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FGFR1遺伝子とは?その働きと、関連する病気・がんをわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

FGFR1遺伝子は、細胞の増殖・分化・発生を指揮する「受容体型チロシンキナーゼ」という重要なタンパク質の設計図です。この遺伝子の変化は、変化の「向き」によって正反対の病気を引き起こします。働きが弱まればカルマン症候群(思春期が来ない・においが分からない)を、働きが強まりすぎればファイファー症候群などの頭蓋骨や手足の形の異常を、そして増えすぎ(増幅)や別の遺伝子との合体(転座)が起きると肺がん・乳がん・白血病の引き金にもなります。この記事では、FGFR1という1つの遺伝子が持つ多彩な顔を、一般の方にもわかりやすく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 FGFR1遺伝子・受容体型チロシンキナーゼ・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. FGFR1遺伝子とはどんな遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 細胞に「増えなさい・育ちなさい」という指令を伝えるアンテナ(受容体型チロシンキナーゼ)の設計図となる遺伝子です。体づくりの土台を担う一方で、この設計図に変化が起きると、変化の向きによって先天性の病気(カルマン症候群・ファイファー症候群など)やがんの原因になります。

  • 遺伝子の基本 → 8番染色体(8p11.23)にあり、FGFファミリーの主要な受け皿となる受容体
  • 構造と働き → 選択的スプライシング(IIIb/IIIc)という「衣替え」で性格が変わる
  • 関わる先天性の病気 → カルマン症候群(働きの低下)/ファイファー・ジャクソン・ワイス・オステオグロフォニック異形成症(働きの過剰)/ハーツフィールド症候群
  • がんとの関わり → 遺伝子増幅(肺扁平上皮がん・乳がん)と転座(8p11症候群)、分子標的薬の最新動向
  • 検査の考え方 → 出生前(NIPT・羊水/絨毛検査)と出生後(NGSパネル)の違い

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1. FGFR1遺伝子とは:体づくりの「司令塔アンテナ」

FGFR1(線維芽細胞増殖因子受容体1)は、細胞の表面にある「アンテナ」のようなタンパク質の設計図です。体の外から届く成長のシグナル(線維芽細胞増殖因子=FGF)を受け取り、細胞の中へ「増えなさい」「育ちなさい」「ここへ動きなさい」といった指令を伝えます。私たちの体は、受精卵から始まってこのようなシグナルのやり取りを無数に繰り返しながら形づくられていきます。FGFR1は、その最も基本的な指令を伝える司令塔の一つです。

ヒトのFGFファミリーには少なくとも22種類のFGFがあり、それを受け取る主要なアンテナがFGFR1〜FGFR4の4種類です。なかでもFGFR1は、最も広い範囲の組織に分布し、最も多彩な働きを担っています。胎児の発生初期には中胚葉や内胚葉の形成を主導し、その後も中枢神経の発生・骨格づくり・血管づくり・傷の治りなど、成長してからの体の維持・修復にも欠かせません。

💡 用語解説:受容体型チロシンキナーゼ(じゅようたいがた—)

細胞の膜を貫いて立っている「アンテナ+スイッチ」が一体になったタンパク質のことです。外側で成長シグナル(FGF)を受け取ると、内側にある「キナーゼ」というスイッチがオンになり、細胞内へ指令を流します。キナーゼとは、相手のタンパク質にリン酸という目印を付けて働きを切り替える酵素のこと。詳しくはキナーゼの解説プロテインキナーゼの解説もご覧ください。

FGFR1遺伝子は、8番染色体の短い腕の8p11.23という場所に位置します。つくられるタンパク質は822個のアミノ酸からなり、分子量はおよそ9万2千。細胞膜を1回だけ貫く「I型膜タンパク質」で、ふだんは細胞の表面に立っていますが、シグナルを受け取ると細胞の内側へ取り込まれ、ときには細胞の核の中にまで移動して遺伝子の読み取りそのものを調節する、という珍しい二面性も持っています。

2. FGFR1の構造と「衣替え」のしくみ

FGFR1のタンパク質は、大きく3つのパーツに分かれます。シグナルを受け取る細胞外の部分、膜を貫く真ん中の部分、そして指令を出す細胞内のスイッチ部分(チロシンキナーゼ)です。細胞外には3つの輪のような構造(免疫グロブリン様ループ:Igループ I・II・III)があり、いちばん外側のIgループ Iは、シグナルがないときに勝手にスイッチが入らないよう抑える「ブレーキ」の役割も果たしています。

