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複雑性皮質形成異常・脳奇形5(CDCBM5/TUBB2A遺伝子)とは?症状・遺伝・再発リスクを遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床のなかで、のべ10万人以上の診療・相談に携わってきました。出生前診断と遺伝カウンセリングを、医学的根拠に基づいて提供します。

複雑性皮質形成異常・脳奇形5(CDCBM5:しーでぃーしーびーえむふぁいぶ)は、6番染色体にあるTUBB2A遺伝子の変化によって、赤ちゃんの脳が胎内でつくられていく過程がうまく進まず、重い発達の遅れ・言葉の遅れ・乳児期から始まる難治性のてんかんを起こす、とてもまれな生まれつきの脳の病気です[1]。TUBB2A遺伝子は、脳の神経細胞が正しい場所へ移動するための「レール」である微小管(びしょうかん)の材料をつくる遺伝子で、この材料に不具合が起きると脳の設計図全体が乱れてしまいます[2]。この記事では、病気のしくみから症状、脳のMRI所見、よく似た病気との見分け方、生まれる前に何がわかるのか、そして「両親の血液検査が陰性でも再発リスクがゼロとは限らない」理由までを、遺伝専門医が医学的根拠に基づいて解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧠Q. 複雑性皮質形成異常・脳奇形5(CDCBM5)とは?

6番染色体のTUBB2A遺伝子の変化で、脳の神経細胞の「移動」がうまくいかず、大脳皮質の形づくりが乱れる常染色体顕性(優性)の脳形成異常です。重い知的障害・言葉の遅れ・乳児期からの難治性てんかんが特徴で、脳のMRIでさまざまな形の異常が見つかります。

👨‍👩‍👧Q. きょうだいにも起こりますか?(再発リスク)

多くは赤ちゃんに新しく起きた変化(新生変異・de novo)ですが、両親の血液検査が陰性でも「性腺モザイク」のために、次のお子さんに再発することがまれにあります。両親の血液で変異が検出されない場合でも、再発リスクは一般集団よりわずかに高いと考えられますが、TUBB2Aに固有の正確な再発率は確立していません。だからこそ遺伝カウンセリングが大切です。

🌸Q. 生まれる前に調べられますか?

染色体の数を調べる一般的なNIPTではわかりません。ご家族ですでにTUBB2Aの変化が特定されている場合には、羊水検査・絨毛検査による出生前診断や、着床前遺伝学的検査(PGT-M)が選択肢になります。まずは遺伝カウンセリングで検査の適応と選択肢を整理します。

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1. 複雑性皮質形成異常・脳奇形5とは:まず全体像をつかむ

複雑性皮質形成異常・脳奇形5(Complex cortical dysplasia with other brain malformations 5:CDCBM5、OMIM 615763)は、脳の中でいちばん外側にあってものを考えたり感じたりする「大脳皮質」の形づくりが、赤ちゃんの胎内で正しく進まないために起こる、生まれつきの脳の病気です[1]。原因は、6番染色体(6p25.2)にあるTUBB2A遺伝子の変化で、この遺伝子は脳の細胞の骨組みをつくる「β(ベータ)チューブリン」というタンパク質の設計図です[2][7]

大脳皮質ができあがるには、脳の奥で生まれた神経細胞が、決められた場所まで長い距離を「移動(遊走)」し、正しい層をつくって並ぶ必要があります[2]。この引っ越しのレールになるのが微小管で、その材料であるチューブリンに変化が起きると、神経細胞が目的地にたどり着けず、脳の構造そのものが乱れてしまいます。こうして起こるさまざまな大脳皮質形成異常と、それに伴う重い発達の遅れ・難治性てんかんが、CDCBM5の中心的な姿です[1]

「チューブリン異常症」という大きな家族の一員

CDCBM5は、単独でぽつんと存在する病気ではありません。微小管をつくるチューブリン遺伝子の仲間(TUBA1A、TUBB2B、TUBB3、TUBBなど)の変化で起こる、脳形成異常のグループ――「チューブリン異常症(tubulinopathy)」――の一員です[4]。これらの病気は、無脳回・厚脳回(脳のシワが極端に少ない)から、多小脳回(シワが細かすぎる)、さらには一見ほとんど正常に見える皮質まで、とても幅広い脳の形の異常を示し、てんかん・脳梁(左右の脳をつなぐ橋)の異常・小脳の低形成などをしばしば伴います[5]

