この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

大脳皮質形成異常は、おなかの中で脳がつくられるときに、神経細胞の生まれ方・移動・並び方がうまくいかず、脳のしわ(脳回)や大脳皮質の層の形が変わる病気の総称です。滑脳症・多小脳回・異所性灰白質・限局性皮質異形成などが含まれ、てんかんや発達の遅れのきっかけになります。原因の遺伝子がわかると、病名と見通しがはっきりするだけでなく、次のお子さんで同じことが起こる可能性と、次の妊娠での備え方を具体的に考えられるようになります。このページでは、症状・寿命の見通し・原因と遺伝のしかた、そして42の遺伝子を一度に調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
滑脳症・多小脳回・敷石様の皮質の変化などに関係する42の遺伝子を一度に調べ、大脳皮質形成異常の原因となる遺伝子の変化があるかを確かめます。遺伝子の小さな変化に加えて、遺伝子単位の欠失・重複も調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
MRIで脳のしわや皮質の形の異常を指摘された方、てんかんや発達の遅れがあり原因がわからない方、次のお子さんへの影響を知りたいご両親です。病型をまだ1つに絞れないときに向いています。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、次の妊娠での出生前診断(絨毛検査・羊水検査)を院内で計画できます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 大脳皮質形成異常とは
大脳皮質形成異常は、脳の表面にある大脳皮質が、おなかの中でつくられる途中でうまく形づくられなかった状態をまとめて呼ぶ名前です。英語ではmalformations of cortical development(MCD)と呼ばれます。国際的な小児神経放射線の専門家による2020年の合意文書は、これらをまれな病気のグループとし、発達の遅れなどで気づかれることが多いとしています[3]。
脳のしわ(脳回)と大脳皮質の層ができるまで
大脳皮質は、神経細胞が何層にも並んだ、脳の表面の薄い層です。おなかの中の赤ちゃんの脳では、神経細胞は脳の奥のほうで生まれ、そこから脳の表面に向かって移動し、決まった場所に並んで層をつくります。脳の表面のしわの盛り上がった部分を脳回、くぼんだ部分を脳溝といいます。
この「生まれる・移動する・並ぶ」のどこかがうまくいかないと、しわが少なくなったり(滑脳症)、細かいしわが多くなりすぎたり(多小脳回)、神経細胞が途中で止まって塊になったり(異所性灰白質)します。どの段階でつまずいたかによって、MRIで見える形と症状が変わります。
主な種類:滑脳症・多小脳回・異所性灰白質・敷石様・限局性皮質異形成
🧠 大脳皮質形成異常の主な種類
※分類と定義は、難病情報センターの神経細胞移動異常症(指定難病138)・限局性皮質異形成(指定難病137)の解説と、2020年の分類の合意文書[3]による。
滑脳症について詳しく知りたい方は滑脳症の解説ページを、多小脳回については多小脳回症の遺伝子検査のページもご覧ください。このページでは、病型をまだ1つに絞れない段階で、検査を受けるかどうかを決めるために必要なことをまとめています。
どれくらいまれな病気か
大脳皮質形成異常は、どの種類もまれな病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsでは、原因を問わない古典型の滑脳症の出生頻度を、100万出生あたり11.7〜40人と推定しています[1]。日本で滑脳症・異所性灰白質・多小脳回などを含む指定難病138「神経細胞移動異常症」の医療受給者証を持つ方は、令和元年度で100人未満とされています(難病情報センター、2026年10月時点で確認)。受給者証を持たない方もいるため、実際の患者さんの数はこれより多いと考えられます。
