InstagramInstagram

X連鎖性水頭症(L1症候群)とは?症状・原因・遺伝のしかたと出生前診断を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

X連鎖性水頭症(エックスれんさせいすいとうしょう)は、X染色体にあるL1CAM(エルワンカム)遺伝子の病的バリアントによって、胎児期から新生児期に重い水頭症を起こす遺伝性疾患です。現在は、MASA(マサ)症候群などとあわせて「L1症候群」という一つのスペクトラム(連続した病気のまとまり)の重症側に位置づけられています。同じ家系の中に重症から軽症までのすべての型が現れることがあり、出生前に胎児のバリアントが分かっても重症度を正確には予測できません。この記事では、症状と経過、遺伝のしかた、保因者と再発率、出生前診断とその限界を解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 L1CAM・L1症候群・X連鎖性遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. X連鎖性水頭症とはどんな病気ですか?

A. L1CAM遺伝子の病的バリアントが原因で、主に男児に重い先天性水頭症、内転母指、下肢の痙性、重い知的障害を起こす病気です。MASA症候群、X連鎖性脳梁部分無形成とともに「L1症候群」に含まれ、その重症側にあたります。3つの型は別々の病気ではなく、同じ家系の中に重症から軽症まで現れることがあります。

  • ➤L1症候群の全体像 → 3つの表現型の違いを比較表で整理
  • ➤症状と経過 → 水頭症・内転母指・痙性・知的障害と、脳の画像所見
  • ➤遺伝のしかた → X連鎖性(X連鎖潜性)遺伝、女性保因者、再発率、孤発例
  • ➤出生前診断の限界 → 超音波では確実に診断できず、遺伝子検査でも重症度を正確には予測できない
  • ➤治療と支援 → シャント手術の位置づけと多職種での関わり

X連鎖性水頭症(L1症候群)の症状・原因・遺伝のしかたを解説するインフォグラフィック

1. X連鎖性水頭症とは?まず知っておきたい要点

X連鎖性水頭症は、L1CAM遺伝子の病的バリアントが原因で、主に男児に重い先天性水頭症を起こす遺伝性疾患です。水頭症とは、脳の中にある脳室(のうしつ)という空間に脳脊髄液がたまり、脳室が広がった状態を指します。この病気では多くが胎児期に始まり、生まれた時点ですでに脳室が大きく広がっています[1]。遺伝性の先天性水頭症のなかでは最も頻度が高く、推定有病率はおよそ3万人に1人で、ほかに大きな形態異常を伴わない(非症候性の)先天性水頭症の男児の約5〜10%を占めるとされています[1][2]。

主な症状は、水頭症、内転母指(ないてんぼし:親指が手のひら側に折れ込んだ状態)、下肢の痙性(けいせい:筋肉のつっぱり)、知的障害の4つです[1]。患者さんのほとんどが男児なのは、男性はX染色体を1本しか持たず、そのX染色体上のL1CAM遺伝子に病的バリアントがあると、補うもう1本がないためです。女性はX染色体を2本持つので、通常は症状のない保因者になります。

この病気を理解するうえで欠かせないのは、単独の病気ではなく「L1症候群」の一部だという点です。以前は別々の病気と考えられていた複数の病名が、同じ遺伝子の変化による連続したものであることが分かっています。このページでは重症側であるX連鎖性水頭症を中心に、L1症候群の全体像と遺伝のしかたを説明します。軽症側はMASA症候群のページ、遺伝子そのものの働きはL1CAM遺伝子のページで扱っています。

病名の整理(HSAS・HYCX・ビッカース・アダムス症候群)

X連鎖性水頭症にはいくつかの呼び名があり、どれも同じ病気を指しています。1949年にBickersとAdamsが、中脳水道の狭窄を伴う遺伝性の先天性水頭症の家系を報告したことから、ビッカース・アダムス症候群とも呼ばれてきました[3]。HSASは「シルビウス水道(中脳水道)の狭窄による水頭症」を意味する英語の頭文字です。ヒトの遺伝性疾患のカタログであるOMIMでは307000番に登録されており、現在の登録名は「先天性X連鎖性水頭症(HYDROCEPHALUS, CONGENITAL, X-LINKED)」、略号はHYCXです[4]。

登録名から「中脳水道狭窄」が外れているのには理由があります。この病気では中脳水道の狭窄が一定してみられるわけではないことが、日本の患者さんを対象にした臨床・画像研究などから分かってきたためです[1][5]。古い病名に「中脳水道狭窄」が入っていても、画像で狭窄がはっきりしないことを理由にこの病気を否定することはできません。病名の変遷は、病気の理解が「水道が詰まる病気」から「神経の配線に関わる遺伝子の病気」へ移ってきたことを反映しています。

💡 用語解説:中脳水道狭窄(ちゅうのうすいどうきょうさく)

中脳水道は、脳の第三脳室と第四脳室をつなぐ細い通り道で、シルビウス水道とも呼ばれます。ここが狭くなると脳脊髄液の流れが滞り、上流にある側脳室と第三脳室が広がります。先天性水頭症の原因としてよく知られていますが、遺伝子の変化だけでなく、胎児期の出血や感染のあとに生じることもあります。

2. L1症候群とは?3つの表現型を比べる

L1症候群とは、L1CAM遺伝子の病的バリアントによって起こる病気の総称で、重症から軽症まで連続した3つの表現型を含みます。表現型とは、遺伝子の変化が実際の症状や体の特徴として現れた姿のことです。OMIMには3つの番号が別々に登録されていますが、原因遺伝子は同じで、症状の出方の違いに名前が付いていると考えると理解しやすくなります[1]。

