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ACTG1遺伝子とは何か|γアクチンが担う細胞骨格の維持と、聴覚・脳発達に与える重要な役割

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

ACTG1遺伝子は、第17番染色体長腕(17q25.3)に位置し、すべての細胞の骨格を支える「γアクチン(細胞質ガンマアクチン)」をコードしています。特に内耳の感覚有毛細胞では聴覚を一生涯にわたって維持するために不可欠な役割を担い、ACTG1の変異は常染色体顕性遺伝の進行性難聴(DFNA20/26)から重篤な脳形成異常を伴うBaraitser-Winter症候群2型まで、連続したスペクトラム上にある複数の疾患を引き起こすことが分かっています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 ACTG1遺伝子・γアクチン・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. ACTG1遺伝子とはどのような遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです

A. すべての細胞の形と動きを支える「γアクチン」というタンパク質をつくる設計図です。特に内耳の聴覚を担う細胞では、音や加齢による細胞骨格の小さな傷を修復するためにγアクチンが必須で、この遺伝子に変異があると進行性の難聴や、重篤な脳の発達異常を引き起こすことがあります。

  • 遺伝子の基本 → 17q25.3に位置し、375個のアミノ酸からなるγアクチンをコード
  • 細胞内での役割 → 細胞骨格の維持・修復、内耳有毛細胞の聴覚維持に必須
  • 関連疾患 → DFNA20/26(非症候性進行性難聴)とBaraitser-Winter症候群2型
  • 最新の知見 → 表現型は連続スペクトラム、がん・敗血症との新たな関係も解明
  • 診断・検査 → トリオ全エクソーム解析、当院のNGSパネルで検査可能

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1. ACTG1遺伝子の基本情報:ゲノム上の位置と構造

ACTG1(Actin Gamma 1)遺伝子は、ヒトゲノムにおいて第17番染色体長腕の末端付近(17q25.3)に位置するタンパク質コード遺伝子です。最新のゲノムアセンブリ(GRCh38)では、約14.4キロベースのゲノム領域を占めており、6つのエクソン(うち5つがタンパク質の設計情報を持つコーディングエクソン)から構成されています。

この遺伝子から作られるγアクチン(細胞質ガンマアクチン)は、375個のアミノ酸からなるコンパクトなタンパク質で、酵母から人間に至るまで進化の過程でほとんど変化していない、極めて保存性の高い分子です。ヒトとマウス、ウシ、ニワトリでアミノ酸配列がまったく同じであることからも、その生存にとっての重要性が分かります。

💡 用語解説:アクチンとは

アクチンは、すべての真核生物(核を持つ細胞)に存在するタンパク質で、細胞の「骨格」をつくる主要な材料です。単体(モノマー)の状態を「G-アクチン」、それが連なって繊維状になった状態を「F-アクチン」と呼びます。細胞はこの繊維をつくったり壊したりを絶え間なく繰り返し、形を変えたり、移動したり、分裂したりしています。人間にはα・β・γの3グループ計6種類のアクチン遺伝子があり、ACTG1はそのうちのγアクチンをコードしています。

ACTG1遺伝子の主な別名(エイリアス)

医学文献やデータベースを調べると、ACTG1は複数の名前で登場します。主な別名は以下のとおりです。

ACTG1の主な別名:
ACT、ACTG、DFNA20、DFNA26、HEL-176(Epididymis Luminal Protein 176)、actin cytoplasmic 2、cytoskeletal gamma-actin

DFNA20、DFNA26という名称は、この遺伝子の変異が引き起こす常染色体顕性遺伝形式の難聴を示す疾患名としても用いられます。後述しますが、これらは現在では同じ疾患を指すと考えられ、「DFNA20/26」とまとめて表記されることが一般的です。

2. γアクチンの細胞内での働きと組織発現

γアクチンが担う役割は、細胞の最も基本的な機能のほぼすべてに関わります。具体的には、細胞の形を保つ、細胞分裂を支える、細胞内の小さな器官(細胞内小器官)を運ぶ、細胞自身を動かす(運動性)といった働きを、絶え間ない重合(つなぎ合わせ)と脱重合(分解)のサイクルを通じて実現しています。

