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ALMS1遺伝子(Alström Syndrome 1)は、第2番染色体短腕(2p13.2)に位置し、4,167アミノ酸・約460 kDaという驚異的なサイズの巨大タンパク質をコードする遺伝子です。一次繊毛の形成・中心体の機能維持・細胞内エンドソーム輸送を統括する「マスターレギュレーター」として機能しており、この遺伝子の両アレル性(両方の染色体)に変異が生じると、アルストローム症候群(Alström Syndrome: ALMS)という多系統にわたる希少な遺伝性疾患を引き起こします。本ページではALMS1遺伝子の分子構造・細胞内機能・病原性変異のスペクトラムを、一般の方にもわかりやすく解説します。
Q. ALMS1遺伝子とはどのような遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 第2染色体短腕(2p13.2)に位置し、4,167アミノ酸・約460 kDaの巨大タンパク質をコードする繊毛病関連遺伝子です。アルストローム症候群の唯一の原因遺伝子であり、一次繊毛の形成・中心体機能・細胞内エンドソーム輸送を統括するタンパク質を産生します。両アレルに変異を持つ場合(常染色体潜性遺伝)のみ発症し、片方だけの変異保因者は無症状です。
- ➤遺伝子の基本情報 → 第2染色体2p13.2・全長224,161 bp・23エクソン・転写産物約12.9 kb
- ➤タンパク質の特徴 → 4,167アミノ酸・34回タンデムリピートドメイン・C末端のALMSモチーフ
- ➤細胞内機能 → 一次繊毛形成・中心体結合(C-Nap1)・GLUT4輸送・TGF-βシグナル制御
- ➤病原性変異 → ナンセンス・フレームシフト変異が主体・アジアコホートのホットスポット変異
- ➤関連する遺伝子検査 → 繊毛病・心筋症・眼疾患・難聴・糖尿病肥満パネルで収載
1. ALMS1遺伝子の基本プロフィール
ALMS1遺伝子の正式名称は「ALMS1 centrosome and basal body associated protein」といいます。第2番染色体短腕(2p13.2)のプラス(ワトソン)鎖上に位置するこの遺伝子は、全長が224,161塩基対(bp)にもおよぶ極めて大きな遺伝子です。23のエクソン(タンパク質情報をコードする領域)から構成され、転写産物(RNA)の長さは約12.9キロ塩基(kb)に達します。
この遺伝子は、すべての哺乳類細胞に広く発現しており、特に一次繊毛(Primary Cilia)の機能に深く関わる「繊毛病(Ciliopathy)」関連遺伝子として知られています。ALMS1に両アレル性変異(父・母の両方から受け継いだ変異)が生じると、アルストローム症候群を引き起こします。
💡 用語解説:繊毛病(Ciliopathy)とは
「繊毛病(シリオパシー)」とは、細胞表面に突き出る微小な突起構造「繊毛(cilia)」の形成や機能に異常が生じることで引き起こされる遺伝性疾患群の総称です。一次繊毛はアンテナのように細胞外からの光・圧力・化学物質のシグナルを受け取り、細胞内に伝える役割を担います。この機能が失われると、視覚・聴覚・腎臓・心臓・代謝など多臓器に同時に障害が生じます。アルストローム症候群やバルデ・ビードル症候群(BBS)などが代表的な繊毛病です。
📋 ALMS1遺伝子 基本スペック
| 遺伝子名(公式名称) | ALMS1 centrosome and basal body associated protein |
| 染色体上の位置 | 2p13.2(第2番染色体短腕) |
| 遺伝子全長 | 224,161 塩基対(bp) |
| エクソン数 | 23エクソン |
| 転写産物の長さ | 約12.9 kb |
| コードするタンパク質 | 4,167アミノ酸・約460 kDa(460,937 Da) |