CDCBM5の存在が最初に示されたのは2014年、Cushionらの研究です。彼らは、乳児期に発症したてんかんと脳の形の異常をもつ2人の患者さんで、TUBB2A遺伝子に新しく生じた(de novo)変化を見つけ、TUBB2Aがチューブリン異常症の原因遺伝子のひとつであることを初めて明らかにしました[3]。この記事では、原因となるTUBB2A遺伝子そのものの詳しい分子生物学TUBB2A遺伝子の解説ページで、病気のグループ全体の考え方チューブリン異常症の解説ページで、それぞれより深く扱っています。あわせてお読みいただくと理解が立体的になります。

💡 用語解説:大脳皮質形成異常(皮質のかたちの病気)とは

大脳皮質(脳のいちばん外側の層)が、胎内でつくられる過程でうまく形づくられない病気の総称です。神経細胞が生まれ、決まった場所へ移動し、正しい層に並ぶ――この精密な工程のどこかでつまずくと、シワの数や厚さ、並び方に異常があらわれます。CDCBM5はそのなかでも、微小管の材料(TUBB2A)の不具合が原因で「神経細胞の引っ越し」に問題が起こるタイプです。大脳皮質形成異常のNGSパネル検査では、こうした多数の脳形成異常の原因遺伝子を一度に調べられます。

2. 原因遺伝子TUBB2Aと「脳内レール」のしくみ

TUBB2A遺伝子は、β-チューブリン(クラスIIa)というタンパク質の設計図です[2]。β-チューブリンは、相棒のα(アルファ)-チューブリンとペア(二量体)を組み、それがレンガのように積み重なって、細くて丈夫な管――微小管――をつくります。微小管は細胞の骨組みであると同時に、細胞の中で物を運ぶ「線路」であり、細胞が分裂するときや移動するときに引っぱる力を生む「牽引装置」でもあります[2]

脳の発達において、この微小管の役割は決定的です。神経細胞が奥から表面へと移動(遊走)するときのレールになり、神経細胞が伸ばす電線(軸索)が正しい相手へ届く軸索誘導を導きます[3]。TUBB2Aは脳で高く発現し、β-チューブリン全体の約3割を占めるとされています[2]。また、RNA解析では成人期の神経細胞でも高い発現が維持されることが報告されています[11]。この持続的な発現は、TUBB2A関連疾患で出生後にも神経機能への影響が続きうることを考えるうえで重要です。

「脳内レール(微小管)」が乱れると、神経細胞が迷子になる ① 正常:レールに沿って表面へ移動 まっすぐなレールで整然と到着 皮質:きれいな層ができる ② CDCBM5:レールが途切れ・ゆがむ 不良チューブリンが混ざりレールが乱れる 皮質:層が乱れ、形が崩れる

CDCBM5では、変異でつくられた不良なβ-チューブリンが正常なものに混ざり込み、微小管というレールの働きを乱します。その結果、神経細胞が目的地にたどり着けず、大脳皮質の層構造が崩れてしまいます。

では、TUBB2Aの変化はどのように悪さをするのでしょうか。ポイントは、「遺伝子がなくなる(欠ける)」タイプの問題ではないという点です。研究では、TUBB2Aの病的バリアントの多くはミスセンス変異で、変異ごとにα/β-チューブリン二量体の形成や微小管への組み込み、微小管動態への影響が異なることが示されています[3][11]。したがって、CDCBM5の病態を一律に「ドミナントネガティブ効果(優性阻害)」だけで説明するのは正確ではありません。変異タンパク質が正常な微小管機能を妨げる場合もありますが、二量体形成や重合への組み込み自体が障害される場合もあります。ドミナントネガティブ効果(優性阻害)の一般的な仕組みも参照してください。たとえばp.Asn247Lysでは、変異TUBB2Aが微小管ネットワークへ組み込まれず、細胞質に非重合状態で残ることが実験的に示されています[3]

💡 用語解説:ドミナントネガティブ(優性阻害)とは

2本ある遺伝子のうち片方に変化が起きたとき、「働きが半分に減る」のではなく、変化した側からつくられる不良品が正常品の足を引っぱって、全体の働きを台無しにしてしまうタイプの現象です。チューブリン異常症では、変異タンパク質が正常な微小管機能を妨げる優性阻害が病態に関与することがあります。ただしTUBB2Aでは、バリアントによってはα/β二量体の形成や微小管への組み込み自体が障害されるため、すべてを同じ機序で説明することはできません。くわしくはドミナントネガティブの解説ページをご覧ください。

