この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

神経細胞移動異常症(神経細胞遊走障害)は、おなかの中の赤ちゃんの脳で、神経細胞が脳の表面へ移動する途中にうまく進めず、大脳皮質の層やしわの形が変わってしまう病気のグループです。MRIで「異所性灰白質」「滑脳症」「多小脳回」と言われ、原因を調べたいと考える方が多い病気です。この検査では、原因として知られる84の遺伝子を一度に調べます。原因の遺伝子がわかると、病名が決まり、見張るべき合併症と、次のお子さんで同じことが起こる確率が見えてきます。原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。このページでは、検査でわかること・わからないこと、遺伝のしかた、結果が出たあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
異所性灰白質・滑脳症(厚脳回)・多小脳回・敷石様の皮質の異常など、神経細胞移動異常症の原因として知られる84遺伝子に、病気の原因になる変化があるかを一度に調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
MRIで脳の形の異常を言われた方、てんかんや発達の遅れがあり脳の形の異常が見つかった方、お子さんが診断され、次の妊娠を考えているご両親、ご家族に異所性灰白質の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、唾液と頬の粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、合併症の見張り・ご家族の検査・次の妊娠での出生前診断まで具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 神経細胞移動異常症(神経細胞遊走障害)とは
神経細胞移動異常症は、胎児期に神経細胞が脳の表面へ正しく移動できないことで、大脳皮質の層の並びや脳のしわ(脳回)の形が変わる病気のグループです。日本では指定難病138に指定されています。英語では neuronal migration disorders と呼ばれ、「神経細胞遊走障害」「神経細胞移動障害」と訳されることもあります。難病情報センターは、狭い意味では古典型の滑脳症(無脳回・厚脳回)を、広い意味では異所性灰白質・多小脳回・敷石様皮質異形成・裂脳症・孔脳症を含むとしています(2026年10月時点で確認)。
胎児の脳で、神経細胞はどう移動するか
大脳の神経細胞は、脳の中心にある脳室のそばで生まれ、脳の表面に向かって移動し、表面で層をつくります。このとき神経細胞は、放射状グリア細胞という細胞が伸ばす長い突起を道しるべにして進みます。移動を進める細胞の骨組みは、チューブリンというたんぱく質でできた微小管などで、この骨組みや、移動を止める合図をつくる遺伝子に変化があると、移動がうまくいかなくなります。
2020年に発表された皮質形成異常の分類の指針では、神経細胞の移動は最初の神経細胞ができる妊娠5〜6週ごろに始まり、妊娠3〜5か月に最も盛んになり、妊娠30〜35週ごろに終わるとされています[1]。おなかの中で長い時間をかけて進むしくみなので、どの時期に、どの段階でつまずいたかによって、脳の形の変わり方が違ってきます。
脳室のそばで
神経細胞が生まれる妊娠5〜6週ごろから
▶
放射状グリアに
沿って移動妊娠3〜5か月に最も盛ん
▶
脳の表面で
層をつくる妊娠30〜35週ごろまで
移動が途中で止まると、神経細胞のかたまり(灰白質)が本来ない場所に残ります。表面まで進んでも層がうまくできないと、しわが少なくなったり、細かいしわが多くなりすぎたりします。この「どこでつまずいたか」の違いが、次の表の病型の違いです。
異所性灰白質・滑脳症(厚脳回)・多小脳回・敷石様滑脳症の違い
同じ「神経細胞の移動の病気」でも、MRIでの見え方によって呼び名が変わり、原因の遺伝子も少しずつ違います。国際的な分類の指針[1]と難病情報センターの説明をもとに、主な病型をまとめました。
🧠 神経細胞移動異常症の主な病型
※分類と「移動しすぎ」「移動の終わりごろの異常」という考え方は文献[1]による。敷石様の型は、国内では福山型先天性筋ジストロフィーに伴うことが多いとされています(難病情報センター、2026年10月時点)。
滑脳症は「滑らかな脳」という意味で、くわしくは滑脳症(Ⅰ型滑脳症)のページで解説しています。脳室の壁に灰白質が並ぶ型は脳室周囲結節状異所性灰白質1型(PVNH1)、細かいしわが多すぎる型は多小脳回症の遺伝子検査のページもご覧ください。
主な症状:てんかん・発達の遅れ・筋緊張の異常
主な症状は、てんかん発作、発達の遅れ・知的障害、筋肉の張りの異常(低緊張やつっぱり)です。ただし、病型と広がりによって症状の重さには大きな幅があり、ほとんど症状がない方もいます。難病情報センターは、古典型の滑脳症では点頭てんかん(West症候群)などのてんかん、低緊張、知的障害がみられること、脳室周囲型の異所性灰白質では症状がない例もあること、多小脳回では話しにくさや飲み込みにくさが目立つことがあることを挙げています(2026年10月時点)。
