目次
先天性水頭症(せんてんせいすいとうしょう)は、生まれつき、あるいは胎児のうちから、脳の中の「脳室」という空間に脳脊髄液がたまり、脳室が広がっていく状態の総称です。1つの病気の名前ではなく、中脳水道狭窄症、二分脊椎、染色体の変化、1つの遺伝子の変化、胎児期の感染や出血など、さまざまな原因から起こります。原因が違えば、経過も、次の妊娠で同じことが起こる確率も変わります。この記事では、原因の全体像、関連する遺伝子、胎児期の診断、治療、遺伝のしかたを順に解説します。
Q. 先天性水頭症は遺伝しますか?
A. 原因によって異なります。L1CAM(エルワン・カム)遺伝子の変化によるX連鎖性水頭症のように家系の中で受け継がれるものがある一方、親から受け継いだものではない新生突然変異で起こるもの、胎児期の感染や出血のように遺伝とは関係しないものもあります。「水頭症」という診断名だけでは、遺伝するかどうかは決まりません。原因を調べることが、次の妊娠の見通しを考える出発点になります。
- ➤先天性水頭症とは → 脳脊髄液の流れや吸収がうまくいかず、脳室が進行性に広がる状態の総称
- ➤主な原因 → 中脳水道狭窄症、脊髄髄膜瘤、染色体の変化、単一遺伝子の変化、感染・出血
- ➤関連する遺伝子 → L1CAM、MPDZ、CCDC88C、TRIM71、SMARCC1、PTCH1 など
- ➤胎児期の診断 → 超音波で側脳室の幅を測り、10mm以上で脳室拡大として精査する
- ➤遺伝のしかた → X連鎖性、常染色体潜性(劣性)、新生突然変異など原因ごとに異なる

先天性水頭症は原因が多様で、症状や治療、遺伝のしかたも原因によって異なります。図は原因・症状・治療の全体像を示し、脳の形状や脳室の大きさは模式的に描いています。
1. 先天性水頭症とは?脳脊髄液と脳室のしくみ
先天性水頭症とは、胎児期から出生時までに原因が生じ、脳室に脳脊髄液が過剰にたまって脳室が広がっていく状態をまとめた呼び名です。英語では congenital hydrocephalus(コンジェニタル・ハイドロセファラス)といいます。乳児期に見つかる水頭症の頻度は、出生1,000人あたりおよそ1.1人と推定されています[1]。ただし、どこまでを水頭症に含めるか、どの集団を調べたかによって、1万出生あたり1〜32人と報告には幅があります[1]。
「先天性」という言葉は「生まれつき」という意味であり、「遺伝性」と同じではありません。親から受け継いだ遺伝子の変化が原因のこともあれば、胎児期の感染や出血のように遺伝とは関係のない原因で起こることもあります。この記事は、原因ごとの個別ページへ進むための入口として、全体像を整理することを目的としています。
脳脊髄液はどこで作られ、どこを流れるのか
脳脊髄液は、脳室の中にある脈絡叢(みゃくらくそう)という組織で作られ、決まった通り道を流れて吸収されます。脳の中には左右の側脳室、第三脳室、第四脳室という4つの部屋があり、細い通路でつながっています。脳脊髄液は側脳室から第三脳室へ流れ、中脳水道(ちゅうのうすいどう)という細い管を通って第四脳室に入り、そこから脳と脊髄の表面を包む「くも膜下腔」へ出て、最終的に血液の中へ吸収されます。
この流れのどこかが狭くなったり、吸収がうまくいかなくなったりすると、行き場を失った脳脊髄液が上流の脳室にたまります。中脳水道はもっとも細い場所なので、ここが狭いと側脳室と第三脳室が大きく広がります。脳室が広がると周囲の脳が内側から押され、頭の中の圧力(頭蓋内圧)が上がります。乳児では頭の骨のつなぎ目がまだ閉じていないため、頭囲が大きくなることで圧力がある程度逃げますが、その分だけ発見が遅れることもあります。
💡 用語解説:脳脊髄液(のうせきずいえき)
脳と脊髄のまわりを満たしている無色透明の液体です。英語の cerebrospinal fluid を略して CSF とも呼ばれます。脳を衝撃から守るクッションの役割と、脳の老廃物を運び出す役割があります。絶えず作られては吸収されており、産生・流れ・吸収のバランスが崩れると脳室にたまります。
「交通性」と「非交通性」という分け方
水頭症は古くから、脳室の中で流れがせき止められる「非交通性(閉塞性)」と、脳室の外で吸収がうまくいかない「交通性」に分けられてきました。非交通性の代表が、中脳水道が狭い中脳水道狭窄症です。交通性は、くも膜下腔が出血や炎症のあとに癒着した場合などに起こります。この分け方は治療法を選ぶうえでいまも役に立ちます。脳室の中に閉塞がある場合は、内視鏡で別の通り道を作る手術が候補になるためです。
一方で、発達の過程で生じる水頭症では、閉塞が1か所とは限らず、この二分法にきれいに収まらないことも指摘されています[1]。さらに近年の遺伝学の研究から、脳脊髄液の通り道が詰まることだけでなく、胎児期に脳を作る細胞そのものの異常が脳室の拡大につながる場合があることがわかってきました。この点は第3章で説明します。
「脳室拡大」と「水頭症」は同じ意味ではない
脳室拡大は「脳室が大きく見える」という画像上の所見で、水頭症は「脳脊髄液の循環がうまくいかず、脳室が進行性に広がる」という病態を指します。胎児の超音波検査では、側脳室の幅が10mm以上のときに脳室拡大と呼びます[2]。この中には、進行性の水頭症だけでなく、脳の形づくりの異常によって脳室が広く見えるものや、正常範囲の個人差に近いものも含まれます。
