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カルマン症候群遺伝子検査(NGSパネル)|ミネルバクリニック

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

カルマン症候群の遺伝子検査

カルマン症候群とは、思春期の体の変化が始まらない・途中で止まる「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」に、においがわかりにくい・わからない症状(低嗅症・無嗅症)が重なった、生まれつきの病気です。見た目では、声変わりやひげ、乳房の発達、月経が来ないといった「思春期の変化が来ないこと」がきっかけで気づかれることが多い病気です。原因として25を超える遺伝子が知られていて、遺伝のしかたは遺伝子ごとに違います。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査で原因がわかれば、治療の選び方や、将来子どもを持つときの計画、ご家族の健康を考える手がかりとして、この先ずっと使えます。このページでは、カルマン症候群の見た目・症状・遺伝のしかたと、原因の19遺伝子をまとめて調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. この検査で何がわかりますか?

カルマン症候群と、においは正常な低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の原因として知られる19の遺伝子(ANOS1・FGFR1・CHD7・PROKR2など)を一度に調べ、どの遺伝子のどの変化が原因かを探します。原因がわかると、遺伝のしかたや、気をつけたい合併症がはっきりします。

🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?

思春期の変化が始まらない・途中で止まった方、血液検査でLH・FSHが低いと言われた方、においがわかりにくい方、カルマン症候群と診断されて原因を知りたい方、ご家族にこの病気の方がいて将来の妊娠を考えている方です。

🧬 Q. 費用・日数・検体は?

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。

🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?

結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因の遺伝子がわかれば、お子さんやごきょうだいに受け継がれる可能性と、ご家族が検査を受ける意味を具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。

\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。

お問い合わせはこちら | 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症関連遺伝子検査

1. カルマン症候群とは

カルマン症候群(Kallmann syndrome)は、生まれつき思春期を起こすホルモンの指令が出ない「先天性の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」に、においの障害(低嗅症・無嗅症)が重なった病気です[1][2]。思春期が来ないこと、そして治療をしなければ子どもを持ちにくいことが、主な問題になります[2]。

同じように思春期が来ない病気でも、においが正常なものは「正常嗅覚性」と呼ばれ、カルマン症候群とは区別されます。欧州の専門家による合意声明では、先天性の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の約50%ににおいの障害があるとされ[2]、遺伝性疾患の解説書GeneReviewsでは約60%とされています[1]。両者は同じ遺伝子の変化で起こることも多く、このページの検査は両方の原因遺伝子をまとめて調べます。

においと思春期が同時に関わる理由

思春期は、脳の視床下部から出るGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が、下垂体からゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)を出させ、それが精巣や卵巣を働かせることで始まります。GnRHを作る神経細胞は、おなかの中にいるころに、決まった場所まで移動して脳の中に配置されます。

カルマン症候群では、胎児期にGnRHを作る神経細胞が適切な場所へ移動する過程や、嗅覚系の発達に異常が生じることで、性腺機能低下症とにおいの障害が起こります[2]。そのため、思春期が来ないこととにおいがわかりにくいことが、一緒に起こります。

どれくらいの人がなる病気か

フィンランドの調査では、カルマン症候群は少なくとも男性の3万人に1人、女性の12万5千人に1人と報告されています[1]。男性に多く、先天性の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症全体では、男女比は3〜5対1とされています[2]。女性にも起こる病気ですが、女性では見つかりにくい可能性もあり、数字は目安として受け取ってください。

2. 見た目・症状の特徴(男性・女性)

カルマン症候群の「見た目」の特徴は、顔立ちの特徴ではなく、思春期に起こるはずの体の変化が起こらない・途中で止まることです。声変わりやひげ、乳房の発達、月経など、思春期の変化が来ないことをきっかけに、ご本人や親御さんが気づくことがほとんどです。見た目だけでカルマン症候群かどうかを決めることはできません。