🧬 L1症候群の3つの表現型

項目 X連鎖性水頭症(HSAS/HYCX)
OMIM 307000
MASA症候群(SPG1を含む)
OMIM 303350
X連鎖性脳梁部分無形成
OMIM 304100
位置づけ 重症側 軽症側 軽症側
水頭症 全例(中脳水道狭窄の有無は問わない) 第三脳室がさまざまな程度に拡大 なし
脳梁の欠損・低形成 あり(L1CAMに関連する脳形成異常) 一部にあり 全例
知的障害 重度 軽度〜中等度 軽度〜中等度
ことばの遅れ あり あり あり
下肢の痙性 あり あり さまざま
内転母指 約50% 50%未満 50%未満
詳しい解説 このページ MASA症候群 X連鎖性脳梁部分無形成(OMIM 304100)

※GeneReviewsの表現型比較表[1]をもとに作成。男性の発端者での頻度です。

MASA症候群は軽症側の型で、軽度から中等度の知的障害、ことばの遅れ、乳児期の筋緊張低下から痙性対麻痺への移行、内転母指を特徴とします。X連鎖性複雑型痙性対麻痺1型(SPG1)もここに含まれます[1]。痙性対麻痺という病気のグループ全体については遺伝性痙性対麻痺のページをご覧ください。X連鎖性脳梁部分無形成は、左右の大脳半球をつなぐ脳梁(のうりょう)の形成異常が前面に出る型で、水頭症は伴いません。脳梁そのものについては脳梁欠損・形成不全で解説しています。

同じ家系に重症から軽症まで現れる

L1症候群では、同じ家系の中にすべての表現型が現れることがあります。GeneReviewsは、この点を臨床像、遺伝カウンセリング、出生前診断のそれぞれの項で繰り返し注意しています[1]。同じバリアントを持つ家族のあいだで、X連鎖性水頭症と診断される人とMASA症候群と診断される人の両方がいる家系が知られています。

このため、家系でこれまでにみられた型から次の子の重症度を言い当てることはできません。「MASA症候群の家系だから次の子も軽い」とも、「上の子が重症だったから次も必ず重症」とも言えないのです。同じバリアントでも症状に幅が出るのは、バリアント以外の要因が症状の出方に影響しているためと考えられています[1][2]。こうした現象は修飾遺伝子と可変的表現度という考え方で説明されます。3つの病名は、診断の時点でみられた症状の組み合わせを表す呼び名であり、その家系の将来を決める区分ではありません。

⚠️ 家系の「型」から重症度は決められません

家族の誰かがMASA症候群と診断されていても、同じバリアントを持つ別の男児が重い水頭症になることがあります。その逆もあります。再発率(バリアントを受け継ぐ確率)は計算できますが、受け継いだ場合の重症度を正確には予測できません。

CRASH症候群という呼び名

L1症候群は、以前はCRASH(クラッシュ)症候群とも呼ばれていました。1995年に提案された名称で、脳梁低形成(Corpus callosum hypoplasia)、知的障害(Retardation)、内転母指(Adducted thumbs)、痙性対麻痺(Spastic paraparesis)、水頭症(Hydrocephalus)という主な症状の頭文字を並べたものです[6]。別々に報告されてきた病気が1つの遺伝子で説明できることを示すために作られた総称でした。

CRASHは頭字語であり、外傷で筋肉が長時間圧迫されたあとに起こる病態(crush syndrome)とは綴りも意味も異なります。日本語の資料で両者が混同されていることがありますが、まったく別のものです。現在は、原因となるタンパク質の名前を取った「L1症候群」という呼び方が一般的になっています[1]。CRASHやSPG1といった名称の由来は、MASA症候群のページで詳しく整理しています。

3. 症状と経過

X連鎖性水頭症の症状は、胎児期から新生児期の水頭症、内転母指、下肢の痙性、重い知的障害が中心です。いずれも、発生の途中で神経細胞どうしの配線がうまく作られないことに関係しています。ここでは症状ごとに、何が起こるのか、なぜ起こるのか、診療の中でどういう意味を持つのかを順に説明します。

水頭症(胎児期〜新生児期)

水頭症は多くの場合、生まれる前から始まります。重い場合には死産や乳児期早期の死亡につながることがあります[1]。生まれたあとは、頭囲が大きい、頭囲が急に増えていく、画像検査で脳室が広がり脳の表面の溝が見えにくい、といった所見がみられます。頭の中の圧が高くなると、嘔吐や不機嫌などの症状が出ます。脳脊髄液は脳室の中で作られ、脳室を順に流れて脳の表面で吸収されます。作られる量と吸収される量のつり合いが崩れたり、通り道が狭くなったりすると、脳室に液がたまります。

一方で、水頭症の程度には幅があります。軽い型では脳室の拡大が目立たず、発達の遅れをきっかけに行った画像検査で初めて分かることもあります。軽度から中等度の脳室拡大であれば、長く生活していくことと両立します[1]。水頭症という病態全体については先天性水頭症、妊娠中に指摘される脳室の拡大については胎児脳室拡大で解説しています。

内転母指

内転母指とは、親指が手のひら側に折れ込み、握り込まれたままになっている状態です。英語ではadducted thumbsまたはclasped thumbsと呼ばれます。親指を伸ばしたり開いたりする筋肉の発生に異常があるために起こると説明されています[1]。X連鎖性水頭症の男児の約半数にみられ、軽症側の型では半数未満です[1][7]。生まれた直後の診察で気づかれるほか、妊娠中の超音波検査で指摘されることもあります。

水頭症のある男児に内転母指がそろうと、L1症候群を疑う有力な手がかりになります。ただし、約半数の患者さんにはみられないため、内転母指がないことを理由にこの病気を否定することはできません。また、内転母指は生まれつき関節が硬くなる病気などでもみられます。そうした病気の原因を調べる検査として、当院では関節拘縮症の遺伝子検査パネルを扱っています。

痙性と運動の発達

痙性とは、筋肉がつっぱって動かしにくくなる状態で、L1症候群では主に下肢に現れます。乳児期にはむしろ下肢の筋緊張が低く、生後数年のうちに痙性へ移っていくのが典型的な経過です[1]。診察では、腱反射が強く出る、足の裏をこすると親指が反り返る、といった所見で確認されます。左右の下肢に痙性が出て動かしにくくなる状態を、痙性対麻痺と呼びます。