変異が集まりやすい「急所」――Arg391

近年の国際的な研究で、TUBB2Aには変異が集中しやすい「急所(ホットスポット)」があることがわかってきました。それがp.Arg391His(c.1172G>A)という変化です[6]。391番目のアルギニンという場所は、α-チューブリンとβ-チューブリンががっちり結合してペアをつくる「継ぎ手(E-site界面)」にあたる、きわめて重要な接合面です[6]。ここが別のアミノ酸(ヒスチジン)に置き換わると、コンピュータによる立体構造の計算でも、ペアの結びつきが弱まり、微小管という建物の基礎がぐらつくことが示されています[6]。レンガとレンガの継ぎ目のセメントが弱くなるようなもので、脳全体に及ぶ広い発達の障害につながります。

💡 ここが核心:「壊れる」のではなく「混ざって邪魔をする」

CDCBM5では、TUBB2Aバリアントによってα/β-チューブリン二量体の形成、微小管への組み込み、微小管の動態などが障害されることが病態の中心です[3][11]。影響の仕方はバリアントごとに異なり、その結果として神経細胞の移動や軸索形成、大脳皮質の層構造に異常が生じます。だからこそ、「どこに・どんなタイプの変異があるか」を正確に読み解く分子診断が、診断と将来の見通しを考えるうえで重要です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「たった一文字」がなぜ脳全体を変えるのか】

遺伝子のほんの一か所――たった一文字の変化が、なぜ脳という巨大な臓器全体の形成に影響しうるのか。遺伝医学では重要な問いのひとつです。臨床遺伝専門医として文献を踏まえると、「同じ遺伝子でも、変異の位置と性質によって機能への影響や表現型が変わりうる」という考え方は、CDCBM5の理解にも重要です。チューブリンは脳の「基礎工事」を担う部品なので、その部品の設計図がわずかにずれるだけで、建物全体(脳)の設計が狂ってしまう。臨床遺伝専門医として文献を踏まえると、CDCBM5はまさにその典型で、だからこそ「変異のタイプまで読み解く」検査が意味を持つのです。

3. CDCBM5の主な症状:脳の発達と全身への影響

CDCBM5の症状は、中枢神経系(脳)を中心に多岐にわたります。現れ方には個人差がありますが、いくつかの中心的な特徴が非常に高い割合でみられます[5]。以下の割合は、これまでに報告された少数の患者さんのまとまり(コホート)での数字であり、症例数が限られる超希少疾患であることを踏まえてお読みください。

発達の遅れと知的障害

CDCBM5では、ほぼすべての患者さんに、広い範囲の発達の遅れ(全般的発達遅滞)と知的障害がみられます[5]。程度は軽度から重度までありますが、全体としては重い傾向で、報告コホートでは大多数が中等度から重度に分類されています[6]。とくに言葉の発達への影響は大きく、多くの患者さんで言語障害が認められ、発語がまったく育たないお子さんも報告されています[6]。これは、皮質の形成異常や、脳の配線ネットワークの未発達が、言語や高次の脳機能に大きく影響するためと考えられます。

てんかん――CDCBM5の際立った特徴

てんかん(けいれん発作)は、CDCBM5でとりわけ重要な症状です。Brockらの12人の患者さんの報告では、11人(91.7%)が生後まもない時期にてんかんを発症しました[5]。注目すべきは発症の早さと、薬でおさえにくい「難治性」であることです。前述のCushionら(2014年)の報告では、TUBB2Aの変異がヒプスアリスミア(無秩序で高い波の異常脳波)を伴う点頭てんかん(ウエスト症候群)を引き起こすことが示されました[3]

実は、脳のシワが単純化するタイプ(単純化脳回パターン)の他の病気では、てんかんの合併は3割未満にとどまることが多いと知られています[4]。ところがTUBB2A変異ではてんかんの頻度が際立って高く、しかも早期から脳の発達を妨げる「発達性てんかん性脳症」の姿をとります[4]。これはTUBB2Aに特徴的な、いわば病気の「サイン(signature)」です。てんかんそのものの一般的な解説は発達性てんかん性脳症のページもあわせてご覧ください。