2. 大脳皮質形成異常の症状:てんかん・発達・運動・飲み込み
大脳皮質形成異常の主な症状は、てんかん発作、発達の遅れ・知的障害、運動の障害です。症状の程度は、形の異常がどの種類で、どれくらい広い範囲にあるかによって大きく変わります。
てんかん(点頭てんかん)
難病情報センターによると、古典型の滑脳症では、てんかん発作、特に点頭てんかんを合併することが多いとされています。PAFAH1B1遺伝子による滑脳症では、90%を超える方にてんかん発作が起こり、点頭てんかんを含むことが多く、65%を超える方で発作が薬で抑えにくいと報告されています[1]。DCX遺伝子による型でも、発作は抗てんかん薬が効きにくいことが多いとされています[2]。
発達・運動・飲み込み・呼吸
広い範囲の滑脳症では、筋肉の緊張が低く、体がやわらかい状態から始まる脳性麻痺と、知的障害を合併することが多いとされています(難病情報センター)。PAFAH1B1遺伝子による孤立性の滑脳症では、発作がよく抑えられていても、多くの場合、発達は生後3〜5か月ごろに相当する段階までにとどまると報告されています[1]。飲み込みの難しさや呼吸の弱さは、肺炎などの合併症につながるため、栄養と呼吸の管理が大切になります。
一方、多小脳回では、範囲が限られていれば症状が軽いこともあります。両側のシルビウス裂(脳の横の深い溝)のまわりの多小脳回では、口の動き・話す・飲み込むことの難しさとてんかんを伴うことが多く、軽度〜中等度の知的障害が最大で75%にみられると報告されています[4]。
軽い型と、大人になってからの症状
皮質下帯状異所性灰白質や限局性皮質異形成では、大人になってからてんかんで気づかれることもあります。皮質下帯状異所性灰白質では、てんかん発作と知的障害が主で、運動の障害は少ないとされています(難病情報センター)。発作は10歳ごろまでに始まることが多く、薬が効きにくいことがあります[1]。限局性皮質異形成は、乳幼児期から学童期に多いものの、中学生以降や大人で発症することもあるとされています(難病情報センター)。
3. 寿命と見通し:種類によって大きく違う
大脳皮質形成異常の寿命や見通しは、種類と範囲によって大きく違います。広い範囲の滑脳症では寿命が短くなることが多い一方、皮質下帯状異所性灰白質の多くの方は大人まで生活しています[1]。形の異常そのものは、基本的に進行しない(悪くなり続けない)とされています(難病情報センター)。
滑脳症の寿命
GeneReviewsによると、PAFAH1B1遺伝子による孤立性の滑脳症では、約50%の方が10歳まで生き、20歳に達する方はごく少数とされています[1]。DCX遺伝子による男性の滑脳症では、しわの厚い型の方が大人まで生きることもありますが、全体としては、発作や、呼吸・誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ること)による合併症のために、寿命が短くなるとされています[2]。
難病情報センターでは、外性器異常を伴うX連鎖性滑脳症とミラー・ディーカー症候群は、神経の症状が重く全身の状態も悪くなりやすいため、命の見通しがよくないとされています。ただし、これらは集団の数字で、お子さん一人ひとりの寿命を決めるものではありません。呼吸・栄養・発作の管理によって、経過は変わります。
多小脳回・異所性灰白質・限局性皮質異形成の見通し
多小脳回や異所性灰白質は、範囲と場所、ほかの脳の形の異常を伴うかによって、見通しの幅がとても広い病気です。限局性皮質異形成では、てんかんが進行して悪くなることは少ないものの、年齢とともに発作が軽くなることもなく、薬が効きにくい状態が続くことが多いとされています。画像で病変の場所がはっきりし、症状や脳波と一致する場合は、手術が検討されます(難病情報センター)。
治療とケア(治りますか?)