遺伝子ごとに見ると、たとえばDCXの変化をもつ方の研究では、発作は男性の83%、診断のために調べられた女性の85%にみられ、薬で抑えにくい発作は男性の49%、女性の78%でした[2]。一方、FLNAの変化による異所性灰白質では、知能は正常から境界域であることが多く、発作は平均すると10代半ばに始まると報告されています[3]。「異所性灰白質=重い障害」とは限らず、原因の遺伝子がわかると、見通しをより具体的に考えられます。
原因は遺伝子だけではない
脳の形の異常は、遺伝子の変化だけでなく、おなかの中での感染や血流の障害でも起こります。難病情報センターは、多小脳回の原因として先天性サイトメガロウイルス感染症や染色体の微細な欠失を、裂脳症・孔脳症では脳の血流の障害などを挙げています(2026年10月時点)。そのため、遺伝子検査で原因が見つからなくても、病気が否定されるわけではありません。どの検査から始めるかは、MRIの所見と妊娠中の経過をうかがって考えます。
2. この検査を受けるとよい方
MRIで脳の形の異常を言われ、その原因が遺伝子にあるかを知りたい方が、この検査の主な対象です。とくに、どの病型かまだしぼりきれない方、異所性灰白質と筋肉の病気が一緒にある方など、いくつもの原因が考えられる方に向いています。
MRIで異所性灰白質・滑脳症・多小脳回・大脳皮質形成異常と言われた方
てんかんや発達の遅れをきっかけにMRIを撮り、異所性灰白質や脳回の形の異常を指摘された方です。FLNAの変化による異所性灰白質のように、発作が始まるのが平均して10代半ばで、そのころに初めて見つかる方もいます[3]。病名がわかると、受けるべき検査、気をつけたい合併症、使える制度(指定難病・小児慢性特定疾病)が決まります。エクソーム・ゲノム検査の研究をまとめた米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の系統的レビューでも、検査の結果として最も多く報告されたのは、診療方針や、その後の妊娠・出産についての意思決定の変化でした[6]。
FLNAの変化による異所性灰白質のように、脳だけでなく心臓や血管の見張りが勧められる病気もあります。FLNAの変化をもつ方では114人のうち64.9%に心臓・血管の異常があり、約20%に胸の大動脈の拡張や瘤がみられたと報告されています[3]。原因がわかることで、脳以外の備えもできるようになります。
お子さんが診断され、次の妊娠を考えているご両親
原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる確率がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。次のお子さんの確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたで大きく変わります(くわしくは5章)。原因がわからないままでは、妊娠中に何を調べればよいかの的が決まりません。お子さんに新しく起きた変化だとわかった場合でも、ご両親の生殖細胞に同じ変化が存在する可能性は残るため、次のお子さんへの確率を個別に考える必要があります。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
この検査より別の検査が向いている場合
症状や画像の所見によっては、このパネルより別の検査のほうが原因に近づけることがあります。比べる相手は他院ではなく、検査の種類です。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、遺伝カウンセリングでMRIの所見や経過をうかがって一緒に考えます。
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
3. どの検査を選ぶ? 滑脳症・多小脳回・大脳皮質形成異常・小頭症パネルとの違い
このパネルは、当院の脳の形の異常に関するパネルの中で、神経細胞の移動に関わる遺伝子をいちばん広く調べる検査です。滑脳症パネルの15遺伝子と多小脳回パネルの7遺伝子は、すべてこの84遺伝子に含まれています。大脳皮質形成異常パネルの42遺伝子も、1つ(B3GNT2)を除いてこの84遺伝子に含まれます。小頭症パネルは、重なる遺伝子が12だけで、調べる範囲が大きく違います。
🧪 脳の形の異常を調べる当院のパネルの比べ方
※遺伝子数は2026年10月21日時点の各ページの記載による。
この84遺伝子だけに入っている遺伝子には、異所性灰白質の主な原因のFLNA、巨脳症や多小脳回にかかわるPIK3CA・PIK3R2・AKT3・CCND2、筋ジストロフィーを伴う型のLAMA2・POMGNT2・B4GAT1・ISPD・RXYLT1などがあります。てんかんが中心で脳の形の異常がはっきりしない場合は、てんかん包括的遺伝子検査が向いていることもあります。
4. 調べる84遺伝子と、それぞれでわかる病気