運動・筋緊張の異常と、その他の合併症

運動面では、乳児期には体幹の筋緊張の低下(ぐにゃっとして力が入りにくい)がみられる一方、手足には痙縮(つっぱり)が混じることがあります[5]。座る・寝返るといった運動の節目が大きく遅れ、Brockらの報告では重度の運動発達遅滞があった11人のうち4人(36.4%)が自力歩行に至らず、車椅子などを必要としました[5]。目の症状としては斜視や眼振がしばしばみられますが、別のチューブリン異常症(TUBB3変異)に典型的な「外眼筋の先天性線維化」はCDCBM5では典型的でないとされ、鑑別の手がかりになります[5]。また、社会性やコミュニケーションに関わる自閉スペクトラム症の特性を伴うことも報告されています[6]

体のシステム 主な症状・所見
認知・発達 広範な発達遅滞、中等度〜重度の知的障害、著しい言語障害(無発語のことも)[5]
てんかん・脳波 乳児期発症の難治性てんかん、点頭てんかん(ウエスト症候群)、ヒプスアリスミア[3]
運動・筋緊張 体幹の筋緊張低下、四肢の痙縮、運動発達の著しい遅れ、非歩行例あり[5]
眼・行動 斜視・眼振、自閉スペクトラム症の特性、出生後の小頭症を伴うことがある[6]

4. 脳画像(MRI)の特徴:とても幅広い「見た目」

CDCBM5の診断と重症度の把握には、頭部MRI(磁気を使った脳の画像検査)が決定的な役割をはたします。チューブリン異常症全般に言えることですが、画像の「見た目」は驚くほど多様で、脳のシワがほとんどない状態から、一見正常に見える皮質まで、幅広い範囲に広がります[5]

ここでとても大切な点があります。Brockらの報告では、明らかな重い知的障害・運動の遅れ・てんかんをもっているにもかかわらず、12人中5人では大脳皮質の大まかな構造は「正常」に見えたのです[5]。これは、MRIで見える大きな形が保たれていても、顕微鏡レベルの層の乱れや、微小管の不具合による配線の異常など、「見た目には映らない障害」が起きていることを強く示しています。「MRIが正常だから軽症」とは限らない――これはご家族にも医療者にも重要なメッセージです。

🧠 大脳皮質

  • 脳回形成異常(ディスジリア:シワの深さや向きが不規則)
  • 単純化脳回パターン(シワが少なく平滑)
  • 厚脳回・多小脳回様の所見
  • ※一部の患者では巨視的に正常に見える

🌉 脳梁(左右をつなぐ橋)

  • 脳梁が薄い(菲薄化)
  • 形がいびつ(形態異常)
  • 部分的または完全に欠ける(無形成)

⚙️ 大脳基底核・視床

  • 基底核が球状になる
  • 尾状核と被殻の癒合(線条体の融合)
  • 左右差(非対称性)

🔻 小脳・脳幹・頭蓋

  • 小脳虫部・半球の低形成
  • 橋(きょう)の平坦化
  • 出生後の小頭症、脳室の拡大

※「尾状核(びじょうかく)」「被殻(ひかく)」は大脳の奥にある運動調整に関わる部分、「虫部(ちゅうぶ)」は小脳の中央部分、「橋(きょう)」は脳幹の一部です。基底核の球状化や線条体の融合は、チューブリン異常症に共通して高頻度にみられる特徴とされます[9]

なお、以前の少数例の報告で「小脳の進行性の萎縮」が観察されたことがあり、CDCBM5が胎内の一時的な形成異常にとどまらず出生後も続く変化の可能性が示唆されています[1]。ただし、Brockらの12人のコホートでは進行性の小脳萎縮を示した患者さんはいませんでした[5]。まだ症例数が少なく、この点は今後の研究で明らかになっていく段階です。

5. 似た病気との違い(鑑別診断)

「複雑性皮質形成異常・脳奇形(CDCBM)」という病名は、原因遺伝子の違いによってCDCBM1〜15以上に細かく分類されています[5]。これらはどれも「神経細胞の移動と配線の乱れ」を共通の背景にもつため、MRIの所見や症状(知的障害・筋緊張低下・斜視など)が高度に重なります。だからこそ、症状と画像だけで決めつけず、遺伝子検査でどの遺伝子に変化があるかを確かめることが、正確な診断・将来の見通し・適切な遺伝カウンセリングのために欠かせません[5]