💡 用語解説:トレッドミリング(自己更新サイクル)

「ランニングマシン」のような自己更新のしくみのことです。アクチン繊維は、一方の端では新しいモノマー(G-アクチン)が次々に加わり、反対の端では古いモノマーが外れていきます。見た目は同じ長さの繊維が、内部では絶え間なく入れ替わっている——この巧妙なシステムが、細胞の素早い形態変化を可能にしています。コフィリンやADFファミリーといった「分解係」、ミオシンファミリーといった「動力係」など、多くのパートナータンパク質がこのサイクルを精密に制御しています。

β-アクチンとγアクチン——よく似た双子の役割分担

ACTG1遺伝子のすぐ近くに、もう一つ重要な遺伝子があります。それがACTB遺伝子で、こちらはβ-アクチン(細胞質ベータアクチン)をコードしています。β-アクチンとγアクチンは、N末端付近のわずか4個のアミノ酸が異なるだけの、生化学的にはほぼ「双子」のようなタンパク質です。

しかし、この極めて高い類似性にもかかわらず、両者は細胞内の異なる場所で、異なる時期に、異なる役割を果たすことが近年の研究で明らかになってきました。これは、ACTG1関連疾患の病態を理解するうえで決定的に重要な事実です。

γアクチンが特に強く発現する組織

γアクチンは全身のあらゆる細胞に存在しますが、特に発現量が高い組織として、栄養吸収を担う腸管の上皮細胞、そして聴覚と平衡覚を司る内耳の感覚有毛細胞が知られています。とりわけ内耳の有毛細胞では、γアクチンが正常な聴覚を一生涯維持するうえで欠かせない役割を担っており、ACTG1変異がほぼ必ず難聴を引き起こす理由となっています。

🔍 関連記事:γアクチンに極めて似たβ-アクチンの遺伝子については、別途遺伝子疾患情報一覧からACTB遺伝子のページもご参照ください。両者の違いがより明確になります。

3. 内耳有毛細胞におけるγアクチンの維持・修復機能

耳の奥にあるカタツムリのような形をした「蝸牛」の中には、コルチ器と呼ばれる音を感じ取る装置があります。そこに整然と並んでいるのが感覚有毛細胞(hair cells)です。この細胞の頭の上には、階段状に並んだ細い毛のような構造——不動毛(ステレオシリア)——が突き出しています。

不動毛は、音波という機械的な振動を電気信号に変換するための、極めて精緻なセンサーです。その内部は、一方向にきっちりと並んだアクチンの繊維束で骨組みされており、エスピンやフィンブリンといった「束ねるタンパク質」によって強固に補強されています。

💡 用語解説:不動毛(ステレオシリア)

「動かない毛」と書きますが、実際には音波を受けるとしなやかに揺れる、聴覚の最前線にある微細構造です。1つの有毛細胞に数十〜数百本が階段状に整列しており、音波で傾くと先端のイオンチャネルが開き、電気信号が生まれます。この信号が脳に伝わって「音」として認識されるのです。アクチン繊維の規則的な束によって、極めて高い剛性と動的応答性を両立しています。

「発生はβ-アクチン、維持はγアクチン」という巧妙な分業

マウスを用いた精緻な研究によって、不動毛をつくる過程でβ-アクチンとγアクチンが時間的・空間的に異なる役割を担っていることが明らかにされました。

発生のごく早期、不動毛そのものを建設する段階で主役を務めるのはβ-アクチンです。一方、γアクチンが不動毛の中に明確に現れてくるのは、ある程度の構造ができあがった後(マウスの胎生18.5日目以降)からです。つまり、γアクチンは「建設」ではなく「維持と修復」のために動員されるタンパク質と言えます。