84遺伝子は、働きによっていくつかのグループに分けられます。グループごとに、関係する主な病気と遺伝のしかたをまとめました。遺伝子名・病気名のリンクから、それぞれの解説ページに進めます。顕性=常染色体顕性(優性)遺伝、潜性=常染色体潜性(劣性)遺伝、X連鎖=X染色体にある遺伝子による遺伝です。
チューブリン・微小管の遺伝子(チューブリン異常症)
細胞の骨組みである微小管をつくる遺伝子や、微小管の上で物を運ぶたんぱく質の遺伝子です。変化があると、滑脳症・多小脳回・皮質の形成異常などが組み合わさって起こり、まとめてチューブリン異常症と呼ばれます。
滑脳症・異所性灰白質の代表的な遺伝子(PAFAH1B1〔LIS1〕・DCX・FLNA・ARX・RELN・VLDLR)
PAFAH1B1(LIS1)遺伝子は古典型の滑脳症の代表的な原因で、この遺伝子を含む17番染色体の領域が欠けるミラー・ディッカー症候群では、特徴的な顔つきを伴う重い滑脳症が起こります(難病情報センター、2026年10月時点)。DCX遺伝子はX染色体にあり、男性では前のほうが重い滑脳症、女性では皮質下帯状異所性灰白質(二重皮質)になることが多いとされています[2]。FLNA遺伝子もX染色体にあり、変化をもつ男性の多くはおなかの中か生まれてすぐに亡くなるため、症状のある方の多くは女性です[3]。
筋肉と目の病気を伴う型(α-ジストログリカン異常症・福山型など)
筋肉の細胞の表面にあるジストログリカンというたんぱく質に糖の鎖をつける遺伝子のグループです。変化があると、敷石様の皮質の異常に、筋ジストロフィーや目の異常が組み合わさります。国内では福山型先天性筋ジストロフィーがよく知られています。このグループは潜性遺伝で、ご両親がそれぞれ保因者です。筋肉の症状が中心のときはジストログリカン関連先天性筋ジストロフィー遺伝子検査も選べます。
多小脳回・巨脳症の遺伝子(PI3K-AKT経路・ADGRG1など)
細胞が大きくなる・増える合図を伝える経路(PI3K-AKT経路)の遺伝子に変化があると、脳が大きくなる巨脳症や多小脳回が起こります。PIK3CAの変化の多くは受精したあとに起きた体の一部の細胞だけの変化(体細胞モザイク)なので、血液では見つからないことがあります(6章)。
そのほかの遺伝子
脳の形の異常を、ほかの臓器の症状と一緒に起こす症候群の遺伝子に加え、主に骨格などの異常を起こす疾患に関わる遺伝子も含まれています。ただし、この表のすべての疾患が神経細胞移動異常症に分類されるわけではありません。
🧬 症候群・代謝の病気のグループ
※病名と遺伝のしかたは、遺伝子ごとに報告されている代表的なものです。1つの遺伝子が複数の病気に関わることがあります。
このパネルに入っていない遺伝子は、追加して調べられます
神経細胞移動異常症の原因遺伝子は今も見つかり続けていて、このパネルに入っていない遺伝子もあります。たとえば、後頭部が中心の滑脳症の原因として2020年に報告されたCEP85L遺伝子[4]や、足の指の癒合・口蓋裂・発達の遅れを伴う脳室周囲結節状異所性灰白質の原因として2016年に報告されたNEDD4L遺伝子[5]は、この84遺伝子には入っていません。
このパネルに入っていないCEP85L・NEDD4L遺伝子も、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。くわしくはカスタマイズ遺伝子パネル検査をご覧ください。症状が広く、原因の遺伝子の見当がつかない場合は、全エクソーム検査も選択肢になります。
5. 遺伝するの? 次のお子さんの確率(再発率)
神経細胞移動異常症が遺伝するかどうか、次のお子さんの確率がどれくらいかは、原因の遺伝子と遺伝のしかたによって大きく違います。そのため、原因の遺伝子を確かめることが、確率を考える出発点になります。
新しく起きた変化(de novo)と、ご両親の生殖細胞のモザイク
顕性遺伝の型では、ご両親のどちらも変化をもっておらず、お子さんで初めて起きた変化(de novo変異)であることがよくあります。その場合も、次のお子さんの確率はゼロではありません。ご両親の卵子や精子のもとになる細胞の一部だけに変化がある「性腺モザイク」の場合があるためです。
たとえばDCXでは、お母さんの血液で変化が見つからなかった場合でも、きょうだいでの再発率は5〜10%と見積もられています[2]。これは多くの家族をまとめて見積もった数字で、目の前のご両親一人ひとりの上限ではありません。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
常染色体潜性(劣性)遺伝の型:ご両親とも保因者なら4分の1
ジストログリカン異常症(福山型など)・RELN・VLDLRなどの潜性遺伝の型では、ご両親がそれぞれ1つずつ変化をもつ保因者で、次のお子さんで同じ病気が起こる確率は妊娠ごとに4分の1です。常染色体潜性遺伝では、ご両親は症状がなく、家族歴がないことがほとんどです。お子さんの原因がわかれば、ご両親が本当に保因者かを確かめ、きょうだいが将来、結婚や出産を考えるときに保因者かどうかを調べる手がかりにもなります。
X連鎖の型(DCX・FLNA・ARX):女性と男性で出方が違う