| 関連疾患 | アルストローム症候群(OMIM #203800) |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性遺伝(常染色体劣性遺伝) |
| 疾患カテゴリ | 繊毛病(Ciliopathy) |
💡 用語解説:常染色体潜性遺伝(じょうせんしょくたいせんせいいでん)
ヒトの遺伝子は父親と母親から1本ずつ、計2本(2アレル)受け継ぎます。「常染色体潜性(劣性)遺伝」では、2本とも変異している場合にのみ疾患が発症します。片方だけ変異を持つ人(保因者・キャリア)は通常無症状です。ALMS1の変異保因者は一般人口に一定数存在し、両親が偶然ともに保因者だった場合、子どもが発症するリスクは理論上25%(4人に1人)となります。
2. ゲノム構造と転写産物の多様性
ALMS1遺伝子のゲノム構造は、その巨大さにふさわしい複雑さを持っています。全長224,161 bpという広大なゲノム領域は、ヒトの遺伝子の中でも特別に大きな部類に入ります。この領域に23のエクソンが分散して存在し、それらがスプライシング(切り貼り)によってつなぎ合わされることで、約12.9 kbの転写産物(mRNA)が作られます。
隣接する偽遺伝子とlncRNA
ALMS1遺伝子の近傍には、同じ第2染色体上にALMS1の偽遺伝子(Pseudogene)が隣接して存在することが確認されています。偽遺伝子とは、かつては機能していたと考えられる遺伝子の「残骸」のようなものです。また、同じ遺伝子座にはALMS1-IT1(ALMS1 Intronic Transcript 1)という長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)も存在します。
💡 用語解説:長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)とは
遺伝子からはタンパク質をコードするmRNAだけでなく、タンパク質にはならないRNA(ノンコーディングRNA)も多数作られます。長さが200塩基以上のものを「長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)」と呼びます。ALMS1-IT1はALMS1の病態形成に関与する可能性があると考えられており、食道扁平上皮癌などの悪性腫瘍における発現異常との関連も報告されています。機能の全貌はまだ解明されていませんが、遺伝子発現の調節に関わるとみられています。
選択的スプライシングと癌細胞における特異的バリアント
ALMS1遺伝子からは、複数の選択的スプライシングバリアントが生成されることが報告されています。特に興味深いのは、ホジキンリンパ腫(Hodgkin Lymphoma)の細胞株を用いた研究の結果です。この研究では、エクソン2・エクソン13・エクソン23に影響を及ぼす3つの可変領域を持つ特異的なALMS1転写産物が同定されました。そのうちの1つはエクソン13がスキップ(スプライスアウト)されたバリアントで、他のバリアントは5’末端または3’末端が異なるものでした。
💡 用語解説:選択的スプライシングとは
遺伝子からmRNAを作る際、複数のエクソンをどのように組み合わせるかによって、1つの遺伝子から複数種類のタンパク質が生成される仕組みを「選択的スプライシング」といいます。ALMS1の場合も、組織や細胞の状態によって異なるバリアントが作られ、それぞれが微妙に異なる機能を持つ可能性があります。癌細胞でのALMS1ノックダウン実験では、タンパク質が中心体に異常蓄積することが観察され、細胞周期制御への関与が示唆されています。
3. ALMS1タンパク質の構造的特徴
ALMS1遺伝子がコードするタンパク質は、4,167個のアミノ酸残基からなり、分子量は約460 kDa(460,937 Da)に達する巨大なタンパク質です。現在までに主に3つのアイソフォーム(少し構造が異なるバリエーション)が知られています。この巨大な構造の内部には、機能的に重要な2つの特徴的ドメインが存在します。