妊婦健診で「脳室が少し大きい」と言われたことが、そのまま水頭症の診断を意味するわけではありません。拡大の程度、ほかの所見の有無、時間を追っての変化をあわせて判断します。胎児期の脳室拡大については、胎児脳室拡大のページで程度ごとの見通しと精査の流れを詳しく解説しています。
2. 先天性水頭症の原因|4つのグループで整理する
先天性水頭症の原因は、脳や脊髄の構造の異常、胎児期の感染や出血、染色体の変化や症候群、1つの遺伝子の変化の4つに大きく分けると理解しやすくなります。実際には複数が重なることもあり、詳しく調べても原因が特定できない場合もあります。原因のグループによって、行う検査も、次の妊娠についての説明も変わります。
🧠 先天性水頭症の主な原因
| グループ | 代表的な原因 | 遺伝との関係 |
|---|---|---|
| 脳・脊髄の構造の異常 | 中脳水道狭窄症、脊髄髄膜瘤とキアリII型奇形、ダンディ・ウォーカー奇形 | 背景に遺伝子や染色体の変化がある場合と、ない場合がある |
| 胎児期の感染・出血 | トキソプラズマ、サイトメガロウイルス、胎児期の脳室内出血 | 感染自体は遺伝しない。出血の背景に遺伝性疾患がある場合もある |
| 染色体の変化・症候群 | トリソミーなどの染色体異常、複数の臓器に特徴がみられる症候群 | 型によって異なる |
| 1つの遺伝子の変化 | L1CAM、AP1S2、MPDZ、CCDC88C、TRIM71、SMARCC1、PTCH1 など | 遺伝形式ごとに再発率が大きく異なる |
※1人のお子さんに複数の要因が重なることもあります。原因が特定できない例も少なくありません。
中脳水道狭窄症
中脳水道狭窄症(ちゅうのうすいどうきょうさくしょう)は、第三脳室と第四脳室をつなぐ中脳水道が狭い、または閉じているために起こる、非交通性水頭症の代表です。側脳室と第三脳室が大きく広がり、第四脳室は広がらないという画像の特徴があります。生まれつき管の形成が不十分な場合のほか、胎児期の感染や出血のあとに管の壁が癒着して狭くなる場合もあります。
中脳水道狭窄症の原因は不明なことも多いとされています[3]。その中で、男児で、親指が手のひら側に曲がっている(母指内転)などの特徴を伴う場合には、L1CAM遺伝子の変化によるX連鎖性水頭症が考えられます。ここは遺伝の観点からとくに確認しておきたい点で、家系の中での再発に直接関わります。
脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎)とキアリII型奇形
脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)は、胎児期に背骨と脊髄の管が閉じきらず、脊髄が背中の表面に露出する病気で、水頭症を高い頻度で合併します。米国で行われたMOMS試験という臨床試験では、出生後に修復手術を受けた群の83.7%で、脳脊髄液を逃がすシャントが留置されました[4]。
水頭症が起こりやすい理由は、キアリII型奇形にあります。開いた背中から脳脊髄液が漏れ続けることで、小脳や脳幹の一部が頭蓋骨の出口から背骨の管の中へ引き込まれ、第四脳室からの出口がふさがれてしまうのです。脊髄髄膜瘤は神経管閉鎖障害の1つで、多くは複数の遺伝的要因と環境要因が関わる多因子の病気と考えられています。妊娠前からの葉酸摂取との関係は、葉酸と神経管閉鎖障害のコラムで解説しています。なお、名前の似たキアリ奇形I型は別の病態です。
ダンディ・ウォーカー奇形など後頭蓋窩の異常
ダンディ・ウォーカー奇形は、小脳の中央部(小脳虫部)の形成が不十分で、第四脳室が袋のように大きく広がる状態です。頭の後ろ側のスペース(後頭蓋窩)が広くなり、脳脊髄液の出口の流れが悪くなることで水頭症を伴うことがあります。染色体の変化や症候群の一部としてみられることもあるため、見つかった場合にはほかの臓器の所見もあわせて確認します。詳しくはダンディ・ウォーカー症候群のページをご覧ください。脳梁欠損・形成不全など、ほかの脳の形成異常を伴うこともあります。
胎児期の感染・出血
妊娠中の母体から胎児への感染や、胎児期・新生児期の脳室内出血も、水頭症の原因になります。軽度から中等度の脳室拡大のおよそ5%は、先天性の胎児感染によるものと報告されています[3]。代表的な病原体はトキソプラズマとサイトメガロウイルスで、まとめてTORCH感染症と呼ばれるグループに含まれます。感染による炎症が中脳水道の壁を癒着させれば非交通性に、くも膜下腔を癒着させれば交通性になるため、どちらの型もありえます。
感染による水頭症そのものは遺伝性ではありませんが、次の妊娠での感染リスクは病原体や母体の状態によって異なります。また、胎児の出血には遺伝子の変化や血小板の異常が関わる場合もあるため、出血が見つかっただけで遺伝性を否定することはできません。感染・出血の原因まで調べて、次の妊娠の見通しを評価します[15]。先天性サイトメガロウイルス感染症のページもあわせてご覧ください。
染色体の変化・症候群に伴う水頭症
脳室拡大や水頭症は、染色体の数や構造の変化、あるいは全身の症候群の一部として現れることがあります。ほかに異常が見当たらない軽度から中等度の脳室拡大でも、およそ5%に染色体の核型異常が見つかり、もっとも多いのは21トリソミーと報告されています[3]。トリソミーでは、13トリソミーや18トリソミーでも脳の形成異常がみられます。