X染色体にある遺伝子の型では、女性と男性で症状の出方が違います。DCXでは、変化をもつお母さんから、妊娠ごとに2分の1の確率で変化が受け継がれます[2]。お子さんが診断されたお母さんの研究では、25人のうち14人(56%)は症状がなく、脳のMRIも正常でした[2]。お母さんに症状がないからといって、変化をもっていないとは言えません。
FLNAでは、異所性灰白質のある女性の約半数は、お母さんから変化を受け継いでいるとされています。変化をもつ女性のお子さんは、それぞれ2分の1の確率で変化を受け継ぎますが、男の子はおなかの中で亡くなることが多いため、生まれてくる息子さんの多くは変化をもっていません[3]。
家族に異所性灰白質の人がいる方へ(自分も・子どもも・結婚)
お母さんやきょうだいに異所性灰白質があると、「自分も同じ変化をもっているのでは」「子どもに伝わるのでは」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。FLNAによる異所性灰白質のように、知能は正常から境界域のことが多く、発作が始まるのが平均して10代半ばという病気では[3]、ご本人が結婚や出産を考える年齢で気になりはじめることもあります。
ご家族の原因の変化がわかっていれば、その変化だけをピンポイントで調べられます。受け継いでいないとわかれば、その病気について、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。受け継いでいるとわかった場合は、FLNAなら心臓の超音波検査などで心臓・血管を見張ることが勧められており[3]、妊娠を考えるときには出生前診断まで計画できます。知らないでいることも、選べる選択肢です。
💡 結婚と遺伝について
遺伝の確率は、病気とご家族ごとに違います。検査でわかるのは、ご自身が変化をもっているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か(潜性遺伝のとき)、お子さんへの確率がどれくらいか、といったことです。知ったうえで、出生前診断などの選択肢を考えることができます。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。当院は、どの選択も尊重します。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、84遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、オプションで調べる遺伝子の一部または全体の欠失・重複です。一方で、次のような変化は見つけられないか、見つけにくいことがあります。遺伝子検査(遺伝学的検査)の一般的なしくみもご覧ください。
- ●体の一部の細胞だけの変化(モザイク):この検査は、体の一部の細胞だけにある変化を見つけるようには作られていません。とくにPIK3CAの変化の多くは受精後に起きたモザイクなので、血液で見つからなくても、PIK3CAに関わる病気は否定できません。病変のある組織を調べる必要がある場合があります。
- ●大きな構造の変化:染色体の転座や逆位、繰り返し配列が長くなる変化、遺伝子の働きを調節する領域や、遺伝子の端から20塩基より奥の変化は調べられません。
- ●1つのエクソンだけの欠失・重複:見つかることもありますが、いつも見つけられるわけではありません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●似た配列の影響:よく似た配列(偽遺伝子など)があると、まれに判定のじゃまになることがあります。
- ●84遺伝子以外の原因:パネルに入っていない遺伝子や、先天性サイトメガロウイルス感染などの遺伝子以外の原因は調べられません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
この検査で調べられる範囲の99%以上を、同じ場所を20回以上読み取る精度で調べています(≥99% at 20x)。読み取りの質が低い部分は、サンガー法という別の方法で確かめます。陰性(原因が見つからない)でも、神経細胞移動異常症が否定されるわけではありません。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果の報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の方針をご覧ください。
病的変異が見つかったら、次にできること
原因がわかると、「わかって終わり」ではなく、ご本人とご家族それぞれに次にできることが決まります。
- ●①ご本人(症状のある方):病的変異と症状・画像所見が一致すれば診断の確定につながり、原因疾患に応じて見張るべき合併症と時期を具体的に考えられます。たとえばFLNAなら心臓・血管(心臓の超音波検査)、腸の動き、肺、出血のしやすさの見張りが勧められています[3]。ジストログリカン異常症なら筋肉と目、てんかんのある型なら発作の見張りです。治療やリハビリ、発達の支援は、専門の医療機関で受けていただきます。指定難病・小児慢性特定疾病などの制度の対象かも確かめられます(9章)。