同じチューブリンの仲間との違い

  • TUBB2B変異(CDCBM7):TUBB2Aと非常に近い親戚の遺伝子です。厚脳回や多小脳回様の所見を示し症状もよく似ますが、胎児期からの小頭症や脳梁欠損など、脳奇形がより重い傾向があります[5]
  • TUBB3変異:大脳皮質の異常に加えて、外眼筋の先天性線維化(目を動かす筋肉が硬くなる)や顔面神経のまひなど、特定の脳神経の異常を強く伴う傾向があります[4]。CDCBM5では斜視は見られても、この外眼筋の線維化は典型的でない、という点が鑑別のポイントです[5]
  • TUBA1A変異(滑脳症3型):α-チューブリン側の変異で、脳のシワが極端に少ない滑脳症を中心とした重い皮質形成異常を起こします。同じ「レールの部品」の病気として理解できます。

「レールを走るモーター」側の病気

微小管という「レール」そのものではなく、レールの上を動く「モーター(運搬役)」の遺伝子に変化があっても、結果として似た脳の病気になります。DYNC1H1変異によるCDCBM13は、ダイニンというモーターの不具合で、重い知的障害と神経細胞の移動障害を起こします[4]。また、CDCBM1など、他のタイプも同じグループに含まれます。こうした「レール」と「モーター」の関係を整理して考えられるのが、遺伝子検査に基づく診断の強みです。

このように、CDCBM5の確定診断には、複数の遺伝子を一度に調べるパネル検査や、全エクソーム/全ゲノム解析が欠かせません[5]。当院の神経細胞遊走障害NGSパネル大脳皮質形成異常NGSパネルは、こうした鑑別を効率よく進めるための検査です。

6. 遺伝のしくみと再発リスク:ここが最重要

CDCBM5は常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。2本ある遺伝子のうち片方に病的な変化があるだけで発症します[1]。これまで報告された多くの患者さんでは、家系内に同じ病気の人はおらず、赤ちゃんに新しく生じた変化(新生変異・de novo)が原因と考えられてきました[3]。実際、チューブリン異常症全体でも95%以上がde novoと報告されています[4]。新生変異についての一般的な解説はde novo変異のページもご覧ください。

⚠️ ここが最重要:血液検査が陰性でも「性腺モザイク」に注意

「新生変異だから、次の子には関係ない」と考えるのは、実は危険な早合点です。両親の血液(末梢血)検査では変異が見つからなくても、卵子や精子をつくる細胞の一部にだけ変異がひそんでいる「性腺モザイク(germline mosaicism)」が存在しうるからです[4]。この場合、次のお子さんにも同じ変異が受け継がれ、再発することがあります。くわしくは性腺モザイクの解説ページをご覧ください。

実際、TUBB2Aを含むチューブリン異常症では、両親の末梢血で変異が検出されなくても、性腺モザイクのため再発リスクはゼロではないとされています[4]。TUBB2Aに固有の正確な再発率は確立していません。また、TUBB2Aでは、両親ともに健康で血液検査も陰性なのに、同じ変異(p.Arg391His)をもつ複数のきょうだいが生まれた家系が報告されています[6]。このため、再発リスクは低いと考えられる場合でもゼロとは言えません。末梢血が陰性という結果だけで「もう心配ない」と結論づけないことが、次の妊娠を考えるうえで本当に大切です。

性腺モザイク:血液は陰性でも、生殖細胞に変異がひそむ 親の血液(末梢血) 検査:陰性(変異なし) 性腺(卵子・精子をつくる) 一部の細胞に変異(赤)が混在

親の血液を調べても変異は見つからない(陰性)のに、卵子や精子をつくる性腺の一部にだけ変異細胞(赤)が混ざっていることがあります。これが「性腺モザイク」で、次の子への再発リスクがゼロにならない理由です。

この事実は、CDCBM5の遺伝カウンセリングで必ずお伝えすべき、きわめて重要なポイントです。次の妊娠を希望されるご家族には、着床前遺伝学的検査(PGT-M)や、羊水検査・絨毛検査による出生前診断という選択肢を、正確な情報とともにご提示します[4]。遺伝カウンセリングでは、発症した本人から子への50%の伝達確率と、両親の末梢血で変異が検出されない場合の再発リスクを区別し、出生前診断やPGT-Mを含む選択肢を医学的に整理して説明します。遺伝カウンセリングとはもあわせてご覧ください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「陰性でした」で終わらせない】