痙性が続くと、下肢の筋肉がやせ、関節が硬くなる拘縮(こうしゅく)が加わり、足を引きずるような歩き方になります。成人の男性では痙性がいくらか進む傾向があるとされていますが、多数の患者さんで確かめられた所見ではありません[1]。痙性の背景には、大脳から脊髄へ運動の指令を伝える神経線維の束が十分に作られないことがあると考えられており、あとで述べる延髄の錐体の所見と対応しています。

知的障害とことばの遅れ

X連鎖性水頭症では、知的障害は通常重度です。知的障害とは、理解や判断、学習といった知的な働きの発達がゆっくりで、日常生活に支援が必要な状態を指します。軽症側のMASA症候群では、軽度(文献上のIQ 50〜70)から中等度(IQ 30〜50)の範囲とされています。現在の重症度の評価では、IQだけでなく日常生活での適応機能も確認します[1]。ことばの遅れは、3つの表現型のいずれにも共通してみられます。けいれんが起こることもあります[1]。

知的障害の程度は、頭の大きさや水頭症の重さと必ずしも一致しません。頭囲が正常でも重い知的障害がある男性が報告されています。さらに、重い水頭症を伴う場合の知的障害は、シャント手術を受けたかどうかとは独立しているとされています[1]。これは、知的障害が脳脊髄液による圧迫だけで起こるのではなく、脳の配線の作られ方そのものに由来することを示しています。手術の目的と発達の見通しを分けて考える必要があるのは、このためです。

脳の画像でみられる所見

脳の画像では、水頭症に加えて、脳梁の欠損や低形成、小脳の低形成、脳幹が小さいこと、延髄の錐体(すいたい)の無形成がみられることがあります。錐体とは、大脳から脊髄へ向かう運動の神経線維(皮質脊髄路)が延髄の前面で作る高まりのことです。両側の錐体が欠けていることがMRIや病理解剖で確認されると、L1症候群を強く疑う所見とされますが、ほかの先天性疾患でも報告されており、この所見だけで確定診断はできません[1][8]。脳梁は左右の大脳半球をつなぐ神経線維の太い束で、その一部または全部が作られない状態が脳梁の欠損・低形成です。

繰り返しになりますが、中脳水道狭窄は一定してみられる所見ではありません[1][5]。画像診断では「中脳水道が狭いかどうか」だけでなく、脳梁や脳幹、錐体といった配線の異常を示す所見を合わせて評価します。これらの所見がそろっていても、確定診断には次章以降で述べる遺伝子検査が必要です。

\ L1CAM遺伝子の検査・保因者検査をご検討の方へ /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

お問い合わせはこちら | X連鎖遺伝について

4. 原因:L1CAM遺伝子とバリアントの種類

原因は、X染色体長腕の端(Xq28)にあるL1CAM遺伝子の病的バリアントです。病的バリアントとは、遺伝子の配列の違いのうち、病気の原因になると判定されたものを指します。ここでは、遺伝子の働きを要点だけ押さえたうえで、バリアントの種類と重症度の関係を説明します。分子レベルの詳しい内容はL1CAM遺伝子のページに譲ります。

L1CAM遺伝子がつくるタンパク質の働き

L1CAM遺伝子は、神経細胞の表面にあるL1という細胞接着分子の設計図です。L1は細胞膜を1回貫く糖タンパク質で、細胞の外側に6つの免疫グロブリン様ドメインと5つのフィブロネクチンIII型様ドメイン、細胞の内側に短い細胞質ドメインを持っています[1]。ドメインとは、タンパク質の中でまとまった形と役割を持つ区画のことです。2021年更新のGeneReviewsでは、280人を超える人でL1CAMの病的バリアントが確認されています[1]。

発生の途中の神経細胞では、L1が軸索(神経細胞から伸びる長い突起)の伸長や束の形成、神経細胞の移動に関わっています[1]。軸索が正しい相手に向かって伸びるしくみは軸索誘導と呼ばれます。L1症候群は、L1の働きが失われる機能喪失型のしくみで起こります[1]。脳梁や皮質脊髄路といった長い配線が作られにくくなるため、水頭症だけでなく、痙性や知的障害を伴うと理解されています。

バリアントの種類と重症度の関係

バリアントの種類と重症度のあいだには、集団としての傾向があります。見つかるバリアントには、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライス部位変異があり、まれに遺伝子全体を含む大きな欠失や重複も報告されています[1]。アミノ酸が変わらないサイレント変異でも、スプライシングの異常を通じて水頭症を起こした例があります[9]。

1997年の研究は、バリアントをタンパク質への影響で3つのクラスに分け、重症度との関係を示しました[10]。

🔬 L1CAMバリアントのクラス分類(Yamasaki 1997)

クラス タンパク質への影響 重症度の傾向
クラス1 細胞質ドメインだけに影響する 比較的軽い
クラス2 細胞外ドメインの構造を変える点変異(ミスセンス変異など) クラス1より重く、クラス3より軽い
クラス3 細胞外ドメインの途中で終止コドンが生じ、タンパク質が短く切れる 重い水頭症、重い知的障害、早期の死亡が多い

※原著[10]の定義による。クラスの番号を逆に記載した資料があるため、引用する際は原著の定義を確認してください。

その後の研究でも同じ方向の結果が示されています。病的バリアントが確認された33人の解析では、3歳までに亡くなった割合が、タンパク質が途中で切れる切断型のバリアントで52%、ミスセンス変異で8%でした[11]。細胞外ドメインのミスセンス変異や細胞質ドメインのバリアントは、細胞外ドメインで切断されるものやL1タンパク質が検出されないものより軽い傾向があるとまとめられています[12]。ただし、ミスセンス変異でも、ドメインの立体構造に欠かせないアミノ酸に当たる場合は重くなりやすいとされます[1]。