症候群としては、脳の表面の形成異常と筋ジストロフィーを伴うウォーカー・ワールブルグ症候群、脳が大きくなるMPPH症候群(巨脳症・多小脳回・多指症・水頭症症候群)、複数の臓器の形成異常が組み合わさるVACTERL連合に水頭症を伴う型などが知られています。水頭症のほかに体の特徴があるかどうかは、原因を絞り込む大きな手がかりになります。
3. 遺伝子からみた先天性水頭症
先天性水頭症に関わる遺伝子は、X染色体上のL1CAMに始まり、近年の網羅的な遺伝子解析によって数が増えてきました。ご家族にきょうだい例がない孤発例を対象にした研究でも、研究対象となった外科治療を要する症例では、まれで影響の大きい遺伝子の変化が全体のおよそ4分の1に関わると報告されています[5]。ここでは、遺伝のしかたごとに代表的な遺伝子を整理します。
🧬 先天性水頭症に関わる主な遺伝子
| 遺伝子 | 遺伝のしかた | 特徴 |
|---|---|---|
| L1CAM | X連鎖性 | 中脳水道狭窄を伴う水頭症、母指内転。L1症候群の原因 |
| AP1S2 | X連鎖性 | 知的障害に水頭症を伴うことがある(ペティグリュー症候群) |
| MPDZ・CCDC88C | 常染色体潜性(劣性) | 重い先天性水頭症。両親がともに保因者のときに起こる |
| TRIM71・SMARCC1・PTCH1 | 常染色体顕性(優性)。新生突然変異と親からの伝達がある | 神経幹細胞の運命を調節する遺伝子群 |
| FOXJ1 | 常染色体顕性(優性)。報告例は主に新生突然変異 | 動く繊毛の異常。内臓の左右の並びの異常を伴うことがある |
※L1CAMはGeneReviews[6]、MPDZ・CCDC88C・FOXJ1は総説[5]、TRIM71・SMARCC1・PTCH1は原著論文[7]による。
L1CAM|もっともよく知られたX連鎖性の原因遺伝子
L1CAM遺伝子は、神経細胞どうしをつなぎ、神経の突起が伸びる方向を導くタンパク質を作る遺伝子で、その変化は「L1症候群」と呼ばれる一連の病気を起こします。L1症候群には、もっとも重い「中脳水道狭窄を伴うX連鎖性水頭症(HSAS)」、より軽いMASA症候群、X連鎖性の複合型痙性対麻痺1型(SPG1)、X連鎖性の脳梁無形成が含まれ、重いものから軽いものまで連続しています[6]。
HSASの男児では重い水頭症がみられ、約半数に母指内転を伴います[6]。X連鎖性のため、症状が出るのは主に男性で、母親が保因者である場合があります。女性の保因者にも、まれに水頭症などの症状が現れることがあります。なお、L1症候群で中脳水道の狭窄が必ずみられるわけではないことも指摘されています[6]。脚のつっぱりが主な症状となる型については、遺伝性痙性対麻痺(総論)のページで位置づけを確認できます。
常染色体潜性(劣性)遺伝の遺伝子|MPDZ・CCDC88C
MPDZ(エムピーディーゼット)とCCDC88C(シーシーディーシー88シー)は、両親から1つずつ受け継いだ2つの変化がそろったときに重い先天性水頭症を起こす遺伝子として報告されています[5]。MPDZは、脳室の内側を覆う上衣細胞(じょういさいぼう)どうしの密着した結合に関わるタンパク質を作ります。CCDC88Cは、DAPLE(ダプル)というタンパク質を作り、Wntシグナル伝達経路と細胞の向きをそろえるしくみの調節に関わっています。
これらの遺伝子の働きが失われると、上衣細胞の並びや結合が保てなくなり、脳室の壁、とくに中脳水道のまわりが傷んで狭くなると考えられています。常染色体潜性遺伝では、両親はそれぞれ変化を1つだけ持つ保因者で、ご自身に症状はありません。そのため、家族歴がまったくない状態で、最初のお子さんに突然現れたように見えます。きょうだいに同じことが起こる確率は妊娠ごとに25%で、性別による差はありません。
X連鎖性の遺伝子としては、L1CAMのほかにAP1S2遺伝子があります。細胞の中で物質を運ぶ小胞輸送に関わる遺伝子で、知的障害を主な症状とするペティグリュー症候群の原因であり、水頭症を伴うことがあります。
新生突然変異と神経幹細胞|TRIM71・SMARCC1・PTCH1・SHH
2018年以降の大規模な研究で、家族歴のない先天性水頭症の一部は、親にはなくお子さんで新しく生じた遺伝子の変化(新生突然変異)によって起こることが示されました。患者さんと両親の125組を含む解析では、TRIM71(トリム71)、SMARCC1(スマークシー1)、PTCH1(パッチド1)の3遺伝子に変化の集積がみられ、PTCH1に結合するSHH(ソニック・ヘッジホッグ)の領域にも重複が見つかりました。これらをあわせると、調べた症例のおよそ10%を説明できたと報告されています[7]。
さらに、外科治療を受けた孤発性先天性水頭症の381人(うち両親とあわせた解析が232組)を調べた研究では、有害な新生突然変異が症例の17%超に関わり、親から受け継いだものも含めたまれで影響の大きい変化は全体のおよそ22%に関わると推定されました[8]。新生突然変異がこれほどの割合を占めることは、家族歴がなくても遺伝学的な原因がありうることを意味します。
注目されるのは、これらの遺伝子の働きです。4つの遺伝子はいずれも神経管の発生に必要で、脳室のそばにある神経幹細胞がいつ、どの細胞になるかを調節しています[7]。PTCH1とSHHはソニック・ヘッジホッグシグナル伝達経路の受容体とリガンドの関係にあり、SMARCC1はクロマチンリモデリングを担う複合体の部品です。つまり、一部の先天性水頭症は「脳脊髄液がたまる病気」である前に「脳を作る細胞の発生の病気」であるという見方が出てきました[7]。