「両親の検査は陰性でしたから、次のお子さんは大丈夫です」――この一言が、どれほど大きな意味をもつか。だからこそ、性腺モザイクの可能性を飛ばして安易に言い切ることはできません。臨床遺伝専門医として重視しているのは、「検査結果は、正しく解釈されて初めて意味をもつ」という原則です。末梢血の陰性は「血液の細胞には変異がない」ことを示すだけで、卵子や精子まで保証するものではありません。再発リスクをどう評価し、次の妊娠でどの検査を選択するか。着床前遺伝学的検査や出生前診断という選択肢も含めて、検査結果と再発リスクの意味を医学的に整理して説明します。

7. NIPT・検査・診断について

CDCBM5の診断は、臨床症状・脳MRI・遺伝子検査を組み合わせて行います。とくに確定には、TUBB2Aを含むチューブリン遺伝子群を調べる遺伝子検査が中心的な役割をはたします[5]。当院では臨床遺伝専門医が、大脳皮質形成異常NGSパネル神経細胞遊走障害NGSパネルなどによる原因遺伝子の同定と、ご家族への遺伝カウンセリングを担います。

💡 用語解説:NIPT(新型出生前診断)とは

妊婦さんの血液を採るだけで、赤ちゃんの染色体の状態などを調べられる出生前のスクリーニング(可能性を調べる)検査です。よく知られたNIPTは「染色体の数」の変化(ダウン症など)を調べるもので、CDCBM5のように「一つの遺伝子だけの小さな変化(単一遺伝子疾患)」は、数を数えるタイプの検査では見つけられません。NIPTはあくまでスクリーニングであり、確定診断ではありません。

では、生まれる前にCDCBM5を調べることはできるのでしょうか。ポイントを整理します。まず、一般的な染色体の数を調べるNIPTでは検出できません。CDCBM5は染色体の数は正常のまま、TUBB2Aという一つの遺伝子だけに変化が起こる単一遺伝子疾患だからです。胎児期のチューブリン異常症では、超音波や胎児MRIで脳室拡大、小脳低形成、脳梁異常などが見つかることがあります[8]。一方、ご家族内でCDCBM5の原因となるTUBB2Aの変異がすでに特定されている場合には、その特定の変異を狙って調べる羊水検査・絨毛検査による出生前診断や、着床前遺伝学的検査(PGT-M)が現実的な選択肢になります[4]

なお、TUBB2Aは当院のNIPTの単一遺伝子プラン(インペリアルプラン)の対象遺伝子リストに含まれています。ただし、CDCBM5としてどのバリアントが報告対象になるかは検査時点の解析・報告仕様の確認が必要で、すべてのCDCBM5関連の変異が一律に報告対象となるとは限りません。当院は、広く浅く読むために胎盤モザイクの影響で偽陽性が出やすいワイドゲノム法ではなく、必要なものをターゲット法で精度よく調べることを重視しています。どの検査が本当に必要か、受けるかどうかも含めて、まずは遺伝カウンセリングで検査の適応と選択肢を整理します。

出生前診断で確定が必要な場合は、羊水検査・絨毛検査による確認が選択肢となります。当院は2025年6月から確定検査(絨毛検査・羊水検査)を自院で実施しており、カウンセリングから検査、結果説明、その後の対応までを一つの医療機関で行う体制を整えています。NIPTが陽性となった場合の羊水検査費用は、互助会(8,000円)により全額補助されます。

8. 治療の現状とこれから

現在、CDCBM5を含むチューブリン異常症に対して、変異した遺伝子を修復する治療や、乱れた微小管の働きを直接もとに戻す根本治療は、まだ確立されていません[10]。治療の主眼は、症状をやわらげ、合併症を防ぎ、生活の質(QOL)を最大化することを目的とした支持療法・対症療法に置かれます。早期に診断し、多くの専門職が連携して先回りのケアを行うことが、とても重要です。

  • てんかんの管理:CDCBM5の予後を大きく左右する、最も重要な治療です。難治性のことが多く、脳波や発作型に合わせた複数の抗てんかん薬による治療が基本となり、効果が不十分な場合はケトン食療法や迷走神経刺激療法(VNS)などが慎重に検討されます[5]
  • 理学療法(PT):体幹の筋緊張低下や手足の痙縮に対し、関節の拘縮予防・可動域の維持・姿勢保持のための装具などを通じて、運動発達の可能性を最大限に引き出します[5]
  • 作業療法(OT)・言語療法(ST):細かい運動やコミュニケーションの発達を支えます。無発語の場合には、絵カードや機器を使う拡大代替コミュニケーション(AAC)の導入も選択肢です[10]。嚥下障害があれば、誤嚥性肺炎の予防と栄養管理が生命予後に直結します。
  • 定期的なモニタリング:頭囲の計測(出生後の小頭症の確認)、小児神経科による評価、発達検査、必要に応じた脳MRIのフォロー、視覚・聴覚のスクリーニングなど、多角的な見守りを行います[10]