この仮説を裏付けるように、ACTG1遺伝子を完全に欠損させたマウスは、致死にならずに正常に生まれ、生後初期にはほぼ正常な聴力を持ちます。発生期にγアクチンがなくても、β-アクチンが代わりに不動毛の構造を組み立てられるからです。

γアクチンの本領は「使い込まれた」成熟期から発揮される

γアクチンの真の必要性が明らかになるのは、聴覚器官が稼働を始め、音や加齢による微小な機械的ストレスが蓄積し始める成熟期以降です。

強い音や日々の振動で、不動毛のアクチン束には目に見えないほどの小さな「ヒビ」が入ります。蛍光標識で観察するとファロイジン陰性ギャップと呼ばれる微小な隙間として認識できます。野生型の有毛細胞では、このギャップにγアクチンが特異的に集まり、断裂部位を補強・修復することが分かっています。

🔍 関連記事:ACTG1関連の進行性難聴(DFNA20/26)の臨床像や検査の進め方は、DFNA20/26の疾患ページで詳しく解説しています。

ACTG1に機能不全をもたらす変異があると、この修復メカニズムが破綻します。日常の小さな機械的負荷でもギャップが生じ続け、補修されないまま蓄積し、最終的に不動毛そのものが解体されていきます。これがヒトに見られる進行性の感音難聴(DFNA20/26)の細胞レベルでのメカニズムです。とくに音を増幅する役割を担う外有毛細胞は自ら強い力を発生させるため、γアクチンを失うと最初に脆弱化し、細胞死へと向かいます。

4. ACTG1変異が引き起こす疾患——非筋アクチノパチー

ACTB遺伝子またはACTG1遺伝子のヘテロ接合性(片方の染色体だけ)の変異によって引き起こされる一連の疾患群は、臨床遺伝学において「非筋アクチノパチー(Non-muscle actinopathies)」と総称されています。ACTG1変異は歴史的に、2つの対照的な表現型に関連付けられてきました。

🦻 DFNA20/26

常染色体顕性非症候性難聴

聴覚以外には明らかな先天異常を伴わない、進行性の感音難聴。多くは言語習得後(学童期〜成人期)に発症し、加齢とともに悪化します。先天性の例も報告されています。

🧠 Baraitser-Winter症候群2型

BRWS2 / BWCFF

特徴的な顔貌・大脳皮質形成異常・進行性難聴・眼コロボーマ・知的障害などを伴う重篤な多発先天異常症候群。新生(de novo)変異により発症することがほとんどです。

DFNA20/26を引き起こす主なミスセンス変異

DFNA20/26の原因となる変異は、γアクチンの高度に保存された領域に生じるミスセンス変異がほとんどです。これまでに以下のような変異が報告されています。

DFNA20/26で報告されている主な変異:
p.Thr89Ile(T89I)・p.Lys118Met(K118M):サブドメイン1、フィンブリン結合領域
p.Pro264Leu(P264L):サブドメイン4、家系内で早発・急速進行傾向
p.Thr278Ile(T278I):ヘリックス9、アクチン重合に干渉
p.Pro332Ala(P332A):サブドメイン3、ミオシン結合に影響
p.Val370Ala(V370A):C末端付近、タンパク質の安定性低下
p.Pro32Ser(c.94C>T):先天性難聴を呈した新生児で同定

💡 用語解説:ミスセンス変異/新生(de novo)突然変異

ミスセンス変異は、DNA塩基が1つ変わることでアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変異です。タンパク質の形が変わり、機能に影響します。
新生(de novo)突然変異は、両親の卵子・精子、または受精直後に新たに生じた変異で、両親には同じ変異がありません。BRWS2の多くはこの新生突然変異で発症します。

Baraitser-Winter症候群2型の代表的変異とメカニズム

BRWS2を引き起こす変異のうち、最も頻繁に報告されているのがp.Ser155Phe(S155F)です。この変異を持つ患者由来の細胞を解析すると、変異した細胞では細胞内のF-アクチンが異常に増え、細胞膜の縁に異常な指状の突起(フィロポディア様構造)が多数形成されます。