💡 用語解説:神経幹細胞(しんけいかんさいぼう)
胎児期の脳室のそばにあり、分裂を繰り返して神経細胞やグリア細胞(神経細胞を支える細胞)を生み出すおおもとの細胞です。増える時期と、神経細胞に変わる時期のタイミングが精密に調節されています。このタイミングが乱れると、脳の壁の厚さや硬さが変わり、脳脊髄液の通り道に閉塞がなくても脳室が広がりやすくなると考えられています。
このほか、脳室の壁には、細かい毛のような「動く繊毛」をもつ上衣細胞が並び、脳脊髄液の流れを助けています。繊毛を作る遺伝子FOXJ1の新生突然変異では、水頭症に内臓の左右の並びの異常を伴う病気が報告されています[5]。繊毛の異常で起こる病気全般はシリオパチー(繊毛病)のページで解説しています。また、細胞の増殖を調節するAKT-mTOR経路の遺伝子の変化は、脳が大きくなるMPPH症候群などを通じて水頭症に関わります。
🩺 院長コラム【「水頭症」は診断名であって、原因の名前ではない】
先天性水頭症という言葉が表しているのは「脳室に脳脊髄液がたまっている」という状態です。そこに至った原因は一人ひとり違います。この10年ほどの遺伝学的研究によって、先天性水頭症の原因遺伝子の一覧は大きく更新されてきました。
同じ診断名でも、原因がL1CAMなのか、新生突然変異なのか、感染なのかで、ご家族にお伝えする内容はまったく別のものになります。これは、同じ臓器のがんでも原因となる遺伝子によって対応が変わるという、遺伝性腫瘍の考え方とよく似ています。診断名で止まらず原因まで確かめることに、遺伝学的検査の役割があります。
4. 症状|年齢によって現れ方が変わる
先天性水頭症の症状は、頭の骨のつなぎ目(縫合)が開いている乳児期と、閉じたあとの幼児期以降とで、現れ方が大きく異なります。脳室に脳脊髄液がたまるという原因は同じでも、頭の骨が広がる余地があるかどうかで、圧力の逃げ方が変わるためです。
胎児期から乳児期にみられる徴候
胎児期には、妊婦健診の超音波検査で、脳室の幅や頭の大きさの変化として見つかります。お母さんが自覚できる症状はなく、画像での計測が手がかりになります。出生後は次のような徴候が現れます。
乳児期のもっともわかりやすい徴候は、頭囲が成長曲線を外れて急に大きくなることです。乳児の頭の骨はまだ1枚につながっておらず、内側から押されると全体が広がります。額の上にあるやわらかい部分(大泉門)が張って盛り上がる、頭の骨のつなぎ目が開く、頭皮の静脈が目立つといった変化もみられます。
圧力がさらに高くなると、黒目が下に寄って白目が上に見える「落陽現象(らくようげんしょう)」が現れることがあります。目を上に向ける動きをつかさどる中脳の部分が圧迫されるために起こる徴候です。全身の様子としては、ミルクの飲みが悪い、繰り返し吐く、機嫌が悪い、逆にうとうとして反応が鈍いといった変化がみられます。頭の骨が広がることで圧力が逃げるぶん、こうした症状がはっきりしないまま頭囲だけが大きくなっていく場合もあるため、乳幼児健診での頭囲の計測が発見の手がかりになります。
幼児期以降にみられる症状
頭の骨のつなぎ目が閉じたあとは、頭囲が広がる余地がなくなるため、頭蓋内圧が上がる症状が前面に出ます。朝に強い頭痛、吐き気を伴わない嘔吐、物が二重に見える、歩き方がふらつくといった症状が代表的です。眼底検査では、視神経の出口がむくむ「うっ血乳頭」が見つかることがあり、長く続くと視力に影響します。
乳児期にシャント手術を受けたお子さんでは、シャントが詰まったときに同じ症状が現れます。頭痛や嘔吐は子どもによくある症状ですが、シャントのあるお子さんでは意味合いが異なるため、主治医からあらかじめ受診の目安を聞いておくことが勧められます。原因となる病気によっては、発達の遅れ、てんかん、脚のつっぱり(痙性)など、水頭症そのもの以外の症状を伴うこともあります。
5. 診断|出生前と出生後でできること
先天性水頭症の診断は、「脳室がどのくらい広がっているか」を画像で確かめる段階と、「なぜ広がったのか」という原因を調べる段階に分かれます。出生前と出生後では使える検査が異なるため、分けて説明します。
出生前診断①:超音波検査で側脳室の幅を測る
胎児期のスクリーニングの基本は超音波検査で、側脳室の後ろ寄りの部分(三角部)の幅を測ります。米国母体胎児医学会(SMFM)は、10mm未満を正常とし、10mm以上を脳室拡大として、軽度(10〜12mm)、中等度(13〜15mm)、重度(15mm超)の3段階に分けることを提案しています[2]。
見通しは程度によって大きく異なります。ほかに異常のない軽度の脳室拡大では、生存して神経発達が正常である見込みが90%を超え、中等度では75〜93%とされています[2]。出生前にはほかの異常が見つからなかった重度の両側性脳室拡大では、妊娠を継続した症例のメタアナリシスで生存率が約88%、生存児のうち神経発達が正常だった割合が約42%と報告されています[14]。「ほかに異常がない」ことが前提の数字であり、染色体の変化や感染、ほかの脳の形成異常が見つかった場合には見通しが変わります。
脳室拡大が見つかったときには、胎児の全身を詳しく観察する超音波検査、染色体を調べる羊水検査、胎児感染の検査を行うことが勧められています[2]。専門的な読影ができる施設では胎児MRIも検討され、超音波では見えにくい脳の形成異常が見つかることがあります[2]。その後も超音波で脳室の幅の変化を追っていきます。