研究面では、原因が微小管の不具合にあることが分子レベルで明らかになってきたことで、α/β-チューブリン相互作用を治療標的として検討する研究につながる可能性が示されています[6]。次世代シーケンサーやクライオ電子顕微鏡による解析の進歩で、CDCBM5への理解は日々深まっています。現時点では支持療法が中心であり、早期診断、症状に応じたケア、正確な情報に基づく遺伝カウンセリングが重要です。

9. よくある誤解

誤解①「TUBB2Aが欠けて働きが減る病気」

正確には、TUBB2Aバリアントによってα/β二量体形成、微小管への組み込み、微小管動態などへの影響が異なります。優性阻害が関与しうる場合もありますが、すべてのCDCBM5を単一の機序で説明することはできません。

誤解②「MRIが正常なら軽症」

報告では、重い症状があっても大脳皮質が一見正常に見える患者さんが一定数います。MRIで見える形が保たれていても、顕微鏡レベルの障害が起きていることがあり、画像だけで重症度は決められません。

誤解③「両親が陰性なら次の子は安心」

血液検査が陰性でも、性腺モザイクのために再発リスクがゼロではないことに注意が必要です。「陰性=再発ゼロ」ではありません。次の妊娠を考えるときは、この点を踏まえた遺伝カウンセリングが重要です。

誤解④「生まれる前には何も調べられない」

一般的なNIPTでは調べられませんが、家族内で変異が特定されていれば、出生前診断やPGT-Mが選択肢になります。まずは遺伝カウンセリングで、何ができるかを整理します。

10. 遺伝専門医からのメッセージ

CDCBM5は、微小管という脳の「基礎工事」の部品(TUBB2A)に生じた変化によって、神経細胞の移動と配線が乱れ、重い発達の遅れ・難治性てんかん・さまざまな脳の形の異常を引き起こす病気です[1]。希少・遺伝性疾患では、臨床所見や画像だけでは原因を特定できず、複数の検査を要することがあります。そのため、「どの遺伝子の・どんなタイプの変化か」を正確に読み解く分子診断が、診断、予後の評価、遺伝カウンセリングの基礎になります。

私は臨床遺伝専門医として、そして成人の遺伝性腫瘍の診療にも長く携わってきた立場から、「検査は、正しく解釈されて初めて意味をもつ」と考えています。とくにCDCBM5では、末梢血の陰性結果だけで再発リスクを判断しないこと、そして性腺モザイクという事実を踏まえて、着床前診断や出生前診断といった選択肢まで含めて情報を整理することが欠かせません。正確な診断に基づいて、検査結果と選択肢を医学的に整理して説明します。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 複雑性皮質形成異常・脳奇形5(CDCBM5)は遺伝する病気ですか?

常染色体顕性(優性)遺伝の病気で、片方の遺伝子に変化があるだけで発症します。ただし、これまで報告された多くは赤ちゃんに新しく生じた変化(新生変異・de novo)による孤発例です。発症したご本人からは、次の世代へ50%の確率で受け継がれます。両親が新生変異と考えられる場合でも、性腺モザイクのため次のお子さんに再発することがまれにあります。ご家族で変異が分かっている場合は、遺伝カウンセリングで出生前診断や着床前遺伝学的検査(PGT-M)といった選択肢をご説明できます。

Q2. 両親の検査が陰性なら、次の子は絶対に大丈夫ですか?

残念ながら「絶対」とは言えません。両親の血液(末梢血)検査で変異が見つからなくても、卵子や精子をつくる細胞の一部にだけ変異がひそむ「性腺モザイク」の可能性があるためです。TUBB2Aを含むチューブリン異常症では、両親の末梢血で変異が検出されなくても、性腺モザイクにより再発リスクがゼロではありません。TUBB2Aに固有の正確な再発率は確立していません。実際にTUBB2Aでは、両親が健康で血液検査も陰性なのに、同じ変異をもつ複数のきょうだいが生まれた家系も報告されています。次の妊娠を考えるときは、この点を踏まえた遺伝カウンセリングをおすすめします。

Q3. 生まれる前にNIPTで調べることはできますか?