この観察結果は重要で、S155F変異が単なる機能喪失ではなく、機能獲得(gain-of-function)的に細胞の運動性や形態制御を根本から撹乱していることを示しています。胎生期の器官形成、特に神経細胞の遊走プロセスに大きな影響を与えることが、BRWS2の重篤な脳奇形につながると考えられています。

S155F以外にも、p.Thr120Ile(T120I)、p.Ala135Val(A135V)、p.Thr203Lys(T203K)、p.Arg254Trp(R254W)、p.Arg256Trp(R256W)などのミスセンス変異がBRWS2の原因として同定されています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【同じ遺伝子の変異が、これほど違う病気をつくる理由】

「同じACTG1遺伝子の変異なのに、片方は聴覚だけ、もう片方は重度の脳奇形まで——どうしてここまで違うのか」と質問されることがあります。答えはアミノ酸の場所と種類です。タンパク質のどの部位がどう変わるかで、影響が「内耳の維持機能だけ」に限られるか、「胎生期の細胞運動・神経遊走まで」広がるかが決まります。

ACTG1のように全身に発現する遺伝子でも、組織ごとに必要な機能の繊細さが違うため、同じ変異でも症状の出方が大きく変わるのです。だからこそ、お子さまの遺伝子に変異が見つかったとき、私たちは変異の場所と種類を一つずつ丁寧に確認し、ご家族にとって意味のある情報へと翻訳していくことを大切にしています。

5. 表現型スペクトラム——分離していた疾患が一つに統合される

かつてDFNA20/26とBaraitser-Winter症候群2型は、ACTG1遺伝子上の異なる変異部位によって引き起こされる、互いに交わらない別個の疾患と考えられてきました。しかし2022年〜2026年に発表された一連の研究は、この二分法的な見方を大きく転換させるものでした。

ある研究では、難聴の症状から「DFNA20/26」と診断されていた患者を全エクソーム解析したところ、新規のACTG1変異(p.Ala181Val)が同定され、さらに詳細に評価し直すと極めて軽度ながらBRWS2に典型的な前頭顔面の特徴と発達遅滞を併せ持っていることが分かりました。

💡 用語解説:表現型スペクトラム

同じ遺伝子の変異でも、症状の重さや組み合わせが患者ごとに連続的に異なる現象のことです。「白か黒か」ではなく、グレーのグラデーションがあるイメージです。ACTG1変異の場合、「軽い難聴だけ」から「重度の脳形成異常を伴う多発奇形」まで、ひと続きのスペクトラム上にあると考えられるようになりました。同じ家系内ですら、症状の現れ方が大きく異なることもあります(過度に変異に富む浸透率/hypervariable penetrance)。

ACTG1とACTBの表現型比較——どちらが「より重い症状」を出すか

ACTB変異とACTG1変異は、いずれもBaraitser-Winter症候群を引き起こしますが、近年は両者の臨床像に明確な傾向の違いがあることが受け入れられつつあります。下のヒートマップは、症状ごとの相対的な重症度を示したものです。

📊 ACTB/ACTG1変異における表現型重症度の比較

表現型 難聴 顔面異常 脳奇形 知的障害
DFNA20/26(ACTG1・軽症型) 4 0 0 0
中間型(軽度BWCFF特徴あり) 4 1 2 2
BWCFF Type 2(ACTG1) 3 3 5 4
BWCFF Type 1(ACTB) 1 4 3 3
最重症型(ACTB/旧Fryns-Aftimos) 2 5 4 5

スコア:0(症状なし)/1〜2(軽度)/3〜4(中等度〜重度)/5(極めて重度)。ACTG1変異は脳奇形・難聴で重い傾向、ACTB変異は顔面・頭蓋異常がより顕著に出る傾向があります。