男性の症状

  • ●赤ちゃんのころ:陰茎が小さい(小陰茎)、精巣が陰のうに下りていない(停留精巣)ことがあります[1]。
  • ●思春期以降:精巣が思春期前の大きさ(4mL未満)のまま、ひげが生えない、声変わりがない、筋肉がつきにくい、といった状態が続きます[1]。

女性の症状

  • ●乳房の発達がほとんどない:思春期になっても乳房がふくらまない、またはわずかしか発達しません[1]。
  • ●月経が一度も来ない(原発性無月経):軽い方では、乳房がある程度発達し、ときどき月経がある場合もあります[1]。

体つき:腕が長め、骨の成熟がゆっくり

性ホルモンが足りないため、骨の成熟(骨年齢)はゆっくり進みますが、背の伸び方そのものはふつうであることが多いとされています。両腕を広げた長さが身長より5cm以上長い、手足が長めの体つきになることがよくあります[1]。治療をしないままだと骨が弱くなることがあり、骨折をきっかけに大人になってから見つかる方もいます[2]。

においがわかりにくいことには、気づいていないことが多い

生まれつきにおいがわからない、またはわかりにくいため、ご本人にはそれが当たり前で、思春期の検査で診断されるまで気づいていないことがよくあります[1]。においの障害のある方の多くは、それによって体や生活の面で困ることはないとされています[1]。

思春期とにおい以外の症状:原因遺伝子で変わる

原因の遺伝子によっては、ほかの症状を伴うことがあります。GeneReviewsには、次のような特徴が挙げられています[1]。

🧬 思春期・におい以外に伴うことがある症状

原因遺伝子 伴うことがある症状
ANOS1 片方の腎臓がない(男性の約30%)、手指の鏡像運動(片方の手を動かすと反対の手も同じように動く、男性の約80%)
FGFR1 歯が1本以上生えない、口唇裂・口蓋裂、鏡像運動(約10%)
CHD7 歯の欠損など。口唇裂・口蓋裂はCHARGE症候群で多い
SOX10・FGF8 難聴
Xp22.3領域の欠失 ANOS1とSTSをともに含む欠失で、カルマン症候群に魚鱗癬・低身長・知的障害などが重なることがある

※GeneReviews[1]による。割合は報告された集団での数字で、一人ひとりに当てはまる確率ではありません。

片方の腎臓がないことは、症状がなく気づかれていないことも多いため、ANOS1が原因とわかった場合は腎臓の超音波検査で確かめる意味があります。

💡 思春期が遅いだけ、との区別

思春期が遅れて始まるだけの体質(体質性思春期遅発症)と、カルマン症候群などの先天性の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、10代のうちは見分けるのが難しいことがあります[2]。においの障害や、上の表のような症状があると、区別の手がかりになります。原因の遺伝子が見つかれば、診断を確かめる大きな手がかりになります。

3. 原因と遺伝のしかた

カルマン症候群と正常嗅覚性の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症には、25を超える原因遺伝子が知られていますが、遺伝子の変化で説明がつくのは全体の約半数です[1][2]。残りの方では、まだ原因がわかっていません。

遺伝のしかたは、原因遺伝子ごとに違う

カルマン症候群の遺伝のしかたには、X連鎖遺伝、常染色体顕性(優性)遺伝、常染色体潜性(劣性)遺伝の3つがあります[1]。どれに当たるかで、お子さんやごきょうだいに受け継がれる可能性が大きく変わります。

  • ●X連鎖遺伝(ANOS1など):X染色体にある遺伝子で、主に男性に起こります。お母さんが変化をもつ場合、息子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます。父親が変化をもつ場合、娘さんは全員がその変化を受け継ぎ、息子さんには受け継がれません。
  • ●常染色体顕性(優性)遺伝(FGFR1・CHD7・SOX10・FGF8など):親が変化をもっていると、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます。ただし、受け継いでも症状が出ない方や軽い方がいます(次の項目)。
  • ●常染色体潜性(劣性)遺伝(GNRHR・KISS1R・TAC3・TACR3など):ご両親がともに変化を1つずつもつ保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。