出生前診断②:羊水検査による遺伝学的検査
胎児の脳室拡大では、羊水検査で胎児の細胞を採取し、染色体の核型と染色体マイクロアレイを調べることが提案されます。SMFMは、脳室拡大が見つかった場合に、マイクロアレイを含む確定的な検査(羊水検査)を選択肢として示すことを推奨しています[2]。前述のとおり核型の異常がおよそ5%に見つかり[3]、それとは別に10〜15%でマイクロアレイの異常が見つかると報告されています[2]。
染色体マイクロアレイ(CMA)は、通常の染色体検査では見えない小さな欠失や重複を検出する検査です。それでも原因がわからず、L1CAMのような1つの遺伝子の変化が疑われる場合には、遺伝子の配列を広く調べる検査が検討されます。当院では、羊水検査・絨毛検査、マイクロアレイ染色体検査、出生前全エクソーム検査、出生前全ゲノム検査を行っています。家系の中でL1CAMの変化がすでに特定されている場合には、その変化を直接調べる出生前診断が可能です[6]。
どの検査を受けるか、受けないかは、ご夫婦が決めることです。検査でわかること、わからないこと、結果が出るまでの時間、結果がその後の選択にどうつながるかを、検査の前に確認しておくことが欠かせません。羊水検査の方法やリスクについては用語解説のページをご覧ください。
出生前診断③:NIPTでわかること・わからないこと
NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液から胎児の染色体の数の変化などを調べるスクリーニング検査で、水頭症や脳室拡大そのものを見つける検査ではありません。脳室の大きさは画像でしか評価できないため、NIPTが陰性でも、のちの超音波検査で脳室拡大が見つかることはあります。
逆に、NIPTで調べられる染色体の変化が水頭症の背景にある場合には、NIPTがその手がかりになることがあります。ただしNIPTは確定診断ではありません。超音波ですでに脳室拡大が見つかっている場合には、スクリーニング検査ではなく、羊水検査による確定的な検査が検討の中心になります。
出生後診断:画像検査と遺伝学的検査
出生後は、大泉門が開いている時期であれば頭部の超音波検査で脳室の大きさを繰り返し確認でき、原因の検索にはMRIが用いられます。MRIでは、中脳水道が開いているか、小脳や脳梁の形はどうか、大脳の表面の形成に異常がないかを詳しく評価します。放射線を使わない点でも、繰り返しの検査に向いています。
原因を調べる遺伝学的検査は、血液を用いて行います。体の特徴や発達の遅れを伴う場合には染色体マイクロアレイ、特定の遺伝子が疑われる場合にはその遺伝子を含むパネル検査、手がかりが少ない場合にはエクソーム解析が検討されます。お子さんと両親をあわせて調べるトリオ解析は、新生突然変異かどうかを確かめるのに適した方法です。L1CAMは、当院のX連鎖知的障害NGSパネル、大頭症・過成長症候群パネル、遺伝性痙性対麻痺パネルに含まれています。
6. 治療|シャント手術・内視鏡手術・胎児手術
進行する先天性水頭症の治療は外科手術が基本で、たまった脳脊髄液を別の場所へ逃がす「シャント手術」と、脳室の中に新しい通り道を作る「内視鏡手術」が二本柱です。どちらを選ぶかは、年齢、原因、閉塞の場所によって決まります。治療は小児脳神経外科が担当します。ここでは、ご家族が説明を受けるときの土台になる範囲で概要をまとめます。
脳室腹腔シャント術(VPシャント)
脳室腹腔シャント術は、脳室に細い管を入れ、皮膚の下を通しておなかの中(腹腔)まで導き、脳脊髄液を腹膜から吸収させる手術です。管の途中には流れる量を調節するバルブが付いています。閉塞の場所や水頭症の型を問わず行えるため、長く標準的な治療として用いられてきました。
課題は、体の中に入れた器具が長い年月のあいだに詰まったり、感染したりすることです。小児の水頭症の経過をまとめた総説では、シャントが問題なく働き続けている割合は1年で約70%、10年で約40%とされ、感染は手術の5〜8%に起こると報告されています[9]。バルブにはさまざまな設計がありますが、前向き研究では特定の設計が他より優れていることは示されていません[9]。シャントは入れて終わりではなく、必要に応じて再手術を行いながら長く経過をみる治療です。
内視鏡的第三脳室開窓術(ETV)とETV成功スコア
内視鏡的第三脳室開窓術(ETV)は、内視鏡で第三脳室の底に小さな穴を開け、脳脊髄液がくも膜下腔へ直接流れ出る通り道を作る手術です。中脳水道狭窄症のように脳室の中に閉塞がある場合に適しています。体の中に器具を残さないことが最大の利点です。一方で、乳児、とくに生後6か月未満では成功しにくいことがわかっています[10]。
成功の見込みを手術の前に見積もる道具が、ETV成功スコア(ETVSS)です。618人のデータから作られ、年齢、水頭症の原因、過去のシャントの有無の3項目の点数を足し合わせます[10]。合計点(0〜90点)は、手術から6か月後にETVが成功している確率(%)のおおよその目安になります。3項目の中では年齢の影響がもっとも大きいことが示されています[10]。
📊 ETV成功スコア(ETVSS)の配点
| 点数 | 年齢 | 原因 | 過去のシャント |
|---|---|---|---|
| 0点 | 1か月未満 | 感染後 | あり |