🔩 ALMS1タンパク質のドメイン構造(4,167アミノ酸)
34回タンデムリピート
低複雑性領域
ALMSモチーフ(C末端)
34回タンデムリピートドメイン
ALMS1タンパク質の中央部には、47アミノ酸からなる不完全な反復配列が34回繰り返されるタンデムリピートドメインが存在します。このドメインはタンパク質全体の大きな割合を占めており、追加の低複雑性領域(Low complexity regions)とともに構成されています。
💡 用語解説:タンデムリピートとは
「タンデムリピート」とは、同じまたは似た配列が直列に繰り返されるゲノム・タンパク質構造のことです。ALMS1の場合、47アミノ酸のパターンが34回繰り返されており、タンパク質全体の骨格をなしています。このような反復構造は、多くのタンパク質間相互作用の「足場(スキャフォールド)」として機能します。つまり、ALMS1は細胞内で複数のタンパク質が集まるハブのような役割を果たしており、このタンデムリピート領域を通じて多数の分子と結合すると考えられています。
C末端のALMSモチーフ
タンパク質のC末端(端)側には、「ALMSモチーフ」と命名された特有の配列領域があります。このモチーフはALMS1だけでなく、C10orf90やKIAA1731(CEP295のパラログ)といった他のタンパク質にも共通して見出されます。これらのタンパク質も中心体に局在することが実験で確認されています。
注目すべきことに、ALMS1の欠失解析によると、ALMSモチーフ自体は中心体への局在(ターゲティング)に必須ではない可能性が示されています。中心体への効率的なターゲティングには、C末端の約4分の1の領域(残基3175以降)および特定の内部領域(残基2261〜2602)が重要であることがわかっています。一方で、N末端とALMSモチーフを含むC末端の両方が、中心小体の伸長や安定した中心体形成において不可欠な機能的役割を果たすことも実証されています。
4. 細胞内局在と一次繊毛・中心体における機能
ALMS1タンパク質の機能は、その特異的な細胞内局在から理解することができます。ALMS1はあらゆる哺乳類細胞に偏在して発現しており、主に細胞分裂時の中心体(Centrosome)および、非分裂期(G0期)の細胞から突き出る一次繊毛の基部を構成する基底小体(Basal body)に局在しています。
💡 一次繊毛とは
ほぼすべての哺乳類細胞の表面から1本だけ突き出るアンテナ状の小器官です。光・機械的刺激・化学物質のシグナルを感知し、細胞内にその情報を伝えます。運動機能を持たない「感覚専用アンテナ」で、腎臓・眼・耳など多くの臓器の発生・機能維持に不可欠です。
💡 基底小体・中心体とは
「中心体」は細胞分裂の際に染色体を引き分けるための「紡錘体」の形成拠点となる細胞小器官です。「基底小体」は細胞が分裂を休止している時期に一次繊毛の根元を構成する構造体で、中心体が変化したものです。ALMS1はこれら両方に局在し、その構造と機能を支えます。
繊毛形成(Ciliogenesis)における役割
一次繊毛の正常な形成と構造維持において、ALMS1は微小管の組織化を主導する決定的な役割を担っています。ALMS1のmRNAおよびタンパク質を枯渇させた実験では、細胞の種類によって正反対の表現型が現れることが報告されており、ALMS1が繊毛の長さや構造的完全性を精密に調節する両方向性の制御因子であることを示しています。
・マウス内髄質集合管(mIMCD3)細胞:ALMS1枯渇→「発育不全の繊毛」(短くて形成不全)
・ヒトhTERT-RPE1細胞:ALMS1枯渇→「過剰に長く伸長し、ねじれや屈曲を伴う異常な繊毛」
どちらも繊毛の構造的完全性が失われることで、シグナル伝達が破綻します。
腎臓の上皮細胞における一次繊毛は、管腔内の液流を感知する「機械受容アンテナ」として機能しています。ALMS1が欠乏した細胞では、この機械的刺激に応答した細胞内へのカルシウム流入が阻害されることが示されており、ALMS1は繊毛の物理的構造だけでなく、感覚シグナル伝達メカニズムそのものにも深く関与していることがわかっています。
