遺伝子に関連する病気や悩みについて専門家に相談できるのが遺伝カウンセリングです。
まだまだなかなか一般的でない遺伝カウンセリング。
そこで今回はお子さんの遺伝性難聴と、それを原因としたNIPTを受ける際の遺伝カウンセリングとはどのようなものか、どういう問題点があるのかをケースレポートしたいと思います。
遺伝カウンセリングとは?
遺伝カウンセリングとは、専門家から遺伝子疾患などについて科学的根拠に基づき医学的情報を提供してもらうことです。患者は遺伝子疾患の悩みや疑問などを相談することができます。
また、提供された情報を用いて自ら問題を解決できるように社会的・心理的サポートをしてもらいます。
遺伝カウンセリングの対象は、遺伝子疾患を抱えた人や妊婦さんで胎児の遺伝子疾患が見つかった人のみでなく、その家族や健康な人も含まれます。
遺伝カウンセリングを受ける際に最も大切なのは、置かれている状況を十分に理解し、それを受け止めた上で意思決定することです。専門家がそのプロセスを支援します。
遺伝カウンセリングの重要性とどういうことを行うのかについては、リンク先のページをご覧ください。
関連記事:遺伝カウンセリングの重要性について
今回の症例の問題点
Aさんご夫婦には、先天性難聴のお子さんがいます。保険診療の遺伝子検査で先天性難聴には一番多い遺伝子の変異が見つかったそうです。
Aさんご夫婦のお子さんは、先天性難聴の中でも一番多いGJB2と言われる遺伝子に病的変異(病気を引き起こすバリアント)がありました。しかも、c.235delC(GJB2遺伝子の235番目のシトシンが欠失している)という日本人では一番多いタイプのhomozygote(ホモ接合)です。
このタイプはタンパクの最初の方で「ここでタンパク合成を終われ」と命令するストップコドンができてしまうフレームシフト変異ですので、短いタンパクしかできず、Nonsense-mediated mRNA decay (NMD)を引き起こすので、どんどん壊されて行き、いずれにせよ機能できないタンパクとなります。
関連記事:Nonsense-mediated mRNA decay (NMD)
このような事情で、c.235delCをホモ接合で持つ人は、GJB2遺伝子を原因とする先天性難聴のなかでも重度の難聴を来します。
実際の養育の苦労がわからない人からすると、難聴くらいで出生前診断するなんてって思うかもしれませんね。
でも。確かにこのタイプは人工内耳にはよく反応するので、言語能力は遅れながらもなんとか身に着けることができるようになります。
幼少期はどこの自治体でも医療費は無料となるので、お金もかからない、と思いきや。
人工内耳は小さいので、落ちたりなくしたり壊れたりすることがあるそうなのですが。保険は5年に一度しか効かないので、紛失や故障の際は100%自己負担となり、100万くらいかかるそうです。
それに。言語能力の習得のためには、家庭での関わりが欠かせません。一方的に親御さんに負担がかかることになります。
だから。二人目もまた先天性難聴だったらどうしよう、と妊娠を素直に喜べない現状があったんです。
今回の症例の選択
Aさんご夫婦は、結局はミネルバクリニックのNIPTメニューの中からGJB2遺伝子検査を含むものを選びました。
関連記事:コンプリートNIPTデノボプラス|GJB2遺伝子を含む
今回の症例の検査結果
結果は、ご両親そろってc.235delCを持っていることと、おなかの赤ちゃんはc.235delCを片方だけ持っているheterozygote(ヘテロ接合)であることが分りました。
今回の症例の検査結果が判明したその後
Aさんご夫婦は妊娠を継続することを選びました。
でも、やはり確実な方法として、次は着床前診断を受けたいという気持ちがおありだというご連絡も頂きました。
今回は、気持ちの整理が出来ないうちに妊娠したので。次はちゃんと計画的にってお考えになったのだと思います。
但し、先天性難聴のような生命予後に全く影響がない疾患を着床前診断の対象とすること自体に賛否両論あると思います、というお話はお伝えしました。
まとめ
遺伝カウンセリングは、遺伝子疾患について専門家から科学的根拠に基づいた医学的情報を提供してもらい、遺伝子疾患に関する悩みを相談するために設けられる機会です。
遺伝の悩みというのは、一番はお子さんを作るときに表面化しますので、すごく深刻な悩みになることは間違いないでしょう。
そういう悩みを抱えた患者さんたちに、真摯に寄り添える。そういう遺伝専門医でありたいと私は考えています。