2026年初頭に発表された、290名のACTB/ACTG1変異患者を集めた大規模コンソーシアム研究は、従来の「DFNA20/26かBWCFFか」という単純な枠組みを脱却し、変異の場所や種類に応じた8つの臨床プロファイル(サブグループ)への再分類を提案しています。これにより、個々の患者の発達予後や合併症リスクを、より精度高く先回りして予測できるようになりつつあります。

6. 脳発達への関与——神経細胞の遊走とアクチン

ACTG1変異がなぜ重篤な脳形成異常(脳回厚小症や滑脳症)を引き起こすのか、その鍵は胎生期の神経細胞の遊走(移動)にあります。

💡 用語解説:神経細胞の遊走(Neuronal migration)

大脳皮質ができていく途中で、まだ未熟な神経細胞が脳の深部から表面に向かって長距離を旅する現象です。先頭にあるアクチンの「足」を伸ばしたり縮めたりしながら、放射状グリア細胞という足場を伝って正しい層へ移動します。この旅が途中で止まったり道を逸れたりすると、脳の表面のシワ(脳回)が異常に太く少なくなったり(脳回厚小症)、シワが完全に消えてしまったり(滑脳症)します。

神経細胞が動くとき、先端にある「成長円錐」ではアクチンの重合と脱重合が原動力となって仮足が伸び、周囲の環境を探りながら牽引力を生み出しています。ACTG1の変異は、このアクチンとパートナータンパク質(プロフィリンなど)との相互作用を撹乱し、神経細胞の移動プロセス全体を停滞させてしまうのです。

iPSC由来神経細胞と脳オルガノイドが明らかにしたこと

2025年に発表された研究では、ACTG1変異を持つ患者由来のiPS細胞から神経細胞を作り出し、その電気生理学的・形態的な特徴を詳細に評価しました。その結果、変異神経細胞では電位依存性電流の振幅が変化し、神経突起の分岐が異常に増加していることが確認されています。

さらに、患者由来細胞からつくった脳オルガノイド(試験管内で育てた小さな脳の模型)を解析すると、野生型と比べてサイズが顕著に縮小し、特に脳室帯の神経前駆細胞が劇的に減少していました。これは、アクチン骨格の異常が幹細胞の分裂バランス(対称分裂と非対称分裂)を狂わせ、神経前駆細胞プールの早期枯渇を招いていることを示唆しています。

7. 最新の研究動向——がん・敗血症・遺伝子治療

ACTG1は遺伝性疾患の文脈だけでなく、後天的に獲得する病気においても重要な役割を果たしていることが、近年の研究で明らかになってきました。

がんにおけるACTG1——転移・薬剤耐性の主役

がん組織でACTG1の発現が異常に高まることは、肺がん・乳がん・前立腺がん・皮膚がん・大腸がんなど多くの固形がんで報告されており、予後不良マーカーとして注目されています。とりわけ注目すべきは以下の知見です。

🎗️ 乳がんでの新たな分子軸

ACTG1は熱ショックタンパク質HSPA8と直接結合し、脱ユビキチン化酵素UCHL3を介してEMT(上皮間葉転換)を促進。CDK4/6阻害薬リボシクリブへの獲得耐性の主要因として浮上しています。

🫁 非小細胞肺がんでの作用

ACTG1はミトコンドリア外膜のMFN2タンパク質に結合してミトコンドリアの分裂を抑制し、シスプラチン耐性に寄与。ACTG1抑制はフェロトーシスを誘導し、治療抵抗性の克服に道を開きます。

敗血症との関わり

免疫細胞(マクロファージや好中球)が感染部位へ移動し、病原体を貪食するためには、アクチン細胞骨格の爆発的な再編成が必要です。敗血症の暴走状態ではこの制御が破綻している可能性があり、ACTG1の動態は敗血症進行のバイオマーカーとして急浮上しています。既存の抗がん剤(CDK阻害薬ジナシクリブなど)との組み合わせは、新しい敗血症治療パラダイムを生む可能性があります。