難病情報センターによると、神経細胞移動異常症に対する効果的な治療法は確立しておらず、てんかんの薬物治療、発達を支えるリハビリテーション、呼吸・栄養などの全身管理、遺伝相談が治療の基本です。脳の形そのものを元に戻す治療は、現在ありません。だからこそ、原因を確かめて、起こりうる合併症に先回りして備えることに意味があります。
4. 原因:遺伝子・染色体・妊娠中の感染
大脳皮質形成異常の原因には、遺伝子の変化、染色体の小さな欠失、妊娠中の感染などがあります。難病情報センターは、古典型の滑脳症の原因としてLIS1(PAFAH1B1)・DCX・TUBA1Aなどの遺伝子の変化を挙げ、多小脳回では遺伝子の変化のほか、先天性サイトメガロウイルス感染症や染色体の微細な欠失も原因になるとしています。
原因遺伝子の4つのグループ
このパネルの42遺伝子は、働きの面から大きく次のように分けられます。どのグループに変化が見つかるかで、遺伝のしかたや、気をつけたい合併症が変わります。
- ●神経細胞の移動にかかわる遺伝子:PAFAH1B1・DCX・ARX・RELNなど。滑脳症や皮質下帯状異所性灰白質の原因になります[1][2]。
- ●細胞の骨組み(微小管)をつくるチューブリンなどの遺伝子:TUBA1A・TUBB2B・TUBB3・TUBB2Aなど。滑脳症から多小脳回まで幅広い形の異常を起こし、まとめてチューブリン異常症と呼ばれます[4]。
- ●ジストログリカンの糖鎖をつくる遺伝子:POMT1・POMT2・POMGNT1・FKTN・FKRP・LARGE1など。敷石様の皮質異形成に、筋肉と目の病気を伴うことが多く、遺伝のしかたは常染色体潜性です[7]。日本では、先天性筋ジストロフィーの中で福山型先天性筋ジストロフィーが最も多く診断され、FKTN遺伝子の創始者変異(ある祖先に由来し、集団に広がった変化)によると記載されています[7]。
- ●多小脳回や小頭症を伴う型の遺伝子:ADGRG1・OCLN・RTTN・SNAP29・RAB18など。GeneReviewsの多小脳回の総説では、40を超える遺伝子が多小脳回に関係するとされています[4]。
染色体の欠失(ミラー・ディーカー症候群)と先天性サイトメガロウイルス感染症
17番染色体の17p13.3という場所で、PAFAH1B1遺伝子を含む大きな欠失が起こると、ミラー・ディーカー症候群になります[1]。このような大きな欠失を詳しく調べるには、染色体マイクロアレイが向いています(第6章)。
遺伝子以外の原因として、多小脳回は先天性サイトメガロウイルス感染症と関係することがよく知られています[4]。原因が感染であれば、遺伝子検査で変化は見つかりません。どちらが疑われるかは、画像の特徴や、生まれたときの検査結果も合わせて判断します。
限局性皮質異形成と「体細胞変異」:血液の検査では見つからない
限局性皮質異形成の一部は、脳の一部の細胞にだけ起きた遺伝子の変化(体細胞変異)が原因です。2015年の研究で、限局性皮質異形成II型の患者さんの脳の組織から、MTOR遺伝子の体細胞変異が見つかり、薬の効きにくいてんかんの原因になることが示されました[5]。難病情報センターも、FCDタイプ2bの一部にmTORの体細胞変異が知られているとしています。
このような変化は脳の細胞にしかないため、血液や唾液を調べるこの検査では見つかりません。また、MTORはこのパネルの42遺伝子に含まれていません。限局性皮質異形成が主な疑いの場合は、手術で取り出した脳の組織を調べる方法を、主治医とご相談ください。詳しくは体細胞モザイクの解説もご覧ください。
5. 遺伝のしかたと、次のお子さんで起こる確率
次のお子さんで同じ病気が起こる確率(再発率)は、原因の遺伝子と遺伝のしかたによって、ほぼゼロに近いものから4分の1、2分の1まで大きく変わります。原因がわからないままでは、この確率をお伝えすることができません。ここが、原因を調べるいちばん大きな理由のひとつです。
新しく起きた変化(de novo)と、親のモザイク
PAFAH1B1やチューブリンの遺伝子による型の多くは、お子さんの代で新しく起きた変化(de novo変異)によるものです[1]。ご両親の血液で同じ変化が見つからなければ、次のお子さんでの確率は低くなります。ただしゼロではありません。GeneReviewsは、ご両親のどちらかの卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある「性腺モザイク」の可能性があるため、一般の確率よりわずかに高いとしています[1]。
変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。血液で測ったモザイクの割合は、生殖細胞の割合の目安にはなりません。「新しく起きた変化だから、次は大丈夫」と小さく見積もらないことが大切です。
常染色体潜性:次のお子さんで4分の1
ジストログリカンの遺伝子[7]や、ADGRG1・OCLN・RTTNなど多小脳回に関係する遺伝子の多く[4]は、常染色体潜性(劣性)遺伝です[4][7]。この場合、ご両親はそれぞれ症状のない保因者で、次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1です。原因の変化がわかっていれば、ご両親それぞれが保因者かどうかを確かめられます。
X連鎖(DCX・ARX)
DCXとARXはX連鎖遺伝の遺伝子です。DCXの変化をもつ男性は滑脳症に、女性は皮質下帯状異所性灰白質になることが多く、女性の症状は男性より軽いことが多いとされています。お母さんが同じ変化をもっている場合、妊娠のたびに2分の1の確率で変化を受け継ぎます。お母さんの血液で変化が見つからない場合でも、性腺モザイクの可能性から、きょうだいでの再発率は5〜10%と見積もられています。DCXではモザイクがよくみられるとされています[2]。