ここで注意したいのは、これらが多数の患者さんを集めて初めて見える傾向だという点です。前章で述べたように、同じ家系で同じバリアントを持っていても症状には幅があります[1][2]。バリアントの種類は見通しを考える材料の一つにはなりますが、一人ひとりの重症度を決める根拠にはなりません。遺伝子の変化と症状の対応関係については遺伝子型-表現型相関で解説しています。

5. 合併することがある病気

L1症候群では、腸の神経の病気であるヒルシュスプルング病や、腎性尿崩症を合併する例が報告されています。どちらも頻度は高くありませんが、原因のとらえ方や必要な検査が変わるため、知っておく意味があります。

ヒルシュスプルング病

ヒルシュスプルング病は、腸の壁にある神経節細胞が生まれつき欠けているために、便を先へ送れなくなる病気です。L1CAMの病的バリアントを持ち、L1症候群とヒルシュスプルング病の両方がある人は、2021年更新のGeneReviewsでは少なくとも16人報告されています[1]。水頭症にヒルシュスプルング病を伴う例を、X連鎖性水頭症のスペクトラムの重い側として位置づけた報告もあります[13]。

ただし、これは「L1CAMがヒルシュスプルング病の原因遺伝子である」という意味ではありません。L1CAMは、ヒルシュスプルング病に関わる別の遺伝子の影響を変える修飾遺伝子として働くのではないか、という仮説が出されています[14][15]。L1CAMの病的バリアント単独をヒルシュスプルング病の確立した原因とすることはできず、ほかの遺伝的要因も関与すると考えられています[1][15]。腸の神経節細胞は神経堤細胞という細胞が腸へ移動して作られ、その過程にはRET遺伝子をはじめとする複数の遺伝子が関わります。

診療の上では、L1症候群と診断された人に便秘の経過があれば、ヒルシュスプルング病の評価を行うことが勧められています[1]。病気そのものについてはヒルシュスプルング病、関連する遺伝子を調べる検査についてはヒルシュスプルング病NGS遺伝子検査のページをご覧ください。このほか、L1CAMのバリアントを持つ乳児で、水頭症に先天性の特発性偽性腸閉塞を伴った報告もあります[16]。腸の動きが悪くなるX連鎖性の病気としては、別の遺伝子によるX連鎖性慢性特発性偽性腸閉塞症もあり、区別が必要です。

AVPR2を含む隣接遺伝子欠失と腎性尿崩症

L1CAM遺伝子のすぐ隣には、腎臓で尿を濃くする働きに関わるAVPR2遺伝子があります。この2つの遺伝子をまとめて失う欠失が起こると、水頭症に腎性尿崩症が加わります[17]。腎性尿崩症は、腎臓が抗利尿ホルモンに反応できず、薄い尿が大量に出て脱水を起こしやすくなる病気です。

このように、隣り合った複数の遺伝子が一度に失われて、それぞれの遺伝子の症状が重なって現れる状態を隣接遺伝子症候群といいます。水頭症のある男児に、多尿や繰り返す脱水がみられる場合には、この可能性を考えます。遺伝子の配列を読む検査だけでは大きな欠失が見つからないことがあるため、欠失や重複を調べる解析を加えることが大切になります。腎性尿崩症は水分の管理が必要になる病気であり、合併に早く気づくことに意味があります。それぞれの病気と遺伝子については、X連鎖性腎性尿崩症1とAVPR2遺伝子のページで解説しています。

6. 遺伝のしかたと再発率

L1症候群は、X連鎖性(X連鎖潜性)の遺伝形式をとります。以前は「X連鎖劣性」と呼ばれていた形式です。この章では、家族の中でバリアントがどう伝わるのか、女性保因者に症状が出ることはあるのか、家族歴がない場合をどう考えるのかを説明します。遺伝形式全般については別のページにまとめています。

X連鎖性(X連鎖潜性)遺伝のしくみ

母親が保因者の場合、妊娠のたびに50%の確率でバリアントが子に伝わります。病的バリアントを受け継いだ男児は発症し、受け継いだ女児は通常は無症状の保因者になりますが、まれに症状が出ることがあります[1]。男性のようにX染色体が1本で、その上の遺伝子が1つしかない状態をヘミ接合といいます。男女の出生確率をそれぞれ2分の1と仮定すると、発症する男児、発症しない男児、保因者の女児、保因者でない女児が妊娠全体のそれぞれ4分の1ずつになります。

発症した男児は父親からY染色体を受け継ぎ、L1CAMのあるX染色体は母親から受け継ぐため、男児の原因バリアントの由来を調べる目的で父親の検査を行う必要は通常ありません[1]。患者さん本人である男性が子をもつ場合は、娘の全員にバリアントが伝わり、息子には伝わりません。ただし、実際に子をもつ例は多くありません[1]。母親が保因者であれば、母方のおばやその子どもも、保因者や患者である可能性があります[1]。しくみの詳しい説明はX連鎖遺伝のページをご覧ください。

ここで計算できるのは「バリアントを受け継ぐ確率」までです。受け継いだ男児がX連鎖性水頭症になるのか、MASA症候群になるのかは、この確率からは分かりません。

女性保因者にみられる症状

女性保因者は通常は無症状ですが、軽い所見が出ることがあり、まれに重い例もあります。内転母指や軽い知的障害といった軽い所見が報告されています[1]。L1症候群の症状がそろうことはまれですが、重い水頭症を起こした女性保因者の報告があります[18][1]。家族歴のない女児で、中脳水道狭窄、内転母指、軽い知的障害があり、L1CAMの病的バリアントが見つかった例では、X染色体不活化の偏りが確認されています[1]。

女性の細胞では、2本あるX染色体のうち1本が細胞ごとに働きを止めています。これをX染色体不活化といいます。不活化の割合には個人差や組織による違いがありますが、バリアントのない側のX染色体が多くの細胞で止まってしまうと、保因者でも症状が出やすくなります。女性がL1症候群と診断されることは珍しいものの、ありえないことではないとされています[1]。