遺伝子治療への展望

2025年〜2026年にかけて、希少遺伝性疾患に対するアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子補充療法やCRISPR/Cas9による生体内遺伝子編集が、臨床応用へと急速に進んでいます。とくに内耳は血液迷路関門で守られた「免疫特権部位」に近い性質を持ち、AAVベクターによる局所的な遺伝子導入に向いていると考えられています。

DFNA20/26のように、出生時には正常だった細胞骨格が成熟後の機械的ストレスに耐えきれずに崩壊していくタイプの疾患は、難聴が進行する前あるいは初期段階で正常なACTG1を補充することができれば、聴力の長期維持と難聴進行の阻止が理論上可能になります。実用化はまだ研究段階ですが、希望のある展望と言えます。

8. ACTG1関連疾患の遺伝子検査

ACTG1変異の検出と病的意義の評価は、臨床遺伝専門医とバイオインフォマティクス担当者の連携によって行われます。遺伝カウンセリングを経て、適切な検査を選択することが大切です。

💡 用語解説:トリオ全エクソームシーケンス(Trio-WES)

患者本人だけでなく、両親も含めた3名(トリオ)のゲノムのうち、タンパク質をコードする領域(エクソン)全体を網羅的に解析する次世代シーケンス手法です。両親には存在せず、子どもにだけ生じた「新生(de novo)突然変異」を効率よく検出できるため、BRWS2のように多くが新生突然変異で発症する疾患の診断に特に有効です。

ミネルバクリニックで提供しているACTG1を含む検査

ACTG1遺伝子は、当院で実施している複数の遺伝子検査パネルおよびNIPT(出生前検査)のなかにカバーされています。患者さんの臨床所見やご家族歴に応じて、最適な検査を選択します。

🦻 非症候群性難聴NGSパネル

ACTG1を含む100遺伝子を網羅的に解析。難聴の原因がACTG1変異によるDFNA20/26かどうかを確認できます。

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🧠 大脳皮質形成異常NGSパネル

ACTG1・ACTB・キネシン・LIS1など42遺伝子をカバー。脳回厚小症・滑脳症の原因究明に。

詳細はこちら →

🧩 発達障害・知的障害遺伝子検査

ACTG1を含む大規模パネル。原因不明の発達遅滞や知的障害を伴うケースで活用されます。

詳細はこちら →

🤰 NIPTインペリアルプラン

ACTG1を含む154遺伝子・218疾患を出生前にスクリーニングできる最上位プランです。

詳細はこちら →

🔍 関連記事:すでに胎児や新生児でACTG1変異が疑われている場合の確定診断については、羊水検査・絨毛検査のページもあわせてご確認ください。

遺伝カウンセリングと再発リスクの説明

BRWS2の多くは新生(de novo)突然変異であるため、次のお子さんに同じ疾患が起こる確率は一般人口とほぼ同等に低いと考えられます。ただし、まれに生殖細胞モザイク(卵巣や精巣の一部の細胞だけに変異がある状態)が原因となっていることがあり、その場合は再発リスクがゼロではありません。DFNA20/26のように軽症型で遺伝する場合、お子さんに変異が受け継がれる確率は理論上50%となります。

こうした再発リスクの評価、出生前診断の選択肢、お子さまの将来見通し、心理社会的サポートまで含めて、臨床遺伝専門医がご家族とともに整理していきます。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「単なる難聴」から「全身の手がかり」へ】

ACTG1変異の話をすると、「難聴の遺伝子」と「重い症候群の遺伝子」がなぜ一緒の話なのか、最初はとまどわれる方が多いです。ですが、γアクチンが全身のすべての細胞で働いていることを知ると、見方が変わります。一見すると耳だけの問題でも、それは「全身でひっそりと進行している、より大きな現象の一部」かもしれない——そう考えるのが臨床遺伝学の視点です。

家族性の進行性難聴のお子さんを診療するとき、私はいつもACTG1のような遺伝子も含めて、できるだけ広い視野で変異を探します。たとえ難聴だけが症状でも、軽い顔貌の違いや軽度の発達特性が後から見えてくることがあります。早い段階で全体像を把握できれば、ご家族が将来直面しうる不確実性を、ずいぶん減らすことができます。これが、ACTG1という遺伝子を私が大切にしている理由です。

よくある質問(FAQ)

Q1. ACTG1遺伝子は、どのような働きをしているのですか?