中心小体の結合(Centrosome Cohesion)と幹細胞の非対称分裂
ALMS1は中心小体の「近位端(Proximal ends)」に特異的に局在し、中心体結合タンパク質であるC-Nap1と強固に共局在することが明らかになっています。RNA干渉(RNAi)を用いた実験では、ALMS1が枯渇した細胞で中心体のC-Nap1レベルが著しく低下し、親中心小体どうしの結合(Cohesion)が損なわれることが確認されています。
さらに、ショウジョウバエの生殖幹細胞(GSC)を用いた研究では、Alms1aの枯渇が娘中心小体の複製不全を引き起こし、中心体の急速な喪失をもたらすことが示されました。これは分化中の生殖細胞では見られないGSC特有の現象であり、ALMS1がSak/Plk4(中心小体複製の重要な制御因子)と強く相互作用することで、幹細胞の非対称分裂における中心体の厳格な制御に寄与していることを示唆しています。
5. エンドソーム輸送と代謝シグナルへの関与
ALMS1が関与する最も医学的に重要な機能の一つが、細胞内の小胞(ベシクル)輸送の制御です。この機能の障害が、アルストローム症候群で見られる重篤な肥満・インスリン抵抗性・2型糖尿病の根本的な原因となっています。
GLUT4トランスロケーションとインスリン抵抗性
💡 用語解説:GLUT4とインスリン抵抗性
GLUT4(グルコーストランスポーター4)は、インスリンに応答して血液中のブドウ糖を筋肉や脂肪細胞の中に取り込む「糖の入口(輸送体)」です。通常は細胞内の小胞に格納されており、インスリン刺激を受けると細胞膜へと移動(トランスロケーション)して血糖を取り込みます。ALMS1の変異でこの輸送が障害されると、インスリンが分泌されても血糖が取り込めない「インスリン抵抗性」が生じ、高血糖・2型糖尿病へと進行します。
ALMS1は微小管に沿ったエンドソームのリサイクルプロセスに関与しており、GLUT4ベシクルの輸送やアクチン細胞骨格を介した細胞膜へのドッキングに不可欠な役割を果たしています。ALMSモデルマウス(Alms1GT/GT)の脂肪組織を用いた解析では、代謝疾患が発症するよりもはるか以前の生後6週齢という早期の段階で、すでにGLUT4の総タンパク質量の減少・細胞内での誤局在・インスリン誘発性トランスロケーションの著しい障害が確認されています。
このことは、アルストローム症候群における高インスリン血症とインスリン抵抗性が、単に肥満によって引き起こされる二次的な現象ではなく、ALMS1変異に起因する細胞内輸送の一次的な欠陥であることを強く示唆しています。
ALMS1と相互作用する主要タンパク質
ALMS1はエンドソーム輸送において、複数のパートナータンパク質と協調して機能します。トランスフェリン受容体のリサイクル経路でも重要な役割を担い、Yeast Two-Hybrid(Y2H)スクリーニングによってHAP1(Huntingtin-associated protein 1)がALMS1と相互作用することも同定されています。
| 相互作用タンパク質 | 推定される機能的役割 |
|---|---|
| C-Nap1 | 親中心小体の結合(Cohesion)の維持と安定化 |
| Sak / Plk4 | 生殖幹細胞における娘中心小体の複製と非対称分裂の制御 |
| α-actinin-4 | トランスフェリン受容体の初期エンドソームから細胞膜へのリサイクル |
| HAP1 | 視床下部ニューロンなどにおける足場タンパク質の構築、エンドサイトーシス輸送。レプチン抵抗性のメカニズムと関連 |
特にHAP1との相互作用は、アルストローム症候群で見られる視床下部の一次繊毛数の減少や、レプチン受容体の輸送障害に基づくレプチン抵抗性(極度の食欲亢進を引き起こす原因)のメカニズムを説明する重要な分子基盤と考えられています。