遺伝子の変化は、誰のせいでもない
お子さんで新しく起きた変化だとわかれば、ご両親の生活や妊娠中の過ごし方のせいではないことがはっきりします。潜性遺伝の保因者であることも、誰にでもありうることです。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因を知ることは、自分を責めるためではなく、次の選択肢を増やすためのものです。
6. どんな人が受けるとよいか・どの検査を選ぶか
MRIで大脳皮質の形の異常を指摘されたものの、病型をまだ1つに絞れない方に向く検査です。滑脳症・多小脳回・敷石様の変化などの原因遺伝子を、42遺伝子まとめて一度に調べます。
受けるとよい人
- ●MRIで滑脳症・厚脳回・多小脳回・異所性灰白質・敷石様の変化などを指摘された方
- ●乳幼児期から始まった、薬の効きにくいてんかんや点頭てんかんがあり、原因がわからない方
- ●脳の形の異常に、筋力の低下や目の病気を伴う方(ジストログリカン異常症の可能性)
- ●お子さんが大脳皮質形成異常と診断され、次の妊娠でのリスクを知りたいご両親
- ●ほかの検査で原因が見つからず、診断のつかない状態が続いている方
希少な病気は、診断がつくまでに時間がかかりがちです。欧州41か国で1,675の希少疾患をもつ6,507人に尋ねた調査では、診断がつくまでに平均約4.7年かかっていました[8]。日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、全エクソーム解析を終えた5,136家系のうち2,247家系(43.8%)で最終的な診断がつきました[9]。全員に原因が見つかるわけではありませんが、原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。
また、MRIの形や家族歴、症状だけでは、どの遺伝子の変化かを決めることはできません。同じ形の異常でも、原因の遺伝子によって遺伝のしかたが違い、次のお子さんでの確率もまったく変わります。検査を受けてはじめて、次の計画が立てられます。
別の検査が向いている場合(検査の選び分け)
病型がはっきりしているときや、遺伝子以外の原因が疑われるときは、別の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は、検査の種類です。
🔍 状況に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、MRIの所見・症状・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで、臨床遺伝専門医が一緒に検討します。
7. 調べる42遺伝子と関係する病気
この検査では、次の42遺伝子を一度に調べます。表の「関係する病気」は主なもので、同じ遺伝子でも変化の種類によって症状の重さが違うことがあります。
🧬 大脳皮質形成異常NGSパネル検査で調べる42遺伝子
※「顕性」は常染色体顕性(優性)、「潜性」は常染色体潜性(劣性)。病気と遺伝のしかたは文献[1][2][4][6][7]と米国国立医学図書館(MedlinePlus Genetics)の情報による。病気との関係が報告された論文は、各行の番号の文献を参照。B3GNT2は、ヒトの病気との関係を研究中の遺伝子です。どの遺伝子に変化が見つかった場合も、遺伝カウンセリングで病名・遺伝のしかたを個別にご説明します。
8. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、42遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、遺伝子単位の大きな欠失・重複です。一方で、どの遺伝子検査にも限界があります。
- ●調べる場所:遺伝子のたんぱく質をつくる部分(エクソン)と、そのつなぎ目のすぐ近く(スプライス部位)を読みます。対象の領域の99%以上を、同じ場所を20回以上読む精度で調べます。読む回数が多いほど、読み間違いを見分けやすくなります。
- ●欠失・重複:1つの遺伝子まるごとの欠失・重複(頬の粘膜・血液)と、連続する2つ以上のエクソンの欠失・重複(血液のみ)を調べられます。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんの検査では検出の対象外です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●見つけられない変化:染色体の一部の入れ替わり(転座・逆位)、同じ配列の繰り返しが長くなる変化、遺伝子の働きを調節する領域やエクソンから離れた場所の変化は調べられません。
- ●モザイク・体細胞変異:体の一部の細胞にだけある変化を見つけることは、この検査の目的に含まれていません。限局性皮質異形成で知られる脳の体細胞変異(MTORなど)も見つかりません。がんの組織の検査には使えません。
- ●調べていない遺伝子:大脳皮質形成異常の原因になる遺伝子は42個だけではありません。たとえば脳室周囲の異所性灰白質の原因として知られるFLNAは、このパネルに含まれていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。ご希望により、VUSを報告から除く設定(無料)も選べます。
⚠️ 「陰性=大脳皮質形成異常ではない」ではありません
原因となる変化が見つからなくても、この検査で調べられない種類の変化、42遺伝子以外の遺伝子、先天性サイトメガロウイルス感染症などの遺伝子以外の原因が残ります。MRIで形の異常がある場合、陰性の結果は「この42遺伝子では原因が見つからなかった」という意味です。
9. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
陽性だったとき:病名と見通しが決まる
原因の遺伝子がわかると、病名がはっきりし、その病気で起こりやすい合併症に先回りして備えられます。たとえば、ジストログリカンの遺伝子なら筋肉と目の検査、ACTB・ACTG1によるバライツァー・ウィンター症候群なら脳以外の症状の確認、というように、受けるべき検査が決まります。バライツァー・ウィンター症候群では、80%を超える方に脳の形の異常がみられるとされています[6]。指定難病や小児慢性特定疾病の申請でも、原因が確定していることが手がかりになります(第10章)。
次の妊娠での備え:出生前診断を院内で
原因の変化がわかっていれば、次の妊娠で、赤ちゃんに同じ変化があるかを出生前に調べることができます[1][2]。原因がわからないままでは、出生前に何を調べればよいかが決められません。当院では、絨毛検査・羊水検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
赤ちゃんに新しく起きる変化は、NIPTインペリアルプランでも一部調べられます
この検査で調べる42遺伝子のうち、ACTB・ACTG1・DYNC1H1・TUBA1A・TUBB2A・TUBB4Aの6つは、当院のNIPTインペリアルプランでも調べられます(インペリアルプランで調べる単一遺伝子は最大155遺伝子)。インペリアルプランでは、赤ちゃんに新しく起きた遺伝子の変化(de novo変異)を、お母さんの血液で調べます。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。調べられる遺伝子と病気は155遺伝子のde novo変異NIPTのページでご確認いただけます。
一方で、PAFAH1B1・DCX・TUBB2B・TUBB3など、このパネルの多くの遺伝子はNIPTの対象に含まれていません。ダイヤモンドプラン(56遺伝子)には、このパネルの遺伝子は含まれていません。NIPTはスクリーニング検査なので、陽性の場合は絨毛検査・羊水検査で確かめます。ご家族で原因の変化がすでにわかっている場合は、その変化を絨毛検査・羊水検査で直接確かめるのが確実だと考えています。
きょうだいの将来と保因者検査
常染色体潜性やX連鎖の病気の場合、症状のないきょうだいが保因者である可能性があります。きょうだいが将来、結婚や妊娠を考えるときに、ご家族の原因がわかっていれば、保因者かどうかを確かめる手がかりになります。パートナーの方も含めて広く調べたい場合は、拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子、女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子)もあります。このパネルの遺伝子が保因者スクリーニングの対象かどうかは、遺伝子一覧でご確認ください。
陰性・VUSのとき
陰性の場合は、MRIの所見や症状に合わせて、範囲の広い神経細胞遊走障害のパネル、染色体マイクロアレイ、全エクソーム検査などを考えます(第6章の表)。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
10. 日本の制度(2026年10月時点)
滑脳症・異所性灰白質・多小脳回などは指定難病138「神経細胞移動異常症」に、限局性皮質異形成は指定難病137に含まれています。難病情報センターの神経細胞移動異常症のページでは、狭い意味では古典型の滑脳症を指し、広い意味では、皮質下帯状異所性灰白質と脳室周囲結節状異所性灰白質、多小脳回、敷石様皮質異形成、裂脳症、孔脳症を含むとしています(情報更新:令和7年10月)。限局性皮質異形成のページは令和6年4月に更新されています。
小児慢性特定疾病では、小児慢性特定疾病情報センターに「滑脳症」が神経・筋疾患として掲載されています。ほかの病型が対象かどうかは、小児慢性特定疾病情報センターでご確認ください(2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。
11. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。検体は唾液や頬の内側の粘膜でも調べられるため、多くの場合、オンライン診療で受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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お支払い・検体キットをお送りします
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
12. 院長コラム
🩺 院長コラム【原因を知ることは、次のお子さんのための準備です】
大脳皮質形成異常と診断されたお子さんのご両親にとって、いちばん気がかりなことの一つは、「次の子にも同じことが起こるのか」だと思います。その答えは、原因の遺伝子と遺伝のしかたによって、ほぼゼロに近いこともあれば、4分の1や2分の1のこともあります。同じように見えるMRIの所見でも、原因が違えば答えはまったく変わります。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかれば、次の妊娠での出生前診断まで、当院で続けて支えることができます。次のお子さんを考えるかどうかも含めて、どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 滑脳症の寿命はどれくらいですか?