孤発例・新生突然変異・性腺モザイク

患者さんの約40%は、家系の中でただ一人の発症者(孤発例)です。家族歴がないことは、この病気を否定する理由になりません[1][11]。孤発例では、母親が保因者である場合、本人に初めて生じた新生突然変異である場合、母親の体の一部の細胞だけがバリアントを持つモザイクである場合の3通りが考えられます[1]。どれに当たるかで次の子の再発率が大きく変わるため、母親の遺伝子検査が勧められています。

母親の血液でバリアントが見つからなくても、再発率は一般の集団と同じにはなりません。卵子のもとになる細胞の一部だけがバリアントを持つ性腺モザイクの可能性が残るためです。母親の血液では検出されなかったのに、2人目の男児の胎児にも同じバリアントが見つかった家系が少なくとも1つ報告されています[1][11]。また、症状のない父親が体細胞と性腺のモザイクで、2人の娘にバリアントが伝わった報告もあります[9]。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「確率」と「重症度」を分けて考える】

遺伝性の病気の説明では、数字で示せることと示せないことが混ざりやすくなります。L1症候群の場合、母親が保因者で、胎児が男児と分かっている場合の発症確率は2分の1です。性別未確定で男女の出生確率をそれぞれ2分の1と仮定すると、妊娠全体で発症する男児の確率は4分の1と計算できます。一方で、発症した場合にどの程度の症状になるかは、家系の経過からもバリアントの種類からも決められません。

同じ遺伝子の変化でも症状に幅が出ることは、遺伝性疾患で知られています。数字で言える部分と言えない部分を分けて整理することが、検査を受けるかどうかや、結果をどう使うかを考える土台になります。

7. 診断:出生前と出生後

L1症候群の診断は、症状や画像の所見に加えて、L1CAM遺伝子の病的バリアントを確認することで確定します。妊娠中に疑われる場合と、生まれたあとに診断される場合とでは、使える検査と分かる範囲が異なります。ここでは両者を分けて説明します。

出生前に見つかる場面と超音波検査の限界

妊娠中にこの病気が疑われるきっかけの多くは、超音波検査で胎児の脳室拡大を指摘されることです。脳室拡大の原因はさまざまで、L1症候群はその一部にすぎません。胎児が男児であること、親指の内転がみられること、脳梁の異常を伴うこと、母方の男性に水頭症や知的障害、歩行の障害がある人がいることは、L1症候群を考える手がかりになります。

ただし、超音波検査だけでL1症候群を確実に診断することはできません。水頭症の診断には繰り返しの検査が必要になることが多く、妊娠20〜24週より前、場合によっては妊娠後期になるまで確実には分からないとされています。家系にバリアントがあってリスクが高いと分かっている妊娠で、超音波の所見が正常に見えたとしても、胎児がL1症候群でないとは言い切れません[1]。胎児超音波検査は形の異常を見つける検査であり、遺伝子の変化そのものを調べる検査ではないためです。

超音波で脳室拡大妊娠中期以降が多い
▶
手がかりの確認男児・内転母指・家族歴
▶
遺伝子検査絨毛・羊水で胎児のDNAを調べる
▶
結果の整理重症度を正確には予測できない

出生前診断(絨毛検査・羊水検査)

家系のL1CAMの病的バリアント(病的または病的可能性が高いと判定されたもの)がすでに特定されていれば、胎児がそのバリアントを受け継いでいるかどうかを出生前に調べることができます。この点はGeneReviewsにも記載されています[1]。具体的には、妊娠初期の絨毛検査で胎盤の絨毛組織を、または妊娠中期の羊水検査で羊水中の胎児由来細胞を採取し、DNAを解析します。検査の方法や時期、流産などのリスクについては羊水検査・絨毛検査、遺伝子の病気を対象にした出生前診断の考え方については単一遺伝子疾患の出生前診断のページで説明しています。

家系のバリアントが分かっていない状態で、超音波の所見から原因を探す場合には、多数の遺伝子をまとめて調べる出生前全エクソーム(WES)検査や出生前全ゲノム(WGS)検査が選択肢になります。どの検査が適しているかは、所見や妊娠週数によって変わります。

⚠️ 胎児のバリアントが分かっても、重症度は分かりません

GeneReviewsは、出生前にL1CAMの病的バリアントが見つかっても、男児の胎児がどの表現型になるかを正確に予測することはできないと明記しています。同じ家系の中にすべての表現型が現れうるためです。家系の病的バリアントを調べる遺伝子検査は「受け継いでいるかどうか」を確認する検査であり、個々の重症度を確定する検査ではありません。画像所見も合わせて評価します。

遺伝的なリスクの確認や、出生前診断・着床前検査の選択肢について検討する時期としては、妊娠前が望ましいとされています[1]。妊娠してから短い期間で判断を重ねることを避けられるためです。

着床前遺伝学的検査(PGT-M)

着床前遺伝学的検査(PGT-M)は、体外受精で得た胚の一部の細胞を調べ、家系のバリアントを持たない胚を選んで子宮に戻す方法です。L1症候群でも、家系の病的バリアントが特定されていれば技術的には可能です[1]。妊娠が成立する前に調べる点が、出生前診断との違いです。調べる対象は家系で分かっているバリアントに限られ、重症度を調べる検査ではない点は出生前診断と同じです。

日本では、PGT-Mは日本産科婦人科学会の見解に基づいて実施されます。学会は2022年に重篤性の定義を含めて見解を改定しており、認定を受けた施設からの申請を症例ごとに審査する制度になっています[19]。希望すれば誰でもすぐに受けられる検査ではなく、体外受精に伴う身体的・経済的な負担もあります。検査のしくみは着床前遺伝学的検査(PGT-M)、出生前診断との比較はPGT-Mだけが選択肢ではない理由で解説しています。

出生後の診断と遺伝子検査の方法

生まれたあとの診断は、症状と画像所見からL1症候群を疑い、血液などから取り出したDNAでL1CAM遺伝子を調べて確定します。男性では、L1CAMの病的バリアントがヘミ接合で確認されることが確定の条件です[1]。病的かどうかがまだ判断できないバリアント(VUS)が見つかった場合は、それだけでは診断の確定も否定もできません[1]。