- ●②症状のないご本人(家族歴で受けた方・保因者だった方):FLNAの変化をもつ女性など、ご自身の健康で気をつけることがわかります。潜性遺伝の型なら、パートナーが同じ遺伝子の保因者かを調べられます(拡大版保因者スクリーニングの対象かは遺伝子一覧でご確認ください)。
- ●③子どもを持つときの選択肢:自然に妊娠して、妊娠中に赤ちゃんで同じ変化があるかを調べる出生前診断を受けることができます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。原因の遺伝子が当院のNIPTの対象なら、NIPTも選べます(8章)。何もしないで産むことも、そのまま選べる選択肢です。
- ●④ご家族:ご両親・きょうだい・いとこが同じ変化をもっているかを、ピンポイントで調べられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
- ●⑤当院でのその後:結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)です。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
陰性だったとき
84遺伝子に原因が見つからなかった場合でも、病気が否定されるわけではありません。考えられる理由は、パネルに入っていない遺伝子が原因、体の一部の細胞だけの変化、この検査で見つけにくい種類の変化、遺伝子以外の原因(感染や血流の障害)などです。次の選択肢として、遺伝子の追加、全エクソーム検査、マイクロアレイ染色体検査などをご説明します。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUS(意義がまだわからない変化)は、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査や出生前診断の的にしたりはしません。ご両親が同じ変化をもっているかを調べることで、判断の手がかりになることがあります。研究が進むと、同じ変化の評価が変わる(再分類される)こともあります。
8. NIPT・出生前診断とのつながり
この84遺伝子のうち17遺伝子は、当院のNIPTのインペリアルプランでも調べられます。ダイヤモンドプランで調べられるのは、そのうちCHD7・FGFR3・NSDHLの3遺伝子です。新しく起きた変化(de novo)による病気が多いため、次のお子さん・ご夫婦の妊娠のときの選択肢になります。
🤰 当院のNIPTで調べられる遺伝子(このパネルの84遺伝子のうち)
※滑脳症の代表的な原因であるPAFAH1B1(LIS1)とDCXは、どちらのプランにも入っていません。2つのプランの違いはインペリアルプランとダイヤモンドプランの違いをご覧ください。
当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。NIPTは赤ちゃんの病気をすべて調べられる検査ではなく、調べられるのは各プランの対象の遺伝子に限られます。陽性なら、確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で受けられます。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。妊娠中にエコーや胎児MRIで脳の異常を言われた方には、出生前全エクソーム検査や出生前全ゲノム検査もあります。神経細胞の移動は妊娠30〜35週ごろまで続くため[1]、妊娠の早い時期の超音波だけでは、脳の形の異常があるかを決めきれないことがあります。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
神経細胞移動異常症は、指定難病138に指定されています。難病情報センターによると、対象は古典型の滑脳症(無脳回・厚脳回)、異所性灰白質(皮質下帯状型・脳室周囲結節状型)、多小脳回、敷石様皮質異形成、裂脳症、孔脳症で、医療費助成の重症度は、てんかんの精神保健福祉手帳の等級と障害支援区分の評価の組み合わせで判定されます(情報更新日:令和7年10月、2026年10月時点で確認)。
また、小児慢性特定疾病の「脳形成障害」には、滑脳症・裂脳症・片側巨脳症・限局性皮質異形成・巨脳症-毛細血管奇形症候群・CASK異常症などが掲載されています。福山型先天性筋ジストロフィーなどは、筋疾患の「先天性を含む筋ジストロフィー」に含まれています(小児慢性特定疾病情報センター、2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。くわしくは、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・抽出したDNA・頬の内側の粘膜・唾液のいずれかで、唾液・頬の粘膜・血液はいずれもオンライン診療で受けられます。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取唾液・頬の粘膜・血液