| 10点 | 1か月〜6か月未満 | - | なし |
| 20点 | - | 脊髄髄膜瘤、脳室内出血、中脳蓋以外の脳腫瘍 | - |
| 30点 | 6か月〜1歳未満 | 中脳水道狭窄症、中脳蓋の腫瘍、その他 | - |
| 40点 | 1歳〜10歳未満 | - | - |
| 50点 | 10歳以上 | - | - |
※年齢・原因・過去のシャントの3項目の点数を合計する[10]。例:シャント歴のない2歳の中脳水道狭窄症では 40+30+10=80点。
脊髄髄膜瘤に対する胎児手術(MOMS試験)
脊髄髄膜瘤に伴う水頭症については、出生前に背中の欠損を閉じる胎児手術が、出生後の手術と比べてシャントの必要性を減らすことが、米国のMOMS試験で示されました。この試験は、妊娠26週より前に胎児手術を行う群と、出生後に手術を行う群に183人の妊婦を無作為に割り付けたものです[11]。
試験全体の解析では、1歳までにシャントが留置された割合は、胎児手術群で44.0%、出生後手術群で83.7%でした[4]。2歳半の時点で装具なしに歩けたお子さんは、胎児手術群42%、出生後手術群21%でした[12]。一方で、胎児手術では早産と、出産時に子宮の傷が開くリスクが高くなることも報告されています[11]。
効果は、手術前の脳室の大きさによって異なりました。胎児手術群のうちシャントが必要になった割合は、脳室の幅が10mm未満で20%、10mm以上15mm未満で45.2%、15mm以上で79%でした[4]。脳室がすでに大きく広がっている場合には、シャントを避けるという点での利益は限られることになります。胎児手術を行える施設は限られており、適応は専門施設で個別に判断されます。
7. 長期の経過と成人期への移行
先天性水頭症の長期的な見通しは、脳室の大きさだけでは決まらず、原因となった病気、治療の時期、シャントの合併症の有無によって大きく変わります。同じ「水頭症」でも、ほかに異常のない中脳水道狭窄症と、脳全体の形成異常を伴う症候群とでは、発達の見通しがまったく異なります。原因を確かめることは、見通しを考えるうえでも意味があります。
発達・学習・てんかん
小児期に水頭症の治療を受けた方の経過をまとめた総説では、認知面の後遺症が12〜50%、学校生活での困難が20〜60%、てんかんが6〜30%にみられると報告されています[9]。数字の幅が大きいのは、研究によって対象とした原因や評価の方法が異なるためです。この幅そのものが、水頭症という言葉でひとまとめにできない多様さを表しています。
学校生活での困難が20〜60%という数字は、裏を返せば、大きな困難なく学校生活を送る方も相当数いることを示しています。一方で、L1症候群の重症型のように、水頭症の治療が順調でも、もとの病気による発達への影響が残る場合があります。見通しを左右するのは脳室の大きさよりも原因である、という点はここでも同じです。
認知の特徴としては、言葉でのやりとりは比較的保たれる一方、図形や空間の把握、作業の速さ、計画を立てて実行する力に苦手さが出やすいことが古くから指摘されてきました。ただし、近年の研究ではこの傾向が確認されなかったとの報告もあり、結論は一致していません[9]。発達の評価は一度きりではなく、就学前、小学校、思春期と、節目ごとに行うことが勧められます。
シャントとの長い付き合い
シャントが不要になる方は一部にとどまり、多くの方は成人になってもシャントとともに生活します。シャントから離脱できる割合は3〜9%と報告されています[9]。小児期に治療を受けて20歳を超えた方を追跡した研究では、対象の17.8%が20歳以降に少なくとも1回の再手術を受けており、4.9%は20歳を過ぎてから初めての再手術を経験していました[13]。
長年問題がなかったことは、シャントが不要になった証明にはなりません[9]。そのため、小児科から成人の診療科へ移る時期に通院が途切れないようにすることが課題とされています。ご本人が自分の病名、シャントの種類、受診が必要な症状を理解していることが、成人期の安全につながります。
8. 遺伝のしかたと次の妊娠
先天性水頭症が次の妊娠で繰り返される確率は、原因によって「ほぼ一般と同じ」から「妊娠ごとに25〜50%」まで大きな幅があります。したがって、再発率についての説明は、原因がどこまでわかっているかに応じて行われます。遺伝形式ごとに整理します。
👪 原因ごとの遺伝のしかたと次の妊娠
| 原因 | 遺伝のしかた | 次の妊娠での考え方 |
|---|---|---|
| L1CAM・AP1S2 | X連鎖性(X連鎖潜性) | 母親が保因者なら、男児の50%が変化を受け継ぐ。女児の50%は保因者 |
| MPDZ・CCDC88C など | 常染色体潜性(劣性) | 両親がともに保因者なら、妊娠ごとに25% |
| TRIM71・SMARCC1 など | 常染色体顕性(優性)。新生突然変異または親からの伝達 | 両親に変化がなければ再発率は低い。性腺モザイクのためゼロではない |
| 染色体の変化 | 型による | 偶発的な数の異常か、親の構造異常に由来するかで異なる |
| 脊髄髄膜瘤(神経管閉鎖障害) | 多因子 | 一般より高くなる。妊娠前からの葉酸摂取が勧められる |
| 感染・出血 | 感染自体は遺伝しない。出血は背景の原因による | 感染・出血の原因ごとに再発リスクを評価する |
※個別の再発率は、原因の特定状況と家系の情報をもとに見積もります。