検査の方法としては、既知のL1CAM病的バリアントの約99%が遺伝子の配列を読む解析で、約1%がエクソン単位の欠失や重複を調べる解析で検出される種類とされています。この割合は、原因不明の水頭症の患者さん全体に対する診断率を意味するものではありません[1]。配列を読む解析で見つからない場合には、MLPAなどで欠失や重複を調べます。症状が典型的であればL1CAMに絞った検査や遺伝子パネル検査が、ほかの病気と区別しにくい場合には全エクソーム解析などの網羅的な検査が向いています[1]。

どのくらいの割合でバリアントが見つかるかは、症状のそろい方によって大きく変わります。ある研究では、L1症候群の臨床的な特徴が3つ以上ある患者さんでは検出率が66%、それより少ない場合は16%で、家族歴などの条件がそろった群では85%に達しました。条件で選別していない患者さん全体での検出率は約20%でした[11]。水頭症があるというだけでは、L1CAMに原因が見つからないことのほうが多いことになります。

当院で扱う検査のうち、L1CAM遺伝子を対象に含むものには、遺伝性痙性対麻痺(HSP)遺伝子検査パネル、大頭症・過成長症候群NGS遺伝子検査パネル、X連鎖知的障害NGS遺伝子パネル検査、神経細胞遊走障害NGSパネル遺伝子検査があります。妊娠前に女性が保因者かどうかを調べる拡大版保因者スクリーニング(女性版)にもL1CAMが含まれています。発達の遅れや知的障害の原因を広く調べる検査としては、発達障害・学習障害・知的障害遺伝子検査があります。

8. ほかの原因による先天性水頭症との鑑別

先天性水頭症の原因は多く、L1症候群はその一部です。原因によって遺伝形式と再発率が変わるため、「水頭症」という所見で止まらず、原因まで確かめることに意味があります。先天性水頭症の全体像は先天性水頭症のページで整理しています。

L1症候群の水頭症は、ほかに大きな体の形態異常を伴わないのが特徴です[1]。水頭症に加えて複数の臓器の形態異常がある場合は、別の病気を考えます。同じように非症候性の先天性水頭症を起こす遺伝子としては、CCDC88CやMPDZなどが知られており、これらは両親からそれぞれ1つずつバリアントを受け継いで発症する常染色体潜性(劣性)の形式をとります[1]。この場合は男女とも発症しうるため、家系図の見え方がL1症候群とは異なります。

📋 先天性水頭症の主な原因とL1症候群との違い

分類 例 L1症候群との違い
ほかの単一遺伝子 CCDC88C、MPDZなど 常染色体潜性(劣性)で、男女とも発症する
脳や脊髄の形成異常に伴うもの・鑑別すべき病態 神経管閉鎖障害、キアリ奇形、ダンディ・ウォーカー奇形、先天性嚢胞。水無脳症は鑑別すべき別の病態 画像で形成異常を評価する。水無脳症は大脳半球の大部分が欠損して液体に置き換わる病態で、水頭症とは区別する
出血や血管の異常に伴うもの 出血後の水頭症、ガレン大静脈の奇形 経過や画像から原因が推定できる
孤発性の中脳水道狭窄 水頭症以外の所見がないもの 通常はL1CAMの病的バリアントが確認されないが、検査陰性だけでL1症候群を完全には否定できない

※GeneReviewsの鑑別診断[1]をもとに作成。

X連鎖性の病気のなかにも、症状の一部が重なるものがあります。知的障害に水頭症やダンディ・ウォーカー奇形を伴うことがあるPettigrew症候群(AP1S2遺伝子)や、X連鎖性の痙性対麻痺の原因となるPLP1遺伝子の病気がその例です。知的障害と痙性対麻痺を示す複雑型の遺伝性痙性対麻痺は、2021年更新のGeneReviewsでは約50の遺伝的な型が記載されています[1]。形成異常に伴う水頭症については、ダンディ・ウォーカー症候群や神経管閉鎖障害のページも参考になります。

水頭症を症状の一つとする遺伝性疾患はほかにもあり、当サイトでは巨脳症・多小脳回・多指・水頭症症候群2型や胎児致死性水頭症候群2を取り上げています。似た所見から始まっても、原因が違えば次の妊娠での再発率も、家族の誰が検査の対象になるかも変わります。

9. 治療と支援

現在のところ、L1症候群の原因そのものを治す治療はなく、症状に応じた治療と発達の支援が中心です。小児科、小児神経、脳神経外科、リハビリテーション、臨床遺伝の専門家が関わる体制が望ましいとされています[1]。

水頭症の管理

水頭症に対しては、頭の中の圧を下げる必要がある場合にシャント手術が行われます。GeneReviewsは、脳脊髄液のシャントは頭蓋内圧を下げるために必要に応じて行うとしています。胎児のうちにシャントを行うことには利点がないとされています[1]。手術を行うかどうかや時期は、脳室の広がり方と圧の高さをもとに脳神経外科で判断されます。

💡 用語解説:シャント手術

シャント手術は、たまった脳脊髄液を細い管で体のほかの場所へ流す手術です。脳室からお腹の中へ流す脳室腹腔シャントが代表的です。管が詰まったり感染したりすることがあるため、手術のあとも定期的な診察が続きます。

シャント手術は、脳にかかる圧を下げて脳を守るための治療です。先に述べたように、重い水頭症を伴う場合の知的障害はシャント手術の有無とは独立しているとされており[1]、手術によって神経の配線の異常そのものが変わるわけではありません。手術の目的を「圧を下げること」として理解しておくと、その後の発達の経過を受け止めやすくなります。水頭症、発達、痙性については、定期的に神経学的な評価を続けます[1]。