従来の一般的なNIPT(染色体の数を調べるもの)では検出できません。CDCBM5は染色体の数は正常のまま、TUBB2Aという一つの遺伝子だけに変化が起こる単一遺伝子疾患だからです。ご家族内でTUBB2Aの変異がすでに特定されている場合には、羊水検査・絨毛検査による出生前診断や、着床前遺伝学的検査(PGT-M)が現実的な選択肢になります。TUBB2Aは当院の単一遺伝子プラン(インペリアルプラン)の対象遺伝子に含まれますが、CDCBM5としての具体的な報告範囲は検査時点の仕様確認が必要です。NIPTはスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。

Q4. なぜ「ふつうのNIPT」ではTUBB2Aがわからないのですか?

よく知られているNIPTは、ダウン症(21トリソミー)など「染色体の数」の変化を調べる検査だからです。CDCBM5は染色体の数は正常のまま、TUBB2Aという一つの遺伝子だけに小さな変化が起こる「単一遺伝子疾患」なので、数を数えるタイプの検査では見つけられません。単一遺伝子を解析するNIPTで、対象遺伝子・対象バリアントに含まれている場合にスクリーニングの対象となり得ます。当院のインペリアルプランではTUBB2Aが対象遺伝子に含まれますが、CDCBM5としての具体的な報告範囲は検査時点の仕様確認が必要です。

Q5. MRIで脳が正常に見えると言われました。軽症ということですか?

必ずしもそうとは限りません。TUBB2A変異の報告では、重い知的障害・運動の遅れ・てんかんがあっても、大脳皮質の大まかな構造が一見正常に見える患者さんが一定数いることが分かっています。MRIで見える大きな形が保たれていても、顕微鏡レベルの層の乱れや、微小管の不具合による配線の異常など、画像に映らない障害が起きていることがあります。したがって、MRIが正常に見えることだけで重症度や将来を判断することはできません。症状の経過と遺伝子検査を合わせて総合的に評価します。

Q6. てんかんはよくなりますか?どんな治療をしますか?

CDCBM5のてんかんは乳児期に始まり、薬でおさえにくい(難治性の)ことが多いのが特徴です。治療は、脳波所見や発作型に合わせた複数の抗てんかん薬による治療が基本となり、効果が不十分な場合はケトン食療法や迷走神経刺激療法(VNS)などが慎重に検討されます。てんかんのコントロールは発達の見通しを左右する重要な要素なので、小児神経科の専門医と連携して、根気強く最適な組み合わせを探していきます。実際の発作管理は小児神経・てんかん専門の医療機関で行われるため、必要に応じて連携先へご紹介します。

Q7. 根本的な治療薬はもうありますか?

2026年時点で、CDCBM5の遺伝子変異そのものを治す根本治療はまだ確立されていません。治療は、てんかんの管理、リハビリ(理学療法・作業療法・言語療法)、栄養・呼吸の管理、視覚・聴覚の見守りなど、症状をやわらげ生活の質を保つための支持療法が中心です。一方で、原因が微小管の不具合にあると分子レベルで分かってきたことで、α/β-チューブリン相互作用を治療標的として検討する研究につながる可能性が示されていますが、現時点で臨床的に確立した治療法ではありません。

Q8. ミネルバクリニックではどんな対応ができますか?

当院は臨床遺伝専門医が、原因遺伝子の同定(TUBB2Aを含む大脳皮質形成異常・神経細胞遊走障害のNGSパネル検査など)と、ご家族への遺伝カウンセリングを担います。出生前にリスクを調べたい方には、TUBB2Aを対象遺伝子に含むインペリアルプランについて、CDCBM5としての解析・報告範囲を検査時点の仕様で確認したうえでご案内します。確定が必要な場合は羊水検査・絨毛検査の選択肢をご案内し、2025年6月からは確定検査を自院で実施しています。NIPTが陽性となった場合の羊水検査費用は、互助会(8,000円)により全額補助されます。CDCBM5の実際の治療(てんかん管理・リハビリ・栄養や嚥下の管理など)は小児神経科などの専門施設で行われますので、必要に応じて連携先へご紹介します。正確な診断に基づいて、検査結果と選択肢を医学的に整理して説明します。

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参考文献

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※本記事は一般の方および遺伝診療に関わる方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や検査・治療については、必ず主治医・専門医にご相談ください。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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