種類によって大きく違います。PAFAH1B1遺伝子による孤立性の滑脳症では、約50%の方が10歳まで生き、20歳に達する方はごく少数と報告されています。一方、皮質下帯状異所性灰白質の多くの方は大人まで生活しています。これらは集団の数字で、お子さん一人ひとりの寿命を決めるものではありません。
Q2. 大脳皮質形成異常は指定難病ですか?
滑脳症・異所性灰白質・多小脳回などは指定難病138「神経細胞移動異常症」に、限局性皮質異形成は指定難病137に含まれています(2026年10月時点、難病情報センターの情報)。医療費の助成を受けるには、認定の条件を満たして申請する必要があります。
Q3. 遺伝しますか?次の子で起こる確率は?
原因によって違います。お子さんで新しく起きた変化なら確率は低くなりますが、ご両親の性腺モザイクの可能性があるためゼロではなく、最大で2分の1と考えます。常染色体潜性遺伝なら4分の1、X連鎖のDCXでお母さんが同じ変化をもっていれば妊娠のたびに2分の1です。原因を調べることで、ご家族ごとの確率をお伝えできます。
Q4. 次の妊娠で、出生前に調べることはできますか?
ご家族の原因となる遺伝子の変化がわかっていれば、出生前に赤ちゃんに同じ変化があるかを調べることができます。当院では絨毛検査・羊水検査を院内で行っています。原因がわからないままでは出生前に何を調べるかを決められないため、まず原因を確かめることが出発点になります。
Q5. 大脳皮質形成異常は治りますか?
脳の形そのものを元に戻す治療は、現在ありません。てんかんの薬物治療、リハビリテーション、呼吸・栄養などの全身管理が治療の基本です。限局性皮質異形成で病変の場所がはっきりしている場合は、手術が検討されることがあります。
Q6. 多小脳回症とはどんな病気ですか?
脳の表面に小さく細かいしわが多くでき、大脳皮質の層の並び方が乱れる状態です。範囲や場所によって症状の幅が広く、てんかんや、口の動き・話す・飲み込むことの難しさを伴うことがあります。原因には遺伝子の変化のほか、先天性サイトメガロウイルス感染症などもあります。
Q7. 限局性皮質異形成は、血液の遺伝子検査でわかりますか?
脳の一部の細胞にだけ起きた体細胞変異(MTORなど)が原因の場合、血液や唾液には変化がないため、血液の遺伝子検査ではわかりません。この検査でも体細胞変異は調べられないため、手術で取り出した脳の組織を調べる方法を主治医とご相談ください。
Q8. 検査で原因が見つからなかった場合はどうなりますか?
陰性でも、大脳皮質形成異常が否定されるわけではありません。この検査で調べられない種類の変化や、42遺伝子以外の遺伝子、感染などの原因が考えられます。MRIの所見や症状に合わせて、範囲の広いパネル検査、染色体マイクロアレイ、全エクソーム検査などを検討します。
🧬 原因を知って、ご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。大脳皮質形成異常の原因がわかれば、お子さんの合併症への備えや使える制度が決まり、次のお子さんで起こる確率と、次の妊娠での備え方を具体的に考えられるようになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、42遺伝子を一度に調べる検査の前後の遺伝カウンセリングから、絨毛検査・羊水検査による出生前診断まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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