家族のほかに同じ病気の人がいない方も多く、その場合は、GeneReviewsでも、まず複数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査から始めるとされています[1]。

同じ家族でも、症状の出方が違う

FGFR1やPROKR2など、いくつかの遺伝子では、同じ変化をもっていても、思春期が来ない人、思春期が遅れるだけの人、においだけがわかりにくい人、症状がない人がいます[1]。これを「浸透率が100%ではない」「表現型の多様性がある」といいます。一卵性の双子で、片方だけがカルマン症候群だった例も報告されています[1]。

⚠️ 「自分が軽いから、子どもも軽い」とは言えません

親御さんが、においが少しわかりにくいだけ、思春期が少し遅かっただけで、ご自身では気づいていないこともあります。同じ変化を受け継いだお子さんで、思春期が来ない形で出ることもあります。だからこそ、ご家族の誰かに原因がわかったときは、症状の有無だけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。

複数の遺伝子が関わることもある

カルマン症候群に関わるほとんどの遺伝子は、1つの遺伝子だけでははっきり説明できない遺伝のしかたや、2つ以上の遺伝子の変化が重なって起こる遺伝のしかた(オリゴジェニック遺伝)とも関係するとされています[1]。1つずつ遺伝子を調べるより、関係する遺伝子をまとめて調べるほうが、こうした組み合わせを見落としにくくなります。

4. 治療と将来:思春期、そして子どもを持つこと

カルマン症候群には、思春期の体の変化を起こす治療と、子どもを望むときに精子や卵子をつくる力を引き出す治療があります。欧州の専門家合意では、多くの場合、専用の治療で妊娠する力を得られるとされています[2]。

思春期を起こす治療

男性では、男性ホルモン(テストステロン)や、精巣を刺激するhCGの注射を少しずつ増やしていき、二次性徴を起こします。女性では、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲスチン)を使います[1]。思春期を適切な時期に起こすことは、性の健康だけでなく、骨や代謝の健康、こころの面にも役立つとされています[2]。

子どもを望むときの治療

精子や卵子をつくるには、ゴナドトロピンを組み合わせた注射や、GnRHを脈を打つように少しずつ注入する治療が使われます。それでも妊娠に至らない場合は、体外受精が選択肢になることもあります[1]。「カルマン症候群だから子どもを持てない」とは限りません。そのうえで、子どもを持つことを考えるときに大切になるのが、ご自身の原因遺伝子と遺伝のしかたです(第8章)。

治療をやめても回復する方がいる

治療は一生続くことが多いものの、約10〜20%の方で、治療のあとに自分でホルモンを出す力が戻ることがあると報告されています[2]。GeneReviewsでは、カルマン症候群を含む男性の約10%とされています[1]。回復した方でも、その後また低下することがあるため、主治医のもとで経過を見ていきます。

寿命・骨・こころへの影響

GeneReviewsや欧州の専門家合意を確認した範囲では、カルマン症候群が寿命を縮めるかについての記載は見当たりませんでした。一方で、性ホルモンが足りないままだと骨が弱くなることがあり、骨密度の確認と、カルシウム・ビタミンDの摂取が勧められています[1]。また、思春期が来ないことで、自己評価の低下や体のイメージの悩みを抱えやすく、10代で不安や抑うつが多かったという小規模な研究もあります[2]。体の治療と一緒に、こころの面の支えも大切です。

5. どんな人がこの検査を受けるとよいか

思春期の変化が来ない・止まった方、カルマン症候群と診断されて原因を知りたい方、ご家族にこの病気の方がいる方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは、原因も遺伝のしかたもわかりません。迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。

症状があり、原因を知りたい方

  • ●思春期の年ごろを過ぎても二次性徴が始まらない方、または始まったのに途中で止まった方
  • ●血液検査で、LH・FSH(ゴナドトロピン)が低いと言われた方
  • ●においがわからない、またはわかりにくい方
  • ●赤ちゃんのころに小陰茎や停留精巣を指摘された方
  • ●片方の腎臓がない、口唇裂・口蓋裂、歯の欠損、難聴、鏡像運動などがある方
  • ●すでにカルマン症候群と診断され、どの遺伝子が原因かを知りたい方