💡 用語解説:選択的スプライシング(せんたくてき—)

1つの遺伝子から、部品(エクソン)の組み合わせを変えることで複数の異なるタンパク質をつくり分けるしくみです。同じ服でも、上着を替えれば印象が変わるのと似ています。FGFR1はこのしくみで、性格の違う2タイプにつくり分けられます。詳しくは選択的スプライシングの解説もご覧ください。

FGFR1で特に重要なのが、エクソン8とエクソン9のどちらか一方だけが使われる「衣替え」です。エクソン8を使うと上皮系の組織に多い「IIIbタイプ」、エクソン9を使うと間葉系の組織に多い「IIIcタイプ」になり、受け取れるFGFの種類(守備範囲)が大きく変わります。

タイプ 使うエクソン/多い組織 受け取れるFGF(守備範囲)
FGFR1-IIIb エクソン8/主に上皮系 守備範囲はせまい(限られたFGFのみ)。マウスで欠けても大きな異常は出にくい補助的な役割。
FGFR1-IIIc エクソン9/主に間葉系 守備範囲がとても広い。FGFR1の主役。マウスで欠けると胎児が育たない(胚性致死)ほど重要。

この衣替えは、がんの世界でも重要な意味を持ちます。がん細胞が上皮系の性質から間葉系の性質へと姿を変える「上皮間葉移行(EMT)」のとき、FGFR1はIIIbからIIIcへ衣替えします。これによりがん細胞は周囲からのさまざまなシグナルを受け取れるようになり、より転移しやすい攻撃的な性質を獲得すると考えられています。

3. シグナルが伝わるしくみ

FGFがFGFR1に結合するとき、細胞の表面にあるヘパラン硫酸(糖の鎖)が「のり」のように働いて、FGF・FGFR1・糖の鎖が三者でしっかり結びつきます。すると2つのFGFR1が隣り合って対(ペア)になり、お互いの細胞内スイッチをリン酸化し合って、いっせいにオンになります。代謝を調節するタイプのFGF(FGF23など)の場合は、これに加えてKlotho(クロトー)というタンパク質も必要になります。

オンになったFGFR1は、おもに4つの経路へ同時に指令を送ります。

  • RAS-MAPK(ERK)経路:細胞を「増やす・育てる」中心的な経路。
  • PI3K-AKT経路:細胞を「死なせない(生存)」シグナル。細胞の移動にも関わります。
  • PLCγ経路:細胞の運動や形の変化を調節します。
  • STAT経路:核の中で遺伝子の読み取りを直接制御。とくにSTAT3は、後で述べるがんの薬剤耐性のカギを握ります。

FGFR1の指令は「強すぎても弱すぎても困る」ため、通常は使い終わると速やかに細胞内へ取り込まれて分解され、ブレーキがかかります。このアクセルとブレーキの絶妙なバランスが崩れることが、後で述べる先天性疾患やがんの根本にあります。

4. FGFR1の変異が引き起こす先天性の病気

生まれつき(生殖細胞系列)のFGFR1の変化は、発生の設計に影響して先天性の病気を引き起こします。ここで決定的に大切なのは、変化の「向き」によって、まったく違う病気になるという点です。働きが弱まる変化(機能喪失型)と、働きが強まりすぎる変化(機能獲得型)で、症状は正反対になります。

💡 用語解説:機能喪失型変異と機能獲得型変異

機能喪失型変異は、遺伝子の働きが弱まる・なくなる変化です(アクセルが効かない状態)。機能獲得型変異は逆に、働きが強まりすぎる・止まらなくなる変化です(アクセルが踏みっぱなしの状態)。

詳しくは機能喪失型変異機能獲得型変異の解説をご覧ください。

💡 用語解説:ミスセンス変異

DNAの文字が1つ変わることで、タンパク質を構成するアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。たった1か所の置き換わりでもタンパク質の形や働きが変わり、病気の原因になります。FGFR1の先天性疾患の多くは、このミスセンス変異によって起こります。詳しくはミスセンス変異の解説をご覧ください。

