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ハンチントン病の母と祖母をもつ方の遺伝カウンセリング

遺伝子に関連する病気や悩みについて専門家に相談できるのが遺伝カウンセリングです。

まだまだなかなか一般的でない遺伝カウンセリング
そこで今回はハンチントン病の母と祖母がいるAさんのケースをご紹介したいと思います。

遺伝カウンセリングとは?

遺伝カウンセリングとは、専門家から遺伝子疾患などについて科学的根拠に基づき医学的情報を提供してもらうことです。患者は遺伝子疾患の悩みや疑問などを相談することができます。
また、提供された情報を用いて自ら問題を解決できるように社会的・心理的サポートをしてもらいます。
遺伝カウンセリングの対象は、遺伝子疾患を抱えた人や妊婦さんで胎児の遺伝子疾患が見つかった人のみでなく、その家族や健康な人も含まれます。

遺伝カウンセリングを受ける際に最も大切なのは、置かれている状況を十分に理解し、それを受け止めた上で意思決定することです。専門家がそのプロセスを支援します。

遺伝カウンセリングの重要性とどういうことを行うのかについては、リンク先のページをご覧ください。
関連記事:遺伝カウンセリングの重要性について

今回の症例の問題点

Aさんの祖母はAさんが物心ついたときはすでに、ハンチントン病を発症していました。
祖父が祖母を一生懸命介護していて、それは20年以上に及びました。ハンチントン病としては経過は長い方です。
Aさんがまだ10代前半の頃、母が同じ病気を発症しました。
母は進行がはやく、それから数年してまだAさんが10代の頃になくなりました。
それから数年。結婚したい相手ができて、Aさんは自分のことを知りたくなりました。
つまり、自分もハンチントン病を発症するのかどうかという事です。

大学病院の遺伝診療部を受診してみましたが、お金だけ取られて何も解決しませんでした。
発端者、つまり少なくとも母親の検査をしないと判らない、と突っぱねられたのです。

まあそれも、一理あるのですけどね。発症したかたの検査をするのが一番よいことは、私たち遺伝専門医なら誰もが思う事です。
だけど。今、Aさんの母はなくなっているので、検体は取れません。

そうすると、「次善の策」を出してあげるのが専門医の役割だとわたしは考えるのですが。。。この辺、医師により考え方が異なるのかもしれません。

ハンチントン病の原因の98%はHTT遺伝子CAGの繰り返し数が40オーバーとなっていることにあります。

関連記事:ハンチントン病

一般的にはHTT遺伝子のCAGリピートの数は、不安定でさらに伸びることがあるのですが、特にこの遺伝子においては父親から病的遺伝子を受け継ぐと伸びやすいという傾向があります。そうすると、次の世代ではリピート数が多くなっていて、その数が多ければ多いほど発症年齢が低下すると言われています。

いずれにせよ、98%はHTT遺伝子のCAGリピートが40回以上に伸長することで起こるのですから、それを調べましょうということになりました。
今のままでは、母親から病的遺伝子を受け継いでいる確率が50%。それが98%の確率で否定されることは、Aさんにとっては大事なことでした。
もちろん、ハンチントン病の病的遺伝子を持っていることがはっきりすると、それは、100%ハンチントン病を発症することを意味しているので、Aさんにとっては耐えがたい苦痛となることでしょう。
それでも、知りたい。
自分の家庭をもっていいのか、子どもを産んでいいのか、わたしは知りたいんです。
Aさんの決意は固いものでした。

前述の大学病院の遺伝専門医がAさんの検査を断った理由については、わたしも想像ができます。
糖尿病とか高血圧なら患者さんは定期的に通ってきますが、遺伝診療部には定期的に通ってはくれません。
もしも、Aさんの結果が、ハンチントン病を発症するというものであったとき、そこから先、自殺してしまうひともいるのです。
そのとき、自分は責任を取れるのだろうか。
ずっとAさんに寄り添うことができるのだろうか。

わたしも私なりにすごく考えました。

だけど。Aさんの「知る権利」もまた守られるべきであることは事実です。

悪い結果になったとき、Aさんを支える確かな自信が持てない。100%の自信がある医者なんて危なすぎるので、そんな医者にはなりたくない。
じゃあ、100%大丈夫って思えないなら検査を提供しないの?
検査しないと目の前の人は前にすすめない。過去に進むことはできないので後ろにも進めない。つまり、一歩たりとも動けない苦しい状況にいる。
そしてその人に手を差し伸べるのは、検査をすることでしか実現できない。

わたしは、悩みながらも検査を受けることにしました。もちろん、遺伝診療においてはもともとこういう情報は患者さんからは大まかに事前に頂くので、患者さんが来られた際にはすでに、「わたしには悩みなんてありません。必ずあなたに寄り添います。」と言える状態に自分を持って行ってからお目にかかります。
だってそうじゃないと、わたしが揺れたら患者さんはそれを察して悲しい思いをするじゃないですか。

遺伝の悩みは、幼いころからずっと持っていて、自分が家庭を持ちたい、幸せになりたいと思ったときに一気に顕在化かつ最大化します。
そしてそのタイミングで患者さんを支えなければ、次のライフステージにすすめません。

いいですよ。わたしはあなたの検査をお受けします。そういうと、Aさんはとても安心なさいました。

今回の症例の選択

Aさんは、ミネルバクリニックの遺伝子検査メニューの中からHTT遺伝子のリピート伸長検査を選びました。

関連記事:ハンチントン病など単一遺伝子のリピート伸長遺伝子検査

今回の症例の検査結果

結果は、AさんのHTT遺伝子のCAGリピートの回数は正常でした。結果がかえってくるまで、思ったより時間がかかったので。わたしも気が気じゃなかったです。
結果を確認した瞬間、くたっとしてしまいました。

今回の症例の検査結果が判明したその後

Aさんは、無事に結婚して家庭を持ち、お子さんに恵まれて、幸せな毎日を送っています。

まとめ

遺伝カウンセリングは、遺伝子疾患について専門家から科学的根拠に基づいた医学的情報を提供してもらい、遺伝子疾患に関する悩みを相談するために設けられる機会です。

遺伝の悩みというのは、一番は結婚したいとか、お子さんを作るときに表面化しますので、すごく深刻な悩みになることは間違いないでしょう。

そういう悩みを抱えた患者さんたちに、真摯に寄り添える。そういう遺伝専門医でありたいと私は考えています。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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