名前(原因遺伝子)がつくと、次の一手が決まります。たとえばANOS1が原因なら腎臓を確かめる、遺伝のしかたがわかればご家族のうち誰が調べるとよいかがわかる、といった具合です。

ご家族にこの病気の方がいる方

ご家族の原因遺伝子がわかっている場合、ご自身が同じ変化をもっているかを調べられます。GeneReviewsでも、X連鎖や常染色体潜性の家系では、血縁者の保因者検査が挙げられています[1]。症状がほとんどない方も、知っておくことで、将来の妊娠や、お子さんの思春期の様子に早めに目を向けられます。

結婚・妊娠を考えている方

結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。カルマン症候群の当事者の方にとっても、きょうだいにこの病気の方がいる方にとっても、妊娠の前に原因と遺伝のしかたを知っておけば、選べることが増えます。常染色体潜性の遺伝子が原因の場合は、パートナーの方が保因者かどうかも大切な情報になります(第8章)。

この検査より別の検査が向いている場合

🔍 症状に合わせた検査の選び方

こんなとき 向いている検査
思春期が来ない+においの障害、または原因遺伝子を幅広く調べたい このページの検査(19遺伝子)
思春期が来ないが、においは正常 このページの検査、または低ゴナドトロピン性性腺機能低下症関連遺伝子検査(13遺伝子。このページの19遺伝子のうち13遺伝子と同じもの)
性腺のホルモンだけでなく、成長ホルモンなど下垂体のほかのホルモンも足りない 複合下垂体ホルモン欠損症(CPHD)遺伝子検査
思春期以外の症状が多く、病気をしぼれない 全エクソーム検査(WES)

※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ホルモンの検査結果・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。

\ 原因がわかれば、治療とこれからの計画が具体的になります /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

唾液・口の内側の粘膜・血液で検査でき、オンライン診療でも受けられます。結果は臨床遺伝専門医が直接ご説明します。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

6. この検査で調べる19遺伝子

この検査では、カルマン症候群と低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の原因として報告されている19の遺伝子を、次世代シーケンサー(NGS)で一度に調べます。遺伝子の文字の小さな変化に加えて、欠失・挿入も料金に含めて調べます。

🧪 カルマン症候群遺伝子検査で調べる19遺伝子

遺伝子 関係する病気・特徴 主な遺伝のしかた
ANOS1(旧名KAL1) X連鎖カルマン症候群(HH1)。カルマン症候群の5〜10% X連鎖
CCDC141 カルマン症候群(報告は少ない) 報告が少なく定まっていない
CHD7 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症5型(HH5)、CHARGE症候群。全体の5〜10% 常染色体顕性
FGF8 カルマン症候群・正常嗅覚性(2%未満) 常染色体顕性
FGFR1 カルマン症候群(FGFR1によるHH2)。全体の約10% 常染色体顕性
GNRH1 正常嗅覚性(2%未満) 常染色体潜性
GNRHR 正常嗅覚性の5〜10% 常染色体潜性
KISS1 正常嗅覚性(2%未満) 常染色体潜性
KISS1R 正常嗅覚性(2%未満) 常染色体潜性
NR0B1 X連鎖の先天性副腎低形成(副腎の働きが生まれつき弱い病気) X連鎖
NSMF カルマン症候群・正常嗅覚性(2%未満) 報告が少なく定まっていない
PROK2 カルマン症候群・正常嗅覚性(2%未満) 主に常染色体潜性
PROKR2 カルマン症候群・正常嗅覚性(約5%) 常染色体潜性(片方の変化だけで関わることもある)
SEMA3A カルマン症候群(2%未満) 報告が少なく定まっていない
SEMA3E カルマン症候群(報告は少ない) 報告が少なく定まっていない
SOX10 カルマン症候群の2〜5%。難聴を伴うことがある。ワーデンブルグ症候群の原因遺伝子でもある 常染色体顕性
STS STS単独の変化は主にX連鎖性魚鱗癬に関係する。ANOS1とSTSをともに含むXp22.3領域の欠失では、カルマン症候群と魚鱗癬が一緒に起こることがある[4](Xp22.31微小欠失症候群) X連鎖
TAC3 正常嗅覚性(2%未満) 常染色体潜性
TACR3 正常嗅覚性の約5% 常染色体潜性