働きが弱まると:カルマン症候群(思春期と嗅覚の障害)

FGFR1の働きが弱まる機能喪失型変異は、カルマン症候群(嗅覚の障害と、思春期が来ない・進まない「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」を併せ持つ病気)の原因の一つです。常染色体顕性(優性)遺伝の型はKAL2型と呼ばれ、全体の約10%を占めます。

なぜこの2つの症状が一緒に起こるのでしょうか。胎児の脳ができるとき、においを感じる神経と、性ホルモンの司令塔となる神経(GnRH神経)は、鼻のもとになる場所から脳の奥(視床下部)まで、いっしょに長い距離を移動します。この移動の「道案内」をするのがFGFR1のシグナルです。FGFR1の働きが足りないと神経が目的地にたどり着けず、嗅覚の障害と思春期の遅れ・欠如が同時に生じます。男性では精巣の発育不全、女性では月経が来ないなどの形で気づかれます。

当院にもこの病気に関する情報ページがあります。詳しくは中枢性性腺機能低下症2(カルマン症候群を含む)をご覧ください。

働きが強まりすぎると:頭蓋骨と手足の形の異常

逆に、FGFR1の働きが強まりすぎる機能獲得型変異(代表例はPro252Argというミスセンス変異)は、ファイファー症候群を引き起こします。発生途中の頭蓋骨に強い「増やせ・育てろ」の指令が入り続けると、頭蓋骨のつなぎ目(縫合)が早く固まってしまう頭蓋縫合早期癒合症が生じます。

💡 用語解説:頭蓋縫合早期癒合症(とうがいほうごうそうきゆごうしょう)

赤ちゃんの頭蓋骨は、いくつかの骨が「つなぎ目(縫合)」で分かれていて、脳の成長に合わせて少しずつ広がります。このつなぎ目が早く固まってしまうと、頭の形がいびつになり、脳の成長が妨げられることもあります。FGFR1のほか、近い仲間のFGFR2・FGFR3の変異でも起こり、ファイファー2型で見られる特徴的な「クローバーリーフ頭蓋」についてはクローバーリーフ症候群の解説もご覧ください。

ファイファー症候群では、特徴的な顔つき・眼球の突出・顔の中央のへこみ(中顔面低形成)に加え、親指や足の親指が幅広くなるなど手足の形の違いを伴います。同じ機能獲得型のしくみで、ジャクソン・ワイス症候群や、骨の異常と頭蓋顔面の異常を特徴とするオステオグロフォニック異形成症も起こります。それぞれの詳しい情報は以下のページをご覧ください。

脳と手足が同時に:ハーツフィールド症候群

FGFR1に関連する病気のなかで最もまれで特異なのがハーツフィールド症候群です。前脳が左右に分かれずに育つ「全前脳胞症」と、手足の中央の指が欠ける「欠指症(裂手・裂足)」という、一見すると無関係な2つの重い異常を同時に併せ持つ、唯一の症候群として知られています。

この病気が教えてくれるのは、「脳の中心線」と「手足の中心」という遠く離れた器官が、じつは同じFGFR1の繊細なシグナルの濃淡によって同時に制御されている、という発生のふしぎです。興味深いことに、この病気は常染色体顕性(優性)・常染色体劣性(潜性)のどちらの遺伝形式もとり得ることが報告されています。詳しくはハーツフィールド症候群をご覧ください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【同じ遺伝子なのに正反対の病気になる理由】

「同じFGFR1の変異なのに、なぜカルマン症候群とファイファー症候群という正反対の病気になるのですか」とよく聞かれます。答えは、変異が遺伝子の働きを弱めるのか、強めるのかという「向き」の違いにあります。アクセルが効かないのか、踏みっぱなしになるのか、と考えるとイメージしやすいかもしれません。

この「向き」を見極めることは、診断にとって本質的に重要です。同じ遺伝子に変異が見つかったというだけで病名は決まりません。どの場所に・どんなタイプの変異があるのかを丁寧に読み解くことが、正しい診断と、ご家族への正確な説明につながります。