X連鎖性(L1CAM)の場合
L1症候群はX連鎖性の遺伝形式をとります[6]。母親がL1CAMの変化を1つ持つ保因者である場合、妊娠ごとに、男児であれば50%の確率で変化を受け継いで発症し、女児であれば50%の確率で保因者になります。女性の保因者は通常無症状ですが、軽い症状や、まれに重い水頭症を示すことがあります。父親から息子へは受け継がれません。X連鎖遺伝のしくみは別のページで図を使って説明しています。
発端となったお子さんの変化が、母親から受け継いだものか、新生突然変異かによって、次の妊娠の見通しは大きく変わります。家系の中で変化が特定されていれば、血縁の女性の保因者検査、妊娠中の出生前診断、着床前遺伝学的検査が可能になります[6]。母方の親族に男児の水頭症や原因不明の乳児死亡があった場合には、X連鎖性の可能性を念頭に置いて家系の情報を整理します。L1CAMは当院の拡大版保因者スクリーニングにも含まれています。
常染色体潜性(劣性)遺伝の場合
MPDZやCCDC88Cのような常染色体潜性遺伝の原因では、両親がともに保因者であれば、妊娠ごとに25%の確率で同じ病気のお子さんが生まれます。性別による差はなく、きょうだいに繰り返して起こることがあります。最初のお子さんで原因の遺伝子と変化が特定できていれば、次の妊娠で同じ変化を調べることができます。原因が特定できていないまま「偶然だろう」と考えて次の妊娠に進み、同じことが起きて初めて遺伝性とわかる、という経過をたどる場合があるのがこの遺伝形式の難しいところです。
新生突然変異の場合と性腺モザイク
お子さんで新しく生じた変化(新生突然変異)が原因で、両親の血液に同じ変化が見つからなければ、次の妊娠で繰り返す確率は低くなります。ただし、ゼロにはなりません。親の卵子や精子のもとになる細胞の一部だけに変化がある性腺モザイクの場合、血液検査では見つからないのに、複数のお子さんに同じ変化が伝わることがあるためです。
また、TRIM71やSMARCC1の研究では、新生突然変異だけでなく親から受け継がれた変化も数えられています[7]。変化を持っていても症状が出ない、あるいは軽い親がいることを意味しており、「両親に症状がないから新生突然変異」とは決められません。お子さんと両親をあわせて調べることで、はじめて区別がつきます。
次の妊娠に向けた選択肢
原因となる遺伝子の変化が特定されている場合、次の妊娠では、絨毛検査や羊水検査による出生前診断と、体外受精で得た胚を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)が選択肢になります。PGT-Mは対象となる条件が定められており、実施には所定の審査の手続きがあります。どの方法を選ぶか、あるいはどれも選ばないかは、ご夫婦の価値観によって決まるもので、医療者が決めるものではありません。
原因が特定できていない場合には、妊娠中の超音波検査で脳室の幅を丁寧に追うことが現実的な方法になります。そのうえで、あらためて発端となったお子さんの検査を見直し、当時は行われていなかった解析を追加することで原因がわかる場合もあります。遺伝カウンセリングは、こうした情報を整理し、ご夫婦が自分たちで決めるための場です。当院では臨床遺伝専門医が担当します。
🩺 院長コラム【次の妊娠の見通しは、原因の特定から始まる】
「次の子にも同じことが起こりますか」という問いに、原因がわからないまま正確に答えることはできません。母親が保因者のX連鎖性なら男児の50%、両親がともに保因者の常染色体潜性なら25%、両親の血液に変化がない新生突然変異なら一般に低い確率と、原因や両親の検査結果によって答えが大きく違うからです。
遺伝学的検査の技術はこの10年で大きく変わりました。以前の検査で「異常なし」とされた場合でも、当時は調べられなかった遺伝子が現在は解析できることがあります。原因を再評価する際には、過去の検査が何をどこまで調べたものだったのかを確かめることが、最初に必要な作業です。
9. 先天性水頭症についてのよくある誤解
先天性水頭症は原因が多様なため、1つの例から全体を推し量ると誤解が生じやすい病気です。とくに多い4つを取り上げます。
誤解①「先天性水頭症は必ず遺伝する」
先天性は「生まれつき」という意味で、遺伝性と同じではありません。胎児期の感染や出血のように遺伝と関係しない原因もあれば、親にはない新生突然変異で起こるものもあります。遺伝するかどうかは原因ごとに判断します。
誤解②「脳室拡大と言われたら水頭症」
脳室拡大は画像上の所見で、進行性の水頭症とは限りません。ほかに異常のない軽度の脳室拡大では、多くのお子さんが正常に発達します。程度、ほかの所見、時間を追っての変化をあわせて判断します。
誤解③「NIPTが陰性なら水頭症の心配はない」
NIPTは染色体の数の変化などを調べるスクリーニング検査で、脳室の大きさは調べられません。水頭症や脳室拡大は超音波検査で見つかる所見であり、NIPTの結果とは別に評価されます。
誤解④「家族歴がなければ遺伝は関係ない」
常染色体潜性遺伝では両親が無症状の保因者で、家族歴がないのが普通です。X連鎖性でも母親が無症状の保因者のことがあります。新生突然変異も家族歴なしに起こります。家族歴がないことは、遺伝学的な原因がないことを意味しません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 先天性水頭症は遺伝しますか?