※遺伝子のリストは当院の検査内容による。割合と遺伝のしかたはGeneReviews[1](割合は、カルマン症候群と正常嗅覚性の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を合わせた報告の数字)、SOX10とワーデンブルグ症候群の関係は文献[3]による。「正常嗅覚性」は、においが正常な低ゴナドトロピン性性腺機能低下症のこと。CCDC141・NSMF・SEMA3A・SEMA3E・PROK2など報告の少ない遺伝子では、病的な変化が見つかっても、それだけで原因と決めず、症状やご家族の情報とあわせて判断します。

表のとおり、ANOS1・FGFR1・CHD7・SOX10などはにおいの障害を伴うカルマン症候群で、GNRHR・KISS1R・TAC3・TACR3などはにおいが正常なタイプ(正常嗅覚性)で見つかることが多い遺伝子です[1]。においの有無で原因をある程度しぼれることもありますが、同じ遺伝子でも両方のタイプがありうるため、まとめて調べる意味があります。

💡 用語解説:NGSパネル検査

NGS(次世代シーケンサー)は、たくさんの遺伝子の文字を同時に読む機械です。パネル検査は、ある病気に関係する遺伝子だけを選んでまとめて読む検査で、1つずつ遺伝子を調べて「異常がなければ次」とくり返す必要がありません。

検査の精度(カバレッジ)

この検査では、調べる遺伝子の領域の99%以上を、同じ場所を20回以上読む深さで解析します(≥99% at 20x)。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いを減らせます。読み取りの質が十分でない場所で見つかった変化は、サンガー法という別の方法で確かめてから報告します。

7. この検査でわかること・わからないこと

この検査でわかるのは、19遺伝子の文字の小さな変化(1文字の置き換わり・小さな挿入や欠失)と、遺伝子の一部または全体の欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。

  • ●調べていない遺伝子:カルマン症候群の原因として知られる遺伝子は25を超え、まだ見つかっていない遺伝子もあります[1]。この検査の19遺伝子以外が原因のことがあります。
  • ●見つけにくい変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、同じ配列のくり返しが伸びる変化、遺伝子の働きを調節する領域や遺伝子の奥深く(エクソンから20塩基以上離れた場所)の変化は、この検査では見つかりません。
  • ●欠失・重複の大きさ:欠失・重複は、遺伝子全体(頬の粘膜・血液の検体)や、2つ以上続くエクソン(血液の検体のみ)の大きさなら見つけられます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出できません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
  • ●モザイク:体の一部の細胞だけに変化がある状態(モザイク)を見つけることは、この検査の目的に入っていません。
  • ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知識では判断できない変化が見つかることがあります。
  • ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、カルマン症候群ではないとは言えません。症状やホルモンの検査から強く疑われる場合は、遺伝子の結果にかかわらず治療を考えます。

8. 結果が出たあと

結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。

原因がわかったとき:診断と、気をつけたい合併症

原因の遺伝子がわかると、診断の裏づけになるだけでなく、遺伝子ごとに確かめておきたいことが決まります。ANOS1なら腎臓、FGFR1なら歯や口の中、SOX10なら聴力、CHD7ならCHARGE症候群の症状がないか、といった具合です[1]。治療を担当する主治医と情報を共有することで、ホルモン治療や、子どもを望むときの治療を進めやすくなります。

ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき

あなたの1回の検査が、ご両親・ごきょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。ご家族の原因がわかっていれば、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、変化を受け継いでいるかを確かめられます。X連鎖の場合はお母さんやごきょうだい、常染色体顕性の場合はご両親とごきょうだい、常染色体潜性の場合はごきょうだいとそのパートナーが、主な対象になります。