5. FGFR1とがん:増幅・転座とその治療

生まれつきの変異とは別に、大人になってから体の一部の細胞でFGFR1の異常が起こると、がんの強力な引き金(ドライバー)になります。FGFR1は典型的ながん原遺伝子(プロトオンコジーン)で、その異常はおもに「遺伝子増幅」と「染色体転座」という2つの形をとります。

💡 用語解説:遺伝子増幅と染色体転座(融合遺伝子)

遺伝子増幅とは、本来2コピーであるはずの遺伝子が何倍にも増えてしまうこと。アクセルの数が増えてシグナルが過剰になります。染色体転座とは、染色体が途中で切れて別の染色体とつながり、2つの遺伝子が合体した「融合遺伝子」ができること。FGFR1の融合遺伝子は、外からの指令がなくても勝手にスイッチが入りっぱなしになり、強力にがん化を進めます。

遺伝子増幅:肺扁平上皮がんと乳がん

FGFR1の増幅は、いくつかの固形がんで強力なドライバーになります。肺扁平上皮がんでは患者さんの約9〜22%に増幅が見られ、喫煙歴と強く関連し、予後を悪くする大きな要因とされています。乳がんでは、エストロゲン受容体陽性(ER+)のルミナルBタイプの約10〜15%に増幅・過剰発現が見られ、早期の再発リスクが高いことが知られています。

乳がんでとくに難しいのは、FGFR1の増幅がホルモン療法(内分泌療法)が効きにくくなる耐性を生むだけでなく、近年の主力薬であるCDK4/6阻害剤やPI3K阻害剤に対しても広く効きにくくなる「交差耐性」を引き起こす点です。一方で、前臨床研究ではmTOR阻害剤(エベロリムスなど)だけは効果を保つことが示されており、治療の組み立てを考えるうえで重要な手がかりとなっています。

染色体転座:8p11骨髄増殖性症候群(血液のがん)

血液のがんでは、FGFR1が別の遺伝子と合体する転座が病気の中心になります。代表が8p11骨髄増殖性症候群(幹細胞白血病リンパ腫症候群/SCLL)です。FGFR1が相手を変えてさまざまな融合遺伝子をつくり、好酸球の増加を伴いながら、しばしば急速に急性骨髄性白血病(AML)へと進みます。

主な融合のパートナー 染色体転座
ZMYM2(最も多い) t(8;13)(p11;q12)
FGFR1OP t(6;8)(q27;p11) など
CEP110 t(8;9)(p12;q33)

また、FGFR1が2番染色体のFN1遺伝子と合体するFN1-FGFR1は、腫瘍がホルモン動態を乱して全身のリン代謝障害と骨の石灰化障害を起こす「腫瘍誘発性骨軟化症」に関与します。

分子標的薬:ペミガチニブとフチバチニブ

FGFR1を狙い撃ちする薬の開発が進んでいます。ペミガチニブは、2022年8月26日に米国FDAが「FGFR1再構成を伴う再発・難治性の骨髄系/リンパ系腫瘍」に対する初めての標的治療薬として承認しました。この承認は第II相のFIGHT-203試験の劇的な成績に基づいています。

FIGHT-203試験:ペミガチニブの完全寛解(CR)率(病期別)

FGFR1再構成を伴う骨髄系/リンパ系腫瘍の患者さんを対象とした第II相試験の結果。慢性期では18名中14名が完全寛解を達成しました。

慢性期(骨髄病変あり)
78%(14/18)
芽球期(骨髄病変あり)
50%(2/4)
髄外病変のみ
33%(1/3)
全体(細胞遺伝学的CR)
79%(22/28)

主な副作用としては高リン血症が最も多く(約74%)、これはFGF23-FGFR1という経路が全身のリン代謝を調節しているために生じる、FGFR阻害剤に特有の「効きすぎによる」副作用です。

第一世代の薬は、治療の途中で「ゲートキーパー変異」と呼ばれる耐性変異(FGFR1ではV561M)が現れて効かなくなることが課題です。これを乗り越えるために設計されたのが、不可逆的(共有結合型)にFGFRをブロックする次世代薬フチバチニブで、耐性変異にも強い阻害活性を保ちます。

💡 用語解説:ゲートキーパー変異(V561M)