原因によって異なります。L1CAM遺伝子の変化によるX連鎖性水頭症や、MPDZ・CCDC88Cなどによる常染色体潜性(劣性)遺伝のものは、家系の中で繰り返すことがあります。一方、新生突然変異によるものは再発率が低く、胎児期の感染自体は遺伝しませんが、出血には遺伝性疾患が関わる場合もあります。診断名だけでは判断できないため、原因を調べることが出発点になります。
Q2. 胎児の脳室拡大を指摘されました。水頭症ということですか?
必ずしもそうではありません。胎児の側脳室の幅が10mm以上のときに脳室拡大と呼びますが、これは画像上の所見で、進行性の水頭症とは限りません。ほかに異常のない軽度(10〜12mm)の脳室拡大では、神経発達が正常である見込みが90%を超えると報告されています。詳しい超音波検査、染色体の検査、感染の検査、その後の経過観察をあわせて判断します。
Q3. NIPTで先天性水頭症はわかりますか?
NIPTで水頭症や脳室拡大そのものを見つけることはできません。NIPTは母体の血液から胎児の染色体の数の変化などを調べるスクリーニング検査で、脳室の大きさは超音波検査で評価します。超音波で脳室拡大が見つかった場合は、羊水検査による確定的な検査が検討の中心になります。
Q4. 原因を調べるにはどのような遺伝学的検査がありますか?
染色体の核型検査、小さな欠失や重複を調べる染色体マイクロアレイ、特定の遺伝子群を調べるパネル検査、遺伝子を広く調べるエクソーム解析や全ゲノム解析があります。出生前は羊水検査などで得た胎児の細胞を、出生後は血液を用います。お子さんと両親をあわせて調べるトリオ解析は、新生突然変異かどうかを確かめるのに適しています。
Q5. 上の子が先天性水頭症でした。次の妊娠で同じことが起こる確率はどのくらいですか?
原因によって大きく異なります。X連鎖性で母親が保因者の場合は男児の50%、常染色体潜性(劣性)遺伝で両親がともに保因者の場合は妊娠ごとに25%です。新生突然変異で両親に変化がない場合は低い確率ですが、性腺モザイクがあるためゼロではありません。感染自体は遺伝しませんが、再感染や、出血の背景にある遺伝性疾患・母体の免疫学的要因などによって再発する場合があるため、原因ごとの評価が必要です。
Q6. 先天性水頭症の治療にはどのような方法がありますか?
進行する場合は外科手術が基本です。脳脊髄液をおなかの中へ逃がす脳室腹腔シャント術と、内視鏡で第三脳室の底に通り道を作る内視鏡的第三脳室開窓術(ETV)があり、年齢や原因によって選択されます。治療は小児脳神経外科が担当します。当院では水頭症の外科的治療は行っておらず、原因を調べる遺伝学的検査と遺伝カウンセリングを行っています。
まとめ
先天性水頭症は、脳脊髄液の流れや吸収がうまくいかず、脳室が進行性に広がる状態の総称です。乳児ではおよそ1,000人に1人にみられます[1]。原因は、中脳水道狭窄症や脊髄髄膜瘤などの構造の異常、胎児期の感染や出血、染色体の変化や症候群、L1CAMをはじめとする1つの遺伝子の変化に分けられます。家族歴がなく外科治療を受けた症例を対象とした研究でも、新生突然変異などの遺伝学的な原因が2割前後に関わることが示されています[8]。
胎児期には超音波で側脳室の幅を測り、10mm以上の脳室拡大では染色体マイクロアレイを含む検査や感染の検査が提案されます[2]。治療はシャント手術と内視鏡手術が中心で、長期の通院が必要です。次の妊娠で繰り返す確率は原因によって大きく異なるため、診断名で止まらず原因を確かめることが、見通しを考えるうえでの土台になります。個別の病型については、X連鎖性水頭症(L1症候群)、MASA症候群、胎児脳室拡大の各ページをご覧ください。
🏥 先天性水頭症の原因検索・出生前診断をご検討の方へ
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が、羊水検査・絨毛検査、染色体マイクロアレイ、出生前全エクソーム検査・全ゲノム検査、保因者検査などの遺伝学的検査と遺伝カウンセリングを行っています。水頭症そのものの外科的治療は行っておらず、小児脳神経外科のある医療機関が担当します。正確な診断にもとづいて次の選択を考えたい方は、ご予約のうえご来院ください。
参考文献
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- [2] Society for Maternal-Fetal Medicine (SMFM); Fox NS, Monteagudo A, Kuller JA, Craigo S, Norton ME. Society for Maternal-Fetal Medicine Consult Series #45: Mild fetal ventriculomegaly: diagnosis, evaluation, and management. Am J Obstet Gynecol. 2018;219(1):B2-B9. doi:10.1016/j.ajog.2018.04.039. PMID:29705191. [SMFM]
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