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、ご自身の判断で先に検体を採らないでください。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【脳の画像だけでは、次の一手は決まらない】
MRIで「異所性灰白質」「滑脳症」と言われても、それだけでは、どの遺伝子が原因か、次のお子さんで同じことが起こるのか、ご家族に同じ変化をもつ人がいるのかはわかりません。同じように見える脳の形でも、原因の遺伝子が違えば、遺伝のしかたも、見張るべき合併症もまったく違います。だから私は、画像の名前で止まらず、原因まで確かめることに意味があると考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。見た目や家族歴だけでは判断できないのです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因がわかれば、次の妊娠でどう備えるかを具体的に考えられます。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 異所性灰白質は遺伝しますか?
原因によります。脳室周囲結節状異所性灰白質の代表的な原因であるFLNA遺伝子はX染色体にあり、変化をもつ女性のお子さんは、それぞれ2分の1の確率で変化を受け継ぎます。異所性灰白質のある女性の約半数はお母さんから受け継いでいるとされます。一方で、お子さんで新しく起きた変化のこともあります。原因の遺伝子を調べることで、遺伝する確率を具体的に考えられます。
Q2. 症状がほとんどない異所性灰白質でも、遺伝子検査を受ける意味はありますか?
あります。FLNAの変化による異所性灰白質では、知能は正常から境界域であることが多い一方で、心臓・血管の異常が報告されており、心臓の超音波検査などで見張ることが勧められています。原因がわかれば、ご自身の健康管理と、お子さんへの確率を考える手がかりになります。
Q3. 胎児のエコーやMRIで脳の異常を言われました。どうすればよいですか?
まず、どのような所見かを主治医に確かめてください。原因を調べる方法として、羊水検査・絨毛検査で採った赤ちゃんの細胞を使う出生前の遺伝子検査があります。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っており、出生前全エクソーム検査などもご相談いただけます。神経細胞の移動は妊娠30〜35週ごろまで続くため、早い時期の画像だけでは判断しきれないこともあります。
Q4. 家族に神経細胞移動異常症の人がいると、結婚に差し支えますか?
遺伝の確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたによって違い、検査でわかることがあります。ご家族の原因の変化がわかっていれば、ご自身が同じ変化をもっているかをピンポイントで調べられます。潜性遺伝の型なら、パートナーが保因者かどうかも調べられます。知ったうえで、出生前診断などの選択肢を考えることができます。
Q5. このパネルに入っていない遺伝子も調べられますか?
はい。このパネルに入っていない遺伝子も、追加して調べることができます。たとえば、2020年に滑脳症の原因として報告されたCEP85L遺伝子や、2016年に異所性灰白質の原因として報告されたNEDD4L遺伝子は、この84遺伝子に入っていません。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。
Q6. 滑脳症パネルや大脳皮質形成異常パネルとは、どう違いますか?
滑脳症パネルの15遺伝子と多小脳回パネルの7遺伝子は、すべてこの84遺伝子に含まれます。大脳皮質形成異常パネルの42遺伝子も、1つを除いて含まれます。このパネルは、FLNA(異所性灰白質)やPIK3CA(巨脳症)なども含む、いちばん広い入口です。病型がはっきりしているときは、しぼったパネルを選ぶこともできます。
Q7. 検査の費用はいくらですか?保険は使えますか?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q8. 結果はどのように説明されますか?
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果の意味、ご家族への影響、次にできることまでご説明します。結果は基本的に日本語版でお渡しし、英語の原本が必要な方には英語版をお渡しします(検査の時にお申し出ください)。
🧬 一度の検査で、ご本人とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。神経細胞移動異常症の原因がわかれば、合併症への備えだけでなく、ご家族の検査や、次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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