薬がはまり込む「鍵穴」の入口を見張る門番(ゲートキーパー)のアミノ酸が置き換わる変異です。門番が大きくなって薬が入りにくくなり、薬が効かなくなります。FGFR1ではV561Mがこれにあたります。興味深いことに、この変異はSTAT3という別経路を強く活性化させて生き延びるため、FGFR阻害剤とSTAT3を抑える治療を組み合わせる戦略が研究されています。

6. FGFR1を調べる検査:出生前と出生後

FGFR1に関連する状態を調べる検査は、「いつ調べるか」で大きく方法が変わります。「診断=出生前」という誤解を避けるため、出生前と出生後を分けて整理します。

出生後に調べる(生まれてから)

FGFR1の病気の多くは1か所の文字の変化(点変異)で起こるため、出生後の確定には、血液を用いた遺伝子の配列を読む検査(NGSパネル)が中心になります。症状に応じて、当院では以下のような関連遺伝子をまとめて調べるパネル検査を行っています。

出生前に調べる(妊娠中)

妊娠中の確定診断は、羊水検査・絨毛検査です。胎児の細胞を直接調べるため、家族内ですでに変異が分かっている場合などには、その変異を狙って確実に診断できます。検査の流れや費用は羊水検査・絨毛検査についてをご覧ください。

いっぽう、おなかに針を刺さない非確定的なスクリーニングとして、母体の血液を用いるNIPTがあります。当院のNIPTでは、FGFR1を含む一部の単一遺伝子疾患も検査対象に含まれます。FGFR1はダイヤモンドプランインペリアルプランの対象に収載されています。NIPTは父親側の精子由来の新生突然変異など、従来の母体年齢では拾いきれないリスクにも対応できる点が特徴です。

当院でNIPTを受ける方は互助会(8,000円)に加入となり、万一陽性となった場合の羊水検査費用が全額補助されます。

💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)

両親には存在せず、精子・卵子がつくられる過程や受精の直後に、子どもで初めて新しく生じた変異のことです。FGFR1の頭蓋縫合早期癒合症の多くは、この新生突然変異によって起こります。そのため「両親が健康だから遺伝とは関係ない」とは限らない点に注意が必要です。

なお、FGFR1に関連する病気の多くは表現型の幅が広く、出生前に見つけることが常に利益になるとは限りません。検査を受けるかどうかは、メリットと限界を理解したうえで、ご家族が主体的に決めることがらです。判断に迷うときは、遺伝カウンセリングをご利用ください。

7. 遺伝カウンセリングの意義

FGFR1に変異が見つかったとき、あるいは検査を検討するとき、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが大きな助けになります。主に次のような内容を、中立的な立場で丁寧にお話しします。

  • 遺伝形式と再発の可能性:多くのケースは新生突然変異ですが、常染色体顕性(優性)遺伝の場合、本人が子どもを持つときの伝わる確率は理論上50%です。生殖細胞のモザイク(親の一部の細胞だけが変異を持つ状態)の可能性も含めて説明します。
  • 変異の「向き」と表現型:同じFGFR1でも、機能喪失型か機能獲得型か、どの場所の変異かによって、起こりうる病気や見通しが大きく異なることを整理します。
  • 検査の選択肢:次のお子さんを希望される場合の羊水検査・絨毛検査など、出生前診断の選択肢とその限界をお伝えします。
  • 心理的サポート:結果をどう受け止め、どう生きるかまで含めて伴走します。決めるのはご家族であり、私たちは情報提供者です。

8. よくある誤解

誤解①「FGFR1の変異=1つの病気」

FGFR1に変異があっても、病名は1つに決まりません。変異の向き(機能喪失か獲得か)と場所によって、カルマン症候群からファイファー症候群まで全く異なる病気になります。

誤解②「先天性の変異だけが問題」

生まれつきの変異だけでなく、大人になってから体の細胞で起こる増幅や転座が、肺がん・乳がん・白血病のドライバーになります。先天性とがんは別の文脈です。

誤解③「両親が健康なら遺伝ではない」

FGFR1の先天性疾患の多くは新生突然変異で、両親には変異がありません。「両親が健康だから関係ない」という思い込みが診断を遅らせることがあります。

誤解④「FGFR1検査=NIPTのこと」

NIPTは出生前の非確定的なスクリーニングです。確定には羊水・絨毛検査(出生前)や血液のNGSパネル(出生後)が必要で、目的によって使い分けます。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【1つの遺伝子の「物語」を読む】