将来子どもを持つことを考えている方

原因の遺伝子と遺伝のしかたがわかれば、将来のお子さんに受け継がれる可能性を、具体的な数字で考えられます。常染色体顕性ならお子さん1人ごとに2分の1、X連鎖で男性の方なら娘さん全員がその変化を受け継ぎます。ただし、受け継いだお子さんがどの程度の症状になるかは、人によって違います(第3章)。

常染色体潜性の遺伝子が原因の場合、お子さんが発症するかは、パートナーの方が同じ遺伝子の保因者かどうかで変わります。パートナーの方の保因者検査には、拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子、さらに女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子)があります。カルマン症候群の原因遺伝子がその対象に入っているかは、遺伝子一覧でご確認ください。

GeneReviewsでは、ご家族の原因となる変化がわかっていれば、出生前の検査も可能とされています[1]。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。カルマン症候群は治療法のある病気なので、出生前の検査を受けるかどうかも含めて、妊娠を考えている段階からご相談ください。どの選択も尊重します。

原因が見つからなかったとき

カルマン症候群と正常嗅覚性の先天性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症では、現在知られている遺伝子を調べても、原因を特定できない方が少なくありません[1]。症状に合わせて、全エクソーム検査(WES)などのより広い検査を考えることがあります。GeneReviewsも、広い範囲の遺伝子検査で、思いがけない診断が見つかることがあるとしています[1]。遺伝子の研究が進めば、同じデータを解析し直して新しくわかることもあります。

意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき

VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。なお、ご希望により、VUSを報告から除く選択(無料)もできます。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。

9. 日本の制度(2026年10月時点)

カルマン症候群は、小児慢性特定疾病の内分泌疾患のなかに「カルマン(Kallmann)症候群」として掲載されています(小児慢性特定疾病情報センターで2026年10月に確認)。医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。

成人の指定難病の医療費助成の対象になるかは、病名だけでは決まらず、診断基準と重症度で判断されます。当院では、カルマン症候群が成人の指定難病の対象になるかまでは確かめきれていません。認定の基準や申請の方法は、主治医、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センター、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。

この遺伝子検査は自費診療です。

10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。

ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取・発送お支払い後にキット送付
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ

💴 費用・日数・検体

項目 内容
調べる遺伝子 19遺伝子(ANOS1, CCDC141, CHD7, FGF8, FGFR1, GNRH1, GNRHR, KISS1, KISS1R, NR0B1, NSMF, PROK2, PROKR2, SEMA3A, SEMA3E, SOX10, STS, TAC3, TACR3)
調べる変化 塩基配列の変化、欠失・挿入(いずれも料金に含まれる)
検査費用 税込330,000円
遺伝カウンセリング料 30分22,000円(税込)※検査費用とは別
結果までの期間 2〜3週間
オプション 至急(結果までの期間が約7日短くなります):55,000円
VUS除外(意義がまだわからない変化を報告から除く):無料
検体 血液(EDTAチューブ4mL×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(ご希望により採取キットをお送りします)
オンライン診療 唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれもオンライン診療で受けられます。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします

※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。

オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。

遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。

\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご自身とご家族のこれからに /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

臨床遺伝専門医が常駐し、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明してからマイページにアップします。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

11. 院長コラム

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【治せる病気だからこそ、原因を知って計画を】

私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。

カルマン症候群は、ホルモンの治療で思春期を起こすことができ、多くの方で子どもを持つ力も引き出せる病気です。だからこそ、「治療ができるなら原因まで知らなくてもいい」とは考えていません。原因の遺伝子がわかれば、合併症のどこに気をつけるか、ご家族の誰が調べるとよいか、将来のお子さんにどう受け継がれうるかまで、具体的に考えられるようになります。同じ変化でも症状の出方が人によって大きく違う病気なので、「自分は軽かったから」という印象だけで将来を決めてしまわないでほしいと考えています。

遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。

遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。

よくある質問(FAQ)

Q1. カルマン症候群とはどんな病気ですか?