ACTG1は、全身のすべての細胞にある「γアクチン」というタンパク質をつくる遺伝子です。γアクチンは、細胞が形を保ったり、動いたり、分裂したりするための「骨格」をつくる主要な材料の一つで、特に内耳の聴覚を担う有毛細胞では、生涯にわたって聴力を維持するための修復係として欠かせない役割を果たしています。

Q2. ACTG1に変異があるとどんな病気になりますか?

大きく2つの疾患が知られています。1つは聴覚以外には目立った異常を伴わないDFNA20/26(常染色体顕性の進行性感音難聴)、もう1つは特徴的な顔貌・脳形成異常・知的障害・難聴などを伴うBaraitser-Winter症候群2型です。最近の研究では、両者は連続したスペクトラム上にあると考えられています。

Q3. DFNA20/26とBaraitser-Winter症候群2型は、別の病気ですか?

かつては別の疾患と考えられていましたが、近年の研究で「同じACTG1遺伝子の変異によって生じる連続したスペクトラム」上にあると理解されつつあります。「軽度の難聴のみ」から「重篤な脳形成異常を伴う多発奇形」まで、変異の場所や種類によって表現型のグラデーションがあり、同じ家系内ですら症状の重さが大きく異なることがあります。

Q4. 我が子の難聴がACTG1由来かどうか調べるには、どうすればよいですか?

難聴の原因遺伝子は100以上知られているため、ACTG1だけを調べるよりも、複数の遺伝子をまとめて解析する非症候群性難聴NGSパネルが現実的です。ご家族の難聴歴や進行のパターンによっては、両親も含めたトリオ解析が推奨されることもあります。詳細は遺伝カウンセリング時にご相談ください。

Q5. ACTG1変異は親から子へ遺伝しますか?

変異の種類によって異なります。Baraitser-Winter症候群2型の多くは、両親には変異がなく子どもで初めて生じた新生(de novo)突然変異によるため、次のお子さんの再発リスクは低めです。一方、DFNA20/26のように軽症型では家系内で代々受け継がれることがあり、その場合は常染色体顕性遺伝として、お子さんに伝わる確率は理論上50%となります。

Q6. 家族にACTG1変異がある場合、出生前診断はできますか?

ご家族内ですでに病的変異が確定している場合は、絨毛検査や羊水検査を用いた出生前遺伝子診断によって、胎児が同じ変異を持っているかどうかを確認することができます。家族歴がないものの全身的な異常リスクを広くスクリーニングしたい場合は、ACTG1を含むNIPTインペリアルプランもご検討いただけます。

Q7. ACTG1関連の進行性難聴に対する治療法はありますか?

現時点では、進行を止めたり聴力を完全に回復させたりする根治療法は確立されていません。補聴器や人工内耳による聴覚補償が中心となります。ただし、2025〜2026年にかけて内耳をターゲットとしたAAVベクター遺伝子治療が技術的に成熟しつつあり、将来的にはACTG1関連難聴に対する根治的治療の選択肢が広がる可能性があります。

Q8. ミネルバクリニックでACTG1の検査を受けるには、どうすればよいですか?

まずは遺伝カウンセリングのご予約をお願いいたします。お子さま・ご本人の症状やご家族歴を詳しくお伺いし、ACTG1単独検査ではなく、症状に合わせた最適なパネル検査(難聴・脳形成異常・発達障害など)をご提案します。検査結果の解釈や、その後のサポートも含めて、臨床遺伝専門医が一貫して伴走いたします。

🏥 ACTG1遺伝子検査・遺伝カウンセリングについて

ACTG1遺伝子をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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