多職種での支援

発達の遅れや知的障害に対しては、早い時期からの療育と、一人ひとりに合わせた教育の計画が大切です。発達の経過には個人差が大きいため、定期的に評価をして内容を見直していきます[1]。ことばでの表現が難しい場合には、絵カードや音声を出す機器など、ことば以外の手段を使ったコミュニケーションの評価も検討されます[1]。

痙性に対しては、一般的な痙性の治療に沿って対応します。理学療法で動きを保ち、拘縮や側弯、股関節の脱臼といった二次的な問題を防ぐことが目標になります。筋肉のつっぱりを和らげる薬や装具が使われることもあります[1]。内転母指には、親指の位置を保つ装具(スプリント)が役立つことがあります。手術は通常は行われませんが、軽い例の一部では腱を移す手術で親指の働きが良くなることがあるとされています[1]。

食べることや飲み込むことに問題がある場合は、その評価と支援も必要です。便秘が続く場合には、先に述べたヒルシュスプルング病の評価を行います[1]。あわせて、家族の遺伝について整理する遺伝カウンセリングも、診断後に行う評価の一つに挙げられています[1]。遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医が遺伝形式や検査の意味を説明します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【原因を確定することで言えるようになること】

「水頭症」は所見の名前であって、原因の名前ではありません。原因がL1CAM遺伝子だと確定すると、説明できることが増えます。腸の症状に注意する理由、母親や母方の親族の検査を考える理由、次の妊娠で使える選択肢は、原因が分かって初めて具体的になります。

同時に、確定しても分からないこともあります。この病気では、受け継いだ場合の重症度がそれに当たります。同じ病的バリアントでも経過が人によって異なるため、遺伝子検査で分かる範囲と、画像や発達の経過を合わせて評価する必要がある範囲を分けて説明することが大切です。

10. よくある誤解

L1症候群については、病名の由来や遺伝のしかたをめぐって誤解されやすい点がいくつかあります。代表的な4つを整理します。

誤解①「MASA症候群の家系なら、次の子も軽症」

同じ家系の中に、重症から軽症までのすべての型が現れることがあります。家系でこれまでにみられた型から、次の子の重症度を決めることはできません。

誤解②「中脳水道狭窄がなければ、この病気ではない」

中脳水道狭窄は一定してみられる所見ではありません。古い病名に含まれていますが、狭窄がはっきりしない患者さんもいます。

誤解③「L1CAMはヒルシュスプルング病の原因遺伝子」

L1CAMが修飾遺伝子として働く可能性が示されており、L1CAMの病的バリアント単独をヒルシュスプルング病の確立した原因とすることはできず、ほかの遺伝的要因も関与すると考えられています。

誤解④「CRASH症候群は挫滅症候群のこと」

CRASHは主な症状の頭文字を並べた頭字語です。外傷後の病態(crush syndrome)とは綴りも意味も異なります。

よくある質問(FAQ)

Q1. X連鎖性水頭症とL1症候群は同じ病気ですか?

X連鎖性水頭症は、L1症候群に含まれる3つの表現型のうち重症側の型です。L1症候群はL1CAM遺伝子の病的バリアントによる病気の総称で、ほかにMASA症候群とX連鎖性脳梁部分無形成があります。原因遺伝子は同じで、同じ家系の中に複数の型が現れることがあります。

Q2. 女の子が発症することはありますか?

女性保因者は通常は無症状です。ただし、内転母指や軽い知的障害などの軽い所見が出ることがあり、まれに重い水頭症を起こした例も報告されています。X染色体不活化の偏りが関係すると考えられています。

Q3. 上の子がX連鎖性水頭症です。次の子に起こる確率はどのくらいですか?

母親が保因者の場合、妊娠ごとに50%の確率でバリアントが伝わります。病的バリアントを受け継いだ男児は発症し、受け継いだ女児は通常は無症状の保因者になりますが、まれに症状が出ることがあります。胎児が男児と分かっている場合の発症確率は50%です。性別未確定で男女の出生確率をそれぞれ2分の1と仮定すると、妊娠全体で発症する男児の確率は4分の1です。母親が保因者かどうかで確率が大きく変わるため、まず母親の遺伝子検査で確認します。

Q4. 母親の検査でバリアントが見つからなければ、次の子は心配ありませんか?

再発率は下がりますが、一般の集団と同じにはなりません。卵子のもとになる細胞の一部だけがバリアントを持つ性腺モザイクの可能性が残るためです。母親の血液では検出されなかったのに、次の男児の胎児に同じバリアントが見つかった家系が報告されています。

Q5. 妊娠中の超音波検査で分かりますか?

超音波検査だけで確実に診断することはできません。水頭症は妊娠20〜24週より前、場合によっては妊娠後期になるまで分からないことがあります。リスクが高い妊娠で超音波の所見が正常に見えても、L1症候群でないとは言い切れません。

Q6. 出生前に胎児のバリアントが分かれば、重症度も分かりますか?

正確には予測できません。家系の病的バリアントを調べる遺伝子検査では、胎児がそのバリアントを受け継いでいるかどうかを確認できます。画像所見も評価の材料になりますが、同じ家系の中に重症から軽症までのすべての型が現れることがあるため、男児の胎児がどの型になるかを正確に予測することはできません。

Q7. シャント手術をすれば発達は良くなりますか?

シャント手術は、頭の中の圧を下げて脳を守るための治療です。重い水頭症を伴う場合の知的障害は、シャント手術の有無とは独立しているとされています。知的障害は圧迫だけでなく、脳の配線の作られ方に由来するためです。

Q8. L1CAM遺伝子はどの検査で調べられますか?