思春期の体の変化が始まらない・途中で止まる低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に、においの障害(低嗅症・無嗅症)が重なった、生まれつきの病気です。思春期を起こすホルモン(GnRH)を作る神経細胞が、胎児期にうまく移動できないことで起こります。小児慢性特定疾病では「カルマン(Kallmann)症候群」の名前で掲載されています。

Q2. カルマン症候群の見た目に特徴はありますか?

顔立ちの特徴ではなく、思春期の変化が来ないことが主な特徴です。男性ではひげが生えない、声変わりがない、精巣が小さいまま、女性では乳房の発達がほとんどない、月経が来ない、などです。両腕を広げた長さが身長より5cm以上長い体つきになることもよくあります。見た目だけで診断することはできません。

Q3. 女性もカルマン症候群になりますか?

なります。男性に多い病気(男女比は3〜5対1)ですが、女性にも起こります。女性では、乳房の発達がほとんどない、月経が一度も来ないことがきっかけで気づかれることが多く、軽い方では乳房がある程度発達し、ときどき月経がある場合もあります。

Q4. カルマン症候群は遺伝しますか?

遺伝することがあります。遺伝のしかたにはX連鎖・常染色体顕性(優性)・常染色体潜性(劣性)の3つがあり、どれに当たるかは原因の遺伝子で決まります。同じ変化をもっていても症状が出ない方や軽い方がいるため、ご家族にほかに同じ病気の方がいなくても、遺伝の関わりは否定できません。

Q5. 治療すれば子どもを持てますか?

欧州の専門家合意では、多くの場合、専用の治療で妊娠する力を得られるとされています。ゴナドトロピンを組み合わせた注射や、GnRHを少しずつ注入する治療などが使われます。お子さんに受け継がれる可能性は原因の遺伝子で変わるので、計画の前に原因を知っておくことが役立ちます。

Q6. カルマン症候群で寿命は短くなりますか?

GeneReviewsや欧州の専門家合意を確認した範囲では、寿命についての記載は見当たりませんでした。ただし、性ホルモンが足りないままだと骨が弱くなることがあり、思春期を起こす治療は骨や代謝の健康にも役立つとされています。原因の遺伝子によっては、腎臓や聴力などの確認も大切です。

Q7. カルマン症候群は難病指定されていますか?

小児慢性特定疾病の内分泌疾患に「カルマン(Kallmann)症候群」として掲載されています(2026年10月時点)。成人の指定難病の対象になるかは、診断基準と重症度で判断されるため、主治医や難病情報センターでご確認ください。

Q8. 遺伝子検査で原因が見つからないこともありますか?

あります。原因の遺伝子は25を超えて知られていますが、遺伝子の変化で説明がつくのは全体の約半数です。原因が見つからなくても、カルマン症候群ではないとは言えません。症状に合わせて、より広い範囲の遺伝子検査を考えることもあります。

🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。カルマン症候群の原因の遺伝子がわかれば、合併症への備えや治療の相談だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。

お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768

参考文献

  • [1] Balasubramanian R, Crowley WF Jr. Isolated Gonadotropin-Releasing Hormone (GnRH) Deficiency. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2007 (Updated 2022 May 12). [NCBI Bookshelf NBK1334]
  • [2] Boehm U, Bouloux PM, Dattani MT, et al. European Consensus Statement on congenital hypogonadotropic hypogonadism: pathogenesis, diagnosis and treatment. Nat Rev Endocrinol. 2015;11(9):547-564. [DOI: 10.1038/nrendo.2015.112]
  • [3] Milunsky JM. Waardenburg Syndrome Type I. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2001 (Updated 2022 Oct 20). [NCBI Bookshelf NBK1531]
  • [4] Ma W, Mao J, Wang X, et al. Novel Microdeletion in the X Chromosome Leads to Kallmann Syndrome, Ichthyosis, Obesity, and Strabismus. Front Genet. 2020;11. [DOI: 10.3389/fgene.2020.00596]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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