6. 細胞周期・TGF-βシグナルとの関係
ALMS1遺伝子の機能喪失は、なぜ最終的に肺・腎臓・肝臓・心筋などの多臓器線維化(Multi-organ fibrosis)を引き起こすのでしょうか。その答えは、細胞周期の異常とTGF-βシグナル伝達経路の変調に見出すことができます。
細胞周期のG2/M停止とアポトーシス抵抗性
HeLa細胞を用いたノックダウン実験により、ALMS1の枯渇は細胞周期の進行をG2/M期で停止させることが明らかになっています。正常な細胞はDNA損傷などの異常を検知するとアポトーシス(細胞の自発的な死)を誘導しますが、ALMS1が欠損した細胞では、タプシガルギン(Thapsigargin)やC2-セラミドによるアポトーシス誘導に対して強い抵抗性(Apoptosis resistance)を示すようになります。
この細胞死の回避と異常な増殖シグナルの蓄積が、組織における細胞の恒常性を破壊します。ALMS変異マウスの腎臓上皮細胞では、一次繊毛の喪失と並行して局所的なアポトーシスと病理学的な細胞増殖の亢進が同時に進行します。心筋細胞においては生後の正常な細胞周期停止が阻害され、心筋細胞の異常増殖が拡張型または拘束型心筋症の素地を形成します。
TGF-βシグナルの機能不全とPI3K/AKT経路の過剰活性化
💡 用語解説:TGF-βシグナル伝達経路とは
TGF-β(Transforming Growth Factor-beta:トランスフォーミング成長因子β)は、細胞外マトリックスの産生・アポトーシス・細胞遊走・上皮間葉移行(EMT)を制御し、線維化プロセスを統括する主要なシグナル伝達タンパク質です。正常な一次繊毛はこのTGF-βシグナルを受容する「アンテナ」として機能しています。ALMS1欠損細胞ではTGF-β刺激によるSMAD2/3(特にSMAD3)のリン酸化と活性化が顕著に減弱することが確認されています。
TGF-β経路の減弱は単純なシグナル低下にとどまらず、他のシグナル伝達経路との連携に深刻な異常を引き起こします。トランスクリプトームとプロテオームの統合解析により、ALMS1欠損細胞ではPTEN遺伝子の発現低下を伴うPI3K/AKT経路の過剰活性化が生じることが判明しました。この異常なクロストークは、コラーゲン線維の組織化といった細胞外マトリックス制御の不全や、脂肪酸のβ酸化・エイコサノイド代謝の異常を連鎖的に引き起こし、結果として多臓器にわたる強固な線維化を招きます。
ゼブラフィッシュモデルを用いた多組織トランスクリプトミクス解析では、ALMS1欠乏の影響が組織ごとに異なる多面的な作用を持つことが示されました。特に脳では炎症性・自然免疫経路やグルタミン酸作動性シナプス関連プロセスの異常が観察され、ALMS1が脳の加齢に伴う遺伝子発現プロファイルの調節にも関与していることが指摘されています。
7. 病原性変異のスペクトラムと遺伝子型–表現型相関
ALMS1遺伝子は極めて多数の病原性バリアントが存在する、顕著なアレル異質性(Allelic heterogeneity)を示す遺伝子です。世界中の204家系を対象とした包括的な変異スクリーニングでは、疾患関連変異の総数が239以上に拡大しています。特にアジア集団(中国コホート)での127名の遺伝的に確定されたALMS患者を対象とした大規模研究では、132の異なるALMS1バリアント(254アレル)が特定され、そのうち64が新規バリアントでした。
病原性変異の種類
変異の大部分は、タンパク質を短く切断してしまう「切断型(Truncating)変異」であり、ALMS1タンパク質の完全な機能喪失をもたらします。
💡 用語解説:ナンセンス変異・フレームシフト変異
ナンセンス変異:DNAの塩基が1つ変化し、アミノ酸のコードが「終止コドン(タンパク質合成の止まれ信号)」に変わる変異です。タンパク質が途中で合成を止めてしまい、機能しない短いタンパク質(または分解されるタンパク質)が作られます。
