;47(3):162-168. [PubMed 19752161]
  • [9] Van der Woude syndrome. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
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  • [11] FDA Drug Safety Communication: Risk of oral clefts in children born to mothers taking Topamax (topiramate). U.S. Food and Drug Administration. 2011年3月4日. [FDA]
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  • [22] 一般社団法人 日本口蓋裂学会. 口唇裂・口蓋裂の手術時期はいつなの? [日本口蓋裂学会]
  • [23] 一般社団法人 日本口蓋裂学会. 口唇裂・口蓋裂のチームアプローチ治療とは何なの? [日本口蓋裂学会]
  • [24] 一般社団法人 日本口蓋裂学会. 口唇裂・口蓋裂の社会福祉制度はどうなっているの? [日本口蓋裂学会]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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