当院では、遺伝性痙性対麻痺(HSP)遺伝子検査パネル、大頭症・過成長症候群NGS遺伝子検査パネル、X連鎖知的障害NGS遺伝子パネル検査、神経細胞遊走障害NGSパネル遺伝子検査がL1CAM遺伝子を対象に含みます。女性の保因者検査としては、拡大版保因者スクリーニング(女性版)に含まれています。

まとめ

X連鎖性水頭症は、L1CAM遺伝子の病的バリアントによるL1症候群の重症側の型で、胎児期から新生児期の水頭症、内転母指、下肢の痙性、重い知的障害を特徴とします[1]。MASA症候群やX連鎖性脳梁部分無形成と原因遺伝子は同じで、同じ家系の中に重症から軽症までのすべての型が現れることがあります。中脳水道狭窄は必ずあるとは限らず、ヒルシュスプルング病の合併には、L1CAM以外の遺伝的要因も関与すると考えられています。

遺伝形式はX連鎖性(X連鎖潜性)で、母親が保因者であれば妊娠ごとに50%の確率でバリアントが伝わります。患者さんの約40%は孤発例であり、母親の検査が陰性でも性腺モザイクの可能性が残ります[1][11]。家系のバリアントが分かっていれば出生前診断や着床前検査が可能ですが、家系の病的バリアントを受け継いでいるかどうかを確認できても、重症度を正確には予測できません。遺伝子の働きについてはL1CAM遺伝子、軽症側の型についてはMASA症候群のページをあわせてご覧ください。

🏥 L1CAM遺伝子の検査・出生前診断をご検討の方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、L1CAM遺伝子を含む遺伝子検査、女性の保因者検査、家系のバリアントが分かっている場合の出生前診断に対応しています。検査で分かることと分からないことを確認したうえで、正確な診断に基づいて次の選択を考えていただけます。

参考文献

  • [1] Stumpel C, Vos YJ. L1 Syndrome. GeneReviews® [Internet]. University of Washington, Seattle. 2004年4月28日初版、2021年1月7日更新. [NCBI Bookshelf NBK1484]
  • [2] Finckh U, Schröder J, Ressler B, Veske A, Gal A. Spectrum and detection rate of L1CAM mutations in isolated and familial cases with clinically suspected L1-disease. Am J Med Genet. 2000;92:40-46. [PubMed 10797421]
  • [3] Bickers DS, Adams RD. Hereditary stenosis of the aqueduct of Sylvius as a cause of congenital hydrocephalus. Brain. 1949;72(2):246-262. [Oxford Academic]
  • [4] #307000 HYDROCEPHALUS, CONGENITAL, X-LINKED; HYCX. OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man). Johns Hopkins University. [OMIM 307000]
  • [5] Yamasaki M, Arita N, Hiraga S, et al. A clinical and neuroradiological study of X-linked hydrocephalus in Japan. J Neurosurg. 1995;83:50-55. [PubMed 7782849]
  • [6] Fransen E, Lemmon V, Van Camp G, et al. CRASH syndrome: clinical spectrum of corpus callosum hypoplasia, retardation, adducted thumbs, spastic paraparesis and hydrocephalus due to mutations in one single gene, L1. Eur J Hum Genet. 1995;3(5):273-284. [PubMed 8556302]
  • [7] Schrander-Stumpel C, Fryns JP. Congenital hydrocephalus: nosology and guidelines for clinical approach and genetic counselling. Eur J Pediatr. 1998;157:355-362. [PubMed 9625330]
  • [8] Chow CW, Halliday JL, Anderson RM, et al. Congenital absence of pyramids and its significance in genetic diseases. Acta Neuropathol (Berl). 1985;65:313-317. [PubMed 3976367]
  • [9] Du YZ, Dickerson C, Aylsworth AS, Schwartz CE. A silent mutation, C924T (G308G), in the L1CAM gene results in X linked hydrocephalus (HSAS). J Med Genet. 1998;35:456-462. [PMC1051338]
  • [10] Yamasaki M, Thompson P, Lemmon V. CRASH syndrome: mutations in L1CAM correlate with severity of the disease. Neuropediatrics. 1997;28(3):175-178. [PMC1563987]
  • [11] Vos YJ, de Walle HEK, Bos KK, et al. Genotype-phenotype correlations in L1 syndrome: a guide for genetic counselling and mutation analysis. J Med Genet. 2010;47(3):169-175. [PubMed 19846429]
  • [12] Weller S, Gärtner J. Genetic and clinical aspects of X-linked hydrocephalus (L1 disease): Mutations in the L1CAM gene. Hum Mutat. 2001;18:1-12. [PubMed 11438988]
  • [13] Takenouchi T, Nakazawa M, Kanemura Y, et al. Hydrocephalus with Hirschsprung disease: severe end of X-linked hydrocephalus spectrum. Am J Med Genet A. 2012;158A:812-815. [PubMed 22354677]
  • [14] Parisi MA, Kapur RP, Neilson I, et al. Hydrocephalus and intestinal aganglionosis: is L1CAM a modifier gene in Hirschsprung disease? Am J Med Genet. 2002;108:51-56. [PubMed 11857550]
  • [15] Griseri P, Vos Y, Giorda R, et al. Complex pathogenesis of Hirschsprung’s disease in a patient with hydrocephalus, vesico-ureteral reflux and a balanced translocation t(3;17)(p12;q11). Eur J Hum Genet. 2009;17:483-490. [PMC2986215]
  • [16] Bott L, Boute O, Mention K, et al. Congenital idiopathic intestinal pseudo-obstruction and hydrocephalus with stenosis of the aqueduct of sylvius. Am J Med Genet A. 2004;130A:84-87. [PubMed 15368500]
  • [17] Tegay DH, Lane AH, Roohi J, Hatchwell E. Contiguous gene deletion involving L1CAM and AVPR2 causes X-linked hydrocephalus with nephrogenic diabetes insipidus. Am J Med Genet A. 2007;143A:594-598. [PubMed 17318848]
  • [18] Kaepernick L, Legius E, Higgins J, Kapur S. Clinical aspects of the MASA syndrome in a large family, including expressing females. Clin Genet. 1994;45:181-185. [PubMed 8062435]
  • [19] 公益社団法人 日本産科婦人科学会. 重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)の施設認定に関するお願い. [日本産科婦人科学会]

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

記事の作り方と生成AIの使い方は、編集方針をご覧ください。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移