FGFR1は、発生から、がん、そして治療薬の最前線までをつなぐ、まさに「物語」のある遺伝子です。胎児のころは体づくりの司令塔となり、その制御がほんの少し弱まればカルマン症候群を、強まればファイファー症候群を、そして大人になって暴走すればがんを引き起こす。同じ遺伝子が、状況によってこれほど違う顔を見せるのです。

遺伝子検査の結果を前にしたとき、大切なのは「FGFR1に変異があった」という一行で立ち止まらないことです。その変異がどんな性質を持ち、何を意味するのか。そこを正確に読み解き、ご家族にとって受け止められる言葉で伝えることが、私たち臨床遺伝専門医の役割だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. FGFR1遺伝子は何をしている遺伝子ですか?

細胞の表面で成長シグナル(FGF)を受け取る「受容体型チロシンキナーゼ」というアンテナの設計図です。受け取ったシグナルを細胞内に伝え、細胞の増殖・分化・移動・生存を調節します。胎児の体づくりから、大人の組織の維持・修復まで幅広く関わる、とても重要な遺伝子です。

Q2. 同じFGFR1なのに、なぜ違う病気になるのですか?

変異の「向き」が違うためです。働きが弱まる機能喪失型変異ではカルマン症候群(思春期や嗅覚の障害)が、働きが強まりすぎる機能獲得型変異ではファイファー症候群などの頭蓋骨・手足の異常が起こります。さらに変異の場所や種類によっても表れ方が変わります。

Q3. FGFR1の病気は遺伝しますか?

FGFR1の先天性疾患の多くは新生突然変異(両親にはない、子どもで初めて生じた変異)によるもので、両親には同じ変異がないことがほとんどです。ただし常染色体顕性(優性)遺伝のため、本人が子どもを持つ場合の伝わる確率は理論上50%です。詳しくは臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングをご利用ください。

Q4. FGFR1とがんはどう関係しますか?

生まれつきの変異とは別に、体の細胞でFGFR1が増えすぎる「増幅」や、別の遺伝子と合体する「転座」が起こると、がんの引き金になります。肺扁平上皮がん(約9〜22%)や乳がん(ER+の約10〜15%)では増幅が、8p11骨髄増殖性症候群では転座が代表的です。これらを狙う分子標的薬も登場しています。

Q5. 妊娠中にFGFR1の病気を調べられますか?

確定診断は羊水検査・絨毛検査です。家族内ですでに変異が分かっている場合は、その変異を狙って確実に調べられます。針を刺さない非確定的なスクリーニングとしては、FGFR1を対象に含むNIPT(ダイヤモンドプラン等)があります。検査を受けるかどうかはご家族の判断であり、遺伝カウンセリングでご相談いただけます。

Q6. 生まれてから調べるにはどんな検査がありますか?

FGFR1の病気は1か所の文字の変化(点変異)で起こることが多いため、出生後は血液を用いて遺伝子の配列を読むNGSパネル検査が中心です。症状に応じて、頭蓋骨縫合早期癒合症パネルやカルマン症候群パネルなど、関連遺伝子をまとめて調べる検査を選びます。

Q7. FGFR1の標的治療薬にはどんなものがありますか?

FGFR1再構成を伴う骨髄系/リンパ系腫瘍には、2022年にFDAが承認したペミガチニブがあり、FIGHT-203試験で高い完全寛解率を示しました。耐性が問題となる場合に備え、不可逆的にFGFRを抑える次世代薬フチバチニブの開発も進んでいます。主な副作用に高リン血症があります。治療方針は病状により異なるため、主治医とよくご相談ください。

Q8. FGFR2やFGFR3とは何が違うのですか?

FGFR1〜FGFR4は同じファミリーの仲間で、構造もよく似ています。頭蓋骨縫合早期癒合症(ファイファー症候群やクルーゾン症候群など)はFGFR1・FGFR2・FGFR3のいずれの変異でも起こりえます。ただし担当する組織やつくられる病気の傾向、関わるがんの種類は遺伝子ごとに少しずつ異なります。どの遺伝子の問題かを正確に区別することが診断の第一歩です。

🏥 遺伝子・先天性疾患の診断と遺伝カウンセリング

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参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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