フレームシフト変異:DNAに塩基が挿入または欠失することで、3塩基ずつ読むフレーム(読み枠)がずれる変異です。フレームがずれた先は全く異なるアミノ酸配列になり、多くの場合すぐに終止コドンに出会って短いタンパク質となります。
📊 アジアコホートにおけるALMS1病原性変異の種類(127症例)
アジアコホートにおける反復性変異(Hotspots)
| 変異(cDNA表記) | 検出頻度 | 変異の種類 |
|---|---|---|
| c.10825 C>T | 7.9% | 切断型変異(ナンセンス) |
| c.2090 C>A | 5.5% | 切断型変異(ナンセンス) |
| c.10831_10832delAG | 4.7% | フレームシフトによる切断型変異 |
遺伝子型と表現型の相関:エクソン16変異と乳児期心筋症
ALMS1では長年、明確な遺伝子型(どのエクソンに変異があるか)と表現型(どのような症状が出るか)の相関を見出すことが困難とされてきました。しかし中国コホートの心エコー解析から画期的な知見が得られました。
⚠️ 重要な遺伝子型–表現型相関
エクソン16の切断型変異を有する患者は、他のエクソン領域に変異を持つ患者と比較して、乳児期発症型心筋症(Infant Cardiomyopathy)の合併リスクが有意に高いことが証明されています(72.7% vs. 30.4%、p < 0.05)。これは将来的な予後予測や精密医療(Precision Medicine)に向けた重要なバイオマーカーとなる可能性を持ちます。
バルデ・ビードル症候群(BBS)との比較
ALMS1の変異によるアルストローム症候群は、同じ繊毛病であるバルデ・ビードル症候群(BBS)と比較されることがあります。ゼブラフィッシュを用いた比較トランスクリプトミクス解析では、alms1欠損モデルで変動した267遺伝子のうち約66%がBBSモデルと共通していますが、BBSモデルでは約3,256遺伝子(ALMSの約5倍)が変動しており、その86%がBBS固有の変動でした。また、グルコース恒常性の代償メカニズムにも明確な違いがあり、alms1欠損ゼブラフィッシュではβ細胞量の代償的な増加により血糖が管理されたのに対し、bbs1欠損では血糖値が有意に低下するという異なる代謝破綻メカニズムが確認されています。
8. ALMS1遺伝子変異に関連する遺伝子検査
ALMS1遺伝子は多系統の臓器に影響を与えるため、アルストローム症候群の診断には繊毛病パネルをはじめ、感覚器・心臓・代謝系など複数のNGS(次世代シーケンス)遺伝子検査パネルで対象遺伝子として収載されています。
繊毛病・感覚器・代謝・心臓 関連パネル
出生前診断・保因者(キャリア)スクリーニング
ALMS1遺伝子変異は常染色体潜性遺伝であるため、両親がともに保因者(キャリア)であった場合、子どもが発症するリスクは25%です。家族計画の段階でのキャリアスクリーニングや、妊娠中の出生前遺伝子検査が選択肢として存在します。米国人類遺伝学会(ACMG)および米国産科婦人科学会(ACOG)は、カップルへの拡張型キャリアスクリーニングを推奨しています。
出生前の遺伝子検査については、NIPT 100plusやスーパーNIPTなどの選択肢についてもご相談ください。キャリアスクリーニングについてより詳しく知りたい方はキャリアスクリーニングとはのページをご覧ください。
キャリアスクリーニング検査を実際に受けられた方の体験については、保因者検査の体験談(ALD保因者検査)や、遺伝性疾患と家族計画についての「あきらめないための選択肢」コラムも参考になります(疾患の種類は異なりますが、保因者検査の経緯や意思決定のプロセスについて詳しく記載されています)。
よくある質問(FAQ)
🏥 ALMS1遺伝子変異・アルストローム症候群のご相談
繊毛病・希少遺伝性疾患の診断・保因者検査・出生前診断に関するご相談は、
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